- カ ール ・オル フ とル ドル フ ・シ ュタイ ナ -の 音 楽 教 育 に おけ る共 通理 念-高 橋 正 道 幼児教育において,芸術が どれほど重要 であるかを私たちは良 く知 ってい るつ も りです。 中で も音楽が幼児教育の現場 と深 くかかわ りのあることは,体験済みで し ょう。例 えば,実 習の打ち合わせに出かけまして 「朝の歌
」
「お帰 りの歌」,季節 の「
○
○の歌」な どの伴奏譜 を渡 された り 「当園では鼓笛隊があ ります」 とか 「鑑賞教材を何か考 えておいて下 さい」な どと言われた りします。そ こで,ああてて ピア ノ練習室に駆け込 んだ り,図書館で楽譜 を探 した り-・.・・。明 日に迫 った実習を前に して改 めて 「音楽 ってホ ン トニ重要 なんだな-」 と, 気がついて下 さるわけです。 しか し,その気付きか ら, も う一歩踏み込 んで考えて欲 しい こ とがあるのです。 ここで質問 してみます。 (∋ 子 どもの音楽 とは, どの ような ものですか ? (参 それは,子 どもの成長や教育に とってなぜ必要 なので し ょう。 ③ 幼児教育者 であるあなたは, 日頃 どんな音楽を大切に してい ますか ? さて,③ はす ぐ答え られ るに しても,①②は,少 し考 えるか も知れ ませ ん。 といい ますの は, この質問は, ピアノが も う少 し上手に とか,声が もっと良 く出 るように・・・・・・とい った, こち ら側の備えてお く必要性か ら,音楽が重要 なのだ, とい うレベルの問題 ではな く, もっ と子 どもの側に立ち入 った教育学的な問題 として とらえなければな らない内容を含 んでいる か らですO従 って,幼児教育著を養成 している機関,つ ま り大学や専 門学校の専門教科 で研 究すべ き問題 と言 って良い ものです。皆 さんが習 っている音楽関係 の授業は 「声楽」
「ピア ノ」
「音楽理論」
「音楽 リズム」と,割合に多いのですが,実際は歌 い方や弾 き方,それに動 き 方 のテクニ ックの習得 と年間に便い うる実例 曲や レパー ト1)-の勉強 で精いっぱい とい うの が実情です。芸術や音楽教育の重要性は, も う解 り切 った もの として 「その よ うな根本的 な 問題は専 門の人に任せておけ」 と言 ってい るようです。幼児教育の専門家 とは誰のことで し ょう。子 どもの 目を真正面 に見すえ接 して行 くあなたが専門家でな くて誰が専 門の人 で し ェ うか ?多 くの先輩たちが子 どもの音楽教育を考え実践 して来 ました。先人の残 した ものをつ ぶ さに調べ ます と音楽教育の広が りと深 さ,そ して他の分野 との関連性,従 って教育者 のな さねばな らない こと等,た くさんのことが解 ります。 とか く私たちほ,本質を良 く考 えない で,出て来た形 とか方法に とらわれ,す ぐ「
○
○す る方法」
「子 どもの喜ぶ○○
」 と い った 方法論に 目を向けがちです。例 えば,音楽 リズムが必要だ となると レパ ー ト1)-だけに気を と られて(1) 「リトミックは単 なる教育上の方法ではな く,その背景に広範な理念,精神が流れている」 ことをあま り注 目しません。 そ うい った意味 でこれか ら述べ ることは
,
「幼児教育におけ る 音楽の諸問題」の提供 であ りまして,そ こか ら皆 さんの これか らの研究 テーマを見つけてい ただ く目的を持 っています.そ こで,今回のサ ブ ・タイ トルは- オル フとシ ュタイナーの 音楽教育における共通理念- とな っていますが 「音楽教育の諸問題」である限 り,教育学 的 な観点を離れ るわけには行かないので次のよ うな手順 を組み ました. ・幼児の音楽教育 に携わ った先人たち (ペスタ ロッチ とフ レーベル, ダル クローズ, コ ダーイ, モ ンテ ッソー リ,オル 7, シ ュタイナー) ・共通 の音楽教育理念 (オルフとシ ュタイナーを中心に) ・まとめ :子 どもと共有の音楽を求めて 第 Ⅰ章 幼児の音楽教育 に携わ った先人たち (2) これは 「音楽教育の歴史」 とい う広範 なテーマですが, ここでは幼児教育 とのかかわ りに おいて必ず登場す る教育者,音楽家が音楽 (芸術)を どの ように考 えたかを述べ ます。1
ぺスタロッチとフレーベル 師弟の関係 であ った この二人は,子 どもの本来持 っている優れた資質を植物 の芽,いわゆ る 「発芽期」の ように大切 に育ててや る場所 として 「子 どもの園」kindergarten を創設 し ました。その教育思想の中で,芸術が幼児期 にどれほ ど重要 なものであるかを教えています。 (3) べスタロッチほ著作の各所 で 「素質」 と 「母性愛」を強調 してい ますが,特に,子 どもの本 性 の うちにある各種 の諸能力 (エ レメ ン ト)が望 ましい発展をす るためには, 自然界にある (4) 諸要素 (- レメ ソ ト)に耳をかたむけ る必要性をのべてい ます。人間は生 まれて来 る時,将 来 さまざまに展開 して行 くであろ う素質をもらっていて,初 めは不器用 な状態 だけれ ども, それを 自然 な法則に従 って助けてや らねばな らない, とい うわけです。 そ こ で フ レーベル は,子 どもが 自分を取 り巻 く世界を知 るための本能的 な行動は 「遊 び」であるとして,立体 構成遊 びのた桝 こ 「恩物」を考案 しました. また,音楽教育のために 「歌 に よる遊 び」を用 (5) 意 しました。二種類 に分かれています。 1つは 「母の歌 と愛撫の歌」で,子 どもが按す るさ まざまなもの,例 えば動物,植物,天体,社会,神様,家庭,数,時間,感覚,人体などを 「にわ と りさんおいで」
「子 どもとお月 さま」
「か くれ んぼ」
「においの歌」
「チ ックタ ック」 とい うような50の曲にしています。子 どもの手や顔 に触れ なが ら使 うものでして,言わばス (6) キ ン ・シ ップの歌 です。 も う1つの種類は,
