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PDF 黄色ブドウ球菌における病原性遺伝子の多様化メカニズム 東京大学新領域創成科学研究科および東京大学医科学研究所 小林一三

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Academic year: 2024

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黄色ブドウ球菌における病原性遺伝子の多様化メカニズム

東京大学新領域創成科学研究科および東京大学医科学研究所 小林一三

目的・背景

ブドウ球菌属細菌 Staphylococcus はヒトの皮膚や粘膜に常在する細菌であるが、中 でもその病原性が問題となる黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus は種々の化膿性皮 膚疾患の原因菌として重要である。黄色ブドウ球菌はまた、MRSA, VRSA 等、抗生物質 が効かないものの病院内感染・市中感染が社会的な問題ともなっている。こうした臨床 上の重要性から、黄色ブドウ球菌については、現在までに 10 を超える菌株の全ゲノム 配列が解読され,公開されている。これらのゲノムには、薬剤耐性遺伝子、毒素遺伝子、

宿主細胞への接着・抗原抗体反応に関わる因子の遺伝子群、など、多様な病原性遺伝子 が見出されてきた。こうした病原性遺伝子の多くは、「動く遺伝子」であるファージや ゲノミック・アイランド上に存在していた。

筆者はこれまでに、黄色ブドウ球菌のゲノム解読に参加し、薬剤耐性遺伝子やその他 の病原性因子を乗せたゲノミック・アイランド上に、「動く遺伝子」群の侵入・維持の 制御に関わる制限酵素の遺伝子が存在することに注目してきた。また、やはりゲノミッ ク・アイランド上に存在し、よく似た病原性関連遺伝子が縦につながっているタンデ ム・パラログ・クラスターを複数株で比較し、その再編分子機構を推定してきた。

本研究では、黄色ブドウ球菌のゲノムが造り替えられ、多様な病原性が獲得されてい く機構を解明するべく、以下の二点を目標とした。(1)ゲノミック・アイランド上の制 限酵素遺伝子の活性の有無を実験的に検証する。(2)著者らの先行研究で著しい再編性 が示唆された、ゲノミック・アイランドνSaα上の病原性関連遺伝子 lpl のタンデム・

パラログ・クラスターについて、多数のゲノムで比較を行い、ゲノム再編の機構を明ら かにすること。

結果・考察

上記(1)については、ファージアッセイによって制限酵素活性を検討した (H. Yuzawa

& I. Kobayashi, unpublished)。ここでは(2)について、結果を報告する。

黄色ブドウ球菌に固有なゲノミック・アイランドνSaαには、病原性関連遺伝子のホ モログがタンデムに並んだパラログ・クラスターが複数存在している。そのうちの一つ、

lpl タンデム・パラログ・クラスターでは、そのコピー数や各ホモログの配列に株間で 著しい多型が見られた。全ゲノム配列が解読された9株の lpl ホモログの配列を用いた マルチプルアラインメントの結果、ORF 内に塩基配列レベルでよく保存された領域が存 在しており、この配列を介した相同組み換えがこの領域の再編に関与してきたことが示

(2)

唆された。

そこで、保存領域の 5’側の可変領域と 3’側の可変領域それぞれの系統樹を作成し 比較したところ、ある遺伝子の 3’側可変領域とその下流に隣接する遺伝子の 5’側可 変領域という組み合わせで、互いに配列が保存しているいくつかのグループの存在が見 られた。一つの遺伝子の 5’側可変領域と 3’側可変領域とでは,このような配列の保 存は見られなかった。これは、この領域が遺伝子内部の相同組み換えによって再編を繰 り返してきた結果、ORF を単位としてみると2つの可変領域をシャッフルしてきたのに 対し、隣接する遺伝子をまたいだ [3’可変領域-遺伝子間領域―5’可変領域] という 単位が保存されてきた為と考えられた。

遺伝子内部の配列を介した相同組み換えがこのクラスターの多様化を担うという今 回のモデルは、2つの可変領域の交換による ORF レベルの多様性の創出と、ゲノム間の パラログ・クラスターに見られる遺伝子順序やホモログ・セットの多様性の創出の両方 を説明することができた。「隣接する ORF をまたいだ配列を再編成の単位として、遺伝 子レベルの多様化を創出する」というこのモデルの特徴は、ORF という単位に基づいて いたこれまでのパラログ研究・多重遺伝子族研究にない、新たな視点の導入である。

参照

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