ナノテクのトレンド:2.超分子化学からのナノテクノロジーへのアプローチ-ケミストリーで作る分子デバイス・分子コンピュータ-
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(2) (a)デバイスの小型化 (a)クラウンエーテル. ゲスト分子を包摂. O O. O. ca. 3nm O. O O. 平面的環状ホスト. (b)超微細デバイス作製の戦略 マイクロファブリケーション技術. (b)シクロデキストリン(上から見たところ) OH HO O O O HO OH OH O O OH HO O OH 4∼5nm HO O HO. a.Top-downアプローチ. HO. OH. O. O. OH HO OH O O O OH HO. 超微細デバイス. OH. 立体的環状ホスト. (c)人工レセプター分子(ホスト) b.Bottom-upアプローチ. 自己組織化 +. O. さまざまな超分子. N O H O H N. N N H O O O H O N +. O. NH3 O. O. O. ゲスト分子. 多種の相互作用で ゲスト分子を認識. -3. -1. アを作るものである.もう少し多くの数の決まった分 子が組織体を作ることもある.これが,第 2 のカテゴリ (a)超分子とは. ーである.この中には,ある大きさの広がりを持った 自己集合 自己組織化. 個々の分子. つながった分子も含まれる.第 3 のものは,数えきれな. A. いほどの多くの分子が自発的に集まっている組織体で 超分子. ある.いろいろな膜組織などがこの範疇に入る.この. B. カテゴリーに従って,超分子と得られる分子レベルの デバイスについて実例をみてみよう.. 単純な足し合わせではない 優れた特性 (b)いろいろな超分子 大きな超分子. 小さな超分子 ゲスト分子. 1 つの分子が相手分子を認識する超分子として, ホスト分子. にいくつかのホスト分子を列挙してみた.(a)に示した. 分子集合体の化学. 分子認識の化学. -3. クラウンエーテルは輪のような分子で,環の大きさに. より複雑な形の 分子・組織体. 応じたイオンを認識する.また,2 つのクラウンエーテ ルが,ゲスト分子を挟み込むような認識もなされる. (b). -2. には,シクロデキストリンと呼ばれるホスト分子を示 した.これは糖の残基から構成される環状分子であり, 43巻1号 情報処理 2002年1月. −2−.
(3) 2.超分子化学からのナノテクノロジーへのアプローチ. (a). 光学刺激. 化学応答. 超分子. (a)ANDロジック回路. O O. O. O. e–. O. O O. O O. アゾベンゼン (シス型). O. 消光 O. アゾベンゼン (トランス型). O. O. 入力1 入力2 H+. O. 化学刺激. O. (b)超分子計算機 O– O. O. 光学応答. 超分子. O. K. 光誘起電子移動 N: O による消光 O 光 無発光. +. O. O O. O. N. N. O. O– O. N. –. O. O– –O. O. 光透過率. O N. H+ H+. O. N O. アントラセン. 419nmの 発光. –. OO. O. O O. Ca2 +. ––. N. O. O. ON. Na +. Ca2 +. (b). Na + O. 発光. CN. CN. O. O. OFF. 紫外光 O. N C3H7. O. O. H N C3H7. +. e–. N N. 可視光. N N. O O. O. O O. O. 光. 分子B. 分子A. 発光. 入力1 入力1 出力1 出力2 2+ (H + ) (分子A) (Ca ) (分子B) 00 00 0 0 01 00 0 1 00 01 0 1 01 01 1 0. -4. 00: 入力なし 01: 入力あり. ふたのない筒とみなせる.筒の中にはその大きさにフ. N. 390nmの 入射光. 369nmの 励起光. 00 + 00 = 00 01 + 00 = 01 00 + 01 = 01 01 + 01 = 10. 0: 出力なし 1: 出力あり. ィットするゲスト分子を取り込むことができる.さら には,もっと複雑な分子の構造にあわせてホスト分子. -5. を設計し,人工的に合成することもできる.(c)の人工 レセプターは,(相互作用の詳細の説明は割愛するが) 3 種類の認識相互作用によって 1 つの分子を認識する.. るため,電子の移動によってアントラセンが消光され. この例では,天然のアミノ酸と非天然なものとの微妙 な差を見分けることができる.. てしまう.ところが,クラウンエーテル部にカリウム (K)イオンが包接されると,窒素の電子が認識に使われ. ホスト分子のゲストの出入りによる状態変化を信号. ることになるので,アントラセンの消光が抑えられる.. 応答と見なすことによって,分子デバイスを設計する. この分子は,化学刺激(カリウムイオン)により,光学. ことができる.