• 検索結果がありません。

〈論文〉冷戦初期アメリカ社会における「男性化」した女性たち

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "〈論文〉冷戦初期アメリカ社会における「男性化」した女性たち"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)冷 戦初期 アメ リカ社 会 にお け る 「 男性化 」 した女性 た ち 水島 新太郎 序 冷 戦 初 期 の ア メ リ カ は 米 ソ 問 を 中 心 と した イ デ オ ロ ギ ー の 対 立 、 そ して 順 応 主 義 の 隆 盛 を 極 め た 時 代 で あ っ た 。 因 習 か ら 逸 脱 した 者 は 「異 質 分 子 」 と して 排 除 さ れ 、 社 会 規 範 に 順 応 し た 者 は 「模 範 的 国 民 」 と し て 称 賛 さ れ る 、 とい う 二 項 対 立 の 構 図 が 顕 在 化 し た の も こ の 時代 の 特 徴 の ひ とつ で あ る。 順 応 主 義 は人 々 を社 会 的 規 範 内 に封 じ込 め る と と もに、 古 く か ら ア メ リ カ 社 会 に 根 付 い た 家 父 長 制 の 維 持 に 加 担 し、 「男 は 外 、 女 は 内 」(男 は 能 動 、 女 は 受 動)と. い う男 性 至 上 主 義 社 会 の 形 成 を 推 し 進 め た 。 そ の よ う な 状 況 下 に お い. て 、 女 性 た ち の 多 く は 伝 統 的 性 役 割("conventionalsexrole")を. 押 しつ け られ 、 そ の こ. と は ジ ェ ン ダ ー とい う概 念 の 範 疇 に お い て よ り顕 在 化 す る 。1 前 述 し た 冷 戦 初 期 の ア メ リ カ に お い て 「異 質 分 子 」 と して 主 流 社 会 の 周 縁 に 追 い や られ た 者 た ち の 代 表 的 な 集 団 と し て 、 ビ ー ト ・ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン("BeatGeneration"以. 後. ビ ー ト世 代 と記 す)が. 挙 げ ら れ る だ ろ う 。 主 に 男 性 を 中 心 と し て 形 成 さ れ た ビ ー ト世 代. は 、 「芸 術 と 政 治 」2の. 両 面 か ら体 制 社 会 に 反 抗 し た 反 社 会 的 男 性 集 団 で あ り、 ビ ー ト文 学. を 代 表 す る作 家 ジ ャ ッ ク ・ケ ル ア ッ ク(JackKerouac)のOntheRoad(1957)、 ン ・ギ ン ズ バ ー グ(AllenGinsberg)の"Howl"(1956)、 (WilliamS.Burroughs)のNakedLunch(1959)な. 詩 人ア レ. 作 家 ウ ィ リ ア ム ・S・ バ ロ ウ ズ ど 、 彼 らの 作 品 の 多 くは 「体 制 社 会 批. 判 」 と い う ア ン チ テ ー ゼ を 共 有 し、 そ の よ う な 男 対 男 と い う ホ モ ソ ー シ ャ ル ("homosocial")3な は 性 の 対 象)と. 作 品 に お い て 女 性 た ち の 多 く は 、 男 性 主 人 公 に従 属 す る役 割(も. しく. しての み 描 か れ る。. 冷 戦 期 ア メ リ カ と い う コ ン テ ク ス トを 軸 に ビ ー ト文 学 ・文 化 を分 析 す る 際 、 女 性 た ち の 存 在 は し ば し ば 、 「男 性 社 会 に 屈 服 す る 者 た ち 」 と し て 埋 没 し、 不 可 視 化 さ れ る き ら い が あ っ た 。 男 性 を 中 心 と し て 形 成 さ れ た ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お い て 、 女 性 た ち は 男 性 た ち に よ っ て 抑 圧 され た 客 体 に 過 ぎ な か っ た の だ ろ う か 。 こ れ ま で フ ェ ミニ ズ ム 理 論 が 明 ら か に し て き た よ う に 、 ジ ェ ン ダ ー と い う概 念 が 構築 さ れ る 以 前 の ア メ リ カ の 歴 史 は 男 の 歴 史(男. 性 史)で. あ り、 そ の 歴 史 に お い て 女 性 た ち が 隷. 属 的 立 場 を 強 い ら れ た 被 抑 圧 者 で あ っ た こ と は 否 定 で き な い だ ろ う。 しか し、 歴 史 家 マ イ ケ ル ・キ メ ル(MichaelKimmel)は カ の 歴 史=男. 著 書Manhoodin.4merica(1996)に. お い て 、 「ア メ リ. 性 史 」 と い う フ ェ ミニ ス トの 見 解 に 対 し異 論 を 唱 え る 。 こ こ で キ メ ル は 、 こ. 一127一.

(2) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. れ ま で ア メ リ カ の 歴 史 に 描 か れ て き た 物 語 が 主 と して 「英 雄 や 偉 大 な 政 治 家 で あ っ た 男 性 た ち 」 に つ い て で あ り、 そ の 物 語 に お い て ゲ イ 、 有 色 人 種 、 労 働 者 階 級 に 属 し た マ イ ノ リ テ ィ の 男 性 た ち は 客 体 に 過 ぎ な か っ た 、 と主 張 す る 。4キ. メ ル の 論 考 か ら も明 ら か な よ う. に、 冷 戦 初 期 ア メ リ カ の 制 度 化 され た異 性 愛 性 と家 父 長 制 の 支 配 下 に お い て 、 マ イ ノ リ テ ィ 男 性 た ち が 主 体 と して 扱 わ れ る こ と は 決 し て な か っ た 。 しか し、 「抑 圧 」 を さ ら に 細 分 化 し た 際 、 マ イ ノ リ テ ィ 男 性 た ち が 生 物 学 上 の 「男 」 で あ っ た こ と は 事 実 で あ り、 彼 ら が 当 時 の 家 父 長 制 社 会 に お い て 女 性 と 同 等 な 立 場 で 抑 圧 さ れ て い た か ど うか とい う 疑 念 は 拭 い き れ な い 、 とい う こ と を 我 々 は 十 分 に 認 識 し て お く必 要 が あ る 。 本 稿 は 、 前 述 し た 三 人 の 男 性 ビ ー ト作 家 と彼 ら の 母 親 、 恋 人 、 妻 、 友 人 で あ っ た 女 性 た ち(以. 後 ビ ー ト男 性 ・女 性 と記 す)の. 関 係 性 を 如 実 に 物 語 っ た 小 説 、 詩 、 書 簡 、 日記 、 ド. キ ュ メ ン タ リ ー 映 画 、 イ ン タ ビ ュ ー 記 事 を 多 角 的 に 考 察 し、 ビ ー ト女 性 た ち の 抑 圧 ・被 抑 圧 性 に 潜 ん だ 複 雑 性 を 読 み 解 く試 み で あ る 。 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に 生 きた ビ ー ト女 性 た ち は 単 に 被 抑 圧 者 と し て 支 配 的 な 男 性 社 会 に挑 戦 し た の で は な く、 む し ろ 自 己 を 男 とみ な し("passasmen")、. 自 ら の 生 き る 道 を 「選 択 」 す る確 固 た る 意 志 を持 ち 、 男 性 た ち と共. 存 す る こ と を 選 ん だ 「男 性 化 」 し た 女 性 た ち("masculinizedwomen")で. あ った の で は な. い だ ろ う か 。 こ こ で 云 う 「男 性 化 」 し た 女 性 た ち は 、 「〈男 〉 の 対 極 の 存 在 と し て の. 〈女 〉. で は な く、 〈男 〉 と い う 論 理 自体 を 崩 し、 包 み 込 み 、 溶 か し て し ま う 存 在 と し て の 〈女 〉」 (「女 と い う イ デ オ ロ ギ ー 』196)と. して 理 解 さ れ る べ き だ ろ う。 ま た 、 男 女 両 性 の 特 徴 を 内. 包 した 「男 性 化 」 し た 女 性 と い う論 点 に 立 つ こ と で 我 々 は 、 イ ヴ ・K・ セ ジ ウ ィ ッ ク(Eve K.Sedgwick)が. 自 ら の ホ モ ソ ー シ ャ ル 論 で 試 み た 脱 二 項 対 立 と い う土 壌 を 共 有 し、 流 動. 的 な ジ ェ ン ダ ー の 正 当 性 を 提 起 す る こ と が で き る だ ろ う。 ま ず 、 本 題 に 移 る ま え に 、 ビ ー ト女 性 た ち に 着 目 し た 先 行 研 究 を 考 察 し、 そ の コ ン テ ク ス トに お け る 筆 者 自 身 の 立 ち 位 置 を定 め た い 。. 1.抑. 圧 者 と被 抑 圧 者. 一. 女 性 た ちの. 「選 択 」. ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に 生 き た ビ ー ト女 性 た ち に つ い て 論 じ る 際 、 多 くの 論 者 は ビ ー ト 男 性 た ち の 提 示 し た"misogyny"(「 TakingltLikeAMan(1998)に. 女 性 嫌 悪 」、 以 後 ミ ソ ジ ニ ー と 記 す)に お い て デ ヴ ィ ッ ド ・サ ブ ラ ン(DavidSavran)は. 着 目す る。 、 「ビ ー. ト作 品 に お い て 称 賛 さ れ る 男 性 中 心 主 義 は 、 女 性 た ち に 多 大 な 犠 牲 を 強 い た 」(78)と. 述. べ 、 ビ ー ト男 性 の ミ ソ ジ ニ ー を 批 判 的 に 考 察 し て い る 。 バ ー バ ラ ・イ ー レ ン レ イ ヒ (BarbaraEhrenreich)も. ま た 、 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ が 女 性 た ち を 排 除 した 男 根 中 心 の. 結 束("phallocentricsolidarity")を. 基 盤 に 形 成 さ れ て い る と 論 じ て い る(54)。. 以上 にあ. げ た よ う に 、 ビ ー ト研 究 論 者 の 多 く は ビ ー ト女 性 を 、 「ビ ー ト男 性 た ち の 芸 術 的 生 き 方 の. 一128一.

