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苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒の差異

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Academic year: 2021

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問 題

身近な人間関係をふりかえってみたとき、 特定の誰かのことを考えると、 なぜか気が重くなってしま うような相手がいる。 たとえば、 その人を避けたい、 関わりたくない、 一緒にいるとなぜか居心地が悪 いような相手である。 そのような他者との関係は、 煩わしいものであり、 時として大きなストレッサー にもなり得る。 一般的に、 このような他者との関係は 「苦手」 として認識されており、 中学生 (日向野・

小口, 2002a) と大学生 (日向野, 2008) の6割以上において、 苦手な同性の同級生がいることが明ら かになっている。 また、 職場においても、 苦手意識は多くの労働者を悩ませていることが示されている (上杉, 1996;日向野・小口, 2002b)。 労働者健康状況調査 (厚生労働省, 2008) においても、 男性で は30.4%、 女性では50.5%の人が、 職場の人間関係を強い不安や悩み、 ストレスの原因として挙げてい る。 苦手意識が最も問題になりやすいのは職場の人間関係である (上杉, 1998) と指摘されていること から、 そのような不安や悩み、 ストレスの中には、 苦手な他者との関係に起因するものが含まれると考 えられる。 したがって、 特定の他者に対する苦手意識は、 年齢や社会的な発達段階にかかわらず、 日常 的に多くの人が体験し、 多かれ少なかれ厄介なこととして認識されているものであろう。

日向野・堀毛・小口 (1998) は、 特定の他者に対する苦手意識を対人苦手意識として概念化している。

苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒の差異

日向野 智 子*1

*1 立正大学心理学部

旨: 本研究では、 特定の苦手な他者と嫌いな他者に対して感じられる対人情緒の差 異について検討することを目的とした。 質問紙調査では、 苦手な同性の他者と嫌 いな同性の他者がいるかを尋ねた。 該当者がいる場合は、 苦手な他者と嫌いな他 者に対して、 ネガティブな対人情緒をどのくらい感じるのかを尋ねた。 その結果、

多くの学生において苦手な他者と嫌いな他者とは別人である、 女性は苦手な他者 はいるが嫌いな他者はいない人が多いということが明らかになった。 また、 苦手 な他者と嫌いな他者に対する対人情緒を比較した結果、 嫌悪に関連する情緒 (怒 り、 不満、 憎悪、 けむたさ、 嫌悪、 イライラ、 軽蔑) は、 苦手な他者よりも嫌い な他者に対して強く感じられていることが示された。

キーワード:苦手な他者、 嫌いな他者、 対人苦手意識、 対人嫌悪、 ネガティブな対人情緒

(2)

対人苦手意識には、 人づきあいに対する苦手意識や、 ある特定の属性をもった人たち ( 先輩 、 子ど も 、 体育会系の人 など) に対する苦手意識、 特定の場面 ( 初対面 、 人前 、 誘いを断る など) に対する苦手意識は含まれない。 日向野他 (1998) における対人苦手意識は、 相手にイライラしたり、

なるべく関わりたくないと思ったりするような、 相手に対する率直な不快感情を含んだ 「わずらわしさ」

と、 相手にどのように接すればよいのか、 相手にどのように思われているのかを気にかける 「懸念」 と いう下位因子から成り立つ (日向野・小口, 2002b)。 前者は、 他者に対するネガティブ感情、 後者は、

自己に対するネガティブ感情として捉えることができる (橋本, 2006)。 このような対人苦手意識は、

「特定の他者に対する否定的な感情と消極的な態度の総称」 (日向野他, 1998) と定義されているが、 定 義からわかるように、 対人苦手意識とは、 日常的に体験される多くの否定的な対人感情を含んでいるも のである。

上述した対人感情とは、 「ある特定の人に対して常に抱いている比較的持続的な感情 (齊藤, 1990)」

を指す。 Heider (1954;1978) は、 対人関係において経験される対人的な感情傾向は、 ポジティブな 感情傾向とネガティブな感情傾向とに大別されることを述べている。 Heider によると、 「ある人 (P) ともう一つの実態 (O) との間に好くという関係があるときにポジティブな感情傾向が、 また嫌うとい う関係があるときにネガティブな感情傾向がある」 という。 対人感情は、 社会的な行動の基盤になりや すく、 ポジティブな感情傾向を向ける相手には接近の欲求が、 ネガティブな感情傾向を向ける相手には 回避の欲求が生じると考えられてきた (cf. 齊藤, 1990)。 Frijda (1988) は、 「感情は、 個人の目標、

