小細胞癌化 したEGFR遺 伝子 変異陽性 肺 腺癌の一例
山梨 大 学 医学部付 属病 院 第二 内科1)人体病 理 学2) 星 野 佑 貴1) 曽我 美 佑介1) 渡 辺 一 孝1) 石 原 裕1) 久 木 山清貴1) 大 石 直輝2 要 旨:症 例 は60歳 台 、女性。肺 腺 癌c-T3N3MO、StageIIIB、EGFR遺 伝 子 変 異陽性(Exon19 del)に 対 して 、初 回 治 療 と して ア フ ァ チ ニ ブ を20ヶ 月 間 使 用 した 時 点 でProgressive disease(PD)と な った。再 生 検 を行 っ た と こ ろ小 細 胞 癌 形 態 が確 認 された。 同 検 体 でEGFR 遺 伝 子 変 異Exon19 delが 検 出 され た た め 、 肺 腺 癌 の 小 細 胞 癌 化 と診 断 した 。2次 治 療 を 肺 小 細 胞 癌 に準 じて シ ス プ ラ チ ン とエ トポ シ ドの 併 用 療 法 に よ り行 い 奏 効 した。 キ ー ワー ド:EGFRチ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 阻 害 薬 、 小 細 胞 癌 化 、 耐 性化 は じ め に EGFR遺 伝 子 変 異 を も っ 肺 腺 癌 に は 、EGFR チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 阻 害 薬(EGFR-tyrosine kinaseinhibitor:EGFR-TKI)に よ る治 療 が 奏 効 す る が 、 そ の 効 果 は 一 時 的 で ほ ぼ 全 て の 症 例 で 耐 陸 化 す る。 耐 性 化 の 機 序 の 一 つ と し て 、 小 細 胞 癌 へ の 形 質 転 換 が14%1)あ る い は5%以 下2)と 報 告 され て い る 。 今 回 、 肺 腺 癌 のEGFR-TKI治 療 中 に 小 細 胞 癌 化 に よ っ て 耐 性化 し 、 肺 小 細 胞 癌 に 準 じた 治 療 に よ り奏 効 が 得 られ た 一 例 を 経 験 した の で 報 告 す る 。 症 例 症例:60歳 台 、女 性 主 訴:な し 既往 歴:高 血 圧 症 生 活歴:喫 煙 歴 な し、飲 酒 歴 な し 職 業:粉 塵 や ア スベ ス トの暴 露 歴 な し 家 族 歴:特 記 事 項 な し 現 病 歴:X-2年12月 検 診 の 胸 部XPで 左 下肺 野 の腫 瘤影 を指 摘 され 、近 医で の 胸 部CT検 査 で肺 癌 を疑 われ 当院 へ 紹 介 され た。X-1年1.月 気 管 支鏡 下肺 生検 を 行 い 、 病 理 組 織 診 断 で は 癌 細 胞 が 充 実 性 増 殖 し一 部 に 腺 管 様 構 造 や 細 胞 内 粘 液 を 認 め 、 免 疫 染 色 で はCK7、TTF-1陽 性 、 CK5/6、p40が 陰 性 で 低 分 化 腺 癌 と診 断 さ れ た(Fig.1)。EGFR遺 伝 子 変 異 はExon19 delが 検 出 され た 。 他 臓 器 へ の 転 移 は 見 られ ず 、 原 発 性 肺 腺 癌c-T3N3MO、Stage 皿Bと 診 断 し 、 初 回 治 療 と し て ア フ ァ チ ニ ブ40mg/dayを 開 始 し た 。 導 入 期 に 下 痢 や 肝 障 害 を 認 め 、20mg/dayま で 減 量 し、 以 後 は 副 作 用 の 出 現 は な く縮 小 を維 持 して い た 。 胸 部CT検 査(Fig.2)で は 、 左 下 葉 の 原 発 巣 は 、 ア フ ァ チ ニ ブ 治 療 開 始 時 に68㎜ で あ っ た が 、治 療16ヶ 月 に 23㎜ へ 著 明 な 縮 小 が 見 られ た 。 しか し 治 療20ヶ 月 に29㎜ へ 増 大 を き た しPD と な っ た た め 、 耐 性 遺 伝 子 変 異T790Mの 検 索 目的 に 経 気 管 支 ア プ ロ ー チ に て 再 生 検 を 行 っ た 。 