31 要 旨:症例は81歳男性.2 年前にbifurcated型ステントグラフト(SG)内挿術を施行した が,瘤径拡大のためY型人工血管置換術へ移行した.中枢側のbaredステントはフック付きで 圧着力が強く腎動脈上に内挿されていたため,全摘には高位腹部大動脈からの置換を要す るが,これを回避するよう術式を工夫した.手術は透視下に閉塞用バルーンで減圧しつつ 第 2-3 ステント間で大動脈を遮断した.瘤内の血栓を除去すると,腰動脈からの出血が認 められた.第 3-4 ステント間でSGを切断し,大動脈壁とSGを併せて人工血管に吻合した. 末梢側のSGは摘除した.腹部大動脈瘤SG術後の瘤径拡大および破裂の合併症に対しては, SGの構造特性に応じた人工血管置換術式の工夫が必要であると考える.(日血外会誌 14: 31–34,2005) はじめに 腹部大動脈瘤に対するbifurcated型ステントグラフト (SG)内挿術後,瘤径拡大のために人工血管置換術へ移 行した一例を経験し,問題点と対策について考察した. 症 例 症 例:81歳,男性. 主 訴:自覚症状なし. 現病歴:77歳時に腹部大動脈瘤(径42mm)を指摘(Fig. 1).多発性筋炎にて加療中であり,術後早期離床が求 められたため,S G 内挿術を希望して当院へ紹介と なった.形態学的にbifurcated型SG(ZenithTM AAA
endovascular graft,Cook社,ブルミントン,USA)の適応
があり,2001年 1 月(78歳時)にSG内挿術を施行した(瘤 径52mm).使用したSGのサイズは,中枢側径22mm,右 脚径12mm,左脚径16mmであった.術後はコンピュー
■ 症 例
日血外会誌 14:31–34,2005
ステントグラフト内挿術後の人工血管置換術に
工夫を要した腹部大動脈瘤の一例
渡部 芳子 石丸 新 川口 聡 島崎 太郎 佐々木 司 佐伯 直純 索引用語:ステントグラフト,腹部大動脈瘤,術後瘤径拡大,Late conversionタ断層撮影(CT)およびintra-arterial digital subtraction an-giography(IA-DSA)にてendoleakを認めなかったにもか かわらず,1 年目より瘤径は拡大傾向を呈し68mmに達 した.原因精査および治療目的で2003年 4 月再入院と なった. 既往歴:30歳時汎発性腹膜炎にて手術(詳細不明). 76歳より多発性筋炎にてプレドニゾロン10mg / 日を内 服中. 身体所見:血圧140 / 70mmHg.脈拍80 / 分,整.上 腹部から臍まで正中切開創跡があり,臍の右上方に拍 動性腫瘤を触知した.上腕および大腿の筋は萎縮し, 起立および歩行開始が困難であった. 血液検査所見:末梢血は異常を認めず.GOT 16U / L,CPK 151U / L,CRP 0.3mg / dLと正常値で,LDHは 487U / Lと正常上限.D-dimer 9.02とやや高値であった が,その他の凝固線溶系は正常値であった. 造影CT:腎動脈下腹部大動脈に径68mmの瘤を認め た.SGは腎動脈上から両側総腸骨動脈まで留置されて おり,SG外に明らかな造影効果は認められなかった. IA-DSA:数本の腰動脈が瘤へと交通していたが,瘤 内へのendoleak像は明らかでなかった(Fig. 2). 以上より,type II endoleakが疑われたが,カテーテル 東京医科大学外科学第 2 講座(Tel: 03-3342-6111) 〒160-0023 東京都新宿区西新宿 6-7-1 受付:2003年12月18日 受理:2004年10月30日
日血外会誌 14巻 1 号 32 による塞栓術の標的血管は同定不可能で,かつ多数で ある可能性も高かった.瘤の拡大傾向が著しいため, 人工血管置換術への移行を検討した. Zenith AAAは腎動脈上にフック付きbared ステントを 有しているため,これを摘除することによる動脈損傷 や遠隔期の仮性動脈瘤形成が危惧され,腎動脈上大動 脈置換が必要と考えられた.しかし,症例には汎発性 腹膜炎の既往もあることから,腎動脈上アプローチは できるだけ回避すべきと考えた.同SGは,各ステント 間に間隙を有しており,第 2-3 ステント間で遮断鉗子 をかければ,第 3 ステント以下は筒形状が保たれ人工 血管との吻合が可能になると予測した.鉗子によるSG を介在した大動脈遮断は不完全となるおそれがあり, また遮断や解除によるSGの動揺でフックが大動脈壁を 損傷する危険も考えられた.そこで,第 1 ステントを大 動脈閉塞用バルーンで固定しつつ減圧し,第 2-3 ステン ト間で大動脈を遮断する計画を立てた.本症例は第 3-4 ステント間レベルで非瘤化大動脈が保たれていた. 手 術:左後腹膜経路で大動脈瘤に到達し,腎動脈 直下の大動脈と両側内外腸骨動脈をテーピングした. 下腸間膜動脈は閉塞していた.次に右鎖骨下動脈を露 出し,10Frシースを挿入.径27mm閉塞用バルーンを第 1 ステント内に進めた.全身ヘパリン化後,末梢側を各 テーピング部位で遮断.透視下に第 1 ステント内で閉 塞用バルーンを拡張させ,第 2-3 ステント間を遮断鉗 子で遮断した.瘤内圧を測定したところ,60mmHgの定 常圧であった(体血圧160 / 80mmHg).