そのためには,外部刺激による操作お. 情報を出力している.. よび状態変化の観測が可能な分子認識系の設計が必要 となる.その簡単な例を. -4 に示した.(a)には,アゾ. ベンゼンという光刺激を受ける部位の両側にクラウン. 上記の例のように,超分子系は分子認識を通じて入. エーテルをつけたホスト分子の例を示した.アゾベン. 力/出力デバイスとして機能する.ということは,こ. ゼンは照射する光によってシスートランス異性化を起. れらを組み合わせることによって,もっと複雑な演算 -5(a)の分子. こす.その異性化によって,2 つのクラウンエーテルは. 処理のようなことができるはずである.. 離れたり向き合ったりするので,サンドイッチ型の分. では,三級アミノ基(N の部分)とクラウンエーテルの. 子認識能を制御することができる.これは,光学刺激. 両方の部分が電子供与体としてアントラセンの発光を. によるホスト分子の状態変化を,化学応答として出力. 妨げる.前者はプロトン(H+)によって,クラウンエー. したものと見なせる.. テル部はナトリウム(Na)イオンを包接することによっ. (b)の分子では発光部位であるアントラセン部位がク. て電子供与能を失い,この両者が加えられたときにの. ラウンエーテルに連結されている.アントラセンを励. みアントラセンは発光する.これは,AND 型論理制御. 起しても,付近に電子供給源である窒素原子(N)があ. 的な分子スイッチであると考えることができるであ IPSJ Magazine Vol.43 No.1 Jan. 2002. −3−.
(4) N+. (a)デンドリマーの作製. N+. Si O O O HN. ×4. ×16. ×8. O O O O Si. NH O O O N+ N+. ストッパー ×32 ロタクサン. ポジションA ポジションB. 酸化. (b)信号集積デバイス. 還元. デンドロンユニット H3C O. O N. H3C O. シス体. O. O. O. O. O. O. O. O. O. O. O N N. O. エネルギー 集約. O O. O O. O. O H3C. CH3. O O O O Si. NH O O O. +·. N+ N+. O CH3 O CH3. O. O. Si O O O HN. O CH3 O CH3. O. =. 赤外光. N+. CH3 O O CH3. O. N. O O. N+. CH3. O CH3 CH O 3. O CH3 O CH3. -7. O CH3. トランス体. -6. ろう. 複数の分子を用いれば,より複雑な論理回路の構成 も可能である.. -5(b)に示した 2 つの分子は,カルシ. 次に,もう少し大きなサイズの超分子とそのデバイ -6(a)にはデンド. ウム(Ca)イオンとプロトンを受容する部位を持ってい. ス開発について,概観してみたい.. る.分子 A のアントラセンの発光は,前例と同様にカル. リマーと呼ばれる分子の作製法を示した.この分子は. シウムイオンとプロトンが共存するときにのみ発光を. 段階的に合成できるので,大きさや広がりをコントロ. 示す.これは,AND 型のロジック回路である.一方,. ールすることができる.. 分子 B の光の吸収は,カルシウムイオンとプロトンが同. 中心から広がるようなこの分子の構造には,周囲か. 時に存在するときと両方が存在しないときに大きいが,. ら中心部へと信号を集めるような集約的機能が期待さ. 両者がそれぞれ単独に存在するときにはその半分程度. れる.. になる.この波長における一定量以上の光の透過率を. を吸収する部分が多数ある.赤外光をこの分子に照射. 出力にとれば,カルシウムイオンやプロトンが単独に. すると,本来ならば赤外光には応答しないはずの中心. 入力されたときにのみ出力を示す XOR 型のロジック回. 部のアゾベンゼンがシスからトランスへと異性化する. 路となる.さて,カルシウムイオンやプロトンの添加. という興味深い現象が発見された.デンドリマー内部. を 01 不添加を 00 とし,また,出力として AND 型(分子. の閉鎖空間ではエネルギーの散逸が抑えられ,個々の. A)の出力を 1 桁目に,XOR 型(分子 B)の出力を 2 桁目. 低エネルギーが集積されて,より高い可視領域のエネ. にすると,図中の数式が組み立てられる.これらを十. ルギーを必要とする現象へと変換されたのである.デ. 進法で表すと,0 + 0 = 0,1 + 0 = 1,0 + 1 = 1,1 + 1 = 2. ンドリマーの形や広がり方,つながり方を工夫するこ. となり,分子が計算機能を示していることになる.. とによって,信号を集合させたり他方へ伝えたりする. -6(b)のデンドリマー分子には,周囲に赤外光. 分子デバイスが開発されるかもしれない.. 43巻1号 情報処理 2002年1月. −4−.
