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1 監査役の位置づけ

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第5章 現行会社法および関連法務省令にみる 監査役制度

前章までは会社法制定前までの監査役制度の変遷を扱ってきた。本章で は、こうした変遷後の帰結として、現行の会社法・会社法施行規則・会社計 算規則等の法令に規定されている監査役制度全体を取り上げ整理しておくこ とにする。

会社法では種々の会社機関のパターンが想定されるけれども、会社法上規 制が最も厳しくなる「公開会社(会社法2条5号)かつ大会社(会社法2条6 号)」の場合を中心に取り上げ、随所に筆者の考え方なども付け加えておく。

そして、ここで取り上げる内容の括り方や順番については、会社法、会社法 施行規則、会社計算規則における条文の配置順とは必らずしも同一でなく、

実際に監査役が活動する流れで整理していくことにする。なお、法令により 規定される監査役の職務等はあくまでも骨格であり最低限にすぎず、実際に はより具体的な規範となる実務指針レベルの実務が求められることを改めて 確認しておこう(第1章3参照)

ただし、本章で整理されているのは、あくまでも会社法上の括りであり、

本書が前提とする「大規模公開会社(資本市場を伴う会社)」とは意味合いが相 当異なる。これまでわが国で使用されてきた「公開」の語は、もともと証券 市場を伴う大規模会社といったニュアンスで使用されてきた。それを会社法 が株式譲渡制限をしていない株式会社を表すものと定義してしまったため に、「証券市場を伴う株式会社」と「それ以外の株式会社」との峻別議論

(いわゆる公開株式会社法の議論)がしづらくなっている。ことほどさように、

現行会社法については根本的に再度検討されるべき課題があるように思われ るが 、これらの点については終章で触れることにし、本章では専ら現行の 会社法系の諸法令に即した整理にしておくことにする。

ともあれ、監査役制度の形成や展開についてどのようなテーマ(たとえば 会社法制定前の商法との比較や制度史、あるいは現代の監査役監査に求められる個別テー マ)を扱うにせよ、現行法制度との比較あるいは確認が最低限求められる。

そして会社法および関連法務省令に立ち戻り、これら法令を確認・参照する 103

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作業が必要となる。本章はこのような作業をバックアップするための章と位 置づけすることもできよう。

1 監査役の位置づけ

会社機関の自由設計

会社法の制定 に際しては、国の規制緩和政策が強くはたらき、経営者 とりわけ中小会社やベンチャービジネスの経営者にとって運営しやすい枠組 み(とりわけ「大小会社区分立法」 の視点も踏まえた中小会社の身の丈に合った会社組 織など)をわが国の会社法制に与えるべく、定款による会社機関の自由設計 の枠組みを設定した(会社法326条2項)

このような枠組みは、会社法制定前の商法における規模別の強制的な会社 機関の枠組みとは大きく異なる。会社の機関として最低限必要なのは、株主 総会以外には取締役だけであり、しかも取締役1名でも可能である(会社法 326条1項)

つまり監査役は、会社法上は任意の機関である。さらに、非公開会社では 会計監査だけに限定した監査役を置くこともできるうえ(会社法389条)、会社 の会計について取締役を補強・補佐し、かつ会計参与報告という形で簡易な 調査証明を与える会計参与制度も加わっている(その権限等について会社法374 条以下)。この会計参与はすべての株式会社で置くことが可能である。

取締役会設置会社・大会社における監査役・監査役会の強制

しかし、このように会社法では定款の定めによる会社機関の自由設計(会 社法326条2項)を認めてはいるものの、取締役会を設置している会社では監 査役を義務付けられ(会社法327条2項)、非公開会社および委員会設置会社を 除く大会社では監査役会および会計監査人の設置を義務づけられる(会社法 328条1項)ので、このような会社では強制的に監査役ないし監査役会を設置 しなければならない。結局、会社法上、社会的影響力の大きな会社では組織 的な監査役監査が強制されることになる。もとよりこれ以外の会社でも任意 に監査役・監査役会を設置することができる。

なお、大会社とは資本金額5億円以上または負債総額200億円以上の会社 104

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である(会社法2条6号)。大会社であれば会計監査人は必ず置かなければな らないことになる(会社法328条1項、2項)

役員の定義

会社法上、監査役は「役員」であり(会社法329条1項)、株主総会において 選任される(同項)。会社法329条の「役員」とは、取締役・会計参与・監査 役をいう。他方、事業報告等のディスクロージャーの関連で「役員」という 場合は、執行役や特別法・民法による理事・監事も含まれる(会社法施行規則 2条3項3号)。同様に、「会社役員」という概念があり、これには執行役が含 まれている(同項4号)

監査役の基本的職務

監査役が設置された以上、取締役等の職務の執行を監査する(会社法381条 1項前段)ことが基本となる。いわば監査役は、経営監視機関として取締役 すなわち経営執行機関の職務執行(会計参与を含む)を業務・会計の両面から 監視し、検証することがその職務となる。ただし、会社法389条に規定され た非公開会社における会計監査限定の監査役は、会社法制定前の小会社監査 役の機能と同様であるから、一般の監査役とは性格が異なる 。

2 人事と任期

(1)監査役の選解任決議 監査役の選任、資格

監査役は株主総会において選任されるが(会社法329条1項)、監査役の選任 決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、

出席した株主の過半数をもって行う(会社法309条1項。なお、別途定款で定めた 場合について341条参照)

監査役になるための資格はとくに求められていないが、欠格事由がある

(会社法335条1項→331条1項)。成年被後見人・被保佐人、法人などは監査役の 欠格事由となる。

解任

監査役は、いつでも株主総会の決議によって解任することができる(会社 2 人事と任期 105

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法339条1項)。解任された監査役は、正当な理由のある場合を除き、会社に 対し解任によって生じた損害賠償を請求することができる(同条2項)

(2)人事面にみる独立性確保の施策 選任時の独立性確保

監査役の選任については、コーポレートガバナンスとりわけ独立性の視点 から施策が行われている。すなわち、株主総会に監査役選任議案を提出する には、監査役の同意(複数ある場合には過半数の同意)を得なければならない

