著者
宮村 健一郎, 住谷 宏
著者別名
Miyamura Kenichiro, Sumiya Hiroshi
雑誌名
経営論集
号
60
ページ
1-25
発行年
2003-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00004920/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja信用金庫のリテールマーケティング戦略と収益性
* 宮 村 健一郎 住 谷 宏 1 はじめに 2 データの説明 3 パフォーマンス変数と各営業スタイルとの関係の分析 4 因子分析による戦略の抽出と戦略の解釈 5 各戦略がパフォーマンス変数に与える影響 6 結論 1 はじめに 本稿は、信用金庫のリテールマーケティング各手段、および統計的手法で類型化したリテール マーケティング戦略が、信用金庫のパフォーマンスにどのように影響するかを分析する。 金融自由化前後において、金融機関の競争環境は大きく変化した。たとえば、金融自由化以前の 高度成長期においては、出店規制と預金金利規制が存在し、また債券市場が未発達であったから、 金融機関は低金利の預金を集めれば、資金を求める数多い企業の中から安全そうなところを選んで 貸し出すことにより、焦げ付きの心配がなく自動的に収益をもたらすこととなった。そのため、各 金融機関は預金を増加させようとして、店舗網の拡大を望んだが、その希望は大蔵省の出店認可規 制に基づいた裁量行政に依存し、競争がコントロールされていた。 このような状況においては、金融機関が取りうる戦略は現在に比べるとかなり少ない。当時の金 融機関は非金融業での製品価格に相当する預金金利を操作することができず、新規出店もままなら ない。せいぜい、貸出に資金を投入するか、またはしばしば異常な高金利を示したコール市場を通 じて都市銀行に資金を投入するか(都市銀行にとっては貸出を増加させるかコール市場からの資金 取入れをあきらめるか)の選択になった。高度成長期においては、都市銀行の店舗、預金、貸金の シェアは一貫して低下し続けたが、この原因のひとつとして、大蔵省本省の監督下にあった都市銀 行の新規出店許可数よりも、ほとんどが地方財務局に監督されていた他業態の新規出店許可数のほ うが相対的に多かったことがあげられるだろう。 このような金融構造のもとでは、金融機関リテール戦略などは存在しなかったに等しく、その結 果、ほとんど誰の関心もひかなかった。金融関係の学会も、ホールセールマーケットや金融政策、金融機関政策などへの関心が中心であって、金融機関のリテール戦略に関するアカデミックな議論 は皆無に等しく、その傾向は現時点でもほとんど不変である。 現在では、銀行分野の中の自由化、たとえば出店や預金金利などの自由化が行われただけではな く、この2、3年の間に、投資信託窓販や保険窓販などが金融機関に解禁されたことからもわかる ように、業態間垣根の撤廃も進んだ。そのため、リテールマーケットでの資金運用商品の品揃えが 飛躍的に拡大した。広告や景品の規制・自主規制も著しく緩和された。金融機関の店舗数も以前と 異なり減少する方向に動いていることからわかるように、出店、撤退については金融機関の経営戦 略次第となった。貸出面においては大企業貸出の重要性は激減し、それに代わって個人融資や中小 企業融資の重要性が高まり、もともと中小企業への貸出が主であった中小企業専門金融機関や地方 銀行だけでなく、都市銀行においても、個人と中小企業が主要な貸出先となった。その結果、資金 調達面に加え、資金運用面においても、全ての金融業態の主戦場はリテールマーケットとなり、ほ ぼ同じ貸出先に対して激しい競争を繰り広げることになった。さらに、金融機関の預金の性格を決 済性預金と貯蓄性預金に分類した場合、貯蓄性預金については、投資信託や保険とともにポート フォリオの構成要素として一体化されて消費者に提供されるべきものであろうが、このようなポー トフォリオの提供は証券会社とも直接競合する。 このように、金融機関が採ることのできる手段が多様化するとともに、金融機関間、証券会社と の競争、特にリテールマーケットでの競争が激化したので、各金融機関は限りある資源を効率的に 重要な手段に投入して競争に勝ち抜き、金融機関の成長や収益の増加を図る必要がある。しかしな がら、このような状況が始まったのは比較的最近であり、各金融機関にとって、何に重点をおいて 活動するのが望ましいか、すなわち、どのような手段や戦略に重点をおけば金融機関の成長や収益 の増加をもたらすのかについてのアカデミックな研究がなされていないため、ほとんど不明である。 そこで、本稿は、最近5年間(1995年度末から2000年度末)における預金、貸出、業務純益の伸 びが、どのようなマーケティング戦略に強く影響されるかを調べることにより、金融機関がどのよ うな戦略を採用するべきかということについて、客観的な答えを提出する。具体的には、筆者のグ ループ(宮村健一郎、住谷宏、そして今村有里子東洋大学講師(肩書きは当時))が、社団法人全 国信用金庫協会の支援を得て2001年11月に行った「地域金融機関の経営実態と営業に関するアン ケート」で得られた信用金庫のマーケティング活動に対して統計分析を適用する。最初に、前回の アンケート調査(2001年2月実施)に基づき行われた住谷他(2002)と同じ手法で、個別の手段と各 パフォーマンス変数(預金残高伸び率、貸出伸び率、業務純益伸び率)との関係に関する平均の差 に関する検定を行う。しかしながら、この方法は、たとえば、新聞に広告を掲載したら預金の伸び が何%上昇した、というような議論になってしまうことや、本論で詳述するような部分均衡分析の
結論に伴う問題と類似した問題がある。 そこで、前回と同じ分析を行うとともに、新たな手法の分析を追加する。まず第1に、各マーケ ティング手段の採否決定の背後に経営理念や経営戦略が存在して、それが複数の手段の採否を決定 していると考えることにする。たとえば、機械化との関連をみると、経営者に「人と人が直接ふれ あって営業活動するのが最善である」という信念が強すぎる場合には、ATMは増やさず、イン ターネットバンキングなどは行わず、データベースへのデータ蓄積や活用も後回しになる、といっ た機械関連の各手段の採否(この場合は「否」)に反映されるかもしれない。この例のように、何 らかの方針や戦略を実行に移す手段はたったひとつということはないだろうから、共通因子となる 方針や戦略に対して複数の手段が影響されると考えるのが自然である。よって、手段の採否の背後 にある方針や戦略を、因子分析によって、共通因子として抽出する。そして、このように抽出され た因子に対して金融機関戦略としての意味づけを行う。 第2に、ここまでできれば、これら因子が各パフォーマンス変数にどのように影響するかを調べ るために、各オブザベーションに対応する各因子の因子得点を作り、それらを説明変数とし、各パ フォーマンス変数を被説明変数として重回帰分析を行うことが可能になる。これにより、方針や戦 略が金融機関のパフォーマンスに与える効果をより全体的に分析することができる。 本稿は、このような論理で、信用金庫のアンケート調査を分析する。分析に用いるために収集し た各手段のデータは信用金庫のリテールマーケティング関連の手段であるため、本稿が分析する方 針や戦略はマーケティング戦略が中心となり、財務戦略や経営戦略ではない。 本稿の構成は以下の通りである。次節はアンケートおよびデータについて説明する。第3節は個 別のマーケティング手段とパフォーマンス変数との関係について分析する。第4節は因子分析に基 づく信用金庫戦略の抽出および意味づけを行い、第5節でそれらとパフォーマンス変数との関係に ついて分析する。第6節は結論である。 2 データの説明 2001年11月に行ったアンケート調査「地域金融機関の経営実態と営業に関するアンケート」は、 前回(2001年2月)に行ったアンケートと内容はほぼ同じである。異なる点は、前回が統計データに ついては2000年3月末と1995年3月末のものを要求していたのに対し、今回は2001年3月末と1996 年3月末のものを求めたこと、前回は地方銀行と第二地方銀行まで含めたのに対し、今回は信用金 庫のみを対象にしたことである。後者の理由について説明しておくと、前回のアンケートでは地方 銀行と信用金庫合わせて500弱に対して筆者たちの名前でアンケートを郵送したが、地方銀行につ いての回答は3行、信用金庫については50金庫というように、極めて回答率が低く、分析が非常に
