• 検索結果がありません。

幼児の他者の情緒認知における性差

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "幼児の他者の情緒認知における性差"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

幼児の他者の情緒認知における性差

著者 今井 靖親, 広瀬 登志子

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 14

ページ 73‑78

発行年 1978‑03‑25

その他のタイトル Sex Differences in the Judgement of Emotion in Kindergarten Children

URL http://hdl.handle.net/10105/6395

(2)

幼児の他者の情緒認知における性差

今井 靖親・広瀬登志子

  (心理学教室〕    (大和郡山市立片桐幼稚園)

 人が他者の情緒状態を認知する場合、男子と女子の間には顕著な能力差が存在するであろうか。

対人認知(Pers㎝Per㏄pti㎝)の発達に関する従来の研究において、このような性差の有無がし ばしば問題とされてきたが、一致した結果は得られていない。たとえば、Borke(1971)、Bo出㎝・

be㎎(1970)の研究では、性差は見い出されなかったが、Dimi位。vsky(1964)、星野(1969)、

Borke(1973)では、男子よりも女子のほうが他者の情緒を認知する能力が高いことが見い出され ている。いっぽう、今井(1974)の研究では、女子よりも男子のほうがすぐれているという結果 が報告されている。

 ところで、上記の諸研究は被験者自身の性の差異のみを問題としたものであったが、他者の情 脂認知における性差をより厳密に検討するために、Fes冊ach&Roe(1968)は、被験者の性と 物語の主人公の姓との類似・非類似という観点から研究をおこなった。彼らは他者の情緒認知と それに対する反応を区別して扱い、前者に関しては、被験者に「主人公はどのように感じている か」、後者に関しては、「あなた(被験者自身)はどのように感じたか」と問い、被験者の言語 報告を求めた。その結果、前者では他者の情緒認知における正しい反応に性差は見い出されなか ったが、後者では性差が認められた。すなわち、被験者の性と主人公の姓とが同じ場合には、認 知した他者の情緒に適切に反応する行動が促進されるということが明らかにされた。また、今井・

桶本(1973〕も幼児を対象として、被験者の性と主人公の姓との類似・非類似という観点から他者 の情緒認知における性差の有無を検討した。その結果、たとえ被験者の性と主人公の性が同じで あっても、他者の情緒認知を促進する要因とはなりえないことを見い出している。しかしながら、

Feshbach&R㏄(1968)は、同性(男子の被験者一男子の主人公,女子の被験者一女子の主人公)の 平均点の合計と異性(男子の被験者一女子の主人公,女子の被験者一男子の主人公)の平均点の 合計とを比較して性差の検定をおこなっているにすぎず、今井・桶本(1973)の研究では、被験者の 性と物語の主人公の性の要因にもとづいて性差の検討が行なわれているが、情緒の種類の要因は 考慮されていない。そこで、本研究では、被験者の性と相手(物語の主人公)の姓との類似・非 類似の要因のほかに、情緒の種類の要因をも組み合わせて、幼児の他者の情緒認知において性差 が見い出されるか否かを検討する。

Sex D附erences in tlle J㎜dgeme皿t o{Emotion in KindergartGn ChildreIl

Yas㎜chIk3Imal D叩art㎜e11t of Psyc止。logy,Nara Unwers1吋。f Ed凹。atlo皿,Nara Toshiko Hirose Katagiri Ki皿dergaI・ten,Yama㎞koriyama

(3)

方        法

(1)実験計画 2(被験者の性:男児、女児〕×2(物語の主人公の性:男児、女児)×4(情 緒の種類:喜び、悲しみ、怒り、恐れL

 (2)被験者 奈良市内の幼稚園児 男女各30名、合計60名。平均年齢は5歳8か月である。

 (3)実験材料 喜び、悲しみ、怒り、恐れの4つの情緒場面を鈷述した短い物語と、その物語の 具体的場面を描写した3枚1組の刺激図版を、各情緒ごとに2種類ずつ、合計8種類(1枚の図 版の大きさは、19㎝×27㎝)。ただし、物語の主人公が男児の場合と女児の場合があるので、図版 の数は合計48枚。

 (4)手続き 実験は個別におこなわれた。実験者は初めに1組の短い物語を話して聞かせ、同時 にその物語の具体的場面を描写した3枚1組の刺激図版を呈示した。3枚めの図版を呈示し終る と、各被験者に対し、物語(図版)の主人公の情緒状態について言語報告を求めた。このような 手続きが各被験者について合計16回くり返された。被験者の言語報告は記録用紙に逐語的に言己人 された。なお、各情緒場面の呈示順序はランダムであった。

