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夜間中学の理科の授業から見えてくること: 沖縄地域学リポジトリ

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Academic year: 2021

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Title

夜間中学の理科の授業から見えてくること

Author(s)

盛口, 満

Citation

教職実践研究, 1: 31-35

Issue Date

2011-03

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/21748

Rights

沖縄大学教職支援センター

(2)

第 1 巻,pp. 31 - 35

実践報告

夜間中学の理科の授業から見えてくること

盛 口 満

**

沖縄大学人文学部こども文化学科

Outcome of teaching practices from science classes

at Night Junior High School

Mitsuru MORIGUCHI

(Faculty of Humanites, Okinawa University)

夜間中学の理科の授業の中では,それまでに経験した,さまざまな生活体験が,授業者の思惑とは別個に語られ る。そのような夜間中学の理科の授業内容紹介と,そこから,大学の環境教育に生かせる視点の可能性について, 考察を加える。 キーワード:夜間中学,環境教育,あぶら 1.はじめに 沖縄島は,かつて激烈な地上戦が行われた歴史 を持つ。そのため,戦中・戦後,満足に義務教育 を送ることができなかった方々が,少なからずい る。このような事情をふまえ,学校 NPO 珊瑚舎 スコーレは,2004 年,那覇市内に夜間中学を開設 した。著者は,開設年来,この珊瑚舎スコーレ夜 間中学(以下,夜間中学と略す)の活動に関わっ ており,2010 年度は,3 年次の理科担当教員とし て,隔週に一回,ボランティアで授業を行った。 授業は,50 分1コマの授業であり,これを 2 時間 連続で行っている。また,前期は二分野の「生き 物のからだのしくみ」を扱い,後期は一分野の「も ののつくりと変化」を扱うこととした。本稿で紹 介をするのは,後期の授業の「身の回りのもの」 という単元のうち,「あぶらの仲間」という授業 テーマの内容である。この授業では,身近な物質 のうち,「あぶら」を取り上げたのだが,後述す るように,その授業中,生徒たちからさまざまな 生活体験が語られた。この中で語られた内容は, 生活の中で,あぶらがどのような存在であったの かをうきぼりにするものであると考えられた。一 方,著者が日常的に接する大学生たちは,現代の 消費社会に組み込まれており,夜間中学の生徒た ちのような生活体験を持ちえていない。しかし, そのような学生たちを対象とする授業を考えて いく上でも,この夜間中学でのやりとりから,何 らかのヒントが見つかるのではないかと考えら れた。 2.夜間中学の授業 まず,夜間中学で行った,「あぶらの仲間」の 授業の内容と,その授業の中での生徒とのやりと りを紹介する(あぶらと表記する場合は,さまざ まなあぶらの仲間の総称であることを指す)。前 述のように,この授業は「ものの変化」という単

