東 北 地 方 の 二 つの 方 言 の 韻 律 分析 東 北 地 方 の 二 つの 方 言 の 韻 律 分析 東 北 地 方 の 二 つの 方 言 の 韻 律 分析 東 北 地 方 の 二 つの 方 言 の 韻 律 分析
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― 「 ア ク セ ン ト核 は ど こ か ら 来た か 」 補 説 ―
― 「 ア ク セ ン ト核 は ど こ か ら 来た か 」 補 説 ― ― 「 ア ク セ ン ト核 は ど こ か ら 来た か 」 補 説 ―
― 「 ア ク セ ン ト核 は ど こ か ら 来た か 」 補 説 ―
A Prosodic Analysis of Two Dialects of Tohoku Japanese
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― Addenda to “Where do accent kernels come from?” ― ― ― ―
児 玉 望 KODAMA Nozomi
は じ め に は じ め には じ め に は じ め に
日 本語 ア ク セ ン ト系 統 史 を 論じ た 児 玉 望(2017)に お いて 、筆 者 は、木 部 暢 子(2008)で 提案 さ れ た、 東 北 地 方 の外 輪 式 方 言は 上 げ 核 の 昇り 核 化 に よっ て 生 じ た とす る 説 を 支持 し 、 上 げ 核 体系 で あ っ た ピッ チ ア ク セン ト 祖 体 系 に、昇 り 核 化と 降 り 核( 及 び 引 き 続 いて 下 げ 核 ) 化 と いう 両 立 不 能 の二 つ の 波 状的 変 化 が 、 日本 列 島 本 土の 東 と 西 で 生じ た と す る仮 説 を 展 開 し た。 本 稿 で は 、日 本 放 送 協会 編 『 全 国 方言 資 料 』第7巻 辺 地 ・ 離島 編(Ⅰ)に 収 録 さ れ た、東 北 地 方の2つ の 方 言 の 談話 音 声 資 料 の分 析 に 基 づき 、これ ら の 特 異 な 体 系の 存 在 が 、 児 玉(2017)の 仮説 に よ っ て う まく 説 明 で き るこ と を 論 じる 。
山 形県 旧 朝 日 村 大鳥 方 言 は 、核 音 節 で 上 昇が 開 始 さ れる 昇 り 核 体 系と し て 分 析さ れ る 。 こ の よう な 体 系 は 、東 北 地 方 に広 が る 核 音 節で 上 昇 が 完了 す る 昇 り 核体 系 と 、 核の 次 音 節 で 上 昇が 完 了 し た と考 え ら れ る上 げ 核 祖 体 系と の 中 間 に位 置 づ け る こと が で き る。 一 方 、 岩 手 県旧 種 市 町 中 野方 言 は 、 これ ま で 現 代 方言 ア ク セ ント の 体 系 と して は 実 在 が確 認 さ れ て い なか っ た 降 り 核体 系 を も つも の で あ る と主 張 す る 。仮 説 に 従 え ば、 先 行 し て降 り 核 化 に 向 かう 変 化 が 起 きた た め、昇 り 核 化の 波 が 及 ぶ こ と なく 孤 立 し て 降り 核 に 留 まっ た 体 系、
あ る いは 、 昇 り 核 化の 波 が 及 ばな い う ち に 上げ 核 か ら 降り 核 化 す る 変化 が 起 き た体 系 と い う こ とに な る 。
い ずれ の 体 系 も 、東 北 方 言 に広 が っ た 母音iの 中 舌 母音 化 を 経 て いな い と い う保 守 的 な 特 徴 を共 有 す る 。 アク セ ン ト に関 し て も 、 東北 諸 方 言 の先 行 段 階 を 探る 手 が か りと し て 、 よ り 詳細 な 調 査 に よる 本 稿 の 仮説 の 検 証 が 必要 で あ る と考 え る 。
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本 研 究 はJSPS科 研 費 ( 課 題 番 号15K02484) の 助 成 を 受 け た も の で あ る 。
1 旧 朝 日 村 大 鳥 方 言旧 朝 日 村 大 鳥 方 言旧 朝 日 村 大 鳥 方 言旧 朝 日 村 大 鳥 方 言
『 全 国方 言 資 料 』第7巻 冒 頭に は 、柴 田 武 氏 に よ る 収録 各 方 言 の 特徴 に つ い ての 概 観( 以 降 、柴田 1967と す る)が 加 え られ て お り 、こ の部 分 が 柴田(1988:275-295)に も「日 本 の 言 語 島 ( 一)」 と改 題 さ れ て 再 録 され て い る 。
柴 田(1967:18)の ア ク セ ン ト の概 観 は 、類別 語 彙 に 従 った 、次 の よう な 簡 単 な もの で あ る。
( ◯をH、 ●をLに 置 き 換 え る。)
(1) (U群 は 語 末 が狭 い 母 音 で 終 わる も の, A群 は語 末 が 広い 母 音 で 終 わる も の )
第1類(「 鼻 と 」) LLL
第2類(「 橋 と 」), 第4・第5類U群(「 箸 と 」,「 秋 と 」) HLL 第3類(「 花 と 」), 第4・第5類A群(「 肩 と 」,「 汗 と 」) LHL
第2類 が 第1類 ・第3類 の 両方 と 弁 別 を 保っ て い る とす る 点 が 目 を惹 く が 、 この こ と の 系 統 史的 解 釈 に 関 する 明 示 的 な言 及 は な い。た だ し 、総 説 に い う、「 古 い言 語 の 残存 地 と い う 意 味で 」 の 「 言 語島 」 の 例 にあ て は ま る と言 え る の かも し れ な い 。
し かし 、(1)の 解 釈 の 根 拠 と なっ た と み ら れる 柴 田(1953:439-441)で は 、こ の 方 言の ア ク セ ン ト のも つ さ ま ざ まな 異 音 的 な実 現 形 が 記 述さ れ て い る。
(2) A /CVCV/ あ め,牛,口,竹,鳥,箱,筆,水,虫
B /「CVCV/ 石,紙,川,梨,夏,橋,冬,町; 秋,帯,貝,鯉,さ る,つる,箸,針,春,松,麦,夜 C /CV「CV/ 足,池,犬,馬,親,草,く つ,米; 雨,板,糸,か さ,肩,空,ね こ,舟
ほ かに も 、 こ の 方言 の 音 素 論的 分 析 を 試 みる こ の 論 文の 語 例 の 多 くに ア ク セ ント の 音 素 表 記 や音 声 表 記 が 付さ れ て い る。特 筆 され る 点 は 、A型 の 音 声形 がCV]CV, CVCV]2の 下降 位 置 の異 な る 異 音 的実 現 を 持 つ点 で あ る 。 この よ う な 下降 位 置 の 異 なり は 、3音 節や4音 節 で も複 数 観 察 さ れて お り 、こ の こ と が(2)の音 韻 解 釈 で上 昇 位 置 の みを 弁 別 的 とす る 解 釈 の 根 拠と な っ て い ると み ら れ る。こ の 解 釈は 、「 上 げ 核」あ る い は「 昇 り 核 」を 最 初 に 提 唱 し た 柴田(1955)の 先 駆 を な す とも み え る 。
た だし 、B型 で は い つ も「CV]CV、C型 で はい つもCV「CV]で あ る と し て い る点 を 考 慮 す る と 、核と し て 捉 え るな ら ば 、単な る 上 げ 核 では な く 上野(1975)に い う( 1 音 節卓 立 の)「 ア ク セ ント 高 核 」 と いう こ と に なる だ ろ う 。
し かし 、 上 記 の 記述 に は い くつ か の 疑 問 が残 る 。 ま ず、A型 の実 現 形CV]CVとB型 の
「CV]CVは共 に 下 降 が あ り 「 両者 を 混 同 し て聞 く 恐 れ があ る 」 と し てい る が 、 その 弁 別 に
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原 文 の 下 降 契 機 記 号 は”]”で は な く 、”」”の 上 下 反 転 形 。
つ い ての 説 明 は 不 十分 で あ る。「A型 は 『 高 く な る と ころ な し』、B型 は 『 第 一音 節 で 高 く な る』」(柴田1953:439)と い う 記述 は 、 段 階 観的 な 、MLとHLの 対 立 を 思 わ せ る表 現 と な っ て いる 。 第1音 節で 「 高 く なる 」 か ど う かは 、 先 行 の文 節 が あ る 場合 の 実 現 形で 確 か め ら れ そう に も 思 え るが 、 こ の よう な 連 文 節 環境
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の 記 述 はな い 。
も う一 つ は 、A型 の 、 な く なっ た り 位 置 が変 わ っ た りし う る 下 降 と、B型 ・C型 の い つ も 上 昇の 1 音 節 後 で生 じ る 下 降は 、 同 じ も のな の か 、 とい う 点 で あ る。 も し も 同じ 下 降 で あ る とす る と 、 下 降の 位 置 が 可変 的 な 型 と そう で な い 型が 対 立 す る こと に な る 。し か し 、 外 部 の観 察 者 は 、 言語 調 査 者 であ れ 母 語 と して 習 得 中 の話 者 で あ れ 、あ る 語 で 下降 が 可 変 的 で ある こ と は 知 り得 て も、あ る 語 では 可 変 的 で な い、と い うこ と を 知 る こ と はで き な い 。 こ の よう な 弁 別 体 系は 存 在 が 難し い と 思 わ れる 。 従 っ て、B型 ・C型 で も 下 降 位置 が 変 わ る 可 能性 が あ る か 、そ う で な けれ ば 、 位 置 の変 わ る 下 降と そ う で な い下 降 が 単 体で も 聞 き 分 け 可能 な 異 な る 音声 的 実 現 をも つ 、 と い うこ と が 予 想さ れ る 。
