• 検索結果がありません。

SurveyofChildCareWorkers 中村 尚子

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "SurveyofChildCareWorkers 中村 尚子"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに

 障害のある子どもの在籍の如何にかかわらず,児童養護施設における直接処遇職員の人数 や居室等の基準が改善される必要があることは,多くの関係者が指摘するところである。

 児童福祉施設最低基準第 2 条はその目的をつぎのように述べる。

 「最低基準は,児童福祉施設に入所している者が明るく,衛生的な環境において,素養があ り,適切な訓練を受けた職員の指導により,心身ともに健やかにして,社会に適応するよう に育成されることを保障するものとする。」

 しかし,子ども一人あたり3.3㎡で,居室定員は15人以下,職員は 3 歳以上の幼児は 4 人 に,学齢となる少年は 6 人に 1 人の保育士・児童指導員という生活の基本となる施設の基準 は,長い間,改善されていない1)。また,「適切な訓練を受けた職員」にふさわしい研修の義務 づけなどはない。堀場(2010)は,大阪府社会福祉協議会児童部会が実施した2003年の調査 を引用し,児童養護施設・乳児院職員の時間外労働が月平均72時間で,年間に換算すると過 労死認定の水準を超えており,職員は「疲れきって笑顔も出せず,数年で燃え尽き」ると述 べている。発達障害のある子どもが在籍する場合,職員が人手不足をはじめとした施設の条 件整備上の課題を感じながら仕事をしていることは容易に想像できる。先行する調査研究に おいても,「発達障害や特別な配慮の必要な児童が数多く入所していても,細やかな対応はな かなか実施できる状況にない」と指摘されている(後藤・池本,2008)。

 そこで,児童養護施設において発達障害のある子どもを支援する上での課題について,ど のような課題があるのかを明らかにする必要があると考え,埼玉県内の児童養護施設で生活 する発達障害をもつ子どもに関する調査(第 2 章参照)において,条件整備と諸機関との連 携について,施設職員からの意見収集に取り組むことにした。

第 5 章 発達障害のある子どもを支援するために求め られる児童養護施設の条件整備と連携の課題 ―

職員へのアンケート調査から

ResearchonSupportsforChildren

withDevelopmentalDisabilitiesinChildrenʼsHomes:

SurveyofChildCareWorkers 中村 尚子

TakakoNakamura

*立正大学社会福祉学部社会福祉学科

キーワード:児童養護施設,発達障害,特別支援教育,児童福祉施設最低基準

(2)

1 .調査の概要

【調査方法】

 埼玉県内22ヵ所の児童養護施設にたいして実施した「児童養護施設で生活する発達障害を もつ子どもに関する調査」に同封して調査用紙を郵送。「職員による自由記述もご記入くださ い」と記述し,「発達障害をもつ子どもを支援するにあたっての意見」と題する用紙を職員に 配付してもらうよう依頼した。ただし配付の対象や人数は制限していない。同調査と合わせ て郵便にて回収した。

【調査項目】

 「発達障害をもつ子どもを支援するにあたっての意見」については,「困っていることや改 善したいことについて,関係すると思う項目に○をつけて,具体的なご意見をお書きくださ い」として,以下の 3 項目について尋ねた。

 ①児童福祉施設の最低基準や研修など制度面:職員の人数,施設設備,建物の基準,研修 4 項目を選択肢(重複回答)とし,自由記述を求めた。

 ②諸機関との連携:里親,心理職などの専門職,医療,家族支援,児童相談所,地域との 関係の 5 項目を選択肢(重複回答)とし,自由記述を求めた。

 ③学校への要望:自由記述のみを求めた。

2 .結 果

⑴ 項目による選択結果

 21施設,91人からの回答が寄せられた。

 調査項目①と②の結果を表 1 ,表 2 に示す。

 表 1 に明らかなように,回答した91人中89.0%(以下,構成比の数値はすべて91人を分母 とする)にあたる81人が「職員の人数」を改善すべき項目として選択している。ついで,「研 修」が29人(32.5%)であった。ここに関係して記述された詳細については,次節で論じる。

 諸機関との連携に関する意見の結果をみると,「心理職などの専門職」(52.7%)と「児童 表 1  制度や研修に関する要望

職員の人数 施設設備 建物の基準 研修

選択した人数 81 12 8 29

表 2  諸機関との連携に関する要望 里親 心理職など

の専門職 医療 家族支援 児童相談所 地域 選択した人

の人数 5 48 35 32 47 24

(3)

相談所」(51.6%)の各項目を 2 人に 1 人が選択している。つづいて,「医療」38.5%,「家族 支援」35.2%,「地域」26.4%であった。

⑵ 自由記述

 提示された項目の選択結果は表 2 に示したとおりであったが,自由記述部分は,選択した 項目に関連させた記述と選択とは相対的に独立した記述がみられた。このため,この節では,