(3) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. 周 縁 に 追 い や られ た 者 」(β 鰯Culture80)と テ ィ("thebeatfraternity")の. し て 位 置 づ け 、 「ビ ー ト男 性 た ち の フ ラ タ ニ. 外 側 に 存 在 す る 者 」(Medovoi46)と. して捉 えて い る 。. 上 記 に あ げ た 論 者 た ち の 多 くが 男 ・女 の 二 項 対 立 と い う偏 狭 的 見 方 を 通 し て ビ ー ト女 性 た ち の 被 抑 圧 性 を 論 じ て い る こ と は 明 らか で あ り、 そ の 論 考 が 導 く と こ ろ は 、 女 性 が 男 根 中 心 主 義 下 の ス ケ ー プ ゴ ー トで あ っ た に す ぎ な い 、 と い う性 の 流 動 性("sexualfluidity") を重視 す るジ ェ ンダ ー論 にお け る一 般 認 識 とは一 線 を画 した、 本 質 主 義 的 結 論 で あ る。 ビ ー ト研 究 に お け る 先 駆 者 の 一 人 ア ン ・チ ャ ー タ ー ズ(AnnCharters)は し た ビ ー ト作 品 集BeatDownToYourSoul(2001)の. 、 自身 の編 集. 第 二 部 。PanelDiscussionwith. WomenWritersoftheBeatGeneration(1966)"5の. 冒 頭 に お い て 、 「ビ ー ト女 性 た ち は 、. ビ ー ト男 性 た ち の 主 流 文 化 に 対 す る 反 抗 意 識 を 共 有 した 」(614)と. 、 先 にあ げ た 論 者 た ち. と は 異 な る 見 解 を 述 べ て い る 。 同 パ ネ ル ・デ ィ ス カ ッ シ ョ ン に お い て 、 ケ ル ア ッ ク の 元 恋 人 ジ ョイ ス ・ジ ョ ン ソ ン(JoyceJohnson)は. 、"IDon't[sic]considermyselfavictim.I. considermyyearswiththeBeatGenerationthereallyformativeexperienceofmylife, myrealeducation"(616)と ト(BrendaKnight)は. 、 自 己 の 被 抑 圧 性 に 言 及 し な い 。 ビ ー ト論 者 ブ レ ン ダ ・ナ イ 、 「女 性 た ち に と っ て 、 ビ ー トで あ る こ と は 真 新 しい 台 所 器 具 に 縛. られ て い る こ と よ り も は る か に 魅 力 的 な こ と で あ っ た 一 ビ ー ト女 性 た ち は 汚 れ る こ と を 恐 れ な か っ た 」(3)と. 、 ジ ョ イ ス に 賛 同 す る 。 男 性 論 者 と して ビ ー ト女 性 た ち に 着 目す る リ. チ ャ ー ド ・ピ ー ボ デ ィ(RichardPeabody)も. 「ビ ー ト女 性 た ち は 男 た ち を 注 意 深 く観 察. し、 そ れ を 書 き 留 め て い る 。 そ し て 彼 女 た ち の 多 くが 今 も そ う し て い る 」(3)と. 述 べ、. ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 性 差 を越 境 し た 男 女 の 関 係 性 を示 唆 し て い る 。 女 性 を 客 体 と し て 扱 い 、 自 ら を 主 体 と し て 描 い た ビ ー ト作 品 の 多 くが 表 象 す る ミ ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 側 面 を 無 視 す る こ と は で き な い が 、6先. 述 し た 論 者 た ち の 意 見 か ら ビ ー ト男. 性 た ち が 女 性 た ち に 「社 会 的 因 習 の 外 で 生 き る 道(機. 会)」 を 与 え た 、 と主 張 す る 余 地 は. あ る の で は な い だ ろ う か 。 つ ま り、 ジ ョ イ ス を は じめ と す る 、 ビ ー ト男 性 た ち と 共 存 す る 道 を 選 ん だ 女 性 の 多 く は 、 男 に よ る 女 の 搾 取 とい う 男 性 至 上 主 義 に す す ん で 屈 服 す る こ と を 拒 ん だ 「男 性 化 」 した 女 性 た ち で あ り、 男 と し て 自 己 を"pass"す. る こ とで 冷 戦 初 期 の. 因 習 的 な 性 の 役 割 分 業 に 対 抗 し た 女 性 た ち で あ っ た の で は な い だ ろ う か 。 共 著Breaking theRuleofCool(2003)に. お い て 論 者 の 一 人 ロ ー ナ ・C・ ジ ョ ン ソ ン(RonnaC.Johnson). が ビ ー ト女 性 を 、 「女 性 性 や 女 ら し さ か ら脱 却 し 、 男 性 化 した 」(41)女. 性 た ち で あ る と評. し た よ う に 、 彼 女 た ち に は 当 時 の ジ ェ ン ダ ー 規 範 の 外 側 で 生 き て い く こ と を 自 ら 「選 択 」 し、 「女 の 男 社 会 」(『 日 本 の フ ェ ミニ ズ ムー 男 性 学 』187)を. 構 築 す る強 い 意 志 が あ っ たの. だ。 1950年. 代 か ら60年. 代 初 期 に か け て ワ ス プ("WASP")が. 一129一. 構 成 した男 根 的 ヘ ゲ モ ニ ーの.

(4) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. も と、 多 くの ビ ー ト男 性 た ち が そ の ワ ス プ 中 心 の 主 流 社 会 に 背 を 向 け な が ら も、 彼 らが 男 と して の 自 己 と 向 き合 う 際 、 権 力 を 有 した ワ ス プ の 男 性 た ち と 自 己 を 重 ね 合 わ せ 、 ま た 女 性 た ち と 関 わ る 際 、 当 時 の 社 会 に 深 く根 付 い た 性 の 力 関 係("thesexualpolitics")に. 翻弄. され る傾 向 にあ った こ とは否 定 で きない 事 実 で あ る。 そ の よ うな 男 性優 位 な力 関 係 の 中 に あ っ て も、 ビ ー ト男 性 た ち が 女 性 た ち の 内 に 、 性 的 に 抑 圧 さ れ た 「金 髪 の 処 女 」("fairhairedmaiden")の. 表 象 す る純 潔 さを求 め な か っ た こ とを我 々 は見 逃 して は な らない 。 次. 節 で は 、 女 の 自立 に 直 結 す る 「女 の 選 択 」 に 着 目 し 、 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 男 女 関係 を考 察 して み たい 。. 2.「 女 の 交 換 」 と 「恋 愛 の 三 角 形 」 本 節 の 題 名 と し て 取 り上 げ て い る 「女 の 交 換 」("MaleTrafficofWomen")は た セ ジ ウ ィ ッ ク の ホ モ ソ ー シ ャ ル 論(男. の 絆 論 と も 呼 ぶ)に. 先 に触 れ. お い て紹 介 さ れ た 概 念 で あ. る 。 セ ジ ウ ィ ッ ク に よ れ ば 、 二 人 の 異 性 愛 男 性 が 一 人 の 女 性 を 共 有(交. 換)す. る こ とは ミ. ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 行 為 で あ り、 こ の 一 人 の 女 性 の 介 在 は 二 人 の 男 性 の 絆 を 強 化 さ せ る こ と に 一 役 買 う。 こ の 男 ・男 ・女 の 三 角 関 係 を セ ジ ウ ィ ッ ク は 「恋 愛 の 三 角 形 」("Erotic Triangle")と. 呼 ぶ 。 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お い て 、 こ の 「恋 愛 の 三 角 形 」 は ケ ル ア ッ. ク 、 彼 の 親 友 ニ ー ル ・キ ャ サ デ ィ(NealCassady、OntheRoadのDeanMoriartyの ル)と. 妻 キ ャ ロ ラ イ ン ・キ ャサ デ ィ(CarolynCassady)の. モデ. 三 人 に よ っ て 具 現 化 さ れ る(以. 後 ニ ー ル 、 キ ャ ロ ラ イ ン と記 す)。 先 述 し た ビ ー ト女 性 た ち に よ る パ ネ ル ・デ ィ ス カ ッ シ ョ ン に お い て 、 チ ャ ー タ ー ズ は 参 加 者 の 女 性 た ち に あ る 問 い を投 げ か け て い る 。 そ れ は 彼 女 た ち が 自 ら を 男 た ち の 「犠 牲 者 」 と し て 捉 え て い る か ど う か 、 とい う 問 い で あ る 。 こ の 問 い に 対 し、 ニ ー ル の 妻 キ ャ ロ ラ イ ン は 、"No,IalwaysfeltIhadachoice.IfIdidn'tlikeit[thewaymentreatedher] Icouldleaveit"(BeatDowntoYourSoul617)と. 述 べ 、 自己 を犠 牲 者 と は見 な い。 ビー. ト論 者 の 多 く は ケ ル ア ッ ク と キ ャ サ デ ィ 夫 妻 の 三 角 関 係 を 、 「二 人 の 男 に よ る 女 の 搾 取 」 と捉 え る 傾 向 に あ る が 、 キ ャ ロ ラ イ ン 自 身 の 著 した 体 験 記HeartBeat(1976)を. 考察す る. こ とで 、異 な る結 論 が 提 示 され る。 OntheRoα4に. お い て ケ ル ア ック は キ ャサ デ ィ夫 妻 との 三角 関 係 につ い て触 れ て い る。. しか し、 そ の 詳 細 は"Camillethrewbothofusout,baggageandall"(187)と. 簡 潔 に表 現. さ れ て い る に す ぎ ず 、 二 人 の 男 の 傍 若 無 人 さ に 嫌 気 の さ し た キ ャ ロ ラ イ ン(作 Camille)が. ケ ル ア ッ ク と ニ ー ル(作. 中 で はSalとDean)を. 我 々 読 者 の 知 り得 る 範 囲 で あ る 。 し か し、Onthe丑oα4で 細 は 体 験 記HeartBeatか. 家 か ら追 い 出 す くだ り ま で が 詳 述 され な か っ た三 角 関係 の詳. ら 読 み 解 く こ とが で き る 。HeartBeatに. 一130一. 中で は. お い て著 者 キ ャ ロ ライ ン.