「運動遊戯」 と訳 されているものです。 集団で 動 く体操や行進 のため,又 「かたっむ り」 とい った 自然界にあるテーマを皆んなで一緒 に渦 巻 きになる動 きの中で表現す るものもあ ります。 フ レーベルが 「芸術は人間が共通 に所有す (7) るものであるか ら小 さい時か ら良 く保育 され るべ きであ る」 とい う目標を具体的 に 「歌 に よ る遊 び」で示 したわけです。この項 を終 りますが, まとめ として短かいけれ ども大変に重要 な言葉 (今後それをキー ワ ー ドと呼ぶ ことに します)を心に留めて下 さい。それは,文中に出て釆 ました 「素質」です。 2 エ ミール ・ジャ・ソク ・ダルクローズ 「リトミック」 といえば どなた もご存知で し ょう。それを創始 した人です。養成機関 の科 目では 「ダル クローズの リトミック」 とい う固有のシステムを包括す る ような立場 なので し ょうか 「音楽 リズム」 とい う科 目が置かれています。 彼は,19世紀後半の技巧中心 の音楽大学や紋切型の学校の授業,公教育の場での音楽 の軽 (8) 視 について大 きな疑問を感 じて,1905年 に 「学校教育改革論」を書いています。その中でペ スタロッチや フ レーベルが行なった幼児の音楽教育に敬意を払 いつつ ち,その学 説 と 実 践 (9) は,私立の教育機関でのみ行なわれていた ことを指摘 してい ます。彼の 目標は,公共機関に おいて全ての子 どもたちに対 して,ふ さわ しい音楽教育が与 え られなければな らない とい う 考 えで した。その原理 は,動 きと音楽 と言葉を総合的 に とらえ,脳 と体 の達系を 強 め て 行 くもので,幼児か ら学童 まで段階的に進む音楽教育課程を考案 しました。その課程 と原理全 体 を 「リトミック」 と呼ぶわけです。 その段階 とは, まず リズム運動, 次に ソル フ ェージ ュ,そ して即興演奏です。子 どもの生来 の音楽的才能を伸ばすため, また音楽的表現 に生命 を吹 き込む ものは動 きと リズムであって,特 に幼児期 では,抵抗があ って伸び られない諸機 能 を 目覚めさせて解放 させ るために, リズム運動が有効 であるとしているのです。 各 段 階 に,耳 と声 と体が互 に協調 し合 うような課題が用意 されてい ますが,それを用いて導いて行 くわけです。当然 の ことですが,先生は彼のメ トー ドを知 り尽 していなければ な らない こと にな ります。 リズム教育が重要 であるとい うことで,やや もす ると リズムと拍子を混同 して 2拍子に合わせて手を打 った り,歩かせた りす るとい うことで終 るものでない ことに注意 し なければな りません
。1
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世紀に主流になった記譜法の小節線か ら生ず る拍子の中に, リズ ム の本質があるのでほあ りませんO ヨー ロッパの音楽史だけを見て もそれは簡単 に気がつ きま すが, まして 日本 の伝統音楽の リズムを拍子論 で説明 しようとす る人がいない と 同 じ よ う に, リズムの問題 は,それ 自体が大 きな研究課題 で し ょう。 申 しあげたいことは, ヨー ロッ パのある時期に主流であった音楽を もって音楽教育が こと足れ り, とはいえないであろ うと い うことです。 ダル クローズの リズムについての考 え方を1つ紹介 しておきます。 「リズム は人間の生活を法則づけて来た神秘を示 し,人間を高めた素朴 な宗教的性格を心 に気づかせ (10) る」 と。音楽の創作過程,そ して音楽の意味す るもの まで も洞察 した言葉ではあ り ま せ ん か。 リズムの学習をす る前に,人生 とか 自然を深 く掘 り下げて, 自分で何かを確認す るよ う 31ilHg 教育者 にすすめているのです。 キー ワー ドは,
「動 きと音楽 と言葉の総合」 とい うことです。 3 ゾルタン ・コダーイ - ソガ 1)-の音楽教育 に貢献 した作 曲家で,子 どものことを 「小 さな人間」 と呼 んでいることにまず注 目させ られ ます。 自国に伝わ る民謡を採集す ると同時に自ら教育的 な意図で多 くの作品を書 きました。彼の教育理念を特徴づけるものは 「歌」か ら出発 してい る こ と で す。音楽は言語以上 に人の心 を知 ることがで き,幼児期 では,特 に自国の民族 の歌をすすめ ています。幼児期か ら声 を使 った音楽を通 して,集団の中で自己を兄い出すのです。 コダー イの音楽観を示唆す る短かい言葉を紹介 しまし ょう。 (
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2)「6
歳 までに聞いた音楽は,生涯消えない」 「私たちの時代の機械文明のあ とには,私たち自身の機械化が待 っている。 この運命を守 (13) るのは,歌 うことの精神だけである」 「文化遺産 は人か らもらうものではない,先人の残 した文化は,それぞれの世代が,あ ら (14) ためて自分 の ものにし直 さなければ, またた くまに消えてな くなる」 偉大 な教育者,芸術家 とい うものは,過去,現在,未来を見通 した発言をす るものだ と感 じませんか。「6
歳 までに聞いた音楽」が生涯の音楽的 な感覚に重大 な影響を与 えると な る と,私たちほ,一体 どんな音楽を母か ら,先生か ら,そ して社会か ら与 え られたで し ょう。 そ して, これか ら6歳 までの子 どもの前で 「先生」 と言われ る皆 さんは, どの よ うな音楽 で 心 を伝 え ようとしているので し ょう。文化遺産 について, どれほ どの考 え方 と知識 と態度を 持 っているで し ょう。 コダーイの強調す る民族 の歌は, 日本であれば, ど うい うものを差す のでし ょう。私たちは,子 どもの前に, 自国の民族の歌 をどれほ どの配慮 と自信 を持 って示 す ことができるでし ょう。 さて,彼の教育的作品に触れておきます。 (1) 「ビチニア ・- ソガ リカ」- 4巻か らなる1
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曲の2声 曲集O序文 に レター ・サイ ン とい う方法の説明があ ります。五線譜に音符を書かず に,符尾 の下 に ドレミの文字だけが書 かれています。第2
巻の「
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0
の子 どもの曲集」は特に幼児のために作曲 された ものです。 (2)「