選択項目を参照しつつ,自由記述欄の記述そのものに依拠して,そこに書かれた内容を対象 にして,①制度や研修にかかわる意見,②諸機関との連携にかかわる意見,③学校との連携 のそれぞれの内容について分析する。分析にあたっては,MAXQDA10を使用した2)   1 )制度や研修にかかわる意見

 制度や研修面での意見には82人から自由記述があった。これらの記述をカード化し,①職 員配置(増員,定数改善,専門職配置をふくむ),②空間改善(空間利用,施設設備をふく む),③研修の 3 つのキーワードで整理した。それぞれのキーワードから,さらにつぎのキー ワードが抽出された。

①職員配置 発達障害のある子どもとかかわる時間/個別対応/他児の対応/被虐待児の 対応/学校/専門職/職員増・最低基準の見直し/その他

②空間改善 落ちつく環境/個室/落ちつかせるための空間/その他

③研修 発達障害の基本的理解・支援方法/その他

 これらのキーワードに関係する項目総数は116であり,表 3 のようにまとめられた。

  2 )諸機関との連携

 諸機関との連携に関する意見には74人から自由記述があった。これの記述をカード化し,

①児童相談所,②医療機関(医師),③専門職(回答のすべてが心理職に特定されていた),

④学校,⑤家族,⑥地域の 6 つのキーワードで整理した。「学校」は別項に自由記述を設けた 表 3  制度や研修に関する職員の意見

職員配置

かかわる時間 10

82

個別対応 34

 (他児への対応) (13)

 (被虐待児への対応) ( 2)

学校との対応 3

職員増員 31

専門職

空間改善

落ちつく環境 5

個室 3 14

落ちつかせる空間 3

その他施設一般 3

研修 20

(4)

ため選択肢を設定していなかったが,自由記述から抽出されたものである。また「地域」「家 族」は機関ではないが,選択肢に設定したことと連携すべき対象として記述があったことか ら,項目化した。その 6 項目からさらに下記のキーワードを抽出した。

①児童相談所 支援プログラムの作成/継続したケア/退所後の生活/情報共有/家族支 援/その他

②医療機関 子ども理解・支援方法/その他

③専門職 子ども理解・支援方法/支援プログラムの作成/その他

④学校 子ども理解/情報共有/退所後の生活/その他

⑤家族 子ども理解/その他

⑥地域

 これらのキーワードに関係する項目総数は102であり,そのうち①~⑥にかかわった内容 は,表 4 のようにまとめられた。

  3 )学校への要望・意見

 学校への意見・要望は自由記述のみで問うたところ,46人から記載があった。これらの記 表 4  諸機関との連携に関する職員の意見

機関等 項 目 意見数

児童相談所

支援プログラム作成 8

31

継続したケア

退所後の生活

情報共有

家族支援

その他 5

医療機関

子ども理解

15

支援方法 3

その他 8

心理職など

子ども理解

支援方法 13

支援プログラム作成 1

その他

学校

子ども理解 3

情報共有 11

退所後の生活 1

その他 5

家族 子ども理解

その他 12

地域

(5)

述をカード化し,①子ども理解,②学校システム,③指導内容・方法,④協議の機会の 4 つ のキーワードで整理した。その 4 つのキーワードから,さらに下記のキーワードを抽出した。

①子ども理解 児童養護施設に関する理解/発達障害児の理解

②学校システム 学校の対応/クラス分けなど/その他

③指導内容・方法 子どもに合った指導/他児からの理解/卒業後にむけた指導

④協議の機会

 これらのキーワードに関係する項目の総数は62であり,表 5 のようにまとめられた。

3 .考 察

 職員配置に関係する意見はもっとも多く,82件であった。さらにみていくと,ここには発 達障害のある子どもの施設生活を支援するについて職員が感じている困難と,そこをふまえ て求められる改善の二つが含まれていることがわかった。そこで,職員配置に分類された意 見から,まず最初に「職員が感じている困難」の分析を行い,つづいて,職員配置,空間整 備,研修の 3 点からの分析を行うこととした。

⑴ 職員が感じている困難

 自由記述から見えてくることは,職員は発達障害のある子どもに対して,一人ひとりに時 間をかけて,できれば個別の対応をすべきであると考えているが,これができないことに困 難を感じているという現実である。

 「個別対応」に関する意見は全部で34件である。「発達障害をもつ子(疑いのある子)に対 しては,個別的な関わりをしていく必要性を感じるが,職員数の関係でも実際には厳しいの が現状」「職員の配置人数が少ないため, 1 対 1 の個別対応の時間がなかなかとれない」「一 人で日中13人の児童に対応することもあり,個別ケアが必要,大切と感じながらも手がまわっ ていない状況が少なからずある」といった意見に代表される。こうした現実があり,「職員数