『全 国 方 言 資 料』の10分 程 度の 談 話 音 声 資料 は 、この よ う な 疑 問点 を 確 認 す るた め に じ ゅ う ぶん に 有 用 で ある 。た と えば 、柴 田(1953:440)に言 及 さ れ て い る、上 昇 の ない3音 節 語 の3つの 下 降 位 置 は、 こ の 談 話資 料 の 中 に すべ て 現 れ る。
(3) a. サ ガ]ナ ダッ テ p62 「 魚 だっ て 」
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b. サ]ガ ナ]カ[ネ ー]バ p65 「 魚 を食 べ な け れ ば」
(4) a. コ ド モ ノ]ア[ダ]リ ダバ p58 「 こ ども の こ ろ な どは 」 b. コ ド モ ダ[ド[キ]ダ ガ シ p62 「 こ ども こ ろ の ね え」
c. コ]ド モ モ [コ ー]ナ リ ニ p63 「 こ ども も こ の よう に 」
(3)aは 、 柴田(1953:440)でC類 に 助詞 が 接 続 し た 場 合のCV「CV]CVと 聞 き あや ま ら れ や
す い とさ れ る 音 形 であ る が 、 冒頭2音 節 が 高平 調 で あ るこ と が 特 徴 であ る 。(3)bと(4)dの 音 節 後に 下 降 が あ る句 頭 音 節 は、「 高く な る と こ ろ 」 に聞 こ え る が 、praatを 用 いて ピ ッ チ 形 を 分析 す る と 、(3)aと 同 様 に 、句 頭 音 節 が 高平 調 で ある こ と が わ かる 。「 コ ド モ 」と「 サ ガ ナ 」の2語 の 出 現例 は 以 上 です べ て で あ り、 同 じ 語 につ い て は 連 文節 構 造 の 後続 文 節 に 出 る 音形 は 確 か め られ な い が 、他 の 頻 出 語 彙で 句 頭 音 節の み が 高 い 音形 と 連 文 節構 造 後 続
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本 稿 で は、2つ 以 上 の ア ク セ ン ト 単 位 が 音 韻 句 内 に 連 続 す る も の を「 連 文 節 構 造 」と 呼 ぶ。ア ク セ ン ト 単 位 は 通 常 文 節 を 単 位 と す る た め で あ る が 、「 な ど 」「 ば か り 」 の よ う に 付 属 語 が ア ク セ ン ト を も つ 場 合 は 、 単 一 の 文 節 が 連 文 節 構 造 を も つ こ と も あ る 。
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『 全 国 方 言 資 料 』 か ら の 例 文 の カ ナ 表 記 と 解 釈 文 は 、 原 文 を そ の ま ま 引 用 す る 。 例 文 に 追 加 さ れ た”[”
( 上 昇 契 機 )、”]”( 下 降 契 機 )、”[[”( 後 続 音 節 上 昇 調 )、”]]”( 先 行 音 節 下 降 調 )の ア ク セ ン ト 表 記 は 筆 者 に よ る 。 な お 、 カ ナ 表 記 で は 、 小 文 字 「 ァ 」 が 広 母 音 の 表 記 に 用 い ら れ て い る が 、 こ の 場 合 は 長 音 を 表 記 し て い な い 場 合 が あ る 。
文 節 の両 方 に 出 現 する 語 形 の 例か ら の 類 推 は可 能 で あ る。
そ こで 、 本 稿 で は『 全 国 方 言資 料 』 の 談 話音 声 資 料 につ い て 、 特 に頻 出 語 を 中心 に 、 ど の よ うな ピ ッ チ 実 現形 が 現 れ るか を 分 析 し てい く 。 着 目す る の は 語 頭音 節 の ピ ッチ 形 で あ る 。 以下 で は 、 語 頭音 節 が 高 平調 か 、 上 昇 調か 、 低 平 調か に 応 じ て 分類 し て 記 述し 、 さ ら に こ れら が そ れ ぞ れ無 核 型 、 語頭 核 型 、 非 語頭 ( 語 中 ・語 末 ) 核 型 と分 析 で き るこ と を 示 す 。
1.1 語 頭 の 高 平 調語 頭 の 高 平 調語 頭 の 高 平 調語 頭 の 高 平 調
語 頭 音節 の ピ ッ チ が高 平 調 で あり 、 下 降 の 有無 や 位 置 が可 変 的 で あ る語 形 は 、 名詞 ・ 動 詞 を 含め て 多 数 み られ る 。 こ こで い う 「 高 平調 」 は 、 語頭 音 節 のOnsetの 子 音 では ピ ッ チ 上 昇 があ る も の も 含む が 、 少 なく と も 閉 鎖 の解 放 時 以 降は ピ ッ チ の 有意 味 な 上 昇が み ら れ な い もの を 言 う。Onsetの 子 音 が無 声 の 場 合 はこ の 部 分 にそ も そ も ピ ッチ 曲 線 が 現れ な い 。
2拍 名 詞第1類 の コ シ 「 腰 」 は以 下 の3つ の出 現 例 が ある 。
(5) a. コ]シ マ ガッ タ[ヨ ー]ダ [ナ ー]] p76 「 腰 が曲 が っ た よ うで す ね 」 b. ワ[ガ]コシ バ イ ワ ネ ー デ p76 「 自 分の 腰 の こ と を言 わ な い で」
c. オ レ]コ シマ ガ ッ タ ニ ャ ン テ p76 「 俺 の腰 が 曲 が っ たな ん て 」
(5)aが 句 頭高 平 調 を 持 ち 下 降の あ る 語 形 、(5)bと(5)cが 句 頭で は な く 「 高 く な」 ら な い
非 句 頭の 形 で あ る が、 後 者 は 連文 節 構 造 と みる か 、 複 合語 化 し て い るか が 判 断 でき な い 。 イ シャ 「 医 者 」 でも 、 語 頭 の高 い ピ ッ チ 形と 低 平 な ピッ チ 形 が 現 れる 。
(6) a. イ シ ャ サ モ [イ ッ]タ コ ト ([ネー ン]ダ ケ) p64
「 医 者 に も 行 っ た こ と も あ り ま せ ん で し た よ 」
b. (イ[マ]ダ バ) [イ]シ ャ モ p64 「 い まな ら ば 医 者 も」
c. イ シ ャ モ [カ ゲ]ダ リ p80 「 医 者に も み せ た り」
(6)aと(6)bは 、括 弧内 の 音 声が 重 な っ て いる 。(6)bが 高 平 調 で下 降 の あ る 形 、(6)aと(6)c
が 句 頭の 上 昇 の な い形 で あ る。(6)bの 下 降 は 、シ ャ が 下降 調 、モ が低 平 調 で 、[イ シ ャ]モ と も 聞 こえ る 。
柴 田(1967)で、 第1音 節 の 後で い つ も 下 降が あ る と され る2音 節 名詞 第2類 の 中に も こ の よ うな 句 頭 高 平 調や 下 降 の 遅い 音 形 が 現 れる 語 が あ る。 ユ ギ 「 雪 」と マ チ / マジ 「 町 」 で あ る。
(7) a. ユ ギ ワ]フ[ル]ヒ デ]フ[ル]ヒ デ [ナ p67 「 雪 が降 る 日 で 降 る日 で ね 」 b. フ ッ[タ]ユ ギ [ワ]ズ カ[シ[ゴ]ス ン ダ]モ ン ダ ハ ゲ ニ p69
「 降 った 雪 が わ ず か四 五 寸 だ もの だ か ら 」
c. コ ノ ー]ダユ]ギ デ ウ ム サ レ]ル]モ ナ p69
「 こ れ く ら い の 雪 で う め ら れ る 者 は 」
(8) a. マ チ]マ デ [カ]ウ ィ イ ッ テ[ク レ]ー ノ]モ ン[デ p62
「 町 まで 買 い に 行 った く ら い のも の で 」
b. マ]ジ イ ッテ[ク]ル ワ p78 「 町 へ 行 っ て く る よ 」 (7)aは 句 頭文 節 全 体 が 高 平 調で あ り 文 節 内部 で の 下 降が な い 。(8)aは 、 文 節第2音 節 後
の 下 降で あ る 。(7)bと(7)cは 共 に 連文 節 構 造 後 続 文 節 であ る が 、 前 者は 下 降 が なく 、 後 者 は第1音 節 後 の 下 降が あ る 。
(5)か ら(8)が 同 じ 型 に 属 す る 、と す る と 、高 平 調 か 低平 調 か に 関 わり な く 、文 節内 部 で の
上 昇 を欠 く 、 と い うこ と に な る。 柴 田(1953)の 「 高 く な る と こ ろ な し 」 は 、「 文 節 内 部 に 」 を 補 えば 、 句 頭 文 節に つ い て も連 文 節 後 続 文節 に つ い ても 共 通 の 特 徴、 と い う こと に な ろ う 。 この 方 言 の ア クセ ン ト 核 がピ ッ チ 上 昇 を引 き 起 こ すも の で あ る とす れ ば 、 この 音 形 を も つ もの は 「 無 核 型」 と い う こと に な る 。
「 無核 型 」 で あ ると す れ ば 興味 深 い の は 次の よ う な 、格 助 詞 ノ の 接続 例 で あ る。
(9) a. ヤ]マ ノ ヒロ オ ヘ]ズ ッ テ イッ タ バ ホ]レ p70
「 山 の 斜 面 を 横 切 っ て 行 っ た ら ほ ら 」
b. ト ド ガ]ソー ノ ヤ[メ ァ ー p68 「 と どが 沢 の 山 へ 」
ヤ マ「 山」(2音 節 名詞 第3類)は 、連 文 節 後 続 文 節 であ る(9)bで は 、上 昇 幅 こそ 小 さ い も の の、 第2音 節 での 上 昇 が 聞き 取 れ 、 柴 田(1953)のC型 で あ る と 考え ら れ る が、 格 助 詞 ノ が 接続 す る(9)aで は、「 無 核型 」 同 様 の 、語 頭 子 音 冒頭 か ら 続 く 高 平 調 句 頭 音 節 と な る 。 こ れ は、 下 げ 核 体 系の 東 京 方 言で 格 助 詞 ノ が接 続 す る 語( ハ ナ ノ 「 花の 」、 ヤ マノ 「 山 の」
な ど )で 語 末 核 が 脱落 し て 無 核に な る 現 象 と並 行 的 に 見え る 。 同 様 の例 が も う 一つ あ る 。 (10) a. カ]デ ノ[ヨ ー]デ [ネ ァ]ムン([)ダ ケ]ム[ナ ー p59