(5) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. は 、 夫 ニ ー ル が 妻 で あ る 彼 女 に 親 友 ケ ル ア ッ ク と性 的 関 係 を 結 ぶ よ う促 す 様 子 を 明 瞭 に 描 い て い る 。7こ. の 夫 の 提 案 に 心 傷 つ い た キ ャ ロ ラ イ ン は 、"themoreIthoughtofthat. remark[inwhichNealmade],themadderIgot,andithurt,too"(20)と 記 して い る 。 キ ャ ロ ラ イ ンが"ithurt,too"と. 、 そ の心 境 を. 述 べ て い る こ とか ら も わ か る よ う に 、 彼 女 の. 経 験 し た 「恋 愛 の 三 角 形 」 は 二 人 の 男 に よ る 「女 の 交 換 」、 言 い 換 え る な ら ば 身 勝 手 極 ま り な い 男 た ち の 妻 に 対 す る ミ ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 行 為 と も受 け 止 め ら れ る 。 しか し、 ケ ル ア ッ ク の 作 品 一BigSur(1962)を. 考 察 す る こ とで 、 こ こ に あ げ る 「女 の 交 換 」 や 「恋 愛 の 三. 角 形 」 が ミ ソ ジ ニ ー とい う 名 の も と 、 女 の 犠 牲 を糧 に 形 成 さ れ た わ け で は な い 事 実 が 浮 か び上 が る。. She[Carolyn]lovesme,usedtolovemeintheolddayslikeahusband,fora whilethereshehadtwohusbandsCody[Neal]andme,wewereaperfectfamily tillCodyfinallygotjealousormaybeIgotjealous.(BigSur101). こ の 一 節 か ら 、 三 人 の 問 の 「恋 愛 の 三 角 形 」 が 女 の 搾 取 に よ っ て 形 成 さ れ た の で は な く、 む し ろ キ ャ ロ ラ イ ン が 夫 の 親 友 で あ る ケ ル ア ッ ク を 同 時 に 愛 して い た とい う 経 緯 が 明 らか と な る 。 事 実 、HeartBeatに. お い て キ ャ ロ ラ イ ンは 、夫 ニ ー ル とケ ル ア ックの 本 来 求 め た. 居 場 所 が 閉 鎖 的 な 家 庭 で は な く路 上 で あ っ た こ と を 明 言 し て お り、 こ こ で 問 題 提 起 さ れ て い る の は 、 大 黒 柱 と して の 責 務 を 男 た ち に 課 す 「結 婚 」 とい う 制 度(束. 縛)そ. の もの に 対. す る二 人 の 男 の精 神 的葛 藤 であ る。 愛 人 ケ ル ア ッ ク に つ い て キ ャ ロ ラ イ ン が"1'dneverknownamanwithsuchatender heart,somuchsweetness"(HeartBeat87)と. 述 べ てい る よ うに、 ケル ア ックが 外 向 的で. 野 蛮 な 男 ら し さ1張る 夫 ニ ー ル と は 正 反 対 の 、 内 向 的 で 傷 つ きや す い 繊 細 な 男 で あ っ た こ と が 推 察 で き る 。 キ ャ ロ ラ イ ン は ま た 、 ケ ル ア ッ ク の 中 に捏 造 さ れ た 男 性 性 を 見 る 。. LikeOntheRoad:thatwasn'tJack[Kerouac],justanimitationbasedonNeal's behavior.IrememberedinthebeginningwhenIfirstmethimhowheusedto bragaboutgettingintofistfightsifsomeguycastaspersionsonhistoughness. Bigfootballhero,humph.ButIhadtoadmitthatwasthetypesocietypresented asthecriterionofa"real"man.(HeartBeat88). キ ャ ロ ラ イ ン の 眼 に 映 っ た ケ ル ア ッ ク は 、 自 己 の 優 し さ を 強 さ とい う 男 ら し さ の 虚 構 世 界 に 封 じ込 め た 男 だ っ た 。 彼 女 が 見 た 虚 構 の 男 ら し さ に 身 を 固 め た ケ ル ア ッ ク像 は む し ろ 、. 一131一.

(6) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 男 の ミ ソ ジ ニ ー が 単 な る 女 嫌 い を 指 す の で は な く、 「女 性 性 とい う 記 号 に 対 す る 反 応 」(上 野8)で. も あ り得 る こ と を 暗 示 し て い る 。 キ ャ ロ ラ イ ン の 言 葉 を か り る な ら ば 、 ケ ル ア ッ. ク は 相 棒 ニ ー ル の 男 ら し さ を"imitate"す 向 性)を. る こ と で 、 自 己 に 内 在 した 女 性 性(優. しさや 内. 払 拭 しよ うと試 み た ので は ない だ ろ うか 。 事 実 、 二 人 の マ ス キ ュ リン な男 の 放 浪. 記 と して 知 ら れ るOntheRoα4の. 背 後 に 支 配 的 母 親(家. 庭)か. ら の 脱 却 とい う テ ー マ が 描. か れ て い た よ う に 、 ケ ル ア ッ ク 作 品 の 多 くか ら、 男 の 、 女 性 性(女. ら し さ)と. い う記 号 に. 対 す る 反 応 ・葛 藤 を 読 み 解 く こ と が で き る 。 前 述 した 虚 構 の 男 ら し さ とそ れ に 付 随 した ミ ソ ジ ニ ー に つ い て 、 ケ ル ア ック の 元 妻 ジ ョー ン ・ハ ヴ ァー テ ィ(JoanHaverty)や ロ ラ イ ン と 意 を 共 有 し て い る(以 Nobody'sWife(1990)に. イ ー デ ィ ー ・パ ー カ ー(EdieParker)も. 後 ジ ョ ー ン、 イ ー デ ィ ー と 記 す)。8自. キャ. 身の体 験 記. お い て 、 ジ ョー ン は 夫 ケ ル ア ッ ク か ら ニ ー ル と性 的 関 係 を 結 ば な. い か と話 を 持 ち か け られ た 過 去 に つ い て 振 り返 っ て い る 。 夫 の 提 案 に 対 して 憤 慨 す る わ け で も な く、"ldon'tneedyourpermission.Itisn'tyourstogive.lflwantedsomeoneelse rdjustleaveyou.Itwouldbethatsimple"(180)と. 云 っ て 退 け る ジ ョー ン の 言 葉 か ら も. 明 らか な よ う に 、 彼 女 は 自 己 を 性(「 恋 愛 の 三 角 形 」)の 犠 牲 者 と は 見 な い 。 夫 ニ ー ル に よ る 提 案 で あ っ た と は い え 、 夫 以 外 の 男 と の 夫 婦 生 活 に も似 た 恋 愛 関 係 を 自 ら 「選 択 」 し、 受 け 入 れ た キ ャ ロ ラ イ ン 同 様 、 ジ ョ ー ン も ま た 、 「恋 愛 の 三 角 形 」 を 男 に よ る 女 の 搾 取 と は べ つ の 、 個 人 が 自 ら 「選 択 」 し決 定 す る 肉 体 的 、 精 神 的 自 由 で あ る と捉 え 、 そ の こ と は "I alwayshadachoice"(Haverty180)と い う彼 女 自身 の言 葉 か らも明 らか で あ る。 BreakingtheRuleofCoolに. お い て チ ャ ー タ ー ズ が 、"oneswhowereprecursorsto. feminismjustwouldn'thavebeenattractedtotheseguys[Beatmen]"(225)と. 述べ た. よ う に 、 冷 戦 初 期 の ア メ リ カ に お い て 、 自 ら す す ん で ジ ェ ン ダ ー 規 範 の 外 で 生 き、 男 と共 存 す る こ と を 「選 択 」 し た ビ ー ト女 性 た ち は フ ェ ミニ ズ ム と は 無 縁 な 存 在 で あ っ た が 、 彼 女 た ち の 生 き方 は 近 年 発 展 を続 け る ポ ス ト ・フ ェ ミニ ズ ム 、 男 性 学 、 ク イ ア 研 究 の 提 起 す る 「性 の 流 動 性 」("sexual且uidity")を. 予 見 す る もの で あ っ た の で は な い だ ろ うか 。Heart. Bθ磁 に お い て 、 キ ャ ロ ラ イ ン は 男 の ミ ソ ジ ニ ー だ け で は 語 りえ な い 「恋 愛 三 角 形 」 の 在 り 様 を 描 く と と も に 、 男 の 脆 さ を 受 け 止 め 、 男 に よ る 「女 の 交 換 」 に 自 身 を 安 易 に埋 没 さ せ る の で は な く、 自 ら そ う な る こ と を 「選 択 」 す る こ と で 男 た ち と の 共 存 を 選 ん だ 自 身 の 体 験 を 記 し た の だ 。BigSurに cankidaboutanything"(107)と. お い て ケ ル ア ッ ク と キ ャ ロ ラ イ ン が 互 い を"realpals,who 認 め 合 っ て い る こ とか ら もわ か る よ う に 、 彼 ら の 関 係 は. 抑 圧 者 ・被 抑 圧 者 と い う二 項 対 立 で は 語 り え な い 強 い 絆 に よ っ て 構 築 さ れ て い た の で は な い だ ろ う か 。 次 節 で は 、 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る も う 一 人 の 自 立 し た 女 性 像 を 、 ビ ー ト詩 人 ア レ ン ・ギ ンズ バ ー グ と彼 の 恋 人 エ リ ス ・コ ー エ ン(EliseCowen、. 一132一. 以後エ リ.

(7) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. ス と記 す)の. 関係 を 中心 に考 察 した い。. 3.母. に よ く似 た 女 性. 詩 人 、 同性 愛 者 、 社 会 運 動 家 と して の 多 様 な顔 を もっ た ギ ンズ バ ー グ と深 い 関 わ りを 持 っ た 女 性 た ち の 多 く は 、 ケ ル ア ッ ク の 女 性 た ち 同 様 、 自 立 性 を 共 有 した 。1950年 代 初 期 、 ギ ン ズ バ ー グ が 多 く の 女 性 た ち と の 異 性 愛 親 善("heterosexualamity")を. 通 じて、 自己. を 同 性 愛 性 と い うス テ ィ グ マ か ら解 放 し よ う と し た 試 み は 一 見 、 男 に よ る エ ゴ セ ン ト リ ッ ク な 女 の 搾 取 と も受 け 止 め ら れ る 。 し か し 、 ギ ン ズ バ ー グ を 異 性 愛 親 善 に 駆 り立 て た の は 、 他 な ら ぬ 彼 の 母NaomiGinsberg(以. 後 ナ オ ミ と 記 す)だ. った 。 ギ ンズ バ ー グ と母 ナ. オ ミの 屈 折 した 親 子 関 係 は す で に 多 くの 論 者 に よ っ て 論 じ られ て い る た め 、 本 節 で は そ の コ ン テ ク ス トの 要 点 の み に 触 れ 、 主 に ギ ン ズ バ ー グ と女 性 た ち の 関 係 に 焦 点 を 当 て た い 。 ギ ン ズ バ ー グ の 代 表 詩 の ひ とつ"Kaddish"(1961)に. お け る ナ オ ミ像 は 、 共 産 主 義 者 、. 精 神 病 患 者 、 息 子 に 近 親 相 姦 を迫 る 母 、 と い っ た 否 定 的 な イ メ ー ジ の も と 描 か れ 、 論 者 の 中 に は"Kaddish"の. 主 題 を 「母 殺 し」("matricide")と. 捉 え る 者 もい る 。9事. 実、詩人 自. 身 の 母 に 対 す る 嫌 悪 は 詩 中 に お い て 明 示 的 に 提 示 さ れ て お り、 先 に 述 べ た 息 子 を 異 性 愛 親 善 へ と導 く母 の 声 は ま さ に こ の"Kaddish"の. 第 二 部 にお い て描 か れ る。 ギ ンズバ ー グが. 詩 中 で 紹 介 した"Ihavethekey-GetmarriedAllendon'ttakedrugs-thekeyisin thebars,inthesunlightinthewindow"(31)と. い う母 の 言 葉 は 、"GetmarriedAllen"の. 一 句 が 示 唆 し て い る よ う に 彼 を 異 性 愛 親 善 へ と導 い た 一 つ の 心 的 動 機 と し て 読 み 解 く こ と が で き るの で は な いだ ろ うか 。 母 の 言 葉 に 導 か れ る よ う に 、 ギ ン ズ バ ー グ は1950年. 代 初 期 に複 数 の 女 性 た ち と関 係 を. も ち 、 同 性 愛 者 と し て の 自 己 ア イ デ ン テ ィ テ ィ か ら の 脱 却 を 図 っ て い る 。50年. 代初期、 ギ. ン ズ バ ー グ が 友 人 に 宛 て た 書 簡 の 中 で 、"weallshouldhavebeautifulintelligentwise womenforwives"(2008,64)と. 述 べ て い る こ と か ら も推 察 で き る よ う に 、 こ の 時 期 に 彼 は. ヘ レ ン ・パ ー カ ー(HelenParker、 性 行 為 を 経 験 し て い る(Campbellll5)。 近 年 完 成 した 映 画 版"Howl"(2010)に. 以 後 ヘ レ ン と記 す)と. い う 女 性 と人 生 初 め て の 男 女 の. ヘ レ ン と の 情 事 、 ギ ンズ バ ー グ の 異 性 愛 親 善 は 、 お い て も描 か れ て い る 。 同 時 期 、 ギ ン ズ バ ー グ は ヘ. レ ン と は 別 の 女 性 シ ェ ー ラ ・ウ イ リ ア ム ズ ・ボ ウ チ ャ ー(SheilaWilliamsBoucher、 シ ェ ー ラ と 記 す)と. 以後. も恋 仲 と な る が 、 彼 と こ の 二 人 の 女 性 た ち との 関 係 は 長 続 き し な か っ. た。 1940年. 代 後 期 か ら60年. 代 初 期 に か け て 、 ギ ン ズ バ ー グ は 複 数 の 女 性 た ち と異 性 愛 親 善. を 続 け て お り、 こ の 期 間 に 書 か れ た 彼 の 詩 に は た び た び 女 性 が 描 か れ て い る 。 彼 の 初 期 の 詩"lnSociety"(1947)に. お い て 、 ギ ンズ バ ー グ は カ ク テ ル パ ー テ ィ で 出 会 っ た あ る ホ モ. 一133一.