 本実験における教示は次のとおりである。

 実験の初めの教示:「これからO○ちゃんに短い紙芝居を見せます。よくお話を聞いていてく  たさいd

 1組の物語(図版)呈示後の教示:「このお話の中に出てきた「こうじくん(さっちゃん)』

 =物語の中の主人公の名前=は、どんな気持ちがしたでしょうか。どんな気持ちだったか言っ  てくださいd

 (5)採点方法 被験者が物語の主人公の情緒を的確にとらえた表現をしている場合には2点を与 え、主人公の情緒を的確にはとらえていないけれども、全く誤った回答とも言えない表現には1 点を与え、誤答や意味不明の表現には0点を与えた。たとえば、恐れの情緒場面を隷述した物語 にする反応において、「こわい」という回答には2点を与え、「泣きたい」とか「いやな気持ち」

という回答には1点を与えたが、「たたかった」とか「怪獣の気持ち」というような回答はO点 とした。これにより、各被験者の得点はO点から32点の範囲に分布する。

結       果

表1は性別・情緒別の平均得点と標準偏差を示したものである。

表1 性別・情緒別平均得点と標準偏差 人公の性

エ  措

検業者の性 喜 び 怒 り 悲しみ 恐 れ 喜 び 怒 り 悲しみ 恐 れ

XSD 2,23 P.41

1,97  2,00 P,37  1.44

1,90 P.47

2,43 P.45

1,43 P.09

1,97 P.33

2,20 P.30

xSD 2,90 P.39

1.0①  2,03

P,21  1.47

2,87 P.45

2,83 P.29

0,90  2,53 P,16  1.26

2,43 P.50

(4)

 これにもとづいて2(被験者の性)×2(物語の主人公の性)X4(情緒の種類)の分散分析 をおこなづたところ、情緒の主効果(F=14.40,ψ=3,174,P〈.01)、被験者の性と情緒の 交互作用(F:4.65,ψ=3,174,P〈.05)、主人公の性と情緒の交互作用(F=2.79、ψ=

3,174,P<.05)、被験者の性と主人公の性と情緒の交互作用(F…4,66,ψ=3・174・Pく・05)

が有意であった。しかし、被験者の性の主効果、主人公の性の主効果、および被験者の性と主人 公の性の交互作用は有意ではなかった。

 図1には、情緒別被験者の性別の成績を示し  3

た。

 喜びにおいては、被験者が男児であるよりも 女児であるほうが得点が有意に高く(!=2.59,

      2

d∫=232,P〈.01)、怒りにおいては、女児より        平

も男児のほうが有意に高く(一=3.66,ψ=232,

       均

P〈.001)、恐れにおいては、男児よりも女児        衛

のほうが有意に得点が高かった(一=2.93,ψ=  1        点

232,P<.01)。しかし、悲しみにおいては、男女 の得点の間に有意差は認められなかった

口■

■● 続検験験育者男女子子 ■●■

■■■

o

 害ぴ    怒り   悲しみ    恐れ

    構   絡

図1 情緒別・被験者の性別平均得点         韓 P〈.01, P〈.001  図2には、物語の情緒別主人公の性別の成績

を示した。

怒りにおいては、主人公が女児であるよりも男 児の時のほうが得点が有意に高く(!=3.25,

df=232,P<.001)、悲しみにおいては、主人 公が男児である時よりも女児である時のほうが 有意に高かった(参=2.39,ψ=232,P<.05)。

しかし、喜びと恐れにおいては、主人公の性に よる有意差は認められなかった。

 2

点】

      0

       書ぴ    恩り   悲しみ    恐れ

      柵   絡

      図2 情緒別・主人公の性別平均得点        Pく.05、,念Pく.01

 表2は被験者の性と主人公の性について、同性・異性別、情緒の種類別に平均得点と標準偏差 を示したものである。

口■睾享 麦夫

公 公 .