「 混 ぜ飯 の よ う で はな い も の でし た ね 」
b. カ[デ]ヘァ ー ネ ー デ p63 「 混 ぜも の が は い らな い で 」
カ デ「 混 ぜ 飯 」 が、 第2類 ( 有核 ) の 動 詞 カ テ ル 「 混ぜ る 、 加 え る」 の 連 用 形派 生 名 詞 で あ ると す れ ば、予 想 さ れ る 所属 型 は2音 節名 詞 第3類で あ り、(10)bは そ の 予 想に 合 うC 型 の 音形 で あ る が が、 格 助 詞 ノが 接 続 し た(10)aで は 「無 核 型 」 の ピ ッ チ 形 と な っ て い る 。
動 詞の 類 別 で は、中 輪 式 で は第1類 が 無 核か 語 末 核( 例 :カ エ]バ「 買え ば」)とな る が 、 こ の 語末 核 は 児 玉(2017)で い う「 低 結 式 」 の境 界 特 徴 が降 り 核 化 に より 核 に 合 流し た も の で あ るの で 、 こ の 仮説 に よ れ ば降 り 核 化 を 経ず 高 結 式 と低 結 式 の 弁 別を 失 っ た 体系 で は す
べ て 無核 に な る と 予想 さ れ る 。大 鳥 方 言 の 談話 資 料 で は、 第1類 の 動詞 の 語 形 で、 高 平 調 句 頭 音節 を 持 ち 下 降の あ る 語 形と 低 平 な 語 形が 両 方 現 れる 例 が 多 い 。
(11) a. ワ ス ン ニ ェ ァー[ヨ ー]ニ p78 「 忘 れな い よ う に 」 b. ワ ス ン]ニェ ー[ド]ギ ャ p78 「 忘 れな い と き は 」
(12) a. カ ッ テ[コイ]ジ ャ ー p78 「 買 って 来 て く だ さい 」
b. カ ッ テ[ク]ル p78 「 買 って 来 る 」 c. カ ッ]テ キ[ダ]ガ]ヤ p79 「 買 って 来 ま し た か」
d. カ ッ]テ キ[ダ カ ッ テ キ[ダ p79 「 買 って 来 た 買 って 来 た 」
(13) a. イ ッ テ[ク]ル]ワ イ p78 「 行 って 来 る よ 」
b. イ ッ]テ[コ イ]ジ ャ ー p79 「 行 って お い で 」 c. カ ッ テ イ]グ ゾ ー p75 「 借 りて 行 く ぞ 」 d. モ ッ[テ]イ ケ ジ ャ ー p75 「 持 って お 行 き な さい 」
動 詞第1類 に つ いて も 、 下 降の 有 無 は 語 の弁 別 に 関 与し て い な い 。ま た 、 動 詞語 形 は 連 文 節 構造 の 後 続 文 節と し て の 用例 も 多 い が 、こ の 環 境 でも 下 降 の あ る語 形 が 現 れる 点 も 、 名 詞 (cf. 例文7c.)と 同 じ で ある 。「文 節 内 部 に 高 く なる と こ ろ が ない 」 と い う特 徴 が ど の 環 境 にも 共 通 す る 。
柴 田(1953)の音 声 記 述 で は 、長 音 節 に 後 続し て 下 降 があ る 場 合 は 、語 末 の 場 合(hadu:]
「 鳩 」p427、gottso:]「ご ち そ う」p429、do:ju:], 「ko:ju:], so:ju:]「 ど う い う 、 こ うい う 、 そ う い う」 p437)に 限 ら れ 、そ の 他 は す べて 音 節 内 部 の 下降 と い う 表 記と な っ て いる 。し か し 、 大鳥 方 言 の 談 話資 料 で 音 節内 部 の 下 降 が聞 き 取 れ る例 は 非 常 に 少な く 、 音 節末 か ら の 下 降 とみ ら れ る 場 合が ほ と ん どで あ る 。 そ の中 で 、第1類 の 動 詞 の 音便 形 に1例だ け 、 音 節 内 下降 の 例 が あ る。 た だ し 、同 じ 環 境 で も音 節 末 か らの 下 降 例 が あり 、 下 降 開始 位 置 の 違 い はこ の 場 合 も 有意 で は な いと み ら れ る 。
(14) a. キ]ー ダ ゴド[ネ ー p73 「 聞 いた こ と は あ りま せ ん 」
b. デ ァ ー]テ[ク]ル]ニ p82 「 抱 いて く る か ら 」
最 後に 、こ の 無核 型 へ の 所 属語 彙 に つ い て考 察 す る。外 輪 式 体 系で 無 核 と な るの は 、1~ 3音 節 の名 詞 の 第1類 と 第2類、 動 詞 ・ 形 容詞 の 第1類で あ る 。 談 話資 料 で第2類 の ユ ギ
「 雪」と マ チ/マジ「 町 」が こ の型 に 属 す る ピッ チ 形 で 現れ て い る こ とを 述 べ た。こ の う ち 、 ユ ギ の実 現 形 は 柴 田(1953:432)に ア ク セ ン ト記 号 を 欠 く音 声 表 記 が あり 、 柴 田(1953:421)の 注 記 から 、 こ の 調 査で こ の 語 のア ク セ ン ト が「 調 査 も れ」 だ っ た こ とが わ か る 。し か し、
「 町」は(1)でB型 の 所 属 語 彙と し て 記 載 され て い る。さ ら に、(2)のB型 の うち 、「 夏 」と
「 冬 」は 談 話 資 料 に一 例 ず つ 出現 例 が あ る 。
(15) a. ナ(])ズノ ウ]ジ ダ バ p58 「 夏 のう ち な ら 」
b. フ]ユ ワ ダェ ー ゴ ン ズ ケ p60 「 冬 は大 根 漬 け 」
(15)aの 下 降 幅 は 小さ い が 、気 をつ け て 聞 け ば 知 覚 でき る 。し た が っ て 、両 方 の 語と もB
型 で ある 可 能 性 は ある 。一 方 、本 稿 で 着 目 する 語 頭 音 節の 高 平 調 で ある が 、(15)bは 二 人 の 話 者 の発 話 が 重 な る部 分 に あ りピ ッ チ 形 を 観察 で き な い。(15)aは 、冒 頭 のnで 上 昇が あ り 、 閉 鎖 の解 放 と と も に上 昇 が 緩 やか と な る ピ ッチ 形 で 、 聴覚 的 に は 高 平調 に 聞 こ える 音 形 と な る 。
一 方、(15)の二 つ の 音 形 で もう 一 つ 注 目 され る の は 、下 降 自 体 の ピッ チ 形 で ある 。(6)b の 下 降が 典 型 的 で ある が 、 無 核型 の 語 で 下 降が あ る 場 合は 、 下 降 開 始か ら 徐 々 に下 降 が 緩 や か にな り 平 進 に 近づ く 場 合 が多 い 。 連 文 節構 造 の 前 部に 現 れ 語 頭 上昇 の な い 文節 が 後 続 す る 場合 に は 両 文 節が 平 進 に 接続 し て い る よう に 聞 こ える 。(15)の 二 つ の 音 形 は、 下 降 に 関 し ては こ の 無 核 型の 下 降 に 当て は ま っ て いる よ う に 思わ れ る 。 こ の分 析 が 正 しけ れ ば 、 大 鳥 方言 も 外 輪 式 アク セ ン ト の一 種 で あり2音 節 名 詞 の第1類 と第2類 は 合 流 して い る 、 と 見 るこ と に な る 。
こ のよ う な 無 核 型の 平 進 接 続は 、 下 降 を もた な い 低 平調 あ る い は 高平 調 の 音 形と も 共 通 す る 特徴 で あ る 。 本稿 で 「 句 頭高 平 調 を も ち下 降 の あ る音 形 」 と 呼 んだ も の は 、実 は 、 低 平 調 を基 底 形 と し て、 句 頭 部 分の ピ ッ チ が (平 進 を 保 った ま ま ) 高 い段 階 に 上 げら れ て い る も の、 と い う 分 析も 可 能 か もし れ な い 。
1.2 語 頭 の 上 昇 調語 頭 の 上 昇 調語 頭 の 上 昇 調語 頭 の 上 昇 調
語 頭音 節 の 上 昇 調は 、 後 続 音節 に 応 じ て 、HL( 厳 密に はRL)とLH( 同 じくRH)の 二つ の ピ ッチ 形 で 現 れ る。2音 節 名詞 に つ い て は、 柴 田(1953)でB型 とC型 の 二 つ に分 類 さ れ て い る語 群 を 含 ん でい る 。し か し 、『 全 国 方 言資 料』で は 、同じ 語 形 がHLとLHの 交 替形 を も つ場 合 が 観 察 され る 。こ の 二 つ の交 替 形 は、下 降 開 始の 位 置 の 違 いに よ る 交 替で あ り 、 語 頭 に高 平 調 を も つ場 合 と 同 様、 語 の 弁 別 には 関 与 し ない と い う こ とに な る 。
柴 田(1953:439)は「B型 は 原 則と し て 狭 い 母音 音 素/i/,/u/で終 わ る 語 」で あ る と して お り 、 (2)に 挙 げら れ て い る 例外 は第 2類 の「 川 」の み で あ る。ま ず 、こ の条 件 で 複 数 の出 現 例 を
も つ 語を 挙 げ る 。
(16) a. [[ア]ニ ァ[マ[ド ォ]ホ[ラ[ネ ー]ゲ ダ p68 「 婿 は窓 を 掘 ら な いで は な い か」
b. [[ア]ニ]ダ ヨ ー]ダド コ]モ[ア ッ]シ [ナ p76 「 若 いよ う な と こ ろも あ り ま す し ね 」 c. [[ア[ニ]シ テ[ユ ー バ p80f. 「(家 の)若 い 者が し て よ け れ ば」
d. [[ア]ニ]シ ル シ p81 「 若 い者 が す る し 」
い ずれ も ピ ッ チ 形で は 句 頭 音節 全 体 の 上 昇調 が 現 れ る。(16)bで は ア が や や 長 く、聴 覚的 に も 上昇 が 聞 き 取 れる 。こ れ に対 し 、(16)cは、ニ が 長 く、ピ ッチ の ピ ー ク も第2音 節 側 に 聞 こ える 。
(17) a. [[キ ュ[ー]ワ ス[ド オ[デ]ル]ヒ デ p69 「 き ょう は な だ れ の落 ち る 日 で」
b. オ レ[キ ュ]ー]ワ ユ ー ジ]ア ッ[サ ゲ p78 「 お れき ょ う は 用 事が あ る か ら」