行いにくかった。そこで、今回は、社団法人全国信用金庫協会の支援を得て行った。対象は信用金 庫のみとなったが、2001年3月末で371の信用金庫に対し、アンケートへの回答は171金庫に達した。 このうち、記入漏れ等のない有効回答数は149であり、これを利用した。これらの金庫の分布の概 要は表1で示している。預金額の対数で小さい順に並べてみたものは図1である。これらによれば、 分析対象信用金庫は対数値でみると大体満遍なく一様に分布しているようにみえる。ただ、図1か らは、一番小さい信用金庫と二番目に小さい信用金庫の間、そして一番大きい信用金庫と二番目に 大きい信用金庫との間は若干離れていることがわかるが、以下の分析では、基本的に伸び率が扱わ れ、預金残高や貸出残高などの絶対的な大きさは分析から除かれているので影響はほとんどない1。 アンケートの各調査項目は、以下のように大きく8つのカテゴリに分類することができる。 ①信用金庫の各変数(預金残高、貸出金残高、貸出に占める個人貸出%、業務純益、役職員数、 パート・嘱託・派遣職員数、渉外担当者数、役職員平均年齢、店舗数、CD・ATM設置数)。 1996年3月末と2001年3月末の両方のデータを書き込んでもらった。 ②経営環境(営業地域の人口、事業所数、金融機関店舗数、企業や個人の資金需要の変化)。 1996年3月末から2001年3月末までのおおよその伸び率の選択肢を選んでもらった。 ③顧客のコメントの収集手段(投書箱の設置、フリーダイヤル、ウェブでのコメント収集、消費 者モニター制度、郵送によるアンケート調査)の状況 ④営業店の状況(商圏の大きさ、機能特化型支店やセンターの設置、営業店の機能別専門化) ⑤渉外担当者の行動(担当顧客数、一日あたり訪問先数、担当エリアや顧客の割り当て方法、営 業活動方法を決める部署が本部か・支店長か・本人か、直行直帰型の勤務形態があるか) ⑥重視しているマーケティング手段等(テレビ広告、新聞・雑誌・ラジオ広告、ダイレクトメー ルの活用、預金通帳や定期積金通帳のデザインの工夫、定期積金や定期預金の新規作成時に提 供する景品の工夫、融資を推進するにあたって低金利を武器とすること、融資渉外担当のキメ 細かい顧客サービス、営業時間の拡充、ATM稼動時間の延長、ATMの増設、営業店の新設、 自治体・商店街・商工会議所などの活動に積極的に参加すること、顧客情報のデータベース化、 ポイントサービスの導入などで顧客を囲い込むこと、与信スピードを早くすること、インター ネット・i モードバンキングの拡充、リスクに応じた貸出金利の設定をすること、ゴルフ会・ 旅行会・ゲートボール会などの主催による顧客の組織化など) ⑦IT化の進展度合い(インターネットバンキング、iモードバンキングの程度、一般職員の情 報端末で見ることのできる顧客情報の種類など) ⑧重要な経営課題など このうち、本稿は、上の⑤、⑥、⑦のカテゴリの内容が①のカテゴリにどのように影響するかを
調べている。③、④、⑧のカテゴリの分析も大変興味深いが、これらについては、データの性質 (⑧は文章であるし、③はあるかないか(すなわち1または0)のデータであること)などのため、 本稿のテーマであるパフォーマンス変数への統計的な関係が導きにくい。そのため、本稿で説明を 加えると、議論の流れが崩れる恐れがあるので、今回は取り上げない。②のカテゴリは回帰分析を 行うときのコントロール変数として用いられる。 表1 分析対象信用金庫の概要 預金残高 信用金庫数 500億円未満 500-1000億円 1000-5000億円 5000億 - 1兆円 1兆円以上 7 27 88 20 7 計 149 3 パフォーマンス変数と各営業スタイルとの関係の分析 個別の営業スタイルとパフォーマンス変数との関係については、Microsoft Excel 2002を用いて、 平均の差が有意に異なるか否かに関する検定を行った(表2)。
0
2
4
6
8
10
12
1
12 23 34 45 56 67 78 89 100 111 122 133 144
信用金庫の番号
(小さい順)
預金
残高
(
対
数
)
図1 分析対象信用金庫の分布表2 各手段の採用がパフォーマンス変数格差を引き起こすか否かに関する検定 表2-1 テレビ広告 テレビ広告 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1580 0.0111 36 重視しない 預金 伸び率 0.1421 0.0184 113 26.01% 重視 0.0348 0.0176 36 重視しない 貸出 伸び率 0.0096 0.0181 113 16.36% 重視 0.1290 0.0364 36 重視しない 個人貸出伸び率 0.0815 0.0432 113 11.26% 重視 -0.1386 0.1172 36 重視しない 業務純益伸び率 -0.1797 0.2696 113 32.88% 表2-2 新聞・雑誌・ラジオ広告 新聞・雑誌・ラジオ広告 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1660 0.0121 86 重視しない 預金 伸び率 0.1187 0.0217 63 1.301.30%1.301.30%%% 重視 0.0373 0.0166 86 重視しない 貸出 伸び率 -0.0138 0.0187 63 1.071.07%1.071.07%%% 重視 0.1307 0.0355 86 重視しない 個人貸出伸び率 0.0414 0.0463 63 0.400.40%0.400.40%%% 重視 -0.1919 0.1020 86 重視しない 業務純益伸び率 -0.1395 0.4126 63 25.67% 表2-3 ダイレクトメールの活用 ダイレクトメールの活用 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1380 0.0183 92 重視しない 預金 伸び率 0.1588 0.0138 57 17.04% 重視 -0.0075 0.0136 92 重視しない 貸出 伸び率 0.0531 0.0231 57 0.350.35%0.350.35%%% 重視 0.0795 0.0373 92 重視しない 個人貸出伸び率 0.1147 0.0489 57 15.43% 重視 -0.1048 0.2951 92 重視しない 業務純益伸び率 -0.2746 0.1158 57 1.811.81%1.811.81%%% 表2-4 預金通帳や定期積金通帳のデザインの工夫 預金通帳や定期積金通帳のデ ザインの工夫 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1505 0.0170 125 重視しない 預金 伸び率 0.1226 0.0140 24 16.63% 重視 0.0253 0.0180 125 重視しない 貸出 伸び率 -0.0344 0.0157 24 2.292.292.292.29%%%% 重視 0.0935 0.0408 125 重視しない 個人貸出伸び率 0.0899 0.0485 24 46.79% 重視 -0.1635 0.2108 125 重視しない 業務純益伸び率 -0.2021 0.3558 24 36.03% 注 各手段(表2-1であればテレビ広告)を重視する信用金庫と重視しない信用金庫を分けて、パフォー マンス変数の平均を計算し、それらが一致するか否かについてt検定を行いp値を計算した(分散均一 を仮定)。5%水準で有意(すなわち一致するという仮説が棄却される)のところは太字かつ斜体で示 した。以下同じ。
