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雑誌名 博士論文要旨Abstractおよび要約Outline 学位授与番号 13301甲第4913号

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Academic year: 2021

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中国青海省チベット族の死生観に関する人類学的研 究−出生・死・再生を巡る語りと実践を通じて−

著者 ? 藏

著者別表示 GAZANG

雑誌名 博士論文要旨Abstractおよび要約Outline 学位授与番号 13301甲第4913号

学位名 博士(文学)

学位授与年月日 2019‑03‑22

URL http://hdl.handle.net/2297/00054800

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

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様式 7(Form 7)

学 位 論 文 要 旨

Dissertation Abstract

学位請求論文題名

Dissertation Title

中国青海省チベット族の死生観に関する人類学的研究

──出生・死・再生を巡る語りと実践を通じて──

(和訳または英訳)

Japanese or English Translation

an anthropological study on the life and death among the Tibetan people in Qinghai Province, China.

──People’s view on Birth, Death and Reborn──

人間社会環境学 専 攻Division

氏 名(Name) 尕藏が ざ ん

主 任 指 導 教 員 氏 名(Primary Supervisor) 西本陽一 教授

(注)学位論文要旨の表紙 Note: This is the cover page of the dissertation abstract.

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論文の題目: 中 国 青 海 省 チ ベ ッ ト 族 の 死 生 観 に 関 す る 人 類 学 的 研 究 ──出生・死・再生を巡る語りと実践を通じて──

著者: 尕藏が ざ ん(Gazang)

学位論文要旨

仏教は北インドから伝来して以来、チベットの土着宗教であるボン教と葛藤を起こしな がらも、徐々にいわゆるチベット仏教を形成した。その宗教的な影響はチベット社会の隅々 まで浸透している。その結果、チベット族の人々は、死とは肉体とナムシェ(rnam shes, 識=魂)が単に離れるだけで、不可視なナムシェは消滅するわけではなく、バルド(bar do, 中有)を彷徨って六道輪廻のどこかに生まれ変わると考えている。しかし、今日までのチ ベット研究においては、生まれ変わりを含むチベット族の死生観に対する先行研究は極め て少なく、数少ない既存の研究も文献資料を中心とした宗教学的研究に限られ、特定地域 を対象とした長期フィールトワークに基づく人類学的調査はない。このような現状に対し、

本論文は中国青海省チベット族の死生観に関する人類学的研究である。青海省チベット 族の村レベルの社会を研究対象として、出生・死・再生の語りと実践をめぐって、人々が 死・死後世界に対してどのような信念を持っているか、死後の再生をどのように求めてい るか、それはどのような特徴があるかを明らかにした。

本論文は全九章から構成される。

第一章では、先行研究の整理とその問題について論述した。これまでの生と死に関する 人類学的研究及びチベット族の社会と宗教に関する人類学的研究は本論文の理論的背景に 位置付けられる一方、チベット族の死生観に関する研究は、文献資料を中心にする宗教学 的研究の蓄積はあるが、人類学的先行研究はない。宗教学的な先行研究は民間信仰や土着 宗教に見られる生命観やチベット族社会における社会的・宗教的地位が高いラマの転生な どに限られ、偏っている偏見があるとの問題を提示し、本論の目的を述べた。

第二章では、青海省チベット族の歴史と調査地の概要について述べた。1950 年代以前の 青海省の歴史、1950年代以降の混乱期には、生産隊ごとに共同食堂が設置され、農牧民は 人民公社の一員として生活を営んできた。この時期に、宗教信仰は完全に禁止され、宗教 的実践の場であった寺院や仏典、仏像なども破壊された。しかし、1980年代以降の改革開 放政策によって、地域社会は安定し、民間信仰や宗教儀礼は徐々に復活してきた。さらに、

2000年代の西部大開発以降の歴史について述べた。

第三章では、研究対象とした S 村の概要について記述した。村の行政組織、家族の構成 と婚姻、親族範疇、その変容、という非日常儀礼と筆者が宿泊した家を中心とした日常の

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生活空間、そして、社会的基盤となる村レベルの伝統的な生業とその変容について述べた。

第四章では、青海省チベット族の村における伝統集団ツォワについて記述した。事例を 取り上げながらツォワの現状を述べてから、それぞれ年に一度行う菩薩を祭祀するチェソ ン儀礼と山の神を祭祀する山神崇拝という宗教実践からツォワの行動について記述した。

