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共存物質の影響を考慮し芳香族アミンの分析方法を選択する必要性について: 芳香族アミンを部分構造に持つ共存物質を想定して

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1 はじめに 芳香族アミンは樹脂や染料等の原料として利用されて おり,様々な産業に用いられているが,発がん性が懸念 されている化合物が多い. 1972年には労働安全衛生法の施行によりベンジジン, β‒ナフチルアミン,4‒アミノビフェニル,4‒ニトロ ビフェニルの4化合物は輸入・製造・使用禁止とされ, また,特定化学物質としては,o‒トリジン,o‒ジアニ シジン,3,3’‒ジクロロ‒4,4’‒ジアミノジフェニルメ タンやジクロルベンジジンなどが指定されている. 2015年12月に,o‒トルイジンを扱う事業所での膀 胱がん発症事例が報告されたため,予防的観点から関連 団体へ,芳香族アミンによる健康障害の防止対策が適切 に実施されるよう厚生労働省が要請しており,2017年1 月には,o‒トルイジンは特定化学物質(第2類物質) に追加された1, 2) 健康障害予防のため,特定化学物質として定められて いる芳香族アミンは,その有害性を認識し,十分な管理 の下で使用する事が望ましく,作業環境測定等が義務 づけられている.作業環境測定方法については,作業 環境ガイドブックに記載されている3).また,米国労働 省 労 働 安 全 衛 生 庁(OccupationalSafetyandHealth Administration: OSHA) や 国 立 労 働 安 全 衛 生 研 究 所 (NationalInstitutefor OccupationalSafetyand Health

:NIOSH)はウェブ上に作業環境や個人ばく露濃度の測 定方法を公開しており,その化学物質には特定化学物質 以外の物質も一部含まれている4-6) いずれの芳香族アミンの分析方法も,分析対象となる 芳香族アミンの分析のみを目的として開発されている. そのため,分析を妨害する物質が試料中に含まれる場合 には,それらの分析への除去する操作が必要になる. また,芳香族アミンを原料として合成品を製造する作 業の場合,合成品が共存物質として気中に多く存在する 可能性が高いため,捕集試料の分析時に合成品が分解し て原料の芳香族アミンが生成する場合は,必ずしもその 共存物質の影響を無視できない可能性もある. この様な環境や物質は多くはないが,これらを考慮し た上で分析を行うことにより,常に正確に作業環境を把 握する事が出来ると考えられる. 本解説では,芳香族アミンを原料として合成品を製造 する労働環境での作業環境の測定を想定し,作業環境を 正確に把握する上で,共存物質の影響を考慮し分析方法 を選択する必要性について述べる. 2 芳香族アミンの作業環境における測定方法 1)ガスクロマトグラフィー(GC)による分析 国内で特定化学物質として指定されている芳香族アミ ンの中で,GCによる分析例が作業環境ガイドブックに 示されている化合物に, 3,3’‒ジクロロ‒4,4’‒ジアミ ノジフェニルメタンがある3).また,OSHA4, 5)及び NIOSH6) からo –トルイジン等の芳香族アミンの作業環 境の測定の方法が示されており,いずれの方法も捕集- 抽出-分析の手順で行われている(表1). 捕集については,グラスファイバーろ紙等を用いて固 体として捕集するろ過捕集と,ガス状や液体として硫酸 塩等を形成させて捕集する2つの方法があり,芳香族ア ミンの物理的・化学的性質を考慮して用いられている. 抽出条件は大きく分けて,塩基での液-液抽出と溶媒 への溶解の2つの方法が用いられている. 分析については,機器(GC)の注入口やカラムオー ブンの温度設定が必要であり,注入口温度はいずれの方 法も200℃以上に設定されている. これらの分析条件で,共存物質による影響を受ける可 能性がある部分は,(1)捕集,(2)抽出及び(3)GC への試料注入時である. Title:11_JOSH-2018-0005-GI.indd p121 2018/09/25/ 火 17:48:53 「労働安全衛生研究」,Vol. 11, No. 2, pp. 121–124, (2018)

共存物質の影響を考慮し芳香族アミンの分析方法を

選択する必要性について

̶芳香族アミンを部分構造に持つ共存物質を想定して̶

井 上 直 子

*

1 芳香族アミンは発がん性が懸念されている化合物が多く,健康障害予防のためには,作業環境中の濃度を より正確に把握する事が重要である.芳香族アミンは原料として利用されることが多いため,作業環境には芳 香族アミンだけでなく,芳香族アミンを原料とする合成品が共存物質として存在し分析の妨害物質になる場合 もある. 本解説では,芳香族アミンを原料として合成品を製造する,労働環境での環境測定を想定し,作業環境を 正確に把握する上で,共存物質の影響を考慮し分析方法を選択する必要性について述べる. キーワード:芳香族アミン,作業環境,共存物質, 分解生成物