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5
の2
声 曲」- 歌詞がない2
部合唱。 (3) 「正 し く歌 お う」- 107曲の歌詞がない2部合唱。 (4) 「333の視唱練習曲 ・- ソガ リ-民謡への導入」- 80パーセ ン トが6度以内の音域 で レターサ インで書かれた易 しい曲か ら,順次,調号 もついて来 ます。曲の早 さの指示 はな く (15) 歩 く速 さで良い としています。 「子 どもの声には, ピア ノのCは低す ぎる」 ことに留意 した 曲集 です。 (5)「小 さい人間たちの うた」- 50曲か らなる曲集0 3人 の- ソガ リー詩人の歌詞で作 ら (1
6
) れています。 「子 どものことば で語 ることを知 っている優秀な詩人 である」 と, コダ-イほ 称賛 します。 (6)「ペ ソタ トニ ックの音楽」- 4巻あ り全部で 440曲でな り立つ歌 ですが,楽器で も良 いものです。全て レターサ インで書かれ ています. 3巻は 「マ リ民族の歌」, 4巻 は 「チ ュ ヴァシュ民族の歌」,全 てペ ソタ トニ ックで作 られてい ます。 ここでペ ンタ トニ ックについて説明します.五音階 とも言い ますが,今後常にペ ソタ トニ ックと言いますO感 じをつかむためには, ピアノの黒鍵を弾いてみれば よろしい と 思 い ます。構造的 には半音 を含 まない音階ですか ら, 白鍵上 で も ドレミソラ, ソラシ レミと作 るこ とが出来 ます。いずれにせ よ,私たちに とって, どことな く懐か しい気持 が湧 き上 って来 ま せ んか。「あんたがた どこ
き」
「棒が一本 あ った とさ」
「か くれ んぼす るもの寄 っといで」を 歌 って ごらんな さい。 コダーイの全作品の70パ ーセ ン ト以上 が, このペ ソタ トニ ックのふ し まわ しで出来 てい るのです。彼 が執物 と思 え るほ どペ ソタ トニ ックを使 ったのは何故 で し ょ うか。彼 自身 の語 ることを聞いてみ まし ょう。 (17) ・ - ンガ リーの子 どもに とって,ペ ソタ トニ ックの音楽 は母乳 に等 しい。 ・ ペ ソタ トニ ックに充分 に浸 った時期 のあ る子 どもは, /、ソガ リーの 自然 な美 しきを (18) 感 じとれ る。 ・ ペ ソタ トニ ックの音楽は保育園に適 してい る。最初 の基礎 と最初 の決定的 な経験 は (19) 保育園にあ る。 (20) ・ 早 くか ら半音を含 んだ音楽に慣 らされた子 どもは, のちに正 しい音程が取れない。 ・ ペ ソタ トニ ックで一生を終 ろ うと言 うのではない。しかし初 めるのは ここからであ く21) る。 この よ うにペ ソタ トニ ックを重視す ることす さまじい ものがあ ります。何故 な の で し ょ う。それ は, - ソガ リーとい う国民性 とい うばか りではない ようです。先 に も吉 いましたけ れ ど,私 たちに とって も確かに落 ちついた安堵 の心持 ちに なれ るのですOそれは,世 界 の民 族 の歴史 の中で育 まれた根源的 な音組織 であ ると言って も過 言ではあ りませ ん。他 の国の教 育者 もこれについて特別 な扱 い方 をしてい ます ので,後 でのべ る教育者 のペ ソタ トニ ック観 について もここでのべ ておきます. オル フほ 「ペ ンタ トニ ックは長 くや るほ ど良い。それに よって言葉 を覚 える よ うに子 ども の即興性が養われ る。ペ ソタ トニ ックを離 れて現代 の音組織 を理解 で きない。 いつ まで もペ (22) ソタ トニ ックとい うのではな く, これはあ らゆ る種類 の音楽 の基礎であ る」 として 「子 ども のための音楽」を作 曲 しています。 シ ュタイナ ー も力説 します。 「人間は,満九歳 にな るまでペ ソタ トニ ックを身近 に感 じるものだ。含 まれ る五度音程 は,水平にただ よ う気分 で子 どもの魂を とらえ る。子 どもはペ ソタ トニ ックを音楽体験 (23) として十分に通過 しなければ な らない」 (24) モ ンテ ッソー リもまた 「グ レゴ 1)オ聖歌 は子 どもの心に落 ちつ きを与 え る」 と言 って グ レ ゴ リオ聖歌 の旋法性 に含 まれてい るペ ソタ トニ ックに気 がつ いていた ことを読 み とることが で きます。 いずれ も人間 の成長 の過程 で吸収 され るべ き根源的 な要素 と考 えてい るよ うに思われ ます。 キー ワー ドは 「小 さい人間」 と「6
歳 までに聞 いた音楽 は生涯 消えない」 です0 4 モンテ .・Jソー リ モ ソチ ッソ- I)も子 どもの音楽教 育にかかわ った先人 のひ と りですO モ ンテ ッソー リと言えば,感覚教材を思 い浮かべ ますが,単 に教材 の発 明で今 日の教育界 に まで影響を与 えてい るのではない ことを まず,確認 してお きます。何故 こんな解 り切 った ことを申 しあげ るか と 言 い ます と, モ ンテ ッソー リ教 育 -感覚教材 とい う理解 は,幼児 の音楽教育 -童謡 とい う考 え と同 じことです。 そ の よ うな レベルの理解 では, 「子 どもの発見」 な ど出来 るはずが ない の と同 じよ うに
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「創造的 な芸術活動」を導 くことな ど出来 ないで し ょう。 彼女が教材を完 成 させ るに至 った考 え方 と道筋 を理解 したのち,子 どもとの対応 の中で 「魂 の触れ合 い」が (25) あ り,教育 の刷新 に必要 な 「子 どもの内部か ら湧 き出 る厳粛 な感動 にゆ きぶ られ る」思 いが す るのではないで し ェうか。そ もそ も,私 の話 も最初か ら 「人間 であ る子 ども」 の側 に立 っ た時 の音楽 の重要性を考 え ることで出発 しているのであ って,単 に教材 を扱 う音楽的技術 の 重要性を強調す るものではあ りませ んOそ の よ うな立場 でモ ンテ ッソー 1)の音楽教材 を見て 行 きまし ょう。 (1)音感ベル-1
3