(会社法343条1項)。監査役会設置会社の場合には、監査役会の同意が必要と なる(同条3項。なお、393条1項参照)。監査役は、取締役に対し、監査役の選 任を株主総会の会議の目的とすること、選任議案を株主総会に提出すること もできる(会社法343条2項)。この請求に応じなかった取締役については罰則 が課せられる(会社法976条21号)。とくに監査役会設置会社の場合は、監査役 側でも同意についての検討は重要であるから、実務的手続を定めておくこと が望ましい(監査役監査基準9条参照)。同様に、次の世代の候補者の実務的な 検討が求められるであろう(監査役監査基準10条)

このようなコーポレートガバナンスの施策は、開示面からも行われてお り、株主総会参考書類には、詳細な人事情報が開示される(会社法301条1項、

会社法施行規則76条以下)。 終任時の独立性確保

他方、終任の場合も独立性の観点からの施策がある。監査役の終任の原因 については、任期満了・解任・辞任等の場合がある。任期満了はともかく、

解任、場合によっては辞任のときも問題が生じることがあり得る。解任の場 合は、監査役自身の法令定款違反等の問題や同族内の争いなどに起因するケ ースがほとんどであろうが、株主総会はいつでもその決議によって監査役を 解任できる(会社法339条1項)

不当な解任の場合に備えて、監査役の解任については株主総会での意見陳 述権が認められている(会社法345条4項→同条1項)

問題は辞任の場合である。本人が辞意をもっていなくても、いわゆる肩た たきと呼ばれるケースがある。このようなケースを含め、監査役を辞任した

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者については、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨お よびその理由を述べることができる(会社法345条4項→同条2項)

(3)任期 監査役の任期

監査役の任期は基本的に4年である。選任後4年以内に終了する事業年度 のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでが任期となる

(会社法336条1項)。選任が臨時株主総会での選任であった場合や、定時株主 総会の開催日のずれなどの関係で、任期が必ずしも4年ちょうどになるとは 限らない。

なお、非公開会社の場合は、定款の定めにより10年以内とすることができ る(同条2項)

3 報酬と監査費用

(1)報酬

監査役の報酬等は、独立性の観点から、取締役とは別個に規定されてい る。監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会にお いて定める(会社法387条1項)。上場会社等では、監査役の報酬を定款で定め ている会社は少ないように思われる。

監査役が複数の場合、各監査役の報酬等について定款の定めまたは株主総 会の決議がないときは、当該報酬等は会社法387条第1項の報酬等の範囲内 で、監査役の協議によって定める(同条2項)。そして、監査役は、株主総会 においてその報酬等について意見を述べることができる(同条3項)。なお、

報酬「等」は、一般の報酬のほか、賞与、退職慰労金、ストックオプショ ン、その他の会社からの供与全般を意味する。

監査役の具体的報酬額をすべて代表取締役または取締役会に一任すること は許されないと解されている。実務上は、代表取締役に監査役の報酬協議書 の素案を作成してもらい、この素案を監査役または監査役会で協議する形を 採っている例が多く見られる 。

3 報酬と監査費用 107

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(2)監査費用

監査役の監査費用については、独立性の観点から、挙証責任を転換する形 の規定となっている。監査役による費用の前払いの請求、支出した費用(利 息を含む)の償還請求、負担した債務の債権者に対する弁済の請求等は、会 社側は職務の執行に必要でないことを証明しない限り、これらを拒むことは できない(会社法388条)

4 監査役の監査体制

(1)監査役の員数、社外監査役、常勤監査役 監査役の員数、社外監査役、常勤監査役

監査役を設置するものと定款で定めた会社は、最低でも1人は監査役を置 くことになるが(会社法326条2項)、非公開会社・委員会設置会社を除く大会 社では、監査役会を設置しなければならない(会社法328条1項)。監査役会設 置会社では、監査役の員数は3人以上で、しかも半数以上は社外監査役でな ければならない(会社法335条3項)

さらに、監査役会は常勤の監査役を選定しなければならない(会社法390条 3項)ので、上記の大会社では、監査役の体制は、3人以上で、うち半数は 社外監査役(最低でも2人以上となる)、うち1人以上は常勤監査役といった体 制となる。

欠員の場合

任期満了や辞任等で以上の体制に欠員が生じた場合、法定員数を欠くこと になるから、取締役は遅滞なく株主総会を招集し、後任の監査役を選任しな ければならなくなる。この間、監査役体制に欠陥が生じてしまうので、新た に選任された監査役が就任するまでは、任期満了・辞任等をした監査役が、

なお監査役としての権利義務を負う(会社法346条1項)

しかし、解任による場合や権利義務を負わせることが不適当な場合、ある いは定時株主総会の開催期日までの期間があまりないような場合は、仮監査 役の制度がある。利害関係人の申立てによって、裁判所は仮監査役を選任す ることができる(同条2項)。仮監査役の職務権限や責任等は一般の監査役と

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同様である。また、仮監査役の制度とは別に、予め補欠要員となる監査役を 選任しておくこともできる(会社法329条2項)

(2)監査役会の組織、職務権限、運営

監査役は独任制の機関である。原則として個々の監査役がそれぞれ監査役 としての権利義務、責任を負う。しかし大会社の場合は、監査役相互が監査 役会という場を通じて情報交換・意見交換をしながら、あるいはそれぞれの 得意分野を業務分担しながら、監査を進めていくという組織的監査体制で監 査が進められる。監査役会設置会社の場合は、個々の監査役に与えられた職 務権限が監査役会に移行する事項も多い。

監査役会の決議、独任制

監査役会はすべての監査役で組織し(会社法390条1項)、次の職務を行う

(同条2項)。ただし、第3号については独任制が優先される。

(監査役会としての)監査報告の作成(同項1号)

・常勤の監査役の選定・解職(同項2号)

・監査の方針、監査役会設置会社の業務および財産の状況の調査の方法、

その他監査役の職務執行に関する事項の決定(同項3号)

監査役会は、各監査役に対しいつでもその職務の執行状況を報告させるこ とができる(会社法390条4項)

監査役会で取り上げる議事内容は、以下のように決議事項、協議事項、報 告事項の三種類に区分される。

監査役会の「決議」は全監査役の過半数をもって行う(会社法393条1項)

「協議」は結論なり方向性が一致するまで詰めることであるから、全員一致 と同様の効果を生む。他方、一般用語の「協議」は単に話し合いを詰めるこ とで、お互いが納得する状態ないし結論に至るかどうかは関係なく使用され るており、先の使用法とは異なるが、監査役会においても結論を出すことの ない協議があり得る。

