みんながヒーロー
し ん
新
がたコロ ナウイル スなんか に まけない ぞ!
(子こ どもばん版)
『みんながヒーロー』の 制作 について
本書は、「緊急時のメンタルヘルスと心理社会的支援に関する、機関間常設委員会レファレンス・グループ(IASC MHPSS RG)」のプロジェクトに より制作されました。本プロジェクトには、IASC MHPSS RGのメンバー組織に所属する国際的専門家や地域・国別専門家に加え、104 ヵ国の養育者、
教員、そして子どもたちが協力してくれました。そして、新型コロナウイルス感染症の流行が続く中での、子どもたちのメンタルヘルスおよび心 理社会的ニーズを評価するため、アラビア語、英語、イタリア語、フランス語、スペイン語で世界的な調査が実施されました。この物語を通して 扱うことになったトピックスの骨格は、この調査結果に基づき、考案されています。本書の内容は新型コロナウイルス感染症に影響を受けている 国々の子どもたちに、読み聞かせを通して伝えられました。こうして、子どもたちと養育者からのフィードバックが、この物語の検討や改訂に生 かされています。
1700人を超える世界中の子どもたちと養育者が、どのように新型コロナウイルス感染症の大流行に対処しているか、貴重な時間を使って私たち に共有してくれました。こうした子どもたち、養育者、教員の皆さんのおかげで調査が完了し、物語が仕上がったことに心より御礼申し上げます。
本書は世界中の子どもたちのために、子どもたちによって作られたお話なのです。
IASC MHPSS RG は、このストーリーの文と絵をかいてくれたヘレン・パトゥックさんにも謝意を表します。
©IASC, 2020.
本書は、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-継承 3.0 IGO ライセンス(CC BY-NC-SA 3.0 IGO; https://creativecommons.org/li- censes/by-nc-sa/3.0/igo)のもと、発行されています。本ライセンスの条項に基づき、本作品が適切に引用される場合に限り、非営利目的で、本 作品の複製・翻訳・翻案を行うことが可能です。日本語版は IASC の許可のもと作成され、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-継承 4.0 国際 ライセンス(CC BY-NC-SA 4.0; https://creativecommons.org/licenses/
by-nc-sa/4.0/)で提供されています。本ライセンスの条項に基づき、本作品が適切に引用される場合に限り、非営利目的で改変などが可能です。日本語版制作:翻訳・
編集/谷口博子(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室)、翻訳校閲/石塚 彩(東京大学大学院同教室)・竹中健裕(翻訳者)、デザイン/鈴木妙子。日本語 版お問い合わせ先:谷口博子(taniguchih@m.u-tokyo.ac.jp)。有志による制作により、所属する組織とは関係ありません。
日本語版注:感染予防のための人との距離については、世界保健機関(WHO)の指針「 少なくとも 1メートル」に沿った英語原書に準じています。
翻訳 について
「緊急時のメンタルヘルスと心理社会的支援に関する、機関間常設委員会レファレンス・グループ(IASC MHPSS RG)」は、アラビア語、中国語、フランス語、ロシア語、スペイン語の翻訳を準備しています。これ以 外の言語の翻訳については、IASC MHPSS RG(mhpss.refgroup@gmail.com)までご連絡ください。各言語の 翻訳はすべて、IASC MHPSS RGのウェブサイトに掲載されます。
本作品を翻訳あるいは翻案される場合には、次の点にご留意ください。
・制作物に、制作者のロゴ(あるいは資金提供機関のロゴ)を入れることはできません。
・翻案される場合(文章や画像を変更する場合など)、IASCロゴは使用できません。本作品を利用されるいか なる場合でも、IASCが特定の機関、制作物、サービスを推奨・宣伝することはありません。
・ご自身の翻訳および翻案は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスあるいは同等のライセンスのもと、利 用を認可してください。推奨版は CC BY-NC-SA 4.0 あるいは 3.0 です。互換性のあるライセンスのリストは、
こちらでご覧いただけます。https://creativecommons.org/share-your-work/licensing-considerations/com- patible-licenses