表2-5 定期積金や定期預金の新規作成時に提供する景品の工夫 定期積金や定期預金の新規作 成時に提供する景品(あるい は懸賞)の工夫 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1474 0.0176 135 重視しない 預金 伸び率 0.1325 0.0071 14 34.14% 重視 0.0160 0.0190 135 重視しない 貸出 伸び率 0.0123 0.0096 14 46.11% 重視 0.0897 0.0423 135 重視しない 個人貸出伸び率 0.1246 0.0375 14 27.21% 重視 -0.1732 0.2099 135 重視しない 業務純益伸び率 -0.1360 0.4772 14 39.20% 表2-6 低金利を武器にすること 融資を推進するにあたって低 金利を武器にすること パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1446 0.0138 104 重視しない 預金 伸び率 0.1492 0.0234 45 42.11% 重視 0.0146 0.0189 104 重視しない 貸出 伸び率 0.0183 0.0163 45 43.85% 重視 0.1039 0.0455 104 重視しない 個人貸出伸び率 0.0676 0.0329 45 16.00% 重視 -0.1460 0.2598 104 重視しない 業務純益伸び率 -0.2247 0.1681 45 18.06% 表2-7 融資渉外担当者のキメ細かい顧客サービス 融資渉外担当のキメ細かい顧 客サービス パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1454 0.0163 143 重視しない 預金 伸び率 0.1598 0.0275 6 39.48% 重視 0.0168 0.0181 143 重視しない 貸出 伸び率 -0.0107 0.0178 6 31.22% 重視 0.0973 0.0426 143 重視しない 個人貸出伸び率 -0.0105 0.0131 6 10.32% 重視 -0.1595 0.2364 143 重視しない 業務純益伸び率 -0.4129 0.0820 6 10.40% 表2-8 営業時間の拡充 営業時間の拡充 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1443 0.0132 58 重視しない 預金 伸び率 0.1471 0.0189 91 44.85% 重視 -0.0038 0.0135 58 重視しない 貸出 伸び率 0.0281 0.0207 91 7.88% 重視 0.0979 0.0475 58 重視しない 個人貸出伸び率 0.0898 0.0385 91 40.79% 重視 -0.0921 0.2092 58 重視しない 業務純益伸び率 -0.2192 0.2428 91 5.82%
表2-9 ATM稼動時間の延長 ATM稼動時間の延長 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1385 0.0124 131 重視しない 預金 伸び率 0.2002 0.0457 18 2.81% 重視 0.0102 0.0180 131 重視しない 貸出 伸び率 0.0556 0.0176 18 8.96% 重視 0.0936 0.0435 131 重視しない 個人貸出伸び率 0.0881 0.0306 18 45.75% 重視 -0.1641 0.2438 131 重視しない 業務純益伸び率 -0.2108 0.1542 18 35.04% 表2-10 ATMの増設 ATM(自行ATM及び他金 融機関との提携ATMも含め る)の増設 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1472 0.0159 115 重視しない 預金 伸び率 0.1418 0.0195 34 41.57% 重視 0.0201 0.0168 115 重視しない 貸出 伸び率 0.0008 0.0226 34 23.20% 重視 個人貸出伸び率 0.0938 0.0428 115 重視しない 0.0901 0.0394 34 46.32% 重視 業務純益伸び率 -0.1773 0.1436 115 重視しない -0.1442 0.5439 34 36.31% 表2-11 営業店の新設 営業店の新設 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1905 0.0243 45 重視しない 預金 伸び率 0.1267 0.0122 104 0.26% 重視 0.0412 0.0207 45 重視しない 貸出 伸び率 0.0046 0.0166 104 6.33% 重視 0.1546 0.0395 45 重視しない 個人貸出伸び率 0.0663 0.0407 104 0.74% 重視 -0.1637 0.1121 45 重視しない 業務純益伸び率 -0.1724 0.2856 104 45.98% 表2-12 商店街などの活動に積極的に参加すること 自治体・商店街・商工会議所 などの活動に積極的に参加す ること パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1425 0.0130 142 重視しない 預金 伸び率 0.2171 0.0971 7 6.74% 重視 0.0136 0.0172 142 重視しない 貸出 伸び率 0.0578 0.0377 7 19.84% 重視 0.0921 0.0423 142 重視しない 個人貸出伸び率 0.1105 0.0342 7 40.85% 重視 -0.1716 0.2333 142 重視しない 業務純益伸び率 -0.1312 0.2409 7 41.46%
表2-13 データベース化 顧客情報のデータベース化 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1470 0.0169 144 重視しない 預金 伸び率 0.1165 0.0088 5 30.17% 重視 0.0158 0.0180 144 重視しない 貸出 伸び率 0.0127 0.0228 5 47.97% 重視 0.0937 0.0426 144 重視しない 個人貸出伸び率 0.0718 0.0216 5 40.73% 重視 -0.1687 0.2315 144 重視しない 業務純益伸び率 -0.1993 0.3093 5 44.48% 表2-14 顧客の囲い込み ポイントサービスの導入など で顧客を囲い込むこと パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1423 0.0132 81 重視しない 預金 伸び率 0.1504 0.0208 68 35.06% 重視 0.0011 0.0152 81 重視しない 貸出 伸び率 0.0331 0.0211 68 7.38% 重視 0.0864 0.0427 81 重視しない 個人貸出伸び率 0.1008 0.0411 68 33.49% 重視 -0.1982 0.1257 81 重視しない 業務純益伸び率 -0.1358 0.3605 68 21.65% 表2-15 与信スピードを速くすること 与信スピードを速くすること 非説明変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1489 0.0174 140 重視しない 預金 伸び率 0.1008 0.0012 9 13.92% 重視 0.0161 0.0186 140 重視しない 貸出 伸び率 0.0091 0.0108 9 43.98% 重視 0.0966 0.0426 140 重視しない 個人貸出伸び率 0.0354 0.0280 9 19.27% 重視 -0.1609 0.2389 140 重視しない 業務純益伸び率 -0.3075 0.1208 9 18.90% 表2-16 インターネット・iモードバンキングの拡充 インターネット・iモードバ ンキングの拡充、充実 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1468 0.0111 119 重視しない 預金 伸び率 0.1429 0.0393 30 44.17% 重視 0.0215 0.0168 119 重視しない 貸出 伸び率 -0.0074 0.0229 30 14.65% 重視 0.1087 0.0433 119 重視しない 個人貸出伸び率 0.0306 0.0319 30 3.06% 重視 -0.1589 0.2094 119 重視しない 業務純益伸び率 -0.2127 0.3302 30 29.34%