原稿受付 2018年2月16日(Received date: February 16, 2018) 原稿受理 2018年5月7日(Accepted date: May 7, 2018) J-STAGE Advance published date: May 30, 2018

*1労働安全衛生総合研究所作業環境研究グループ 連絡先:〒214-8585 神奈川県川崎市多摩区長尾6-21-1 労働安全衛生総合研究所作業環境研究グループ 井上直子 E-mail: [email protected]

doi: 10.2486/josh.JOSH-2018-0005-GI

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表1 芳香族アミンの分析条件3-6) GC 方法 芳香族アミン 捕集剤 抽出溶媒 誘導体化の有無 GC注入口温度 検出器 国内 3,3’‒ジクロロ‒4,4’‒ジ アミノジフェニルメタン (MOCA) グラスファイバー ろ紙 トルエン なし 240℃ ECD NIOSH アニリン o‒トルイジン ニトロベンゼン フィルター + 固体 捕集管 (硫酸処理グ ラスファイバーフ ィルター + シリカ ゲル,520/260mg) エタノール なし 250℃ FID OHSA o‒トルイジン m‒トルイジン p‒トルイジン 硫酸処理フィルタ ー2枚をスペーサー で分けて使用 0.17N水 酸 化 ナ トリウム水溶液 -トルエンで分 液 あり 200℃ ECD LC 方法 芳香族アミン 捕集剤 抽出溶媒 試料溶媒 検出器 国内 3,3’‒ジクロロ‒4,4’‒ジ アミノジフェニルメタン (MOCA) 石英ろ紙等 メタノール UV (254nm) 又 は 電 気 化 学 検出 その他 方法 芳香族アミン 捕集剤 抽出溶媒 発色試薬 試料溶媒 検出器 国内 α‒ナフチルアミン 0.05M 硫酸 75mL なし スルファニル酸- 酢酸水溶液,亜硝 酸ナトリウム水溶 液 発色試薬と混 合した溶液 UV (490nm) 国内 α‒ナフチルアミン 0.1M 塩酸 75mL ア ン モ ニ ア 水 (pH9)で調製し, エチルエーテル で抽出 なし 濃 縮 後,TLC で 単 離, エ タ ノールに溶解 蛍光 ( ex325nm/ em430nm) 国内 ジアニシジン及びその塩 o‒トリジン及びその塩 ジクロルベンジジン及び その塩 0.2M 塩酸 75mL クロロホルム ク ロ ラ ミ ンT( 抽 出前に発色する.) クロロホルム UV (440nm) 国内 ジアニシジン及びその塩, o‒トリジン,その塩,ジ クロルベンジジン及びそ の塩 0.1M 塩酸 75mL ア ン モ ニ ア 水 (pH9)で調製し, エチルエーテル で抽出 p‒ジメチルアミノ ベンズアルデヒド (TLC後に発色) 濃 縮 後,TLC で 単 離, メ タ ノール等に溶 解 UV (440nm) Title:11_JOSH-2018-0005-GI.indd p122 2018/09/25/ 火 17:48:53 122 「労働安全衛生研究」

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1)捕集時における影響 硫酸含浸フィルター等の 捕集方法は,溶液中での反応とは異なり比較的反応性は 低いと考えられるが,酸と接触するため,酸に弱い合成 中間体等は分解する可能性がある.捕集時に分離可能な らば,分離して捕集することで共存物質の分解による影 響を避けられる. (2)抽出時における影響 強酸や強塩基性溶液中で の操作は,加水分解等が起こる可能性がある.エステル に比べて比較的アミドは安定であるが,アミド結合を形 成している芳香族アミンを含む共存物質が存在する場合 は,共存物質の分解により芳香族アミンが生じる可能性 がある.そのため,共存物質の酸・塩基に対する安定性 を確認する必要がある. (3GCの注入口における影響 高温であるため,芳 香族アミンを原料とする中間体化合物などの共存物質が 熱分解し,芳香族アミンを生成する可能性があり,確認 が必要である.また,検出器は水素炎イオン化検出器 (flameionizationdetector: FID)または電子捕獲検出器 (electroncapturedetector: ECD)が用いられているが,

