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日本の企業統治の制度と実態の変遷動向

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〔論  文〕 (札幌大学経営学部)汪  志 平

日本の企業統治の制度と実態の変遷動向

近年の日本においては,社外取締役の議 論,日本版スチュワードシップ・コードの策 定等,企業統治(コーポレート・ガバナンス) の改革が進みつつある。制度面では,企業内 容等の開示に関する内閣府令が改正され,役 員報酬や議決権行使結果等の企業統治に関連 する開示が強化された。改正会社法が社外取 締役の要件を厳格化している。実態面では, 取締役会の体制,役員報酬の設計,株主総会 の運営等において,投資家の要請に対して制 度の枠組みの中でできるだけの対応をしてい る。 本稿では,日本の企業統治の制度と実態の 変遷動向について考察してみる。まず,企業 統治に影響を与える市場環境等の外的要因に ついて検討し,市場の参加者の変化等の企業 統治に影響を与える外的要因を分析する。続 いて,ガバナンス向上のための企業の取組み に関して,会社法や開示規則などの制度面の 変化を検討し,さらに実態面では株主総会, 取締役会,役員報酬,会社形態等の企業統治 上の重要な問題について考察する。

1 日本型企業システムと企業統治

アメリカやイギリスを代表とする自由な市 場経済(LME: liberal market economies)は, 株主利益優先の企業統治を原理とし,他方, ドイツや日本を代表とする調整された市場経 済(CME: coordinated market economies) は,そのような資本の行動を抑制する企業統 治を原理とする。 前者は流動的な資本市場と流動的な労働市 場との制度的補完性を形成し,後者はメイン バンク(ハウスバンク)関係を通じて組織さ れた資本市場と,協調的な労使関係や継続的 な雇用関係を通じて組織された労働市場との 制度的補完関係を形成する。 組織化された資本市場に関して,その企 業統治は短期の株主利益の追求を抑制す るという意味で,「忍耐強い資本(patient capital)」という表現が与えられた。この資 本側の行動によって,一時的な変動を越えた 雇用の継続が可能となり,これに応じて長期 の継続した訓練が可能となる。CMEの核と なる「忍耐強い資本」を与えるのが,日本に おいてはメインバンクを軸とした株式の相互 持ち合いや安定株主の組織化であり,ドイツ においては三大銀行を中核とした銀行・企業 間のネットワークである。 グローバル経済の進展とともに,1990年代 を通じて世界を席巻したのはアングロサクソ ン型の資本主義モデルであった。米英では, 株主中心の企業統治を望ましいものと位置づ け,それに合わせた統治制度が構築されてき ており,そこでは株式市場の果たす役割が大 きい。株式市場は,単に株式が売買される場 であるだけでなく,会社の所有権が売買され る場でもある。株主の意向を無視して経営す る会社の株価は低く評されるため,このような 会社の株式を市場で買い集め,株主の利益を 重視する経営者に交代させることによって,株 主は富を増大させることができる。一方,ア ングロサクソン型の資本主義とは異なった企業 統治の制度と思想を育んできた国々は「ライン 型資本主義」と呼ばれることがある(図表1)。

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ライン型では,会社は労使の共同体と捉 え,その典型とされてきたのがドイツであっ た。ドイツでは,労使共同決定の制度が作り 上げられてきた。日本の法制度はアングロサ クソン型に近いが,日本企業にはライン型の 思想が色濃い。株式持合を通じて株主の影響 力を排除してきたことで,株式市場が会社支 配権の売買の市場として機能することはな く,日本型の企業統治の慣行を作り出せたの である。 「失われた20年」(1992 ~ 2011年)の間に, 日本の年平均経済成長率はほぼゼロであった (名目で-0.09%,実質で0.79%)。日本型シ ステムとして,人口に膾炙するのは,「官僚 主導」,「開発主義」,「キャッチアップモデル」 であり,さらには「1940年体制」といった言 葉も登場した。 これらの日本型システムは,時代遅れであ るだけでなく,市場の作用を歪める非効率な システムの元凶とされ,ゆえに日本経済の再 生のためには,「市場原理」に基づく経済シ ステムに転換を図る必要がある,という主張 の結果,日本の経済社会システムは,市場原 理の方向に急速に変化した。 「改革の20年」とともに,日本の企業シス テムは大きく変化した。雇用に関しては,成 果主義の導入が進行し,企業統治に関して は,株主重視の経営や執行役員制の導入が進 んでいる。 しかし,歴史的経路依存性の観点からは, 変化は生まれるとしても,既存の経路の中で のことであり,ゆえに現実の変化は既存の制 度の部分的な修正や適応にとどまることにな る。現実には,突発的で全面的な変化は例外 的であり,既存の制度は持続する。 日本企業においては,たとえば,長期雇用 を維持した上で,成果主義を導入するという ように,より明確に異質な制度の接合や融合 が意図されている。あるいは配当重視や株主 重視の方向を強める一方,長期雇用を維持す るという形で,より強く異質な制度の接合が 図られている。青木昌彦氏はこれらを「コー ポレーションの進化多様性」として捉え,そ の1つの方向として,ハイブリッド型組織へ の進化の可能性を提起した(Aoki, 2010)。

2 日本の企業統治変遷の歴史概観

(1)戦前期・戦時期 株式会社制度は明治期に日本に導入された が,その普及は英国などに比べて急速であっ た。1890年の商法制定をはじめ,欧州の制度 を参考にしつつ,旧来の商慣習や制度の近代 化を図ってきた。そして企業統治の構造は, 古典的な株主主権に近い性格を持っていた。 戦前の日本企業における株主の存在感が非 常に大きかった。1899年に制定された新商法 は「株主総会中心主義」を特徴とし,株主総 会は「最高かつ万能の機関」として,法律お よび定款に定める事項はもちろん,それ以外 のいかなる事項についても,決議する権限を 有していた。株主総会は業務執行についても 議決して,取締役を拘束することができた。 アングロサクソン型 ライン型 ①株主利益を大切にすれば,労働者の利益にもなる という思想 ①労働者の利益を守れば,株主利益にもなるという思想 ②資本市場を中心とした株主主導の統治 ②銀行を防波堤に,株主の影響力から会社を守る ③流動的労働市場 ③長期雇用 出所:加護野忠男他(2010)第65頁を参考して作成 図表1 アングロサクソン型とライン型企業統治の特徴