表2-17 リスクに応じた貸出金利の設定 リスクに応じた貸出金利の設 定をすること パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1416 0.0159 137 重視しない 預金 伸び率 0.1958 0.0234 12 8.15% 重視 0.0082 0.0164 137 重視しない 貸出 伸び率 0.1008 0.0314 12 1.07% 重視 0.0864 0.0416 137 重視しない 個人貸出伸び率 0.1673 0.0403 12 9.49% 重視 -0.1587 0.2477 137 重視しない 業務純益伸び率 -0.2954 0.0416 12 17.39% 表2-18 顧客の組織化 ゴ ル フ 会 、 旅 行 会 、 ゲ ー ト ボール会などの主催による顧 客の組織化 パフォーマンス変数 平均 分散 観測数 p値 重視 0.1456 0.0172 141 重視しない 預金 伸び率 0.1528 0.0063 8 43.89% 重視 0.0144 0.0185 141 重視しない 貸出 伸び率 0.0376 0.0109 8 31.79% 重視 0.0916 0.0417 141 重視しない 個人貸出伸び率 0.1169 0.0472 8 36.73% 重視 -0.1651 0.2425 141 重視しない 業務純益伸び率 -0.2523 0.0498 8 30.99% この表の見方について説明しよう。アンケートの文章は、表2各表の左上部分と一致する。すな わち表2-1であれば、「テレビ広告」である。アンケートの回答選択肢は、 ①行っていない・まったく重視していない ②あまり重視していない ③やや重視している ④重視している ⑤非常に重視している の5段階のどれかにマルをつけさせるものである。しかし、表2の分析においては、③、④、⑤を 選択した信用金庫を「重視」、①、②を選択した信用金庫を「重視しない」の2つにまとめて行っ ている。表2-1においては、「テレビ広告」を重視している信用金庫は、全149信用金庫のうち36 で、重視していない信用金庫は113あることがわかる。それぞれの預金伸び率の平均は15.80%と 14.21%である。これら平均が一致するという仮説に関するt値(表では省略した)に対応するp
値が26.01%である。よって、平均が一致するという仮説は有意水準5%で棄却できない。換言す れば、テレビ広告を重視している信用金庫の預金伸び率が重視していない信用金庫の伸び率より高 いとはいえない、ということがわかる。 では結果をみるが、はじめに、説明が容易なものから説明する。新聞・雑誌・ラジオ広告(表2 -2)については、重視している信用金庫が重視しない信用金庫よりも、預金伸び率、貸出伸び率、 個人貸出伸び率が5%水準で有意に高い。もちろん、このことが直接の因果関係を示していると考 えるべきではない。最初に述べたように、新聞・雑誌・ラジオ広告のみを行えばパフォーマンスが よくなるというのはナンセンスに近い。そうではなくて、何らかの方針や戦略があり、その一つの 表れが新聞・雑誌・ラジオ広告への対応の違いとなっていると考えるべきである。そして、新聞・ 雑誌・ラジオ広告を重視するような戦略や傾向が、他のマーケティング手段の採否と合わさって、 総合的な力で、パフォーマンスを向上させているのである。 預金通帳や定期積金通帳のデザイン(表2-4)を重視している信用金庫は貸出伸び率が高い。 融資推進に低金利を武器とする(表2-6)は、貸出や個人貸出に影響する証拠はみつからな かった。この解釈としては、おそらく、低金利だから借り入れ希望が多いに違いないが、信用金庫 側がリスクテイクできないため、審査が厳しくなり、その結果融資額が増えないということだと思 われる。 営業店の新設(表2-11)を重視している信用金庫は、預金伸び率、個人貸出伸び率については 有意に高くなる。貸出伸び率についても5%水準では棄却できないものの(6.33%)、平均値だけ でみれば重視している信用金庫は伸び率が高い。しかしながら、業務純益にはあまり影響しなさそ うである。つまり、以前から(たとえば10年以上前から)現在まで一貫して営業店を新設すること を重視してきた信用金庫は預金と貸出がともにこの5年間で伸びていた。しかしながら、経験的に、 新設店舗が損益分岐点を越えて利益を発生させるのにかかる期間はおよそ10年といわれているので、 業務純益の増加に対する効果は検出しにくいであろう。よって、貸出は伸びるが利益を蓄積できな いために、当面は自己資本比率が低下するであろう。反対方向に拡大解釈すると、最近では金融機 関の店舗網の縮小が目立つが、このことは業務純益には影響が小さいが、資産が減少するという点 で、自己資本比率を向上させるので、自己資本比率が低めの金融機関にとって、店舗網縮小は目先 の自己資本比率向上のための合理的な戦略なのかもしれない。しかし、そのような戦略は、長期的 には縮小均衡であろう。 インターネット・iモードバンキング(表2-16)の重視は個人貸出伸び率と正の相関がある。 これは、おそらく、対個人サービスの向上を重視していることにより個人貸出が上昇している信用 金庫はひとつの手段としてインターネット・iモードバンキングを重視しているということなので
あろう。 リスクに応じた貸出金利の設定(表2-17)は、正確にいえばマーケティング手段ではなく、営 業への制約要因となる経営戦略である。予想されるように、リスクに応じた貸出金利設定を重要視 する信用金庫は、昨今の状況では取引先の少なくない部分に貸出金利引き上げを要求しているだろ う。実際に、貸出伸び率については5%水準で有意に低い。このように、リスクに応じた貸出金利 の設定は貸出伸び率に明らかにマイナスの効果をもたらす。この差の推定値は5年間で平均9.26% (=0.1008-00082)というように、かなり大きくなる(ただし、「リスクに応じた貸出金利設定を重 視」している信用金庫が1996年3月から継続してこの方針をとっていたかどうかはわからない)。 個人貸出伸び率については特に影響していないが、これは、個人貸出の中心は規格品的な貸出であ るためだろう。すなわち、個人向け貸出は、住宅ローン、カーローン、教育ローンなど、その種類 に応じてあらかじめ貸出金利が決まっている場合がほとんどである。これは、顧客と金融機関との 交渉で貸出金利が影響される事業貸出金利と消費者ローン金利が大きく異なる点であり、よって、 どの金融機関においても、意識しているか無意識かはわからないが、「個人貸出はリスクに応じた 貸出金利設定の対象外」になっている。 解釈がしにくい結果としては、ダイレクトメールとATMがある。 まず、ダイレクトメール(表2-3)についてみると、ダイレクトメールを重視する信用金庫は 重視しない信用金庫に比べて貸出伸び率で下回るが、業務純益減益幅は小さい。前者の解釈は困難 であるが、たとえば、ある営業区域に、ダイレクトメールを重視する信用金庫と他の手段を重視す る別の金融機関がある場合、ダイレクトメールは貸出の拡大には効果が少ないために、相対的に他 の手段を重視する金融機関に貸出競争で負けてしまうのかもしれない。 ATM稼働時間の延長(表2-9)をみると、重視していない信用金庫のほうが預金伸び率が高 くなっている。これは、ATM稼働時間延長という顧客へのサービス向上が預金伸び率に相対的に マイナスであるという、説明しにくい結果である。 このように、予想される関係と反対の結果がいくつか出たが、その理由は、おそらく、ひとつを 「重視する」としたら他方は「重視しない」ということになるからであろう。つまり、ダイレクト メールの結果の解釈のところで説明したように、手段Aを重視するということは、他の手段、たと えば手段Bや手段Cを相対的に重視しないことを意味する。手段A、手段B、手段Cは、他の状況 が一定ならば(たとえば手段Aを強化したときに手段Bと手段Cのレベルを一定に保つことができ れば)どれも貸出を増加させるとしても、手段Aを採用したら手段Bと手段Cをあきらめなければ ならないという状況においては、最終的な結果は、手段A、手段B、手段Cの貸出増加に及ぼす相 対的な大きさに依存する。手段Aの貸出増加効果が一番小さい場合は、手段Aを重視して手段Bと
手段Cを重視しないと、最終的な効果はマイナスとなるだろう。このような意味で、本節における 平均の差に関する検定は限界があるかもしれない。「他の手段を一定に保ったまま」ある手段の効 果を分析するためには、理論的には、重回帰分析で行えばいいはずである。しかし、各手段間の相 関が強いたため、多重共線性の影響により、実際にはモデル推定が不可能である。よって、次節以 降で行うように、一度、各手段の背後にある共通因子、すなわち戦略を抽出し、それによって回帰 分析を行うという手続きが必要となるのである。 4 因子分析による戦略の抽出と戦略の解釈 本節は、これら手段のうちのいくつかを同時に動かすような、信用金庫経営者の方針や戦略を因 子として抽出し、それにもとづいてどのような方針・戦略(以下「戦略」とする)が存在するのか を考える。さらに、因子の抽出に伴って各信用金庫に対応する因子得点も得られる。よって、アン ケート調査の原データを使わずに、因子得点を使ってパフォーマンス変数への影響を調べれば、回 帰分析によって、他の戦略を一定に保ちつつある戦略がどのようにパフォーマンス変数に影響する のか、という分析が多重共線性の影響を弱めつつ行うことが可能である。すなわちどのような戦略 をとれば預金や貸出が伸び、業務純益が伸びるのかがわかるはずである。このような回帰分析は次 節で行う。 因子分析で用いたデータは表3でまとめられている。データ面で前節の分析と異なる点としては、 テレビ広告に関するアンケート結果を外したこと(表3の注3)を参照のこと)、問13の各項目に ついては「みれる・みれない」という0と1のデータであり、個別に因子分析に使うことはできな いので、「みることのできる顧客情報の数」という0-14の値をとる量的尺度に変更して分析に用い たことである。分析ツールとしては SPSS 11.0J を用いた。因子抽出法は主因子法、回転はプロ マックス斜交回転(κ=4)とした。 なお、斜交回転を用いず直交回転を利用すれば、計算される各因子に対応する因子得点ベクトル が互いに直交するので、それを用いて行う回帰分析において多重共線性が全く存在しなくなるとい うメリットはある。しかしながら、後の回帰分析を楽にするという理由で因子に対して直交制約を かけ、導かれた因子を眺めて意味づけするというのは本末転倒であろう。そもそも因子間で相関が ありうると考えるのが自然だと思われる。このような理由から本稿は斜交回転を適用することにし た。