動機、 関心にとって重要な意味を持つ出来事に反応して生じる」 (p.351) と述べている (Cornelius, 1996; 1999)。 このような知見から、 苦手な相手との関係に戸惑い、 不快感情が高まるという状態は、

苦手な対象者の行動や存在そのものによって、 個人の対人的目標の達成が阻害されるやすくなると認知 されることに起因すると考えられる。 したがって、 そのような個人の対人的目標の達成を阻むような苦 手な相手に対して、 互いの距離を保ち、 深く関わらないような関係を望むのであろう。

高木 (2004) は、 多くの否定的な対人感情を NIA (Negative Interpersonal Affect) と総称してい る。 この NIA には、 対人苦手意識や対人嫌悪 (金山・山本, 2003) などが含まれる (高木, 2004)。

先述したように、 対人苦手意識は 「特手の他者に対する否定的感情と消極的な態度の総称」 であり、 苦 手な他者してどのように感じるのかを尋ねると、 「嫌い」 という意見もみられる (日向野他, 1998)。 日 向野他 (1998) は、 相手の特徴によって、 対人苦手意識と対人嫌悪との感じられ方が異なるのか、 検討 を行っている。 その結果、 対人苦手意識と対人嫌悪との相関は、 わがままな相手や不潔な相手について は高く、 相手が何を考えているのかがわからなかったり、 会話に困ったりするような理解しがたい相手 については中程度であった。 また、 わがままやいいかんげんな相手に対しては、 対人苦手意識と対人嫌 悪の双方が強く感じられ、 対人苦手意識と対人嫌悪との同義性が高い可能性も示唆されている (日向野 他, 1998)。 一方、 対人嫌悪の原因になる嫌悪対象者の特徴 (金山・山本, 2003;金山2010) について は、 「横暴な言動」、 「マナーの欠如」、 「互いの相違」 など、 対人苦手意識につながる原因 (日向野他, 1998;日向野, 2010) と共通するような相手の特徴や行動が抽出されている。

このような結果から、 ときには、 対人嫌悪をあからさまに表現することが憚られる場合の控えめな表 現として、 苦手が用いられる可能性が指摘されている (日向野他, 1998)。 また一般的にも、 人によっ ては、 苦手ということは嫌いであり、 嫌いであるということは苦手であるという、 対人苦手意識と対人

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嫌悪との一致もみられる。 しかし、 一方では、 対人苦手意識と対人嫌悪とが区別され、 苦手な他者と嫌 いな他者とは異なるという意見も多い。 上述した通り、 対人苦手意識と対人嫌悪とは関連するものであ るが、 これまで、 対人苦手意識と対人嫌悪の対象者が異なるのか、 それとも一致するのかという素朴な 疑問に答える学術的知見はみられない。 そこで、 一般的には、 対人苦手意識と対人嫌悪の対象者は、 同 一人物であるのか、 別人であるのかを探る。

先行研究においては、 嫌悪感情を持っている場合、 拒否的行動を中心に攻撃的行動や回避的行動の欲 求が生じ (齊藤, 1990)、 苦手な人に対しても、 攻撃的行動を除いて同様の傾向が認められている (日 向野他, 1998)。 嫌悪感情を持っていると、 怒りや憎悪などの比較的強い情緒が体験されることが明ら かになっているが (齊藤, 1990)、 苦手意識においては、 それらのような攻撃的でひどくネガティブな 感情もしくは情緒は認められない (日向野, 1998)。 このように、 対人苦手意識と対人嫌悪とが関連し ながらも異なるものとして認識されているのであれば、 対象者との関わりに付随する対人情緒に、 それ ぞれの特徴や両者における差異がみられるのではないであろうか。 したがって、 本研究では、 苦手な他 者と嫌いな他者との差異を検討するにあたり、 両者に対する対人情緒を比較する。 情緒とは、 「急激に 生じ短時間で終わる比較的強い感情」 (松山, 1974) であり、 特定の他者に向けられる持続的な対人苦 手意識や対人嫌悪のような対人感情とは別に、 それぞれの対人場面において生起する、 怒りや喜び、 羞 恥など、 相手の反応や自分の行動に応じて瞬時に生起する比較的強い感情のことである。 本研究では、