個 の見かけが同 じベル。音 の高 さが異 な ります。 これで全音階や半音 階 を作 り,声 で も歌 います. モ ンテ ッソー リの感 覚 教 具 を 「属性 のアル フ ァベ ッ ト」 とか 「感覚刺激 の孤立化」 と言 った りします。音感 ベルの場合 の孤立 された感覚刺激は,音階 と い う秩序 で して,具体的 には1音1音 の 「高 さ」 とい う性質だけを取 り出す ことです。 も う 少 し説 明 します と,今, ドとソの音を同 じ材質 の鉄 (質量,巾,厚 さ) で作 った とす ると, 物理的 に ドよ りも高い ソの音は,/(-の長 さでは短 か くな ります。 この場合 の2本 の/ミ-は 「音 の高 さ」 と 「長 さ」 とい う2つ の性質を持 っています。 ところで, この2つの性質 の う ち,
「高 さ」 は耳 に よる聴覚刺激 です し,
「長 さ」は視覚(又は触覚)刺激 です。そ こで モ ンテ ッソー リの教具 の考 え方 を使 い ます と,バ ーの性質 の うち 「高 さ」 とい うことだけを取 り出 せ る よ うに,それ以外 の も うひ とつ の 「長 さ」 とい う性質 は出て来 ない よ うに 「長 さ」 の方 には同一性を与 え るわけです。そ うします と,見かけが全 く同 じバ ーですか ら, ドとソを確 認す るには,たたいて耳 で聞 く以外 に方法がない ことにな ります。長 さの異 な る普通 の鉄琴 な らば,極端 な話,聞か な くとも見 るだけで も解 って しまいます。音 とい うものは耳を とぎ 澄 まして聞かねば な らないはず なのに,それ では困 りますOそ こで先 の工夫 は聴覚 にた よる べ き性質だけを取 り出 した ことにな ります。 ここに 「聴覚刺激 の弧立化」を図 った1
3
個 の音 感 ベルが成立 します。子 どもは同一性を持 った1
3
個 のベルの中に秘 め られた音階 とい う秩序 (人間 の感覚が生み出 した必然性 のあるもの)を聴覚だけで探 し出 しなが ら再編成す るわけ です。そ こに,聞 くとい う 「集中」 が可能 にな ります。 さらに,作業経過中 の 「ひ らめ き」, 自己修正に よる自立心,完成 -の責佳,完成 の充実感 と喜 び,音階 とい う秩序 の把捉が出来 るで し ょう。 この教具 は, まさにモ ンテ ッソー リの言 う 「音楽 の練習は 目に よって象徴 を見 ることでは (26) な く,耳 で基本的 な音 を認識す ることであ って,練習 の出発点 は ここにある」が具体化 され た もの と言 えます。 (2)楽譜 の読 み方練習- 五線板 と音符玉それ と音感ベルを並用 して,音階 とい う音組織 と論理 的に秩序だて られた記譜法 の関連性 と合理性 を把握す るものです。練習 の中で特 に注目してお きたい ことがあ ります。 2対 の五線板 と音符玉を利用 します。 まず ドレミと声 を出 しなが ら上 向オ クターブを,次 に下向 して ドまで戻 ります。音列 は, 山型 に見 え ます。次 に も う1万 の五線板を下 に くっつけて,それを利用 します。その時,上 の板 の右端 にある ドか ら左方 向に ドシ ラと下 向オ クターブを,次 に上 向 して上 の板 の左端 の ドまで辿 ります。そ の よ うにして出来 た 白い音符玉図型 は,整序 された菱型を作 り, ドの音を結 んで上下,左右対 称 にな っています。上 の五線板 に ト音記号,下 のには-音記号をつけ ることで大譜表 の関係 が密接 な ものとして認識 で きます。 音階 の秩序 も記譜法 の合理性 も,人間 の長 い歴史 を経 て生 まれ るべ くして生 まれて来 た も のですが, これ らの成立課程を子 どもも,同 じ ように彼 の成長 と発達 の中で, 自分 の力に よ って創造 して行 くか の ようではあ りませ んかO モ ソテ ッソ- リの教育 は 「生命 の教育」 と言 (27) われ ます。大人 の使命 は整備 された環境 を与 えてや ることです。そ して,物事 を 吸 収 す る 「敏感期」 の子 どもに とってほ,教師 も環境 の一部分 であ るそ うです。 (3)雑音筒- 蘇 ,青対 にな った6種類 の異 な る音が出 る同 じ形 の筒 を利用 して,音 の種 類 を聞 き分け ます。「子 どもの耳を騒音 に対 して教育 し--・粗野 で不調性 な騒音 に慣れ さ せ る」 のですが,け っして周囲にあ るさまざまな音が気 にな らな くな る よ うに,つ ま り音 に対 す る鋭敏 さを失 うための ものでないことは言 うまで もあ りませ んし, そ の逆 に音楽 の中 に雑 音 を導 入す る意図が あ るわけで もあ りませ ん。 しか し現代 の音楽 は必ず しも楽音ばか りでは (28) ない, とい うことを ここで強調す ることも可能 です。 (29) (4) 「静か ごっこ」- 先 の雑音筒が音楽 の中に導 入す るための ものではなか ったの とは反 対 に,音の無 い 「静か ごっこ」 は十分 に音楽的 です。何故 な らば,音 を聞 くよ り先 に必要 な ことは 「聞 こ う」 とす る感覚 の とぎ澄 まされた 「静か な」備 えです。静粛 は 自分以外 の環童 の音, 自然界にあ る微妙 な音,風 の音,小鳥 の声,道行 く人 々の声 な ど, 日頃心 に とめなか った音を新鮮 な もの として感 じさせ ます。私 たちが,聖堂 にいると, 良 くそれが解 ります。 (30) 「春 の来 る音」が聞 こえた り
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「神 さまの話 してい る声」 が聞 こえ る。 と言 うのですか らす ば らしい ものです。昔 に対す る鋭敏 さは音楽す ることの素地 であ ります が,創造活動 の 「ひ らめ き」は静粛 の中か ら生 まれて来た ものであることを誰 も疑わ ないで し ょう。 (5) リズム曲集 「モソテ ッソー .)と音楽」- 編者バ ーネ ッ ト女史 は, ウ ィ- ソでのモ ソ チ ッソ- リの協 力者 です。1
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0
曲あ りまして, 1
