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下顎運動に随伴する体幹動揺における立位と座位の差
竹内 聡史 河野 正司* 小林 博 桜井 直樹 細貝 暁子 金城 篤史 甲斐 朝子Difference of Body Movements Accompanying Mandibular Movements in Standing
and Sitting Positions
Takeuchi Satoshi, Kohno Shoji*, Kobayashi Hiroshi, Sakurai Naoki, Hosogai Akiko, Kinjoh Atsushi and Kai Asako 歯科補綴学的意義 下顎運動に起因する体幹動揺は,咬合と全身の関係を考える場合,重要な要因である . この研究で,下顎タッピング運動 に起因する体幹動揺は,立位のみならず座位においても検出可能であることが明らかとなった.通常咀嚼運動は座位で行 われるため咬合との関係を論ずる場合には座位での検査が必要である.咬合回復を目的とする補綴学にとって,咬合と全 身症状との関係解明につながる研究という意味を持つ. 抄 録 目的:下顎タッピング運動に随伴する体幹動揺が,座位において観察できるのか,また立位と座位でどのよ うな差を示すか追求することを目的とした. 方法:被験者は顎口腔系に異常を認めない男性 6 名(25–29 歳,平均年齢 27.0 歳)で,姿勢は立位,座位の 2 種類として,10 秒間の咬頭嵌合位保持,3Hz の 20 秒間タッピング,その後 10 秒間咬頭嵌合位保持を 1 測 定単位として測定を行った.下顎運動は TRIMETII(東京歯材社製)により上顎座標系にて下顎切歯点を, 頭部は大地座標系で上顎切歯点,下顎頭点,頭頂点,後頭点を,また体幹動揺は Proreflex(Qualisys 社製) により大地座標系で胸骨点の矢状面内運動を分析した. 結果:座位において,下顎タッピング運動に随伴する体幹動揺が認められた.開口量に対する体幹動揺量を 立位と座位で Wilcoxon の符号付検定をしたところ,有意に立位の方が大きくなった.また体幹動揺の周波 数分析におけるパワーの平均値を立位と座位で Wilcoxon の符号付検定をしたところ,有意に立位の方が大 きくなった.しかし,原波形解析による検出率を Wilcoxon の符号付検定をしたところ,立位と座位で有意差 は認められなかった. 結論:体幹動揺量は立位の方が大きいが,原波形による検出率では差がなく,咀嚼動作として自然な座位で の分析も可能であることが明らかとなった. 和文キーワード 体幹動揺,下顎タッピング運動,随伴運動,TRIMETII,Proreflex 原 著 論 文 新潟大学医歯学総合研究科摂食機能再建学分野 * 明倫短期大学歯科技工士学科 Division of Removable Prosthodontics, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University * Department of Dental Technology, Meirin College 受付:2008 年 2 月 10 日/受理:2008 年 8 月 3 日 Received on February 10, 2008/Accepted on August 3, 2008I .緒 言 顎口腔機能運動時には , 下顎運動に随伴する頭部 運動の存在が知られている1–5).また,顎機能障害患 者の 60%にはタッピング運動時,健常者のように頭部 全体が回転様運動をするのではなく,前後に並進する 運動が観察されたと報告されている6). この頭部運動は下顎運動を滑らかに遂行させるもの として意味を持つと考えられている1–5).このような 考えに立つと,頭部運動が認められる状況下では,頭 部の重心が前後に動くことが考えられ,同時に体幹 動揺の存在も推測できる.また,顎機能障害患者では, 頭部並進様運動をするため,体幹動揺がより大きく なり肩や首に負担がかかり全身の症状がでるのではな いかと推測できる. そこで金城ら7)は体幹の動揺を検出するに当たり, 体幹の自由度が高い立位の方がより下顎タッピング 運動に影響を受けるのではないかという仮定の下, 体幹動揺の存在を追求し,その存在を確認した.し かし , 通常ヒトは座位にて咀嚼運動を行う.その座 位における体幹動揺がどのようなものかまだ知られて いない. そこで本研究では,座位において下顎タッピング運 動に随伴する体幹動揺が観察できるのか,またその 存在が認められた場合には,立位と座位でどのような 差を示すかを追求することを目的として,研究を遂行 した. II .方 法 1.被験者 被験者は顎口腔系に異常を認めない男性 ボラン ティア 6 名(25–29 歳,平均年齢 27.0 歳)とした.被験 者には事前に研究の主旨を十分に説明し同意を得た. 本研究は新潟大学歯学部倫理委員会の承認を得てい る. 2.