・翻訳版には、以下の免責条項を翻訳言語で記載してください。「本翻訳・翻案は機関間常設委員会(the In- ter-Agency Standing Committee: IASC)が制作したものではありません。IASCは本翻訳・翻案の内容および正 確性について、一切の責任を負いません。原書である英語版 Inter-Agency Standing Committee. My Hero is You: How Kids Can Fight COVID-19! Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO のみが法的拘束力のある正規版です。
はじめに
『みんながヒーロー』は、新型コロナウイルス感染症の大流行に影響を受けている世界中の子どもたちのために書かれた本です。
『みんながヒーロー』は、養育者あるいは先生が、一人または少人数のお子さんに読み聞かせをしてあげてください。養育者や先生のサポートが ない中で、子どもたちだけで、この本を読むことは、おすすめできません。付録ガイド『ヒーローのためにできること(仮題)』(後日発行予定)
では、新型コロナウイルス感染症に関するトピックを扱ったり、子どもたちが気持ちや感情をコントロールするのを手助けしたりするときに役立 つ内容を掲載しています。また、子どもたちが本書を踏まえてできる行動も紹介しています。
サラのママは、サラのヒーローです。だって、ママは 世せ か い い ち
界一のママだし、世せ か い い ち
界一のかがくしゃだからです。 でも、サラのママにも、新しんがたコロナウイルスのくすりを 見みつけることはできません。
「新しんがたコロナウイルスは、どんなかっこうしてるの?」
サラはママにたずねました。
「コロナウイルスはとても小ちいさくて、見み えないの」 とママは言い いました。「でも、ウイルスで
病びょうき
気になった人ひとのせきやはなみずで広ひろがったり、 病びょうき
気になった人ひとが、ほかの人ひとやものをさわったりして 広ひろ
がるの。病びょうき気になると、ねつやせきが出で たり、 いきをするのがくるしくなる人もいるのよ」
「見み えないから、コロナウイルスとはたたかえないの?」
とサラはたずねました。
「たたかえるわよ」とママ。「だからね、サラ。 サラには元げ ん き気でいてほしい。ウイルスはいろんな人ひとに よってくるけど、みんながたたかいをおてつだいできる。 子こどもにはすごいちから力があって、子こどももおてつだい
できるのよ。だからサラには、みんなのために 元げ ん き気でいてほしい。
ママのヒーローでいてほしいの」
その夜よる、サラはベッドの中なかで、自じ ぶ ん分はちっとも
ヒーローじゃないと、かなしい気き もちになりました。 学がっこう校に行い きたくてもしまっていたし、ようじんのために 友ともだちにも会あ えませんでした。サラはコロナウイルスに こんなふうにじゃまするのをやめてほしいと思おもいました。
「ヒーローなら、すごいちから力をもってる」 眠ねむろうと目めを とじながらサラはひとり言ごとを言いいました。「わたしは?」
とつぜん、くらやみの中なかで、やさしい声こえが、 サラの名な ま え前をささやきました。
「だあれ?」 サラもそっと聞ききかえしました。
「どうすれば、きみはヒーローになれるかな? サラ」 その声こえはたずねます。
「世せかいじゅう界中の子こ に、自じ ぶ ん分を守まもれる方ほうほうを教おしえてあげたい。 そうすれば、その子こたちもほかの人ひとたちみんなを
守まもってあげられるから……」 サラは答こたえました。
「ぼくに何なにができるかな?」 その声こえはまたたずねます。
「空そらをとべて……大おおきな声こえが出でて……
てつだってくれるようなものがいたら!」
ヒューっと音おとがして、何なにかものすごいものが 月つ き あ明かりの中なかにあらわれました……
「あなたはだあれ?」サラはいきをのみました。
「ぼくはアリオ」
「アリオって見みたことない」とサラ。
「あれ、ずっとここにいたんだけどな」 アリオは 言い います。「ぼくはきみのこころ心の中なかから来き たんだよ」
「あなたがいたら……世せかいじゅう界中の子こ たちに
コロナウイルスのことを教おしえてあげられる!」
サラは言い いました。「わたし、ヒーローになれる! あ、でもまって、アリオ。コロナウイルスが
あちこちにいるのに、たびをしてもだいじょうぶ?」
「ぼくといっしょならね、サラ」とアリオ。
「いっしょにいれば、きみはだいじょうぶさ」
サラはアリオのせなかにとびのって、ベッドルームのまどから、夜よるの空そらへ のぼっていきました。星ほしたちにむかって空そらをとび、月つきにあいさつもしました。
たいようがのぼると、ピラミッドのそばの きれいなさばくに下お りました。
何なんにん
人かの子こどもたちが、あそんでいます。 子こどもたちはうれしそうに声こえをあげて サラとアリオに手て をふりました。
「ようこそ、ぼくはサレム!」 ひとりのおとこ男の子こが さけびました。「ここで何なにをしているの?