c. [[キ ュ[ー]ワ バ]ス ー コ ン([)デ p79 「 き ょう は バ ス が 混ん で 」
(17)aとcは 、句頭 長 音 節 全 体が 上 昇 調 と なり 、上 昇 が聞 き 取 れ る。こ れ に 対 して 、先 行
文 節 があ り 、持 続 時 間 も 他の2つ よ り か な り短 い(17)bは 、キ ュー ワ の 有 声 部 の ピッ チ 形 が 文 節 全体 で 上 昇 部 のな い 下 降 調と な る 。 し かし 、 下 降 開始 ピ ッ チ は 無声 子 音 に 先行 す る 句 頭 の 部分 よ り か な り高 く 、 こ の無 声 部 分 が 「高 く な る とこ ろ 」 を 実 現し て い る 。こ の よ う な 、 上昇 が 句 頭 部 分の み で 実 現す る ピ ッ チ 形は 、(12)a-bや(13)aの よ う な 連 文 節構 造 後 続 文 節 の句 頭 上 昇 と よく 似 て い る。
語 末母 音 が 狭い2拍 名 詞 で 複数 の 出 現 例 があ る の は この2語 の み であ り 、 次の2語 は 単 独 の 出現 例 で あ る 。た だ し 、 アギ 「 秋 」 は(2)でB型に 分 類 さ れ てい る の に 対 し、LHで 現 れ て おり 、HLとLHの 交 替 であ る 可 能 性 があ る 。
(18) a. [[ア[ギ]ニ([)ナ(])レ バ p58 「 秋 にな れ ば 」
b. [[シ]ル]ワ p64 「 汁 は」
(18)a冒 頭 の ア は かな り 長 く、軋 み 音 を 伴う 非 常 に 低い ピ ッ チ か ら急 激 に ピ ッチ を 上 げ る。
ニ の 母音 は ほ ぼ 脱 落し て お り、下 降 部 分 は 短い 。(18)bは、1文 節1句 の 発 話 で、シ の 上 昇 の 後 、延 伸 さ れ た 句末 母 音 の 終わ り ま で2音節 に わ た る下 降 が 続 く 。
句 頭音 節 の 上 昇 調が 現 れ る のは 、名詞 だ け で は な く、動 詞第2類 の2音 節 の 語形 に 多 い 。
(19) a. [[ア]ル]ワ イ p77 「 あ りま す よ 」
b. [[ア]ル]ガ([)ネ]ー ガ p77 「 あ るか な い か 」
c. ホ ン[ジ ム[ミ]ル]ワイ p77 「 そ れで も 見 て み まし ょ う 」
d. [[ア]ル([)ア]ル p77 「 あ りま す あ り ま す」
(20) フ[ル]ヒ デ]フ[ル]ヒ デ p67=(7) 「 降 る日 で 降 る 日 で」
(19)の 動 詞、「 あ る 」と「 見 る 」は 、い ずれ も 第1音 節 の長 い 上 昇 の あ と 、文 節 末 まで 下
降 が 継続 す る ピ ッ チ形 と な る 。し か し 、(20)の 連 体 形 「降 る 」 は 、 ピー ク が第2音 節 側 に あ り 、LHに 聞 こ える 音 形 と なる 。 こ の 場 合も 、 次 文 節の 冒 頭 に か けて 下 降 が 実現 す る 連 文 節 構造 と な る 。
動 詞形 は 、 連 文 節構 造 の 後 続文 節 に 現 れ る場 合 が 多 い。 先 行 文 節 が無 核 の 場 合、(12)a-b の「 来 い」「 来 る 」, (13)aの「 来 る 」の よ う に 文 節 頭 で 一気 に 上 昇 が 実現 し 、第2音節 が 下 降 調 とな る 場 合 が 多い 。
次 に、語 末 母 音 が/i/,/u/で は ない に も 関 わ らずHLの 音 形 が 交 替 形 とし て 現 れ てい る 語 を 挙 げ る。
(21) a. [[ド]ゴ]ワ[リ ー]ト]モ p64 「 ど こが 悪 い と も 」 b. [[ド[ゴ]ノ]シ ョ ーモ ソ ー ダ p65 「 ど この 人 も そ う です 」
c. [[ド]コ]ガ[イ ダ ガ] p72 「 ど こに い る か 」
(21)の3つ の発 話 は 、 冒 頭 で急 激 な ピ ッ チ上 昇 が あ るこ と が 共 通 する が 、 下 降開 始 の タ
イ ミ ング が 異 な っ てい る 。(21)aは 、ピー ク が 音 節 境 界付 近 に あ り 、2音 節 が いず れ も 高 く 聞 こ える 。(21)bは下 降 開 始 がそ れ よ り 遅 く、(21)cは 早 い 。
(22) a. [[カ[マ ー]([)ミネ ー デ p74 「 鎌 が見 つ か ら な いの で 」
b. [[カ[モ]ー]チ ョ ッ([)コ]リ p74 「 鎌 をち ょ っ と 」 c. [[カ[マ ー([)モ ッテ([)キ]ダゼ ー p75 「 鎌 を持 っ て 来 た よ」
d. キ ン[ニ ャー]([)カ]マ]ダ ケ ン p75 「 切 れな い 鎌 で す けれ ど 」
(22)の4例 はい ず れ も 、 内 部に 上 昇 を も つ( 本 稿 の 立場 で は 有 核 の) 複 数 の 文節 が 作 る
連 文 節構 造 と な っ てい る 。 こ の場 合 、 後 続 文節 の 上 昇 幅は 小 さ く な るが 、 上 昇 が短 い た め に 下 降開 始 も 早 ま ると 見 ら れ 、(22)dは こ の た め にHLと 聞 き 取ら れ る と 考 え るこ と が で き る 。(22)a-cは カ マ「 鎌 」が 先 行文 節 側 で あ り第1音 節 にじ ゅ う ぶ ん な上 昇 が あ り 、いず れ もLHに 聞 こ え る音 形 で あ る が、下 降開 始 位 置 が 異 な って い る。(22)aで は 下 降 開始 が 遅 く 、 文 節 末ま で 非 下 降 の後 、 境 界 付近 で 急 激 に ピッ チ が 下 降す る 。(22)bで は 下 降 は長 い 第2 音 節 で開 始 さ れ 、下 降調 が 聞 き取 れ る 。3文 節 か ら 成 り 、文 節 の 持 続 が短 い(22)cで は 、ピ ッ チ 形で は 下 降 が ある も の の 、ほ と ん ど 聞 き取 れ ず 、 次文 節 冒 頭 で 下降 が 停 止 する 。
連 文節 構 造 の 後 続文 節 で 広 い語 末 母 音 に 先行 し て 下 降開 始 が 早 ま って い る 例 は、 第2類 の2拍動 詞 形 で も しば し ば 観 察さ れ る 。 た だし 、 こ の 環境 の 特 徴 は まず 上 昇 幅 が小 さ い と い う こと で あ り、LHに 聞 こ える 発 話 やLHで あ るかHLで あ る か の 判 断 が つ かな い 発 話 も 多 い 。
(23) a. オ]キ ア ガッ テ [[ミ[タ]バ p71 「 起 き上 が っ て み たら 」
b. オ レ ド ゴ[ミ]タ ッ ケ p71 「 わ たし の と こ ろ を見 て い た っけ 」
(24) a. [[イ[マ]キ ダ]ワ イ p79 「 い ま帰 っ た よ 」
b. カ ッ]テ キ[ダ カ ッ テ キ[ダ p79=(12)c 「 買 って 来 た 買 って 来 た 」
c. モ ッ[テ[キ]ダ p79 「 持 って 来 た 」
イ マ「 今 」 は 、19の 出 現 例 があ る 頻 出 語 で あ る が 、 ピ ッ チ 形 は い ず れ も 似 通 っ て お り 、 第1音節 全 体 が 上 昇調 と な り 、第2音 節 か ら下 降 が 開 始し 、 後 続 の 助詞 ( ノ 、 ダバ ) が あ れ ば 文節 末 ま で 下 降が 継 続 す る、 と い う 音 形に な る 。 その 中 で 、 ピ ッチ の 上 昇 幅が 小 さ い 出 現 例が 次 の2例 であ る 。
(25) a. [[イ マ]ノ コ ーミ ン]カ ン ノ[シ ョ]ジ]シ タ ヒ ド ニ p68
「 い まの 公 民 館 の 主事 を し て いる 人 と 」 b. タ ッ[タ[イ[マ p74 「 た った い ま 」
(25)aは1文 節1句で ノ に 句末 の 母 音 延 長が あ る 。上昇 幅 が 小 さ いの は 焦 点 が置 か れ な い
こ と によ る と 思 わ れる が 、下 降 幅 も 小さ く 、ピー ク が ど ちら 側 に あ る かの 判 断 が つか な い 。 (25)bは 有 核2文 節の 連 文 節 構造 で あ る が、第2音 節 への 急 な 上 昇 の後 、第4音節 ま で 小 幅
な 上 昇が 連 続 す る 。
「 今」 の 実 現 形にHLが 現 れて い な い の は、 こ の 語 が連 文 節 構 造 の後 続 文 節 とし て 現 れ に く いこ と も 関 係 して い る だ ろう 。2拍 名 詞 の 語 末 母 音が 狭 い か ど うか は 、 主 とし て 句 頭 環 境 での ピ ッ チ 形 に関 与 し て いる よ う に 思 われ る 。 こ の環 境 で は 、 語末 母 音 が 狭く な い 場 合 に は下 降 開 始 が 遅いLHでの 実 現 が 安定 し て い る よ うで あ る 。 マ ド「 窓 」の2つ の 出 現 例 は いず れ も 、(22)aと 同 様 な、 文 節 末 ま で非 下 降 の ピッ チ 形 で あ る。『 全 国 方言 資 料 』 で は 表 記に 違 い が あ るが 、 音 声 を聞 く 限 り で はい ず れ の 場合 も ド は 長 く、 音 節 末 まで 上 昇 が 続 き 下降 は 次 文 節 冒頭 と な る 。
(26) a. [[マ[ド]ア ゲ]ダ ッ テモ p67 「 窓 を開 け て あ っ ても 」
b. [[マ[ドォ]ホ[ラ[ネ ー]ゲ ダ p68 「 窓 を掘 ら な い で はな い か 」
第1音 節 が 長 音 節で 、 そ の 全体 が 有 声 の 場合 は 、 こ の音 節 内 部 で の上 昇 が 聞 き取 り や す い 。
(27) a. [[ナ ン]ブ]ユ[ダ ベ ァ p77 「 い くつ い る の で すか 」
b. [[ナ ン]ブ]デ]ウ ッテ ダ]べ p77 「 い くら で 売 っ て いる の か い 」 (28) a. [[ジ ュ ー]ゴ]シ ャ ク ク[レ ー]ワ p68 「15尺 く ら い 」