再 生 検 時 の 現 症:PSO、 呼 吸 音 清 、 ラ 音 は 聴 取 せ ず 、 両 側 鎖 骨 上 窩 リ ン パ 節 は 触 知 し な か っ た 。 再 生 検 時 の 血 液 検 査 所 見(Table1):CEA 5.2ng/mlと 軽 度 上 昇 して い た が 、NSE, ProGRPは 正 常 値 で あ っ た 。そ の 他 に 特 記山 梨 肺 癌 研 究 会 会 誌30巻2017 す べ き 異 常 所 見 は認 め な か っ た 。 経 過:ア フ ァ チ ニ ブ 治 療 後PD時 に施 行 さ れ た 気 管 支 鏡 下 再 生 検 の 病 理 所 見 (Fig.1)で は 、N/C比 が 高 くstreaming artifactを 伴 っ た 小 細 胞 癌 形 態 の 腫 瘍 細 胞 が 見 られ 、免 疫 染 色 で はTTF-1,CD56 カミ陽辻生、synaptophysin,ChromograninA は 陰 性 で あ っ た 。 これ ら に よ り肺 小 細 胞 癌 と診 断 され た 。 病 理 学 的 に は 肺 腺 癌 が 小 細 胞 癌 化 した も の か 、 新 た な 肺 小 細 胞 癌 が 発 生 した も の か は 不 明 で あ っ た が 、 こ の 検 体 のEGFR遺 伝 子 変 異 解 析 コ バ ス v2検 査 でExon19del.(+),T790M(一)が 確 認 され た 。小 細 胞 癌 でEGFR遺 伝 子 変 異 を 持 っ 事 は 稀 で あ り3)、 ま た 小 細 胞 癌 へ の 形 質 転 換 時 に は 転 換 前 の 腺 癌 と 同 じ型 の EGFR遺 伝 子 変 異 を 示 す1)た め 、腺 癌 か ら の 小 細 胞 癌 化 で あ る と診 断 した 。 小 細 胞 癌 に 準 じて シ ス プ ラ チ ン とエ ト ポ シ ドに よ る2次 治 療 を 開 始 し た と こ ろ 、 1コ ー ス 終 了 時 の 評 価CTで 腫 瘍 の 著 明 な 縮 小 を 認 め た(Fig.2)。 考 察 EGFR遺 伝 子 変 異 陽 性 の 肺 腺 癌 の EGFR-TKIへ の 耐 性 獲i得の主 な機 序 と し て は 、T790Mの 点 突 然 変 異 に よ る EGFR-TKIの 結 合 剖 立の変 異 が最 も多 く、 他 にIVET遺 伝 子 増 幅 に よ る側 副経 路 の活 性化 に よるEGFR下 流 シ グナ リング の増 強 な どが知 られ て い る。 また低 頻 度 で あ るが 、腺 癌 か ら小 細 胞 癌 に形 質 転 換 す る こ とで耐 性化 す る こ とが 報 告1)2)さ れ て い る。 PD時 に再 生 検 した 際 に小 細 胞 癌 が検 出 され る機 序 につ い て は 次 の2つ が 考 え られ る。1つ 目は初 めか ら腺 癌 と小 細胞 癌 が混 在 して い た場合 と2つ 目は 腺 癌 が 小 細 胞 癌 に転 化 した場 合で あ る7)。 Mangumら は429例 の小 細 胞 癌 患者 の うち6例 に扁 平 上 皮 癌 、3例 に腺 癌 の合 併 が認 め られ た と報 告8)し て お り、初発 時 よ り腺 癌 と小 細 胞 癌 が 混在 してい た と す る仮説 に は矛 盾 しな い。 気 管 支 鏡 下 生 検 で え られ る検 体 は、腫 瘍 内 の一 部組織 で あ り、腫 瘍 内の 不 均 一性 を考 慮 す る と 非 小 細胞 癌 と診 断 され た場 合 に も小細 胞 癌 が混 在 して い る可能 性 が あ る。 しか し 本 症 例 で はEGFR-TKI治 療 が16ヶ.月 間 も 奏 効 してお り、初 発 時 に小 細胞 癌 が混 在 して いた とす る とEGFR-TKI治 療 中 の よ り早 期 に小 細胞 癌 成 分 が 増 大 して き た は ず で あ る。 