アロエは,サボテンのように見えるがユリ科の植物で,その 種類は数百種類以上とも言われている.日本では,キダチア ロエが観賞用として多く使用されており,その特徴である茎 が木のように立ち上がる形状から,キダチは,木立を意味し ている.一方,アロエベラは,アラビア半島南部,北アフリ カ地中海沿岸やアフリカ南部諸島を原産地とし,その特徴と し て 親 株 を 中 心 に 巨 大 な 肉 厚 の 葉 が 放 射 状 に 育 つ. そ の 葉 は,大きいものでは 1 枚 2 ∼ 3 kg になることもあり,葉肉は 食品の原料として用いられる.今回,われわれが行った研究 を中心に,アロエベラ葉肉に含まれるアロエステロールの機 能性について報告させていただく. アロエベラ葉肉の機能性成分とは? 研究を始めるにあたり,アロエベラの経口摂取による 保健機能に関する過去の研究を調べてみると,糖尿病薬 にアロエベラ葉肉ジュースを併用した場合,糖尿病薬単 独に比べて空腹時血糖値やHbA1cが改善するという報 告があったがその関与成分は不明であった.そこで,ま ずわれわれは,アロエベラ葉肉の保健機能を科学的に調 べるため,生活習慣病の一つの疾患である2型糖尿病に 注目した.2型糖尿病モデルにおいて,アロエベラ葉肉 の摂取によって,血糖値(随時,空腹時)や長期的な血 糖値の状態を反映するHbA1c値が改善されるとともに, 膵臓でのランゲルハンス細胞の減少が予防されることを 確認した(1).そこで,この抗糖尿病効果の関与成分の探 索を開始したが,アロエベラ葉肉は98%以上が水分で あるため,数トンのアロエベラを使用しながら各成分の 分離精製を行い,アロエベラの新たな有効成分として5 つの成分を同定した(1).これら成分は,シクロアルタ
ノール化合物(Cy: cycloartanol, 24MCy: 24-methylene-cycloartanol), ロ フ ェ ノ ー ル 化 合 物(Lop: lophenol, 24MLop: 24-methyl-lophenol, 24ELop: 24-ethyl-lophenol) であり,アロエ由来の植物ステロールということから, われわれは,アロエステロールと総称している(図1). このアロエステロールをそれぞれ経口投与すると,2型 糖尿病モデルのHbA1c値は有意に低下したが,一般的 な植物ステロールの一つである
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-シトステロールには, この効果は見られなかった.さらに,アロエステロール の経口投与により,糖尿病モデルにおいて,血糖値上昇日本農芸化学会
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【解説】
Functional Study of Aloesterol: What is the effect of oral Aloesterol on the Skin?
Miyuki TANAKA, 森永乳業株式会社研究本部素材応用研究所
アロエステロール(シクロアルタノール化合物及び,
ロフェノール化合物)の機能性研究
アロエベラを食べるとお肌は?
田中美順
【2019年農芸化学女性企業研究者賞】
が予防されるとともに,インスリン抵抗性を改善するこ とも確認された(2).肥満は糖尿病などの生活習慣病のリ スク因子の一つであるが,食餌性肥満(DIO)モデルに おいて,アロエステロールの摂取により,基礎代謝の指 標の一つである酸素消費量が増加し,体脂肪の蓄積が抑 制されることも明らかになった(3). アロエステロールの糖代謝改善効果・抗肥満効果の 作用メカニズム これらの糖代謝改善効果および抗肥満効果におけるア ロエステロールの作用メカニズムを解明するため,他の 転写因子類と相互作用をしながら糖・脂質代謝のマス ターレギュレーターとして働くことが知られている受容 体型核内転写因子であるPeroxisome proliferators-acti-vated receptor(PPAR)に着目し, のルシフェ ラーゼアッセイ系で検討した結果,アロエステロールの 各成分がPPARリガンド活性を有することが明らかに なった(4).そこで,DIOモデルの肝臓を用いてDNAマ イクロアレイを実施した結果,糖・脂質代謝にかかわる 遺伝子が有意に変化していることが確認された.さらに RT-PCR法で調べたところ,脂質輸送,脂肪酸酸化,さ らにPPARsシグナルに関連する遺伝子の発現変化が確 認された(4)(図2).以上の結果から,アロエステロール はPPARsを介して糖代謝・脂質代謝を亢進する可能性 が確認された. 皮膚の構造と健康 皮膚は体内と外部環境を隔て,生体の恒常性を維持す る重要な役割を担っている.最外層の表皮は,水分の蒸