b. [[ナ ェ]デ]モ[ケ ー]テ]ユ ー ドモ p64 「 何 でも 食 べ ろ と 言う け れ ど も」
(29) a. [[ダ ー レ モ(])オ[シ ー]ヒ ド [[ネ ー]モ ン ダ モ ン [ナ ー]] p60
「 だ れも ほ し が る 人が な い も のだ も の ね え 」 b. [[ダ]レ]モ ホッ[テ]モ ラ ワ ネー]デ p71 「 だ れに も 掘 っ て もら わ な い で」
句 頭の 長 音 節 に 上昇 調 が 出 てい る 場 合 、 後続 音 節 の 母音 に 関 わ ら ず第2音 節 冒頭 か ら 下
降 が 現れ て い る 。(29)aは こ の 例外 と な っ て いる が 、第1音 節 の 母 音 の延 長 が 音 声的 な 変 異 で あ るこ と で 説 明 でき る だ ろ う。
句 頭長 音 節 を も つ語 の 冒頭Lの ピ ッ チ 形 は 、2音 節 の五 段 動 詞第2類 音 便 形(イ 音 便・撥 音 便)に も 観 察 さ れる 。
(30) a. [[ツ イ]ダ p59「 搗 く 」, [[コ イ]デ p79「 扱 く 」, [[ノン]デ p79「飲 む 」 b. [[コ ン[デ p79「 混 む」
一 方、 句 頭 長 音 節に 促 音 を 含む 場 合 に は 、促 音 に 先 立つ 短 い 有 声 部が 上 昇 調 であ る か 高 平 調 であ る か の 判 断が 難 し い。下 降 開 始 の早 いHLの 音 形 と な る の は次 の よ う な例 が あ る。
(31) a. ミ]ナ [[ウ ッ]タ[モ ン ダ]ハ ゲ p72 「 み んな 落 ち た も のだ か ら 」 b. [[オ ッ]テ ィ]キ ダ[ワ ゲ]ダ p70 「 落 ちて き た わ け だ」
(32) a. ド]キ ョ ーガ[ア ッ]ケ]ジ ャ [ナ]] p69 「 度 胸が あ り ま し たね え 」 b. [[ア[ド]サ ー [[ミ ッ]ダ]ワ[ケ]ダ p72 「 う しろ で 見 て い たわ け だ 」
2音 節の 五 段 動 詞第2類 の 促音 便 形 は 、 以下 の よ う にす べ て 下 降 開始 の 遅 い ピッ チ 形 で
出 現 して い て、第2音 節 ま で 上昇 を 保 つ こ とに よ り 上 昇調 を 実 現 し てい る よ う にも み え る。
(33) イ ッ[テ p58「 煎る 」, クッ[デ ン]ド]モ p59, ク ッ[タ] p60「食 う 」, モ ッ[タ] p63, モ
ッ[ダ] p67, モ ッ[テ]p74ff.「 持つ 」, ナ ッ[テ], ナ ッ[テ]ル p65, ナ ッ[テ p70, ナ ッ[ダ] p71「 なる 」, フ ッ[タ] p69「 降 る」, ト ッ[タ p70, ト ッ[テ p79「 取 る」, ホ ッ[テ] p71
「 掘 る」
し かし 、 明 瞭 な 句頭 音 節 上 昇調 を も つ第2類 動 詞 ト ゥー ル 「 通 る 」の 促 音 便 形は 下 降 開 始 の 遅い ピ ッ チ 形 で出 て お り 、上 昇 の 実 現 と下 降 開 始 のタ イ ミ ン グ の関 係 は 相 補的 と は い え な い。
(34) a. ア ブ ネ ー ド ゴ[[ト ゥ ー]ル]マ デ p72 「 あ ぶな い と こ ろ を通 る ま で 」 b. オ イ ラ[[ト ゥ ー ッ タ]ラ[ト ゥ ー ッ]ティ p72 「 私 たち が 通 っ た ら通 ろ う と いう 」
動 詞以 外 で 句 頭 長音 節 の 促 音に 続 き 上 昇 が持 続 す る 語は 以 下 の よ うな も の が ある 。 (35) a. [[ジ ッ[ケン]ア]マ リオ ド[サ ッ]デ p68 「10間 あ ま り 落と さ れ て 」
b. [[サ ッ[ケ]ダ キ[ダ p69, p72 「 さ きほ ど 来 た 」
(35)aは 促 音 部 分 で中 断 の ある 発 話 で あ るが 、中 断 に先 立 っ て 母 音部 分 に 明 瞭な 上 昇 調 が
あ る 。(35)bは2例と も 促 音 の無 声 部 が 短 い。
以 上の よ う に 、 大鳥 方 言 談 話音 声 資 料 の 句頭 音 節 に 上昇 調 が 現 れ る語 形 は 、 名詞 ・ 動 詞 と も 、東 京 方 言 の 語頭 核 を も つ語 に 対 応 す る語 が 多 い 。柴 田(1953)で は 下 降 の 位置 に よ っ て2音節 名 詞 がB型 とC型に 二 分 さ れ てい る が 、 下 降開 始 の 位 置 が 語 の 弁 別 に 関 与 せ ず 、
上 昇 開始 の あ る 音 節が 核 で あ ると す れ ば 、2音 節 名 詞第4類 と 第5類は 、 語 頭 核を も つ 類 と し てま と め ら れ るこ と に な る。 ま た 、 有 核の 第2類 動 詞の う ち 、2音 節 の 動 詞形 も 語 頭 核 を もつ 動 詞 形 と みな す こ と にな ろ う 。
1.3 語 頭 の 低 平 調語 頭 の 低 平 調語 頭 の 低 平 調語 頭 の 低 平 調
1.2で は、 柴 田(1953)のC類 、 つま り 、LHの 音 形 をも つ2音 節語 の う ち 、第1音 節 に 上
昇 が ある も の を 語 頭核 で あ る とし た 。 本 節 では 、 第 1音 節に 上 昇 が なく LHの音 形 を も つ も のが 1 つ の 類を 成 す こ と を 主張 す る 。LHの Lが 、 上昇 調 か そ う でな い か に よる 弁 別 が 可 能 であ る 、 と い う主 張 で あ る。
上 昇 核(昇 り 核 あ る い は 上 げ 核)を も つ 体 系 で は 、 核 よ り 前 に 位 置 す る 音 節 で ピ ッ チ が 上 昇 し ては な ら な い 。大 鳥 方 言 の談 話 資 料 で も、 長 い 語 形や 複 合 語 に この 条 件 を みた す 冒 頭 か ら の低 平 調 が 現 れて い る も のが あ る 。
(36) a. カ モ サ[レ]ル([)ヨー]ニ ナ ッ[テ p64 「 か き回 さ れ る よ うに な っ て 」 b. ジ ュ ー ニ エン[ズ]ズ]ダ ワ イ p77 「12円 ず つ で す」
c. ホ ド ゲ[サ]メ ァ p80 「 仏 さま に 」
ま た、 冒 頭 が 高 平調 と な る 無核 型 と 似 た ピッ チ 形 に なる 場 合 も あ る。 こ の 場 合も 、 語 末 側 の 核の 位 置 ま で は上 昇 が な い。
(37) a. ツ]ブ[メ]シ ワ [ナ ー]] p59 「 粒 飯は ね 」 b. ロ ク]ジ ュー[エ ン]ダ ナ ー p77 「60円 だ ね え 」
c. カ セ]ラ[ニ ェ ー]モ ン]ド p64 「 食 べさ せ ら れ な いも の と 」
大 鳥方 言 の 語 頭 核が 語 頭 音 節の 上 昇 と し て実 現 す る とす れ ば 、第2音 節 以 下 に核 が あ る 場 合 には 、 第1音 節 が非 上 昇 でな け れ ば な らな い 。 談 話資 料 に 現 れるLH の 音 形の 頻 出 語 彙 を 探す と 、 こ の よう な 非 上 昇の 第1音 節 が一 貫 し て いる 語 と し て 次の よ う な もの ( ア ガ
「 赤 ん坊 」、ア ネ 「 嫁」、 バ(ン)バ 「 婆」) が あ る。
(38) a. ア[ガ ー]イ ッ ペ ー[テ p63 「『 赤 ん 坊 は一 杯 』 と 言 っ て 」
b. ア[ガ]ニャ サ]ラ サ p63 「 赤 ん坊 に は 皿 に 」
c. ア[ガ][[ミ]サ]キダ ワ イ p81 「 赤 ん坊 を 見 に 来 まし た よ 」 d. ア[ガ]モ]ア([)ネ モ マ メ]ダ[ロ ー ガ イ p81 「 赤 ん坊 も 嫁 も 達 者で し ょ う ね」
e. ジ ョ ー ブ ダ ア[ガ]ダ ワ イ p81 「 じ ょう ぶ な 赤 ん 坊だ よ 」
f. ア[ガ]ニ]クッ デ ク レ バ]イェ シ p81 「 赤 ん坊 に あ げ て 下さ れ ば い いし 」 (39) a. ア[ネ]ダ]ド([)ギ]ダ バ p62 「 嫁 のこ ろ に は 」
b. コ リ ャ]ア[ネ]ニ]ク ッ デ ク レ]ジ ャ p81 「 こ れは 嫁 に あ げ て下 さ い 」
(40) a. バ ン[バ ン]シ デ ー ユ ー ゴ ダ バン[バ]シル シ p80
「 婆(わ た し)がし て い い こ と はわ た し が す るし 」 b. バ[バ]ーダ ッ ケ]ゲ p76 「 婆 さん じ ゃ な い か」
2拍 名 詞 第 3 類 コナ 「 粉」、 ア シ 「足 」、 トシ 「 年 」 は単 独 の 出 現 例の み で あ るが 、 語 頭
音 節 が低 平 で あ る 点は 上 記の3語 と 共 通 し てい る 。
(41) a. コ[ナ]ニ]シ デ p59 「 粉 にし て 」
b. ア]ノ ト[シ ャ ー p68 「 あ の年 は 」
c. ア[シ ー]ト ッ([)タ p71 「 足 をさ ら わ れ た ので す か 」
助 詞ノ の 接 続 に よる 無 核 化 の例 と し て 挙 げた(9)bの 「 山」、(10)bの 「 か て 」 も第 1音節 が 低 平で あ る 。 そ の他 の 第3類の 頻 出 語 彙 には 、 ド ギ 「時 」、モ ノ 「 も の」、 ゴ ド「 こ と 」 な ど もっ ぱ ら 連 文 節構 造 の 後 続文 節 に 現 れ るて い る も のが 多 い が 、 これ ら は 上 昇幅 が 小 さ く 、 全体 と し て 低 平に 聞 こ え る発 話 が 多 い 。
(1)の第4類・第5類A群 と第3類 が 合 流 して い る と され る 方 言 や 助詞 接 続 の みで 弁 別 さ