対人場面において他者との相互作用の中で感じられる情緒のことを対人情緒とよび (齊藤, 1990)、 対 人苦手意識と対人嫌悪の対象者に感じられる対人情緒を測定していく。

齊藤 (1990) から、 対象者に対するネガティブな対人情緒を測定した場合、 嫌悪や憎悪、 怒りのよう な対人情緒については、 苦手な他者よりも嫌いな他者に対して強く感じられると考えられる。 しかし、

苦手な他者に対しても、 イライラしたり、 嫌いであったり、 不快感情が多く挙げられている (日向野他, 1998)。 そのため、 苦手な他者においても、 このような対人情緒は比較的高く示されると予測できるが、

いずれの対人情緒についても、 嫌いな他者を超えるほど強くは感じられないであろう。 さらに、 苦手な 他者に対しては、 不安やさみしさ (日向野他, 1998)、 劣等感 (氏原, 1996) などを感じることが報告 されていることから、 苦手な他者に対しては、 これらに関連するような対人情緒が感じられやすいと予 測できる。

方 法

調査回答者 都内私立大学における大学生男女100名を対象とした。 このうち、 回答に不備のみられ た4名を除外した96名 (男女48名ずつ) が分析対象者になった。 このなかには、 社会人学生4名も含ま れていた。 年齢の内訳は、 10代69名、 20代前半24名、 その他3名であった。

調査時期と実施方法 2009年7月上旬、 1年生の必修授業内において調査票を配布し、 各自のペース で回答を求めた。

調査票 対象人物の想起と回答項目の指示 「苦手な同性の人」 と 「嫌いな同性の人」 を1人ずつ 思い浮かべるよう指示した。 そのうえで、 苦手な同性の他者と嫌いな同性の他者とは別人であり、 双方 いる場合は、 すべての設問に回答するよう求めた。 苦手な同性の他者か嫌いな同性の他者のいずれかし かいない回答者については、 該当設問のみ回答すればよいことを記した。 また、 苦手な同性の他者と嫌

(4)

いな同性の他者とが同一人物である回答者については、 その旨記してもらい、 後述する設問とフェイ スシートのみ回答すればよいとを教示した。

調査票の構成と質問項目 調査票の設問は、 「苦手な同性の人」、 「嫌いな同性の人」、 フェ イスシートの三部構成であった。 では、 まず苦手な同性の他者を想起させてから、 ①自分と相手との 関係 (自由記述)、 ②相手のどのようなところが苦手なのか (自由記述)、 ③自分と相手との年齢差 (年 上、 同い年、 年下) について回答してもらった。 さらに、 ④相手に覚える対人情緒を検討するために、

「その人のことを考えたり、 関わったりすると、 どのような気持ちになるか」 をたずね、 23項目の情緒 について、 感じない (1点) 〜感じる (5点) の5件法で評定させた。 情緒の項目は、 齊藤 (1990) に おける対人行動時の情緒のうち、 ネガティブな情緒23項目 (項目は Table4参照) を使用した。 先述し たとおり、 対人情緒や対人感情は、 ポジティブなものとネガティブなものとに大別される。 しかし、 一 般的に苦手な他者や嫌いな他者に対する情緒はネガティブなものになりやすい。 また、 相手に対して嫌 悪のようなネガティブな感情傾向をもっている場合、 相手からポジティブな行動を受けたとしても、 相 手に対してネガティブな対人情緒を感じることが明らかにされている (齊藤, 1990)。 したがって、 本 研究ではネガティブな対人情緒のみを扱うことにした。 齊藤 (1990) は、 因子分析の結果から、 ネガティ ブな対人情緒を嫌悪、 悲哀、 屈辱、 恐怖、 羨望の5つに分けている。 嫌悪の情緒群には、 憎悪、 嫌悪、

