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コーポレートガバナンスコード・スチュワードシップコードと人権デユーディリジェンス-ガバナンス・投資におけるESG リスク顕在化の動向とその対処策-

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目次

1. はじめに

これまで、投資・金融関係者に対する講演において、人権がテーマになることはほとんどなかった。 本日は、企業がいかに人権を尊重すべきかその規範論について述べるのではなく、現在、世界的に議論 が高まっている「ビジネスと人権」についてと、それが、日本の企業価値にどのような影響を与えるこ とになるのかについて議論する。スチュワードシップコード(以下、SS コード)に続いてコーポレート ガバナンスコード(以下、CGコード)が導入される中で、CSR取組みや ESG 課題に対処する必要性が、 ガバナンスや投資の分野でも急速に高まってきている。昨年4月に、「グローバル時代のCSR法務戦略」 というテーマで講演を行った際に、米国の紛争鉱物規制を契機として、サプライチェーンにおける CSR に関して、自主的な取組みから法的な義務、あるいは、それに準じる義務に引上げられているといった CSR実務のパラダイムシフトが起きているという話をした。CSRは企業の「社会的責任」を表す言葉であ り、一般的には、企業の「法的責任」と対比される言葉である。つまり、法的な責任を超えた自主的な 責任の取組みとして、企業が行うべきものとしてこれまでは認識されてきた。しかしながら、最近では、 その自主的な取組みが、法的な責任、あるいは、それに準ずる責任のレベルにまで引上げられ始めてい るという話をした。そういった動きが、この 1 年間で、サプライチェーンだけではなく、ガバナンスや 投資の分野でも急速に拡大しつつある。責任ある投資の要請に基づく ESG 投資が、特に、欧州を中心に 拡大してきており、企業は、機関投資家から ESG に対する配慮を求められるようになっている。また、 非財務情報の開示の拡大も世界的に広がっており、企業は、非財務情報に関連する ESG 取組みを強制さ れるような状況にもある。特に、欧米を中心とした海外では、法規制の導入や規制の強化がなされるこ

1. はじめに

2. コーポレートガバナンスコード・スチュワードシップコードの概要と実務影響 3. ESGリスク顕在化の最新動向 -CSR実務パラダイムシフトの新展開

4. ESGリスクに対する対処策 -人権デユーディリジェンスを中心に 5. ESGリスク対処に関するアナリストと法律家の協働に向けて

講 講 講 演 演 2015 年 5 月 20 日開催

コーポレートガバナンスコード・スチュワードシップコードと

人権デユーディリジェンス

-ガバナンス・投資における ESG リスク顕在化の動向とその対処策-

真和総合法律事務所

パートナー弁護士

高橋 大祐 CMA

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とで、パラダイムシフトを促す動きが強くなっている。日本でも、昨年のSSコードの導入と、今年に入 っての日本版CGコードの導入によって、国内でのCSRESGに関するルール化が進んでいる。したがっ て、CSR取組みやESG課題への対処が十分でない企業においては、法令違反リスクやレピュテーションリ スクといった ESG リスクが、サプライチェーンの分野に加えて、ガバナンスや投資の分野でも高まって きているといえよう。

このように、ESGリスクが高まってきた背景には、世界的にも急速に議論されるようになってきた「ビ ジネスと人権」というテーマがあり、企業や投資家、そして、アナリストにおいても配慮すべきテーマ となっている。2011 年には、国際連合の人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致 で採択された。この指導原則では、企業が人権尊重責任を負うという事を明記し、実際にも、人権に対 する影響を評価し対処することを求め、人権DDとして、そのプロセスを行うことを要求している。そし て、それは、単に企業内だけで行うものではなく、サプライチェーンやインベストメントチェーンを通 じて、人権侵害への加担を防止するような取組みを行うことを要求している。ESG課題は、企業における 環境・社会・ガバナンスに関する課題であるが、指導原則採択をきっかけに、このような課題は人権課 題としてとらえられるようになってきている。ESG課題に対して取組み不足の企業や投資家が、NGOなど の様々な団体から、人権侵害に加担しているといった社会的な非難を受け易い状況にもある。日本弁護 士連合会(以下、日弁連)も、今年 1 月に、日本企業がビジネスと人権の課題に対処するための「人権 DDのためのガイダンス」を公表した。本日は、そういった一連の流れや、SS コードとCG コードの実務 影響、ESGリスクの最新動向などについて述べ、その対処策の一つとして人権DDについても論じていく。