(8) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. フ ォ ビ ッ ク な 女 性 に 対 す る 批 判 を 展 開 し て お り 、 そ の こ と に つ い て ジ ョ ナ サ ン ・D・ ツ(JonathanD.Katz)は. 、 こ の 詩 が ギ ンズ バ ー グ の. (ZISt-CenturyGayCulture29)を "Thi sFormofLifeNeedsSex"に. カ ッ. 「女 性 た ち に 対 す る 支 配 的 男 ら し さ 」. 表 象 し て い る と 主 張 す る 。 ま た 、1961年 お い て 詩 人 は 、 自 身 の ジ ノ フ ォ ビ ア(女. に書 か れ た 詩 性 恐 怖 症)と. 抑. 圧 さ れ た 感 情 に つ い て 書 き記 して い る 。. Iwillhavetoacceptwomen/ifIwanttocontinuetherace,/kissbreasts, accept/strangehairylipsbehindbuttocks…Betweenmeandoblivionan unknown/womanstands.(PlanetNews33). "I. willhavetoacceptwomen"と. い う一 句 が 明示 してい る よ うに、 こ こ にギ ンズバ ー グの. 異 性 愛 親 善 に お け る葛 藤 が 見 て 取 れ る。 こ の 詩 に 関 し て、 ギ ンズ バ ー グ の 伝 記 作 家 バ リ ー ・マ イ ル ズ(BarryMiles)は. 、61年. に 書 か れ た こ の 詩 自体 が 「彼 の 女 性 た ち に対 す. るfear(恐 怖 心)」(244)を 提 起 して い る と主 張 す る。 果 た して、 この 女 性 た ち に対 す る "f ear"を ギ ン ズ バ ー グ の 中 に 潜 在 し た 支 配 的 男 ら し さ の 生 ん だ ミ ソ ジ ニ ー と し て 安 易 に 捉 え て よ い の だ ろ う か 。 む し ろ 、 そ のfearは. 彼 が 愛 し、 そ して 恐 れ た 母 ナ オ ミ に あ て ら れ た. も の だ っ た の で は な い だ ろ う か 。 そ し て 、 先 述 し た シ ェ ー ラ と恋 仲 に あ る 最 中 、 ギ ン ズ バ ー グ は そ ん な 母 に 似 た 女 性 エ リ ス ・コ ー エ ン と 出 会 い 、 関 係 を も つ こ と と な る 。 ギ ン ズ バ ー グ とエ リ ス の 関 係 は 彼 の 最 後 の 異 性 愛 親 善 を 意 味 し、 「ア レ ン の 人 生 に お い て エ リ ス は ひ と つ の 瞬 間 で し か な く、 エ リ ス の 人 生 に と っ て ア レ ン は 永 久 不 滅 な も の で あ っ た 」(QueerBeats79)、. と表 さ れ て い る こ と か ら も わ か る よ う に 、 皮 肉 に もエ リス と. の 関 係 に よ っ て ギ ンズ バ ー グ は 自 己 の 同 性 愛 性 を認 め る こ と と な る 。 両 者 の 関 係 は 、 女 を エ ゴ セ ン トリ ッ ク に利 用(搾. 取)し. 、 自 己 の 同 性 愛 性 と い うス テ ィ グ マ を 払 拭 し よ う とす. る 男 の ミ ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 行 為 を 暗 示 し て い る か の よ う に も見 て と れ る 。 ビ ル ・モ ー ガ ン(BillMorgan)は. 、 自 己 の 同 性 愛[生 の 覚 醒 を 果 た し、 彼 女 か ら去 っ て ゆ くギ ン ズ バ ー グ. に 言 及 し、 「エ リ ス は 彼 の 母 ナ オ ミ の 分 身 で あ り、 そ れ ゆ え 彼 は エ リ ス を 恐 れ た 」 (307-308)と. 述 べ て い る 。 先 述 し た"fear"に. 付 随 す る が 、 こ こ で モ ー ガ ン が 「エ リス は 彼. の 母 ナ オ ミの 分 身 」 で あ る と示 唆 し て い る よ う に 、 ギ ン ズ バ ー グ の 異 性 愛 親 善 が エ リ ス を 含 む 女 性 た ち に 対 す る 男 の 身 勝 手 極 ま りな い ミ ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 行 為 な ど で は な く、 む し ろ発 狂 し息 子 を 苦 しめ た 母 の 存 在 に 起 因 し た 、 男 の 女 に 対 す る"hatred"(嫌 反 す る"fear"(恐 (1983)に. れ)で. 悪)と. は相. あ っ た こ と が 解 釈 で き る 。 ま た 、 自 伝 小 説MinorCharacters. お い て ジ ョイ ス(ケ. ル ア ッ ク の 元 恋 人)が. よ う に描 い て い る 。. 一134一. ギ ン ズ バ ー グ とエ リ ス の 別 れ を 以 下 の.

(9) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. HeCGinsberg]apparentlynolongerfelttornbytheneedtomakesuchchoices [datinggirls],Peter[Ginsberg'sgaylover]andhecouldsharewomenorlove themseparatelyorloveothermen.(124). ジ ョ イ ス が 描 い た よ う に 、 ギ ン ズ バ ー グ の 異 性 愛 親 善 は 、 母 ナ オ ミ と よ く似 た 女 性 エ リス との 別 れ を 機 に 幕 を 閉 じ、 新 た な 恋 人 ピ ー タ ー との 出 会 い を 経 て 、 男 女 の 性 の 越 境 と い う 形 で 花 開 くの だ 。MinorCharactersに. 描 か れ たギ ンズ バ ー グの精 神 は 、男 女 を二 項 対 立 的. に 分 断 し、 同 性 愛 者 と し て ゲ イ ・コ ミ ュ ニ テ ィ 内 で 偏 狭 的 に 生 き て い こ う と 自 ら決 意 す る 精 神 な ど で は な く、 彼 が 後 世 に 訴 え た 「万 人 に 対 す る 愛 」("unconditionalloveforall") の 精 神 に 深 く起 因 し て い る よ う に 思 え る 。 概 し て 、 ギ ン ズ バ ー グ とエ リス の 関 係 は エ リス を 介 し て 再 び 息 子 の 目前 に 現 れ た 母 ナ オ ミ の 化 身 に よ っ て 終 焉 を迎 え る こ と と な っ た の で あ る 。 しか し 、1962年. に 自殺 と い う悲 劇 的 な 死 を 遂 げ る ま で 、 エ リ ス の ギ ンズ バ ー グ に 対. す る情 愛 が 消 失 す る こ とは なか っ た。 数 少 な い エ リ ス の 詩 を 考 察 し た 論 者 の ひ と り、 トニ ー ・ ト リ ジ リ オ(TonyTrigilio)は エ リ ス の 詩 に お け る 「両 性 愛 的 言 葉 」("ambisexualterms")の を 見 て い る(GirlsWhoWore-Black129)。. 中 に ギ ンズ バ ー グ の 影 響. 事 実 、 エ リ ス は 先 述 し た シ ェ ー ラ とあ る 一 定. の 期 間 レ ズ ビ ア ン 関 係 に あ っ た こ と が あ り、 彼 女 の 内 に 潜 ん だ 同 性 愛 性 は ギ ン ズ バ ー グ の 性 的 葛 藤 と 共 通 項 を も つ 。 露 骨 な ま で に ス カ トロ ジ カ ル な ギ ン ズ バ ー グ の 詩"Underthe WorldThere'salotofAssalotofCunt"(1973)剛 い た 詩(無. 題)に. 乗、 エ リ ス は 自 己 の 死 を 主 題 と し て 書. お い て 、 自 身 に 内 在 す る 両 性 愛1生 を あ りの ま ま 吐 き 出 す 。"Fromthe. sexofcorpses/Isewedaunionsuit/Esther,Solomon,Godhimself/Werehumbler thanmycock"(ADifferentBeat29)一 彼 女 の 中 に 潜 む ア ニ ム ス("animus")を す る。 そ れ は単 に女 性 が. こ の 一 節 か ら も 明 らか な よ う に 、"mycock"は 具 現 化 し、 彼 女 を 「男 性 化 」 し た 女 性 と し て 表 象. 「男 性 化 」 す る こ と を 暗 示 す る の で は な く、 男 ・女 とい う 生 物 学. 的 な 性 の 決 定 論 か ら の 脱 却 を 内 包 す る 。 人 類 を 両 性 愛 と例 え た フ ロ イ ドを 彷 彿 と さ せ る エ リス の 「両 性 愛 的 言 葉 」 は 、 彼 女 が 生 涯 愛 し た ギ ン ズ バ ー グ の 訴 え た 「万 人 に 対 す る 愛 」 と共 鳴 し、 ケ ル ア ッ ク と キ ャ ロ ラ イ ン が 互 い を"realpals"と. 捉 え た よう に、 ギ ンズバ ー グ. とエ リ ス も ま た 、 異 性 愛 親 善 の 暗 示 す る 抑 圧 者 ・被 抑 圧 者 と い う範 疇 で は 語 り え ぬ 関 係 に あ った の で は な い だ ろ うか 。 エ リ ス の 詩"Teacher-YourBodyMyKabbalah"に. お け る"Teacher"は. 、紛 れ も. な くギ ン ズ バ ー グ を 指 し て お り、 詩 の 表 題 か ら両 者 が ユ ダ ヤ 教 の 神 秘 思 想"Kabbalah"の 名 の も と、 互 い の ユ ダ ヤ 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 共 有 す る こ と で 結 び つ い て い た こ. 一135一.