軽蔑、 怒り、 けむたさ、 イライラ、 不満、 失望の8つが含まれる。 同様に、 悲哀の情緒群には悲しみ、

さびしさ、 苦悩、 絶望 (4情緒)、 屈辱の情緒群についてはくやしさ、 屈辱感、 劣等感、 恥ずかしさ (4情緒)、 恐怖の情緒群には不安、 恐怖、 驚き、 気がね (4情緒)、 羨望の情緒群にはしっと、 うらや ましさ、 気味悪さ (3情緒) がそれぞれまとまりを成している。 また、 では、 「嫌いな同性の人」 に ついて、 と同様の質問に回答してもらった。

結 果

苦手および嫌いな他者がいる回答者の内訳 男女別に、 クロス集計を行った (Table1)。 「苦手な 他者と嫌いな他者は別人であり、 両方がいる」 (苦手・嫌い別人群) という回答者が最も多く、 男女と もに40%を超えていた。 男性では、 「苦手な他者と嫌いな他者とは同一人物」 (苦手・嫌い同一群)、 「苦 手な他者も嫌いな他者もいない」 (対象者なし群) という回答者がそれぞれ約10%いたが、 女性におけ るこれらの回答は、 5%以下であった。 また、 女性においては、 「苦手な他者はいるが嫌いな他者はい ない」 (苦手群) という回答者が男性よりも15%ほど多く、 女性全体の37.5%を占めていた。

Table1 性別と苦手・嫌いの被対象者とのクロス集計表

被対象者による分類

苦手・嫌い

別人群 苦手群 嫌い群 苦手・嫌い

同一群

対象者なし

群 合計

性 別

女性 21 (43.8) 18 (37.5) 6 (12.5) 1 ( 2.1) 2 ( 4.2) 48 (100)

男性 20 (41.7) 11 (22.9) 7 (14.6) 5 (10.4) 5 (10.4) 48 (100)

合 計 41 (42.7) 29 (30.2) 13 (13.5) 6 ( 6.3) 7 ( 7.3) 96 (100)

注:各行の値は度数、 ( ) 内の値は%を表す。

(5)

苦手または嫌いな相手は誰なのか 苦手な他者と嫌いな他者のそれぞれについて、 回答者と相手と の関係を分類し、 集計を行った (Tabale2)。 苦手な他者、 嫌いな他者ともに、 相手は同級生であるこ とがもっとも多かった。 また、 約三割の回答者は、 苦手な他者として友だちを挙げた。

相手との年齢差 苦手および嫌いな相手と自分との年齢差を Table3に示した。 同い年の相手が苦 手または嫌いの対象である回答者が6〜7割と最も多く、 次いで、 年上、 年下の順に回答者数が多かっ た。

苦手な人と嫌いな人に感じる対人情緒の分析

①対人情緒尺度の因子分析 苦手な他者に対する対人情緒23項目と嫌いな他者に対する対人情緒23項 目を用いて、 因子分析を行った。 齊藤 (1990) では、 ネガティブな対人情緒23項目について、 嫌悪、 悲 哀、 屈辱、 恐怖、 羨望という5つの因子を見出している。 しかし、 本研究では、 ネガティブな対人情緒 の構造に関心があるのではなく、 苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒の差異を見出すことが目的 であるため、 齊藤 (1990) と同様の因子構造がみられるのかを検証するような確認的因子分析は実施し なかった。

まず、 測定された対人情緒が、 苦手な他者に対する対人情緒と嫌いな他者に対する対人情緒のそれぞ れを測定し得たのかを検討するために、 苦手な他者に対する対人情緒23項目と嫌いな他者に対する対人 情緒23項目を合わせた46項目を用いて、 主因子法、 プロマックス回転による因子分析を行った。 その結 果、 初期解における固有値の減衰率から2因子解が妥当であると判断した。 第一因子には、 嫌いな他者 に対する対人情緒23項目、 第二因子には、 苦手な他者に対する対人情緒23項目がそれぞれ高い負荷を示

Table2 苦手または嫌いな相手

相 手 苦手な人 嫌いな人

同級生 26 ( 34.67) 23 ( 38.98)

友だち 22 ( 29.33) 9 ( 15.25)

部活・サークル・寮の仲間 11 ( 11.67) 10 ( 16.95)