監査役会で決議すべき内容は、会社法390条2項に掲げるものが中心であ るが、監査報告の作成(同項1号)および常勤の監査役の選定・解職(同項2 号)はともかく、第3号の具体的内容が日常の監査活動に深く関わる事項と

4 監査役の監査体制 109

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いえよう。第3号の具体的内容としては、監査方針の策定、監査計画の策 定、業務分担、監査費用の予算化、社内実務指針の策定・改廃、特定監査役 の選定などが考えられる。

監査役会で協議すべき事項としては、監査役の報酬・賞与の配分等が挙げ られる。

監査役会で報告すべき事項としては、各監査役の職務の執行状況の報告 や、会計監査人あるいは取締役等からの報告が挙げられる。

会計監査人との関係

監査役会は、上記のほか、会計監査人との関係において次のような職務権 限をもつ。これらは、会社法の形式上も会計監査人監査が監査役監査に糾合 されていることを示す。

・監査役会は、会計監査人が職務上の違反、任務懈怠のとき、会計監査人 としてふさわしくない非行があったときなどは、会計監査人を解任する ことができる(会社法340条4項→1項)

・会計監査人の解任をした場合は、監査役会の互選で選ばれた監査役が株 主総会に解任の旨および理由を報告しなければならない(同条4項→3 項)

・取締役は、会計監査人の選任に関する議案を株主総会に提出し、または 会計監査人の解任・不再任を株主総会の目的とするには、監査役会の同 意を得なければならない(会社法344条3項→1項1号・2号・3号)

・会計監査人が欠けた場合または定款で定めた員数に欠けた場合で、遅滞 なく会計監査人が選任されないときは、監査役会は仮会計監査人を選任 しなければならない(会社法346条6項→4項)

・会計監査人は、その職務を行うに際して、取締役の職務の執行に関し て、不正の行為、法令定款違反の重大な事実を発見したときは、遅滞な く監査役会に報告しなければならない(会社法397条3項→1項)

・取締役は、会計監査人または仮会計監査人の報酬等を定めるには、監査 役会の同意を得なければならない(会社法399条2項→1項)

選任議案、取締役の報告義務

さらに、監査役会には次の職務権限(一部は取締役の義務)がある。

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・取締役は、監査役の選任議案を株主総会に提出するには、監査役会の同 意を得なければならない(会社法343条3項→1項)

・監査役会は、取締役に対し、監査役の選任を株主総会の目的とするこ と、または監査役の選任議案を株主総会に提出することを請求できる

(会社法343条3項→2項)

・取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したとき は、これを監査役会に報告しなければならない(会社法357条2項→1項)。 招集手続

監査役会の招集は、各監査役であるから(会社法391条)、社内・社外、常 勤・非常勤にかかわりなく、すべての監査役が招集できる。実務上は、各社 が任意に定める監査役会規則などで招集権者を決めておくのが一般であろ う。

監査役会には取締役会のように定例的な開催(会社法363条2項対照)は求め られていないが、監査役会を招集するには、監査役は各監査役に対し会日の 1週間前までに通知することを要する(会社法392条1項)。全員の同意がある 場合は、招集手続を経ることなく開催することができる(同条2項)。 議事録

監査役会の議事については議事録を作成し、出席した監査役は署名し、ま たは記名押印ほかの措置を採らなければならない(会社法393条2項、3項)。 監査役会の決議に参加した監査役であって議事録に異議をとどめない者はそ の決議に賛成したものと推定される(同条4項)

(3)監査役監査の環境整備等 取締役との意思疎通

監査役は、職務を適切に遂行するため、取締役・会計参与・使用人、子会 社の取締役・会計参与・執行役などと意思疎通を図り、情報の収集および監 査環境の整備に努めなければならない(会社法施行規則105条2項柱書き前段)。 経営側との意思疎通については、実務的には関連の実務指針が旧来からあっ たものの、従前の形式的な会社機関構造論では考えられなかった事項が法整 備されたものといえよう。監査に意思疎通は欠かせないものと思われる。

4 監査役の監査体制 111

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他方、経営側に監査役監査に対する支援を求めている点も注目すべきであ る。取締役・取締役会は、監査役の職務執行のために必要な体制整備に留意 しなければならない(会社法施行規則105条2項柱書き後段)。さらに、この規定 は、監査役が公正不偏の態度・独立の立場を保持することができなくなるお それのある関係の創設・維持を認めるものであってはならない(同条3項)

とされ、経営側に対する牽制が敷かれている。

監査役は必要に応じ、他の監査役あるいは親会社・子会社の監査役などと 意思疎通・情報交換を図るよう努めなければならない(4項)とされ、現下 の企業グループ体制に即した監査体制が敷かれるよう整備されている。

したがって、法レベルにおいてさえ社内監査役と社外監査役 との連係 や、他部門との連係が重要になってくる。社外監査役は、監査体制の独立 性・中立性を一層高めるために選任が義務付けられていることを自覚し、積 極的に情報入手に努め、社内監査役と協力して監査環境の整備にも努めなけ ればならないであろう(監査役監査基準5条1項)。他部門との連係について は、第6章で詳述する。

監査役体制の内部統制

経営側の内部統制の構築・整備の中には、次のような監査役監査体制に関 する事項が盛り込まれている(会社法施行規則100条3項)。会社法では、取締役 の義務として、監査役スタッフ(補助使用人)に関する事項まで内部統制シス テムの一環とすることが明定されている。

1号 監査役側の体制として、監査役の職務を補助する使用人を置くこと を求めた場合には、当該使用人に関する事項

2号 補助使用人の取締役からの独立性に関する事項

3号 取締役・使用人が監査役に報告するための体制、その他の監査役へ の報告に関する体制

4号 その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

5 監査役の業務監査とその監査報告

監査役は取締役または会計参与の職務の執行を監査し、その結果について 112

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は監査報告を作成しなければならないとされ、監査報告の内容は法務省令で 定めるとされている(会社法381条1項)。なお、ここにいう法務省令には、会 社法施行規則と会社計算規則の二つが中心であるが、この二つの省令には役 割分担があり、会社法における業務面の委任事項については会社法施行規則 が、会計面については会社計算規則が担当する形になっている(会社法施行規 則116条)。したがって、主に監査役の業務監査に関するものについては、会 社法施行規則で規定されている。