さらに、ツォワの役割と変容について考察した。

第五章では、青海省チベット族の宗教と寺院社会について述べた。調査対象の S 村に共 存するボン教徒とチベット仏教のニンマ派、ゲルク派の信者はそれぞれの寺院を持ってお り、寺院社会とそこに生きている宗教者たちの行動、宗教者の日常生活の空間について述 べた。

以上の社会的背景と宗教的背景を受けて、以下の部分は本論の中心内容である出生──

──再生のサイクルについてである。

第六章では、妊娠・出産の語りと実践をめぐって生まれ変わり及びその習俗文化につい て述べた。

第七章は、死をめぐる儀礼的実践と観念についてである。葬儀に関する事例を取り上げ ながら、青海省チベット族地域における死者儀礼の構造、葬儀への準備作業と葬儀のプロ セス、生者と死者を安寧する聖職者とその役割、死者儀礼を支える伝統集団の支援、葬送 式、死者に対する親族の態度・感情について述べた。

第八章は、再生をめぐる語りと実践である。バルドを彷徨う死者のナムシェについて村 人が如何に認識し、そのナムシェの再生を如何に認定しているか、現世において罪を犯し た人のナムシェはバルド期間に悪霊になる恐れがあり、その悪霊を調伏するデェ儀礼につ いて述べた。

以上の内容に基づいて、終章では、まず各章の内容を要約・考察し、それから結論とし ては、死後の再生に対する青海省チベット族の人々は、日常・非日常の善行と悪行の心身 的行為によって現世の利益と不利益や死後の再生が決定すると考えていると結論づけた。

ゲワ及びツォサクという善行をすると、現世では利益を得られ、死後、より良い人間とし て順調に再生することができる。一方、罪を犯した人が亡くなった場合にナムシェはより 良い再生は望めず地獄に落ちるのである。

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学位論文審査報告書

平成31124

論文提出者

金沢大学大学院人間社会環境研究科 攻 人間社会環境学専攻 名 ガザン

学位論文題目(外国語の場合は,和訳を付記すること。

中国青海省チベット族の死生観に関する人類学的研究―出生・死・再生を巡る語りと実践 を通じて―

審査結果

定(いずれかに○印) 合 格 不合格

授与学位(いずれかに○印) 博士( 社会環境学・文学・法学・経済学・学術 )

学位論文審査委員

委員長 西本 陽一 鏡味 治也 雅秀 弁納 才一 員 宇根 義己

(学位論文審査委員全員の審査により判定した。

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論文審査の結果の要旨

本論文は、中国青海省のチベット族村落におけるフィールドワークをもとに、チベット族の 死生観を明らかにしようとしたものである。チベット族の死生観にかかわるこれまでの研究の 大半は文献資料をもとにした宗教学的な研究に限られるが、これに対して本論文は、ボン教、

仏教のニンマ派とゲルク派の三宗派が混在するチベット族村落での調査から、生まれ変わりを 含む、日常生活における普通の人々の死生観を、出生・死・再生をめぐる実践と語りから明ら かにしようと試みている。

第一章では、チベット族の死生観を明らかにするという論文の目的が述べられた後、生死に 関する人類学的研究のレビューをおこなうとともに、チベット研究における本論文の位置づけ について述べられる。そして調査の概要と本論文の構成が紹介される。

第二章では、調査対象である青海省チベット族の歴史および調査村落の概要について記述さ れる。1949年の中華人民共和国成立以来、青海省は1950年代の集団化にともなう宗教信仰の 禁止、1980年代からの宗教信仰の復活、2000年代からの西部大開発を経験してきた。青海省 はチベット族が70パーセント近くを占める地域であり、住民は牧畜と農業を中心に生活して いるが、西部大開発による出稼ぎ労働の増加など、近年は大きな生活変化を経験している。

第三章は、調査村落についての記述である。行政組織、婚姻、家族形態、親族範疇および親 族名称が紹介された後で、村落の日常生活と生業の変化について述べられる。

第四章では、伝統的社会集団ツォワが紹介される。ツォワは血縁によって結びつく集団であ るが、近年では地縁によって結びつくツォワも見られる。筆者は調査村落に存在するツォワに ついて記述した後、各ツォワがおこなう菩薩供養(チェソン儀礼)と山神祭祀(ラプツェ儀礼)