ごめんね、ぼくたち近ちかくには行い けないんだ。
1メートルは、はなれてないといけないんだよ!」
「だから、わたしたち、ここにいるのよ!」
サラもへんじをしました。「わたしはサラ。 こっちはアリオ。ねえ、知し ってる?
わたしたち子こどもが、近きんじょの人ひとやお友ともだちや、 パパやママ、おじいちゃん、おばあちゃんを コロナウイルスから守まもれるって。みんなが……」
「せっけんと水みずで手て をあらう!」 サレムは笑え が お顔で 言いいました。「ぼくたちも知し ってるよ、サラ。
ぐあいがわるかったら、せきはひじの内うちがわでするし、 あくしゅするかわりに、手て をふるんだ。ぼくたち、 家いえ
にいるようにもしてるよ。でも、とても人ひとの多おおい 町まち
だから……みんなが家いえにいるわけじゃない」
「ふむ、ぼくに何なにかできるかもしれない」 アリオは 言いいました。「コロナウイルスは見みえないけど……
ぼくのことは見みえるからね! のって。 ふたつのつばさに、それぞれすわってね ――
そうすれば1メートルは、はなれるから!」
アリオはサレムとサラを
つばさにのせて、とび立たちました。 アリオは大おおきな町まちの上うえをとびまわって、 うなり声ごえをあげたり、歌うたったり! サレムは通とおりにいる子こどもたちに よびかけました。
「みんな!
おうちの人ひとに教おしえてあげて。 家いえ
にいれば、もっと安あんしん心だって! それが一いちばん番のたすけ合あいだって!」
このようすを見み た人ひとたちは びっくり。
でも、みんな手て をふって 家いえ
の中なかへ入はいることにしました。
アリオは空そらたか高く
のぼっていきました。 サレムは大おおよろこびです。 雲くもの中なかでは
ひこうきとすれちがい、 じょうきゃくは
外そとを見み てびっくりしています。
「りょこうはできなくなる。 すくなくとも、今いまはね」 サレムが言いいました。
「世せ か い界のあちこちで
こっきょうがしめられてる。 今いまは大たいせつ切な人ひとたちといっしょに、 じっとしてたほうがいいんだ。
「まわりのことがかわると、こわくなったり とまどったりするよね、サラ」とアリオ。「ぼくは こわくなると、しんこきゅうして――火ひをはく!」
アリオは、大おおきな火ひの玉たまをはきました!