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世紀 ロマ ン派 の ヨー ロッパ地域 の音楽 を選 (31) んで歩行や ステ ップ, また鑑賞教材 として も使 える実用書 です。 さて, この項 を終 るに当 って, も う1度確認 します。 モ ンテ ッソー リ教育は教具で全てが こと足れ りではあ りませ ん。従 って, ここで取 り上げた教材や方法,そ して取 り上げ ませ ん で したが 「音盤 ブ ロック」
「小型 ピア ノ」 な どで, 幼児 の躍動的 な音楽活動が全 て満た され るとい うことではないのです。私 たちは,そ の ような とらえ方 ではな くて, モ ソテ ッソ- 1) の教育原理 か ら 「子 どもとは何か」
「教師 とは何か」 と, いつ も教 え られ ますか ら, それ に 答 えるべ く教材 (教財)を考 えて子 どものために 「整備 された環境」 の一翼を担 って行かね ば な りません。この頃 のキー ワー ドは 「静粛」 と 「教師 も環境 の一 部」 です。 第ⅠⅠ章
カール ・オルフとル ドルフ ・シュタイナーの
音楽教育における共通理念1 カール ・オルフ
彼 が 日本 で知 られ る よ うにな った のは, 協力者 であるケ- トマ ン女史 と共 に来 日した1962 年 の少 し前で した。 ダル クローズの 「音楽 と リズムの学校」 が既 に ドイツで も活動を始 めた 輿, オルフも1924年協 力者 と共に 「体操 と音楽 とダンスの学校」を創立 しました。言葉,育 莱,運動, ダンス, どれ も リズムが根底 にあるわけですが,彼 はそれ らを総合 して子 どもは もちろん大人 に も,人間 な らば必ず持 ってい る根源性を 目覚 め させ感動 と創造 の世界- と導 くよ うな教育実践を した人 です。人間 としての本源性 とは,歴 史 と伝統 の中で民族が創 り上 げた文化や芸術 を育てた土壌 の よ うな ものです。土壊,つ ま り 「人間 の大地」は 自然 の恵み であ るた くさんの要 素を含 んでいて,蒔 かれた種は,そ の養分 を吸収 して太陽 の光を受けて 成長 し開花 します。全 ての音楽 もそれを掘 り下げて行 った時,それを創 り出す ための源動力 となった要素があるはず ですが,オル フは,そ の よ うな音楽 に関係す る数 々の要素を 「- レ (32) メ ンタールな もの」 と呼 んで,音楽 の根源的 な要素を徹底 して研究 したわけですO根源的 と 言 って も,け っして 「原始的 ・未開 な もの」 ではあ りませ ん。先ほ ど言 いました よ うに土壌 の中 にある養分 と考 えて下 さい。子 どもがそれを十分 に吸収 して成長す るものです。子 ども は,そ の要素が将来何 のためにな るかは知 らな くて も良い ものです。子 どもは成 長 過 程 の 「敏感期」に最 も必要 な ものを旺盛 に吸収 します。「- レメ ソタールな もの」 は子 ど もの非 意識下 に深 く沈 んで生 き続け, 将来 どこかで創造 の力 とな って 目覚め るものです。 「エ レメ ンタールな もの」は,人類 の発展過程 の中 に含 まれ るはず ですか ら,オル フは伝統的 な音楽 に着 目す るわけ です。文化や芸術 は,生 きた人間 の精神 が具現化 された もので, しか も必要 な もの として生 まれて来 た ものです。過去,現在,そ して未来 に向か って,休む ことな く人 間 は 自然 と文化,社会,子 どもと大人 と,かかわ りつつ歩み続 けて行 くで し ょう。「われわれ (33) は,人 間であることを超越 しえない」 のです。そ こでオル フは,具体的 な精神 の 養 分 と し て,童話 の世界,ペ ソタ トニ ック,格言,呼 び声,小鳥 の声,童謡,民謡 な どか ら 「- レメ ンタールな もの」を感 じと り,人間 の音楽本能 に基礎 を置 く新 しい音楽教育 のモデルを提 出 した のです。「モ ンテ ッソー リが 自由 と個性 と感覚活動 の教育 を表 明 したか らには,そ れ と (34) 並 んで (音楽)教 育 のために新 しい基礎 を提供す る用意があ る」 と決意 のほ どを示 してい ま す。 1950年か ら1954年にかけて出版 された 5巻か らなる 「子 どものための音楽」がそれです。 音楽 が成立 して来た過程 に秘 め られた創造的 な音楽活動を,子 どもの成長過程 の中で大人 と 子 どもが一緒 にな って共 に創造的 な喜びを持つ ことが出来 るのです。オル フの言 う留意点を (35) 来 日時 の記念講演か ら要約 します。(1) 「子 どものための音楽」は,や さしい ものであるが原始的なのではない。大人にな っ て も失われない ものである。 (2) 子 どもの成長過程に適合す るペ ソタ トニ ックと七音音階で作 ってあ り,現代主義を と らない。 (3)子 どもの世 界に現代的 とい うものは, あ り得 ないか ら, 自然 な最初 の状態 をめざして いる。 (4) 音楽 と言葉の最初の段階 のものであるが,原始的ではな く,内容の充実 した基礎的 な ものである。 (5) 大人が幼稚園趣味 で作 った新作の歌詞をい っさい使用 しない。 (6) ロマ ン的傾向の作品 も標題的なものも使わない。個性的でな く,典型的 な ものである。 文中に出て来た 「自然な最初 の状態
」
「最初 の段階」
「基礎的な もの」
「典型的 な もの」 こ れ らの語が,彼 の言 う 「ェ L,メ ソタ-ルな もの」であることは言 うまで もあ りませ ん。 ・ 第 Ⅰ巻 「ペ ソタ トニック」- 詩 とあそび歌, リズム練習,器楽曲が入 っています。 (36) 自然発生的な ソミとい う呼びかけの言葉か ら序 々にペ ソタ トニ ック- と移 ります。言葉 (37) の練習や短かい リズム ・パ ターン練習,更 に合奏 と即興を導 きます。歌 も詩 もオルフの 言 う通 り伝統的な民族 の 「- レメ ソタール」 な ものです。 ・ 第 Ⅱ巻 「長調」- ペ ンタ トニックでは出来 なか った歌 と合奏 曲。音楽史上3度6度 の響 きとしての記念碑的 な作品 「夏は来た りぬ」が入 っています。音楽史の流れが具体 的に生 きてい ます。 この巻か ら三和音が入 ります。 ・ 第Ⅲ巻 「長調」- ドミナ ン トが入 り長調 の感 じが少 し強 くな ります。