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教職実践研究,2010,1,31 - 35 夜間中学の理科の授業から見えてくること 元において,三態変化・燃焼・酸化・分解を扱っ たのち,「身の回りのもの」という単元で,金属・ 塩・炭水化物を扱った後に,配置した授業である。 また,後期の第一回の授業においてのオリエンテ ーションの際,生徒の一人から,「家に廃油がた くさんあるのだけれど,セッケンを作ることはで きないか?」という発言を受けた授業内容でもあ る。 以下,「先」とあるのは,著者の発言を意味し, 「生」とあるのは,生徒たちの発言を意味する。 先:「今日の理科のテーマは,あぶらの仲間 です。みなさん,あぶらといったら,ど んなものを知っていますか?」 生:「なたね油」「ゴマ油」「オリーブオイル」 等々 先:「では,これから瓶に入れたあぶらの仲 間をみなさんのところに回すので,色や ニオイでなんというあぶらか,あててく ださい」 (小瓶に入れた 4 種類のあぶらをまわす) 生:「1 番はブタのあぶらじゃないかな。それ も時間のたったやつでしょう」 生:「3 番は灯油ですよ」等々 (正解は,①ウミガメ②なたね③灯油④オリ ーブ) 先:「1 番のものは,西表島の知り合いのおば あさんからいただいたものです。戦後す ぐは,てんぷらを作るにもあぶらがなく て,ウミガメのあぶらを使ったりしたそ うです。このあぶらは火傷の薬にもいい からと,いただいたものです。もうずい ぶんと時間のたったものなので,ちょっ と,酸化したニオイがしますね。みなさ んのおっしゃるとおりです。それに,ブ タのあぶらじゃないかというのも,動物 性のあぶらという点ではあたっていま す」 生:「ウミガメのあぶらは薬ですよ」 生:「ウミガメの肉はおいしいんですよ」 生:「私はこどものころ,ウミガメの卵をず いぶんと食べました」 先:「2 番はなたね,4 番はオリーブです。こ うした植物性のものに比べて,1 番のウ ミガメのあぶらは,どろっとしています ね。昔は,ブタのあぶらみを鍋で炒って, あぶらをとったといいますね」 生:「そうです。あぶらを取った残りはアン ダガシーといって,これもおいしいです。 今では売っていたりしますが,ときどき 買って食べますよ」 先・「ブタのあぶらは,取ったあと,カメに 入れてとっておくと,白い固まりになり ましたね。こんなふうに,あぶらには, 液体のあぶらと,固まりのあぶらの 2 種 類があります。それぞれ,漢字で書くと, 油と脂です」 (油と脂と板書する) 生:「寒いところだと,ゴマ油はどろっとす るといいますよ」 生:「ブタの脂も,あたためると融けますね」 先:「そうです。普段の温度で,液体か固ま りかということです。固まっている脂も 加熱すると液体になりますね。さて,こ うした違いがありますが,植物から取っ た油も,動物から取った脂も,食べるこ とができます。でも,3 番の灯油は食べ ることができません」 生:「灯油とガソリンはどこが違うんです か?」 先:「大事な質問ですね。ここに灯油を持っ てきました。実験をひとつしてみます」 (灯油をビーカーに入れ,そこに火をつけた マッチを投入する。すると,火はすぐに消え る) 生:「あれっ? 火がつくと思ったのに」 先:「灯油は,直接に火をつけようと思って も,つきません。火をつけるときには, 芯を入れる必要があります。昔,灯りに つかっていたランプもそうでしたね」 生:「私はランプのホヤをみがく係りでした」 先:「これがもし,ガソリンだったら?」 生:「爆発します」 先:「灯油もガソリンも地面の下から汲み上

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盛口 げる,鉱物油と呼ばれるものです。一般 には石油といっていますね。この石油の 中にも,火がつきやすいものと,火がつ きにくいものがあるというのがわかり ますね」 生:「重油というのもありますね」 先:「海岸に打ちあがっていることがありま すね。あれはどろっとしています。灯油 よりも,もっと火がつきにくいものです。 油と脂は,普段の温度で固まっているか どうかの違いでしたが,石油の中にも, 液体のものと,固まっているものがあり ます。そして,液体のものの中でも,火 がつきやすいものは,とても蒸発しやす いという特徴があります。ですから,一 番,燃えやすい石油の仲間は,普段から 蒸発してしまっている,ガスなんです」 (授業前は,分子の構造を説明することも考 えていたのだが,話による説明だけとした) 生:「ガス? 火山からも出てきますね」 先:「ガスというのは気体のことを言うので, ガスの全部が石油の仲間ではありませ ん。中には燃えないガスというのもあり ます。火山のガスや,毒ガスは燃えない ガスです。ここまでのことをまとめると, あぶらの仲間には,植物や動物から取れ るものと,石油の仲間があり,それぞれ, 普段の温度で液体のものと,固まったも のがあるということです」 生:「ひまし油は植物から作るけど,食べら れませんよね」 先:「そうですね。植物から取っても,食べ られない油もありますね」 生:「戦時中,ヒマを作って,油は供出しま した。今でもヒマを見ると,それを思い 出します」 生:「油というと,戦後すぐにモービルでて んぷらをしました」 (アメリカ軍の車両に使われていた機械油 を,てんぷら油として使用したという話であ る) 生:「モービルであげたてんぷらは,食べ過 ぎると,お尻から油がでてきます。小禄 にアメリカ軍の飛行場があって,そこか らモービルを盗んできました。食べるも のがない時代ですから。モービルで揚げ るとき,アワがたくさんでてね。」 生:「モービルの油は黒っぽかったよ」 生:「配給のチーズも,最初はどうやって食 べていいかわからず,融かして油にして 食べたりね」 生:「油にするんだったらまだいいわよ。セ ッケンと間違えて,体洗ったり(笑)」 (ここで,もう一つ,実験を演示する。試験 管に水とロウを入れたものを加熱する) 先:「ロウは前に授業で紹介をしましたが, 石油からできています。あぶらの仲間な んですね。水とロウを一緒に熱すると… …」 生:「わかれちゃいますね」 先:「そうです。水と油はインとマヤーの仲 なんです。このいい方は,去年の 3 年生 に教わったんですけど」 生:「インとマヤー!(笑)」 (インとマヤーは,イヌとネコ,つまりは犬 猿の仲のこと。続いて,今度は試験管の中に, ロウと灯油を入れて加熱する) 先:「今度はどうなりましたか?」 生:「一緒に混じりました」 生:「それは,冷やすと,またロウソクに使 えますか?」 生:「いい質問ですね。水とロウはインとマ ヤーでした。ロウと灯油はあぶらの仲間 なので,混じりあいます。でも,ロウは 普段は固まっているあぶらです。灯油は 液体のあぶらでしたね。ですから,混ぜ ると,中間の性質になってしまいます。 だからロウソクにするには,柔らかすぎ てしまうんですよ。これを利用したのが, 廃油を捨てるときに混ぜる凝固材です」 (廃油の凝固材を提示。これをアルミ皿に入 れて,加熱すると,液体になることがわかる。 すなわち,廃油の凝固材はあぶらの仲間) 先:「水と油はインとマヤーです。身近な例