下顎運動および頭部運動の測定方法 被験者が座位および立位の状態で下顎運動および 頭部運動を同時測定するために,6 自由度顎運動測 定装置 TRIMETII(東京歯材社製)を新たに開発し た(図 1).この TRIMETII は,従来の被験者の座位 における測定対象としていた TRIMET を立位におい ても測定が可能なように,本体の構造と解析プログラ ムソフトを新たに設計し,改良したものである.すなわ ち,測定装置に組み込まれた CCD カメラアームを上 下方向に可動な構造として,床面から 108–185 cm の 任意な位置に固定可能とするとともに,また測定可能 範囲を 80×80×20 cm と従来の TRIMET より測定 範囲を広くし,被験者の座位および立位における測 定を可能にした. TRIMETII 測定法の原理8–10)は,測定標点である LED を左右側にそれぞれ 2 個ずつ計 4 個配置したフェ イスボウを,シーネを介して被験者の上下顎歯列頬側 面に固定し,標点の運動を大地座標系上に配置した 左右側 3 台ずつ,計 6 台の CCD カメラで記録するも のである. 測定カメラによって記録した,大地座標系における 上顎の記録データを頭部運動とした.また,大地座 標系における下顎運動の記録データから頭部運動の 記録データを減じて,頭部運動の含まれない下顎運 動を上顎座標系にて算出した. 3.体幹動揺の測定方法 体幹動揺の測定には,被験者の前上方 1.5 m の位置 で測定室の天井から左右対称に設置した 2 台のモー ションキャプチャーシステム ProReflex(Qualisys 社 製)を用いた(図 1).この装置は,赤外線 CCD カメラ から測定対象に貼り付けた反射マーカーに赤外線を 照射し,マーカーの反射光からマーカー中心の二次 元座標を計算し制御用コンピューターに記録するもの である. Camera )DFHERZ CCD Camera Marker 6W3 上 &KDLU 下 図 1 Method of measuring jaw, head and body movements St.P: Standing Position, Chair: Sitting Position 測定風景 St.P:立位,Chair:座位
2 台の CCD カメラで記録された二次元座標データ は,ソフトウェア「QTrack」により三次元化され汎用 の数値ファイルとして記録する.このデータは台座に キャリブレーション用のマーカーを設置し,TRIMETII の大地を水平とした座標系と同一座標系となるよう に設定した. 体幹動揺の測定点として,被験者の胸骨の上下的 中間点の高さで体幹の正中に位置する場所に直径 5 mm の赤外線反射マーカーを貼付した.また被験者 の測定体位が立位および座位であっても,測定可能な 範囲にあるように赤外線 CCD カメラを定位した.す なわちこのモーションキャプチャーに使用している CCD カメラの測定可能範囲は,上述する条件下では 上下左右に 45 cm 四方であり,立位と座位でマーカー 位置の違いは,立位における位置が座位における位 置の 10–15 cm 下方となるため,CCD カメラの測定 範囲から外れないよう設定した. 前述の下顎運動と頭部運動の測定データは,サンプ リングレート 100Hz で量子化して記録されている.こ のためこの体幹動揺データも,サンプリングレートを 100Hz としてデジタル形式で記録することによって, 下顎運動および頭部運動とともに同時測定データを 同一の時間軸を保って測定した. 4.被験者 ・ 測定条件 測定時の姿勢は,自然直立の立位と座位の 2 種類 とした.座位測定時には,被験者を高さ 70 cm の背 もたれのない椅子に着座させ,顎運動測定用の標点 LED が TRIMETII の測定範囲にあるように,また胸 骨点マーカーが Proreflex の測定範囲から外れないよ うにした(図 1). 体幹および頭部は無拘束として,測定開始時には カンペル平面を水平に保つように指示し,測定中には 特に頭位の指示を与えなかった.被験運動は,10 秒 間の咬頭嵌合位保持の後,20 秒間タッピング,その後 10 秒間咬頭嵌合位保持という 40 秒間を 1 測定単位 として,十分な休息をとりながら被験者 1 人に 3 回ず つの測定を行った. タッピング運動の頻度は約 3Hz として,測定前に メトロノームで聴覚的に記憶させた.また開口量は被 験者が無理なく行える,なるべく大きな開口を指示 した. 5.分析評価項目 下顎運動の分析点には,下顎切歯点(IL)の運動を, カンペル平面を基準面とした上顎座標系により測定 し,そのうち下顎切歯点の上下的移動距離を開口量 とした(図 2). 頭部運動の分析点には,上顎切歯点(IU),頭頂点 (P),後頭点(O),顆頭点(C)を設定し,それぞれの 矢状面内運動を評価対象とした.体幹動揺は,胸骨 点の大地座標系における矢状面内の前後的移動量を 体幹動揺量とした(図 2). 