表3 因子分析に用いたデータの記述統計量 平均 標準偏差 N 渉外が担当する顧客の総数1) 3.79 1.117 渉外が一日で訪問する顧客数2) 3.62 0.684 新聞、雑誌、ラジオ広告3) 2.78 1.185 ダイレクトメール活用 2.81 0.998 預金通帳や定期積金通帳のデザインの工夫 3.29 0.872 定期預金新規時の景品 3.49 0.811 融資推進に低利を武器 2.94 0.816 融資渉外のキメ細かいサービス 4.00 0.838 営業時間の拡充 2.19 1.270 ATM稼動時間延長 3.39 0.964 ATM増設 3.12 0.892 営業店新設 2.05 1.061 自治体・商店街などの活動に積極的に参加 3.85 0.777 顧客情報のデータベース化 3.93 0.827 ポイントサービスの導入などで顧客を囲い込む 2.62 1.334 与信スピードを速くすること 3.73 0.750 インターネット・iモードバンキングの拡充・充実 3.15 1.135 リスクに応じた貸出金利の設定 3.68 0.847 ゴルフ会、旅行会などの主催による顧客組織化 3.74 0.772 問13の数4) 4.44 2.195 149 1)アンケートの選択肢は、1、2、3、4、5、6であり、それぞれ渉外担当者一人につき 担当顧客がおよそ「100人未満」、「100-200人」、「300-400人」、「500-600人」、 「700-1000人」、「1000人以上」に対応する。 2)アンケートの選択肢は、1、2、3、4、5であり、それぞれ渉外担当者一人が一日に 訪問する顧客数として「10人未満」、「10-20人」、「20-30人」、「30-40人」、「40-50 人」に対応する。 3)アンケートの選択肢は、1、2、3、4、5であり、それぞれ「行っていない・全く重 視していない」、「あまり重視していない」、「やや重視している」、「重視している」、 「非常に重視している」に対応している。以下「ゴルフ会・・・」まで同じ。なお、 前節では分析対象であった「テレビ広告」については、アンケート結果の偏りが激 しく、因子分析に悪影響があったので、分析から外した。 4) 問13は「一般職員の情報端末(パソコンを含む)から次の1-14の顧客情報を見 ることができるか」という問いで、「預金残高」、「融資残高」、「住所・生年月日」、 「家族構成」、「収入」、「車の車種や車検の期限」、「入出金歴」、「提携クレジット カード購買履歴」、「渉外担当者やコールセンターの交渉記録」、「保有不動産評価情 報」、「保有有価証券情報」、「他金融機関保有の預金残高」、「他金融機関からの借入 残高」、「その他( )」の14の顧客情報について、当てはまるもの全てにマルをつ けさせるものである。よって1-14の値をとり、数が多いほど電子化・データベース 化がすすんでいることを示している。 表4-1からわかるように、因子分析における因子数の決定に関して一般的な固有値基準(固有 値>1までの因子の個数を因子とする)では、8個の因子があり、それらによって分散全体の 63.4%を説明できることがわかる。
表4-1 説明された分散の合計 初期の固有値 回転後の負 荷量平方和 因子 合計 分散 累積 % 合計 1 3.782 18.908 18.908 2.079 2 1.631 8.155 27.063 1.878 3 1.578 7.888 34.951 2.077 4 1.33 6.651 41.602 1.528 5 1.161 5.805 47.407 1.589 6 1.101 5.504 52.911 0.956 7 1.072 5.362 58.273 1.351 8 1.017 5.084 63.356 1.193 9 0.921 4.605 67.961 10 0.855 4.276 72.237 11 0.836 4.182 76.419 12 0.748 3.738 80.157 13 0.728 3.638 83.795 14 0.603 3.014 86.809 15 0.554 2.770 89.580 16 0.479 2.396 91.976 17 0.450 2.250 94.226 18 0.416 2.078 96.304 19 0.375 1.876 98.180 20 0.364 1.820 100.00 注 因子抽出法は主因子法、回転法は Kaiser の正規化を伴うプ ロマックス法(斜交回転)である。 では、表4-2の太字・斜体の部分をみながら、因子の意味を考えてみよう。総じていえば、今 回の因子分析は、因子、すなわち信用金庫の戦略を、以下のように、きれいに意味づけできたとい う点で、因子の抽出がかなりうまくいったといえる。 第1因子は「融資の合理化・スピード化戦略」である。この因子に関する因子得点が大きい信用 金庫は、融資面の機械化等に積極的であり、またそれとともに、与信スピードを速くする。また、 リスクに応じた貸出金利を設定するといった合理的な融資行動が可能となる。 第2因子は「地域密着戦略」である。この因子の因子得点が高い信用金庫は、町中の活動に積極 的に出て行き、また、自らもイベントを主催して顧客とコミュニケーションする。 第3因子は「ATM強化戦略」である。ATMを強化しようとしている信用金庫は、ATM稼働 時間延長とATM増設の両方に同時に取り組んでいることがわかる。 第4因子は、「営業時間拡充戦略」である。これは「共通」因子ではなく、他の手段との相関が なく、他の手段と独立して採否が決まる。このことは、「営業時間拡充戦略」に関する因子負荷量
表 4-2 パターン行列
因 子
No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 渉外が担当する顧客の総数 -0.012 0.043 -0.112 0.069 -0.018 0.655 -0.003 0.423 渉外が一日で訪問する顧客数 0.015 0.041 -0.018 0.049 -0.021 0.557 -0.058 -0.050 新聞、雑誌、ラジオ広告 0.002 0.043 0.148 0.072 0.405 -0.010 -0.071 0.253 ダイレクトメール活用 0.234 0.145 -0.081 0.067 0.119 -0.050 0.044 0.046 預金通帳や定期積金通帳のデザインの工夫 0.245 0.045 0.195 -0.162 0.027 0.066 0.086 0.368 定期預金新規時の景品 -0.029 0.424 -0.010 -0.057 -0.040 -0.171 -0.033 0.423 融資推進に低利を武器 -0.084 0.388 -0.153 0.194 0.256 -0.099 -0.109 -0.017 融資渉外のキメ細かいサービス 0.093 0.379 0.017 0.132 -0.154 -0.112 0.290 0.019 営業時間の拡充 0.095 -0.059 0.112 0.973 -0.050 0.076 0.022 0.042 ATM稼動時間延長 0.011 0.008 0.606 0.069 0.207 -0.092 -0.148 0.039 ATM増設 -0.119 0.006 0.721 0.093 -0.096 -0.078 0.050 0.154 営業店新設 -0.083 -0.037 0.090 0.081 0.065 0.096 0.053 0.336 自治体・商店街などの活動に積極的に参加 