平成13年10月1日
原発性肺小腺癌の病理学的検討―第2報―
(免疫組織化学的検討)
小山敏雄 芦沢正美 千葉成宏 山梨県立中央病院病理科、同外科* 【要旨】 昨年の山梨肺癌研究会にて発表した小腺癌の病理組織学的検討に加え、本年は さらに免疫組織化学を施行した。径3cm以下の50症例にp53を染色し、転移例8例のうち7例にp53陽性所見を得
たことにより、p53は縮小手術に有用な情報を提供する可能性が示唆された。また、 MIB・1 (Ki・67)を染色し、この抗体は肺胞上皮の細胞質にびまん性に染色され、かつ肺胞置換型の 高分化腺癌に高率に陽性をしめすことから、肺腺癌では増殖能の指標というよりも分化を 表わす可能性も考えられた。 【key word】小肺腺癌、 p 53、 MIB−1、Ki−67 【緒言】 昨年の山梨肺癌研究会および本会誌に、我々は小肺腺癌を病理組織学的に検討し、若干 の知見を得たので報告した1)。今回、我々はさらに免疫組織化学的検討を加えたのでここに 報告する。 【材料と方法】 1997年から2001年現在までに当院で切除された最大径3cm以下の50例(51病変)の 原発性肺腺癌について、通常のホルマリン固定・パラフィン切片を用いて検索した。用い た抗体は、p53、 p27、 Rb、 p 16等の癌抑制遺伝子産物ないし細胞周期抑制因子と、細胞増 殖マーカーであるMIB・1であるが、 preliminaryな検討から、今回はp53とMIB−1に ついて検討した。p53はNovocastra社のDO・7を20倍希釈で用い、オートクレープで 抗原を賦活化した。MIB−1はイムノテック社の希釈済み抗体を用い、マイクロウェーブで 賦活化した。その後はいずれもDAKO社のL、SABキットで実施した。発色はDABで行 った。 尚、p53の評価については、びまん性に核に染まるもの(図1)と一部でも集族性に核に 染まるもの(図2)を陽性とし、孤立性に核に散見されるもののみは陰性とした。また、 細胞質にのみ染まるものは陰性とした。 【結果】 50例中転移のあったものは8例あり、その8例のうち7例にp53が陽性であった。 −113一山梨肺癌研究会会誌 14巻2号 2001 尚、p53陰性でも転移のあった1例は低分化であった。50例中転移の有無にかかわらず p53陽性であったものは17例(34%)であるから、陽性でも手術時転移のないものは 10例あり、これらの症例がこの後どうなっていくかは今後検討してゆきたい。(表1) 前回の成果から、分化度をもっとも低い部分で評価したときの分化度別に比較してみる と、表2の如く、p53陽性17例のうち、低分化は13例を占め、そのうちfbcal Pは3 例であった。よって、p53と分化度はかなり相関がある。高分化でも3例の陽性例があった が、いずれも転移はなかった。部分的にでも低分化の症例17例中転移のなかったものは 10例であり、分化度評価とp53の評価は同等に重要である。今後はこれらを組み合わせ て評価していくのがよいと考える。現在考えられる最もよいものは、一部でも低分化があ るものまたは中分化でもp53陽性のものは縮小手術から除外するというものであり、手術 可能であればそうするのが望ましい。本研究の最大径3cm以下の50例では18例が縮 小手術除外例である。 次に、MIB・1(Ki・67)について検討したが、意外な結果がみられた。この抗体はよく知ら れているように、増殖細胞の核に染色され(図3)、増殖能の指標となるが、肺胞上皮の胞 体にびまん性に染まった(図4)。癌でも高分化腺癌に高率に細胞質に染まった(図5)。特 に、apical sideによく染まっているように考えられる。高分化腺癌でもII型肺胞上皮型や Clara型で高率に胞体に染まり、気管支表面上皮型では胞体に染まらない。杯細胞型(粘液 産生型)でも全く染まらない。また、中分化や低分化でも胞体に染まらず、そのかわりに (増殖細胞の)核に染まるようになる。尚、癌の周囲にみられたatypical adenomatous hyperplasia(AA且)にも細胞質に染まった。 【考察】 p53はいわずと知れた最も有名な癌抑制蛋白であり、その遺伝子の悪性腫瘍における変異 は現在知られている癌抑制遺伝子のなかで最も高頻度である。また、その多彩な機能は益々 その重要性を物語る。通常の癌抑制遺伝子産物は免疫組織化学的に染色されることが正常 であることが多いが、この蛋白だけは免疫組織化学的に核内に蓄積されることが異常所見 と考えられている。事実、遺伝子の変異と核内への蓄積はかなり高い正の相関を示す。こ の蛋白は発見当初は癌遺伝子と考えられていたが、その後癌抑制遺伝子と考えられるよう になった。しかし、核内に蓄積していることで正常のp53の機能を抑制しているだけなの であろうか。現在、変異p53は癌促進作用のあることがいろいろ調べられており、はじめ に癌遺伝子と考えられていたように、‘変異p53’は“癌遺伝子”であるということを認識 していくことは必要である2)。そう考えなければ、免疫組織化学が予後に結びつくとは到底 考え難い。 結果でも述べたように今回の検討ではp53陽性は予後因子(転移促進因子)として低分 化と同じぐらい重要であることが判明し、両方併用していくことが望ましい。しかし、p53