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さらに,取締役・監査役の選任・解任および 報酬の決定は,株主総会の普通決議事項で あった。単純に総会に出席した株主の議決権 の過半数で決し,こうした決議により,任期 中でも取締役・監査役は解任される立場に あった。 また,利益の大部分を配当に回していた。 たとえば,1921 ~ 36年の平均配当率は7割に 達していた。戦前を代表するエコノミストで あった高橋亀吉は,大正から昭和にかけて破 綻した企業の分析をもとに,「株主の専横か ら蛸配当を強いられ,かくて事業を破綻に導 いた」と指摘している。「大株主のその場主 義的我利の横暴」と「重役の腐敗」には,目 に余るものがあり,企業経営が百年の繁栄を 目標としていないことを憂えていた。 さらに,自己資本の比率が高くて,借入金 は資産負債総額の10%以下であり,株式によ る資金供給が重要な役割を占めていた。例え ば,1914年 は67.2 %,1925年 は59.2 %,1936 年は60.3%となっている。資金調達における 銀行の地位が戦後とは大きく異なっていて, 銀行は事業内容を精査してモニターすること はほとんど行われていなかった。 財閥系においては,傘下企業における内部 昇進役員の比率が比較的高く,日常的な業務 執行は彼らに委ねられていた。しかしなが ら,傘下企業の取締役会の議案については, 財閥本社に事前に提出することが求められ た。他方,非財閥系では,大株主が経営陣に 直接参画することで,経営陣の業務執行を監 視していた。役員報酬と会社利益の多少との 間に非常に強い相関関係があった。 一方,従業員が自らの利益を保護するため の制度は未整備であり,雇用者に占める労働 組合の組織率は,ピークの1936年においても 3%前後の水準にとどまっていた。戦前を代 表する綿紡績業の会社では,不況期に配当を 維持するため,解雇や大幅な賃金削減を頻繁 に行った。その結果,従業員の定着率が非常 に低く,会社間の移動が活発なものとなって いた。 しかし,株主の存在が大きい戦前の企業統 治の姿は,日中戦争そして第二次大戦に向か う中で,大きな修正を迫られることとなっ た。統制経済への転換が会社観そのものの見 直しに繋がった。国家総動員の体制の中で, 個のための利益よりも,組織体さらには国家 のための利益を優先すべきとする考え方が台 頭してきた。 古典的資本主義の会社観が否定され,新た な企業理念を経済新体制の一環として提唱す るに至った。「会社は株主のもの」から,会 社は株主・経営者そして従業員からなる組織 体であるという新たな会社観が提示された。 1938年の国家総動員法には,国家が必要に 応じて,会社の設立・増資・目的変更・利益 金処分などを制限・命令できるという規定が あった。また1940年の会社経理統制令では, 会社の経理処理・配当政策などが,国家の統 制下に置かれることとなった。この結果,企 業の配当性向が低下し,また配当率も利益率 に対して反応しなくなった。 1943年に軍需会社法が施行され,「資本と 経営の分離」が軍部の手によって進められ た。軍需会社法は指定した会社に対して,生 産責任者(経営者に該当)を設置して,軍需 省の命令に従って経営することを求めた。こ れにより,生産現場に精通しない資本家経営 者や非専任の役員は,最高経営層から排除さ れ,利潤追求は企業の目的ではなくなった。 また,株主の権利は非常に限定され,株主 総会の権限や手続きには制限が加えられ,業 務の執行は総会の議決に左右されることはな くなった。そして従業員が取締役に昇進・就 任する事例が増加した。 (2)戦後における企業統治の大転換 第二次大戦後は,米国の影響を受けなが ら,日本は独自の企業統治制度を構築してき た。敗戦後,日本を占領した連合国軍総司令 部(GHQ)が,経済民主化政策の推進の一 環として,財閥の強制的な解体を実施した。 財閥企業では,財閥家族の持株が強制的に分 散され,所有者不在の企業になった。 また,1947年の公職追放令などにより,戦

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前・戦中期に経営の中枢にあった人々は,経 営の世界から退場を余儀なくされた。経営層 に対するパージ(公職追放)により,合計 3,600人以上の経済人が経営の表舞台から退 場した。トップ層の退場した穴を埋めるべく 登場したのが,ミドル層のテクノクラートで あった。彼らの多くは,若い役員・部長・工 場長などであった。たとえば,日立製作所で は,創業者社長の小平浪平(73歳)から,終 戦時の山口県笠戸工場長を務めていた倉田主 税(58歳)へ社長交代した。会社に雇用され た経営者・管理者を軸にして,経営が行われ ることとなった。 さらに,戦後の混乱期には激しい労使紛争 が巻き起こったため,従業員の存在感が大き くクローズアップされることとなった。株主 の権益は全然無視され,事業の経営は従業員 によって牛耳られて,従業員の待遇が第一義 となり,誰一人として会社の基礎の強化や資 本の蓄積などを考える者がない有様であっ た。 その後,資本の自由化に伴う外資による 乗っ取りを防ぐ名目で,旧財閥企業だけでな く,戦後に成長した企業も株式の持ち合いを 進めていった。 高度成長期を通じて確立された日本企業に 典型的に観察された統治の仕組みは,株主の 権利を実質的に制限し,外部にあるメインバ ンクに代表される銀行,そして内部のメン バーなどが関与する多元的な統治であった。 このような仕組みは,経営者が長期的な視点 から経営を考え,従業員の企業へのコミット メントが高いなどの利点をもっていた。 他方,日本の企業文化の特筆すべき特徴と して,終身雇用制度を背景とする従業員出身 の取締役の存在により,取締役会は業務執行 機能が強いことがある。監督や不正防止とい う観点からは,社内では従業員から取締役, 退任者までからのチェック機能が働き,また 新入社員として就職後の人生の大半が会社で 過ごしてきた者が多いことから,個人の利益 追求に陥らず会社の利益を追求する精神が強 いという傾向がある。 ところが1990年代以降は,株主用具観を前 面に押し出した企業統治の実現が突きつけら れてきた。株主総会の制度の見直し,執行役 員制・社外取締役の導入,監査制度の見直し が行われ,さらに米国型の仕組みを模したも のとして,委員会(等)設置会社が導入された。 すなわち,形式面では,伝統的な二層制の 監査役制度に加えて,一層制の委員会設置会 社の選択的採用を可能にするなど,企業の自 主的な取組みの幅を広げるような制度設計を 行ってきた。また,実質面では,企業統治の 品質確保と株主や投資家に対する説明責任と 透明性向上の観点から,情報開示の強化や, 二層制と一層制の調和を図り,両者の優れた 点を活かすことができるような新しい仕組み の導入等の制度設計に努めている。 (3)戦後日本企業の株式所有構造 戦後の財閥解体などによって,1949年に個 人の持株比率が69.1%に達した。ところがそ の後個人の持株比率は継続的に低下して, 1988年度に20%を下回り,これ以降20%前後 の水準で推移している。 一方で,金融機関や事業法人などの持株比 率が増加していった。株式相互持ち合いの蒿 矢は,1952年に三菱グループ各社が,陽和不 動産(現在の三菱地所)の株式を保有したこ とと言われている。その後,他の旧財閥系企 業でも進められ,加えて外国資本による企業 買収の脅威を低減させることを目的とした独 占禁止法の改正を契機に,株式持合が段階的 に進展してきた。事業法人の持株比率は1950 年に11.0%,以降は緩やかに増加し,1970年 度に23.9%であったが,1986年度に30%台に 到達し,30%前後を推移した。しかし1990年 度から低下傾向を示し,2006年度には20%台 まで低下して,2012年時点では23.3%であっ た。 戦後日本企業の株式所有構造の特徴として の法人株主化の進展は,親会社とグループ構 成企業の間の垂直的な所有構造と,安定株主 化工作によって大企業間で形成される株式持 ち合いの水平的な所有構造からなっている。