■■■

(5)

表2 同性異性別・情緒別平均得点と標準偏差

情緒

同  性 異  性

喜  び ヌ   SD

2,53 2.67

怒  り    悲 しみ X   SD    X    SD

1,39    1,44    1,35    2,27 1,39    1,22    1,24     2.00

恐   れ X    SD

1,37     2,17     I.50 1,40     2,53     1.42

 これにもとづいて一検定をおこなったところ、喜びにおいては、同性よりも異性のほうが(一

=5.78,〃=30,P<.OO1)、怒りにおいては、異性よりも同性のほうが(一:4.97,〃=30,

P<.001)、悲しみにおいては異性よりも同性のほうが(!=4.82,d∫=30,P<.001)、恐れ においては、同性よりも異性のほうが(t=5.28,ψ=30,P〈.001)それぞれ有意に得点が高

かった。

考       察

 従来の研究(たとえば、Rothenbe㎎1970,Borke1971,今井・桶本1973など〕において、性 差が認められなかったのは、情緒の種類を考慮に入れずに性差を見い出そうとした方法に原因が あったのではないかと考え、本実I験では、被験者の性と物語の主人公(他者)の性の要因のほかに、

情緒の種類の要因も加えて、他者の情緒認知における性差の有無を検討した。その結果、幼児の 他者の情緒認知において、情緒の種類の要因をこみにして処理した場合には、性差は見い出せな いが、情緒の種類の差異にもとづいて分析した場合には、性差のあることが明らかにされた。

 まず、図1に示したように、物語の主人公の性をこみにして、各情緒場面ごとに、被験者によ る性差の有無を調べてみたところ、喜びと恐れでは、男子より女子のほうが有意に得点が高く、

怒りでは女子より男子のほうが有意に得点が高かった。

 他者の情緒認知における性差について、Dimitmvsky(1964)は、「6歳から12歳までの子ど もは、女子のほうが男子よりも情緒表出の識別力がすぐれているが、これは、女子のほうが情緒 刺激に対する注意力が敏感であるためであろう」と説明している。いっぽうBorke(1971,i;73)

は、家庭における親の養育態度や生活習慣の影響を重視している。わが国において、一般に女子 に対しては、感受性が豊かで、おとなしい子どもであるように、男子に対しては、たくましく活 動的な子どもであるようにといった、いわゆる「男の子らしさ」「女の子らしさ」への文化的・

社会的期待が存在し、現実にそうした価値観にもとづいた養育がなされている。このような事実 を考慮するならば、乳児期よりの子どもたちの性役割行動の差異が、本実験において、上言己の如 き性差となって表われたと解釈することも可能であろ㍉

 次に、被験者の性をこみにして、各情緒場面ごとに、物語の主人公による性差の有無を調べて みたところ、図2に示したように、悲しみでは主人公(他者)が女子であるほうが情緒の認知が 的確になされ、怒りでは主人公(他者)が男子であるほうが、より的確に認知される傾向が認め

られた。この結果については、次のような解釈が可能ではなかろうか。すなわち、5歳の幼児に

(6)

も、すでにある程度、男女それぞれに対する性的特徴や性役割に関する社会通念的な対人認知能 力が形成されていて、判断者自身の性には関係なく、相手(他者)が男児であれば、「男の子は 行動が活発で攻撃的である」ととらえ、また相手が女児であれば、「女の子はたやすく悲しい気 持になりやすい」と考える傾向が強く、こうしたとらえ方が、本実験の怒りと悲しみの場面にお ける他者の情緒認知に影響を及ぼしているのかもしれない。

 次に、表2に示したように、被験者(自己)と物語の主人公(他者)の性の組合わせについて、

男→男、女→女の組合わせを「同性」とし、男→女、女→男の組合わせを「異性」として、各情 緒場面ごとの得点を比較してみたところ、怒りと悲しみでは同性向土のほうが有意に得点が高く、

喜びと恐れにおいては、異性向土のほうが有意に得点が高かった。Feshbach&R㏄(1968)は、

被験者の性と主人公の姓とが同じ場合(すなわち同性の場合〕には、他者に対する共感的行動が 促進されると報告しているが、本実験の結果からみると、怒りと悲しみにおいては、彼らの実験 結果と同様に、被験者と主人公とが同性であることが、他者の情緒認知を高める要因となってい ると思われる。しかし、本実験では、さらに、喜びと恐れにおいては、両者が異性向土である場 合のほうが、同性向土である場合よりも、有意に得点が高いという新たな結果が得られている。