ただ、会社法施行規則で記載されている監査報告事項は、監査役の業務監 査として最低限意見を述べるべき事項(監査報告事項)にすぎず、監査役の業 務監査の対象事項として必要条件ではあっても十分条件とはならない。換言 すれば、会社法上このような監査を具体的に実施すべしといった規定はみら れず、監査の結果についてのみ最低限の報告事項を規制する形をとってい る。この点は、会社法制定前の商法でも同様である。つまり、会社法上、監 査役として最低限意見を述べるべき事項=すべての業務監査対象、とはなら ないことに留意すべきであろう(第1章3(3)参照)

以下では、監査役の業務監査について、会社法本則に定めのある事項およ び会社法施行規則(監査報告事項など)を軸にしながら、監査役の業務監査の 対象等を敷衍しておこう。

(1)業務監査の位置づけと権限 業務監査の位置づけ

監査役が実施する監査すなわち経営監視機能は、事前にチエックすること が本質であるから、ことが起こった後に、ただその結果を判定するのでは意 味がない。各事業年度に作成する事業報告や計算書類など外部報告のための 監査を除き(場合によってはこれに対しても)、業務監査と呼ばれる監査役の監 査は、経営監視機能として機能する必要がある。有事に至る前に、監視しか つ検証して、必要とあれば助言・勧告を行うなど事前に防止していくことが 求められる。

会計監査については、会計原則・会計基準といった会計制度の共通尺度も あり、法令でもって監査対象を明確にすることが比較的しやすいけれども、

5 監査役の業務監査とその監査報告 113

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業務監査の実務では、このようなわけにはいかない。各社各様の問題に対す る取り組みとなる。たとえば法令違反の監査についてみても、それぞれ会社 固有の点に取り組まなくては経営監視機能としての存在意義がない。どのよ うな事項が具体的に重点監査対象になるのかについては、自社の業種・業態 にとって重要な法令は何なのか、また、会社固有の重要課題をいかに発見し 取り組んでいくのかが業務監査実務の要諦と考えられる。

会社法上の監査役の職務権限は、取締役の職務の執行を監査する(会社法 381条1項)ことが基本である。この職務を果たすため、監査役はいつでも事 業の報告を求め、業務・財産の調査をすることができる(同条2項)。また、

必要に応じて子会社に対する調査をすることもできる(同条3項)。 差止請求権

取締役会への出席や各種の調査の過程で、取締役が目的の範囲外の行為 や、法令定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがある 場合において、当該行為によって会社に著しい損害を生じるおそれがあると きは、当該行為をやめることを請求することができる(いわゆる差止請求権、

会社法385条1項) 。本件につき裁判所が仮処分をもって差止命令を出す場合 は、担保提供は無用である(同条2項)。なお、本条項は伝家の宝刀とも呼ば れており、実際の運用はきわめて少ないものと思われる。

(2)内部統制への対応 取締役会による内部統制の整備

取締役会は、取締役の職務の執行が法令定款に適合することを確保するた めの体制その他業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定 めるもの、すなわち内部統制に関するシステムを、整備しなければならない

(会社法362条4項6号。なお取締役会非設置会社の場合について348条3項4号)。これ を受けて、会社法施行規則100条1項は、以下の事項を取り上げている(な お、取締役会非設置会社の場合について98条参照)

1号 取締役の職務の執行に係る情報の保存、管理に関する体制 2号 損失の危険の管理に関する規程その他の体制

3号 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 114

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4号 使用人の職務の執行が法令定款に適合することを確保するための体 制

5号 当該会社、その親会社・子会社からなる企業集団における業務の適 正性を確保するための体制

前述のとおり、上記に加え、監査役自身の体制も含まれる(同条3項)。内 部統制システムの整備は会社法上きわめて重要な位置づけとなっており、取 締役の重要な職務執行を形成するものであるから、監査役は、自身の体制も 含めその整備状況を監視し検証していかねばならない。本件については第6 章で詳述する。

(3)取締役会への対応 取締役会意思決定と経営判断原則

取締役会は会社経営の中枢であり、ここで提供され審議される議事内容は すべて重要事項ばかりである。監査役は、取締役会において、ないしは事前 の説明・書面回覧などによっても、取締役の職務執行に関する情報が収集で きるのであるから、会議以外の場でも、取締役会で審議される重要事項につ いては十分な監視・検証が求められる。

とくに取締役会の場における意思決定が、取締役の善管注意義務・忠実義 務に基づいて形成されているかどうか監視し検証することが重要である。場 合によっては、助言・勧告・差止をしなければならないこともあろう。この 際には、経営判断原則の観点から、次の事項に留意すべきであろう(監査役 監査基準19条)

1号 事実認識に重要かつ不注意な誤りがないこと 2号 意思決定過程が合理的であること

3号 意思決定内容が法令定款に違反していないこと

4号 意思決定内容が通常の経営者として明らかに不合理でないこと 5号 意思決定が取締役または第三者の利益ではなく会社の利益を第一に

考えてなされていること

監査役は取締役会に出席し、必要に応じて意見を述べなければならない

(会社法383条1項)。ただし、監査役が2人以上あるときで、特別取締役制度 5 監査役の業務監査とその監査報告 115

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(会社法制定前の重要財産委員会に相当する制度。会社法373条参照)を採用している 会社の場合には、監査役の互選により特別取締役による取締役会に出席する 監査役を定めることができる(会社法383条1項ただし書き)。なお、独任制の点 から、取締役会出席も単独調査権限であるので、定められていない別の監査 役も出席しようとすれば出席が可能である。

取締役会への報告義務と招集権

監査役には取締役会に対する報告義務が課されている。監査役は、取締役 が不正の行為をし、もしくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、ま たは法令定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるとき は、遅滞なくその旨を取締役会に報告しなければならない(会社法382条)。監 査役は、この報告義務を果たすため必要あると認めたときは、取締役会の招 集を請求することができる(会社法383条2項)。請求後、5日以内に、その請 求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集通知 が発せらない場合は、請求した監査役は、自ら取締役会を招集できる(同条 3項)

取締役会決議の省略への対応

取締役会の決議は、定款の定めにより、取締役が取締役会決議の目的事項 について提案した場合、当該提案につき取締役全員が書面または電磁的記録 により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する取締役会決議があ ったものとみなすことができる(会社法370条)。この場合において、監査役は その内容について異議がある場合は述べるべきであろう(監査役監査基準34条 参照)