(10) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. と は 言 う ま で も な い 。 ギ ン ズ バ ー グ と エ リ ス が 共 有 した 「知 性 ・詩 的 世 界 」 とい う 共 通 項 を 考 え る と 、 他 の ビ ー ト男 性 た ち が 個 々 の セ ク シ ャ ル ・ア イ デ ン テ ィ テ ィ(ヘ バ イ な ど)を. テ ロ、 ゲ イ、. 認 め 合 い 、 互 い の 知 性 を 愛 し敬 う こ とで 深 い ホ モ ソ ー シ ャ ル な 絆 を 結 ん だ よ. う に 、 エ リ ス も ま た ギ ン ズ バ ー グ の 男 性 性 を 単 に 羨 望 し た の で は な く、 「万 人 に 対 す る 愛 」 とい う共 通 意 識 の も と、 彼 の 男 性 性 と の 同 化 を 果 た し た 女 性 だ っ た の で は な い だ ろ うか 。 そ し て 発 狂 した 母 に 端 を 発 し た ギ ンズ バ ー グ の 異 性 愛 親 善 は 、 女 の 搾 取 で は な く、 同 性 愛 性 に し ば し ば 付 与 さ れ る 「女 ら し さ 」 と い う記 号 を 排 除 す る こ と で 自 己 の 異 性 愛 性 を確 立 し よ う と した ギ ン ズ バ ー グ の 性 的 葛 藤 に ほ か な ら な か っ た の で は な い だ ろ う か 。 次 節 で は 、 究 極 の ミ ソ ジ ニ ス ト と し て 知 ら れ る ビ ー ト作 家 ウ ィ リ ア ム ・バ ロ ウ ズ に 焦 点 を あ て 、 ビ ー ト女 性 た ち の 抑 圧 ・被 抑 圧 性 に つ い て さ ら な る検 証 を行 い 、 結 論 へ と 進 め た い 。. 4.「. 女 嫌 い 」 と 「人 間 嫌 い 」 の 狭 間 で. こ こ ま で 女 性 の 抑 圧 ・被 抑 圧 性 に 焦 点 を あ て 、 ビ ー ト女 性 た ち を 冷 戦 初 期 の ジ ェ ン ダ ー 規 範 の 外 に 生 き た 「男 性 化 」 し た 女 性 た ち と して 捉 え て き た 。 本 節 で は 、 「男 性 化 」 し た 女 性 像 の さ ら な る 考 察 で は な く、 ビ ー ト作 家 ウ ィ リ ア ム ・バ ロ ウ ズ の ア ン ビバ レ ン トな ミ ソ ジ ニ ー に 焦 点 を あ て る こ とで 、 従 来 の フ ェ ミ ニ ズ ム の 文 脈 に お い て 抑 圧 者 と して 位 置 づ け ら れ て き た 男 性 た ち に 内 在 す る ミ ソ ジ ニ ー と そ の 複 雑 性 を 考 察 し た い 。 「男 性 化 」 し た 女 性 像 で は な く、 抑 圧 者 で あ る 男 性 像 に 焦 点 を あ て る こ と の 道 理 は 、 従 来 の ア メ リ カ の 歴 史 に お い て 女 性 た ち を 客 体 化 し て き た 抑 圧 者 が 男 性 た ち で あ っ た こ と に あ る 。 「男 性 化 」 した 女 性 た ち の 多 くが 因 習 的 な 女 性 性 か ら の 脱 却 を 果 た した 根 幹 に 男 性 ・男 性 性 へ の 同 化 意 識 が あ っ た よ う に 、 抑 圧 者 と して の 男 性 像 を 考 察 す る こ とで 、 抑 圧 ・被 抑 圧 性 とい う二 項 対 立 で は 語 り え な い 男 女 の 流 動 的 な ジ ェ ン ダ ー 関 係 の 正 当 性 を 提 起 す る こ とが で き よ う 。 男 の ミ ソ ジ ニ ー の 複 雑 性 に 関 し て 多 くの ビ ー ト研 究 論 者 た ち は 躊 躇 な く云 う だ ろ う、 バ ロ ウ ズ ほ ど男 の ミ ソ ジ ニ ー の 複 雑 性 を 説 い た 者 は い な い と。 夫 、 父 親 、 同 性 愛 者 、 銃 愛 好 家 、 麻 薬 中 毒 者 と し て 多 様 な 顔 を もつ 作 家 と し て 知 ら れ る バ ロ ウ ズ は 、 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お い て し ば し ば 物 議 を 醸 し出 す 人 物 で あ っ た 。 二 度 の 結 婚 を 経 験 し 、 二 番 目の 妻 ジ ョー ン ・ヴ ォ ル マ ー(JoanVollmer、. 以 後 ジ ョー ン と記 す). との 問 に は 一 男 を も う け て い る 。 自 他 共 に 認 め る ミ ソ ジ ニ ス トで あ っ た バ ロ ウ ズ と 女 性 た ち の 関 係 は 、 し ば し ば 抑 圧 者(男)と. 被 抑 圧 者(女)の. 関 係 を 連 想 させ る 。 しか し、 冷 戦. 後 期 に書 か れ たバ ロ ウ ズ作 品 に お い て彼 の ミソ ジ ニ ー は異 な る様 相 を呈 す 。 ジ ェ ンダ ーの 一 部 を 成 す 男 ら し さ ・女 ら し さ と い う相 対 峙 す る 二 面 性 と 葛 藤 し た バ ロ ウ ズ 像 に 着 目す る こ とで 、 我 々 は 彼 の ミ ソ ジ ニ ー が 、 女 性 た ち に 本 質 的 に 付 与 さ れ た 女 性 性(女. ら し さ)と. い う記 号 に 対 す る 反 応 に ほ か な ら な か っ た 事 実 を読 み 解 く こ とが で き る の で は な い だ ろ う. 一136一.

(11) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. か 。 つ ま り、 バ ロ ウ ズ を 単 な る 女 嫌 い の ゲ イ 作 家 と し て 位 置 づ け る こ と は 、 セ ク シ ュ ア リ テ ィの 流 動 性 の 否 定 、 本 質 主 義 へ の 回 帰 を 意 味 す る に 他 な ら な い の だ(こ. こで 云 う本 質 主. 義 へ の 回 帰 は 、 男 女 の 性 に お け る 生 物 学 的 決 定 論 へ の 回 帰 を 指 す)。 ハ リ ウ ッ ド映 画 監 督 ゲ リ ー ・ウ ォ ル コ ウ(GaryWalkow)に. よっ て 制作 され た ビ ー ト ・. ドキ ュ メ ン タ リ ー 映 画Williams.Burroughs'Wife(2000)10に. お い て回顧 され て い る よ. う に 、 バ ロ ウ ズ の ミ ソ ジ ニ ー の 根 源 は 、 彼 と 第 二 の 妻 ジ ョー ン と の 短 い 夫 婦 生 活 に 求 め る こ とが で きる。 映 画 は、 バ ロ ウズ とジ ョー ンが 最 後 の 夫 婦 生 活 を 送 っ た メ キ シ コ を 舞 台 に 、 バ ロ ウ ズ の 小 説 で 決 し て 語 られ る こ との な か っ た 彼 の 妻 殺 し を 描 い て い る 。 バ ロ ウ ズ 論 者 の 多 く は 、 銃 愛 好 家 で あ る バ ロ ウ ズ と妻 ジ ョ ー ン の 問 で 行 わ れ た 「ウ ィ リ ア ム ・テ ル ご っ こ 」("WilliamTellAct")が. 単 な る 事 故 で は な く、 バ ロ ウ ズ の ミ ソ ジ ニ ー に 起 因 し て. い る こ と を 指 摘 し て い る(Ehrenreich54;Hawkins165)が. 、 他 方 で デ ヴ ィ ッ ド ・サ ブ ラ. ン の よ う に 、 ジ ョー ン が 「単 な る 殺 害 さ れ た 女 性 」 な ど で は な く、 「作 家 で あ る 夫 を所 有 し た 」 男 ら しい 、 「男 性 化 」 した 女 性 で あ っ た 、 と 異 な る 見 解 を 提 示 す る こ と で 、 バ ロ ウ ズ の ミ ソ ジ ニ ー の 複 雑 性 を 論 じ て い る 者 も 多 く い る(45)。 Morgan)も. テ ッ ド ・モ ー ガ ン(Ted. 、 バ ロ ウ ズ と妻 ジ ョー ン の 問 で 行 わ れ た 「ウ ィ リ ア ム ・テ ル ご っ こ 」 は 男 の. 女 に 対 す る ミ ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な行 為 な ど で は な く、 当 初 現 場 に居 合 わ せ た 男 の 子 た ち を 意 識 した バ ロ ウ ズ の 屈 折 した 男 ら し さ の 誇 示 に 他 な ら な い 、 と主 張 す る(195-196)。 先 述 し た サ ブ ラ ン や モ ー ガ ン の 論 考 も 一 理 あ る が 、 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 女 の 抑 圧 性 と い う 問 題 に 立 ち 返 る た び 、 多 くの 論 者 は バ ロ ウ ズ の 作 品 、 人 生 の 両 面 に 実 直 な ま で に明 示 され る ミソ ジ ニ ー に嫌 疑 を か け る。 そ して、 彼 らの多 くはバ ロ ウズ 自 身 の ミソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 側 面 が 最 も如 実 に 表 象 さ れ て い る1971年 oftheDeadを. の 作 品TheWildBoys:AiII'. 取 り上 げ る こ と で 、 ミ ソ ジ ニ ス ト と して の バ ロ ウ ズ 像 を 誇 張 す る 。. Thelegendofthewildboysspreadandboysfromallovertheworldranawayto jointhem...Thewildboysexchangedrugs,weapons,skillsonaworld-wide network.(TheWildBoys150). とバ ロ ウ ズ が 端 的 に 定 義 し て い る こ と か ら も わ か る よ う に 、"thewildboys"(以 者 」 と記 す)は. 後 「猛. 互 い の 共 有 す る ホ モ ソ ー シ ャ ル な 男 集 団 意 識 の も と、 社 会 逸 脱 の ダ イ ナ ミ. ズ ム を 具 現 化 し て い る 。 さ ら に 、 バ ロ ウ ズ は そ の よ う な フ ィ ク シ ョナ ル な 男 集 団 の 一 員 と して 自分 自 身 を 位 置 づ け て も い る 。 こ の 猛 者 た ち に 関 す る 具 体 的 定 義 はTheWildBoysの 二 年 後 に 出 版 さ れ た 小 説 一PortofSaints(1973)に た ち を 以 下 の よ う に 定 義 して い る 。. 一137一. 提 示 さ れ て お り、 そ こ で バ ロ ウ ズ は 猛 者.