2. コーポレートガバナンスコード・スチュワードシップコードの概要と実務影響

153月に、金融庁は、企業の持続的成長と中長期の企業価値を向上させるべく、コーポレートガバ ナンスの強化を目的とした日本版CGコードを確定した。CGコードは、プリンシプルベースアプローチ(原 則主義)を採用している。具体的には、CG コードは、実効的なコーポレートガバナンスを実現するため の5つの基本原則と、その下部原則及び補充原則によって構成されている。基本原則では「株主の権利・ 平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締 役会等の責務」「株主の対話」を規定し、企業による対応を求めている。ソフトローである CG コードに 法 的 強 制 力 は 無 い が 、 上 場 企 業 が こ れ を 遵 守 し な い 場 合 は 、 そ の 理 由 を 説 明 す る こ と を 求 め て お り

「Comply or Explain」の手法を採用している。東京証券取引所(以下、東証)は、152月に「コーポ レートガバナンスコードの策定に伴う上場制度の整備について」を発表し、市場第1部、市場第 2 部、 マザーズ、ナスダックに上場している企業がCGコードを実施しない場合には、その理由を説明する必要 があるとしている。特に、1部と2部の上場企業に関しては、全ての原則において、実施しない場合には 説明をするように誘導している。一方、マザーズとジャスダック上場企業に関しては、基本原則に従わ ない場合のみ説明を行うべきとしている。東証は、必要な上場制度を整備した上で、61日からCGコ ードを適用する。

現在、CG コードに関して最も関心を集めているのが、このコードが「攻めのガバナンスの実現」のた めに策定されたという事であろう。「攻めのガバナンス」は、アベノミクスの「第三の矢」である成長戦 略のひとつであり、その一環としてCGコードを策定したことが強調されている。したがって、一見、ESGCSRに関するリスクマネジメントを主眼としたものではないようにも思われる。実務上でも、ESG課題 や CSR 取組みというより、むしろ、社外取締役に関しての影響が大きいと考えられており、その人数を 改 正会 社法 から 更に引 き上 げた 事の 方が 大きく 注目 を集 めて いる 。昨年 の改 正会 社法 も、「Comply or Explain」の原則に基づいており、1 名以上の社外取締役を置く必要があるとし、置かない場合は、その

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理由を説明するように規定している。しかしながら、CG コードでは、第1 部と第 2部の上場企業は、2 名以上の社外取締役を置く必要があるとしている。そして、これに従わない場合は、「Comply or Explain の原則に基づき、その理由の説明を求めている。つまり、実際には、社外取締役を 2 名以上にするよう な誘導が行われているといえよう。しかし、現状では、社外取締役の増員が、攻めのガバナンスや積極 的な企業価値の創造に、本当に結びつくのかといった疑問がある。会社の事業を十分に理解していない ような社外取締役が、企業の中に入って様々な意見を言っても、それが本当に売上や収益の増加に寄与 し、企業価値を向上させることができるのかといった懸念もあり、必ずしも楽観視できないと考える人 も多いであろう。だからこそ、社外取締役には、ESGリスクへの対処や不祥事の防止のための役割が期待 されており、実際、そのような資質を有している人が社外取締役に就任するケースも多いようだ。CG コ ード策定の前段として146月に経産省が策定した「社外役員等に関するガイドライン」の中でも、社 外役員を含む非業務執行役員の役割について、不祥事防止やリスクマネジメントが強調されている。日 弁連でも社外取締役ガイドラインを発表しているが、同様に、不祥事防止とリスクマネジメントを強調 している。したがって、たとえ意図はしていなくても、社外取締役の数が増加することで、ESG対処や不 祥事防止に関する意見や役割が増大していくという結果を生み出していくものと思っている。