バ ラー ド 「ベ ルナウエ リソ」や 「ア どこ ヨソの橋で」 な どヨー ロッパ世界で知 られている曲が入 って いますO ・ 第Ⅳ巻 「短調」- 自然 の風景 と精神的 な民謡が入 り,音楽的な広が りが出 ます。青 (38) 少年 と大人向 きの 「音楽財」 として も重要 です.時代 を こえたみ ごとな作品集です。 ・ 第Ⅴ巻 「短調」- ドミナ ン トが入 って釆 ますが,いわゆる機能和声 -の導入ではな く, ここで も注意深 く伝統的な音楽形式 であるフォ-ブル ドン,オル ガ ヌム,ポ リフ ォ ニー,デ ィス カン トゥス, シャコンヌな どを意識 しています。即興す るとい う自発的 な 創造活動か ら楽曲形式 の成立過程を追体験す るようであ ります。 各巻の終 りには,古典的舞曲,お よび音楽 と一体 になった詩,物語,対話劇が置かれてい ます。例 えば,アシジのフランシスコの 「太陽賛歌」,-ル ダー リンの 「ア ソテ ィゴーネ」, ゲーテの 「フ ァウス ト」な どです. これは言葉 と音楽 と舞踏,それに演劇 も加わ った総合芸 (39) 術ですか ら 「ギ リシャのMusikの ようだ」 と言 う人 もい ます。 さて,実際 に楽譜 を見 ます と,手拍子,足拍子,指,声 ,そ して各種 の楽器が指示 されて います。オル フの 「子 どものための音楽」には, もう一つの担い手である,子 どものための 楽器があるのです。製作に当 って多 くの協 力者が必要 でした。何 しろ一つ として もどきの楽 器,代用品の ような ものはな く, どれ も完成 された,対話 の出来 る楽器です。楽器を手にし(40) て神経 を集中 しての一打,ひ と振 りが 「幼児の音楽世界-の浸 とうを容易にす る」 のです. そ の ような楽器があれば こそ大人 と一緒 に創造す る喜びを分 ち合 えることができるのです。 このことは
,
「音楽療法」にも応用 され る可能性があるわけで して, 事実 オル フの音楽 と 楽器 を用 いて, 目の不 自由な人, また耳の不 自由な人にさえ療法 として効果 を上げている報 (41) 告 もあ ります。 この項 のキー ワー ドは 「- レメ ンタール」 と 「大人 と子 どもの創造活動」です0 2 ル ドルフ ・シュタイナー モ ンテ ッソー リが精神科医 として人間を見て社会 の中で子 どもの教育実践を始めた頃, シ ュタイナーは,哲学,神学,人類学,芸術学 を総合す るような思想 「神智学」を発表 し,協 力者 と共に教育実践を始めました。魂や霊,無意識の世界が強調 されていまして,教育の場 で も,それを具体化す るような方法が取 られ ます。 見た り触れた りす ることの出来 る感覚 の世界を超 えた, よ り 「高次の世界Il
を問題 にす る のですか ら 「オ カル ト」 とい うことも含 んでいます。そんな世界のことは,教育に実用的で はないし,節-そ うい う認識を教育の場 で具体化 できるのだろ うか と疑問に 思 う で し ょう (42) が, シュタイナーは,
「誰で も正 しい方法で教われば,高次の認識は出来 る」 と言いまして (43) 具体的 な方法を 「行」 として示 します。彼は,
「今 日の文明を築いて来た代償 とし て 失 った (44) ものが高次の認識活動である」 と言います。情報 の渦の中で,大人 も子 どもも与 え られた も のの中か ら自分 の価値基準で受けざるを得 ない現代社会は,今後一層 目に見 えるもの,形 と して出て来 るもの,管理 しやすい もの,効率が高 く計画 しやすいもの, とい う外面的 なこと に気を取 られ るで し ょう。見えない世界,精神 の世 界は,子 どもの成長に どの ような意味 を 持つのでし ょうか。 シュタイナーの考 えは,子 どもの教育において, どの ように生か されているか, と言いま す と,
「魂 の教育」 と言 うことにな ります。 人類 の文化 の歴史 と同 じように, 人類 には魂 の 歴史 があって,一人 の人間 も生 まれてか ら人類 の辿 った魂 のプロセスを同 じように辿 って行 くものである, とい う前提に立 っています。 しか も彼は,その人が生 まれ る以前 と死後 の世 界 の関係 も含 めて考 えているのです。生 まれて三歳 くらいの子 どもは太古の時代 の魂。三歳 か ら感覚を外 に向け る 「模倣」の時期で,エジプ ト時代。七歳か らは知性の働 く時期で,ギ リ シャ ・ローマ時代。十五歳か らほ,他人 とは別 の自分を意識す る時期で,1
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世紀以降,現代 (45) まで。魂 の歴史 は将来 も変わ って行 く,その区切 りは2106年 であると言 うのです。個人 の成 長 の中に人類 の流れが深 い ところで関係 し,子 どもは創造す る力を持 って将来へ向か うもの だ と言 うわけです.教育において創造す る力 とは,芸術を意味 します.そ こでシュタイナー (46) は 「教育芸術」 とい う用語を使 います。創造の力が どこか ら来 るか と言えば 「そ もそ も芸術 (47) は,人間の心が何 らかの衝動を霊 の世界か ら受け」て具現化 された ものです。その世界は自 分 のもので,他人 と違 う自由の世界です。反対 に他人の作 り上げた美の世界に共鳴す ること は,他人 の尊厳 へ と心を向け させ ます。魂 は生 き生 きとした力をた くあえて,新たな創造活(48) 動- 「美 の世界か ら神 の世界に達す る」 ようにもなるで し ょう。芸術 は人間の成長 に とって 空気や水 の ように欠かせない もので 「そ こか ら芽を出す土壌 として, どの人問にも必要 な も (49) のである」 ものの ように取 り扱 って行 きます。 そ うい う意味での音楽を シュタイナー教育では
,
「オイ リュ トミ-」の中で 使 い ま す。 (5