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図1■アロエベラ葉肉中のシクロアルタノール化合物およびロ フェノール化合物の構造 シクロアルタノール化合物(Cy),ロフェノール化合物(Lop) 図2■糖・脂質代謝遺伝子発現へのアロエステロールの効果 (DIOモデル) 「砂漠の中,鳥が多く中から選んで食すサボテンが ある.その植物には“健康にとてもいい効果”がある らしい」.その植物はサボテンではなく実は「アロエ ベラ」だったということが研究の始まりでした.アロ エは常緑多肉多年草植物であり,紀元前から現代ま でに世界中で民間薬,健康食品,化粧品など幅広い 分野で使用されてきました.アロエの形態は様々で, 高さ20 mを越えるものから,5 cmに満たないものま で存在します.このようなアロエの様々な形態は,ど のような環境にもそれに適応するために形態を変え ながら生き続けてきた,アロエの生命力の強さによる ものかもしれません.アロエの種類のなかでもアロ エベラのその葉肉は,ヨーグルトにも使用されてい る食品素材で,その透明の外見から予測される通り 98%は水分です.我々は,アロエベラ葉肉の研究を 2003年にスタートしましたが,様々な機能性やその メカニズムを明らかにするにあたり,水のようなア ロエベラの葉肉に様々な成分が含まれることに自然 の神秘を感じることもありました.試行錯誤のすえ に,アロエベラの経口摂取による抗糖尿病作用や抗 肥満の有効成分として,5種の植物ステロール(アロ エステロール)を見出し,最近の研究では,食べて 肌の内側からいろいろな作用を示すことがわかって きました.紀元前から人類とともに共生してきたア ロエについて,今後の研究によって,まだまだ知ら れていない機能性が見いだされることを期待してい ます.コ ラ ム
散を防ぐとともに外界からの有害成分の侵入を防ぐバリ ア機能を有する.表皮の内側に存在する真皮層では,コ ラーゲンとエラスチンによって強力な支持組織を形成し ている.またこれらの真皮層の3次元構造の間に存在す る線維芽細胞は,コラーゲンやヒアルロン酸などの細胞 外マトリックスを産生し,皮膚構造を維持している(5). このような表皮や真皮の働きにより,皮膚の健康が保た れていると考えられている. 皮膚の老化の原因は大きく分けて,外的要因(光皮膚 老化)と内的要因(生物学的老化や栄養学的要因など) の2つがある.紫外線は,ROS(Reactive Oxygen Spe-cies)や炎症性サイトカインの産生を亢進させるととも に,細胞外マトリクス分解酵素の増加も誘導し,その結 果,真皮のコラーゲンやヒアルロン酸量の低下や繊維の 乱れ(構造的変性)という現象が惹起される(図3). さらに,生物学的な加齢に伴う線維芽細胞の減少や機能 低下によってもコラーゲンやヒアルロン酸が減少する(6) (図3).これらの現象が原因となって,皮膚のバリア機 能が低下し,潤いおよび弾力が失われることで,皮膚機 能の低下や老化が引き起こされる. 乾燥肌の発生率と重症度は年齢とともに増加すること が知られている.この皮膚の過度な乾燥は,かゆみ, 熱っぽさ,痛み,圧迫感を引き起こすことから,生活の 質(QOL: quality of life)に影響を与えることが知られ
ている(7).したがって,皮膚の水分量を維持するととも に,過度な経表皮水分蒸散量(TEWL: Trans-epidermal water loss)の増加を防ぐことは,皮膚の健康にとって 重要と考えられる. 皮膚のコラーゲンは,紫外線によって構造的変化(変 性)を起こすことが知られており,この変化は非侵襲性 の超音波装置を用いた測定により,低エコーピクセル (low-echogenic pixels(LEP))の増加や,真皮の正常 なコラーゲン繊維の密度と相関するコラーゲンスコア値 の低下により判定することが可能である.過去の日本人 高齢者での研究において,皮膚裂傷有病者は,非裂傷者 に比べ,有意なLEPの増加,IV型コラーゲンの低下, TNF-
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の増加,弾力パラメーターの低下が確認されて いる(8).これらの知見から,真皮層でのコラーゲン状態 を良好に保つことで,皮膚の健康を維持し,皮膚組織の 脆弱化を予防することが期待できる. アロエステロールの皮膚機能に関する作用基礎と臨床 これまでの研究では,らアロエベラ葉肉の皮膚への保 健機能として,塗布による創傷および火傷後の皮膚治癒 促進効果などが報告されていたが,経口による皮膚への 効果の報告はほとんどなかった.真皮層に存在するコ ラーゲンやヒアルロン酸は,肌の弾力や水分維持にかか わっているが,これらの量は年齢とともに減少する(9). その原因の一つとして産生細胞である皮膚線維芽細胞の 減少と老化による機能低下が関係する(6).過去の検討 で,経口摂取されたアロエステロールが吸収されて血流 に移行することが確認されている(10)ことから,末梢血 管が到達する真皮層に存在する線維芽細胞に対するアロ エステロールの影響を検討した.ヒト真皮線維芽細胞に アロエステロールを添加すると,培養上清中のコラーゲ ンおよびヒアルロン酸の量は濃度依存的に増加した(11). さらに,それぞれの合成酵素の遺伝子発現を調べたとこ ろ,I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンのそれぞれ合 成酵素の遺伝子である および の発現が 増加し,ヒアルロン酸の合成酵素の遺伝子である および の発現も増加することが確認された(11).日本農芸化学会