0.041 0.574 0.258 -0.148 0.047 0.234 0.038 -0.195 顧客情報のデータベース化 -0.040 -0.010 -0.049 0.010 0.145 -0.045 0.878 0.065 ポイントサービスの導入などで顧客を囲い込む 0.340 -0.031 -0.020 0.105 0.161 0.142 -0.049 0.024 与信スピードを速くすること 0.899 0.030 -0.073 -0.060 0.000 -0.091 -0.088 -0.006 インターネット・iモードバンキングの拡充・充実 0.082 -0.190 0.018 -0.090 0.787 0.007 0.182 0.012 リスクに応じた貸出金利の設定 0.486 0.048 -0.036 0.195 -0.020 0.019 0.065 -0.142 ゴルフ会、旅行会などの主催による顧客組織化 0.051 0.533 0.001 -0.043 -0.133 0.098 -0.034 0.053 問13の数 0.126 -0.143 0.143 0.021 -0.155 -0.217 -0.017 -0.031 因子の戦略面からの解釈 融資の 合理 化・ス ピード 化戦略 地域密 着戦略 ATM 強化戦 略 営業時 間拡充 戦略 メディ ア活用 戦略 渉外活 動強化 戦略 データ ベース 化戦略 新規顧 客開拓 重視戦 略 が0.973であるのに対し、二番目に大きい因子負荷量が0.195というように小さいことからわかる。 ただし、後述するが、因子同士の相関についてみてみると、第2因子と正の相関がみられる。 第5因子は「メディア活用戦略」である。インターネットやiモードといったニューメディア対 応を推し進める信用金庫は新聞、雑誌、ラジオ広告などの従来メディアを利用する場合も多いこと がわかる。この戦略は、地域密着・取引深耕ではなく、マスマーケティング的である。 第6因子は「渉外活動強化戦略」である。この因子は、信用金庫の渉外担当者についてみると、 担当顧客数が多い信用金庫においては、一日に訪問する顧客数も比例的に多くなること意味してい る。当然、顧客一人あたりにかける時間はこの反対となり、訪問顧客数が少ないほど時間が多くな る。顧客への訪問頻度(すなわち月に一回とか毎日とか)は不変である。渉外担当者の労働量はお そらく多いと予想される。なぜなら、一般に、顧客一人にかける時間を反比例的に削減するわけに はいかないから、残業が多くなるかもしれないからである。ただし、意味づけ上の問題点としては、 この因子が単に都市部と地方の信用金庫の違いを示している可能性を排除できないことである。す
なわち、都市部であれば顧客と顧客の間が接近しているので、訪問数を増やしやすいが、地方であ れば、顧客の間が離れているので移動時間がかかる。そのため、訪問先での時間が同じであっても、 本分析からは訪問時間が異なるように見えてしまう。 第7因子は「データベース化戦略」である。これも独立した因子である。表3からわかることで あるが、データベース化の平均値は3.93であることから、多くの信用金庫がデータベース化を重視 していることがわかる。興味深いことに、データベース化の実績である「問13の数」においては因 子負荷量がほぼゼロ(-0.017)であり、かつ問13の平均値は4.44(表3)というように低い。すなわ ち、問13では、「預金残高」、「融資残高」、「住所・生年月日」「入出金歴」というような最低限の情 報だけをみることができれば「4」になるので、4.44であるということは、たいていの信用金庫の 一般職員が見ることのできる情報がこの程度であることを示している。以上をまとめると、信用金 庫は総じてデータベース化を重視し、取り組んではいるが、それが実現されているかどうかという こととは全く別問題であることがわかる。 第8因子は「新規顧客開拓重視戦略」である。この因子得点が高い信用金庫の特徴は、渉外活動 についてみると「渉外が一日で訪問する顧客数」が特に多いわけではないが、「渉外が担当する顧 客の総数」は多い。これは、渉外担当者は一人で多くの顧客を抱えているが、訪問頻度はその分低 いことを示している。つまり、重要な顧客を高頻度に訪問するのではなく、より多数の顧客を低頻 度に訪問する。顧客を多数訪問するということは、より重要ではない顧客や新規の顧客まで含めて 訪問することを意味する。さらに、この因子得点が高い信用金庫は、「定期預金新規の景品」、「預 金通帳や定期積金通帳のデザイン」、「営業店新設」を同時に重視していることがわかる。つまり、 広く浅く顧客を訪問し、営業店を新設して新規顧客開拓を重視し、新規定期預金作成客に景品を与 え、通帳のデザインで人目を引く、という戦略である。これは、「既存顧客深耕」や「リレーショ ンシップマーケティング」とは趣を異にする戦略である。 次に、因子間の相関をみてみよう。これは表4-3で示されている。これによれば、因子間の正 の相関はそれほど大きくないが、興味深い関係がいくつかみられる。これらの関係は、戦略間の類 似性というより上層の戦略を示している。つまり、戦略が階層構造になっているのである。 第1因子「融資の合理化・スピード化戦略」、第3因子「ATM強化戦略」、第7因子「データ ベース化戦略」の3つの因子は、互いに正の相関がある。これは「機械化・コンピュータ化戦略」 というより上層の戦略で説明できる。 第2因子「地域密着戦略」、第3因子「ATM強化戦略」、第5因子「メディア活用戦略」の3つ は互いに正の相関がある。これらは、「一般個人客へのアピール戦略」という点で共通点がある。 第2因子「地域密着戦略」は第4因子「営業時間拡充戦略」とも正の相関がある。これは、より
表4-3 因子相関行列 因子 1 2 3 4 5 6 7 8 1 1 0.284 0.433 0.079 0.170 0.042 0.478 0.291 2 0.284 1 0.393 0.314 0.328 -0.255 0.068 0.183 3 0.433 0.393 1 0.202 0.354 0.031 0.356 0.187 4 0.079 0.314 0.202 1 0.320 -0.091 -0.012 0.207 5 0.170 0.328 0.354 0.320 1 -0.068 0.046 0.161 6 0.042 -0.255 0.031 -0.091 -0.068 1 0.058 -0.074 7 0.478 0.068 0.356 -0.012 0.046 0.058 1 0.009 8 0.291 0.183 0.187 0.207 0.161 -0.074 0.009 1 注)太字・斜体は、相関係数が0.3以上(または-0.3以下)のところである。 上層の戦略「ふれあい戦略」ということであろう。 以上みてきたように、8つの戦略が抽出され、さらにより上層の戦略を意味する戦略間の相関に ついてもいくつか合理的な説明を行うことができた。信用金庫のマーケティング手段を、このよう に8つの戦略により類型化したことは意義のあることであると思われる。 5 各戦略がパフォーマンス変数に与える影響 では、戦略とパフォーマンス変数との関係について調べてみよう。一般に、金融機関の経営者は、 どの戦略を採用すればどのような結果が生じるかということについては、統計分析などは行わずと も、ある程度はわかっているだろうが、それはあくまでも経験的、すなわち勘の部類である。もち ろん、豊かな経験に基づいた勘による経営判断は重要であることには間違いないが、統計分析は客 観性という点で大変優れており、本来は両者からの情報を総合的に判断して結論すべきであろう。 しかしながら、今までは、個別金融機関が行ったいくつかのマーケティング手段に対する効果の測 定などの分析はあったものの、多数の均質的な金融機関について具体的な営業手段やマーケティン グに関して横断的に行った統計的分析は存在しなかったし、もちろん、それらの背後にある経営戦 略についての分析もなかった。 回帰分析は、パフォーマンス変数を被説明変数とし、前節で導いた8つの因子に関する因子得点 とコントロール変数を独立変数としたモデルに対して行う。データは、パフォーマンス変数につい ては、預金、貸出、個人貸出、業務純益における5年間の伸び率、コントロール変数としては5年 間の人口変化率と営業地域の全金融機関店舗の増減を用い、これらの間に線形関係を仮定し、 SPSS Ver.11.0J のOLSを用いた。なお、営業地域の全金融機関店舗の増減は、アンケートに基づ くものであり、採る値は1-5の整数値で、1.「10%以上の増加」、2.「10%未満の増加」、3.