れ る とさ れ る 方 言 は、 青 森 、 秋田 、 鶴 岡 な ど報 告 が 多 いが 、 第1音 節の ピ ッ チ 形の 差 が 弁 別 的 であ る と す れ ば、 大 鳥 方 言の 場 合 は 、 前者 が 上 昇 調、 後 者 が 低 平調 で 、 そ れぞ れ 名 詞 単 独 でも 弁 別 が 保 たれ て い る こと に な る 。 アク セ ン ト 核の あ る 音 節 でピ ッ チ 上 昇が 開 始 さ れ る 体系 で あ る と みれ ば 、 前 者が 語 頭 核 の 型、 後 者 が第2音 節 に 核 をも つ 型 、 とい う こ と に な るだ ろ う 。談話 音 声 資 料 に、イ マ「 今」の 出 現 例が19ある こ と を 述 べ た が、そ の う ち の9例は 助 詞 ノ が 接続 し た イ マノ で あ る 。こ の 中 に 、(9)aや(10)aの よう な 、無 核 型 の 音形 が1例も 現 れ て い ない こ と も 、二 つ の 型 の 弁別 が 保 た れて い る と す る主 張 を 支 持す る 。
第 1 音 節 の 上昇 調 の 有 無 によ る 型 の 弁 別は 、2 音 節 名 詞 に限 ら な い 。 た と えば 、 イ[ノ] ジp70「 命 運」、 タ[マ ゴ p77「 卵」、 イ[ズ]ズ p77 「5つ 」( 但し イ ズズ グ[レ]ー 「5つ ぐ ら い」)や フダ[リ p71「2人 は 」の 第1音 節 が低 平 調 であ る の に 対 し、[[ミ[ゴ]ト p71 「 み ご と」は 上 昇 調で あ っ て 、[[ユ]ク]ジ p63「 意気 地」や[[ワ]ズ]ガ p69 「 わ ず か」と 同 様に 語 頭 核型 で あ る 可 能性 が あ る 。
1.4 体 系 の 解 釈体 系 の 解 釈体 系 の 解 釈体 系 の 解 釈
柴 田(1953)のA~C型 と の 対比 の た め 、(42)に2音 節 名詞 の 分 析 を ま と め る 。た だ し 、こ の 核 の有 無 と 位 置 に応 じ た 分 類は 、動 詞 の各 語 形 と も 共通 で あ る 。各 音 節 の 声 調を 、H( 高 平 ),L( 低 平 )、R( 上 昇 )、F( 下 降 ) で 表わ し 、 核 の ある 音 節 に は 右側 に"*"を 付 す 。"["
と"]"は 、 音 節 間の 上 昇 と 下 降 であ る 。
(42) 無 核 型 2音 節第1類 ・ 第2類 LL~H]L~HH] A型・B型
語 頭 核型 2音 節第4類 ・ 第5類 R*F~R*H] B型・C型 次 音 節核 型 2音 節第3類 L[H*(F) C型
2音 節名 詞 第4類・第5類 のU類 は 、句頭 でR*Fの 音 形 を と る 場 合 にFの 下 降 開 始 がA
類 よ りも 早 く な り やす い が 、 これ は 予 測 可 能な 変 異 で ある と 考 え る 。型 の 統 合 自体 は 、 周 辺 の 外輪 式 体 系 と 同じ で あ る 。
1.1で 、無 核 型 は 文 節 内 部 にピ ッ チ 上 昇 の現 れ な い 型で あ る と い う分 析 を 示 した 。 こ の
型 で は、 文 節 頭 側 が高 平 と な り文 節 内 部 の どこ か に 下 降が 生 じ て も 型の 弁 別 に は関 与 し な い 。一 方 、有核 型 は 、ア ク セ ン ト核 の あ る 音 節で ピ ッ チ が上 昇 を 開 始 する 。こ の 上昇 の 後 、 ピ ッ チ形 は 次 文 節 の冒 頭 ま で に下 降 し な け れば な ら な いが 、 こ の 下 降の 開 始 位 置が ど こ に な る か、 あ る い は 、ピ ッ チ 上 昇が ど こ ま で 続く か 、 が 型の 弁 別 に 関 与し な い 。 また 、 ア ク セ ン ト核 が 第2音 節以 降 に あ る文 節 の 場 合 、ア ク セ ン ト核 に 先 行 す る部 分 に ピ ッチ 上 昇 が 現 れ ては な ら な い が、 文 節 頭 側が 高 平 と な りア ク セ ン ト核 に 先 行 す る部 分 に 下 降が 生 じ て も 型 の弁 別 に は 関 与し な い 。
こ の体 系 は 、ア ク セ ン ト 核 を担 う 音 節 で 上昇 が 開 始 され る 、とい う 点 で 、「 昇 り核 」の 体 系 と みる こ と が で きる 。 し か し、 こ の 音 節 で上 昇 が 完 了す る 昇 り 核 体系 と は 異 なり 、 ア ク セ ン ト核 の 次 音 節 が核 の あ る 音節 よ り 高 い 、と い う こ とが あ り う る 。一 方 、 ア クセ ン ト 核 の 位 置で 上 昇 が 開 始し し て も よい が 、 上 昇 は次 音 節 ま で持 続 し そ こ で完 了 し な けれ ば な ら な い 、と い う 体 系 があ る と す れば 、 こ の 体 系は 「 上 げ 核」 の 体 系 と みる こ と に なる 。
つ まり 、 大 鳥 方 言の 体 系 は 、次 音 節 で 上 昇が 完 了 す る「 上 げ 核 」 体系 と 核 音 節で 上 昇 が 完 了 する 「 昇 り 核 」体 系 と の 中間 に 位 置 す ると い う 解 釈が 可 能 な の であ る 。 ア クセ ン ト 核 次 音 節の 母 音 が 広 いか 狭 い か に応 じ て 下 降 の実 現 開 始 が異 な る 、 と いう 点 は 、 旧鶴 岡 市 な ど 周 囲の 昇 り 核 体 系と 似 て い るが 、 こ れ ら の体 系 で 失 われ か け て いる2拍 名 詞第3類 と 第 4類 ・第5類A類 の 弁 別 が 大 鳥方 言 で は 名 詞単 独 で も 維持 さ れ て い る、 と い う 点を 考 慮 す
る と 、変 化 の 方 向 は上 げ 核 か ら昇 り 核 へ で あっ た 、 と みな け れ ば な らな い 。 児 玉(2017)で は 、2拍名 詞 第3類 と第4類 ・第5類A類 の 弁 別 の 喪 失を 、 上 げ 核 から 昇 り 核 への 変 化 の 進 行 が語 末 核 と 次 音節 が 狭 い 場合 に 先 行 し たこ と で 説 明で き る 可 能 性に 言 及 し たが 、 大 鳥 方 言 はこ の 仮 説 を 裏付 け る も のと な っ て い る。
2 旧 種 市 町 中 野 方 言旧 種 市 町 中 野 方 言旧 種 市 町 中 野 方 言旧 種 市 町 中 野 方 言
柴 田(1967:16)の ア ク セ ン ト の概 観 は 、2音 節 名 詞 の 各類 に1音 節 助詞 が 接 続 した 文 節 の 音 声 形の 、 東 京 方 言・ 盛 岡 方 言と の 比 較 で あり 、 こ の 体系 の 型 の 統 合が 外 輪 式 であ る こ と を 述 べて い る。( ◯ をH、 ●をLに 置 き 換 え る 。)
(43) 東 京 盛 岡 中 野
第1類(「鼻と 」) LHH LLH LHL 第2類(「橋と 」) LHL LLH LHL 第3類(「花と 」) LHL LHL HLL 第4類(「箸と 」) HLL HLL LLH 第5類(「汗と 」) HLL HLL LLH
こ の説 明 は 、柴 田(1988:425-436)に 再 録さ れ た「 ズ ー ズー 弁 で な い 東北 方 言 」(初 出: 1961) の 記 述で も ほ ぼ 同 じで 、 違 い は盛 岡 の 体 系 が岩 泉 町 安 家・ 茂 師 、 種 市町 小 子 内 と共 通 で あ る こ とが 明 示 さ れ てい る 点 と 、盛 岡 の 体 系 と中 野 の 体 系の 間 の 通 時 的関 係 に つ いて 、 両 方 向 の 可能 性 を 挙 げ てい る 点 で ある 。 後 者 に 関連 し 、 中 野集 落 へ の 移 住伝 承 に つ いて も 考 察 し て いる 。 こ れ に 対し 、 柴 田(1967)で は、 盛 岡 の 体 系 から 中 野 の 体 系へ の 変 化 を、Hの1 拍 前 ずれ で あ る と 結論 付 け て いる 。
こ の説 明 は 、 児 玉(2017)の 、 上 げ核 の 昇 り 核 へ の 変 化に よ っ てHが1拍 前 に ずれ た 、 と い う 仮説 を 取 る な らば 、Hが2拍 前 に ずれ た 、 と い う こと に な る 。Hの 前 ず れ を認 め な い 立 場 もあ る こ と を 考慮 す る と 、違 う 説 明 が 必要 で あ る 。そ こ で 、 核 の位 置 は 変 わら ず 、 核 の 種 類の み が 変 わ った 、 と い う可 能 性 を 考 える 。
(44) 東 京(下 げ 核) 盛 岡(昇 り 核) 中 野(降 り 核)
第1類 LHH LLH LHL
第2類 LH*]L LLH LHL
第3類 LH*]L L[H*L H]L*L
第4類・ 第5類 H*]LL [H*LL ]L*LH
こ の仮 説 で は、盛 岡 方 言 の 無核 型 に 接 続 する 助 詞 のHが 核 に よ る もの で は な いの と 同 様、
中 野 方言 の 助 詞のLは 核 で は ない 、と い う こと に な る 。ま た 、こ れ に先 行 す る 次 末のHも 、 有 核 型の 核 に 先 行 するHと は 異な る ふ る ま いを す る こ とが 予 想 さ れ る。一 方 、語頭 核 の]L*
は 、 上げ 核 ( 及 び 下げ 核 ) の 語末 核 が 連 文 節構 造 の 先 行文 節 に 現 れ た 場 合 ( 例 : 花]高 し ) に 発 現す る 特 徴 を もつ の と 同 様に 、 連 文 節 構造 の 後 続 文節 で 何 ら か の特 徴 的 な ピッ チ 実 現 が あ ると 考 え ら れ る。
本 節で は 、 こ れ らの 点 を 中 心に 、 談 話 音 声資 料 に 現 れる 頻 出 語 の 音形 の 変 異 を観 察 し 、 さ ら に、 こ の 体 系 が現 存 す る 降り 核 体 系 で ある 、 と い う仮 定 の も と に、 児 玉(2017)で は 下 げ 核 の先 行 段 階 と して の み 仮 定し た 降 り 核 が、 ど の よ うな 音 声 的 実 現を も ち え たか に つ い て 考 察す る 。