(12) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. Anyonewhojoinsthem[thewildboys]mustleavewomenbehind.Thereisno vow.Itisastateofmindyoumusthaveinordertomakecontactwiththewild boys.(Hine88). こ の 一 節 が 示 唆 し て い る よ う に 、 バ ロ ウ ズ 作 品 に お け る猛 者 た ち は 、 作 家 自 身 の 「男 中 心 社 会 を 好 む 優 先 意 識 」(WordVirus248)を TheWildBoysに. 明 示 的 に表 象 して い る。. お い て 、 バ ロ ウ ズ は 猛 者 た ち を 女 性 た ち か ら独 立 し た 存 在 と して 描. き、 母 性 な ど生 物 学 的 に 女 性 に 付 随 し た あ ら ゆ る も の を 蔑 む 。 こ の 小 説 の 第 十 二 章"The DeadChild"に. は 作 家 の 女 性 批 判 が 最 も鮮 明 に 描 か れ て お り、 そ こ に 登 場 す る 女 性 た ち は. 諸 悪 の 根 源 、 バ ロ ウ ズ の 言 葉 を 借 りて 言 う な ら ば"UglySpirit"(TheWildBoys116)と して 寓 話 的 に 表 出 さ れ て い る 。 猛 者 た ち が 立 ち 寄 っ た 伝 染 病 で 苦 し む 村 の 女 た ち を 排 他 的 に 扱 う 様 は 、"Weknewthatifwestayedtherewewouldcatchthesickness.AndI didn'twanttostaywherethewomenwere"(TheWildBoys112)の. 一 節 か ら も明 白で. あ り、 こ こ で 女 性 た ち は 男 女 の 生 物 学 的 構 造 上 の 差 異 の 底 辺 に 位 置 し た 劣 等 種 と して 描 か れ て い る。 バ ロ ウ ズ の ミ ソ ジ ニ ー を提 起 す る 作 品 は 何 もTheWildBoysだ. け で は な く、 作 家 自 身 が. 「自 己 の ミ ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 論 理 を 、 絶 対 的 言 葉 を も っ て 主 張 し た 」 作 品TheJob (1974)も. そ の 一 つ で あ る(WordVirus248)。. 以 下 はTheJobに. お い て 最 も有 名 な 作 家 の. 女 性 批 判 の 一節 で あ る。. "W. omenareaperfectcurse."Ithinktheywereabasicmistake,andthewhole. dualisticuniverseevolvefromthiserror.(116). こ こ で 、 バ ロ ウ ズ が あ る 根 拠 を も っ て 女 性 た ち を"biologicalmistake"と 事 実 に 着 目す る 必 要 が あ る だ ろ う。TheJobに. お い て バ ロ ウ ズ は 、 一 つ の 細 胞 か ら生 ま れ. た 蛙 に つ い て 書 か れ た ウ ォ ル タ ー ・サ リ バ ン(WalterSullivan)の ScientistsReproduceFrogsfromSingleCells"に essentialtoreproduction"(116)と. して論 じて い る. 言. 及. 論 文"Oxford. し 、"Womenarenolonger. 、 持 論 を展 開 し て い る 。 つ ま り、 こ こ で バ ロ ウ ズ が 示. 唆 し て い る こ と は 、 一 つ の 細 胞 か ら 生 物 を 生 み 出 す こ とが 可 能 で あ る な ら ば 、 男 性 の 精 子 を 人 工 的 に 卵 子 と受 精 させ 、 人 工 的 に 作 り 出 し た 子 宮 とい う 器 の 中 で 生 殖 し得 る の で は な い か 、 とい う 論 理 で あ る 。 こ の バ ロ ウ ズ に よ る 「女 性 の 生 殖 」 の 否 定 は 、 女 性 た ち に と っ てみ れ ば男 の ミソ ジ ニス テ ィ ック な見 解 に他 な らない だ ろ うが 、 バ ロ ウズ は そ の 持 論 の 深. 一138一.

(13) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. 層 部 分 を 提 起 す る こ とで 読 者 を 説 き伏 せ る 。 こ こ で あ げ る バ ロ ウ ズ に よ る 女 性 の 生 殖 批 判 は む し ろ 女 性 を 生 物 学 的 一 元 論 か ら解 放 す る こ と を 意 図 して い る よ う に 思 え る 。 そ れ は 、 TheJobに. お い て バ ロ ウ ズ が 、 女 性 の 生 殖 批 判 と並 行 し て 、 男 ・女 ・子 供 に 代 表 さ れ る 生. 物 学 的 家 族 ユ ニ ッ トを 、 あ ら ゆ る 人 間 関 係 に お け る 「障 害 」 と し て 批 判 し て い る こ とか ら も明 ら か で あ る 。 こ こ に伝 統 的 家 族 主 義("traditionalfamilism"規 の 役 割 分 業)を. 範 に即 した結 婚 や 夫 婦. 頑 な に 拒 絶 し た ビ ー トの 反 体 制 姿 勢 の 根 幹 を垣 間 見 る こ とが で き、 先 述 し. た ケ ル ア ッ ク や ギ ン ズ バ ー グ も、 こ の バ ロ ウ ズ の 批 判 す る 生 物 学 的 家 族 ユ ニ ッ トに 背 を 向 けた 男 た ち で あ っ た こ とは言 うまで もな い 。 「男 は 外 、 女 は 内 」 と い う 大 義 名 分 の も と構 築 さ れ た 伝 統 的 家 族 主 義 の 代 わ り と し て 、 バ ロ ウ ズ はTheJobに thestatefamily"(126)と. お い て 、"toshiftthecareofchildrenfromtheprivatefamilyto い っ た 具 合 に 、 性 の 越 境 を 果 た し た 家 族 ユ ニ ッ トを 提 案 し て い. る。 この 提 案 は、 これ まで 究 極 的 ミソ ジニ ー の 体 現 者 と して捉 え られ て きたバ ロ ウズ の ミ ソ ジニ ー が い か に複雑 で 、 彼 の 女 性 批 判 が む しろ生 物 学 的性 差 に甘 ん じた女 性 た ち に 向 け られ た もの で あ っ た こ と を 示 唆 して い る 。 バ ロ ウ ズ の 提 起 した"statefamily"は. 、冷戦期. ア メ リ カ社 会 の 推 し進 め た 性 の 画 一 化 を 基 盤 と し た 家 族 主 義 に 真 っ 向 か ら対 立 す る も の で あ り、 彼 の ミ ソ ジ ニ ス テ ィ ッ ク な 側 面 で は な く、 性 の 解 放 論 者 と して の 側 面 を 可 視 化 さ せ てい る よ うに思 え る。 TheWildBoys、TheJobに. お い て見 え 隠 れす る ミソ ジニ ー の複 雑 性 とは 別 に 、バ ロ ウ. ズ 自 身 が 自 己 の ミ ソ ジ ニ ー に つ い て 明 言 し た 作 品 と して 、TheAddingMachine:Selected Essays(1985)が がTheJob出. 挙 げ ら れ る だ ろ う 。 論 者 テ ィ モ シ ー ・マ ー フ ィ ー(TimothyMurphy) 版 以 降 の バ ロ ウ ズ の 変 化 、 特 に 彼 の 女 性 に 対 す る 見 識 の 変 化 を指 摘 し て い る. よ う に(Murphy13-14)、TheAddingMachineに. お い てバ ロ ウズ は、 自 己 の ミ ソジ ニ ス. テ ィ ッ ク な 論 理 に あ る 修 正 を加 え て い る 。 以 下 は"Women:ABiologicalMistake?"と さ れ た 章 か ら抜 き 出 し た 一 節 で あ る 。. IrealizeIamwidelyperceivedasamisogynist.ButquotingfromtheOxford dictionary:"Misogynist‐awomanhater."Presumablythisishisfull-time occupation?Korzybski,thefounderofGeneralSemantics,alwayssaidtopina generalitydown;sowhatwomen?Whereandwhen?...Bringontheheavies.The femmefatale,inallherguises...Kalidoeshersideshowcoochydance...theWhite Goddesseatsherconsort...theTerribleMothergoesintoheract...thewhoreof Babylonridesinonherblackpantherscreaming,"Youfools"Iwilldrainyou dry,Enoughtoturnamantostone.Buttheseareonlysurfacemanifestations.. 一139一. 題.