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特に六大企業集団構成企業間における株式相 互持ち合いにおいて濃密な関係が形成されて いった。 株式の相互持ち合いを特徴とする株式所有 構造は,伝統的な日本的経営を形成する有力 な制度的要因の1つであった。株式持合は資 本市場における企業買収に対する防衛策でも あった。さらに自社と密接な関係を持つ企業 を相手として,相互に所有されることによ り,結果的に経営者支配を確立させ,長期的 視野に立った企業経営を可能にしたことも指 摘される。 1990年代以降の株式所有構造の変化は,金 融機関を中心とした株式持合の解消を契機と する流動化と,外国人機関投資家のプレゼン スの高まりに纏められよう。1990年代後半に おける株価下落に伴う株式保有リスクの高ま りや,2001年の時価会計の導入などにより, 日本の銀行は持ち合い株に代表される大量の 保有株式を処分した。金融機関が保有する 上場企業株式の比率は,1985年度に37.3%, 1990年度は38.4%,1995年度は37.1%,2000 年度は30.8%,2005年においては23.6%と低 下してきた。 大和総研の調査によると,1995年度には約 91%の企業が持合関係にあったが,2006年度 に約53%まで大幅に減少している。保有銘柄 数をみると,1995年度から2006年度にかけ て,事業会社の保有する銀行銘柄は3.4から1.9 に,また銀行のそれは87.8から44.7に減少し ている。 金融機関に代わって株式保有を増加させた のは,外国人投資家,とくに機関投資家であっ た。外国人持ち株比率は1998年度に銀行を上 回り,2013年度の30.8%まで急上昇してきた (図表2)。 (4)メインバンクの役割 日本の企業統治を議論する際には,最近で は社外取締役や執行役員制度の導入に注目が 集まるが,伝統的には重要な部分は銀行,と りわけメインバンクによって行われていると いう考え方が中心であった。 日本企業は,平常時には事業資金および決 済手段の提供者として,危機時には重要な資 金提供者として,銀行との取引関係を構築し てきた。特に,同じ企業グループに属する銀 行や,融資金額が大きい等の関係が深い銀行 のことはメインバンクと呼ばれている。以前 は,メインバンクが企業の株式を保有するこ とが多かったために,日本のコーポレート・ ガバナンスにおいても大きな影響を及ぼす存 在であった。ところが,現在では,メインバ ンクの株式保有比率は低下している。 都銀・地銀等は,1975年~ 1985年頃にか けては日本の株式市場で20%超を保有し,そ の後も2000年頃までは株式市場の10%以上を 保有していた。銀行は,2000年以降,急速に 保有株式の売却を進めたため,2012年時点で は2.9%を保有するだけである。 1950年代初期から70年代初期に至る高度成 長期が,メインバンク・システムの最盛期と 図表2 日本企業の株主構成 出所:『日本経済新聞』朝刊,2014年9月3日

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みなされている。このメカニズムは次のよう なものである。企業が健全に経営されている 時には,銀行は介入を行わないが,業績が悪 化した場合もしくは悪化しそうな場合には, 追加的に資金を供給することに加えて,役員 を派遣することがよく行ってきた。銀行によ る役員派遣は,企業に不足している経営のノ ウハウを移転する効果がり,また危機にある 企業の場合は経営改革の進捗を監視すること ができる。 しかし,1970年代の半ば以降,規制の下で 機能していたメインバンク・システムの基盤 が揺らぎ始めた。企業は次第に洗練された財 務手法を開発し実践に移したため,資金調達 力が劇的に増大した。企業金融の形態に顕著 な変化が生じ,銀行借入から海外を含めた内 外市場での証券発行に向かった。さらにバブ ル期に銀行が株式その他の資産価格の急騰に 遭遇し,その貸出態度にも変化が生じた。 しかし,メインバンクは資金の貸し出しを 越え,より広範な役割を演じている。戦後の 日本において,メインバンクは企業のモニタ リングやガバナンスの主柱であり,少なくと も1990年代には,メインバンクが役員派遣を 通じて企業経営者を規律付けるというメカニ ズムは,まだある程度残っていたと見なすこ とができる。 過去の実証研究を見ても,業績が悪化した 企業に銀行が介入する傾向が強いことが示さ れている。研究によると,業績が悪化してい る企業では,銀行から役員が派遣される確 率,特に常務以上の役員が派遣される確率が 高い。また,新規に役員が派遣された場合, 企業の業績が向上することが示されている。 しかし21世紀に入ってから,メインバン ク・システムが一層弱体化している中で,新 たなモニタリング・システムが必要とされて いる。