仕事・バイト先の人 10 ( 13.33) 3 ( 5.08)

家族 1 ( 1.33) 4 ( 6.78)

その他 5 ( 6.67) 10 ( 16.95)

合 計 75 (100.00) 59 (100.00)

注:各行の値は度数、 ( ) 内の値は%を表す。

Table3 性別ごとにみた苦手または嫌いな相手との年齢差

苦手な他者との年齢差 嫌いな他者との年齢差

性別 年上 同い年 年下 合計 年上 同い年 年下 合計

女性 8 (20.0) 28 (70.0) 4 (10.0) 40 (100.0) 7 (26.9) 18 (69.2) 1 (3.8) 26 (100.0)

男性 9 (25.0) 22 (61.1) 5 (13.9) 36 (100.0) 10 (35.7) 17 (60.7) 1 (3.6) 28 (100.0)

17 (22.4) 50 (65.9) 9 (11.8) 76 (100.0) 17 (31.5) 35 (64.8) 2 (3.7) 54 (100.0)

注:各行の上段は度数、 下段 ( ) 内の値は%を表す。

(6)

した。 両因子における因子間相関が.05であっため、 因子間の相関はないものとみなし、 再度バリマッ クス回転による因子分析を実行した。 因子分析の結果を Table4に示す。

因子分析の結果から、 苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒の回答パターンが異なることが示さ れた。 Table4をみると、 第一因子である 「嫌いな他者に対する対人情緒」、 第二因子である 「苦手な 他者に対する対人情緒」 のいずれについても、 対人情緒23項目すべての因子負荷量が高かった。 また、

「嫌いな他者に対する対人情緒」 をみると、 上位9つの情緒のうち、 苦悩を除く8つの情緒は、 齊藤 (1990) における嫌悪の対人情緒群であった。 「苦手な他者に対する対人情緒」 においても、 上位9つの うち、 嫌悪、 イライラ、 不満、 怒り、 憎悪の5つが、 嫌悪の対人情緒群に該当した。

②同一回答者における苦手および嫌いな人に対する情緒の比較 苦手な他者と嫌いな他者とは別人で あると回答した苦手・嫌い別人群41名 (Table1参照) を対象に、 苦手および嫌いな他者に対する対人 情緒の平均得点を求め、 両者の対人情緒得点が異なるか、 対応のあるt検定を行った (Teble5)。 また、

対象者ごとに対人情緒得点を図示した (Figure1)。 Table5のとおり、 10の情緒について、 苦手な他

Table4 対人情緒尺度の因子分析結果と信頼性係数

因子負荷量 因子負荷量

項目番号・項目

第1因子 第2因子

項目番号・項目

第1因子 第2因子

第1因子

嫌いな他者に対する 対人情緒 (α=.97)

第2因子

苦手な他者に対する 対人情緒 (α=.97)