(14) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. (125). こ の 一 節 か ら も明 らか な よ う に 、 バ ロ ウ ズ は まず 自己 の ミ ソ ジ ニ ー に つ い て 再 考 し て い る 。 こ こ で 着 目 す べ き こ と は 、 章 の 題 名 が 示 し て い る よ う に 、 彼 が"Women:ABiological Mistake?"(「 る 。TheJobに. 女 性 た ち は 生 物 学 上 の 誤 り な の だ ろ う か?」)と お い て 女 性 た ち を"aperfectcurse"(「. TheAddingMachineに. 自 問 自答 して い る こ と で あ. 完 全 な る 呪 い 」)と 蔑 ん だ 男 は 、. お い て 滑 稽 な ま で に新 た な 視 座 を 提 示 す る 。. Womenmaywellbeabiologicalmistake;IsaidsoinTheJob.Butsoisalmost everythingelseIseearoundhere...Andnow‐asthedeadlycyclesof overpopulation,pollution,depletionofresources,radioactivityandconflictescalate towardsacataclysmicsauve-quipent[stateofconfusion]‐thoughtfulcitizens areaskingthemselvesifthewholehumanracewasn'tamistakefromthe startinggate.(125). こ の 弁 解 と も受 け 止 め られ る 記 述 を 、 バ ロ ウ ズ が 自 身 の 従 来 説 い て き た 持 論 を ロ ジ カ ル に 合 理 化 し た に す ぎ な い 、 と 反 論 す る 者 は 多 くい る だ ろ う 。 し か し 、 彼 が"ifthewhole humanracewasn'tamistake_"と. 疑 問 視 し て い る よ う に 、TheAddingMachineに. おい. て バ ロ ウ ズ の 女 性 批 判 は 、 心 、 身 体 とい っ た 普 遍 性 を 共 有 す る 「人 間 」 に よ る 自 然 破 壊 や 醜 い 論 争 を 問 う こ と へ と 掬 り替 わ っ て ゆ く。 事 実 、 初 期 の 代 表 作NakedLunchに 主 体 的 に 描 か れ た ア ン ドロ ジ ナ ス な 生 物 マ グ ワ ン プ("Mugwump"男 両[生具 有 と して 描 か れ た 生 物 体)が ン ソ ロ ピ ー と 記 す)を Machine出. 、 バ ロ ウ ズ の"misanthropy"(「. 暗 示 し て い た よ う に 、11彼. おい て. 女 の性 を超 越 した 人 間 嫌 い 」、 以 後 ミサ. の 人 間 に 対 す る 懐 疑 心 はThe.4dding. 版 以 前 に 芽 生 え た もの だ っ た 。 マ グ ワ ン プ は 、 男 女 と い う 二 項 対 立 の 本 質 主 義. に 対 立 的 立 場 を 呈 す る メ タ フ ァ ー と して 作 中 に 描 か れ て い た の で は な い だ ろ うか 。 そ れ を 立 証 す る か の ご と く、NakedLunchに. 描 か れ る人 間模 様 は異 性 愛 の男 対 男 とい うホ モ ソ ー. シ ャ ル な 関 係 に 限 定 さ れ て お らず 、 そ こ に は 同 性 愛 の 男 性 た ち 、 さ ら に は 女 性 た ち を も内 包 した 多 様 な 人 間 関 係 が 提 示 さ れ て い る 。12 バ ロ ウ ズ の ミ ソ ジ ニ ー を ミサ ン ソ ロ ピ ー と して 捉 え な お す 動 き は 近 年 多 くの 論 者 の 研 究 に 示 さ れ て お り、 そ の 一 人 で あ る ア レ ン ・ヒバ ー ド(AllenHibbard)は. 、 「バ ロ ウ ズ の 展. 開 す る 論 理 が い か に フ ェ ミ ニ ス トの 思 考 に 類 似 、 調 和 し て い た か に つ い て 着 目 さ れ る べ き で あ る 」(RethinkingtheUniverse22)と. 主 張 す る こ と で 、 ミ ソ ジ ニ ス トと は 一 線 を 画 す 、. プ ロ フ ェ ミ ニ ス トと し て の バ ロ ウ ズ 像 を示 唆 し て い る 。"GaySunshineInterview"(1974). 一140一.

(15) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. に お い て ギ ンズ バ ー グ も、"[Burroughswas]oneofthefewthathasactuallyquestioned sexattheroot"(399)と. 述 べ 、 冷 戦初 期 とい う ジ ェ ンダ ー概 念 の未 発 展 期 にお け るバ ロ ウ. ズ の 先 駆 的 役 割 と後 の フ ェ ミ ニ ス トた ち の 仕 事 の 問 に 、 「sex(生 直 す 」 と い う共 通 項 を見 る 。The.gddingMachineに. 物 学 的 性)に. ついて問い. お け る バ ロ ウ ズ の ミサ ン ソ ロ ピ ッ ク. な 論 理 が 暗 示 し た よ う に 、 人 類 の 普 遍 性 に 潜 む 複 雑 性 を 問 う こ とで バ ロ ウ ズ は 「性 に 対 す る 新 た な 姿 勢 」(Fiedler517)を. 示 し た の で は な い だ ろ う か 。TheWildBoysやTheJob. にお け るバ ロ ウズ の ロ ジ カル な女 性 批 判 は、 冷 戦 後 期 にお い て文 学 とい う領 域 に 囚 わ れ な い 実 験 的 文 学 活 動(例. え ば"cut-up"手. TheAddingMachineに. 法 な ど)を. 推 し進 め た 彼 自 身 に よ っ て 修 正 さ れ 、. お い て 人 類 全 体 に 対 す る批 判 と し て 新 た な 再 生 を遂 げ た の だ 。. 結び 本 稿 で は 、 ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 男 女 の 関 係 に 焦 点 を あ て 、 ビ ー ト女 性 た ち の 抑 圧 ・被 抑 圧 性 の 複 雑 さ に つ い て 論 じて き た 。 ビ ー ト女 性 た ち の 多 くが 示 唆 し た よ う に 、 彼 女 た ちが 関係 を もった 男 性 た ちの ミソ ジニ ー は、男 女 の 二 項 対 立 を基 盤 に強 化 され た冷 戦 初 期 に お け る 性 規 範 に 順 応 し た 男 性 た ち の そ れ と は 一 線 を画 し て い た 。 ビ ー ト女 性 た ち は 、 自 ら の 生 き る 道 を 「選 択 」 す る権 利 す ら 与 え ら れ ず 家 庭 に 封 じ込 め られ 、 被 抑 圧 者 と し て 男 社 会 に 自 ら を 埋 没 さ せ た 女 性 た ち と は 異 な り、 反 体 制 姿 勢 の も と独 自 の マ イ ノ リ テ ィ 文 化 を 形 成 し た ビ ー ト男 性 た ち の 社 会 的 逸 脱 性 に 共 感 し 、 ま た 彼 ら と共 存 す る こ とで 社 会 規 範 の 外 で 生 き る 道 を 得 た 「男 性 化 」 し た 女 性 た ち だ っ た の で は な い だ ろ う か 。 本 稿 で 取 り上 げ た 女 性 た ち 以 外 に 、 「男 性 化 」 し た 女 性 と して の 自 己 に 自覚 的 で あ っ た ビ ー ト女 性 は 多 く存 在 して お り、 最 後 にBreakingtheRuleofCoolに 女 た ち の 声 を こ こ に 要 約 し 、 結 び の 言 葉 と し た い 。13ギ ン ダ ・フ レ イ ザ ー(BrendaFrazer)は. お い て紹 介 され た彼. ン ズ バ ー グ と親 交 の 深 か っ た ブ レ. 、"InoticedinlateryearsthatIidentifiedalot. withhomosexuals.Ifeltdrawntohomosexuals-malehomosexuals"(129)と. 、 自己 に. 潜 在 した 同性 愛 男 性 た ち との 同化 意 識 を 明言 して い る。 フ レイザ ー 同様 、 同 性 愛 男 性 た ち と親 交 の 深 か っ た ジ ャ ニ ー ・ポ ミ ー ・ベ ガ(JaniePommyVega)は ン キ ー(HerbertHuncke、 humanbeing"(248)と. バ ロ ウ ズ の 友 人 で 同 性 愛 者)が. 、 ハ ー ヴ ァ ー ド ・ハ 彼 女 に 送 っ た 、"you'rejusta. い う言 葉 を 回 想 し、 そ の 日 寺の 喜 び を 著 し て い る 。 自 己 に潜 在 し た. 男 ら し さ に 自覚 的 で あ っ た 女 性 た ち と し て 、 ヘ テ ィ ・ジ ョー ンズ(HettieJones)と ウ ォ ル ド マ ン(AnneWaldman)が generallyregardedasaman'slife"(160)と. アン ・. 挙 げ ら れ る だ ろ う 。"1'mgoingtolivewhatis 主 張 す る こ と で 、 自 己 選 択 に よ っ て 確 立 し得. る 女 性 の 自 立 を 訴 え る ジ ョ ー ンズ 同 様 、 ウ ォ ル ドマ ン も 自 己 に 内 在 した 男 性 性 に 自 認 的 姿 勢 を 提 示 し て い る(266)。. こ こ に 紹 介 した 女 性 た ち は ビ ー ト男 性 た ち と人 生 を 共 に し、 作. 一141一.

(16) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 家 、 詩 人 、 社 会 運 動 家 と して の 地 位 を 確 立 し た 女 性 た ち で あ り、 チ ャ ー タ ー ズ の 論 じ た 「ビ ー ト男 性 た ち の 主 流 文 化 に対 す る 反 抗 意 識 を 共 有 した 」(614)女. 性 た ちで あ った こ とは. 云 うまで もない 。 男 、 女 、 ゲ イ、 レズ ビ ア ン、 バ イセ ク シ ャル とい った 多 様 なセ ク シ ュ ア リ テ ィ が 共 存 関 係 に あ っ た ビ ー ト ・コ ミ ュ ニ テ ィ に お け る 男 女 の 関 係 は 、 抑 圧 者 ・被 抑 圧 者 とい う男 の ミ ソ ジ ニ ー を基 軸 に 置 い た 男 女 関 係 の 範 疇 で は 語 り え な い 、 複 雑 な 人 間 関 係 に 孕 ん だ 連 続 性("continuumofhumanrelationships")に. よ って 形 成 され て い た の で は. ない だ ろ うか。. 注. *本. 稿 で 取 り上 げ る 一 次 資 料(小. 説 、 詩 、 書 簡 、 日記 、 イ ン タ ビ ュ ー 記 事)は. 、 日本 語. 翻 訳 過 程 で 生 じ う る 訳 者 自 身 の 先 入 観 に よ る 誤 読 ・誤 訳 を 避 け る た め 、 原 文 を そ の ま ま 引 用 す る 。 な お 、 二 次 資 料(研. 1『. 究 者 に よ る 著 書 等)の. ジ ェ ン ダ ー と ア メ リ カ 文 学 』(2002)に フ ェ ミ ニ ズ ム/女. 引 用 は 日本 語 で 記 す 。. お い て 、 原 恵 理 子 は 、 ジ ェ ン ダ ー概 念 が. 性 学 の 領 域 で 発 展 し た 経 緯 を ふ ま え 、 「ア メ リ カ 文 学 に お け る ジ ェ. ンダ ーが 、 多 様 な差 異 の. 「表 象 の 政 治 学 』 が 抱 え る 問 題 を 明 ら か に す る 」(i)と. 述べ. てい る。 2MartinHalliwell,AmericanCultureinthe1950s(Edinburgh:EdinburghUniversity Press,2007),3-4.を 3ホ. 参照。. モ ソ ー シ ャ ル と は 、 ホ モ フ ォ ビ ア(同. 性 愛 嫌 悪)や. ミ ソ ジ ニ ー(女. 性 嫌 悪)を. 基盤. と し た 異 性 愛 男 性 間 の 非 性 的 な 社 会 的 つ な が り を 意 味 し 、 そ の 提 唱 者 と し てEveK. Sedgwickが. あ げ ら れ る 。 当 概 念 の 詳 細 はEveK.Sedgwick,BetweenMen:English. LiteratureandMaleHornosocialDesire(NewYork:ColumbiaUniversityPress, 1985).を 4キ. 参照 。. メ ル は 、 従 来 の 男 性 史 に お い て 不 可 視 化 さ れ て き た マ イ ノ リ テ ィ 男 性 た ち を 「周 縁 化 さ れ た 他 者("themarginalizedothers")」(6)と. 呼 び 、 彼 らの 経 験 を 被 抑 圧 者 で あ. る 女 性 と 対 比 し て 考 え る の で は な く、 男 性 の 視 点 に 立 っ て 書 き 加 え る("writing aboutmenasmen")こ. とが 男 性 学 者 と して の 責 務 で あ る と 主 張 す る 。 『日本 の フ ェ. ミ ニ ズ ム ー 男 性 学 』(1995)に. お い て 、 上 野 千 鶴 子 も 、 「男 性 が 「女 性 の 視 点 」 に 立 っ. て 、 代 理 人 と し て 研 究 を す る よ り、 み ず か ら の 『男 とい う 経 験 』 を 理 論 化 す る こ と こ そ が 急 務 で あ ろ う」(22)と. 述 べ て い る。 生 物 学 上 男 で あ る本 論 文 の 筆 者 は これ らの. 一142一.