(4)競業取引・利益相反取引・無償の利益供与・非通例的取引の監査 競業・利益相反取引等の監査

業務監査のあり方は、その業種・業態により各社各様の力点が求められる が、会社法上も重要なものとして考えられる一般的な事項がある。それは会 社法制定前の商法施行規則133条において定められていた以下の事項である。

現行法では削除されているが、会社法上も日常の業務監査において力点をお くべき事項に変わりはなく、これらへの対応が求められるであろう。

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会社法制定前の商法施行規則133条では、次の事項が会社法上重要な事項 として、監査報告書の記載事項となっていた。

1号 競業取引 2号 利益相反取引

3号 会社がする株主に対する無償の財産上の利益供与(会社法120条各項 参照)

4号 親会社・子会社・株主等との非通例的取引 5号 自己株式の取得・処分

監査役は、いずれも会社法の見地から重要事項であるので、とくに集中し て監視・検証するべきであろう(監査役監査基準22条参照)

(5)事業報告開示事項に対する監査 事業報告の監査

事業報告の開示に対する監査については第7章で詳述するので、ここでは 総論的に取り上げる。

監査役は事業報告およびその附属明細書を受領したときに監査報告を作成 しなければならず(会社法施行規則129条1項)、事業報告およびその附属明細書 が法令・定款に従い会社の状況を正しく示しているかどうかについての意見 を述べなければならない(同項2号)

事業報告は、会社の業務関連情報を開示する書類であり、会計監査人監査 は及ばない事項であるから(会社法436条2項2号)、情報開示に対する監査と して、監査役自身が集中的に取り組むべき事項である。ただ、業務関連情報 とはいっても数値による表現がかなり多く登場するので、必要に応じ、会計 監査人と連係をはかることが望まれよう(監査役監査基準23条参照)

事業報告の開示内容

事業報告の開示内容は、会社法施行規則において段階的に規制されてい る。第一段階はすべての株式会社に共通するものである。第二段階では、公 開会社が開示拡充する特則を設け、さらに社外役員を設けている場合の特則 を設けている。第三段階では会計参与や会計監査人を設置している会社の特 則を設けている。

5 監査役の業務監査とその監査報告 117

(16)

本件については、開示監査の一環として第7章で別途詳述する(会社法施 行規則118条ないし128条参照)

(6)株主総会議案等の調査 株主総会提出議案の監査

監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省 令で定めるものを調査し、法令定款に違反し、または著しく不当な事項があ ると認めるときは、調査結果を株主総会に報告する義務がある(会社法384 条)。ここに法務省令で定めるものとは、電磁的記録その他の資料をいう(会 社法施行規則106条)

参考書類における開示

株主総会に対する監査役の調査結果があるときは、その概要を株主総会参 考書類に記載しなければならない(会社法施行規則73条1項3号)

(7)会社法等に格別に規定のない事項

取締役会(特別取締役によるものを含む)以外の重要会議への出席、重要書類 の閲覧をはじめとする調査の方法、監査調書の作成等々については、会社法 および会社法施行規則の定めはない。これら会社法等に格別に規定のない事 項については、公正妥当な実務指針と考えられる監査役監査基準等に定めら れた内容を参考にすべきであろう(監査役監査基準36条、37条、39条、40条ほか参 照)。なお、会計に関しては、公正妥当な企業会計の慣行に従う旨の定めが あり(会社法431条)、会計監査の定義もあるが(会社計算規則121条2項)、他方、

業務監査に関して公正妥当な業務監査の慣行に従うべき旨の規定はない 。

(8)期末における業務監査の監査報告

以上の監査の結果、監査役としての監査報告を作成することになる。前記 と重複する部分もあるが、改めて整理しておこう。

業務監査報告

会社法施行規則129条が実質的な業務監査報告の対象・内容となるが、以 下のとおりである。なお、同条は「事業報告およびその附属明細書を受領し

118

(17)

たとき」に監査報告を作成するという規定ぶりである。

・監査役監査の方法および内容(1号)

・事業報告および附属明細書が法令・定款に従い会社の状況を正しく示し ているかどうかについての意見(2号)

・取締役の職務の遂行に関し、不正の行為または法令・定款に違反する重 大な事実があったときは、その事実(3号)

・監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨および理由(4号)

・会社の業務の適正を確保する体制(いわゆる内部統制)の整備について決 定・決議があった場合、その内容を適当でないと認めるときは、その旨 および理由(5号)

・会社の支配に関する基本方針(いわゆる企業買収防衛策)が事業報告の内容 となっているときは、当該事項についての意見(6号)

・監査報告の作成日(7号、ただし監査役会設置会社の場合は130条で規定)

なお、上記1号について、改正前は概要記載でよかったが、会社法施行規 則では具体的な方法・内容を記載する必要がある。上記3号に関連して、改 正前の商法施行規則133条では、取締役に義務違反がある場合、利益相反取 引・競業取引、無償の利益供与などについて、監査役監査報告(書)に特記 事項として記載することになっており、実務も重点を置いていたが、会社法 施行規則上は削除されている。

上記5号および6号によれば、監査役として法律上も内部統制や企業買収 に対して真剣に取り組まざるを得なくなるので、この二点が明文化されたこ との意義は大である。

さらに、監査役会設置会社の場合、監査役の独任制との調整など事務上の 手続や監査対象が会社法施行規則130条において示されている。

・それぞれの監査役が作成した監査報告に基づき監査役会としての監査報 告を作成しなければならない(1項)

・監査役および監査役会の監査の方法およびその内容(2項1号)、129条 2号ないし6号に掲げる事項(2項2号)、監査役会監査報告書の作成日

(2項3号)。これらにつき、監査役個人の少数意見がある場合は付記さ れる(2項柱書き後段)

5 監査役の業務監査とその監査報告 119

(18)

・監査役会監査報告を作成するためには監査役会で1回以上審議しなけれ ばならない(3項)

これらの事務上の手続が監査役会の場合に課せられているのは、監査委員 会と異なり(会社法施行規則131条参照)、監査役会は、監査役会としての決議事 項の一部分(会社法390条以下参照)を除けば基本的に意思決定機関でなく個々 の監査役の独任制を尊重した協議機関としての側面を併せもつからである。