について詳しく報告する。

第五章は、調査村落を事例とした青海省チベット族の宗教と寺院社会についての報告である。

筆者はまず青海省チベット族の宗教概況について記述し、調査村の宗教状況について詳述する。

調査村はボン教、仏教ニンマ派、仏教ゲルク派の三宗派が混在するという特徴をもつが、筆者 はそれぞれの宗派について、宗教者、寺院組織と運営、年中行事について報告する。最後に日 常生活の中での村落の宗教状況が記述される。

ここまでの記述を踏まえて、第六章、第七章、第八章では、青海省チベット族村落における 出生、死、再生にかんする実践と語りの報告となる。第六章は妊娠・出産をめぐる住民の語り と実践が報告される。チベット族の妊娠・出産は、血縁関係にあった者が死んだ後でそのナム

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シェ(意識、魂)が肉体から分離し、再び家族の一員として再生するという輪廻転生の観念に 結びついている。また妊娠出産中は、安産と母子の健康のために、穢れや災厄を儀礼的に防ご うとする実践が見られる。チベット族のこれらの伝統的な実践は、中国社会の変化の中で変わ ってきたが、特に2000年以降は病院出産が中心となり、戸籍登録のために出生証明書などの 書類が重要になってきている。

第七章では、青海省チベット族の死をめぐる観念と実践が詳細に報告される。著者によれば、

チベット族では「来世・良き転生のために生きている」と言う人々がいるほど、死は再生と結 びつけられて重要な位置を占めている。人々はよき再生のために生きているうちから準備する が、いったん人が亡くなると、その人のナムシェがすみやかに生者の世界を離れ、来世へ再生 するように、宗教者たちによって葬送儀礼が執り行われる。著者によれば、チベット族の葬送 儀礼は、残された生者の健康と安寧のためであると同時に、死者のナムシェの再生のためにお こなわれるもので、読経がそこでは大きな役割をもっているという。

第八章では、再生に関する語りと実践が詳しく報告される。仏教教義が説く輪廻からの解脱 と涅槃という理想にかかわらず、チベットの人々は死後に再び人間に生まれ変わることをめざ しており、そのためには生前に多くの善行を積んでいることが重要だとされる。人が死ぬとそ のナムシェはバルド(中有)をさまよっているとされるため、宗教者と俗人たちが死者儀礼を おこない、デェ儀礼などにより支障を排除して、ナムシェをすみやかにあの世へ送り、よい再 生へと導こうとするという。一方、青海省チベット村に子供が生まれると、再生の観念にもと づき、子供が誰の生まれ変わりかということに人々は高い関心を抱き、さまざまな方法により 子供のナムシェを認定するという。

終章で著者は論文全体を要約するとともに、青海省チベット族の死生観についてもまとめて いる。青海省チベット族の死生観は、輪廻転生と因果の観念によっていて、人々は人間界への 再生をめざして積徳をおこなう。ナムシェは、出生、生、死、バルドでの彷徨、再生を繰り返 すとされ、すみやかな再生のために死者儀礼がおこなわれるという。一方、2000 年以降の社 会変化にともなうチベット族の死生観の変化および現世利益のためにおこなわれる宗教儀礼 については今後の研究課題とされる。

審査会では、本論文の青海省チベット族の民族誌としての価値について高い評価が与えられ る一方で、フィールドワークによる一次データについて仏教教義による説明をおこなうことで その価値を却ってそこなってしまっていること、本論文が全体に記述的でより一般的な死生観

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研究への理論的貢献が少ないこと、また三宗派混在という調査地の特徴が死生観にとってどう いう意味をもつのか論じられていないなどの指摘があった。

しかし本論文は、青海省チベット族における死生観を明らかにするために、調査地の歴史と 現状、婚姻と家族を中心とする日常生活、伝統的社会集団ツォワ、村落における宗教状況など 歴史・社会的なコンテクストを詳細に記述し、これまで現地調査が難しかった青海省チベット 族の実践と語りを数多く報告している。その結果、チベット族の死生観をめぐるすぐれた民族 誌として、ナムシェを中心とした輪廻の世界を生きている住民の姿を描き出すことに成功して いる。

以上を考慮して、本論文が博士学位論文の水準をじゅうぶんに満たすと、審査委員一同の意 見が一致した。

参照

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