これらの検出器を使用する場合には,共存物質の妨害の 可能性を否定できないため,可能であればGC/MSによ り確認を行うべきである. 2)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析 特定化学物質に指定されている芳香族アミンの中で, 液体クロマトグラフィーによる分析が行われている例に MOCAがある3)GCを用いる場合と同様に,捕集-抽 出-分析の手順で行われている(表1). これらの手順で,共存物質による影響を受ける可能性 がある部分は捕集時であるが,HPLCによる機器分析時 には,「試料注入-カラムによる分離」間に高温条件を 用いないため影響は無い. 3)その他の方法 GC及びHPLCを使用しない,特定化学物質の芳香族 アミンの分析例もある3)GCHPLCと同様に,捕集 -抽出-分析の手順で行うが,分離する機器を用いず, 発色試薬により発色後,紫外吸収(UV)により検出す る方法等である.芳香族アミンを単離せずに行う方法と 薄層クロマトグラフィー(TLC)により単離後に検出す る2つの方法があるが,機器分析による方法に比べて分 析精度は劣り,分析者のばく露も懸念される. 3 分析方法選択の注意点 芳香族アミンの分析方法は,芳香族アミンの一つの化 合物に対して,数種類示されているものもある.そのた め,共存物質の性質に応じて,芳香族アミンの分析方法 を選択する事が可能な場合もある.芳香族アミンを分析 する上で,共存物質の性質に応じて分析方法を選択する ための簡単なフローチャートを図1に示す.2の作業環 境における測定方法で共存物質の影響を述べてきたが, 共存物質の性質を考慮し,分析機器や抽出方法の選択を 行う事で,共存物質の分解により気中濃度を実際の値よ り高く評価することを防げる.また,ガイドブックには 記載のない操作ではあるが,酸,塩基や熱に対して安定 性の低い中間体等の物質が共存する場合に,その物質を 分離する操作は,作業環境濃度の正確な把握に対する役 割として大きいと考えられる.2015年12月のo‒トル イジンを扱う事業所での膀胱がん発症事例における調査 でも,安定性が低いと想定される共存物質を分離して捕 集する方法が採用されている7, 8).報告書に記載されて いる捕集方法は,サンプラーを3段構成にし,一段目(ガ ラス繊維フィルター)で製品粉体をろ過捕集し,二段目 (硫酸含浸ろ紙)でガス状のo‒トルイジンを捕集し, 三段目でガス状o‒トルイジンの漏れ確認のために硫酸 含浸ろ紙が用いられている7-9).この方法は一段目のサ ンプラーを増やすことにより,芳香族アミンと大量に共 存する製品を分離捕集しており,共存する製品の分解に よる芳香族アミン分析への影響を除いている. 一方,共存物質の分解による影響とは異なるが,試料 の前処理時の液-液抽出や誘導体化等の工程は,共存物 質の影響や目的化合物の性質により,標準試料の分析時 と回収率や誘導体化率が異なる可能性がある.この様な 場合は,環境分析10)や食品分析11)等で用いられている, 対象化合物と殆ど同じ挙動をするサロゲート物質共存下 で,前処理や分析を行い,この化合物に対する濃度比か ら濃度を算出することで,分析への影響を補正すること ができる. 例えば,誘導体化反応を用いた実試料分析を行う場合 に起こりうる,想定より誘導体化が進行しない可能性と しては,共存物質が含まれた反応溶液の影響により誘導 体化反応が起こらない,用いる試薬の反応性が落ちてい る,誘導体化試薬の添加忘れなど,様々な状況が想定で (分析条件の追加) 共存物質の酸及び塩基性へ の 安定性 共存物質の熱への安定性 ○あり(分解なし) ×なし(分解する) 分析機器選択 GC 分析可 共存物質と分 離 LC 分析可 共存物質と分 離

×

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図1 芳香族アミン分析方法選択のためのフローチャート Title:11_JOSH-2018-0005-GI.indd p123 2018/09/25/ 火 17:48:53 123 Vol. 11, No. 2, pp. 121–124, (2018)