6 監査役の会計監査とその監査報告

業務監査の場合と同様に、以下では会社計算規則における監査報告事項を 中心に取り上げ、詳細は改めて第7章で取り上げることにする。

(1)監査役による会計監査の特質 会計監査の位置づけ

監査役による会計監査は、日常の会社財産の調査(会社法381条2項)と、

この結果も考慮した期末の計算関係書類の監査に大別できる。とりわけ計算 関係書類の監査は、実務では期末決算監査と呼ばれており、会計監査人設置 会社かどうかでその内容は大きく異なる。ここに計算関係書類とは、会社成 立時の貸借対照表、各事業年度に係る計算書類およびその附属明細書、臨時 計算書類、連結計算書類をいう(会社計算規則2条3項3号)。この中に事業報 告およびその附属明細書は含まれていないが、基本的に会計関連情報につい ては会社計算規則に委ね(会社法施行規則116条)、事業報告すなわち業務関連 の情報については、そのまま会社法施行規則において詳細を規定するという 法務省令の役割分担によるものである。したがって、会社計算規則は会計関 連情報のみを扱うものと考えてよいであろう。

期末の計算関係書類の監査について、監査役を置いているすべての株式会 社では、監査役が計算書類、事業報告、これらの附属明細書を監査しなけれ ばならない(会社法436条1項)

なお、非公開会社では、定款の定めにより監査役監査の範囲を会計監査に 限定することもできる(会社法389条1項)。監査範囲を限定された監査役も監

120

(19)

査報告を作成し(同条2項)、株主総会に提出される会計に関する議案・書類 等を調査し、株主総会に報告しなければならない(同条3項)。監査範囲を限 定された監査役の監査報告および監査対象などの内容は法務省令に委任され ているが、会社計算規則ではなく、会社法施行規則107条および108条に規定 されている。

会計監査の定義

前述のとおり、計算関係書類の監査については、「監査」の定義が置かれ ている(会社計算規則121条2項)。すなわち、「公認会計士法2条1項に規定す る監査のほか、計算関係書類に表示された情報と計算関係書類に表示すべき 情報との合致の程度を確かめ、かつ、その結果を利害関係者に伝達するため の手続を含むものとする」と規定されている。

必ずしも職業専門家でない監査役もおり、職業専門家が行う監査ほど厳格 なものではないことを示すために置かれたものとされている。したがって、

計算関係書類の監査の水準は、一律に一定の水準以上のものが要求されるの ではなく、監査を行う者の能力等も踏まえて、具体的な場面に応じた水準が 要求されるものとされている。

会社計算規則121条2項は、主として大会社以外の会社の場合を想定した ものと考えられる。大会社の場合は、後述するように、会計監査人による会 計監査が一義的であり、監査役(会)は、その相当性について判断する立場 となる。

計算関係書類の監査

監査役の会計監査は、会計監査人設置会社かどうかによって、その内容が 大きく異なる。

会計監査人設置会社では、監査役の監査に加えて会計監査人が事業報告お よびその附属明細書を除いた計算関係書類の監査を実施する(会社法436条2 項1号)

したがって、会計監査人設置会社では、監査役と会計監査人との重畳的監 査の形態となる。会計監査人設置会社の監査役は、職業専門家たる会計監査 人が一義的に行った会計監査についてその相当性を判断しつつ(会社計算規則 127条2号、128条2項2号)、自らの会計監査を進める形となる。会計監査人が

6 監査役の会計監査とその監査報告 121

(20)

いない会社の場合は、監査役ないし監査役会が自ら日常の財産・損益の調査 および計算関係書類の会計監査を進めねばならない。

(2)会計監査人設置会社でない場合の会計監査

会社計算規則では、会計監査人のいない会社と会計監査人設置会社とに分 け、段階的な規制を行っている。さらに、監査報告に会計監査の対象となる 事項が明記されているが、個々の監査役と監査役会では異なる規制を行って いる。

1)個々の監査役の監査 計算関係書類の監査報告

会計監査人がいない会社の監査役は、計算関係書類を受領したときは、会 計に関する監査報告を作成しなければならないが(会社計算規則122条1項)、 計算関係書類が会社の財産および損益の状況をすべての重要な点において適 正に表示しているかどうかの意見(同項2号)を述べなければならないので、

この監査が必要となる。また、追記情報(同項4号)についても触れなけれ ばならないので、この関連の調査も必要である。ここに、追記情報とは、継 続企業の前提に係る事項、正当な理由による会計方針の変更、重要な偶発事 象、重要な後発事象に関する事項であり、監査役の判断に関して説明を要す る必要がある事項または計算関係書類の内容のうち強調する必要のある事項 である(同条2項)

臨時計算書類、連結計算書類の監査

各事業年度に係る計算書類の監査のほか、監査役は臨時計算書類すなわち 臨時決算日における貸借対照表および当該期間の損益計算書についても監査 を実施しなければならない(会社法441条2項)。連結計算書類を作成している 場合も監査が必要である(会社法444条4項)。なお、大会社かつ有価証券報告 書提出会社は連結計算書類の作成が義務付けられる(会社法444条3項)。 2)監査役会による監査

監査役会の場合

監査役会設置会社の場合、個々の監査役が作成した監査役監査報告に基づ いて、監査役会としての監査役会監査報告を作成しなければならない(会社

122

(21)

計算規則123条1項)。したがって、監査役会設置会社の場合は、二種類の監査 報告が作成されることになる。この監査報告の内容に会計監査の対象が明記 されているが、会社計算規則122条1項の第2号から第4号に掲げる事項で あり、監査役会として、計算関係書類が会社の財産および損益の状況をすべ ての重要な点において適正に表示しているかどうか監査しなければならない

(同条2項1号)

(3)会計監査人設置会社の場合の会計監査

前述のとおり、会計監査人設置会社では、監査役の監査に加えて会計監査 人が事業報告およびその附属明細書を除いた計算関係書類の監査を実施する

(会社法436条2項1号)。したがって、会計監査人設置会社では、監査役と会計 監査人との重畳的監査の形態となる。

1)会計監査人による会計監査 会計監査報告と環境整備

会計監査人は、会社外部の独立監査人として、監査役とともに計算関係書 類の監査を実施し、会計監査報告(会計監査人の監査報告については「会計」の二 文字が付されている)を作成する(会社法396条1項)

会計監査人は、自らの監査を実施するに当たり、公正不偏の態度、独立性 の保持をしながらも、取締役・会計参与・使用人等との意思疎通を図り、情 報の収集、監査環境の整備に努めるものとされている(会社法施行規則110条)。 会計監査人の独立性確保、その内部統制