2.1 無 核 語 文 節 の 境 界 特 徴無 核 語 文 節 の 境 界 特 徴無 核 語 文 節 の 境 界 特 徴無 核 語 文 節 の 境 界 特 徴
中 野方 言 の 談 話 音声 資 料 を 聞い て 特 に 耳 につ く の は 、文 節 頭 が 高 い語 頭 隆 起 的な 発 話 で あ る 。こ の 点 で は 同じ 三 陸 海 岸の 宮 古 方 言 の談 話 音 声 資料 と も 似 て いる 。 し か し、 中 野 と 宮 古 で決 定 的 に 違 うの は 、 ど うい う 語 で 語 頭が 高 い か 、と い う 点 で ある 。 宮 古 方言 の 場 合 は 、 無核 語 の 文 節 頭か ら 高 い 発話 が 目 立 つ のに 対 し 、 中野 方 言 で は 長い 無 核 語 文節 は 語 頭 か ら 低平 と な り 、 文節 末 側 に 卓立 音 節 を も つ。 こ れ は 、降 り 核 体 系 に予 想 さ れ る特 徴 で も あ る 。降 り 核 体 系 では 、 有 核 語の 核 に 先 行 する 部 分 は 高く な け れ ば なら な い の で、 第2音 節 以 降に 核 の あ る 型で は 語 頭 側が 高 く 、 語 頭核 型 で は 低く な る 。 無 核型 は 、 下 降の な い 型 で あ り、 高 平 調 か 低平 調 か の いず れ か で な けれ ば な ら ない 。 低 平 調 の場 合 、 語 末音 節 の 隆 起 は 許容 さ れ る。語 末 音 節 の 後で 下 降 が あ って も 有 核 語と の 混 同 の 余地 が な い から で あ る。
(44)の2音 節 語+1音 節 助 詞 の文 節 のLH(L)は 、Hが語 末 固 定 であ る か 、文 節 次末 か の 両 様
の 可 能性 が あ る が 、談 話 音 声 資料 で 判 断 す る限 り 、無 核 型のHは文 節 に よ っ て 出現 す る 位 置 が 決ま り 、 同 じ 語で あ っ て も文 節 の 長 さ が異 な ればHの 位置 は 変 動 す る 。
(45) a. コ ド[モ]ー ]モ テ[バ [ド]ー [ナ]ー p30 「 こ ども を 持 て ば なお ね 」 b. コ ド モ[エ]モ キ[シ ェ]エ ナ カッ[タ]コッ]タ シ p32
「 こ ども に も 着 せ てや れ な か った よ う だ 」 (46) a. ツ ケ モ ン ダ ェ[コ]ー[ク ェ]テ ァ ド ン[テ p35
「 だ いこ ん づ け を 食べ た い と 思っ て 」 b. ツ ケ モ ン ダェ コ[マ]デ ー p35 「 だ いこ ん づ け ま で」
(47) a. シ ャ グ[エン]ニ[マ]ゲ デ ク ン[セ ァ]デァ ー p49 「100円に ま け て く だ さ い よ 」 b. シ ャ グ エ ン[ニ]ァ]マ[ゲ]エ[ネ ァ ガ p49 「100 円に は ま け ら れま せ ん が」
Hは 、 助 詞 の接 続 し な い 名 詞で 語 末 母 音 が延 長 さ れ てい る 場 合 の よう に 、 拍 単位 で 後 ろ
から2拍 目 に な る もの も あ る が、 次 末 音 節 全体 と な っ てい る も の も ある 。 ま た 、次 末 音 節 の 母 音が 狭 い 場 合( 無声 化 す る場 合 を 含 む )に 、次 次 末 音節 か らHが は じ ま る 場 合も あ る 。 (48) a. シ ェ ン[ダ]ク ワ シ ナ[ガ ー]ラ(])ナ ンナ カ]ベ ー[ス p30
「 裁 縫は し な け れ ばな ら な い だろ う し 」 b. シ ェ ン[ダ]ク オ シ]テ モ ラ]ウ ズ ー[コ]ド モ p30
「 裁 縫を し て も ら うと い う こ とも 」 (48)bは 無 核 型が4つ 連 続 する 連 文 節 構 造で あ り 、 後続 文 節 で は 上昇 が 聞 き 取 れ な い が 、
後 続 の文 節 と の 境 界は 下 降 に よっ て 示 さ れ る。 一 般 に 、無 核 型 の 文 節が 連 続 す る場 合 に は 文 節 末にHLが 現 れ 、 東 京 方 言の よ う な 平 進接 続 に は なら な い 。
(49) a. カ ラ[ダ]ー ジ ョ ー[ブ]ン[シ ー]ヨ ー p53 「 か らだ を じ ょ う ぶに す る よ うに 」 b. [コ]ノ オ[カ]デ シ ゴ[ド]ー[シ ッ]ト オ[ナ シ]テ p37
「 こ の陸 で 仕 事 を する の と 同 じよ う に 」 HLの 有 無 と 位 置は 、 連 文 節構 造 で 後 続 文節 の 型 に よっ て も 変 異 する 。 語 頭 核の 文 節 が
後 続 する 場 合 は、Hが 語 末 音 節に 現 れ る。核 が 文 節第2音 節 に あ り、頭 音 節がHと なる 場 合 は 、Hが 現 れず 、 先 行 無 核 型文 節 全 体 が 低平 調 と な る。
(50) a. ク ラ[グ]ナ レ バ p51 「 暗 くな れ ば 」
b. ク ラ グ[ナン]ネ ー ヒ ッ p51 「 暗 くな ら な い う ちに 」
(51) a. コ メ[ノ]ケ ァ モ p34 「 米 のか ゆ も 」
b. コ メ ノ[ケァ]コ デ モ p34 「 米 のか ゆ で も 」
(51)の コ メ「 米 」は 、2音 節 名詞 第3類 で ある が 、助 詞 ノが 接 続 し て 無 核 文 節 とな っ て い
る 例 であ る 。
連 文節 構 造 の 後 続文 節 が 語 頭核 を も つ 場 合 の 先 行 文 節 末 のHは 、 次 節 で 述 べ る よ う に 、 先 行 文節 が 無 核 型 では な い 場 合で も 出 現 し てお り 、 む しろ 降 り 核 と して の 語 頭 核に 結 び 付 け ら れる 特 徴 で あ って 、 無 核 型の 特 徴 と 分 析し な い 可 能性 も あ る 。
つ まり 、 文 節 末にHLが 出 現す る 場 合 は 、句 末 で あ るか 、 あ る い は後 続 文 節 が無 核 型 と な る 連文 節 構 造 と いう こ と に なる 。後続 文 節 が 有 核 で 核が 文 節 第3音節 以 降 に ある 場 合 は、
後 続 文節 の 頭 音 節 がや や 低 く 核の 先 行 音 節をHの ピ ー クと す る 上 昇 とな る が、こ の 前 の無 核 型 文節 に 現 れるHLに つ い ては 、 句 末 で ない と 判 断 でき る 例 が 談 話資 料 に は みあ た ら な か っ た。(52)bは 、ア タ リ 「 当時 」 の 核 の 位置 を 含 め さら に 検 証 が 必要 な 例 で ある 。
(52) a. ソ[ノ]ジッ キ ワ p33 「 そ のと き は 」
b. ソ ノ ア[タ]リ ァ ド ー p36 「 そ の当 時 は 」 2.2 語 頭 核 語 文 節 の 境 界 と 語 頭 核 の 反 線 状 性語 頭 核 語 文 節 の 境 界 と 語 頭 核 の 反 線 状 性語 頭 核 語 文 節 の 境 界 と 語 頭 核 の 反 線 状 性語 頭 核 語 文 節 の 境 界 と 語 頭 核 の 反 線 状 性
(43)で2音 節名 詞 第4類 ・第5類 に 記 録 され て い る 右端 のHは 、 助 詞 で あ る ので 、 無 核
の第1類・第2類 の 次 末 のHと 同 様 、アク セ ン ト 核 で はな く 文 節 末 に結 び 付 け られ る も の で あ る。 中 野 方 言 の語 頭 核 語 は、 文 節 内 部 に下 降 が な く、 上 昇 が 現 れる 場 合 は 文節 末 側 に 限 る 、と い う 点 で 無核 語 に よ く似 て い る 。 違い は 、 語 末側 に 現 れ る 上昇 が 無 核 語の よ う な HLでは な く 、Hで あ る 、 と いう 点 と 、 このHが 出 現 する 環 境 で あ る。
上 昇の な い 低 平 な音 形 は 、 典型 的 に は 連 文節 構 造 の 先行 文 節 に 現 れる 。 こ の 場合 、 後 続 文 節 が低 く は じ ま る無 核 型 や 、核 が 第3音 節以 降 に あ る語 中 核 型 の 場合 に は 、 文節 境 界 を 示 す よう な ピ ッ チ の下 降 や 上 昇が な い 平 進 接続 と な る 。
(53) a. ]エ マ ノ フ ッ[ト]ァ p31 「 い まの 人 は 」 b. ]イ マ ド ア チ[ガ ッ]テ p31 「 い まと は 違 っ て 」
(54) a. ]テ デ コ[サッ]テ p31 「 手 で作 っ て 」
b. ]テ デ[バー]リ p31 「 手 でば か り 」
(55) a. ]ミ デ キ[レ]ン ]ネ p52 「 見 てく れ よ 」
b. ]メ ン[ドー]ミ テ ク ン[セ]ー p45 「 め んど う を み て くだ さ い 」
低 平と い っ て も 、厳 密 に 言 えば 語 頭 音 節 がや や 低 い もの や 、 全 体 とし て の 上 昇が 観 察 さ れ る もの も あ る 。た と え ば、(53)aは 、冒 頭 の エ が 低 平 で、次 音 節 との 間 に 急 な 上昇 が あ る 。 こ の よう な ピ ッ チ 形は 、 文 節 末が 高 い と い うよ り は 、 アク セ ン ト 核 のあ る 音 節 を低 く す る と い う力 が 働 い て いる よ う に も思 わ れ る 。 しか し 、(55)の よ う に、 冒 頭 の 低 め がほ と ん ど 知 覚 でき な い 発 話 もあ る 。
文 節末 音 節 が 明 確に 高 い の は、 こ の 音 節 が句 末 音 節 であ る 場 合 と 、連 文 節 構 造で 後 続 文 節 が 語頭 核 を も っ てい る 場 合 であ る 。 ま ず 、句 末 音 節 の例 を 挙 げ る 。