また、CGコードの各章においてもESG課題の対処やCSR取組みに関する必要性が明記されており、ガ バナンスの強化とその開示の拡大を要求する内容となっている。また、CGコードの本来の目的は、企業 の持続的成長と中長期的な企業価値の向上であり、これは、ESG課題の対処の目的とも整合している。基 本原則 2 では「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」が規定されており、これにより、ステー クホルダーへの配慮を要請した国の姿勢が窺える。さらに、最近のグローバル社会における環境問題等 への関心の高まりから、環境社会や統治問題といったESGに対して積極的かつ能動的な対応が必要とし、 その事が明記された。原則 22 では、「会社の行動準則の策定・実践」が規定されているが、これは、 正にCSR行動規範に他ならないものである。原則23では「社会・環境問題をはじめとするサステナビ リティーを巡る課題への対応」が求められており、これも ESG 課題への対処の必要性を明記したものに 他ならない。原則23の補充原則で「取締役会は、サステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への 対応は重要なリスク管理の一部であると認識し、適確に対処すべき」としており、ESGリスクをリスクマ ネジメントの重要分野として位置づけていることを明記したものといえよう。基本原則 3 では「適切な 情報開示と透明性の確保」を要求している。開示が望まれる情報としては、財務情報の他にも、経営戦 略や経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報についても開示を適切に行うべきとし、 ESG課題の対処を含めた非財務情報の開示を促している。特に、上場会社においては、ガバナンスに関す る事項の開示範囲を大きく拡大している。原則31では「情報開示の充実」を規定しており、会社のコ ーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針を開示することを要求している。CG コードを 踏まえて、具体的に何を開示すべきかについては、東証が発表した「コーポレートガバナンスコードの 策定に伴う上場制度の整備について」を参考にされると良い。以上のように、社外取締役の増員や攻め のガバナンスの実現といったことが前面に出てきてはいても、結果的には、企業に対して、より一層の ESGリスク対処を要求するものとなっており、即時に、そして、劇的な変化が生じるようなものではない かもしれないが、ゆっくりとした効果が確実に表れてくるものと思っている。

14 2月、金融庁は、CG コードに先立って、機関投資家が責任ある投資を行うための諸原則として、 日本版SSコードを発表した。これは、機関投資家に対してスチュワードシップ責任を問うたもので、投 資先企業との建設的な「目的を持った対話(エンゲージメント)」などを通じて、当該企業の企業価値の 向上や持続的成長を促すことにより、顧客の中長期的な投資リターンの拡大を図るべきとしている。SS コードは、CGコードと同様に、プリンシプルベースアプローチを採用しており、7つの原則を規定して、

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その内容を解説している。そして、このSSコードも法的強制力のないソフトローであり、コードを実施 しない場合には、その理由を説明するように求めている。153月時点で、日本の機関投資家の184社 が同コードを受入れることを表明している。両コードは、機関投資家と投資先企業の双方が、建設的な 対話を通じて、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための「車の両輪」として 位置づけられているといえよう。

SSコードを見ると、ESG課題や CSR取組みに関して直接規定している部分があるわけではない。しか しながら、詳細にわたって見ると、関連のある規定が数多く存在していることがわかる。まず、SS コー ドの目的は、投資先企業の持続的成長を促すことにより顧客の中長期的な投資リターンの拡大を図るこ とであるが、これは、ESG課題対処の目的とも整合している。原則3は、投資先企業の状況の把握を規定 したものであるが、その把握する内容としては、財務状況だけではなく、投資先企業のガバナンス、企 業戦略、業績、資本構造、リスク(社会・環境問題に関連するリスクを含む)への対応など、非財務面 の事項を含む様々な事項が想定されるとしている。また、原則 4 では、機関投資家は、投資先企業との 建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努め るべきとしている。その対話の目的でも、中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、 その持続的成長を促すことに重点を置いており、原則 5 の議決権行使に関する規定でも、持続的成長へ の配慮を要請している。これら両コードの導入や ESG 投資の拡大によって、機関投資家が、投資先企業 に対して、ESG課題の対処について積極的に促すきっかけになるのではないかと予想している。

3. ESG リスク顕在化の最新動向 -CSR 実務パラダイムシフトの新展開

日本に両コードが導入された背景には、世界的に ESG リスクが顕在化してきたといった状況がある。 最近、様々な要因からCSR実務のパラダイムシフトが起きており、CSRが自主的な取組みからルール化や 法制化、あるいはそれに準ずるような制度へと変わってきている。そして、それに伴い ESG リスクも高 まってきた。パラダイムシフトが起きた主な要因は3つあると考えている。まずは、CSR調達関連規制の 導入と強化である。これは、紛争鉱物分野の規制だけではなく、人身売買、強制労働、化学物質、違法 伐採林、海外贈賄などの様々な分野での規制がリスクとなり、自社のみならずサプライチェーン全体で 管理をし、責任を負わなければならないという規定が、各国でも導入され始めた。したがって、これら の規制により、調達分野では、既に、CSR関連要求事項が法的なレベルにまで引上げられたものといえよ う。2つ目の要因は、ISO 26000などCSRに関する国際的な規範・規格の普及により、CSR関連要求事項 が統一化されてきたということである。これまでの CSR は、企業が自主的に重点分野を決めて取組んで きたが、それが、国際的な規範や規格が普及したことにより、企業が最低限でも実践しなければならな い要求事項が統一化され、パラダイムシフトの一因となっている。3つ目の要因は、情報開示が求められ る非財務情報の範囲が拡大していることだ。非財務情報の開示は、間接的に、CSR関連要求事項の取組み が要請されることになり、ESG 関連の非財務情報を開示することで、企業価値への影響も増大してくる。 昨年の講演でも同様の話をしたが、最近、特に CSR 実務パラダイムの新展開が起きているように思う。 これまでの調達分野に加えて、ガバナンスや投資の分野でも、ESGに関連したリスクが急速に高まってい るような状況にあるように思う。