瘤を切開すると 内部には白色血栓が充満していた.この時点では腰動 脈からの出血を認めなかった.しかし,血栓を除去す ると腰動脈からの出血を 3 箇所認め,これらを縫縮止 血した.第 3-4 ステント間でSGを切断し,18 × 9mm Y 型Intergard®をフェルト補強下にSG断端と併せて大動脈 壁へ端々吻合した.SG断端は遮断鉗子の影響で楕円状 となり,吻合に時間を要した.バルーンおよび大動脈 遮断を解除した後,末梢側SGを摘除し,人工血管末梢 側を両側とも総腸骨動脈へ端々吻合した.手術時間324 分,腎虚血時間30分,出血量1372gであった(Fig. 3). 術後経過:手術室で人工呼吸器を離脱し,合併症も 生じなかったが,離床努力にもかかわらず,起立およ び独歩可能まで14日間を要した. 考 察 腹部大動脈瘤へのSG内挿術では人工血管置換術に比し て追加治療率が高く,この問題は解決されていない1,2). 中∼遠隔期に開腹再手術をする確率は 1∼2%患者年率 とされ3),本症例のごとく明らかなendoleakを認めない にもかかわらず瘤径拡大を呈した例も散見される4).
Type I および IIIの endoleakは瘤径拡大や破裂への関 32
Fig. 1 IA-DSA before endografting. Several lumbar arteries were patent.
Fig. 2 IA-DSA at 2 years after endografting. Several lumbar arteries flow was observed into aneurysm sac as retro-grade flow. It did not show any remarkable endoleak. (Arrow: bared stent)
2005年 2 月 33 渡部ほか:腹部瘤ステントグラフト術後人工血管置換術 与が強く追加治療を要するが,type II endoleakは瘤径拡 大を呈さない限り経過観察で良いとされる傾向にある5). 本症例では中枢,末梢側とも遮断後に瘤を切開したた めtype I endoleakの可能性は否定しきれなかった.反省 点として,遮断前の瘤内圧も測定すべきであったこと と,超音波検査でendoleak検出を試みるべきであったこ とが挙げられる.しかし,術前DSAにてtype II endoleak が最も疑わしく,かつ疑わしい責任血管が多標的で あったことから,本症例で人工血管置換術への移行を 選択したことは妥当であったと考える.血栓除去後に 腰動脈の開存が確認され,動脈瘤壁に血圧が作用して いた可能性は充分に考えられた. 瘤の予後は,SGの種類により異なることが報告され ている.術後に瘤径が縮小する頻度は,Bertgesらによ ると術後 2 年においてExcluderとAneuRexで約45%, AncureとTalentで約75%とされ6),Sternberghらによると 術後 1 年においてZenithで約73%,AneuRexで43%で あった7).当院での腹部大動脈瘤に対するbifurcated型 SG内挿術では,endoleak,migration,瘤径拡大,破裂 といった合併症が中期成績で約10%,遠隔期成績で約 15%に認められている.Zenith AAA 37例の遠隔期成績 は,瘤径が縮小しない 4 例全例でtype II endoleakが同 定ないしは強く疑われている. Zenith AAAは中枢端にフック付きbared ステントを装 備し,かつradial forceが改良された製品であり,Land-ing zoneの条件が適切であればmigrationおよびtype I
endoleakの発生は従来のデバイスより少ないとされてい
る1,2,9).それでもなお,Abraham らの116例の報告では 術後 1 カ月目でのendoleakは16例15%(type II が14例, type III が 1 例)に認められ,うち 5 例(1 例は type II endoleak
による破裂)に追加治療を施行したとされる10). Zenith AAAはbaredの第 1 ステントが腎動脈を超えて 留置されるため,再手術ではそのフックおよび強固な radial forceの影響で摘除の際に大動脈を損傷する危険が あり,腎動脈上遮断の必要がある.他の種類のSGに関 する報告でも,再手術は腎動脈上遮断を要し出血量が 多く,従来の人工血管置換術よりもかえって侵襲的で ある11).本症例では,汎発性腹膜炎の既往もあること から,侵襲の軽減を目指した手術戦略を考案した.閉 塞用バルーンにて固定しつつ減圧したうえで,透視下 に第 2-3 ステント間で確実に遮断鉗子をかけることが 有効であったと考えられた. SG内挿術の手技そのものは低侵襲であり,全身麻酔 に伴う危険度が高い症例や早期離床を切望される症例 にも対応できる.しかし現在のところ,遠隔成績の不 安定さを十分視野に入れた適応判断が必要である. EUROSTARの解析によると,64歳以下では人工血管置 換術のほうがより良好な平均余命を示し,手術リスク の低い若年症例には人工血管置換術のほうが適すだろ うとしている12).今後も再手術例の出現が予測される ことから,その対応策を練っておくべきであり,SGの 構造特性に応じた工夫が必要であると考える. 結 語 腹部大動脈瘤 SG内挿術に対する再手術の工夫につい て報告した.SG術後は瘤径拡大および破裂の合併症が 生じる場合があり,SGの構造特性に応じた人工血管置 換術式の工夫が必要である. 文 献