3 日本の企業統治制度

日本では,企業統治の制度は会社法により 定められている。日本の会社法は,1890年制 定の商法に遡るが,2005年には,商法の一部 であった会社に関する部が1つの法律として 独立して,会社法が新設された。 会社法では,利害関係者の規模や数の違い を反映して,大会社とそれ以外の会社により 規定の適用を区分している。大会社とは,資 本金5億円以上の会社,あるいは負債総額200 億円以上の会社である。 現行会社法では,大会社については以下の ような企業統治の制度が設計されている。第 1は,「監査役会設置会社」であり,日本の伝 統的な制度である監査役が存在する。取締役 会に社外取締役は義務付けられず,代わりに 監査機能を有する監査役会の過半数は社外監 査役でなければならない。 第2は,2003年に導入された「委員会設置 会社」であり,指名委員会,報酬委員会,監 査委員会の3委員会の設置が義務付けられて いる。各委員会の過半数は社外取締役でなけ ればならない。 法律上は,監査役会設置会社と委員会設置 会社との間に,制度上の優劣はない。会社は 自身の置かれている事業や株主等の状況に応 じて,最適な企業統治の制度を設計すること ができる。 なお,日本では,社外監査役と社外取締役 が存在するが,その定義は「社外性」にとど まる。会社との取引関係等の「独立性」に関 する法律上の定義は置かれていない。 2014年6月20日に国会で可決・成立した改 正会社法(施行は2015年5月1日と予定してい る)においては,監査役会設置会社と委員会 設置会社との中間形態である「監査等委員会 設置会社」が,第3の企業統治制度となって いる。 (1)監査役会設置会社 監査役という制度は,日本の独自の伝統的 な企業統治の制度である。監査役は取締役会

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の業務執行を監査する責任を負っている。監 査役会設置会社では,社外取締役は義務付け られていない。その代わりに,監査役会は, 3人以上の監査役から構成され,その半数以 上は社外監査役であることが義務付けられて いる。現在でも,上場会社の90%以上は,こ の監査役会設置会社制度を維持している。 現行の社外性の要件については,さまざま な批判がなされていたため,新しい会社法で は,社外性を判断するために10年間の冷却期 間を設け,過去10年間に子会社の取締役や従 業員でなかった者は社外監査役に就任できる と改正されている。また,親会社の取締役や 従業員であった者は,社外監査役に就任でき なくなる。 なお,監査役会設置会社における社外取締 役の義務付けについては,今回の会社法改正 でも見送られた。しかしながら,今回の改正 後は,監査役会設置会社(大会社かつ公開会 社である場合)が社外取締役を設置していな い場合には,株主総会において,「社外取締 役を置くことが相当ではない理由」を説明し なければならないものとされている。また, 東京証券取引所では,独立性の高い社外取締 役を1名以上確保することを要請している。 2014年6月末の時点で,東証1部上場会社の 74.2%はすでに任意で社外取締役を設置して いる。ガバナンスの向上のために社外取締役 に関して,株主が納得するような「社外取締 役を置くことが相当ではない理由」の説明は 大変困難であると推測できる。そのため,今 後は監査役会設置会社においても,社外取締 役の導入が進むことが予想される。        (2)委員会設置会社(指名委員会等設置会社) 委員会設置会社は,海外制度との調和やグ ローバルな経営体制の実現を目指して,2003 年に導入された制度である。委員会設置会社 には,指名委員会,監査委員会,報酬委員会 の設置が義務付けられている。これらの3委 員会の過半数は,社外取締役でなければなら ない。 社外取締役の要件に関して,新しい会社法 においては,10年の冷却期間の設定および親 会社出身者は社外取締役として認めないよう に改正されている。また,改正会社法におい ては,以下の監査等委員会設置会社の新設に 伴い,従来の委員会設置会社は「指名委員会 等設置会社」と名称変更される。 委員会設置会社は国際的調和を意識した制 度設計であることから,一層制に馴染んだ海 外投資家には親和性の高い制度となってい る。しかしながら,実態としては,東証1部 上場会社のうち3月決算1337社においてもわ ずか37社(2.7%)の採用しか進んでいない。 背景には,3委員会の設置が義務付けられて いて硬直であること,人事権が指名委員会に 委譲されることに対する経営者の抵抗が強い 株主総会 取締役会 監査役会 (3人以上の監査役で構 成,半 数 以 上は社 外 監 査役) 代表取締役 図表3 監査役会設置会社 出所:筆者作成。

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ことなどが考えられる。 委員会設置会社を選択している会社の特徴 として,事業環境がグローバル化しているこ と,株主構成において外国人投資家や主要株 主の存在することを理由として,国際的な調 和を目指している会社が多い。また,不祥事 や社会問題等を契機に,透明性やアカウンタ ビリティの必要性を強く認識するようにな り,経営と監督がより分離している委員会設 置会社制度を選択した会社もある。 日立製作所を委員会設置会社の典型例にし て,具体的なイメージを示しておこう(図 表5)。日立製作所の『アニュアルレポート 2013』によれば,取締役会を構成する14名の 取締役のうち,執行役を兼務する取締役は1 名であり,取締役会長は執行役を兼務してい ない。また,外国人を含む社外取締役を過半 数の8名とし,グローバルで多様な視点を経 営へ反映させるとともに,監督機能の強化を 図っている。2013年6月21日現在において執 行役は31名いる。取締役会の議題を中期経営 計画などの大きなテーマに絞り込み,個別案 件の決定権限を執行役に委ねることで経営の 迅速化を実現している。 なお,2013年末時点で,東証1部上場会社(3 月決算)のうち,委員会設置会社は以下の通 りである。東芝,日立製作所,日本取引所グ ループ,ソニー,オリックス,日本精工,三 菱電機,大和証券グループ本社,エーザイ, コニカミノルタ,野村ホールディングス, フィデアホールディングス,東京電力,LI XILグループ,日立建機,りそなホールディ ングス,マネックスグループ,みらかホール ディングス,エステー,フジシールインター ナショナル,福井銀行,日立化成,日本板硝 子,日立金属,大京,栄研化学,日立メディコ, HOYA,十八銀行,いちよし証券,カブドッ トコム証券,日立物流,日立電線,日立ハイ テクノロジーズ,日立キャピタル,日立国際 電気,黒田電気。 図表4 委員会設置会社(指名委員会等設置会社) 株主総会 代表執行役 執行役 取締役会 監査委員会 (各委員会は3人以上の取締役で構成,半数以上は社外取締役) 指名委員会 報酬委員会 出所:筆者作成。