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図3■皮膚老化の原因そこで次に,アロエステロール摂取によるヒト皮膚へ の影響を調べるため,予備臨床試験を実施した.公募に 応じた社外ボランティア55名を対象とし,アロエステ ロール含有ヨーグルト(アロエステロール40 µg)の摂 取ならびに非摂取期間の皮膚状態と体感効果を調べた. その結果,TEWLは,摂取前に比べて,摂取8週後に有 意に低下し,皮膚弾力性の指標(F3)は,摂取開始後 徐々に増加し,摂取8週後で摂取前および非摂取期間に 比べ有意な増加が確認された(12).また,摂取期間中の 皮膚状態の自覚症状について,1(不良)から6(良好) の6段階での評価を自己記入させた結果,アロエステ ロール摂取1週間目で,皮膚の潤い,つや,はり,透明 感,洗顔後のつっぱり感,しわ,化粧のり,たるみ,肌 全体の状態が,摂取前に比べ有意に増加し,肌のきめ, 乾燥の項目は,摂取2週間目で有意に増加し,8週間後 の摂取終了までこれらの自覚症状が継続された.一方吹 き出物に関しては,摂取期間中で自覚症状の変化は確認 されなかった(12). 皮膚の光皮膚老化による変化の一つとして「しわ」の 形成が挙げられるが,アロエステロール含有タブレット (アロエステロール40 µg)を摂取させたランダム化二重 盲検平行群間比較試験において,アロエステロール摂取 群は,プラセボ摂取群に比べて40歳以上の女性の顔の 「しわ」を有意に減少させることを確認している(11).こ の結果から,アロエステロールの摂取により皮膚光老化 が予防できる可能性が示唆された. 次に,単施設ランダム化二重盲検平行群間比較試験 で,アロエステロール摂取による皮膚への効果を検討し た.成人女性64名(32名2群)を対象とし,アロエス テロール含有ヨーグルト(アロエステロール40 µg)も しくは,プラセボヨーグルトのいずれかを12週間摂取 させた(13).対照群では経時的なTEWLの増加および皮 膚水分量の低下が観察されたが,この臨床試験は秋から 冬の期間に実施されたことから,季節・環境の湿度低下 や生活習慣の変化により,皮膚バリア機能が乱れて皮膚 蒸散量が増え,皮膚水分量が減少したと考えられる.一 方,摂取前および対照群と比較し,アロエステロール含 有ヨーグルト摂取群では,TEWLが有意に低値を示し, 皮膚の水分量が有意に高値を示すことが確認された(13). さらに皮膚の弾力性を示す指標であるR2およびF3が, アロエステロール摂取により有意に増加することを見い だした.F3値は,皮膚の脆弱化や加齢とともに低下す ることが知られおり,F3値の増加結果は,アロエステ ロール摂取による皮膚の健康維持が期待できることを示 している. 次に各被験者の真皮層の超音波画像を解析ソフトを用 いてコラーゲンスコアを算出した.コラーゲンスコア は,コラーゲン密度と相関することが知られているが, プラセボ群で摂取期間のコラーゲンスコアの減少が観察 された.この理由として,試験実施前の夏の紫外線量増 加後のコラーゲン繊維への影響(変性や線維化)が経時 的に起こった可能性や,前述した皮膚バリア機能低下に よる真皮層への影響の可能性が考えられた.一方,アロ エステロール摂取で,摂取前およびプラセボ対照群に比 べ真皮のコラーゲンスコアが有意に増加することが確認 された(13). なお,重篤な有害事象の発生は認められず,期間中に 認められた有害事象は64例中30例50件(アロエステ ロール摂取群:14例22件,プラセボ摂取群:16例28件) で,アロエステロール摂取群とプラセボ摂取群の間に有 害事象発生での有意な差はなかった(13).さらに,有害事 象の大半が風邪や頭痛の軽微な症状で,試験食品との因 果関係がある事象はなかったことから,アロエステロー ルは安全に摂取できる食品素材であると考えられる. おわりに 近年,外用だけでなく経口摂取により皮膚健康の維持 や改善ができる食品成分の需要が高まっている.これま での研究結果から,アロエステロールは,真皮層のコ ラーゲン増加や,皮膚のバリア機能(保湿力)や水分量 および弾力を維持する効果により,皮膚の健康維持に貢 献できる安全な食品成分と考えられることから更なる活 用が期待される. 謝辞:本研究に関して,京都大学大学院農学研究科の河田照雄教授,後 藤剛准教授,東北大学の池田郁男教授,高槻赤十字病院の古川福実病院 長,和歌山県立医大皮膚科の山本有紀准教授にご指導いただくとともに, 森永乳業株式会社の関係者皆様にご協力いただいたことに深く感謝申し 上げます. 文献
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