(5) 2.超分子化学からのナノテクノロジーへのアプローチ. (a)カーボンナノチューブを用いたトランジスタ 上から見たところ. カーボンナノチューブ Pt電極 SiO2. (a)フラーレン(C60). Siゲート 電極 カーボンナノチューブ. (b)カーボンナノチューブ. -8. バイアス電圧. ゲート電圧. (b)カーボンナノチューブの導電性を押して制御する カーボン ナノチューブ. 溝. 上から見たところ. -7 にはロタクサンという分子とその分子構造をベー スにした分子シャトルについて示した.ロタクサンと 電極. は,輪のような分子が中心の軸の分子にはまり,その. AFMチップ. カーボンナノチューブを たわませると導電性が 下がる. 両端がストッパーで止まってはずれなくなっている超 分子のことである.このロタクサンの例では,軸の分 子の上に 2 つの異なるポジション(A,B)があり,電車 が駅に止まるがごとく輪の分子はこれらのポジション. -9. に選択的に位置する.よって,この超分子は,分子シ ャトルと呼ばれる.具体的な動きは,以下のようであ る.軸分子が通常の中性状態にある場合,左側のポジ. 持つが,チューブ状に伸びている分子である(実際のカ. ション A に輪分子は好んで位置する.この部分を酸化し. ーボンナノチューブはこの図のものよりもずっと細長. て正に帯電させると,電気的な反発が起こり輪分子は. い).その導電性は,チューブの直径や巻き方の角度に. 左側のポジション B に移動する.刺激によって 2 状態を. よって金属性から半導性まで大きく変わることが確か. 遷移するこの分子シャトルは,コンピュータなどのデ. められた.このようにカーボンナノチューブは分子の. バイスの部品となり得る.事実,ロタクサンをベース. 導線のようなものであるが,その大きさは通常の分子. にしたロジックゲートが,最近報告されている.. のように小さすぎず,人間の加工の手が及ぶ範囲のも のである. -9(a)にはカーボンナノチューブを電子部品のよう に使って,組み立てたデバイスを示した.ここでは, Si/SiO2 基板上に蒸着されている白金電極をまたぐよう. ナノテクノロジー関連の論文や報告,ニュースを見 ると,カーボンナノチューブという文字を目にするこ. にして,カーボンナノチューブを置いている.そして,. とが多い.カーボンナノチューブは,ナノテクノロジ. 電流を測定する電極間の電位(バイアス電圧)を一定に. ーの新たな主役といえるだろう 5).炭素原子からなる同. して,第 3 の電極から印加される電圧(ゲート電圧)を. 素体として,グラファイト,ダイヤモンド,アモルフ. 変えつつ,極低温にて電流を測定したところ電流がパ. ァスカーボンが古くから知られていたが,最近になっ. ルス的に流れるという現象が観察された.この分子デ. てフラーレンやカーボンナノチューブという炭素原子. バイスでは,カーボンナノチューブのエネルギー準位. が異なる形で組織化された超分子が発見された.それ. の量子的な不連続性を反映した電流特性が得られるの. -8 にまとめた.フラーレンは,サッカーボール分. である.室温下でもゲート電圧によってカーボンナノ. 子と呼ばれる形をしており,電気的には半導体的な性. チューブを導電状態から絶縁状態へと切り替えられる. 質を示す.カーボンナノチューブは同様な基本構造を. ことも分かった.これは,ゲート電圧によって 2 電極間. らを. IPSJ Magazine Vol.43 No.1 Jan. 2002. −5−.