6.体幹動揺の計量方法 体幹動揺量は,前後的移動時系列データから求め る.しかし,このトレースには,呼吸や重心動揺の 影響が含まれることが示唆されている7).それらを可 及的に除外するため,分析点の移動量は,図 3 に示 すように体幹動揺原波形の内,ピークの始点である A 点から上方に凸型の変曲点である B 点までの垂直 距離aと,ピークの終末点である C 点から B 点まで の垂直距離bの平均値を体幹の前後的移動量とした. 7.周波数分析方法 スペクトル解析用ソフト spcana を用いて,被験運 動の内のタッピング運動 20 秒間において FFT 変換 し周波数分析をした. 下顎タッピング運動と考えられる周波数周辺の頭 部運動と体幹動揺の周波数のピークにおいてそれぞ れのパワースペクトルの値を Wilcoxon の符号付き順 位検定を用いて有意水準a = 0.05 で立位と座位で比 較した. 8.原波形解析による検出率算出方法 下顎運動を 100%とすると頭部運動および体幹動揺 Horizontal plane Mandibular movement Body movement Camper’s plane Camper’s plane IL IL C P IL O O 図 2 The measured points and coordinates IL: Lower incisor, UI: Upper incisor, C: Condylar points, P: Parietal points, O: Occipital points, S: Sternum points 各分析点,座標系 IL:下顎切歯点,UI:上顎切歯点,C:顆頭点, P:頭頂点,O:後頭点,S:胸骨点
はどれぐらい検出されるのか分析するため,原波形の 内,頭部運動および体幹動揺で単峰性の波形を示し, 0.1 mm 以上の運動量を示す波形を一つの波の検出と し,頭部運動および体幹動揺の検出率を求めた.また, Wilcoxon 符号付き順位検定を用いて有意水準a = 0.05 で立位と座位の原波形検出率を比較した. III .結 果 1.下顎運動,頭部運動に同期した体幹動揺 座位と立位における測定 40 秒間の各測定点の時系 列波形を図 4 に示す. 立位においては,下顎運動に同期した頭部運動と 体幹動揺が観察できた.図 4 の体幹動揺のトレース には,小さな振幅の前後方向の動揺が観察できた. 一方座位における記録からは,立位と同様に下顎 運動に同期した頭部運動が認められた.また体幹動 揺トレースには,下顎運動および頭部運動と同期し た前後方向の体幹動揺が立位と同様に認められた. 上述した下顎運動に同期した頭部運動と体幹動揺 は,被検者 6 名すべてにおいて観察された. 下顎運動と頭部運動および体幹動揺との同期の様 相およびそれぞれの運動方向を観察する目的で,タッ ピング運動の3周期のトレースを拡大して図5に示す. 上顎切歯点運動の上下成分の波形に注目すると, 立位 , 座位共に下顎運動の secession に同期して上顎 切歯点運動が認められ,その運動方向は座位と同様 に開口時に上方へ,閉口時には下方への運動を示す 波形が認められた. また,体幹動揺の波形に注目すると,立位,座位 共に下顎切歯点運動の最下方点および上顎切歯点運 動の最上方点に同期して体幹動揺の最前方点が存在 図 5 Magnified movement of the each points in open-close movements UI: Upper incisor, LI: Lower incisor, S: Sternum St.P: Standing Position, Chair: Sitting Position 各測定点時系列拡大図 UI:上顎切歯点,LI:下顎切歯点,S:胸骨点 St.P:立位,Chair:座位 UI LI S UI LI S St.P Chair Calculated value of the body movement S ant pos 300 msec 図 3 Measuring method of body movement Body movement was the average of peak to peak value corresponding to before (a) and after (b ) the concern-ing the peak A: Beginning point of peak, B: Inflection point of convex, C: End point of peak a: B– A,b: B– C 体幹動揺量の測定方法 波高はピークの開始点である A 点から凸型の変曲点で ある B 点までの垂直距離(a)とピークの終末点であ る C 点から B 点までの垂直距離(b)の平均とした. A:ピーク開始点,B:凸型の変曲点,C:ピーク終末点 a:B– A,b:B– C UI LI S UI LI S
St.