平成13年10月1日 また、胞体にのみp53の染まるものは陰性としたが、肺癌では細胞質・核を問わなけれ ばほとんどの症例に染まる。特に細胞質に染まるものは多い。これも案外問題にされてい ないが、正常組織をみると気管支腺と一部の気管支表面上皮の胞体に染まるものが認めら れ、肺腺癌の胞体に高率に陽性に染まるのは気管支への分化を示している可能性も否定は できない。用いた抗体は世界で最も免疫組織化学に使われているものであり、抗体の信頼 性は高い。交差反応かどうかの問題は残るが、この抗体も後に述べるMIB・1同様核に染ま るものと細胞質に染まるもののoverlapがほとんどない。 次に、MIB・1(Ki・67)について検討したが、肺腺癌に関しては増殖能のマーカーというよ りも、肺胞上皮やクララ細胞への分化のマーカーとしての意義の検討が必要かもしれない。 結果に述べたように、肺胞上皮や高分化腺癌の胞体内にびまん性に染まるが、この胞体内 の染色は他の臓器の腫瘍でも散発的に報告がみられるが、正常上皮にこれほど染まる臓器 は他に報告をみない。交差反応という考えもあるが、細胞質に強く染まる細胞は核にほと んど染まらないこと、核に染まる細胞では胞体内に弱く染まるものはあるものの、通常は 全く染まらない(図6)。以上から、現在交差反応ではないと推測している。細胞質内での Ki・67の意義も生物学的に検討されていくことだろう。実際、 nucleolinと呼ばれる核小体 (NOR)抗原は細胞表面でアクチンと関連することが最近分かった3)ので、 K・67も核小体に 強く関連することが知られており、細胞膜近くで何らかの機能をする可能性がある。今後 の解析が期待される。 昨年も本会誌でのべたように、最近の症例なので予後の検討はしていない。しかし、近 年では遠隔転移は異時性のものでもすでに術時に成立しており、腫瘍の“冬眠状態”を続 けていると考えられてきている4)ので、縮小手術においては必ずしも異時性の遠隔転移を考 慮しなくてもよいものと考えている。 【文献】 1.小山敏雄、川崎朋範、千葉成宏 :原発性肺小腺癌の病理学的検討 一Focal P(低 分化腺癌部分)の重要性一、山梨肺癌研究会会誌、2000,13(2):36・44. 2.Siga1 A and Rotter V.:Oncogenic mutations of the p53 tumor 8uppressor:The demons of the guardian of the genome. Cancer Res 2000,60:6788・6793 3.Hovanessian A.G., Puvion−Dutilleul F., Nisole S., Sval)」., Perret E., Deng J・S., and Krust B.:The ceU−surface・expressed nucleolin is associated with the actin cytoskeleton. Exp Cell Res 2000,261,312・328. 4.Holmgren L, O’Reilly M.S. and Folkman J.:Dormancy of micrometastasis:Balanced prolifbration and apoptosis ill the presence of angiogenesis suppression. Nature Med 1995,1:149・153. 一115一
山梨肺癌研究会会誌 14巻2号 2001
表1P53と転移の関連
転移(+)転移(一) 計
P53(+)
P53(・)
7
1
10
32
17
33
計
8
42
50
表2P53および転移と分化度との関連
高 中 低 計
P53(+)
転移(+)
3
0
1
1
13
7
17
8
平成ユ3年10月1日 図1p53の核内びまん性陽性像(x40)
図2p53のfoealな集籏性陽性像(x100)
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図4正常肺胞上皮におけるMIB・1の胞体内のびまん性陽性所見(X100)平成13年10月1日