1) Alric, P., Hinchliffe, R. J., MacSweeney, S. T., et al.: The Zenith aortic stent-graft: A 5-year single-center experi-ence. J. Endovasc. Ther., 9: 719-728, 2002.
2) Conners, M. S. III, Sternbergh, W. C. III, Carter, G., et al.: Secondary procedures after endovascular aortic aneurysm 33
Fig. 3 Three-dimensioned CT after Y-grafting. Proximal seg-ments of SG remained. The 1st exposed stent landed on the orifice of superior mesenteric artery and renal arter-ies. (Arrow: Y-graft)
日血外会誌 14巻 1 号
34
Unique Approach to Late Open Surgery Conversion for Expansion
of Abdominal Aortic Aneurysm after Zenith Stent-Graft Repair
An 81-year-old man had undergone endovascular repair with a Zenith bifurcated stent-graft for abdominal aortic aneurysm 2 years previously. Open surgery for the abdominal aortic aneurysm was performed because the aneurysm had dilated remarkably. Whole stent-graft removal was considered invasive because the uncovered 1st stent, which was equipped with several hooks with a strong radial force, was interposed in a suprarenal position. Therefore, with aortic balloon occlusion inside the 1st stent to reduce blood pressure, the stent-graft was clamped between the 2nd and the 3rd stent and cut off between the 3rd and the 4th stent. After removal of the thrombus in the aneurysm, bleeding from 3 lumbar arteries was recognized. The proximal part of the cut stent-graft and aortic wall were anastomosed to the bifurcated prosthetic graft. The distal part of the stent-graft was then removed. Since complications of aneurysm dilatation and rupture can occur after endoluminal abdominal aortic aneurysm repair, it was considered necessary to establish a strategy meeting the demands of the type of stent-graft devices for secondary open repair.
(Jpn. J. Vasc. Surg., 14: 31-34, 2005)
Yoshiko Watanabe, Shin Ishimaru, Satoshi Kawaguchi,
Taro Shimazaki, Tsukasa Sasaki and Naozumi Saiki
Tokyo Medical University Surgery IIKey words: Stent-graft, Abdominal aortic aneurysm, Expansion after endografting, Late conversion 34
repair. J. Vasc. Surg., 36: 992-996, 2002.
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