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(3)監査等委員会設置会社 監査等委員会設置会社制度は,2014年6月 に成立された改正会社法において,創設した 新しい企業統治の制度である。監査役会設置 会社制度と委員会設置会社との間の中間形態 として位置づけられている。 伝統の監査役会設置会社は,独立した監査 機関である監査役および監査役会が設置され ることから,形式的には客観的かつ独立性を 有する強力な監査を行うことが期待されてい る。しかしながら,監査役は取締役会の構成 員ではなく,取締役会の決議に参加できない ため,取締役会の意思決定に対する介入の機 能は弱いとの批判がなされていた。 他方,委員会設置会社は,指名・報酬・監 査の3委員会の設置が義務付けられており,硬 直的な組織となっている。また,日本の企業文 化では,取締役には業務執行権限がより強かっ たこと,各委員会の決定は取締役会の決定に 優先するため,社外取締役が過半数を占める 委員会の権限が強力すぎるとの批判がある。 このような監査役会設置会社と委員会設置 会社のそれぞれの欠点を補い,日本の伝統的 な企業文化(監査役会)と委員会制度の特徴 を融合するために,新しく監査等委員会設置 会社制度が導入されることとなった。 監査役会設置会社から監査等委員会設置会 社への移行手続きとしては,従来の日本の監 査役を取締役に変更させ,外部の機関であっ た監査役会を取締役内部の監査等委員会に変 更させることになる。こうすることで,社外 監査役は社外非業務執行取締役となり,結果 的に社外取締役の設置も進むことにつなが る。また,旧監査役は取締役として,取締役 会の決議に参加できるようになるため,監督 の実効性が高まると期待される。 図表5 日立製作所の取締役会 図表6 監査等委員会設置会社 出所:『日本経済新聞』朝刊,2014年3月10日より整理作成。 出所:筆者作成。 社外取締役が過半数 社内6人,社外8人 社長をいつでも解任できる体制に して緊張感を維持 外国人,女性を選任 外国人4人(社内1人,社外3人), 女性2人(日本人1人,外国人1人) を経営に反映グローバルな視点,多様な価値観 執行役員制を導入 取締役会は経営の基本方針, 中期計画に議論を集中 個別案件は執行役に権限委譲し,経営を迅速化 委員会設置 指名,報酬,監査の3委員会で 社外取締役が過半数 株主総会 取締役会 代表取締役 業務執行取締役 監査等委員会 (3人以上で構成され,過 半数は社外取締役,全委 員は非業務執行取締役)

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4 日本の企業統治の改革

(1)株主総会の運営 日本の会社法における企業統治上の重要な 権利である議決権については,1株1議決権の 原則が適用される。会社法上,公開会社の場 合,以下の5項目については,株主総会で決 定することとされる。 ①会社の基礎的変更に関する事項(定款変 更,合併・分割,解散等) ②機関等の選任・解任に関する事項(取締役, 監査役,会計参与,会計監査人等) ③計算に関する事項(計算書類の承認等) ④株主の重要な利益に関する事項(剰余金の 処分・損失の処理,新株・新株予約権の有 利発行等) ⑤取締役等の専横の危険のある事項(取締役 等の報酬の決定,事後設立等) また,日本では個人株主による株主提案が 大変多い。株主提案権については,権利行使 前6カ月間に総株主の議決権の1%以上または 300個以上を保有する株主は,株主総会の8週 間前までに書面または電磁的方法により,株 主総会の目的および議案の提出を行うことが できる。東証一部上場会社(3月決算)を対 象とした調査によれば,2013年6月の株主総 会においては,1社当たり平均3.4議案が提出 された。 日本では,公開会社の取締役の任期は原則2 年であり,定款で1年に短縮することが認めら れている(例外的に,委員会設置会社の取締 役の任期は1年)。監査役に関しては,安定し た立場で実効的な監督の役割を果たすという 理由から,その任期は4年と定められている。 機関投資家の多くは役員選任議案について は各候補者に対して賛否の投票を行い,さら に会社法上設置が義務付けられている社外監 査役の選任に対しては,とくに厳しい精査を 行う機関投資家が多い。 日本においては,複数の会社が互いの株式 を持ち合う構造が長く経営者支配の体制を支 えてきた。株式持合は互いに議決権を行使し ない物事言わぬ株主となったため,経営権を 安定させる一方,株主総会は形式的に開催さ れ,短期間で終了する「シャンシャン総会」 と呼ばれて形骸化していた。しかし,バブル 経済崩壊以降,株式の相互持ち合いが崩壊 し,売り出された株式が海外投資ファンドな どに取得されるようになると,これまでと 違った対応が迫られている。 日本の株主総会に関してこれまで,総会開 催日の集中と,総会時間の短さなどが問題に されてきた。 株主総会で権利行使できる株主を確定する ために基準日制度を採用している会社におい ては,基準日から3カ月以内に株主総会を開 催しなければならないが,実務上は,ほとん どの会社で決算期末日を基準日として設定す る。そのため,3月31日が決算期末の場合に は,6月30日までに株主総会を開催しなけれ ばならない。日本では,上場会社の80%以上 の会計年度が4月から3月末であることから, 6月後半に株主総会を開催する会社が集中す ることになる。 また,かつては株主総会をかく乱させる要 因として,総会屋に悩む会社も多かった。そ のため,多くの会社が同じ日に株主総会を開 催して,防衛しようという対策を行ってき た。現在では総会屋はほとんど消滅している が,株主総会のスケジュールや実務において その影響がまだ残っている。 集中日が複数の株式を所有する株主の出席 を妨げているので,東証は2007年11月の企業 行動規範において,株主総会の分散化を努力 義務として定めている。東証によると,1995 年3月期に集中率が96.2%とピークを記録し たが,その後各社はピーク日を避けるなど開 催日の分散化を推進し,2010年以降は集中日 開催の会社は40%台前半にとどまっている。 直近の2014年総会が最も集中するのは6月27 日で,東証上場企業2375社のうち,38.7%に 相当する918社が開いた。特定の一日に集中 することからは分散化が進んでいるといえよ う。 一方で,集中日を含む週(2013年6月24日 ~ 28日)に株主総会を開催した会社は75.5%