会社計算規則131条は、会計監査人の監査体制が適切に維持されるべく次 の事項を定めている。内部統制の整備は会社ばかりでなく会計監査人の監査 体制自体にも行われるべきとのスタンスからこのように規定されているもの と思われる。なお、会社法上の内部統制は、会計事項というよりもむしろ業 務全体に関わるものであるが、会計監査人に係わる事項のひとつとして会社 法施行規則ではなく、会社計算規則に置かれている。

・会計監査人の独立性に関する事項その他監査に関する法令・規程の遵守 に関する事項(同条1号)

・監査、監査に準ずる業務およびこれらに関する業務の契約の受任および 6 監査役の会計監査とその監査報告 123

(22)

継続の方針に関する事項(同条2号)

・会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制に 関するその他の事項(同条3号)

このような自らの内部統制の確保あるいは経営執行部との意思疎通・環境 整備を踏まえたうえで、会計監査人は監査を実施し、作成した会計監査報告 を特定監査役および特定取締役に通知しなければならない(会社計算規則130 条)

会計監査人監査意見の種類

会計監査人による会計監査は、計算関係書類が会社の財産および損益の状 況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうか監査するもので ある(会社計算規則126条1項2号)。本件につき意見があるときは、次の意見の 区分に応じた事項を会計監査報告に記載する(同号)

(2号イ)無限定適正意見の場合、監査の対象となった計算関係書類が一般 に公正妥当と認められる企業会計の慣行に準拠して、計算関係書類 に係る期間の財産および損益の状況をすべての重要な点において適 正に表示していると認められる旨。

(2号ロ)除外事項を付した限定付適正意見の場合、監査の対象となった計 算関係書類が除外事項を除き一般に公正妥当と認められる企業会計 の慣行に準拠して、計算関係書類に係る期間の財産および損益の状 況をすべての重要な点において適正に表示していると認められる旨 ならびに除外事項。

(2号ハ)不適正意見の場合、監査の対象となった計算関係書類が不適正で ある旨およびその理由。

また、追記情報があれば開示する(同項4号)。追記情報とは継続企業の前 提に係る事項、正当な理由による会計方針の変更、重要な偶発事象、重要な 後発事象などで、会計監査人の判断に関して説明を付す事項または計算関係 書類の内容のうち強調する必要がある事項である(同条2項)

監査役と意見が異なる場合

会計監査人の監査は高度の独立性が求められる。したがって、会計監査人 と監査役とで意見が異なるときは、会計監査人は定時株主総会において意見

124

(23)

を述べることができる(会社法398条1項)そして会計監査人の意見は株主総 会参考書類において開示される(会社法施行規則85条1号)ので、株主の判断に つなげることが可能である。

2)個々の監査役の監査

会計監査人設置会社の場合も、監査役の監査内容と監査役会の監査内容に 分かれて規制されている。

会計監査人設置会社の監査役は、計算関係書類および会計監査人の会計監 査報告を受領したときは、次の対応をしなければならない(会社計算規則127 条)

・会計監査人の監査の方法または結果を相当であるかどうかの判定(同条 2号)

・会計監査人の会計監査報告の内容となっているものを除く重要な後発事 象があるかどうかの判定(同条3号)

・会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制 が整備されているかどうかの判定(同条4号)

・監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨およびその理由

(同条5号)

・監査報告を作成した日(同条6号)

上記4号については、監査役としてやりにくい場面も想定されるが、監査 報告に意見を記載する以上、監査役としても相応の検討をしなければならな いであろう 。

臨時計算書類、連結計算書類の監査

以上は各事業年度に係る計算書類等の監査であるが、会計監査人および監 査役は、臨時計算書類の監査(会社法441条2項)も、また、会計監査人設置 会社では連結計算書類を作成することができるので、連結計算書類の監査

(会社法444条4項)も実施しなければならない。

3)監査役会の監査 監査役会の場合

会計監査人設置会社でかつ監査役会設置会社の場合、監査役会の監査内容 は、会社計算規則127条の第2号から第5号までに掲げる事項である(会社計

6 監査役の会計監査とその監査報告 125

(24)

算規則128条2項2号)

7 訴訟への対応

(1)訴訟における会社代表 訴えにおける会社代表

一般に会社の代表者は取締役であるが(会社法349条)、会社が取締役に対し あるいは取締役が会社に対して訴えを起こす場合は、監査役が会社を代表す る(会社法386条1項)。また、6ヶ月前から引き続き株式を有する株主は、役 員等の責任追及のため株主代表訴訟を提起することができるが(会社法847条 1項)、株主が行う提訴請求等の相手先は監査役である(会社法386条2項)。監 査役の訴訟への対応は、現実には株主代表訴訟への対応が中心課題となろ う。

(2)株主代表訴訟における当初の対応 考慮期間における対応

株主から書面または電磁的記録により提訴請求を受けた監査役は、考慮期 間である60日以内に(会社法847条3項)、提訴を行うかどうか判断しなければ ならない。この間に、以下の一連の事務が必要となる 。

まず、監査役全員に通知すると共に、監査役会で対応策を協議する(監査 役監査基準46条1項)。そして、訴え書面・記録の形式が具備されているかどう か、すなわち、株主の資格要件、請求先・被告となるべき取締役等、請求趣 旨・事実等(会社法施行規則217条1号、2号)が明瞭に記載されているかどうか の審査を行う。

次に、提訴対象の取締役および関係部署から状況報告を求め、意見聴取す る一方で、関係資料を収集し、外部専門家の意見も聴取する(同基準同条2 項)。判断の結果、責任追及の訴えを起こさないことにした場合は、当該取 締役や請求者に通知すると共に、調査資料等を整備・保管しておく(同基準 同条3項、4項、5項)

126

(25)

(3)補助参加 補助参加の同意

株主代表訴訟が提起された場合、会社が被告人である取締役側に補助参加 できるが(会社法849条1項)、会社が補助参加するためには、監査役の同意が 必要である(同条2項1号)。この同意は、監査役会設置会社では監査役会の 協議をもって決定されるべきものと考えられ、同意に当たっては当該取締役 や関係部署から報告を求め、外部専門家の意見も聞くべきであろう(監査役 監査基準47条)