パラダイムシフトの新展開としては、CSR調達関連規制の更なる導入と強化、非財務情報開示の拡大と 深化、責任ある投資の要請の高まりなどがある。これらの背景として、ビジネスと人権に関する議論が 急速に高まっていることが大きく影響しているものと思われる。まず、CSR調達関連規制の導入・強化に おいては、ESG課題の更なるルール化や法制化が進んでいるといった状況がある。例えば、米国紛争鉱物 規制に関しては、14 年までの移行期間に限って、対象商品を「DRC コンフリクト判定不能」と記載する

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ことが可能で監査を受ける必要はなかったが、15 年からは、小規模会社を除き、独立した民間部門によ る監査を受けた上で、DRCコンフリクトフリーか否かを判定し開示する必要があると規制を強化している。 DRC コンフリクトフリーとは、コンゴ民主共和国(DRC)又はその周辺国の武装グループに直接的、間接的 に資金提供又は利益供与するような紛争鉱物を使用していないことを示すものである。米国紛争鉱物規 制が本格的に実施されたことで、CSR調達に関するルール化が更に進んでいくものと思われる。また、米 国に対応して、欧州でも、EU 紛争鉱物規則案を採択するプロセスが進んでいる。ただし、米国の規制と は違い、強制的に、サプライチェーンにおける紛争鉱物使用の開示を義務付けるものではなく、任意の 自己認証システムを設けるといったやや緩和的な規則となっている。ただし、精錬業者に対しては、デ ユーディリジェンスを義務付けている。また、米国の規制では、対象地域をDRC諸国に限定しているが、 EUでは紛争ハイリスク地域の対象を広く規制している点で違っている。一方、英国では、153月に、 現代奴隷法が採択された。この法律では、一定の売上規模の業者に対して、自社だけではなくサプライ チェーンでの強制労働や人身取引に対する関与の有無を確認・監査することを義務付けている。強制労 働や人身取引に関するサプライチェーンの管理については、米国の加州で「サプライチェーンにおける 透明性を確保する法律」が制定されているが、この州法では、対象企業を製造業及び小売業者に限定し ている。しかしながら、英国法では、業種を問わず適用するとしている点で、より広く規制が課されて いる。

次に、非財務情報開示の拡大・深化の動きとしては、昨年、EU 非財務情報開示指令が採択されたこと などがある。例えば、その指令における開示分野を見ると、環境・社会及び従業員に関する事項だけで はなく、人権や贈収賄を含めた事項について開示が必要とされている。開示事項も、開示分野に関する 会社の方針やそれらの方針の結果だけではなく、開示分野に関連するリスク及び会社によるそれらのリ スクへの対処方法も開示するように求めている。つまり、ESGリスクをしっかりと把握した上で、それに 関する対処方法を開示すべきということを明記した内容となっている。また、135月に発表された「CSR 報告書ガイドラインG4」も普及してきており、当ガイドラインでは、ISO 26000を踏まえて、経済、環 境、社会に関する様々な開示項目が設定されている。日本でも、このG4を踏まえて開示を行ってきた企 業が増えてきているようだ。G4では、サプライチェーンに関する開示項目が、非常に拡大しているとこ ろに特徴がある。更に、1312月に発表された「国際統合報告フレームワーク」も普及してきている。 これは、財務情報と非財務情報を統合的に報告するための国際的なガイドラインで、ESGなどの非財務情 報が如何に中長期的に企業価値を創造するかを、ストーリーとして説得的に説明することを要求する内 容となっている。つまり、このガイドラインは、投資家やアナリストが非財務情報に対して関心を持っ てもらうためのツールであるといえよう。このようなルールやガイドラインの普及により、非財務情報 が企業価値に与える影響に対して関心が高まっているようだ。