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に上っていることから,今なお一定時期にお ける開催が高い状況にある。 東証はまた,株主総会における株主の議決 権行使の促進に向けた環境整備を上場会社各 社に要請してきた。株主総会の活性化の取組 みとしては,株主総会の集中日の回避のほか に,招集通知の早期発送,招集通知等の英訳 の提供,電磁的方法による議決権の行使が行 われている。 近年では,総会屋の活動が弱まったこと や,株主総会を会社アピールの舞台として捉 えることが多くなったために,サラリーマン などの一般個人株主にも出席しやすい土曜日 や日曜日に,定時株主総会を開く会社が多く なってきている。 次に,総会時間について見ると,従来大部 分の総会が30分程度で終了し,質問も全くな いのが普通であった。経営者は総会に出席し ない株主から送られてきた多数の委任状を背 景に,強引に議事を進めていくことが多かっ た。しかし1999年以降,開催日の集中度低下 に伴い,総会の時間が長くなってきている(図 表7)。所要時間は50分前後というのがすっか り定着し,30分程度で事業報告と議案の説明 を行い,20分程度で質疑応答に費やすのが平 均的な株主総会の流れとなっている。 また,個人株主を重視する会社の株主総会 においては,会社活動のアピールのために, 色々な特典を用意して,株主が参加してもら えるようなサービスを行なっている。主な サービスには以下のものがある。 A.会社説明会の開催。総会後,会社の事業 内容について知識のあまりない個人株 主に対して,事業活動や組織について 噛み砕いて説明する場を設ける場合が ある。とりわけ,一般消費者になじみ(接 点)がない生産財・中間財メーカーな どが積極的に行っている。 B.懇親会の開催。総会後,飲食接待を行な う。その場で各役員が,各株主と直接 対話する場合も多い。また,飲食業(外 食産業)を営む会社では,会社の商品 を試食してもらうために提供する場合 もある。ゲームソフトの会社では総会 中に同伴の子供が自社ソフトのプレイ を楽しめるようになっていたり,終了 後に新商品の試用ができるようになっ ていたりする。 C.コンサート。音楽関連の会社(レコード 会社や芸能事務所など)では,会社が プロデュースする音楽家(アーティス ト)の演奏会を行なう場合がある。 さらに総会開催中に,同伴の子供を対象に 託児サービスを行っている会社もある。 このほか,証券取引所ウェブサイトにおけ る招集通知の開示が始まるなど,株主総会の 電子化が進んでおり,インターネットによっ て議決権行使を行う方法,議決権電子行使プ ラットフォームの活用が進められている。イ ンターネットによる議決権行使とは,各株主 にIDとパスワードを交付して,インターネッ ト経由での行使を可能とするものである。主 には個人投資家の議決権行使の手段を拡充す ることを目的としている。2013年6月時点で は東証1部上場会社のうち490社が採用してい る。 年 度 1993 1997 2001 2005 2008 2011 2013 平均所要時間(分) 29 29 39 48 54 54 51 図表7 株主総会の平均所有時間の推移 出所:商事法務研究会『株主総会白書』各年版より作成。

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株主総会の議決権行使結果を分析した研究 によれば,株主総会における議決権行使率の 平均は,約75%である。機関投資家の多くは 受託者責任の観点から議決権行使を行う傾向 が高く,事業会社の場合は持ち合いや資本関 係のある親密株主である場合が多いため,議 決権行使は必ず行われる。他方,個人株主は 一般に議決権行使を行わない傾向が高いと指 摘されている。そのため,親会社や主要株主 が存在する会社では,議決権行使比率は高 い。これに対して,個人株主比率が高い場合 には,外国人比率が高い場合であっても,議 決権行使比率は低い傾向にある。 (2)取締役会の構成 日本の企業統治の特徴として,取締役会の機 能が監督よりも業務執行に重点が置かれていた ことから,取締役の人数が数十人規模の会社も 少なくなかった。また,日本の企業文化として,取 締役の多くは従業員出身者であり,新入社員とし て会社に入社した従業員の多くは,取締役に就 任することが目標であるという意識があった。 取締役会改革のきっかけになったのは, 1997年のソニーによる執行役員制度の導入で ある。ソニーに続き,多くの企業が取締役会 改革を行っている。典型的には,執行役員制 度を導入し,取締役の人数を大幅に減少さ せ,社外取締役を増加させている。その結果, 2000年時点では平均して25人程度であった取 締役数が,2005年には16人,2012年8人程度 と大きく減少している。典型的な大規模取締 役会の人数変化は図表8に示されている。 図表9によれば,2005年と2013年とを比較 すると,日本企業の取締役会の効率化が進み つつある。20名超の取締役が存在する会社 は,2005年6月には41社であったが,2013年6 月以降は5社にまで減少した。また,取締役 の1社当たりの平均人数は,2005年6月は10.1 名であったが,2013年6月には8.9名にまで減 少している。全体的に取締役会の人数が小規 模化するとともに,20名を超える規模の会社 は相当数減少した。 図表8 大規模取締役会人数の推移(1986年→2007年→2014年) 図表9 取締役,監査役の状況(東証1部上場会社3月決算を対象) 出所:1986年と2007年は久保克行(2010),2014年は各社ホームページより作成。 出所:上田亮子(2014),37頁より作成。 大林組    49→11→10   鹿島建設   48→12→10   トヨタ自動車 50→26→15  三菱商事  52→18→14 三井物産  49→11→13  伊藤忠商事 47→14→13  2005年6月 2009年6月 2013年6月 東証1部上場会社 1348社 1359社 1337社  平均取締役数 10.1名 9.3名 8.9名  平均社外取締役数 0.8名 0.9名 1.2名  取締役が21名以上 41社 13社 5社 監査役会設置会社 1303社 1315社 1300社  平均取締役数 10.2名 9.3名 8.7名  平均社外取締役数 0.6名 0.8名 1.1名  社外取締役非設置の会社数 819社 716社 472社 委員会設置会社 45社 44社 37社  平均取締役数 9.0名 9.1名 9.4名  平均社外取締役数 4.2名 4.3名 4.6名