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きる.しかし,現場からの捕集試料濃度は未知であるた め,検出されない若しくは実際の濃度より低く検出され ているかどうか,またその原因が,目的化合物が含まれ ていないためであるのか,または目的化合物は含まれて いるが上述の原因で検出されないのかを特定することが できない.しかし,対象化合物と殆ど同じ性質や挙動を する適当なサロゲート物質を選択し,その共存下で誘導 体化を行う場合,目的化合物が含まれていなければ,サ ロゲート物質のみが検出され,反応溶液や試薬の影響で あるならば,サロゲート物質も検出されない若しくは検 出されるシグナルが小さいため,サロゲート物質のシグ ナルとの比較により,間接的に正確な測定結果であるか どうかを確認できる. 4 おわりに 作業環境の測定では,その環境で使用している化合物 から,サンプリングされる化合物を予測できる.また, 他の分野の分析に比べて,比較的共存物質も少ない.し かしながら,共存物質が影響する可能性も考慮しながら, 作業環境の分析を行う事で,より正確に作業環境を把握 する事が出来ると考えられる. 謝 辞 労働安全衛生総合研究所・作業環境研究グループ 小 野真理子部長及び同グループ菅野誠一郎前部長の多大な るご助言を頂き深く感謝いたします. 文文文  文 1) 厚生労働省. 平成29年1月の特定化学物質障害予防規則・ 作業環境測定基準等の改正(オルト―トルイジンに係る 規制の追加・経皮吸収対策の強化). http://www.mhlw. go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000142342.html (2018年 2月6日確認済). 2) 厚生労働省 . 厚生労働省法令等データベースサービス

http: / /wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/html/hourei/

contents.html (2018年2月6日確認済).

3) 特定化学物質関係-金属類を除く-.作業環境測定ガイド ブック3, 平成24年第4版:(社)日本作業環境測定協会.

4) UnitedStatesDepartmentofLabor, OccupationalSafety &

HealthAdministration. SamplingandAnalyticalMethods.

DirectorateofTechnicalSupportandEmergency Manage-ment (DTSEM) https://www.osha.gov/dts/sltc/methods/

index.html (2018年2月6日確認済).

5) UnitedStatesDepartmentofLabor, OccupationalSafety &

Health Administration. Method No.OSHA7 3. https: / /

www.osha.gov/dts/sltc/methods/organic/org073/org073.

html (2018年2月9日確認済).

6) TheNationalInstituteforOccupationalSafetyandHealth

(NIOSH). ANILINE, o-TOLUIDINE, AND NITROBEN-ZENENIOSHManualofAnalyticalMethods4thEdition.

https://www.cdc.gov/niosh/docs/2003-154/pdfs/2017.pdf

(2018年2月6日確認済).

7) 厚生労働省. 福井県内の化学工場で発生した膀胱がんに関 する災害調査報告書(平成28年5月). http://www.mhlw.

go.jp/file/05-Shingikai-11201000- Roudoukijunkyoku-Sou-muka/0000128467.pdf (2018年2月6日).

8) 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究 所. 福井県内の化学工場で発生した膀胱がんに関する災害 ( 平 成28年5月 ).https://www.jniosh.go.jp/publication/

pdf/saigai_houkoku_2016_01.pdf#zoom=100 (2018 年 2

月6日確認済).

9) 小野真理子 , 鷹屋光俊 , 菅野誠一郎 , 井上直子 , 山田丸 , 甲田茂樹. 作業場におけるオルト-トルイジンの曝露測定. 第90回日本産業衛生学会講演集. 2017; 340.

10) 環境省 . 要調査項目等調査マニュアル(水質,底質,水 生生物). https://www.env.go.jp/water/chosa/h15-03.pdf

(2018年2月6日確認済).

11) 厚生労働省 食品に残留する農薬,飼料添加物又は動物用 医薬品の成分である物質の試験法 (酸化プロピレン試験 法(農作物)). http: / /www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/

iyaku/syoku-anzen/zanryu3/2-215.html (2018年2月9日 確認済).

Title:11_JOSH-2018-0005-GI.indd p124 2018/09/25/ 火 17:48:53

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表 1  芳香族アミンの分析条件 3 - 6 ) GC 方法 芳香族アミン 捕集剤 抽出溶媒 誘導体化の有無 GC 注入口温度 検出器 国内 3 , 3’ ‒ジクロロ‒ 4 , 4’ ‒ジ アミノジフェニルメタン ( MOCA ) グラスファイバーろ紙 トルエン なし 240 ℃ ECD NIOSH アニリン o ‒トルイジン ニトロベンゼン フィルター +  固体 捕集管 (硫酸処理グラスファイバーフ ィルター +  シリカ ゲル, 520 / 260 mg ) エタノール なし 250 ℃ FID OH

参照

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