金沢大学十全医学会雑誌 第69巻 第2号 171−175(1963)
171
黄色ブドウ球菌の院内,外における検出及びそのコ アグラーゼ検査,ファージ型別,薬剤感受性に関して
郎毅矩歪三口 佐賀田原
多面柳
村
富山県立中央病院(院長:多賀一郎)
賀一一郎 四谷喜兵衛
小 川 本 田
田 勇 谷 口
日 清 紡 績 診療 所 布 村 光 (昭和38年3月25日受付)
子光茂良繁
ブドウ球趣:は一般に化膿巣の病原として,またエテ ロトキシンによる食中毒の原因として,特殊な場合に は敗血症,髄膜炎の病原となりうることが認められて いる.またブドウ球菌による病院内感染症としてもし ばしば現われ,術後感染症,特に新生児の肺炎,皮膚 の表在性化膿症等でみられることが知られ,その流行 が特定のブドウ球菌によることを如実に指摘したのは 英国の1Williamsらによってなされたファージ型別に よることが少なくない1).
私達は昭和35〜36年,冬期,春期,夏期,秋期の4 期において当病院の内外から黄色ブドウ球菌を分離 し,そのコアグラーゼ検査を行い,院内,外における 空中よりの病原性ブドウ球菌の分布状態を観察し,フ ァージ型別により院内,外検出ブドウ球菌とまた外科 的病巣より分離したブドウ球菌の比較を行い,:更にブ
ドウ球菌は赤痢菌等と共に各種化学療法剤に強い耐性 を獲得し易いといわれている.そのため分離したブド ウ球菌が各種化学療法剤にいかなる感受性を有するか をも観察した.
検査材料及び検査方法2)
1)黄色ブドウ球菌の検出に関して
イ)普通寒天,ロ)血液寒天,ハ)スタヒロコッカ スNo.110培地,以上の平板培地を使用し各所で5分 間宛シャーレ:の蓋を取り後37。C 24時間培養した.更 に次の項目について検査し,条件に適つた株を黄色ブ
ドウ球菌として保存した.①グラム染色,②7.5%食 塩耐性,③マンニット分解能,④ゼラチン液化能,⑤ 血液寒天上の溶血能の有無,⑥色素産生能を検した.
2)コアグラーゼ検査に関して
上述の如く分離した黄色ブドウ球菌(以下ブドウ球 菌)につきファージ型別にはコアグラーゼ陽性が必要 であるという従来の報告にもとずきコアグラーゼ検査 を行った.検査は,家兎血漿のブイヨン5倍稀釈液 0.5m1に被検ブドウ球菌のブイヨン培養液0.5mlを 加え1時間,2時間,3時間,24時間観察し対照と比 べ少しでも凝固のあるものを陽性(十)とした,
3)ファージ型別に関して
コアグラーゼ陽性のブドウ球菌に関するファージ型 別は,福見氏の報告3)に従って行いファージは1RTD
(Routine test dosis>のところを使用した.
4)薬剤感受性に関して
濾紙ディスク法により行い,被検菌のブイヨン培養 液を寒天平板上に落しコンラージ棒で充分均等に拡 げ,無菌的にディスクを寒天平板上に置き37。Cの鰐 卵器で約16〜20時間培養後阻止帯円の直径或いはディ スク周辺より阻止帯までの距離を測り判定した.感性 判定には(柵)もっとも感受性,(什)かなり感受性,
(十)やや耐性,(一)非耐性,の符号で表わした.
検査 成績
1〕黄色ブドウ球菌の検出及びそ・のコアグラーゼ検 Studies on 8the Isolation of St, Aureus in the H:ospital and Outside and on its Coagulase Activities, Phage Typing and Drug Resistances. Ichiro Ta窪a,:Kihei Goriya・M且satake Matsuda, Yoshihiko Ogawa, Sakinori Yanagibara, Shigemitsu Honda, Isalnu Mnrata,
Shigeru Tan五εluchi and Hikaru Nunomura, Toyama Prefecture Central Hospital(Dean:
Dr.1. Taga)
査に関して
(A)病院内黄色ブドウ球菌について
外来患者診療室,控室,廊下,入院患者病室,看護 室等院内全般にわたってそあ他122個所よりブドウ球 菌の検出及びそのコアグラーゼ検査を行った成績は第
1表の通りである.