(4)訴訟上の和解 和解への対応

株主代表訴訟の責任追及訴訟で、原告株主と被告取締役が訴訟上の和解を する場合、裁判所が会社に和解内容を通知し、もし異議があれば2週間以内 に異議を述べるよう催告し、会社が期間内に書面をもって異議を述べなかっ たときは、通知された内容で原告株主が和解することを会社が承認したもの とみなされる(会社法850条2項、3項)

したがって、和解通知が裁判所からあったときは、2週間以内に和解に応 じるかどうか判断しなければならない。この場合も、監査役会で協議し、外 部専門家の意見を聞くなどして対応すべきであろう(監査役監査基準48条)

(5)役員等の責任軽減に関する同意 責任軽減への同意

役員等が損害賠償責任をとる場合、一定の要件を満たせば、一定額を限度 として役員等の損害賠償責任を株主総会の決議で一部免除し、軽減すること ができる(会社法425条1項)。この議案を株主総会に提出するには、監査役全 員の同意が必要である(同条3項1号)

このほか、役員等の責任軽減に関する条項として、取締役会決議によって 役員等の責任の一部を免除することができる旨の定款変更に関する議案を株 主総会に提出する場合(会社法426条1項)や、社外取締役等との間で責任限 定契約を締結する場合(会社法427条1項)なども、監査役全員の同意が必要

7 訴訟への対応 127

(26)

となる(会社法426条2項、427条3項)

いずれも法律関係が後まで問題となる事項であり、監査役としても責任が 重大なので、監査役会における慎重な検討と、検討結果の足跡が残されるべ きであろう(監査役監査基準45条参照)

8 買収防衛策の検討

買収防衛策

会社が、その財務および事業の方針の決定を支配する者のあり方に関する 基本方針を定めている場合には、事業報告の内容としなければならず、次の 内容が記載される(会社法施行規則118条3号)。なお、この条項はいわゆる買収 防衛策を念頭においている。昨今の企業買収増加の傾向に備え、予め買収防 衛策を策定した場合は株主に周知せしめるために事業報告で開示させる趣旨 から創設されたものである。

すなわち、買収防衛策の基本方針の内容の概要(同号イ)のほか、会社財 産の有効な活用、適切な企業集団の形成その他基本方針の実現に資する特別 な取り組み(同号ロ(1)や、基本方針に照らして不適切な者によって会社の 財産および事業の方針の決定が支配されることを防止するための取り組み

(同号ロ(2))が、事業報告に記載される。

さらに、同号ロの取り組みについて次の要件への該当性に関する取締役・

取締役会の判断およびその判断に係る理由も記載しなければならない(同号 ハ)

(1)当該取り組みが基本方針に沿うものであること

(2)当該取り組みが株主の共同の利益を損なうものではないこと (3)当該取り組みが会社役員の地位の維持を目的とするものではないこ

買収防衛策に対する監査意見

監査役としては、上記は取締役ないし取締役会が関与するものであるか ら、本件を検討しなければならず、検討の結果、監査報告において意見を述 べなければならない(会社法施行規則129条1項6号)。この意見の発現について

128

(27)

は何らの制限もない。監査役は、会社法施行規則118条3号の視点から監査 を実施し、また、買収防衛策の発動・不発動に関する一定の判断を行う委員 会の委員に就任した場合は、会社利益の最大化に沿って適正に判断を行うべ きであろう(監査役監査基準43条3項参照)。だが、本件については多くの議論 が残されている。終章で改めて取り上げることにする。

9 監査役の民事責任

監査役が義務を怠り損害を発生させた場合は、民事責任として損害賠償責 任を負う。また監査役が犯罪行為を行えば、刑事責任を負い、会社法上も罰 則がある。後者は次節で扱うことにして、本節では、監査役の民事責任だけ を扱う。

民事責任には、会社に対する責任と、第三者に対する責任がある。

(1)会社に対する責任 会社に対する責任

会社と監査役の関係は委任関係にあり(会社法330条)、受任者である監査役 は会社に対し、善良なる管理者の注意義務を負う(民法644条)。したがって、

監査役は、故意または過失により、その義務に違反して会社に損害を与えた 場合は、会社に対して損害賠償の責めを負う(会社法423条)。これが会社に対 する責任である。監査役の会社に対する責任は連帯責任であり(会社法430 条)、監査役間の連帯責任および取締役との連帯責任の双方がある。

(2)第三者に対する責任 第三者に対する責任

監査役と会社間の委任契約であるから、会社に対し責任を負うことはあっ ても、第三者に対して直接責任を負うことはないが、監査役が職務権限を適 切に行使するかどうかにより第三者に及ぼす影響は大きいものとみて(それ だけ重要な責務があるとみて)、第三者に対する責任規定が設けられている(会社 法429条)。会社に対する責任は「故意または過失」を要件とするものである

9 監査役の民事責任 129

(28)

が、第三者に対する責任は「悪意または重過失」と要件が厳格になる。監査 報告に記載すべき重要な事項につき虚偽の記載・記録をしたことにより、第 三者が被害を被った場合もこれに該当する(会社法429条2項3号)

(3)会社に対する責任の一部免除 会社に対する責任の一部免除

監査役の場合も、善意でかつ重大な過失がないときは、報酬等の2年分を 最低責任限度額として会社に対する責任を軽減させることができる(会社法 425条1項1号ハ)

10 監査役の刑事責任 罰則

会社法上の罰則には、刑罰と行政罰がある。前者は、懲役・罰金・没収な どを与えるものであり、後者は過料である。

刑罰

発起人・取締役・会計参与・監査役・執行役・支配人その他の使用人・検 査役・清算人などの会社関係者に対しては、次のような罪に対し刑罰が規定 されている。それぞれの罪に応じた刑罰が適用される。ただ、監査役の場合 は、業務執行に関与することがないので、直接これらの責任をとることは少 ないように思われる。

特別背任罪(会社法960条)

会社財産を危うくする罪(会社法963条)

虚偽文書行使罪(会社法964条)

預け合いの罪(会社法965条)

贈収賄罪(会社法967条)

株主の権利の行使に関する利益供与の罪(970条)

行政罰

行政罰は、次のような罪に対し、100万円以下の過料となる罰であるが

(会社法976条)、過料は犯罪に対する刑罰ではないから、刑事訴訟法の手続に よらず、検察官によって執行される(非訴事件手続法163条1項)

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