「ほとんど変わらない」、4.「10%未満の減少」、そして、5.「10%以上の減少」、である。注意 すべきことは、数字が大きくなるにつれて、店舗数が減少することである。 結果は、表5にまとめられている。まず、預金伸び率についてみてみよう(表5-1)。第8因 子、すなわち「新規顧客開拓重視戦略」の推進は、預金伸び率に対し5%水準で有意に正である。 これは、興味深い結果である。「金融マーケティング」における常識を考えてみよう。金融サー ビスは将来における資金の流れに関する約束であり、そのような約束は現時点では確認できないか ら、人々は、ひとたび金融機関と取引が発生して信頼感が生まれれば同じ金融機関を使い続けるの で、金融機関からみると新規顧客の開拓はコストが高くなり、よって既存顧客を重視して取引深耕 を図るのが望ましい、ということである。しかし、今回の結果はこの常識とはいくらか異なる。つ まり、預金伸び率に関してみると、既存顧客重視よりも、新規顧客開拓重視のほうが望ましいこと がわかる。よって、金融機関は確かにサービス業であり、リレーションシップ構築が他産業、特に 消費財産業と比較して重要であるにしても、預金増加について重要な営業活動は新規先開拓である、 ということができる。注意すべき点として、今回の結論は、リレーションシップマーケティングを 否定しているのではない。信用金庫の場合、基本的に既存顧客へのリレーション構築は高いのであ るが、その高い水準よりもさらにリレーションシップを高めるべきか、または、新規を狙うべきか について、信用金庫間の戦略がわかれていることが因子分析の結果わかった。その点について回帰 分析で調べてみたら、リレーションシップをさらに高めるよりは、相対的により広く顧客を求める 戦略の信用金庫のほうが預金の伸びが高かったということである。 表5-1 非説明変数=預金伸び率 R R2 adjR2 0.664 0.440 0.400 係数推定値 標準誤差 t値 p値 定数項 15.887 3.133 5.072 0.0% 第1因子 -0.165 1.322 -0.125 90.1% 第2因子 0.098 1.360 0.072 94.3% 第3因子 -0.481 1.420 -0.339 73.5% 第4因子 0.027 0.947 0.029 97.7% 第5因子 -0.476 1.181 -0.404 68.7% 第6因子 -1.529 1.120 -1.366 17.4% 第7因子 1.328 1.222 1.087 27.9% 第8因子 3.177 1.267 2.507 1.3% 人口変化 -1.317 1.019 -1.293 19.8% 金融機関店数 0.709 0.077 9.244 0.0%
また、最近では、金融機関の経費節減、合併、破綻などによる店舗閉鎖が多いが、このような店 舗閉鎖による地域店舗数減少は、コントロール変数である金融機関店舗数の係数推定値からわかる ように、その地域の他の金融機関の預金を増加させる。これは、移管や買取りが発生するので、当 たり前の結果である。 次に、貸出伸び率についてみてみよう。これも預金伸び率と同じ結果である。すなわち「新規顧 客開拓重視戦略」は貸出伸び率に対して有意水準5%で正の効果を持つ。もちろん、営業地域の金 融機関店舗の減少も、他金融機関の貸出を増加させるであろうから、金融機関店舗数に対する係数 も有意に正である。 個人貸出伸び率については、各戦略のなかで、有意水準5%で正または負の効果をもたらすもの はないが、第5因子、すなわち「メディア活用戦略」のp値が5.7%であることからわかるように、 個人貸出伸び率に対して正に影響している可能性がある。論理的に考えても、ITやマスコミの利 用は、リレーションシップがあまりない個人顧客をひきつけることができるだろうから、プラスの 効果が生じることは十分に考えられる。この結果は第3節での分析結果(表2-2と表2-16)と 整合的である。なお、金融機関店舗数の減少の効果は当然個人貸出についてもプラスである。 表5-2 非説明変数=貸出伸び率 R R2 adjR2 0.580 0.336 0.288 係数推定値 標準誤差 t値 p値 定数項 -3.634 3.557 -1.022 30.9% 第1因子 -1.824 1.502 -1.214 22.7% 第2因子 -1.150 1.544 -0.745 45.8% 第3因子 2.294 1.612 1.423 15.7% 第4因子 -1.322 1.075 -1.230 22.1% 第5因子 0.480 1.341 0.358 72.1% 第6因子 -1.203 1.271 -0.946 34.6% 第7因子 0.970 1.387 0.699 48.6% 第8因子 2.918 1.439 2.028 4.4% 人口変化 0.969 1.157 0.838 40.3% 金融機関店数 0.657 0.087 7.549 0.0%
表5-3 非説明変数=個人貸出伸び率 R R2 adjR2 0.448 0.200 0.143 係数推定値 標準誤差 t値 p値 定数項 2.416 5.943 0.406 68.5% 第1因子 -2.593 2.509 -1.033 30.3% 第2因子 0.207 2.580 0.080 93.6% 第3因子 0.238 2.694 0.088 93.0% 第4因子 0.811 1.796 0.452 65.2% 第5因子 4.293 2.240 1.917 5.7% 第6因子 -0.878 2.124 -0.413 68.0% 第7因子 1.440 2.318 0.621 53.6% 第8因子 -0.080 2.404 -0.033 97.4% 人口変化 1.420 1.933 0.735 46.4% 金融機関店数 0.758 0.145 5.206 0.0% 最後に、業務純益についてみると(表5-4)、まずいえることは、フィットが非常に悪いとい うことである。しかしながら、金融機関の業務純益や経常利益に対して回帰分析を行うと、基本的 にフィットは悪いどころか、ほとんどランダムであり、まず説明ができない。これは、業務純益や 経常利益は収入と費用との差額であって、非常に変動しやすいからである2。そもそもこれらの利 益変数をモデルでほとんど説明できるのであれば、モデルのパラメータ通りの経営を行うことに よって利益がほぼ正確に予想通り確保できることになり、予想外の不良債権なども出ないであろう。 モデルで説明できた変動は5.1%であり、自由度調整済決定係数に至ってはマイナスである。決 定係数が異様に低いときは、重要な説明変数が見落とされているのであるが、この重要な説明変数 は、各信用金庫に発生した「事故」とか「事件」の類であろうから、観察不可能である。自由度調 整済決定係数が高くなるステップワイズ法での結果を示すと(表5-5)、説明変数は第1因子の みが残り、決定係数は3.1%である。以下はこちらをベースに議論する。 フィットが悪くても、この結果は注目できる。業務純益はほとんど独立して変動するような変数 であるが、第1因子、すなわち「融資の合理化・スピード化戦略」は、業務純益の伸びにプラスに 影響することが検出された。この理由は、ブラックボックス的ではあるが、おそらく、リスクに応 じた貸出金利の設定が信用金庫の収益を高めたり、またリスクの負担(すなわちより高い融資金 利)を要求された企業が借り入れを辞退したりすることにより、損失を防いでいるものと考えられ
表5-4 非説明変数=業務純益伸び率 R R2 adjR2 0.225 0.051 -0.018 係数推定値 標準誤差 t値 p値 定数項 -21.870 15.270 -1.432 15.4% 第1因子 13.496 6.446 2.094 3.8% 第2因子 -0.034 6.629 -0.005 99.6% 第3因子 -3.680 6.922 -0.532 59.6% 第4因子 3.982 4.615 0.863 39.0% 第5因子 -0.934 5.755 -0.162 87.1% 第6因子 1.877 5.457 0.344 73.1% 第7因子 -4.657 5.956 -0.782 43.6% 第8因子 0.790 6.177 0.128 89.8% 人口変化 1.959 4.966 0.395 69.4% 金融機関店数 -0.228 0.374 -0.611 54.2% 表5-5 非説明変数=業務純益伸び率(ステップワイズ法) R R2 adjR2 0.177 0.031 0.025 係数推定値 標準誤差 t値 p値 定数項 -16.974 3.897 -4.355 0.0% 第1因子 9.612 4.396 2.186 3.0% 注 ステップワイズ法の結果、第1因子だけが残り、他の因子とコントロール変数 は全て除外された。 る。さらに、与信スピードを速くすることは、別な経路から業務純益にプラスに働くだろう。すな わち、与信スピードの高速化は、当然に統計的手法、スコアリング的手法の全面的採用を意味する から、融資判断やリスクに応じた貸出金利設定を厳格化する効果があるからである。これに対し、 従来型の人手による稟議書作成と本部の決裁では、審査に主観やバイアスが紛れ込む余地がないと はいえない。また、金融機関内外の人間関係によって審査が影響されることがあるかもしれない3。 このような点から、信用金庫のような小さい地域金融機関においては、かえって機械審査の重要性 がより高くなるという面があり、それが業務純益への正の効果を示したものと思われる4。 3.1%という決定係数は低すぎて分析の意味がないのではないかと考えがちであるが、それは反 対である。第1因子により、金融機関間でランダムな値をとるようにみえていた業務純益の変動の 3.1%も説明できたと考えるべきである。