嫌̲怒り .931 −.038

24

苦̲嫌悪 .034 .891

嫌̲憎悪 .928 −.009

25

苦̲イライラ .008 .872

嫌̲嫌悪 .924 −.027

26

苦̲不満 .026 .856

嫌̲不満 .921 −.065

27

苦̲苦悩 .024 .847

嫌̲イライラ .918 −.035

28

苦̲屈辱感 −.062 .830

嫌̲軽視 .906 .036

29

苦̲怒り −.021 .819

嫌̲苦悩 .902 .084

30

苦̲不安 .133 .817

嫌̲けむたさ .901 −.033

31

苦̲憎悪 .126 .812

嫌̲失望 .889 .022

32

苦̲くやしさ −.017 .807

10

嫌̲不安 .879 .104

33

苦̲けむたさ .009 .801

11

嫌̲屈辱感 .879 .054

34

苦̲悲しみ .053 .793

12

嫌̲きがね .875 −.009

35

苦̲軽蔑 .108 .792

13

嫌̲劣等感 .869 .030

36

苦̲失望 −.002 .789

14

嫌̲悲しみ .859 .016

37

苦̲絶望 .060 .788

15

嫌̲驚き .857 .037

38

苦̲劣等感 −.080 .768

16

嫌̲くやしさ .856 .028

39

苦̲きがね .046 .768

17

嫌̲恐怖 .850 .080

40

苦̲恐怖 −.003 .762

18

嫌̲気味悪さ .850 .049

41

苦̲嫉妬 .042 .733

19

嫌̲嫉妬 .837 .076

42

苦̲はずかしさ −.004 .717

20

嫌̲絶望 .829 −.055

43

苦̲さびしさ .034 .713

21

嫌̲はずかしさ .818 .032

44

苦̲気味悪さ .009 .705

22

嫌̲うらやましさ .814 .021

45

苦̲驚き −.077 .705

23

嫌̲さびしさ .808 .035

46

苦̲うらやましさ .004 .693

固有値 17.63 14.33

累積寄与率 38.42 69.58

(7)

者と嫌いな他者に対する対人情緒間に有意差がみられた。 恐怖の情緒群に含まれる 「きがね」 (齊藤、

1990) のみ、 嫌いな他者よりも苦手な他者に対して強く感じられていた (t(40)=2.12, p<.05)。 これ に対して、 嫌悪の情緒群である不満、 失望、 嫌悪、 イライラ、 軽蔑、 憎悪、 悲哀の情緒群に含まれる絶 望、 羨望の情緒群に含まれる気味悪さについては、 苦手な他者よりも嫌いな他者に対して強い情緒が示 された (t=2.07〜5.15, df=40, p<.001〜.05)。

③異なる回答者における苦手な人と嫌いな人に対する情緒の比較 Table1における苦手群29名と嫌 い群13名を対象に、 各対人情緒の平均得点に差異がみられるか対応のないt検定をおこなった。 Table6 および Figure2に示したとおり、 嫌悪の情緒群であるけむたさ、 怒り、 不満、 嫌悪、 イライラ、 軽蔑、

憎悪について有意差がみられた (t=2.10〜6.21, df=39.64〜40, p<.001〜.05)。 また、 悲哀の情緒群 に 含 ま れ る 絶 望 に つ い て も 、 5 % 水 準 で 苦 手 群 と 嫌 い 群 と の 間 に 有 意 な 差 が 示 さ れ た (t(40)=3.22, p<.05)。 いずれも、 苦手な他者よりも嫌いな他者に対する対人情緒の方が強く感じら れていた。 Figure2をみると、 苦手な他者と嫌いな他者との差が大きかった対人情緒は、 怒り、 不満、

憎悪であった。 このような傾向は、 前掲した Table5および Figure1についても同様であった。

Table5 同一回答者における苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒得点とt検定の結果

苦手な人 嫌いな人

対人情緒 M SD M SD t 検定の結果

けむたさ 3.95 1.07 4.29 0.98 t (40)=1.71 ns.

怒り 3.07 1.39 4.32 1.04 t (40)=5.12 p<.001

不満 3.76 1.11 4.37 0.80 t (40)=3.50 p<.01

くやしさ 2.41 1.45 2.54 1.49 t (40)= .55 ns.

失望 2.49 1.40 3.29 1.50 t (40)=2.90 p<.01

嫌悪 3.90 1.16 4.49 0.71 t (40)=3.11 p<.01

うらやましさ 1.88 1.19 1.71 1.06 t (40)= .73 ns.

恐怖 2.27 1.36 2.22 1.53 t (40)= .21 ns.

悲しみ 2.07 1.29 2.24 1.37 t (40)= .78 ns.

イライラ 3.93 1.23 4.37 1.02 t (40)=2.07 p<.05

劣等感 2.00 1.07 2.05 1.38 t (40)= .20 ns.

きがね 3.17 1.41 2.61 1.41 t (40)=2.12 p<.05

屈辱感 2.22 1.24 2.49 1.42 t (40)=1.28 ns.

驚き 2.61 1.39 2.71 1.40 t (40)= .36 ns.

さびしさ 1.90 1.18 1.68 1.11 t (40)= .93 ns.

苦悩 3.02 1.41 3.12 1.50 t (40)= .40 ns.

軽蔑 3.20 1.45 3.90 1.26 t (40)=2.61 p<.05

はずかしさ 2.05 1.32 2.20 1.47 t (40)= .61 ns.

嫉妬 1.93 1.25 1.98 1.37 t (40)= .21 ns.