(17) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. 論 者 が 示 唆 す る. 「ま ず は 男 と し て 同 性 で あ る 男 の 問 題 を 考 え る べ き で あ る 」 と い う 問. 題 提 起 を理 解 した上 で、 ジ ェ ンダ ーが こ れ ま で に提 示 して きた. 「両 性 問 の 流 動 性 」 と. い う考 え を 基 盤 に 、 被 抑 圧 者 で あ る 冷 戦 初 期 の 女 性 た ち を 考 察 し て い る 。 5こ. の パ ネ ル ・ デ ィ ス カ ッ シ ョ ン は1996年11月2日. にSanFranciscoBookFestival. に お い て 開 催 さ れ た 。 司 会 者 チ ャ ー タ ー ズ を は じ め 、CarolynCassady、Joyce Johnson、HettieJones、EileenKaufman、JoannaMcClureら. ビ ー ト男 性 の 元 妻 、 恋. 人 た ち の 多 くが 参 加 し た 女 性 会 議 で あ る 。 6セ. ジ ウ ィ ッ ク の 構築 著 書. し た ジ ェ ン ダ ー 論 の 発 展 に 貢 献 す る 論 者 の ひ と り上 野 千 鶴 子 は 、. 『女 ぎ ら い 一 ニ ッ ポ ン の ミ ソ ジ ニ ー 』(2010)に. お い て 男 の ミソ ジ ニ ー を単 な る. 「女 の 搾 取 」 と は 見 な い 。 記 号 論 の 観 点 か ら 上 野 は 、 男 た ち が 女 で は な く 、 実 の と こ ろ 、 女 性 性 の 記 号 な の だ 」(8)と. 「反 応 し て い る の は 、. 主 張 す る。 欧 米 にお け る ミソ. ジ ニ ー の 定 義 に 関 し て は 、JoanSmith,Misogynies(London:FaberandFaber,1989). を参 照 。 7キ. ャ ロ ラ イ ン の 体 験 記HeartBeatは. 映 画 化. さ れ て い る 。HeartBeat,dir.John. Byrum,perf.NickNotle,SissySpacek,andJohnHeard.WarnerHomeVideo,1980. を参 照 。 8キ. ャ ロ ラ イ ン 同 様 、 ジ ョ ー ン ・ハ ヴ ァ ー テ ィ は 自 身 の 体 験 記Nobody'sWife(1990) にお い て、 夫 ケ ル ア ッ クが. 「仲 間 の 圧 力 」("peerpressure")の. さ を 無 理 に 演 じ て い た こ と に 言 及 し て い る(180)。 記You'llbeOkay(2007)に OedipalComplexを. も と、 自身 の 男 ら し. イ ー デ ィ ー ・パ ー カ ー も ま た 体 験. お い て 、 夫 ケ ル ア ッ ク の 男 ら し さの 背 後 に 隠 蔽 さ れ た 実 直 に 記 し て い る 。JoanHaverty,Nobody'sWife:TheSmart. AleckandtheKingoftheBeats(Berkeley:CreativeArtsBookCompany,1990); EdieParker,You'llbeOkay:MyLifewithJackKerouac(SanFrancisco:City Rights,2007).を 9ヤ. 参 照 。. リ タ ミ サ コ 、 『ビ ー ト と ア ー ト と エ ト セ ト ラ ー ギ ン ズ バ ー グ 、 北 園 克 衛 、 カ ミ ン グ ス の 詩 を 感 覚 す る 』、 水 声 社 、2006.を. 参 照 。. 10WilliamS.Burroughs'Wife,dir.GaryWalkow,perf.CourtneyLove,Norman Reedus,andKeiferSutherland.Vista,2000.を. 参 照 。. 11WilliamBurroughs:The、qlgebraofNeedに. お い て 、EricMottramは. を 展 開 し て い る 。 ま た 、TheAddingMachineに ("neoteny"幼. 形 成 熟)は. さ らな る論 考. お け る バ ロ ウ ズ の ネ オ タ ニ ー 論. 作 家 自 身 の さ ら な る 人 間 批 判 を 暗 示 し て い る(TheAdding. Machine126)o l2NakedLunchに. お け る 登 場 人 物 メ ア リ ー(Mary)、. 一143一. ジ ョ ニ ー(Johnny)、. マ ー ク.

(18) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. (Mark)の. 13. 問 で 展 開 さ れ る 両 性 愛 的 人 間 関 係 を 参 照(NakedLunch75-84)。. 冷 戦 初 期 ア メ リ カ にお け る ジ ェ ン ダ ー規 範 の外 に 生 きた AnneRoipheの. 著 書ArtofMadness(2011)か. 「男 性 化 」 し た 女 性 像 は 、. ら も 考 察 で き る 。AnneRoiphe,.qrtof. Madness:AMemoirofLustWithoutReason(NewYork:Doubleday,2011).を. WorksCited. Burroughs,WilliamS.TheWildBoys:ABookoftheDead.NewYork:GrovePress, 1971. .TheAdding.Machine:SelectedE∬. の1∫.NewYork:SeaverBooks,1986.. Burroughs,WilliamSandDanielOdier.TheJob:InterviewswithWilliamS.Burroughs. NewYork:GrovePress,1974. Burroughs,WilliamS,etal.WordVirus:TheWilliamS.BurroughsReader.NewYork: GrovePress,1998. Campbell,James.ThisistheBeatGeneYation.London:Vintage,2000. Cassady,Carolyn.HeartBeat:MyLifewithJackandNeal.Berkeley:CreativeArtsBook Company,1976. Charters,Ann,ed.BeatDownToYourSoul:WhatWastheBeatGeneration?New York:PenguinBooks,2001. Ehrenreich,Barbara.TheHeartsofMen:AmericanDreamsandtheFlightfrom Commitment.NewJersey:AnchorPress,1983. Fiedler,Leslie."TheNewMutants."PartisanReview,32,4(Fall1965):517. Ginsberg,Allen.KaddishandOtherPoems.SanFrancisco:CityLightsBooks,1961. .1)lanetハTews,1961-1967.SanFrancisco:CityLightsBooks,1968. ."GaySunshineInterview."CollegeEnglish,36,3(1974):392-400. .The五ettersげ.411enGi〃sberg.Ed.BillMorgan.Philadelphia,PA:DaCapo Press,2008. Grace,NancyMandRonnaC.Johnson,eds.BreakingtheRuleofCool:lnterviewingand ReadingWomenBeatWriters.Jackson:UniversityPressofMississippi, 2004. Hawkins,Joan.CuttingEdge:Art-HonorandtheHorrificAvant-garde.Minnesota:The UniversityPressofMinnesota,2000. Hine,Phil."ZimbaXototlTime."Ashe!Journal(2004):88.. 一144一. 参 照 。.

(19) 冷 戦 初 期 ア メ リ カ社 会 にお け る 「男 性 化 」 した 女 性 た ち. Johnson,Joyce.MinorCharacters:ABeatMemoir.NewYork:PenguinBooks,1999. Johnson,RonnaCandNancyM.Grace,eds.GirlsWhoWoreBlack:WomenWritingthe BeatGeneration.NewJersey:RutgersUniversityPress,2002. Kerouac,Jack.OntheRoad.NewYork:PenguinBooks,1976. .BigSur.NewYork:HarperPerennial,2006. Kimmel,Michael.ManhoodinAmerica:ACulturalHistory.NewYork:TheFreePress, 1996. Knight,Brenda,ed.WornenoftheBeatGeneration:TheWriters,ArtistsandMusesat theHeartofaRevolution.Berkeley:ConariPress,1996. Marler,Regina,ed.QueerBeats:HowtheBeatsTurnedAmericaOntoSex.San Francisco:CleisPress,2004. Medovoi,Leerom.Rebels:YouthandtheColdWarOriginsofIdentity.Durhamand London:DukeUniversityPress,2005. Miles,Barry.TheBeatHotel.・Ginsberg,Burroughs,andCorsoinParis,1958-1963. NewYork:GrovePress,2000. Minnen,VanC,eds.BeatCulture:TheI950sandBeyond.Amsterdam:VUUniversity Press,1999. Morgan,Bill.ICelebrateMyself.・TheSomewhatPrivateLifeofAllenGinsberg.New York:VikingPress,2006. Morgan,Ted.LiteraryOutlaw:TheLifeandTirnesofWilliamS.Burroughs.New York:Avon,1988. Murphy,TimothyS.WisingUptheMarks:TheAmodernWilliamBurroughs.Berkeley: UniversityofCaliforniaPress,1997. Peabody,Richard,ed.ADifferentBeat:WritingsbyWomenoftheBeatGeneration.New York:HighRiskBooks,1997. Powell,DavidA,ed.21St-CenturyGayCulture.Newcastle,UK:CambridgeScholarsPub., 2008. Savran,David.TakingItLikeAMan:WhiteMasculinity,Masochism,And ContemporaryAmericanCulture.NewJersey:PrincetonUniversity Press,1998. Schneiderman,DavisandPhilipWalsh,eds.RethinkingtheUniveYSe:WilliamS. BurroughsintheAgeofGlobalization.London:PlutoPress,2004. 井 上 輝 子 編 、 『日 本 の フ ェ ミ ニ ズ ム ー 男 性 学 』、 岩 波 書 店 、1995.. 一145一.

(20) 教養 ・外国語教育セ ンター紀要. 上 野 千 鶴 子 、 『女 ぎ らい 一 ニ ッ ポ ン の ミ ソ ジ ニ ー 』、 紀 伊 國 屋 書 店 、2010. 海 老 根 静 江 編 、 『女 とい う イ デ オ ロ ギ ー一 ア メ リ カ 文 学 を 検 証 す る 』、 南 雲 堂 、1999.. 一146一.

(21)

参照

関連したドキュメント

この小論の目的は,戦間期イギリスにおける経済政策形成に及ぼしたケイ

『いくさと愛と』(監修,東京新聞出版局, 1997 年),『木更津の女たち』(共

て拘束されるという事態を否定的に評価する概念として用いられる︒従来︑現在の我々による支配を否定して過去の

二つ目の論点は、ジェンダー平等の再定義 である。これまで女性や女子に重点が置かれて

肝細胞癌は我が国における癌死亡のうち,男 性の第 3 位,女性の第 5 位を占め,2008 年の国 民衛生の動向によれば年に 33,662 名が死亡して

−104−..