P
C
ha
ir
St. P C ha ir UI LI S UI LI S 図 4 Longitudinal data at movement of the measured points UI: Upper incisor, LI: Lower incisor, S: Sternum St.P: Standing Position, Chair: Sitting Position 各測定点時系列表示 UI:上顎切歯点,LI:下顎切歯点,S:胸骨点 St.P:立位,Chair:座位した.その位相は,開口時に胸骨点は前方へ,閉口 時には後方への運動を示した. 2.下顎運動と頭部運動 上記の運動様相について,代表例におけるタッピン グ 1 ストロークの頭部各測定点と胸骨点の運動軌跡 として図 6 に示す. 立位,座位共に開口時に頭部は後方に,閉口時に は前方に頭部運動を示した.また体幹動揺に注目す ると,開口時に前方に,閉口時には後方への運動が認 められた. 3.開口量と体幹動揺量の関係 開口量に対して,体幹動揺量がどれくらいの割合で あるのかを検討するため,タッピング運動それぞれの 開口量に対する体幹動揺量の割合について,平均値 を算出し,立位と座位で比較した.その結果,6 被験 者における開口量は 25–35 mm であった.また立位に おける体幹動揺量は,開口量の 2.3%–6.1%の大きさ で,座位における体幹動揺量は,開口量の 2.0%–4.8% の大きさだった.立位と座位を比較すると,すべての 被験者において,開口量に対する体幹動揺量の割 合は,立位に比べて座位の方が 0.2%–1.3%小さくなり, Wilcoxon の符号付順位検定の結果,有意な差が認め られた(p < 0.05)(図 7). 4.周波数分析 体幹動揺の 3Hz 周辺におけるパワースペクトルの ピークの平均値を立位と座位で比較すると,0.07–0.98 の差で 6 被験者中 5 被験者において立位に比べて座 位の方が低くなり,また Wilcoxon の符号付き順位検 定の結果,有意な差が認められた(p < 0.05)(図 8). 図 6 Trajectories of each measurement points in one open-close movement St.P: Standing Position, Chair: Sitting Position IL: Lower incisor, UI: Upper incisor, C: Condylar points, P: Parietal points, O: Occipital points, S: Sternum points タッピング1ストロークにおける各測定点の軌跡 St.P:立位,Chair:座位 IL:下顎切歯点,UI:上顎切歯点,C:顆頭点, P:頭頂点,O:後頭点,S:胸骨点 Opening phase
Closing phase Closing phaseOpening phase Starting point Starting point
Head Mandibular Sternum St.P Chair Head Mandibular Sternum 図7 Proportion of the body movement to jaw movements St.P: Standing Position, Chair: Sitting Position 開口量に対する体幹動揺量の割合 St.P:立位,Chair:座位 * (%) 7 6 5 4 3 2 1 0 St.P Chair * p<0.05 図 8 Peak power of the body movement at corresponding frequency to the open-close movement St.P: Standing Position, Chair: Sitting Position 体幹動揺のパワーの違い St.P:立位,Chair:座位 0 0.5 1 1.5 2.5 2 3 * n = 6 St.P Chair * p㸱0.05
5.原波形解析による検出率 原波形解析による検出率を表 1 に示す.立位にお ける頭部運動の検出率は 91.6%–100%を示し,体幹 動揺の検出率は 52.8%–97.9%を示した.また座位に おける頭部運動の検出率は 96.4%–100%を示し,体 幹動揺の出現率は 66.1%–95.6%を示した.立位,座 位ともにすべての被験者において頭部運動の検出率 よりも体幹動揺の検出率の方が少ない値を示した. また体幹動揺の検出率を個人間で比較すると 6 被験 者中 4 被験者,立位に比べて座位の方が高くなったが, Wilcoxon の符号付順位検定にて比較すると有意な差 は認められなかった. IV .考 察 1.