 以上、考察したように、本実験によって、幼児が他者の情緒を認知する場合には、情緒の種類 によっては、さまざまな点で性差が見い出されることが明らかにされた。

要        約

 本研究の目的は、幼児が他者の情緒を認知する際に、各情緒場面ごとに反応に性差があるか否 かを比較検討し、対人認知における認知者と披認知者との関係要因を明らかにすることであった。

 被験者は幼稚園5歳児60名(男児30名、女児30名)であった。実験はすべて個別的に実施され た。まず、各被験者は喜び、怒り、悲しみ、恐れの情緒が容易に感じとれるような物語(各情緒 2種類すっ)を聞かされ、同時に物語の内容を描いた3枚1組の図版を見せられた。図版は主人 公が男児の場合と女児の場合の2種類が用意されていた。それぞれの物語(図版)を呈示した後、

実験者は被験者に物語の主人公の気持を言語で述べるように求めた。

 おもな結果は次のとおりであった。

 (1)情緒の種類を考慮に入れない場合には、他者の情緒認知における性差は見い出せなかった。

 そこで、情緒の種類ごとに得点を検討した結果、(2〕喜びと恐れでは、被験者が男子であるより  も女子であるほうが成績がよく、怒りではこの逆であった。(3)悲しみでは、物語の主人公(他  者)が女子である時のほうが成績がよく、怒りでは反対に男子である時のほうが成績がよかった。

 (4)被験者の性と主人公(他者)の姓とを組合わせた場合には、①喜びでは女→男、女→女の組  合わせが、②怒りでは男→男の組合わせが、③悲しみでは女→女の組合わせが、④恐れでは女  →男の組合せが、それぞれ他の組合わせよりも有意に得点が高かった。(5〕怒りと悲しみの情緒  場面においては、被験者と物語の主人公(他者)とが同性であったほうが、両者が互いに異性  である場合よりも高い得点が得られた。しかし、喜びと恐れの情緒場面にゃいては、両者が互

(7)

いに異性であったほうが、同性であるよりも高い得点が得られた。

引  用  文  献

B・・k・,H.19711・t・叩…㎝・lp・・㏄pti㎝・〜㎝㎎・hild・㎝:Eg㏄㎝t・i・m… 叩・thy?

 Dewlpm.PsychoL,5,2,263・269.

Borke,H.1973The deve1op㎜e皿t of empathy i皿C11i11ese and America血。hiId舵n betw−

 eentllreeaIldsixyearsofage:Across・c山1価mls血dy Deveb㎜・PsychoL・9,1,102・108・

Dim伽。wsky 1964The abili吋to identify出e emotional㎜eanhg ofvoc31expressioIl at  s凹。cessive age levels.h Davit7J.R.(Ed。)The comm凹nication of emotional㎜eaning  Mc Gmw−Hill.

Feshbaoh,N,D. &Roe,K. 1968 E㎜脾t11y㎞six・and sevenツear−olds Child

 Deve1pm.,39,133−145.

星野喜久三 1969 表情の感情的意味理解に関する発達的研究 教育心理学研究 17,90−1O1、

今井靖親・桶本真也 1973 幼児の共感性に関する実験的研究 奈良教育大学紀要 22,1,

 185−193.

今井靖親 1974幼児・児童における共感性の発達 奈良教育大学紀要 23,1,231−239.

Rot11enberg,B.B. 1970Childre11 s sociaI sensitivi蚊and the re−ationship to interperso・

 11al competence,inte叩erso皿31com{oI・t,a皿d intellec血al level Develpm.PsychoL,2,3,

 335−350.

付言己 本研究にご協力くださった奈良保育学院附属幼稚園と奈良教育大学附属幼稚園の 先生方、ならびに園児の皆さんに心から感謝します。

参照

関連したドキュメント

被験者は,実験に支障をきたさない聴力を有する大学 生および大学院生 15 名(男性 9 名,女性 6

社会的比較と自己理解,他者理解の相関関係

若尾良徳 *

先述したように、 対人苦手意識は 「特手の他者に対する否定的感情と消極的な態度の総称」 であり、 苦 手な他者してどのように感じるのかを尋ねると、 「嫌い」

感情認知測定については、保育園で各幼児との面接によっ

の不全状態を反映する指標であり,両者の脳的基礎が異なることによるものと考えられる。

 手続き  実験は個別的に行なわれた。実験者と被験者が机をはさんで向かい合いにずわり、名

佐伯が指摘する保育の目標における 情緒 性の問題と