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なお,2012年6月以降,取締役20名超の会 社と人数は以下の5社である。ニプロ(27名), 東レ(26名),凸版印刷(26名),信越化学工 業(23名),角川グループホールディングス(22 名)。 (3)社外取締役の選任 会社法および上場規則の改正を見越して, 社外取締役を新たに採用することを検討する 会社が増加している。東証1部の上場企業で 社外取締役を1人以上選任している企業は, 2004年の30.2%から2011年には52.4%と過半 数を超え,さらに2014年7月時点で74.2%に 達した(図表10)。 日本政府が企業統治の改革を成長戦略の柱 の1つに据えているため,これからは社外取 締役の導入が一段と進む見通しである。2015 年5月に施行する改正会社法で社外取締役を 置かない企業に対し,その理由を説明するこ とを義務付ける。さらに金融庁と東京証券取 引所が6月に適用する企業統治指針では東証 1部・2部上場企業は2人以上置くことを求 める。 ただ日本では,社外取締役・社外監査役の 独立性に関するベスト・プラクティスがない ため,各会社はそれぞれの状況に応じた独自 の独立性基準を設けて,対応している会社が 多い。実際上,幅広く事業を展開しているトッ プ企業や地域の優良企業においては,取引関 係等が皆無である社外取締役・社外監査役を 指名することは困難で,何らかの関係を有し ている場合が少なくない。 (4)取締役会構成メンバーの多様性 日本では,伝統的に,取締役の職務は監督 よりも業務執行に重点が置かれていた。ま た,年功序列と終身雇用という企業文化のも とで,取締役の役職は,社内の従業員の昇進 のゴールであるという認識が定着していた。 また,以前は,結婚や出産後に仕事を辞めて 主婦になる女性が多かったため,必然的に男 性が主要な人材となっていた。このような背 景から,日本企業の取締役は,中高年の男性 であることが多かった。取締役全員が「男 性×日本人×50歳代以上」である会社は, 68.0%(日経225企業のうち153社)である。 日本の取締役会は,まだまだ従業員の昇進の ゴールという企業文化の影響を残しているよ うである。 しかしながら,日本社会では,積極的に活 動する女性や外国人が増加し,存在感が高 まっている。また,日本企業を取り巻く環境 がグローバル化し,利害関係者が多様化して いる。このような社会やビジネスの環境の変 化を反映して,取締役会内部における多様性 (ダイバーシティ)の必要性を認識する会社 も増加している。ところが,図表11によれば, このような多様な属性を有する取締役の比率 は,まだ全取締役の約2%程度に過ぎない。 図表10 東証1部上場企業で社外取締役を置く企業の比率 出所:『日本経済新聞』朝刊,2015年2月8日

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注意すべきなのは,日経225企業の女性取 締役51名のうち46名(90.2%)は社外取締役 である。法律上は社内取締役として登記され ている5名のうち,4名は創業家の出身者であ る。女性取締役で,従業員出身で業務執行を 担当する社内取締役は,高島屋(デパート) の1名だけである。 業種別では,日経225企業のうち保険(6社 中4社),食品(11社中6社),商社(7社中3社) において,女性取締役を活用する傾向が高い。 これらの業種では,女性従業員の比率が高く, 顧客も女性が多いこと等を理由に,女性の活 用に積極的な会社が多い。これに対して,自 動車,鉄鋼,非鉄金属,建設,不動産等の業 界では,女性取締役は採用されていない。 外国人取締役が選任されている比率が 2.2%から2.0%に低下しているが,これはあ おぞら銀行において筆頭株主である海外ファ ンドの変更に伴い,6名の取締役が退任した ことの影響を受けている。そのため,全体と しては,外国人取締役を採用する会社数は増 加傾向にある。 海外企業が親会社や主要株主である会社 (例:中外製薬とロシュ,昭和シェル石油と シェル,日産自動車とルノー等)を除き,事 業環境や経営体制のグローバル化を目指し て,自主的に外国人取締役を選任する会社が 多い。特に,医薬品(8社中3社)や電気機器 (29社中5社)等の業種では,外国人取締役 を選任している会社の比率が高まる。これら の会社では,海外での売上比率が50%を超え る会社や,従業員において日本人よりも外国 人の比率が高い会社も少なくない。 これに対して,食品,建設,不動産,鉄道 等の内需型の産業においては,外国人取締役 は選任されていない。また,商社に関しては, グローバルにビジネスを展開しているが,日 本独特のビジネスモデルであるとの指摘もあ り,外国人取締役は選任されていない。 図表12をみると,日本企業の取締役は60歳 代が49.7%,50歳代が37.4%である。49歳以 下を若手と定義すれば,30歳代は0.1%,40 歳代は1.6%に過ぎず,全体のわずか1.7%に 過ぎない。また,49歳以下の若手取締役を採 用している会社は,10.7%である。比較的多 く若手取締役を選任している業種は,通信(6 社中3社),サービス(7社中3社),保険(6社 中2社)である。比較的新しい分野の技術を 取り扱う業種や,サービス産業において,若 手取締役を選任している。これに対して,機 械,化学,鉄鋼,非鉄金属,窯業などの工業 国としての主要産業分野においては,若手取 締役は選任されていない。 女性 外国人 49歳以下 2012年 1.6% 2.2% 1.7% 2013年 2.1% 2.0% 1.7% 図表11 日本企業の取締役における多様性(全取締役に占める比率) 図表12 取締役の年齢分布 注:日経平均株価指数の採用企業(225社)を対象 出所:加藤栄治(2014)より作成。 注:日経平均株価指数の採用企業(225社)を対象 出所:加藤栄治(2014)より作成。 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳代 0.1% 1.6% 37.4% 49.7% 10.4% 0.9%

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(5)経営者報酬の水準と構成 有価証券報告書における役員報酬の開示に おいて役員は,①取締役(社外を除く),② 監査役(社外を除く),③執行役,④社外役 員(社外取締役・社外監査役)の4類型,報 酬の種類は,①基本報酬,②ストックオプショ ン,③賞与,④退職慰労金等の4類型に区分 される。 TOPIX100企業を対象に,役員区分ごとの 報酬の水準と内容について分析した結果(図 表13)によれば,最も報酬水準が高いのは委 員会設置会社の執行役で1億1782万円,続い て取締役(社内)5890万円,その後監査役(社 内)2710万円,社外取締役1447万円,社外監 査役1143万円と続く。 監督機能が期待される監査役(社内)や社 外役員(社外取締役と社外監査役)に比べ て,業務執行機能を有する執行役や取締役 (社内)の報酬水準が高く,業績への貢献度 に応じて報酬が決定されていることが推察で きる。 次に役員報酬の構成について,図表14を見 よう。業務執行機能が期待される執行役(委 員会設置会社)および社内の取締役は,監督 機能が期待される監査役や社外役員(社外取 締役と社外監査役)に比べると,基本報酬の 比率が低く,業績連動部分の比率が高くなっ ている。他方,監査役や社外役員は,報酬全 体の9割程度以上が固定報酬で構成されてい る。ストックオプションの比率は,取締役の 6.9%が最も高いが,続いて社外取締役の5.4% である。賞与も,取締役の18.1%が最も高い。 このように,取締役はストックオプションや 賞与といった業績連動型報酬制度の適用が比 較的進んでいる。 また,執行役については,日立製作所,東 芝,三菱電機等にみられるように,報酬の一 定割合(会社により3割程度から4 ~ 5割程度 まで様々)について,業績連動報酬が支払わ れる場合が多い。 図表13 日本企業の経営者報酬 注:TOPIX100企業を対象,各社の2012年度有価証券報告書より作成。 出所:上田亮子(2014),59頁。