また、パラダイムシフトの新展開として、責任ある投資の要請が急速に高まってきているという大き な流れがある。現在、ESG投資が拡大しつつあり、企業が機関投資家からESG課題対処を要求されるリス クも高まっている。06 年に採択された国連責任投資原則では、機関投資家に対して、投資分析と意思決 定のプロセスにESG課題を組込むこと、投資先企業に対し積極的にESG課題の対処を促すこと、そして、 その開示を求めることなどを要請しており、現在、世界各国で1386の機関投資家が署名するなど広く普 及してきた。このような国際的な規範を受けて、特に、欧州を中心に ESG 投資が急速に拡大してきてお り、欧州の約半数の金融機関がESG投資を採用するなど、メインストリーム化しているようだ。14年の European SRI Studyによると、投資手法としてネガティブスクリーニング(Exclusion)が主要となって お り 、 そ れ 以 外 に も 、ISO 26000 な ど の 様 々 な 国 際 規 範 に 基 づ い た ス ク リ ー ニ ン グ (Norm-Based screening)や、ESG課題に関する非財務情報を積極的に企業価値評価に取り込んでいくESG Integration、

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投資先企業への積極的なエンゲージメントや議決権行使を行う Engagement and voting などの投資手法 が急拡大している。一方、これまでの日本では、ESG投資への対応があまり進んでいなかったが、154 月に、GPIF(年金積立金管理運用独立法人)が、その中期計画で、株式運用において非財務的要素であ るESGを考慮することについて検討するという方針を発表した。GPIFESG投資を開始すれば、年金を はじめとする機関投資家もそれに追随する可能性は高いであろう。海外でのルール化の拡大が日本にま では中々浸透してこなかった中で、日本版の SSコードと CGコードが導入されたことは、非常に重要な 意味があると思っている。ESG課題やCSR取組みについて直接的に言及されてはいないが、結果的には、 非常に大きなインパクトを及ぼすようなルール化が進みつつあることは、画期的な意義があるといえよ う。

このようなCSR実務やESG課題対処に関してのルール化が進み、ESGリスクが高まっている背景には、

「ビジネスと人権」の議論の急速な高まりがある。11 年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連 で採択されたが、この影響も大きかった。企業に対する法的拘束力を持つハードローではないが、国連 人権理事会が全会一致で採択したという重みがある。先進国や新興国、途上国などで様々な考え方の違 いがあるにもかかわらず、この指導原則については統一した考え方として採択されたことのインパクト は大きいといえよう。弁護士として国際会議に出席することも多いが、そこでは、CSR実務やESG課題と いうよりも、「ビジネスと人権」が議論の中心となっているような状況にある。そこには、企業が人権尊 重責任を果たすべき存在であるという考え方があり、その具体的なプロセスとして「人権 DD」の実施を 要求している。そして、企業内部だけではなくサプライチェーンやインベストメントチェーンなどを通 じた人権侵害への加担の防止も要求している。指導原則23では、このような人権課題への対処を、企業 の社会的責任の取組みとして位置付けるのではなく、コンプライアンス課題であり法令遵守すべき課題 として明記しているのである。つまり、ESG課題が人権課題として認識されたことで、企業の社会的責任 から法的責任へ、あるいはそれに準じる義務にレベルアップされるといった流れが出てきているといえ よう。実際、新興国や途上国を中心に、ESG 取組み不足の企業に対する社会的批判が高まってきている。 特に、新興国や途上国では、法の支配が確立していない状況にあり、貧困や腐敗の問題もあって、ESG課 題が人権問題に直結しているような状況にある。例えば、13 年に、バングラデッシュで起こった縫製工 場の崩壊事故を契機に、劣悪な労働環境が大きな問題となったことがあった。この縫製工場が、日本や 欧米など先進国企業のサプライヤーであったことから、人権侵害に加担していたとして国際問題となり、 法令違反やレピュテーションリスクが急速に高まった事例の一つとなった。