憎悪 2.63 1.61 3.95 1.20 t (40)=5.07 p<.001

絶望 2.15 1.35 2.66 1.54 t (40)=2.16 p<.05

気味悪さ 2.49 1.47 3.02 1.64 t (40)=2.46 p<.05

不安 2.95 1.48 2.93 1.54 t (40)= .10 ns.

注1:同一回答者における苦手な他者に対する対人情緒と、 嫌いな他者に対する対人情緒を用いて、 対応のあるt検定を実施した。

注2:N=41

(8)

Table6 異なる回答者における苦手および嫌いな他者に対する対人情緒得点とt検定の結果

苦手な人 嫌いな人

対人情緒 M SD M SD t 検定の結果

けむたさ 3.62 1.15 4.38 0.77 t (40.00)=2.19 p<.05

怒り 3.28 1.00 4.69 0.48 t (39.67)=6.21 p<.001

不満 3.38 1.12 4.77 0.44 t (39.64)=5.79 p<.001

くやしさ 2.83 1.39 2.77 1.54 t (40.00)=.12 ns.

失望 2.83 1.34 3.23 1.24 t (40.00)=.92 ns.

嫌悪 3.66 1.11 4.54 0.66 t (40.00)=2.65 p<.05

うらやましさ 2.07 1.39 1.69 1.18 t (40.00)=.89 ns.

恐怖 2.55 1.43 2.23 1.24 t (40.00)=.70 ns.

悲しみ 2.28 1.30 2.54 1.56 t (40.00)=.57 ns.

イライラ 3.86 1.06 4.62 0.51 t (40.00)=2.43 p<.05

劣等感 2.52 1.53 2.31 0.86 t (37.76)=.57 ns.

きがね 2.79 1.47 2.77 1.09 t (40.00)=.52 ns.

屈辱感 2.45 1.33 2.62 1.39 t (40.00)=.37 ns.

驚き 2.97 1.30 2.69 1.32 t (40.00)=.63 ns.

さびしさ 1.93 1.22 1.62 1.19 t (40.00)=.78 ns.

苦悩 3.03 1.50 2.85 1.46 t (40.00)=.34 ns.

軽蔑 2.83 1.14 3.69 1.25 t (40.00)=2.21 p<.05

はずかしさ 2.14 1.25 2.46 1.20 t (40.00)=.79 ns.

嫉妬 1.93 1.31 1.92 1.19 t (40.00)=.02 ns.

憎悪 2.38 1.21 4.23 0.93 t (40.00)=4.91 p<.001

絶望 2.10 1.18 3.46 1.45 t (40.00)=3.22 p<.01

気味悪さ 2.59 1.48 3.00 1.00 t (40.00)=.92 ns.

不安 2.45 1.33 2.62 1.12 t (40.00)=.40 ns.

注1:苦手群における苦手な他者に対する対人情緒と、 嫌い群における嫌いな他者に対する対人情緒を用いて、 対応のないt検定 を実施した。

注2:苦手群N=29, 嫌い群 N=13

Figure1 同一回答者における苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒

注:情緒の下のアスタリスクは、 *p<.05, **p<.01, ***p<.001を表す

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考 察

本研究では、 苦手な他者と嫌いな他者が同一人物であるか否かを探り、 両者に対する対人情緒の差異 について検討を行った。 苦手な他者と嫌いな他者が同一人物であるという回答は全体の1割程度であり、

多くの学生が、 苦手な他者と嫌いな他者とは異なる、 または、 苦手な他者がいるか嫌いな他者がいるか のいずれかであると回答した。 また、 因子分析の結果では、 苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒 が明確に分かれ、 二因子構造が示された。 このような結果は、 苦手な他者、 嫌いな他者に対する対人情 緒の回答パターンが異なることを意味しており、 両者が異なる意味づけをもつ別の対象として明確に想 起され、 評定されたことを示唆している。 これらの結果から、 多くの学生にとって、 対人苦手意識と対 人嫌悪とは異なるものとして捉えられていると言えるであろう。 また、 苦手または嫌いな相手との関係 性を尋ねたところ、 相手は友人であるという回答は、 嫌いな他者よりも苦手な他者について多くみられ た。 したがって、 対人嫌悪よりも対人苦手意識の方が対人的相互作用の影響が強く、 互いの関係を築い たり、 維持したりする対人関係の中で生じやすいと考えられる。