第1表
期 日
12月15日 冬期第1回 〜 12月17日 1月8日 冬期第2回 〜 1月10日 5月29日 春 期 〜 5月30日
黄色ブド ウ球菌 分離株数
41
10
28
ラ率
ゼ重傷
コ︻陽ラ数グ株アゼ性コ一陽
26
9
18
63.490.0
64.3
夏期9月2日i24i2・183・3
10月16日 秋 期 〜 10月18日
19
13
68.4計 122【86陣7・・5
(B)院外黄色ブドウ球菌の検出及びそのコアグラ ーゼ検査に関して
院外ブドウ球菌の検出に関しては,商店街,学校,
役所,農山漁村,工場など広範な地域(110個所)よ り検出を行ったご特に工場は市内の東西南北を占めか っ各分野の産業に着目して印刷,パルプ,化学,鉄 鋼,1紡績工場等について行った.その成績は検出株 171株,その内コアグラーゼ陽性のものは75株でコア グラーゼ陽性率は43.8%であった.その内訳は第2表 に示す通りである.
表の如く①冬期(降雪期)よりも春期,夏期,秋期 に多く特に春夏;期に多く分離された.②農山漁村に は春期にのみ多く分離されたことは特異的である.③
商店街のようにたえず人の出入のあるところでは4季 を通じて分離数に変化が少ない.④役所,学校,工場 においては冬期よりも春,夏,秋期の方が全体に多く 秀離された.⑤コアグラーゼ陽性率は院内が70.9%,
院外が43.8%で院内のコアグラーゼ陽性率が院外のそ れより遙かに高い値を示した.⑥なお外科病巣よりの 黄色ブドウ球菌の検出及びそのコアグラーゼ検査の成 績は,第1回分離34株中27株コアグラーゼ陽性.第2 回56平中41株がコアグラーゼ陽性.コアグアーゼ陽性 率は75.5%で前2者よりも遙かに高い.
2〕ファージ型別に関して
分離したブドウ球菌(院内,院外,及び外科的病巣)
のコアグラーゼ陽性株につきファージ型別を行った.
(A)院内検出コアグラーゼ陽性ブドウ球菌のファ ージ型別(第3表)
第3表
型 別 群
期日鱗P・■皿囲混
26X182013
回回 二期期鋤麹鯛春夏秋 0000︵U ﹃OPO9召∩041 009召00 ︵UO100 OAUAUOO
計
霞U戸OKUOO﹂些
1
不能
櫨140U78QU1 1 1
計186回2g12国・132【54
32/84=37.2%
(B) 院外検:出コアグラーゼ陽性ブドウ球菌のファ ージ型別(第4表)
院内コアグラーゼ陽性ブドウ球菌のファージ型別で は冬期第1回15十型別可能でありいずれも皿型 71 で 11株は型別で不能であった.冬期第2回は9株中5株 型別可能でありいずれも八型 71 で4株型別可能.
同様に春期18株につき皿型 71 2株,歯型 77 2 第 2 表
\\遡日
場所,実施個読\\
商店,百貨店
学校,役所
農山漁村
工 場 計
21 19 15
55 110冬 期 黄色ブド
ウ球菌
分離株数 ーム006PO180 コ一陽 アゼ性
− 鯛■一
19βハUOO◎グ株 ラ数春 期 黄色ブド
ウ球菌 分離株数
nO14nり7 引1 り召4 ラ数グ株アゼ性コ一陽 4﹃OnOQUO 2
夏 期 黄色ブド
ウ球菌 分離株数
nOnO−﹂09U 1 00=り う数グ株アゼ性コ一陽 3POO﹂42 19β
秋 期 黄色ブド
ウ球菌 分離株数
ワ﹂00﹂蔓1 1二 9召4 ラ数グ株アゼ性コ一陽 9β﹂隈040 ーユリ召
1主色羅ド騰網頭誌属遙暴ラ〜務
総 計1
171
7543.8
黄色ブドウ球菌 173
第4表
期 此
期期期期冬春夏秋
総数
13 20
22
20
型 別 群
・国皿國混
0000
0ーム9召nO00000
ハUOOハU計 不能
00UO7﹂1一二9召︷﹂
nO一二9召の0
計1751・16i31・1・19166
9/75==12%
第5表
;期 日
第1回(春)
第2回(夏)
型 別 群
総数綜M国喉
27 41
0 3
1 4
11 10
0 0
1
0
計
13 17
不能
14
24計16813i51211・[113・138
株,IV型 42D 1株であった.夏期は20株中皿型 71 2株・皿型 3C/3A 1株,秋;期は13株中耳型 71 2株,■型 3C / 3A 1株, 155 / 71 1株 という結果であり,また型別可能率は37.2%であっ た.院外のコアグラーゼ陽性ブドウ球菌のファージ型 別に関しては,総株数75株中9株が型別可能にすぎな かった.その内皿型3株,∬型が6株であった.皿型
54/53 2株, 54 1株,聴講 71 5株, 71/55 1株,院外でのファージ型別可能のものは少なく,型 別可能率は9/75=12%にすぎなかった.