実験方法について 今回の実験では顎運動を立位でも測定可能に改良 した顎運動測定装置 TRIMETII で測定し,体幹を Proreflex という別々の機器にて測定した.Proreflex にて顎運動を測定可能であるが,今後顎機能障害患 者を測定する際に,顎機能診断を行うにあたり顎運 動を健常者と詳細に比較検討するため 6 自由度にて 分析可能な TRIMETII で測定した. タッピング運動を負荷した頭位はカンペル平面を水 平とした頭位である.この頭位においては下顎のタッ ピング運動経路が他の頭位に比較して安定しているこ とが知られている11).このことより今回はカンペル平 面を水平とする頭位で運動を記録した.この他の頭 位におけるタッピング運動に関しては,今後の検討課 題である. また TRIMETII は頭部および下顎を一切拘束せず, 上下顎歯列間に介在する装置も存在しない無接触な 状態でより生理的に測定することが可能なシステム でるといえる8–10). 原波形解析による検出率の求め方については,今回 0.1 mm 以上の振幅で単峰性の波を検出した.Proreflex および TRIMETII の空間分解能はともに約 0.03 mm のため12),顎運動および体幹の検出の有無を検討す るためには妥当な機器であることがいえる. 体幹の測定点として胸骨点(正中胸骨の 2 分の 1 の 位置)とした.これは軟組織(皮膚や筋肉)の影響が 少ない胸骨中央を用い,それらの影響を最小となる ように測定点を決定した. 2.実験結果について 1)原波形解析による検出率について 頭部運動と体幹動揺における原波形検出率を分析 した結果,体幹動揺における原波形検出率は 6 被験 者中 4 被験者立位に比べて座位の方が高くなったが, Wilcoxon の符号付き順位検定をした結果,有意な差 は認められなかった.被験者が立位における体の重心 は骨盤にあるとされており,また座位における体の重 心は第 9 胸椎周辺とされている13).体幹が前後に動揺 する際,動揺中心となるのは立位で大地周辺に位置す るのに対し,座位では骨盤周辺と考えられる.そのた め動揺中心から体の重心までの距離は明らかに座位 の方が短くなる.そのことから座位の方が体幹は安 定しているため,体幹動揺が著明に認められるのでは ないかと予想できる.しかし,今回の結果では立位と 座位で有意な差は認められなかった.これは,今後さ らに被験者を増やして追及していかなければいけない. 被験者 6 について体幹動揺の検出率が他の5被験者 に比べて少なくなった.前後成分による検出率の分 析ではなく分析方向を変えることにより体幹動揺の検 出率が 20%–30%増加した.そのため今後,体幹動揺 の分析方向についても検討していかなければいけない. 2)体幹動揺量の立位と座位の比較について 開口量に対する体幹動揺量の割合は,立位に比べ て座位の方が 0.2%–1.3%有意に小さな値を示した.ま た,体幹動揺についてパワースペクトル分析をしたと ころ,立位に比べて座位の方が 0.07–0.98 有意に小さ くなった.これは,体幹が前後に動く支点と考えられ る支点が腰のあたりと考えられる座位に対して,立位 では大地が支点と考えられるため,体幹の自由度が 高い立位の方が大きくなったと考えられる. 3)体幹動揺の意義 蔵本ら1–5)はタッピング運動時に生じる頭部のリズ ム性運動を,重心移動や姿勢変化に対抗する働きを 持ち,下顎運動を円滑に遂行するための補助的な運 動であると意義付けている.また山辺ら14–15)は座位 表1 Probability of detected head and body movements by original wave view 原波形解析による検出率
Analyzed points Head movements Body movements
St.P Chair St.P Chair Sub. 1 2 3 4 5 6 99.8(%) 100.0 100.0 100.0 96.3 91.6 98.4(%) 100.0 99.5 100.0 100.0 96.4 97.9(%) 97.2 74.5 80.1 84.9 52.8 94.0(%) 91.7 87.4 90.7 95.6 66.1 Mean(±SD) 97.9(±3.5) 99.0(±1.4) 81.2(±16.7) 87.6(±10.9)