このようなリスクは、あくまでも、新興国や途上国に進出する際に問題になることであり、日本国内 でのビジネスにリスクはないと考えている人もいるようだ。しかしながら、20 年の東京オリンピックと パラリンピック開催を控えて、日本企業の ESG リスクが、国内・中小企業を含めて更に高まっていくこ とが予想される。何故ならば、建設業やサービス業を中心に国内の労働需要が急速に拡大しており、外 国人労働者を受入れざるを得ない状況にあるからだ。この外国人労働者への待遇などにおいて、人権問 題に対する国際的批判が顕在化する可能性は高い。実際、ソチやブラジルでのオリンピックや、ブラジ ルやカタールでのワールドカップ開催時の設備建設において、移民による外国人労働者の人権問題が厳 しい批判を受けている。外国人労働者を直接雇用している企業だけではなく、それらの企業をサプライ チェーンやインベストメントチェーンに含んでいるグローバル企業もまた、批判の対象となっているこ とに注意しておく必要がある。日本では、外国人実習生制度によって外国人労働者を受入れているケー スも多いが、この制度に関しても、既に、国際的には批判が高まっている。国連や英国では、この制度 を、強制労働や搾取と同様の問題として捉えており、非常にリスクが高い問題として考えておくべきで あろう。また、外国人投資家が対日投資を拡大するといった状況にもあるが、欧米を中心とした ESG 投

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資に積極的な外国人投資家から、日本企業に対して、更なる ESG 課題への対処を求められる可能性は高 い。オリンピックのスポンサー等となる日本企業に対しても、ESG取組みに対するメディア・NGOの監視 が強化されるはずである。ロンドンやソチのオリンピックの際にも問題になっていたが、例えば、ロン ドンオリンピックでは、英国企業を中心とした多国籍企業を NGO が厳しく批判していた。これらには、 当然、新興国などのサプライチェーンにおける ESG 取組みに関する批判も含まれている。注目される国 での活動は、NGOにとっても大きな影響力を持つため、オリンピックが開催される日本への関心は高いは ずで、日本企業もこれに対応する必要がある。また、オリンピック組織委員会も、ESG取組みを推進する と発言している。日本の招致委員会も、立候補にあたって環境・社会に配慮した調達基準を導入するこ とを誓約しており、関連企業にも、そういった調達基準を遵守するように求めている。

4. ESG リスクに対する対処策 -人権デユーディリジェンスを中心に

企業が取組むべきESG課題は、非常に多岐にわたっている。例えば、ISO 26000を見ると、組織統治 や人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティ参画及び開発といった中核課題 以外にも様々な課題があり、企業がどのように取組むべきかについて具体的に規定している。これらの 全ての課題に対応しようとしても、企業のリソースを考えると限界がある。更に、企業自身だけではな く、サプライチェーンやインベストメントチェーンにまで広げると、その ESG 課題の範囲は非常に広い ものになってしまう。そのため、全ての ESG 課題をチェックリスト方式で対処していくことは、あまり 現実的ではない。企業が ESG リスクに効果的に対処するためには、リスクの高い分野から重点的に対処 するという「リスクベースアプローチ」が有効である。何故ならば、ESG課題が拡大している状況におい て、実務的に考えても、全ての課題を一律的・網羅的に対応することは極めて困難であるからだ。した がって、リスクの高い分野に重点的に対応する一方で、リスクの低い分野については省力化するほうが、 より効率的・効果的な対応が可能になるといえよう。このリスクベースアプローチは新しい概念であり、 現在は、コンプライアンス実務における重要な手法となっている。特に、外国公務員贈賄規制やマネー ロンダリング対策規制、金融制裁規制などでは重要な手法として有効とされているほか、ビジネスと人 権に関する指導原則24でもリスクベースアプローチが明記されている。また、非財務情報開示の実務に おいては「マテリアリティ」が重要原則とされているが、これもリスクベースアプローチの概念と整合 している。「マテリアリティ」とは重要性という意味であるが、様々なESG課題を開示しなければならな い中では、その重要性を評価したうえで、重要性が高いものを開示すべきとした考え方になる。国際統 合報告フレームワークでも、組織の価値創造能力に実質的な影響を与える事象に関する情報を開示すべ きと明記している。