「きみたちはこわいと思おもったとき、どうすれば 安あんしん心できる?」 アリオはたずねました。
「とてもたくさんのことが、 かわってしまったみたい」 サラは言い いました。
「ときどき、それがこわくなるの」
「わたしは、安あんしん心させてくれる人ひとのことをかんが考える」 サラは言いいました。
「ぼくも。安あんしん心させてくれる人ひとみんなのこと。 おじいちゃんやおばあちゃんとか」とサレム。
「会あいたいな。今いまはぎゅう4 4 4ができないんだ。
コロナウイルスをうつしてしまうかもしれないから。 いつもはしゅう週まつに会あ うんだけど、今いまはやめてる。 おじいちゃんとおばあちゃんを守まもるために」
「電で ん わ話はできる?」 サラはサレムに聞ききました。
「もちろん!」とサレム。「毎まいにち日電で ん わ話をくれるよ。 家いえ
で何なにをしてるとか、ぜんぶ話はなすんだ。 そうすると、ぼくは気き もちがらくになるし、 おじいちゃんとおばあちゃんも、そうだって」
「大だいすきな人ひとに会あ えなくて、さびしいのは しぜんなことだよ」とアリオ。
「どんなに大たいせつ切に思おもってるかがわかるね。 ほかのヒーローにも会あ ってみたくない?」
「うん!」 サラとサレムは元げ ん き気に答こたえました。
「よし、友ともだちのサーシャは、とくべつすごいちから力を もってるんだ」とアリオ。「行い こう!」
アリオたちは地ちじょう上にむかい、小ちいさな村むらの近ちかくに 下おりたちました。ひとりのおんな女の子こが家いえの外そとで花はなを つんでいました。その子こはアリオと、つばさに
すわっているふたりを見みると、えがおになりました。
「アリオ!」とおんな女の子こは大おおごえ声でよびました。
「今いまは人ひととのあいだ間を1メートルは空あけないといけないの。 だから、ここからぎゅう4 4 4ね! ここで何なにをしているの?」
「ぎゅう4 4 4って言い ってくれたとき、ぼくはきみの ぎゅう4 4 4をかんじたよ、サーシャ」とアリオ。「言こ と ば葉で 気きもちがつたわるってすてきだね。もちろんみぶりでも。 この二ふ た り人にきみのすごいちから力を見みせてあげたいんだ」
「わたしのすごいちから力って?」 とサーシャ。
「きみはおうちの人ひとが病びょうき気になったから、 ほかの人ひとにコロナウイルスをうつさないように 家いえ
にいるんだね」とアリオは言いいました。
「うん。パパが病びょうき気で、すっかりよくなるまで ベッドルームにいるの」とサーシャは言い いました。
「でも、いいこともあるの! 家か ぞ く族でゲームや おりょうりをしたり、にわですごしたり、ごはんを 食た べたり。兄きょうだい弟と体たいそうやダンスもするのよ。 学がっこう校に行い きたいって思おもうときは、本ほんを読よ んだり、 勉べんきょう
強をしたりするの。さいしょは家いえにいるのが ヘンなかんじもしたけど、今いまはふつうよ」
「たいへんなときもあるね、サーシャ」とアリオ。
「でもきみはおうちで、楽たのしんだり大だいすきな人ひとたちと なかよくしたりする方ほうほうを見みつけてる。
だから、きみはぼくのヒーローなんだ!」
「家か ぞ く族とけんかしたことある?」
サレムがたずねました。
「ときどき」とサーシャ。「ぐっとしんぼうして、 よーくかんが考えて、いつもよりずっと早はやく、
ごめんなさいって言いうの。これが、すっごいちから力なの。 わたしたちも、ほかの人ひとも、いい気き ぶ ん分になるのよ。 ひとりでいたいときもあるけど。わたし、ひとりで ダンスしたり歌うたったりするの大だいすき! それに 友ともだちと電で ん わ話でおしゃべりもできるし……」
「でもね、アリオ。自じ ぶ ん分の家いえからずっと遠とおくにいる 人ひとは? 家いえがない人ひとは?」とサラはたずねました。