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教職実践研究,2010,1,31 - 35 夜間中学の理科の授業から見えてくること をあげると,ドレッシングがそうです。 放っておくとわかれてしまうので,よく 振って混ぜてからサラダにかけますね。 でも,中には,水と油なのに,うまくま ざっているものがあります。サラダにも 使いますね」 生:「マヨネーズ」 先:「そうです。マヨネーズには水と油が入 っていますが,もうひとつ,水と油の両 方の性質があるものが,入っています。 この両方の性質があるものが,水と油を 結びつける役割をしてくれています」 生:「卵ですね」 先:「そうです,そうです。こうした,水と あぶらの両方の性質があるもののこと を,界面活性剤とも呼びます。じつはセ ッケンもそうした性質があります。水と あぶらの両方の性質があるから,あぶら ヨゴレを,水を使って落とすことができ るわけです。今日はこれからセッケンを 作りますが,まず,天然のセッケンを見 てみましょう」 (生徒一人ひとりに,水の入ったコップとス トロー,それに切れ目を入れたムクロジの実 を渡す。ムクロジの実をちぎってコップの中 に入れ,ストローでかきまわし,さらに息を 吹き込むと,ぶくぶくとアワ立つ。) 生:「アワ立ちました」 生:「本当にこれでヨゴレが落ちるんです か?」 生:「この実をつける木はどこに生えている んですか?」 先:「ムクロジは,沖縄島だと本部半島に生 えているようです。南部ではみかけませ んね。僕の生まれた千葉県などでは,神 社などに植えられていますよ。昔は,こ うした天然のセッケンを使っていたの が,やがて油や脂を利用したセッケンが 作られるようになり,そのうち石油から 洗剤が作られるようになったわけです」 (このあと,各自持参した廃油とペットボト ルを利用してセッケン作りをおこなったが, この内容に関しては省略する)。 3.夜間中学での発言と,その応用に関する考察 これまでも筆者は,夜間中学の授業実践の中で 生徒たちから豊富な生活体験が語られることと, そのことは理科という教科の本質に関わること ではないかという指摘を行ってきた(盛口,2007)。 今回の授業内のやりとりから,沖縄における戦 前から戦後すぐの暮らしの中において,あぶらは 「灯り(ランプ)」「食用(特にてんぷら用)」と しての存在価値が大きく,それ以外に「燃料(た だし,軍事用物質として供出)」という利用法が 生活に関わっていたということが聞き取れる。沖 縄島・南部の竹細工で有名な集落(佐敷町小谷) で,昭和 9 年生まれの K さんから昔の暮らしの聞 き書きを行った際も,少年時代から竹細工を手が け,これを漁師町で有名な糸満まで歩いて売りに 行き,その売って得た現金の使い途の一番は,灯 油の購入費であったという話をうかがった。ただ し,この夜間中学の授業のやり取りの中では,登 場しなかったあぶらの利用方法がある。それが 「原料としてのあぶら」である。 さて,こうした夜間中学でのやりとりは,著者 が担当している大学の授業とは,どのような関連 があるだろうか。 2010 年度に著者が大学で担当した科目の一つ に,「総合演習・環境と社会」がある。半期・15 回の授業のうち,前半は「環境とは何か?」とい うことを,身近な物質を通して考えることとし, 実験やグループ討論を含めた授業を行った。その 内容をふまえ,後半では受講者各自が,「環境と 社会」に関わる授業を作成し,20 分の授業を行う ことを課題とした。受講者の作成した授業案は多 岐にわたったが,その授業案のいくつかに,あぶ らに関する授業内容が含まれていた。この学生た ちの授業案で扱われていたあぶらと,先の夜間中 学でのあぶらにまつわるやりとりとを比較して みたい。以下のように,総計 17 名の授業案のう ち,6 名の授業案の中に,あぶらと関連する内容 が盛り込まれていた。