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) 「空間芸術運動」 と訳 され,1912年 に始め られ ました。詩 を感覚的に, また超感覚的に とら えて体で表現す るものです。言葉が意味す るものは,知的 に把握で きる内容 と,それを超 え (51) た内容 も含 んでいますか ら,オイ ])ユー トミーを 「見える言葉,見 える歌」 とも言 っていま す。先生 と子 どもが 自然界の太陽,月,花,小鳥な どをテーマに した詩や歌 のイメ-ジの中 で動いて行 く総合的な創造行為です。 これに よって,子 どもの自我が無意識 の世 界に働 きか けて,肉体 と共に健全な成長をす る, とい うことで治療 の方面 に も良い手段 とな ってい ると (52) い うことです。 彼は音楽の本来持 っていた性質を根源か ら見直 して,音楽を他 の面 に も関連づけてい るの です。全ての音楽 は,他 の芸術 と同 じように知性以外 の部分 のエネルギーか ら生 まれて釆 た わけで,歴史の中で くり返 された と同 じ根源的エネルギーを追体験す ることに よって未来 の 創造- とつなが って行 く, と言 う大 きな視野の中で音楽を教育に溶 け込 ませてい る よ う で す。 この項 のキーワー ドは 「総合」 と 「教育芸術」です。3
共通の音楽教育理念 オル フとシュタイナーは,人類が歩 んで来た歴史 と創 り上げて来 た文化を,見 えるものは もちろんのこと,見 えない層 まで もとらえて,生 きた もの として私たちに気づかせて くれ ま す。現代人 の生活態度や価値観で判断す ると, も う古 いもの,不用 のもの, はっき りしない もの,信 じられない ものとして捨てて しまい,忘れて しまった ものに新たな息吹 きを与 えま した。回顧趣味 とか保守的 とかではな く,人類 の足跡 である文化 とそれを生み出 した力にダ イ レク トに接す ることは,今,生命 を与 え られてい る者, これか ら生 きようとしている目の 前の赤 ちゃん,幼児,青年,一人一人 の個 である人間 としての成長 と完 成 に とって極 めて重 要 なエネルギー源なのだ, と考 えていました.つ ま り,文化人類学的な立場 で私たちに迫 っ て来 るのです。言語,請,神話,伝説,童話を問題 にす る時,にわかに二人が共通 な理念に 立 っていることに気がつ きます。オル フが 「民謡におけ ると同様 に,児童詩 にみ られ る語法 (53) は,それ らが 自然発生 のものであることの証拠である」 とい うの と, シ ュタイナー学校 の国 (54) 語教育における 「人頬 の幼年時代 の追体験」 とい うのは同 じ考 え方か ら出て来 ますO オル フ の協力者 であった ウェルナー ・トーマスの言葉,お よび シュタイナーに影響を与 えてい るジ ャン ・バ ウルの言葉がそれです。 ・ 「個体は常 にその種族 の発達過程を繰 り返す。つ ま り子 どもの世界に もその民族 の成 長過程が,太古時代 の形で反映す る」 (ト-マス) ・ 「民族 の児童期では話す ことは歌 うことであった。そ して個人 の児童期で もこの ことは繰 り返 され る」 (ジャン ・バ ウル) 子 どもの成長過程 の中には,人類 の文 明成立過程が 「無時間的」に反映 され るものの よう です。 ペ ソタ トニックが,なぜ子 どもに適 しているか, とい う点 も似か よった考 えです。 シュタ イナーの方 では,「グ レゴ リオ聖歌は, 中 世の人に一番ぴ った りだ った ように, 子 どもはそ (55) の年令 に一番ふ さわ しいペ ソタ トニ ックの体験 を--・」 と言い, オル フは 「ペ ソタ トニック (56) は--・言葉を覚 えるように即興 の力をつける」 と言 っています。 また二人 とも子 どもの成長 にふ さわ しい可変的 な楽器を創 っています。 シュタイナーには ライ7-が, オル フには一連 の打棒楽器等があ りますOオルフの言 う 「- レメソタールな もの」 について, シ ュタイナー (57) の方 は 「民族や人類 の要素 (エ レメン ト)が子 どもの成長過程 の中で段階的に現われ る」 と 言います。実は, このことの関連では, モ ンテ ッソー リも同 じことを言 っているのです。つ ま り 「子 どもは生命 の糧 として,あ らゆる文化 の要素を無意識 に吸収す る。そ してそれは後 (58) 日意識化 され る」 と言 うのです。 現代文明 ・技術文明社会 の中で成長 の歩みを営 んで行 く子 どもたちに対 して大人がなさね ばな らない ことについては ど うでし ょう。 シュタイナーは 「畏敬」 と言 うことを良 く使いま (59) す。 「畏敬の心 で教育す る」 ことについて, オルフの理論書 で も同 じようなことを言 うので (60) す。つ ま り 「伝統を前に畏敬の情を抱かせ ること」 と。 この他に も多 くの点 で共通 のことがあ ります。 ・ 童話 (メル- ソ)の世界 (何故童話を語 るのか) ・ 大人 と子 どもが一緒 に行 な う創造活動 ・ 魂 の糧 としての音楽 ・ 無意識 の中に入 り,やがて時期が来た時 に形 となる ・ 治療法 としてのとらえ方 ・ 神-の道 の発見 最後 に,二人の理念 とその実践は,力強い協 力者,何 よ りも子 どもたちに共感を得 て,坐 きた教育の場を提供 しています。子 どもに とっての創造活動は,大人 のそれであ り, これか ら幼児教育の場に出発す る皆 さんの創造活動を意味 しているのです。オル フもシュタイナー も 「自己教育の用意 のある人だけが他人を教育 し うる」 と言 っているようです。つ ま り,オ (61) ル フは 「子 どものための音楽」は 「道 しるべ」 であると言います し, シュタイナー学校の先 生は 「シュタイナーの教育の理念を 自分 の内部で育てて-・-自分 の個人様式を創 って行かな (62) ければな らない」 のです。教育者 の持 っている創造力を使 って 「道 しるべ」 と 「オイ リュ ト ミー」を変容 させて行 くべ きなのです。 日本 の状況,ひいては
○
○幼稚園,○