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図表15によれば,報酬水準について日本と 米国の会社で共通する特徴としては,以下の 2点がある。第1に,業務執行機能を有する者 のほうが,監督機能を有する者よりも報酬水 準が高い。第2に,社外取締役等の監督機能 を有する者の報酬水準は,日本も米国も同程 度である。他方,日本と米国とで大きく異な る点として,米国の業務執行者の平均的な報 酬総額は,日本の社内取締役や執行役の平均 的な報酬総額よりも10倍以上も高くなってい る。役員報酬が1億円に満たない企業トッ プが多い日本から見ると,米国のスーパー CEOたちはまるで別世界の住人である。 米コンサルティング会社,タワーズワトソ ンがまとめているCEO報酬の国際比較が興 味深い。最新の2013年の集計(図表16)によ ると,売上高1兆円以上の米企業のCEOは 平均して総額11.5億円の報酬を受け取った。 日本企業は1.3億円にとどまり,総額だけを 比較すれば米CEOの報酬は突出している。 しかし,この中から業績や株価の動向に影 響されない「基本報酬」を抜き出すと様相が 異なる。米CEOの基本報酬は総額の11%に あたる1.2億円にとどまり,対照的に日本企 業は総額の59%,7400万円となり,日米の差 は急速に縮まる。日本の経営者報酬には,企 業価値を高めるために積極的にリスクをとっ ていこうという動機づけ(インセンティブ) が足りないのではないか,という逆の問題を 提起している。 図表14 日本企業の経営者報酬の構成 図表15 日本と米国の役員報酬の比較(百万円,1ドル=100円で換算) 基本報酬 オプションストック 賞与 その他業績連動報酬 退職慰労金 取締役 71.1 6.9 18.1 1.9 2.0 監査役 95.0 0.7 3.7 0.4 0.2 社外役員 93.2 2.4 2.8 0.3 1.3 社外取締役 88.1 5.4 1.9 0.5 4.1 社外監査役 99.4 -- -- 0.6 --執行役 79.6 3.5 0.7 10.4 5.8 注:TOPIX100企業を対象。各社の2012年度有価証券報告書より作成 出所:上田亮子(2014),60頁より作成。 注:TOPIX100企業およびDOW30企業を対象。各社の2012年度有価証券報告書(TOPIX100企業)   および2013年プロキシー・ステートメント(DOW30企業)より作成。 出所:上田亮子(2014),61頁。 基本 報酬 オプションストック 賞与 その他業績連動報酬 慰労金退職 その他報酬 合 計 執行役 94 4 1 12 7 118 取締役 42 4 11 1 1 59 監査役 26 0 1 0 0 27 社外監査役 11 0 0 0 0 11 社外取締役 13 1 0 0 1 15 米国・業務執行者 96 627 271 257 247 1508 米国・社外取締役 12 17 8 37

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5 日本の企業統治のゆくえ

企業システムに対する評価は,その時代に 応じて大きく変化する。1980年代には,日本 の企業システムは世界中の称賛の的であっ た。当時,メインバンク,長期雇用,企業集 団といった特色が,日本企業の高い競争力の 源泉であるとして,新聞・雑誌などで高く評 価されていた。しかし,日本が長い不況に入 ると,これらの特色に対する評価は逆転し, これらこそが日本企業の非効率性の原因であ るという主張が強くなされるようになった。 日本企業もアメリカの企業をお手本にして, 改革を行うべきとのことであった。 会社法の改正を背景に,社外取締役の導入 が進んでいる。社外取締役を導入する理由と して最も重視されているのは,「社外の斬新 な意見などを取り入れることができ,取締役 会が活性化する」,そして「経営に対する外 部からのコンセンサスが得やすい経営にな る」,「透明度の高い経営であることをアピー ルできる」が,どう活用するかに頭を悩ませ ている。 これについて,日本を代表する「プロ経営 者」としてローソンの業績を立て直した手腕が 買われ,サントリー社長に就任している新浪剛 史が,社外取締役の鋭い指摘を経営戦略に反 映させていたと次の話が示唆的であろう。 「日本企業は取締役会のモードを変えなけ ればいけない。中長期に考えて,その事業が 本当に収益を生むのかを取締役会で議論し, 強いところにどんどんキャッシュを投じ,場 合によっては自社より強い企業を買いに行 く。逆に,弱いところは撤退し売却する。そ こで社外取締役は,経営者が気付かない切り 口で視野を広めてくれる。取締役会が社内の 人間だけだと,モノカルチャー(単一文化) になってしまう。社外取締役がいることに よってダイバーシティー(多様性)が生まれ, いろいろな考え方が入る。 ローソンは,2014年5月末時点に9人で取締 役会を構成し,そのうち社内が4人,社外取 締役が5人。その5人のうち3人が女性であっ た。男女や経歴のダイバーシティーがある と,議論が活発になる。社外取締役による刺 激があったからこそ,直近の11年間はローソ ンの営業利益が毎年伸びた。社会がデフレに 苦しむ中,みんなと同じ行動をするのではな く,違うものをやろうとチャレンジしたこと が大きかった。 社外取締役としての役割は,大局的に会社 の運営を見ることである。株主の代表とし て,中長期的に企業価値を上げることが問わ れる。このバランスを確認し,経営陣にモノ を言う必要があると思う」(『日経ビジネス』 2014年8月25日号)。 2014年6月に改正会社法が成立し,社外取 締役の選任を促す新制度が設けられたほか, 社外取締役の要件も変わった。さらに「監査 等委員会設置会社」が創設され,新制度の導 入の動向は今後の注目点である。日本の企業 統治をめぐる議論が活発であり,法制度も頻 繁に改正されている。新たな企業統治のあり 方を探る動きはこれからも続けるであろう。 図表16 日・英・米のCEO報酬の比較 注:2013年タワーズワトソン調べ 出所:『日本経済新聞』朝刊,2015年2月8日。

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参考文献

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参照

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