(C)院内における外科的病巣より分離したコアグ ラーゼ陽性のブドウ球菌のファージ型別にっ いて
第5表の如く69株中30株が型別可能.型別可能率は 認(30/68)一44%で従来病巣株につき報告された型別可 5能率50〜80%4)より低いがこの30株中皿型も最も多く 21株,丑型,工型,混合型はそれぞれ5,3,1株で あった.なおコアグラーゼ陽性株中ファージ型別可能 のものは外科病巣より分離のそれが44%,院内のそれ が37.2%,院外のそれが12%でコアグラーゼ陽性率と 同様のことが見られた.
(D)
30/68==44%
院内検出ブドウ球菌と外科的病巣分離ブドウ 球菌とのファージ型別,同型(豆,皿型)の 比較に関して
イ)五型について(第6表)
院内分離型別皿型のもの29株,外科的病巣分離皿型 のもの5株.
ロ)皿型について(第7表)
院内分離型別皿型のもの2株,外科的病巣分離皿型
のもの21株.
皿型(表6)物別を見ると 71 のものは院内分離 26株た対し,外科的病巣分離株では1株のみである,
今別 55/71 のものは両者共に1株ずつである.また 里馬ファージ 3C/71 のいずれか共通性を有ずるも のは3株,皿型に関してはいくらかの共通性が見られ る.皿型(表7)の院内分離株と外科的病巣分離株と の比較に治いては全く溶原性の共通は見られない.フ ァージ型別について小早ずると⑦型別可能率は,外科 的病巣分離株44%,院内37.2%,院外12%の順に低く なりコアグラーゼ陽性率と同様である.②院内,外の 分離株はファージ型別により五型が多いのに反し外科 的病巣分離株では潮型が多い.③院内分離株,病巣分 離株の皿,皿型の比較において溶菌を生ぜしめだ型別 法 6 表:
場 所
型 別
院内分難株
外科的病巣二
型 別
町1
m鋤3超1鮒図55/71・岡71・1綿α26 1
2
00
10
1
1
1
0
1計
29
5
第 7 下
場 所
型 別
院内分離角
外科的病巣十
型 別
T4
V7,,
偲1澗5列塑1下馴0 14
2 0
0 2
0
20 2
0
1
計
2
21
ファージの共通性はH型においてはいくぶん見られる が,皿型には全く見られなかった.外科病巣分離株は 大多数皿型である故当病院内における術後の管理上で の院内ブドウ球菌による感染症はかなり少ないといえ
る.
3〕薬剤感受性検査に関して
L般に病原性ブドウ球菌の各種化学療法剤に対する 耐性は年次の経過と共に上昇しつつあり,その耐性獲 得も1種類のみでなく2種,3種の抗生物質に耐性,
即ち多剤耐性を示していると各種の報告にも見られ
る.私達が分離したコアグラーゼ陽性ブドウ球菌をデ ィスク法により薬剤感受性検査を行った結果,
イ)院内検出株についての感受性成績(第8表〉は 一様に感受性が高いといえるが,PC, Su1に対しては かなり耐性を示すものが見られる.やや耐性のものも 加えるとPCに対しては86正中33株で39.5%, Sulに は46株53.5%見られる.白羽ら5)の今日でのPC耐性 病原性ブドウ球菌は約70%という報告に比べると低い が外科的病巣分離41株(表10)について見ると耐性別 株51.2%,やや耐性を加えると35株85.3%が耐性であ 第8表の1 院内分離コアグラ一一陽性黄色ブドウ球菌についての感受性成績
;期 日
冬期第1回 冬期第2回 春 期 夏 三 秋 酒
薬剤名
口OQV800り04 19四−△
PC 細1+1一
SM CM TC EM LM KM Su1
申1+1一細1+1「申1+1一申1+H柵岡+1制什i+H細ト1一
0ーム6δ0ハU001﹂︷11﹂47・﹂4929右 111凸UOOO−只∪ハU11︷旦PO9β421ハ0ワ800厚﹂01 1 1 1420nOAU2POO﹂40
3093れ0 7・29ワ・ワ謬 1
2[21
11711落
・!2
12112
踏
1111
12610 910
132
18 1
112
0000000310
2610glo1510
19 1 12 1
0000 3000 00
302POOUQU卍04βU4quOUピ07暫0
0β 11盈− 4qV8qV3 2001σ
0000000000
1172α 1計 86121132121國6311418いレ6國3圃4151417715国・181i2131・18313】・1ρ11112812819
*文表中 PC離ペニシリン SM=ストレプトマイシン CM=クロラムフェニコールTC詔テトラサイクリン EM講エクスロマイシン LM=ロイコマイシン K:M=カナマイシン Sul箒サルファイソキサゾー ルを表わす.