ただし、リスクベースアプローチが有効な手段であるとしても、もし、企業やアナリストが、誤って リスクが低いものと評価した場合には、ESG課題自体にも誤って対処してしまうことになる。したがって、 リスクベースアプローチの前提としては、適切な ESG リスクの評価が不可欠といえよう。そのためにも 人権DDが有用と考えている。ESGのルール化でリスクが高まってきている背景には、国際的な「ビジネ スと人権」に関する議論の高まりがある。企業活動のESGに対する悪影響が、もし、「人権侵害への加担」 として評価されると、特に、法令違反やレピュテーションリスクが高くなってしまう。実際にも、ビジ ネスと人権に関する指導原則では、企業に対し、人権尊重責任を果たすために人権DDを実施するように 要求している。したがって、企業活動の人権への影響を評価する人権DDが、ESGリスク評価には有益と いえよう。ただし、日本において人権課題を扱う場合は、誤解を招きやすいことに注意しなければなら ない。日本国内の人権課題は、もっぱら差別やセクハラ、パワハラといった狭い概念として認識されが ちであるが、国際的な企業の人権課題では、環境や労働問題、消費者問題、サプライチェーン管理など

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を含む非常に広い概念として認識されている。つまり、人権=ESG課題として取扱ってもおかしくはない といえよう。また、人権DDの評価の対象となる「人権リスク」は、あくまでも、企業活動の人権への影 響を評価するものである。したがって、企業自身の人権侵害に伴う法令違反やレピュテーションリスク といった企業側のリスクを意味するものではなく、相手側のリスクを意味していることに注意が必要で ある。ただ、企業活動の人権への悪影響が大きい場合は、社会的な批判も大きくなるし、企業の法令違 反やレピュテーションリスクも高くなることは確かで、まずは、それらの影響について評価することが 重要といえよう。

151月に、日弁連も「人権DDのためのガイダンス」を公表した。このガイダンスは、指導原則に基 づく人権DDを、日本企業や弁護士がコンプライアンス実務に組込んで実践するための手法について具体 的に解説している。同ガイダンスに関しては、日弁連がその正確性を担保するとともに、日本企業にと っても利用しやすいものとなるように、様々な関係者から協力を受け、対話を行って完成させており、 日弁連のウェブからダウンロードも可能となっている。具体的な内容として、まず、第 1 章の「指導原 則の採択と企業の人権尊重の必要性」では、国際連合人権理事会で指導原則が採択された意義と、指導 原則が規定する企業の人権尊重責任の概要を説明し、その上で、指導原則に基づいて人権尊重の取組み を行う必要性と重要性が高まっていること、とりわけ、サプライチェーン全体における人権・CSR配慮の 必要性が高まっていることに関して、具体的に説明している。第 2 章は「企業の人権尊重責任と法令遵 守」で、企業の人権尊重責任を法令遵守問題として扱うための具体的な方法について解説を行っている。 第3章は「人権DDへの実践的助言」で、企業が人権DDをどのように行えばよいのか、具体的な事例や Q&Aを含めて実践的な助言を提供している。第4章の「企業の人権尊重責任の実践例」では、実際の企業 による人権尊重責任の取組みについて、実践例をあげて解説している。最後の第 5 章では「サプライヤ ー契約における CSR条項の導入」に関して解説している。日弁連では、第 5章で、サプライチェーン等 の取引関係におけるESGリスク対処を図るための有用なツールとして、CSR条項のモデルを提唱している。 CSR条項とは、サプライヤーなどの様々な契約において、それらの取引先に対してCSR行動規範の遵守や 人権DDの実施義務を負わせる条項である。09年の経団連のアンケートによると、サプライヤーとの間で 何らかのCSRに関する条項を導入している企業は39%であった。最近の動向を見ると、国際契約におい て、日本企業が取引先の外国企業から、コンプライアンスや CSR に関する表明保証を求められるケース も急増している。ただし、如何なる条項が望ましいのか、条項をどのように運用すべきかについては、 世界的にもほとんど法的な議論がなされていない状況にある。日弁連のガイダンスでは、CSR条項を、多 くの日本企業が導入している暴力団排除項目と比較分析することにより、望ましい条項の内容の在り方 とその法的課題を検討している。

人権DDガイダンスにおいては、サプライチェーンに対してCSR条項の導入を反映させているが、最近 は、責任ある投資の要請も高まってきており、インベストメントチェーンにおける CSR 要請も高まって いる。実際、投資契約や融資契約の条件として CSR 条項を組入れることも多くなってきた。今後、機関 投資家のガイドラインの一つとして、CSR条項に類するものが含まれることも予想されるため、これから も、CSR条項が如何なるものであるべきかについて議論していく必要があるだろう。議論することで、こ れまで目に見えていなかった「責任ある投資」や「責任ある調達」が具体化されるものと思っている。