一 方、腺 癌 が小 細 胞 癌 に形 質 転 換 した とす る根 拠 と してSequistら は、 再 生検 で 小細 胞 癌 が認 め られ たす べ ての 症 例 で 、 形 質転i換前 の腺 癌 と同 じ型 のEGFR遺 伝 子 変異 が認 め られ た1)こ とを挙 げ て い る。 ま たTatematsuら は 、肺 小 細 胞 癌!22人 中にEGFR遺 伝 子 変 異 は5人 に認 め られ た が 、そ の うちの3人 は肺 腺 癌 と小細 胞 癌 との合 併 例 で あ っ た3)と して い る。 した が って 純 粋 な肺 小 細 胞 癌 で はEGFR遺 伝 子 変 異 を認 め る事 は稀 で あ り、本 症 例 で は再 生 検 で得 られ た 検 体 が小 細 胞 癌 形 態 で、EGFR遺 伝 子 変 異 型 が 初 回生 検 と同 じ 型 が認 め られ た こ とか ら、腺 癌 で あ った もの が小 細 胞 癌 化 した と考 え られ る。 これ ま で の小 細胞 癌 化 の報 告 例4)5)6) で は 小 細 胞 癌 の 腫 瘍 マ ー カ ー(NSE、 proGRP)の 上 昇 が 報告 され てい るが 、本 症 例 で はNSEは 正 常値 で あ りproGRPもPD 時 に は 正 常 値 で 後 に 軽 度 上 昇(93.7 pg/mh)す る に と どま っ た。一 方 、腺 癌 マ ー カー のCEAに つ い て は ア フ ァチ ニ ブ治 療 開始 前 には109ng/mlと 高値 で あ った が 、治 療 後速 や か に低 下 し1ng/ml台 で 推 移 した。そ してPD時 に軽 度 の上 昇(5.2 ng/ml)を 認 めた の み で あ った 。これ らよ り腫 瘍 増 大 時 に腺 癌 マ ー カ ー の上 昇 が軽
度 で あ る事 は、 た とえ小細 胞 癌 マ ー カ ー が 正 常 で あ っ て も小 細胞 癌 化 を否 定 で き ない 所 見 で あ っ た と考 え る。 腺 癌 が 小細 胞 癌 化 した 際 の治 療 法 と し て は、 プ ラチナ 製 剤 とエ トポ シ ドも しく はイ リノテ カ ン併 用 の有 効性 が報 告7)さ れ てお り、 基本 的 に は肺 小 細胞 癌 に準 じ た治 療 が検討 され る。 なお 、 小 細胞 癌 化 時 にEGFR遺 伝 子変 異 が残 存 して い て も、 もはや 癌 はEGFR経 路 に は依 存 しな くな っ てお りEGFR-TKIに 耐 性 を示す9)。 最 近 、EGFR変異 陽 性肺 腺 癌 のEGFR-TKI 治療 中 に増 悪 した 際 に は耐 性遺 伝 子 変異 T790Mの 検 索 を リキ ッ ドバ イ オ プ シー に て 行 う事 も多 くな って きて い る。 しか し リキ ッ ドバ イ オプ シー で は小 細 胞 癌 化 を 診 断 で きな い た めT790Mが 検 出 され ない 場合 には 、 可能 な限 り再 生検 し病 理 所見 を確 認 した 上 で治 療 を選 択す る必 要 が あ る と考 え る。 結 語 肺 腺 癌 の小 細 胞癌 化 と考 え られ 、小 細 胞 癌 に 準 じた 治 療 が奏 効 した1例 を経 験 し た。
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山梨 肺 癌 研 究 会 会 誌30巻2017 HE TTF1 y 左 以 4 P CD56(右)
初回診 断時
PD時 Figure1初 回 診 断 時 とPD時 の 経 気 管 支 生 検Afatinib開 始 時 Afatinib20ケ 月 後 Afatinib16ケ 月 後 CDDP+ETP1ケ.月 後 Figure2CT検 査 Table1再 生 検 時 血 液 検 査 所 見