「いいしつもんだね、サラ」とアリオ。
「どうしているか、見みに行いこう」
アリオとサラとサレムはサーシャにさよならを言いって、 ふたたびしゅっぱつしました。まわりがあたたかくなって きて、アリオたちは海うみにかこまれた、しまに下お りました。
たくさんの人ひとがひなんしているキャンプが見みえました。 女おんな
の子こ がこっちを見みて、遠とおくから手て をふりました。
「こんにちは、アリオ! また会あ えてうれしい!」
女おんな
の子こ は大おおきな声こえで言いいました。「人ひとと1メートルは 空あ けるようにしているの。だから、ここから話はなすね。 お友ともだちをしょうかいして! わたしはレイラよ」
「こんにちは、レイラ! わたしはサラ。
こっちはサレムよ」とサラもへんじをしました。
「コロナウイルスから自じ ぶ ん分たちを守まもろうとしているのね。 ほかにどんなことをしているの?」
「せっけんと水みずで、手てをあらってる!」
レイラも答こたえました。
「せきをするときは、ひじの内うちがわにしてる?」
サレムが聞き きました。
「どうやってするの?」とレイラ。 サレムはやってみせました。
「みんな、しっかりしなきゃって、がんばってるの。 でも、わたし、心しんぱいなことがあって」とレイラは 言い います。「聞きいてくれる? だれかが病びょうき気で しんでしまったって聞きいて、すごくこわくなった。 コロナウイルスでしぬ人ひともいるって、本ほんとう当?」
アリオは大おおきなためいきをついてから、 大おおきなおしりを下おろしてすわりました。
「そうだね、小ちいさなヒーローさんたち。ふしぎだよね」 とアリオ。「へいきな人ひともいれば、すごくぐあいが わるくなって、しんでしまう人ひともいる。だから、
ひどくなりやすいおとしよりやほかのびょうきがある人ひとに、 とくに気き をつけてあげなくちゃいけないんだ。
とてもこわくなったり、心しんぱいになったりするけど、 心こころ
の中なかに安あんしん心できる場ばしょがあれば、だいじょうぶ。 ぼくといっしょにやってみない?」
みんながさんせいしたので、アリオはみんなに 目め をとじて、自じ ぶ ん分が安あんしん心できる場ば しょを
思おもいうかべるように言いいました。
「安あんしん心してた時ときとか思おもい出で をかんが考えてみるんだ」 アリオは言い いました。
アリオはみんなに、安あんしん心な場ば しょで何なにが見み えたか、 どう思おもったか、どんなにおいがしたか聞き きました。 安あんしん心できる場ばしょに来きてほしい、とくべつな人ひとが いるか、その人ひととどんなはなし話をしたいかも聞き きました。
「かなしくなったり、こわくなったりしたら、いつでも その安あんしん心な場ばしょに行いけばいいんだよ」とアリオ。
「それが、きみたちのすごいちから力なんだ。そのちから力は
お友ともだちや家か ぞ く族にだって、分わ けてあげられる。そして、 わすれないで。ぼくがきみたちを気き にかけていること。 ほかの人ひとたちだってそうだよ。だから、安あんしん心してね」
「みんなが思おもいやりの気きもちをもてる」とレイラ。
「そうだよ、レイラ」とアリオは言い いました。どこにいても、ぼくたちはささえ合あえる。ぼくたちのさいごのたびに、いっしょに来く るかい?」
レイラはアリオとあたら新しい友ともだちと、たびに出で ることにしました。サラはレイラがいっしょに来き てくれてうれしくなりました。だって、レイラは たすけ合あ いが大たいせつ切だって知しっているからです。みんなは何なにも言わず、しずかに空そらをとんでいきました。でも、レイラはサラとサレムが自じ ぶ ん分のこ とをとても気きにかけてくれていることがわかりました。
雪ゆきをかぶった山やまやま々が、少すくしずつ見み えてきました。 アリオは小ちいさな町まちに下おりました。