(56) a. ]ナ ナ シ ロ[モ ]ナ ナ シ ロ]ハ ン[モ p37 「7尋も7尋 半 も 」 b. ]サ ン ジ ョ ー[モ]シ ショ ー[モ p42 「3升も4升 も 」
c. ト[ナ]リ]ノ]バ[バー ]ハ[エ ー]ナ]モシ p44 「 隣 のば あ さ ん 早 いね 」
(56)aは 、 最 初 の 出現 例 の 語頭 の ナ が 低 い。(56)bの サ ン は むし ろ 下 降 気 味 で、 次 音 節 か
ら 上 昇に 転 じ る 。(56)cは、「 早 い 」が 強 調 的 な 発 話 とな っ て い る が、 語 頭 側 のハ を 低 く す る こ とに よ っ て ピ ッチ 上 昇 の 幅を 広 げ て い る。「 降 り 核」の 実 現 とし て 、こ の よう な ピ ッ チ 低 下 の場 が あ る 、 とい う 点 も 、無 核 型 と の 違い と な っ てい る 可 能 性 があ る 。 こ れと の 関 連 で 興 味深 い の が 、 次の ピ ッ チ 形の 異 な る 発 話例 で あ る 。
(57) a. ]イ ギ[ツ[ガ]ネ ァ ガ p38 「 息 をつ か な い が 」
b. イ ギ ー ツ カ[ネ]ァ]ノ ダ モ]ノ p43 「 息 をつ か な い の だも の 」
(57)aで は 、 低 平 な語 頭 音 節が 第2音 節 より 低 い が 、(57)bの 連 体修 飾 構 造 の、 女 性 話 者
に よる2回 の 発 話 では 、 修 飾 部の 次 末 拍 ま で低 平 な 発 音と な り 、 全 体と し て 無 核型 に 統 合 し て いる よ う に み える 。た だ し、先 行す る 男 性 話 者 の 同じ 構 造 の 発 話で は 、動 詞 側 は(57)b と 同 じで あ る が 、 語頭 の イ か らの 上 昇 が あ る点 で は 中 間的 で あ る 。
連 文節 構 造 で 後 続文 節 が 語 頭核 を も つ 場 合に は 、 先 行文 節 が 無 核 型の 場 合 と 同様 に 、 語 頭 核 型の 文 節 で も 文節 末 音 節 が高 く な る 。
(58) a. ]ヨ[グ]ヘァ[グ]キ テ p51 「 よ く早 く 帰 っ て 」
b. ]ヘ ァ ッ[テ]ヘ ァ[グ]マ ン[マ ー]グ ッ ト[ゴ]ゼ ァ p51
「 は いっ て 早 く ご 飯を お 食 べ なさ い 」 後 続文 節 が 語 頭 核を も つ 連 文節 構 造 は、「 ~ て く る」「 ~て み る 」な どの 補 助 動詞 構 文 や、
「 ~ など 」「 ~ ぐ ら い」な ど の 付属 語 構 文 の 例が 多 い。こ れ ら は、先 行 文 節 の 型 に関 わ ら ず 先 行 文節 末 に 上 昇 があ る 。
(59) a. ハ[ダ]オッ テ p31 「 機 を織 っ て 」
b. ]マ マ デ[モ]ク テ p53 「 ご 飯で も 食 べ て 」
c. [ヌ ー]ガ[オ]ク タ ン]ダ]モ]ノ p33 「 ぬ かを 食 べ た も ので す よ 」 (60) a. カ ッ[テ]キ テ ケ ト[ゴ]ザ ェ p51 「 買 って き て く だ さい 」
b. ]ト ッ[テ]ク ッ ケ]ジョ p38 「 取 って 来 た も の です よ 」 c. [ク]グ ッ[テ]ク レ バ p38 「 も ぐっ て 来 れ ば 」
(61) a. サ カ[ナ]ナ ゾ ア p34 「 魚 など は 」
b. ]サ ン[ベァ]グ レ ァ p35 「3ば いぐ ら い 」 c. ]エ マ ノ ヒ[ト]ヨ ッ[カ p38 「 い まの 人 よ り は 」
こ のよ う に 、 連 文節 構 造 の 後続 文 節 の 語 頭核 が 先 行 文節 の 語 末 音 節を 高 く す る働 き を も っ て いる こ と は 、 上野(1975)の 「(高)低 核」、 後 の 「 降 り核 」 の も つ 「反 線 状 性 」を よ く 示 し て いる 。
2.3 語 中 核 の 実 現 形語 中 核 の 実 現 形語 中 核 の 実 現 形語 中 核 の 実 現 形
中 野方 言 の 談 話 資料 に 出 現 する2音 節第3類 の 名 詞 には 次 の よ う なも の が あ る。
(62) a. [コ]メ p33f.「 米」、 [ヌ ー]ガ p33「 糠 」、[ダ]シ p34「 出 汁 」、[カ(])ギ p42「 鉤 」、 [ハ]マ p42「 浜」、[エ]ー p44,p51「 家 」
b. コ メ(ノ) p34 「米 」、 ア ミ(ノ) p42 「 網 」 c. モ]ノ 「 もの 」、 ゴ]ド 「 こ と」
(62)aの 各 語 は 、 いず れ も 句頭 で 、 第1音節 が 冒 頭 から 高 い 高 平 調と な る。「 鉤 」 は、 後
続 文 節の]モ ッ テ の語 頭 核 に 助詞 を 介 さ ず に接 続 し て おり 、そ の た め に第2音 節 の下 降 が 小 さ く なっ て い る が 、こ の 例 を 除く と 、 核 の ある 第2音 節 は急 激 な ピ ッ チ 下 降 が ある 。 出 現 例 の 多い(62)cは 、専ら 連 文 節 構造 の 後 続 文 節に 現 れ る が、語 頭 の 上 昇を 欠 く も のが あ っ て も 、第2音 節 へ の下 降 は 低 い ピッ チ で も ほ ぼ聞 き 取 れ る点 が 特 徴 的 であ る 。ゴド は 、「 い い こ と 」で の 出 現 例 が多 い が 、 ピッ チ 形 の 異 なる も の が ある 。
(63) a. ]イ[ー]ゴ]ド ー シ ダ ー p45 「 う まく い っ た 」
b. ]エ ー[ゴ]ド ]エ ー[ゴ]ド p52 「 い いこ と い い こ と」
c. ]エ ー[ゴ]ド[ォ シ タ [ナ]ー p52,p55 「 い いこ と を し ま した ね 」
3音 節以 上 の 名 詞 で第2音 節 にア ク セ ン ト 核 が あ る もの と し て は 、[メ]ガ ネ ~[ミ]ガ ネ p38f.「眼 鏡 」と[マ]ナ ク ~[マ]ナ コ「 眼 」p33,p38 に そ れ ぞれ3回 の 出 現 例 が ある 。い ず れ
も第1音 節 は 高 平 調と な る 。 アク セ ン ト 核 のあ る 第2音節 は 下 降 調 とな る が 、 下降 は こ の 音 節 で終 わ り 、第3音 節 と そ れに 続 く 助 詞 は非 下 降 と なる 。 下 降 に 関し て 第2音節 に 際 立 ち が ある こ と も 、 先行 音 節 に 核を 置 く 下 げ 核と 見 る の では な く 、 こ の音 節 の 降 り核 と 見 た ほ う がよ い と す る 根拠 の 一 つ とな る 。
3音節3拍 の 名 詞 で 語 末 に アク セ ン ト 核 によ る 下 降 が出 て い る も のは 、 そ れ ぞれ 単 独 例
で あ るが 、 オ[ド]ゴ p30「 男」、 ナ[ガ]ラ p36「(長い1本 の)ま ま 」が あ る 。 いず れ も 冒 頭 の2音節 は 上 昇 調 で、 ア ク セ ント 核 の あ る第3音 節 で 下降 す る 。 オ ドゴ の 語 末 音節 に は 、 ほ ぼ 同じ ピ ッ チ で 平進 の 助 詞 ヨリ 「 よ り 」 が接 続 し て いる が 、 こ の 助 詞 が]ヨ ッ カ 「 よ り 」 と 同 様語 頭 核 を 持 って い る ア クセ ン ト 単 位 であ る の か 、ア ク セ ン ト 核を も た な い付 属 語 で あ る のか は 、こ の 資 料 だ け で は判 断 で き な い。ナ[ガ]ラ は 接 続 す る 助詞 デ「 で」が 高 い が、
こ の 上昇 は 句 末 イ ント ネ ー シ ョン に よ る と みら れ る 。
2音節3拍 の 名 詞 と し て は 、[ケ ァ]コ p34「 か ゆ」、[ソ ー]ヨ p35「 醤油 」、[テ]ァジ p55
「 大 事」 が あ る が 、下 降 開 始 位置 の 違 い が 弁別 的 か ど うか は さ ら に 検討 が 必 要 であ る 。 動 詞第2類 の3拍以 上 の 語 形や 、第2類 に 助 動 詞(「た い 」「 れ る」「 ら れ る」「 さ る 」「 え る」) の 接 続し た 文 節 は 、 す べて 語 中 核 型 とな り 、 語 頭か ら の 上 昇 が観 察 さ れ る。 ま た 、4 拍 以 上の 複 合 名 詞 でも 語 中 核 型と み ら れ る 名詞 は 多 い 。た だ し 、 本 稿で は 形 態 論的 な 予 備 分 析 は行 な わ な い 。
2.4 通 時 的 な 解 釈通 時 的 な 解 釈通 時 的 な 解 釈通 時 的 な 解 釈
中 野方 言 を ( 下 げ核 で は な く) 降 り 核 体 系と 分 析 す る根 拠 は 、 以 下の3点 で ある 。 (64) a. 句 頭 の 語 頭 核が 核 音 節 の ピ ッチ を 下 げ る 傾向 が あ る 。
b. 連 文 節 構 造で 後 続 文 節 の 語 頭核 が 先 行 文 節の 文 節 末 音節 を 高 く す る逆 行 的 ( 予期
的 ) ピッ チ 変 化 が ある 。
c. 語 頭 核 音 節 のみ で 下 降 が 継 続し 、 次 音 節 以降 は 「 低 」で あ っ て も 非下 降 で あ る。
も しも こ の 分 析 が正 し い と すれ ば 、 上 野(1975)で 提 案さ れ た4種 のア ク セ ン ト核 の す べ て が 現代 の 日 本 語 方言 に 確 認 され た こ と に なる 。 ま た 、昇 り 核 方 言 に囲 ま れ て 降り 核 体 系 が 維 持さ れ て い る 、と い う 地 域的 分 布 も 、 日本 語 ア ク セン ト 史 を 考 える う え で 重要 な 手 が か り とな る と 考 え る。
以 上の 分 析 で は 、ア ク セ ン ト型 の 類 の 統 合や 、 そ れ ぞれ の 型 の ア クセ ン ト 核 の有 無 と 位 置 は 、中 野 方 言 で も周 辺 の 昇 り核 方 言 で も 同じ で あ る 、と 仮 定 し て いる 。 変 化 が起 き た の