○ チ ャンのた めの応用を見つけ ることが期待 されているのです。オル フは, 自分 の人生を越 え 「数十年後 (63) になって始めて真 の成果が明 らかになる」 と言い, シュタイナーは, 「自分はその場に立 ち (64) 合えないが--オイ リュ トミーは完成を 目指 して進む」 と確信 しています。(65) オルフの作品が 「無時間的な ものである」 とい う評価 も, シ ュタイナ-が 「自分を宇宙 の (66) 創造のための道具にす る」 とい う謙虚な言葉 も,生 きた教育-の希望 と限 りない信頼 の言葉 として聞 こえて来 るようです。私たちひ と りひ と りの創造活動が子 どもの創造性 の助け とな り,逆に子 どもの世界の中に,私たちの創造 の源動力があったのです。子 どもと大人 の音楽 は,人間の音楽 とい うことにおいて共有 なのです。 ここに子 どもと共有 の音楽の視座が開 き ます。 ま とめ :子 ど も と共 有 の音 楽 を求 め て 以上,述べ て来 たまとめを しまし ょう.各項 であげておいたキー ワー ドを結 びます と,普 楽教育は,教育学,人類学,文学,民族学,精神医学 とい うような広範な分野に もお よぶ, とい うことに気がつ きます。「子 どもとは何 か」 と絶えず問い続けて子 どもとかかわ っ て 行 く姿勢 の中に教育芸術が成立す るのです。従 って 「子 どもの音楽」 と言われているものは, 枠組ではな くて,常に大人 との関係において,つ ま り 「子 どもと共有」 の世界に存在す るも のです。 ドイツの作家 M.エ ンデが 「児童文学 とい うものは,大人 と子 どもの関係が正常 で (67) あれば,本来 あ り得 ない もの」 と言 うの と同 じです。子 どもと大人 の正 しい関係 の中で行 な う音楽活動に よって生 まれた感動か ら心 の喜びを分 ち合 い,それが,互 の魂 の奥深 くに しみ 込 んで,将来への芽ぶ き,発酵 の源動力 となるのです。それは,やがてモ ンテ ッソー リの言 うような,平和 の建設に も発展す るでし ょう。子 どもと大人の相互依存に よる正 しい関係に (68) よって 「原子 エネルギーは武装装備に,子 どもの精神的 エネルギーは,平和装備に」 が成立 す るのですO子 どもの精神的エネルギ-を育む もの として,音楽は総合的に とらえ られ 「音 楽 と人間」 とい う見方が出ても当然 です。精神 の健康に関連 して,音楽に よる治療 も行 なわ れ ていますO現在それは,病人 のためだけでな くて,統合教育 とい う場面 で光を放 っていま す. 音楽が「ひ らめき」 とか 「創造性」に関係す る, として脳生理学 の分野 で もクローズア (69) ップされていることもご存知 の通 りです。見えない世界,魂 とのかかわ り,そ して直観な ど 知性で解 り得ない ところで音楽が問題にな っているのです。 子 どもと共有 の音楽,それは新 しい創造 です。私たち自身 の中にある喜び と希望か ら生 ま れ るのです。子 どもと歌 う一 曲は,-つぶの麦を育てる土壌 とな るのです。そ して,音楽は, 幸に も感動す る者 の中にいつ もあ ります。感動 の中に畏敬 の念がキラ リと光 るでし ょう。 注 (1)ダルクローズ
:
「リズムと音楽と教育」板野平訳.全音楽譜出版,1977.p.iii (2)浅香淳 :「音楽教育の歴史」第2巻,音楽之友,昭57.参照 (3)長田新編 :「べスタロッチ全集 13巻」.平凡社,昭49.p.152(
4
)
ベルン自由教育連盟編:
「授業からの脱皮」子安美知子訳.晩成書房,1983.p.32 (5)フレーベル :「フレーベル全集」第5巻く母の歌と愛撫の歌 ・遊戯の歌>,玉川大学出版,昭56. 参照(6)フ レーベル : 「フ レーベル全集」第4巻く第14章 運動遊戯>,玉川大学出版,昭56.参照 (7)フ レーベル : 「フ レーベル全集」第2巻 p.269 (8)ダル クローズ,前掲書,p.6 (9)同上,p.13 (1q 同上,p.67 的 同上,p.110
8
25 コダ-イ:「コダ-イ ・ゾル タンの教育思想 と実践」中川弘一郎訳.全音楽譜,昭54.p.151 (1う 同上,p.i (14) カタ リン,-ルジェ-ベ ト共著:
「コダ-イ ・システムとは何か」羽仁,谷本,中川共訳.全 庁楽 譜,昭54.p.68
う コダ-ィ,前掲書,p.120 8ゆ 同上,p.117 的 同上,p.138 8尋 同上,p.1418
9 同上,p.156 CZq 同上,p.117 帥 同上,p.4 餌 カール ・オルフ : 「こどもは リズムに生 きる」,NHK来 日記念講演録 属啓成訳.1962.p.9 鱒 子安美知子 : 「魂 の発見」,音楽之友,昭57.pp.25-26顔) M.Montessori:「MontessoriElementaryMaterial」,Schocken,1974.p.366 (鵠 相良敦子:「モンテッソー リ教育」 1,学習研究社,1978.p.5 囲 「モンテ ッソー リ教育」第15号,< モンテ ッソー リと音楽教育> 田幸,杉山. 日本 モンテ ッソー リ協会,1982.p.43 研 相良敦子,前掲書,p.70 鱒 「音楽教育研究」春号,< モソチ ッソ- リに よる幼児教育 と音楽> 野村幸治.音楽之友,1978. p.145 錦 「モソテ ッソ- リ教育」第15号,<静か ごっこの今 日的意味> 青山キ ヌ.前掲書,p.49参照 鰯 同上,p.56 帥 E ・B ・バーネ ッ ト
:
「モンテッソー リ音楽」ボーン,桑村共訳.エ ンデル レ.昭56.参照 的 カール ・オル7,前掲書,p.6 ¢頚 ケラー, ロイシュ : 「オル フこどものための音楽解説」橋本清司訳.音楽之友,昭54.p.33 朗 同上,p.105 的 カ-ル ・オル7,前掲書,pp.8- 9 朗 これをライア-メロデ ィと呼んでいる. ケラー, ロイシュ,前掲書,p.35 銅 教育者 も話 し方練習 Spracherziehungを撤底的に教育 され る。星野圭朗:「オルフ ・シュールベ ル ク理論 とその実際」,全音楽譜,昭54.p.19 的 ケラー, ロイシュ,前掲書,p.58 銅 同上,p.107 的 同上,p.89 的 カール ・オル7,前掲書,p.8 的 シュタイナー : 「いかに して超感覚的世界の認識を獲得す るか」高橋巌訳.イ ザ ラ書 房,昭59. p.20 的 シュタイナー : 「神智学」高橋巌訳.イザラ書房 ,昭59.p.175 <認識の小道> 参照朗 シュタイナ-,前掲書,p.24 的 高橋巌 : 「シェタイナ-教育入門」,角川書店,昭57.pp.148-156 的 同上,p.78 的 シュタイナー : 「オイ リュ トミー芸術」高橋巌訳.イザラ書房,昭58.p.25 的 高橋巌,前掲書,p.81 的 子安美知子,前掲書,p.51 6ゆ シュタイナー,白身の書,p.23 St) 国際 グァル ドルフ学校連盟編