子こ どもたちが、小お が わ川のそばであそんでいます。
「アリオ!」 ひとりがアリオに手て をふりました。
「やあ、キム」とアリオも答こたえます。
「さあみんな、コロナウイルスにかかっていたけど、 元げ ん き気になった友ともだちをしょうかいしよう」
「どんなだった?」 サレムが聞き きました。
「せきが出で て、すごくあついって思おもうときもあった。 とてもしんどくて、何なんにち日かはあそぶ気き もおきなかった」 とキム。「でもぐっすりねむって、家か ぞ く族がかんびょう してくれたよ。でも家か ぞ く族の中なかで、おとなは何なんにん人か 病びょういん
院に行い ったんだ。かんごしさんやおいしゃさんは、 とってもやさしくしてくれたって。近きんじょの人ひとたちは 家いえにいるぼくたちを、たすけてくれたよ。
そうして、何なんしゅうかん週間かして、みんな元げ ん き気になったんだ」
「ぼくはキムの友ともだちだよ」 ひとりの子こ どもが言いいました。「キムがコロナウイルスに かかったからって、ぼくたちが友ともだちでなくなるわけじゃない。会あ えなくてもね。ずっ とキムのことを心しんぱい配していたし、またいっしょにあそべて、とってもうれしいんだ!」
「友ともだちとして一いちばんたいせつ番大切なことのひとつは、おたがいを守まもることだよ」とアリオが言いい ました。「それが、しばらくのあいだ間、会あ えないことだったとしても」
「わたしたちみんなが、できることよね」とレイラ。
「そうすれば、いつかまた前まえみたいに、いっしょにあそんだり、学がっこう校に行い ったりできる」とサレムも言い います。
家いえに帰かえる時じ か ん間が来きました。サラがあたら新しくできた友ともだちに、さよならを言い う時じ か ん間です。みんなはこのぼうけんのことをぜったいわすれないと、 やくそくしました。
サラは、みんなにしばらく会あ えないような気きがして、かなしくなりました。でも、キムの友ともだちがさっき言いったことを思おもい出だ して、気き もちが かるくなりました。会あえなくても、その人ひとたちのことが大だいすきなのはかわらないのです。
アリオはみんなを家いえにおくりとどけたあと、 サラがベッドの中なかでねむりにつくまで
まっていてくれました。
「明あ し た日も会あ える?」
サラはアリオに聞き きました。
「ううん、サラ。きみはこれからは 家か ぞ く族といなきゃ」 アリオは言いいました。
「でも、ぼくたちが話はなしたことをわすれないで。 手てをあらうこと、家いえにいること。そうすれば、 サラが大だいすきな人ひとたちが元げ ん き気でいられる。 ぼくはずっときみのそばにいるよ。
きみが安あんしん心できる場ば しょに行いけば、 いつだって、ぼくに会あ えるんだ」
「アリオはわたしのヒーローよ」 サラはそっと言い いました。
「きみもぼくのヒーローだよ、サラ。 きみのことが大だいすきな人ひとたち
みんなのヒーローだ」
サラはねむりました。よく朝あさ、目めがさめると、 アリオはいなくなっていました。サラはアリオと 話はな
そうと、自じ ぶ ん分が安あんしん心できる場ば しょに行いきました。 そして、アリオとのぼうけんで見みたこと知しったことを ぜんぶ絵えにかきました。サラはママにこのはなし話を
してあげようと、走はしって絵え をもっていきました。
「ママ、わたしたちはみんなが元げ ん き気でいられるように たすけ合あえるのよ」 サラはママに言いいました。
「ぼうけんして、たくさんのヒーローに会あったの!」
「そのとおりね、サラ!」とママ。「たくさんの ヒーローが、わたしたちをコロナウイルスから守まもって くれてる。おいしゃさんや、かんごしさんみたいに。 でも、サラのいうとおり、わたしたちみんなが
ヒーローになれる。きょうも、あしたも。
そして、ママの一いちばん番のヒーローは、サラ、あなたよ」