5. ESG リスク対処に関するアナリストと法律家の協働に向けて

ESGリスクが高まる中では、専門家の役割が重要となってくる。今後、アナリストや法律家は、どのよ うに協働していけばよいのだろうか。ここでは、ESGをリスクとして捉え、そのリスクがどのような側面 を持ち、企業価値にどのような影響を与えるのかについて述べてきた。しかしながら、ESGはリスクであ

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る半面、ビジネスチャンスでもあり、企業価値の積極的な創造にもなり得るといった側面を持つ。これ は、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱したCSV(Creating Shared Value)の概念である。 CSVとは、企業の本業を通じてESG課題に対処することから生まれる「社会価値」と「企業価値」を両立 させようとする経営のフレームワークで、企業や投資家の多くから支持されている。実際、企業が本業 を通じて、自社と他のステークホルダーの双方を利するウィンウィンの CSR 取組みを実現できるとすれ ば、それは最も効果的・効率的な取組みといえよう。ただし、企業の価値とステークホルダーの利益と が必ずしも一致しない場合がある。そのため、企業の自主的な取組みだけに委ねていては、企業の社会 的責任が本当に果たされるのか、ESG課題が解決されるのかについては疑問が残るところである。そうい った企業の自助努力の限界が露呈したことで「ビジネスと人権」の議論が高まり、CSR実務の法的義務化 やルール化が世界的に進んできたというのが実際のところである。このような状況を踏まえると、企業 は、ESGをチャンスだけではなく、同時にリスクと捉えた上で、潜在的な法令違反やレピュテーションリ スクを回避するためのリスクマネジメントとして CSR を実践することが重要と考えている。リスクマネ ジメントの側面として、CSVが矛盾するとは思っていない。例えば、企業が、他のステークホルダーの関 心に対応しない形で、「本業を通じたCSR」を行ったとしても、自社のPRのための偽装としか評価されな い危険性もある。したがって、他のステークホルダーに対する影響を把握して ESG リスクを評価し対処 することは、CSVを実践する上でも重要な基礎になるはずだ。そして、それは、企業サイドだけではなく、 投資家やそれをサポートするアナリストにとっても重要だと思っている。

この1年程で、投資の局面における ESGリスク対処は、益々重要な課題となってきた。今後の日本市 場においても、ESG課題がメインストリームとなることを考えると、アナリストと法律家の協働が益々重 要な役割を担うことになるであろう。アナリストの役割は、ESG課題が、リスクとチャンスの両面で、如 何にして中長期的な企業価値に影響を与えるかに関して正確に分析し、その結果を、企業と投資家の双 方に提供することにより、企業の適切な ESG 課題の対処を促していくことである。一方、法律家として は、CSR実務に関する法的義務化やルール化が進む中で、ESGに関連する法令違反やレピュテーションリ スクをより正確に分析した上で、適切なESG課題の対処策を企業に対して提案するとともに、適切なESG ルール形成を促していくという役割がある。企業や投資家としては、不祥事が起きていない段階で、ESG リスクを評価することは容易ではないかもしれない。不祥事が露呈しリスクが顕在化した時に初めて、 これほど ESG に関するリスクが大きかったということに気付かされることも多い。企業や投資家には、 ESGリスクに関する情報の不足があると思われ、このような情報のギャップを埋める役割が、アナリスト や法律家にますます要請されているのではないかと強く思っている。

本稿は2015520日東京で行われた日本証券アナリスト協会主催講演会の要旨を講師の了解を得て掲載するものです。 講師の高橋大祐氏は2003年司法試験合格、04年早稲田大学卒業、05年司法修習終了、弁護士登録、真和総合法律事務所入所。08

~09 年、欧州連合国費給付奨学生として、ドイツ・ハンブルク大学、イタリア・ボローニャ大学、フランス・エクスマルセイユ大 学に留学し、各国から法学修士号取得。09~10年、米国フレッチャー法律外交大学院に留学し、国際法学修士号取得。10~11年、 米国K&LGATES法律事務所。11年現事務所に復帰。現在、日本弁護士連合会企業の社会的責任(CSR)と内部統制に関するプロジェ クトチーム幹事・国際室幹事、第一東京弁護士会環境保全対策委員会副委員長等。関連著作は、『日弁連「人権デュー・ディリジェ ンスのためのガイダンス」の活用』(商事法務NBL1044 共著)『海外贈賄リスク対処のための法的技術とその限界を踏まえた実 務対応』(商事法務NBL1039 共著)『グローバル時代のCSR法務戦略』(証券アナリストジャーナル148月号)など多数。

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