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盛口 K・N 戦闘機の燃費から見る,基地と環境問 題について(「燃料としてのあぶら」) M・K シャンプーの諸問題(「原料としてのあ ぶら」) R・O エコカーとは何か?(「燃料としてのあ ぶら」) M・J ホットケーキに見るフード・マイレージ (「燃料としてのあぶら」) D・D ミカンの搾りかすから作るバイオエタ ノール(「燃料としてのあぶら」) Y・M 石油を使わない生活は可能か?(「原料 としてのあぶら」) A・S コンビニのオニギリは安全か?(「食用 としてのあぶら」) これらの授業のうち,Y・M が授業者となった 「石油を使わない生活は可能か?」という授業に ついて,取り上げてみたい。この授業では,まず 地球温暖化についての基礎知識を確かめた後,温 暖化の原因となる二酸化炭素の排出源である石 油について考えていくという流れになっていた。 授業における中心的な課題は,「温暖化を押さえ るために,石油を使わない生活はなりたつか?」 である。まず,石油から作られている製品がじつ に多岐にわたっていることを確認した上で,「そ れらの製品に代用するものはありうるか?」とい う問題を考えていくことから,メインテーマの 「石油を使わない生活が成り立つか?」という問 題を考えるという授業であった。授業の構成など, 改善すべき点は多かったが,身近にあるさまざま な「石油製品の代用可能性」という問題設定は, 大変に興味深い視点であると思わされた。Y・M の授業においては,この問題の討論を帰着するに あたっての資料が,何等示されなかった。が,先 の夜間中学の生徒とのやりとりこそ,この問題を 考える上での参考資料になるものであろう。つま り,繰り返しになるが,夜間中学の生徒たちの発 言にあった「暮らしの中のあぶら」は,主に「食 料」や「灯り」のためのものであり,「燃料」は 直接,暮らしに結びついているものではなく,あ ぶらが「原料」となっている暮らしの道具は,意 識にあがるものが特になかったということなの である。しかも,前述の夜間中学の生徒と同年代 の,佐敷町の K さんの話に立ち戻るならば,当時 の「竹細工」の「代用」こそが,プラスチック製 品なのである。つまりは「石油製品の代用はあり うるか」という問題が設定されるということは, じつは「石油製品はもともと代用品として生み出 された」という歴史を,現代社会に暮すわれわれ は忘れつつあるということを意味している。例え ば,夜間中学でのやりとりを,どのような形にか して教材化することは,このような気付きを生み 出しうる可能性を秘めているのではないかと考 える。 現代において,人々の暮らしは急速に変化して きた。しかし,それはとりもなおさず,暮らしが 変化をする前の記憶を持った人々との交流が,ま だ可能であるということでもある。夜間中学での 授業は,これまで「学びの場」をうばわれてきた 人々にとって,待望の学びの場であるわけだが, それと同時に,授業者にとっても,多くのものを 気付かせてくれる学びの場であるということが, 言うことができる。 参考文献 盛口 満 2007 「理科の授業と生活体験――夜 間中学及びフリースクールの授業実践から見 えてきたこと」 『沖縄大学人文学部紀要』第 10 号 157-170 頁 受付日 2010 年 12 月 28 日 受理日 2011 年11 月 31 日

参照

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