にて加速度計を用いてタッピング運動時の脊椎の動揺 を報告している.体幹動揺についても同じような意義 付けができると考えられる.Fujikawa ら16)は頭部の 重心は耳介の前方で側頭骨の関節結節部と記してい る.また,河野ら6)は正常者の頭部運動の回転中心 は頚椎の上方にあると示している.頭部回転様運動 をした際,頭部回転中心より前方に重心があることか ら,頭部は前後に重心を移動することとなる.そのた め,下顎運動に随伴する体幹動揺は開口時,頭部が 後屈方向に動き頭部重心が後方に動いたことから, 体幹全体のバランスを保つため前方への動揺として現 れると考えられる.また,閉口時には頭部の重心が戻 るため,体幹も元の位置に戻り,体幹のバランスを保 つと考えられる. 4)立位と座位における体幹動揺 開口量に対する体幹動揺量は立位に比べて座位の 方が.また周波数分析を行い重心動揺や呼吸の影響 を省いて体幹動揺量を分析した結果,体幹動揺のパ ワーは有意に立位に比べて座位の方が低くなった. 体幹動揺の検出率に関しては,立位と座位で有意な 差は認められなかったが,座位でも検出可能であるこ とがわかった.もし,体幹動揺がタッピング運動中に おける体のバランスをとっているとすると,座位にお いて体幹動揺量が減少したのは体の下半身を固定し ている座位の方が,タッピング運動中体のいずれかの 部分で体幹動揺を吸収しているのかもしれない. 今回の結果で下顎運動に随伴する体幹動揺は座位 の方が立位よりも小さいということがわかった.その ため,顎機能障害患者を測定する際には立位での測 定が望ましいのかもしれないが,通常ヒトが咀嚼運動 を行う座位での測定も可能と考えられる. 5)今後の展望 ヒトが日常行っている動作には,それに適した姿 勢が存在しており,その姿勢を保つことによって効 率的な動作が行えると考えられている17).今回観察 された体幹動揺は咀嚼運動に適した姿勢を示してい るものと考えられる.しかし一方で顎機能障害患者の 6 割は,タッピング運動時頭部は並進様運動をしてい る6).そのため回転様運動をしている健常者と比べる と,顎機能障害患者は頭部の前後的な重心移動が大 きいと考えられるため,体幹動揺も大きくなると予想 される. そこで今後は,正常者と顎機能障害患者の比較を 行い,顎機能障害患者の体幹動揺を明らかにするこ とで,顎機能障害と首の痛みや肩こり関連性を明ら かにできるのではないかと考える. V .結 論 被験者に立位と座位でタッピング運動を行わせ体 幹の動きを矢状面で分析した結果,以下のような結 論を得た. 1.座位においても,下顎運動に随伴する体幹動揺の 存在を認めた. 2.開口量に対する体幹動揺量を立位と座位で比較す ると,立位で 2.3%–6.1%,座位で 2.0%–4.8%の大 きさであり,有意に立位の方が座位よりも大きく なった. 3.体幹動揺の周波数分析におけるパワーの平均値を 立位と座位で比較すると,立位の方が座位よりも 有意に大きくなった. 文 献 1) 蔵本 誠 , 松山剛士 , 河野正司ほか . タッピング運動時に 観察される頭部矢状面内協調運動 . 補綴誌 1999; 43: 575– 581. 2) 松山剛士 . タッピング運動時に観察される頭部の協調運 動 . 補綴誌 1996; 40: 535–543. 3) Eriksson PO, Haggman-Henrikson B, Nordh E et al. Co-ordinated mandibular and head-neck movements during rhythmic jaw activities in man. J Oral Rehabil 2000; 79: 1378–1384. 4) Kohno S, Kohno T, Medina R. Rotational head motion concurrent to rhythmical mandibular opening move-ments. J Oral Rehabil 2001; 28: 740–747. 5) Kohno S, Matsuyama T, Medina R. Functional-rhythmi-cal coupling of head and mandibular movements. J Oral Rehabil 2001; 28: 161–167. 6) 河野世佳 , 河野正司 . 下顎タッピング運動時の頭部平衡 運動の存在について . 補綴誌 2000; 44: 696–708. 7) 金城篤史 , 河野正司 , 細貝暁子ほか . 下顎運動に随伴す る頭部運動と体幹動揺の同時測定 . 補綴誌 2004; 49 (114 回特別号): 62. 8) 河野正司 . 6自由度顎運動測定装置 TRIMET を使って . 補綴誌 1998; 42: 913–920. 9) 林 豊彦 . ヒトの下顎運動の精密計測・分析システム(ト ライメット , JKN–1)–高分解能リニア CCD カメラの運動 計測への応用 . 映像情報 MEDICAL 1994; 26: 1317–1325. 10) Hayashi T, Kurokawa M, Miyakawa M et al. A high-res-olution line sensor-based photostereometric system for measuring jaw movements in 6 degree of freedom. Frontiers Med Biol Eng 1994; 6: 171–186.
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