今回の結果から、金融機関の経営戦略には未だ絶対確実な王道はないが、つまり業務純益に対し ては高い決定係数のモデルがまだ発見されていないが、少なくとも平均3.1%は人間がコントロー ルできるということが明らかになったのである。 6 結論 本稿は、アンケート調査に基づき、各マーケティング手段やその背後にある各戦略と、預金、貸 出、個人貸出、業務純益などのパフォーマンス変数との関係について分析した。このような多数の 金融機関に対しアンケートを行って、各マーケティング手段およびその背後にある戦略の効果につ いて定量的な分析を行ったのはわが国では初めてであろう。信用金庫のデータのみに基づいてはい るが、今回の分析結果は金融機関全体に適用できるような示唆もすくなくないと思われる。 主な結果は次の4点に集約できる。 (1) 信用金庫が採用することができる多数のマーケティング手段の背後には8種類の戦略が存在 することが発見された。 (2) 新規顧客開拓重視戦略は、既存顧客重視戦略に比べて、預金や貸出をより大きく伸ばす効果 がある。 (3) インターネットバンキング、iモードバンキングなどの新メディアの活用や新聞・雑誌・ラ ジオなどの従来メディアを使った広告は、個人貸出を高める効果を持つ。 (4) 融資関連の審査等手続きを機械化・効率化することや、リスクに応じた金利設定を行うとい う融資の合理化・スピード化戦略は、業務純益を増加させるための重要な戦略である。 さらに、(2)-(4)の結果をより総合的にみると、これまでに信用金庫が成長してきた環境が変化 してきていることを示しているようにも思える。すなわち、一般に、信用金庫は、既存顧客深耕戦 略、地域密着戦略を採用し、融資審査をビジネスライクに行わないということを当然のものと考え ており、高度成長期以前からこれらの戦略に基づいて大きな成長を遂げてきた。しかしながら、今 回調査した5年間においては、信用金庫平均を超えたこれらの戦略の重視は、預金、貸金、業務純 益に対して何らかの効果がある証拠は見つからなかった。ここで、信用金庫を取り巻く環境の変化 について考えてみると、不況による貸し倒れの増加、中小企業の減少、商店街の不振、地縁・血縁 の希薄化、都銀・地銀の中小企業金融重視、などが指摘できる。よって、今後とも信用金庫が成長 を続けていくためには、このような環境の変化に対応して従来の重点戦略や行動の修正が必要にな るが、それが上記の(2)-(4)なのである。すなわち、従来型戦略の重視レベルを平均程度に保った まま、(2)-(4)の戦略を推進するということである。 今回のマーケティング手段に関する分析は、期待以上に明確な結果をいくつも導くことができた
が、信用金庫のマーケティング活動の分析としての最初の一歩に過ぎない。残された課題は数多い。 まず、今回手をつけなかったアンケート調査の回答を分析しなければならない。その上で、ヒアリ ング等を通じて、信用金庫のマーケティングに関する事例を収集することにより実際面の情報を収 集し、今回導いた戦略の解釈やそれに関わる実証研究にフィードバックし、より深い洞察を得る必 要がある。 なお、このような分析を地方銀行や信用組合にも適用し、地方銀行や信用組合のパフォーマンス を高めるような戦略を識別して、地方銀行や信用組合のパフォーマンス向上に貢献できるかもしれ ない。また、副産物として、金融機関のマーケティング戦略をより深く理解することができ、かつ 同じ地域金融機関である地方銀行、信用金庫、信用組合のマーケティング戦略やその業態の本質の 共通性や異なる点などを、より深く理解できるだろう。しかしながら、地方銀行は、全国地方銀行 協会加盟地方銀行64行、第二地方銀行協会加盟銀行56行の計110行しかなく、ほとんど全ての銀行 から回答を得ることができないと分析が不可能であるという問題がある。信用組合についても、約 250の信用組合の半数以上からのアンケートの回収が分析に必要となる。これについては、各協会 の支援を頂きながら、今後、ぜひ進めていきたいと考えている。 注 * 本稿のアンケート調査に際しては、信用金庫の皆様に大変面倒な作業を行っていただいた。また、社団法 人全国信用金庫協会企画部に大変お世話になった。これらの皆様に記して感謝したい。本稿の結果が皆様 の手間にいくらかでも報いることができればと思う。資金面については、社団法人日本経営協会「平成 11 年度経営科学研究奨励金」および東洋大学経営研究所プロジェクト研究費の交付を受けた。なお、前回の アンケートおよび今回のアンケートの実施および前回のアンケートの分析においては、筆者たちのほか、 故今村有里子東洋大学経営学部助教授も重要なメンバーであった。氏の貢献に感謝するとともに心よりご 冥福をお祈りしたい。 1 第5節の回帰分析を試す中で、当初はコントロール変数として預金残高の対数を入れてみたが、全く説明 力がなかったので、最終的にモデルからははずしている。 2 協同組織金融機関に課せられている営業地域制限が利益や成長に悪影響するか否か、という筆者が行った 分析(宮村(1998))においては、成長(規模変数に基づく)を使った場合には悪影響が検出されたが、経 常利益はかなりランダムな値であり、明確な関係は見出せなかった。 3 信用金庫は地域密着、ふれあいなどのキーワードのもとに、企業に足繁く通って企業の様子から経営者の 人柄まで精通するという特技があるが、それが悪い方面にいくと、渉外担当者が融資の頼みを断りきれな いなどの馴れ合いなどが生じるかもしれない。また、地域金融機関であることから、その地域から撤退で きないという宿命があるため、拒否すべき企業をビジネスライクに拒否して「冷たい」というような評判 が立つことを恐れるだろう。そのため、担当者が書く融資稟議書が甘めの判断になりやすいかもしれない。 また、信用金庫は規模の小さいものも多く、そのような信用金庫では、支店での稟議作成者と本部の審査 担当者や関連の信用保証会社の間に密接な人間関係が構築されている場合も多く、特に上下関係がある場
合には稟議を否決することは都市銀行や地方銀行に比較して難しいかもしれない。 4 コンピュータが生む出力が人間が生む出力よりも中立的であるという考え方を積極的に利用することは決 して突飛なアイディアではない。このようなアイディアはすでにアメリカの年金制度に組み込まれている。 具体的には、2001 年に 401(k)参加者に対する事務取扱会社提供のコンピュータによるアドバイスが解禁 になったことである。以前は、401(k)事務取扱会社が参加者にアドバイスを行うことは、利益相反が生じ ることを理由に(たとえば、事務取扱会社がアドバイスをすると、自分自身が手数料を稼ぎやすいような ミューチャルファンド売買を推奨する可能性があるなどを理由に)禁止されていた。しかし、破綻したエ ンロンの従業員の多くが、自社株に偏った 401(k)運用を行っていたために退職年金を失ったことが社会 問題となり、401(k)運用アドバイスの重要性が再認識された。そこで、アメリカ労働省は、厳格な中立性 が保たれたコンピュータプログラムによるアドバイスに限って事務取扱会社がアドバイスを提供すること を認めたのである。 参考文献 住谷他(2002)「地域金融機関のマーケティングに関する一考察」住谷宏、宮村健一郎、今村有里子『経営研究 所論集』2002 年3月 宮村(1998)「協同組織金融機関に対する税制上優遇措置の経済的根拠に関する実証分析---中小企業専門性と地 域性」宮村健一郎『経営研究所論集』東洋大学経営研究所 1998 年3月 (2002年10月30日受理)