第8表の2 院外分離コアグラーゼ陽性黄色ブドウ球菌について感受性検査成績
薬剤名 PC SM
申1+1「申i+ト
CM TC EM
申1+1一申i+1一細H−1
LM KM
冊1甘1+1− i冊1什 + 一
Sul
申国一
75・
14812・例・15gig回・16g国・1・168171・1・1751・1・1・168図・1・i73回・1・18121;15131第9表 外科病棟及び結核病棟分離の黄色ブドウ球菌の感受性検査比較成績
薬剤名 PC SM CM TC EM
随一騨1細i+1一細1+P仙南+1一細1+ト細国一
LM 申+一
KM 1 申1+1一
Sul
申1+ト
外科系繍161314{5i3/213111・18121313【1・1112131913141・1121113{・!6【・1・1・121417i3 徽麟In13131411141115沖・μ1・1・1713111・1111・1・1・1111・1・}・18131・1・1・141512
第10表外科病巣分離ブドウ球菌の薬剤感受性検査に関して(ファージ陸別と関連して)
1皿皿 能
一1計
型別 不薬剤名
試
1f二9召 nO4nUヴー4PC SM
細ト/一)1申1+1(一1
CM
柵H+ト、
TC EM
細トト)1細1+1(一)1
LM 申1+ト
KM Su1
申【+ト伸ト1(一)
00 1
103
0 05
235109 20
0 1
5273 143
ーハU9召00qu9召qU﹂40unり ili/i
/l/ll1
00120 3420220
0
05182
103103
1
14曽00nb
− 己■﹂
1019召8 111010411
5}
610
Q
1i/i/
1關1
0 0202㌧
0413
06}7 0g1
P0
i
0ハUOハUO100045 1ololO[3
010}04 0 10 9
010h6
0 1221
黄色ブドウ球菌 175
る.また院内分離株について著名に認められることは 外科病棟と結核病棟とにおける各種薬剤に対する感受 性の相違(表9)である.小酒井6)が病院ブドウ球菌 が投与薬剤の影響を受けることを指摘している如く結 核病棟検出のブドウ球菌には,SM, KMに対して比較 的感受性が低く,かつCM, EM, LMには比較的高い 感受性を示す株が多いことが見られる.一方外科系病 棟での分離せるブドウ球菌にはPC, CM, EM, LMに は比較的低い感受性を示すがSMには高い感受性を示
.すものが多.い. 一一一 一 一 ロ)院外検出株.(表8の2)に関しては殆んどすべ
てが各薬剤に極めて感受性が高くPG, SM, EM, LM 等どれといった特異性は見られず,但しSu1にのみ 耐性の獲得せる株の多いことが著名であった.
結 論
院内,院外及び院内における外科病巣より分離した 黄色ブドウ球菌の分布状態を比較すると,外科病巣,
院内より分離したものの方が院外のそれに比べて遙か に多かった.従って院内の空気消毒,清掃が極めて大 切であり,薬剤耐性防止の点より大いに考えねばなら ない.また今回の調査により分離した菌株のファージ 型別より考えれば,院内感染予防の点より無菌法の厳 重なる施行が一層痛切に考えさせられる.
終りに御懇切なる御指導を頂いた金大細菌学教室波多野助教授 に深謝いたします.
文 献
1)斎藤誠:メディアサークル,17,22,1961.
2)厚生省編纂3衛生検査指針1,ブドウ球菌検 査指針(増補),協同医書出版社,1〜36,1958・
3)福.見秀雄:臨床病理,特2,68,昭30.
4)波多野基一・岩崎洋治3日細誌,12,(6),491,
1957. 5)白羽弥右衛門。川端徳幸3診断 と治療,4368,34,1959. 6)小酒井望3 日医新報,1823,25,1959.
!
Abstract
St. aureus was collected from 122 sources in the hospital and from 110 sources other than the hospital places as well as from surgical wounds and was examined as to its coagulase activities. Eighty−six strains,75.5%of 122 strains collected in the hosp三ta1,75 strains,43.8
%of 177 strains isolated. frorn outdoors and 68 strains,75、5%of 90 strains isolated from surgical wounds were coagulase−positive.
Phage typing tests were more successfully applicable to the stralns from surglcal wounds than to those from other surces「mentioned above. The test was least apPlicable to the strains found outside. The phage type III strains could be most frequently isolated from the wounds whilst group II strains could be found among those obtained both inside and outslde
the hosp圭tal.
The strains isolated in the hospital proved to be markedly different from each other in drug resitance to streptomycin, chloramphenicol, erythromycin and Ieucomycin. The var三a・
tion of drug resistance was particularly remarkable in fhe tul〕erculose wards. Those strains collected outside were found to have no resistance to any other drug than sulfaisoxiazol.