苦手な他者と嫌いな他者に対する対人情緒を比較したところ、 予測した通り、 嫌悪、 憎悪、 怒り、 イ ライラの対人情緒は、 苦手な他者よりも嫌いな他者に対して強く感じられていた。 これらは、 齊藤 (1990) における嫌悪の情緒群であり、 同情緒群に分類されている軽蔑、 けむたさ、 不満についても、

同様の傾向がみられた。 このうち、 怒りと憎悪 (Table5, 6)、 不満と絶望 (Table6) は、 苦手な他 者と嫌いな他者に対する情緒得点の差が大きく、 両者における差異を探るための手がかりになると思わ れる。

対人情緒得点をみると、 嫌悪とイライラ (Table5, 6)、 けむたさと不満 (Table5) については、

嫌いな他者ほど高くはないが、 苦手な他者に対しても感じられていた。 これらの対人情緒は、 対人苦手 意識におけるわずらわしさの傾向に関連しやすいであろう。 嫌いな他者はいなく、 苦手な相手のみとい う回答者においても、 苦手な他者に対する嫌悪の対人情緒は、 他の対人情緒にくらべて高かった。 「苦 手な人と関わると、 どのような気持ちになるか」 と尋ねて自由記述回答を求めた場合、 嫌いであること や嫌悪を直接的に記した回答は多くない (日向野他, 1998)。 このような差異は、 対人苦手意識におけ

Figure2 異なる回答者における苦手および嫌いな他者に対する対人情緒

注:情緒の下のアスタリスクは、 *p<.05, **p<.01, ***p<.001を表す

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る嫌悪の感情や情緒を探る場合、 調査や教示の方法により、 結果が左右されることを示唆するのではな いであろうか。 本研究のように、 調査票において 「嫌悪」 が提示され、 相手をどのくらい嫌悪している のかを評価する場合は、 意識的に、 苦手な他者に対する自らの嫌悪感情の程度を振り返ることになる。

しかし、 苦手な他者に対する気持ちや感情について自由に記述してもらう場合は、 嫌悪よりも強く感じ られている別の気持ちや感情が先に記され、 嫌悪が記されない可能性もある。 しかし、 本研究の結果で は、 嫌悪の対人情緒得点は、 他の得点にくらべて高いことが明らかになっている。 この結果を考慮する と、 対人苦手意識において嫌悪の対人情緒は感じられやすいが、 自由記述回答のような自己報告では、

積極的には報告されないと考えられる。 他者を嫌うという行為は社会的に称賛されることではないため、

苦手な他者に対する嫌悪を隠蔽したり、 本来は嫌いであることを苦手であると表現したりしている可能 性もある (日向野他, 1998)。 いずれにせよ、 対人苦手意識を形成する有力な感情傾向および情緒の一 つとして嫌悪が含まれる (日向野他, 1998) という知見は支持されるであろう。

嫌悪の情緒群以外の対人情緒は、 苦手な他者と嫌いな他者のいずれに対してもあまり感じられないこ とが示された。 苦手な他者に対して感じられるであろうと予測していた、 さみしさ、 不安、 劣等感やう らやましさについても、 ほとんど感じられないという結果であった。 不安やさみしさは対人苦手意識に おける自己否定的要素の強い懸念の傾向を有する。 また、 劣等感やうらやましさ、 嫉妬などの対人情緒 は、 コンプレックスに起因する苦手意識 (氏原, 1996;日向野他, 1998) において、 個人の自尊感情に 関連している。 先行研究と相反する結果ではあるが、 対人苦手意識において、 わずらわしさが高く懸念 が低い回答者であれば、 不安やさみしさ、 劣等感のような対人情緒をあまり感じないのかもしれない。

今後、 苦手な他者に対する対人情緒だけではなく、 対人苦手意識におけるわずらわしさと懸念の測定も 行うことによって、 より詳しく、 苦手な他者に対する対人情緒の傾向を理解することが課題である。

引用文献

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注1:本研究の一部は、 日本パーソナリティ心学会第19回大会 (於川崎医療福祉大学) にて発表した。

参照

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