(6) 敷き詰めると,水に溶ける部分だけを水面に接した分. (a)LB膜. 子 1 つ分の厚さしかない非常に薄い膜ができる.これを. 圧力 空気. 単分子膜という.この単分子膜を圧縮しつつ,固体基. 単分子膜. 固体基板. 板に移し取ってゆくと層数や層の順番がコントロール. 水. されたナノメータスケールの厚さを持つ膜ができる. これを LB 膜という.LB 膜の層構造を利用した発光制御 デバイスを. -10(b)に示した.これは,光スイッチン. グ層をゲートに持つデバイスである.制御光として紫 外光照射下では,スイッチング層はメロシアニン型に. (b)LB膜を用いた発光制御デバイス. なっており,入射光で励起されたエネルギーはチアシ. 出力光1. 入射光. S C S チアシアニン ドナー層 N+ H N CH3(CH2)17 (CH2)17CH3. アニン(ドナー)層からインドカルボシアニン(アクセ. X. プター)層へと伝達される.その結果,アクセプター層. 紫外光. 制御光. NO CH3(CH2)17. NO2. +. N –O 可視光 CH3(CH2)17. スピロピラン. NO2. スイッチング層. スイッチング層はスピロピラン型になっており,光励. メロシアニン. インドカルボ N+ N CH3(CH2)17 (CH2)17CH3 シアニン. が強く発光する(出力光 2).一方,可視光照射下では, 起エネルギーの伝達が起こらない.このときには,ド. アクセプター層. ナー層が強く発光する(出力光 1). さて,本稿では超分子とそれに構成される分子デバ. 出力光2. イスの概要を超分子の大きさの順でまとめ,最後に一 番大きな分子組織体の例を述べた.この順序には,意. -10 LB. 図がある.超分子は,分子が分子を認識する小さな系 を基点として始まった.それを我々が開発できる系に の電流特性を制御する電界効果型トランジスターと見. までもってくるためには,甚大なスケールアップが必. なせる.開発者らは,これを TUBEFET デバイスと呼ん. 須である.そのプロセスは,まさしく Bottom-up 型のア. でいる.. プローチといえるだろう.そのためには,超分子が自. -9(b)の例では,電極間にカーボンナノチューブを. 発的に集まって構成する組織体の科学・技術のさらな. 渡している.原子間力顕微鏡(AFM)の超微細チップで. る発展が必要であるものと思われる.カーボンナノチ. カーボンナノチューブを押してたわませると,炭素の. ューブが,この分野の主役に躍り出たのも,そのユニ. 結合軌道が変わって局所的に導電性が失われる.この. ークな物性もさることながら,加工可能な大きさとい. 例は,目で見たとおり“押して電気を遮断する”という,. う何物にも代え難い利点があるからである.しかし,. まさしく分子のスイッチである.. 超分子の中には,機能の面では主役となり得る候補が. これらの例はむしろ初期的なものであり,さまざま. まだまだある.たとえば,デンドリマーは構造を自由. な研究例が次々と報告されている.カーボンナノチュ. に設計し組み立てられるという点で,でき合いのカー. ーブを用いたデバイス開発は,今まさにしのぎを削る. ボンナノチューブよりも高次の機能素子となり得る.. ように行われており,その進展には目を離すことがで. その機能を生かすのは組織化の技術である.図-1 に示し. きない.. たような複雑な回路を超分子で組み立てるのも夢では ない.さまざまな機能分子の組織化に成功し,既存の 人工デバイスに組み合わせることができる大きさにな ったときに,超分子からのアプローチの爆発的な開花 がなされるのである.. 最後に無数の分子が集合してできた超分子について 1)日経サイエンス 12 月号「特集ナノテクノロジー」 (2001) . 2)http://www.nano.gov 3)有賀克彦, 国武豊喜: 超分子化学への展開, 岩波書店, 東京(2000) . 4)平尾俊一, 原田 明編: 超分子の未来, 化学同人, 京都(2000) . 5)田中一義編: カーボンナノチューブ, 化学同人, 京都(2001) . (平成13 年11 月24 日受付). の例を挙げる.水に溶ける部分と溶けない部分を併せ 持つ分子を水中に分散しようとすると,水に溶けない 部分を隠すようにして分子は集まる(石けん分子が水中 で集まるのと同じ).もし,このような分子を水面上に 43巻1号 情報処理 2002年1月. −6−.
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