表 5  学校への意見・要望

意見・要望 件 数

子ども理解 児童養護施設に関する理解 5 発達障害児の理解 7 12

学校システム

学校の対応 11

19

クラス分けなど

その他

指導内容・方法

子どもに合った指導 17

(うち学力面) ( 3) 24

他児からの理解 3

卒業後にむけた指導

学校との協議の機会 7

(6)

が増えることで,個別にゆっくりとかかわることができる時間が確保しやすくなるのではな いか」というように,個別の対応をするために職員増員や職員配置を求める意見が多くみら れた。

 また,個別対応を求める意見の背景には,発達障害のある子どもにかかわる時間の不足が ある。「かかわる時間」の不足については10件の意見があった。「発達障害をもつ子どもにた いする支援には時間がかかり,人も取られてしまう」のに十分な時間がかけられないのであ る。逆に,「アピールする児童に隠れて,(発達障害児への)関わりが不十分になる」という 意見もあった。時間の問題は直接支援の時間だけの問題ではなく,「発達障害の子どもの内面 でどのようなことが起こっているのか」「子ども一人ひとりに時間をかけ問題点をさぐる」と いうように,支援の基盤となる子ども理解のための時間としても必要だとする指摘も見逃し てはならないだろう。

 これら個別対応やかかわる時間と表裏一体の関係にあるのが,発達障害のある子どもが一 緒に集団生活を送っていることとかかわった「他児への対応」である。他児への対応にかか わる意見は13件あった。「発達障害をもつ子ども自身の安全や安心を確保することはもちろん だが,その他の子どもに与える影響も非常に大きい」「(集団の中に発達障害のある子どもが いることで)集団が不安定になり,トラブルが発生することもたびたびあるように思われる」

「まわりの子も含めて安定した生活が送れるよう」職員人数面での手厚いサポートが必要とい う意見に代表される。

 被虐待児に関係する記述と学校との関係に関する記述を以下に紹介する。

 被虐待児関係

・年々,発達障害をもつ子どもの入所が増えてきている。また,虐待の子どもの数も増 えてきており,子どもどうしの関係も難しいものとなっているのが現状である。

・被虐待の子どもが多い中で,発達障害の子どもも見ていくには,いまの職員配置では たいへんである。

 学校との関係

・特別支援学校等の行事も多く一人にかかる時間数がとても多い。

・通級支援(通学のための付き添い―筆者注)が厳しい。

・特別支援学級を含めて,学校での活動のサポート等で人員が必要になることが多く,

そのために本体施設にいる職員数が減る時間帯が日常的にある。

⑵ 制度や条件面での改善要望

 先にもふれたように,発達障害のある子どもへの対応の困難を解決するためには,職員配 置や施設設備などの条件整備と,直接支援にかかわる職員の質の向上が求められるわけだが,

職員はこれらについてどのような意見をもっているのかについて,自由記述をもとづいて整 理した。

(7)

  1 )職員数

 まず職員増については31件の意見があり,そのなかでも,児童福祉施設最低基準そのもの の見直しを求める意見13件,さまざまな方法での職員増を求める意見 9 件が注目された。さ らに,生活支援員以外の専門職配置を求める意見が 4 件あった。やや詳しく述べると,施設 最低基準に規定された職員配置の見直しについては,「発達障害とは関係なく基準は見直され るべき」「発達障害をもつ,もたないにかかわらず,最低基準の見直しは必須」というよう な,発達障害のある子どもが在籍しているか否かにかかわらず,まずは基準を見直すべきだ とする意見がまずあり,さらに「支援の難しい子どもたちに対応するには 6 対 1 ではたいへ ん困難。…… 4 対 1 ,または 3 対 1 に」「職員配置基準の見直しをしていただきより手厚いケ アができるように」「障害によってさまざまな課題をもつ児童には,それなりの支援が必要と なり,そのための人員の確保は必要」など,発達障害など特別な支援を必要とする子どもへ のケアを前提に基準の見直しを求める意見がみられた。

 ここには,職員配置に関する最低基準は,そもそも子どもがよりよく育つためにある児童 福祉施設として根底から見直されるべきであるという認識がまずある。そのうえに,発達障 害のある子どもが生活することにふさわしい基準の見直しが求められるというのである。

 そのほかさまざまな方法で職員増を求める意見として,発達障害のある子どもがいる場合 の職員の加配(障害児加算)方式を求める意見,「常勤の職員でなくとも非常勤職員等の雇用 でも」,「せめてプラス 1 人いたら」と人手が必要といった切実な意見がみられた。

 生活支援職員以外の職員配置については,心理士,ファミリーソーシャルワーカーのほか,

「医師など専門的判断のできる人の常駐」「(発達障害に)特化した人材配置」といった声が上 がっている。

 なお,集団の規模を小さくすることの有効性から,ユニットケア,小規模グループケアが 志向されるべきとの意見もあったが,現状では「 1 ユニットの人数が多く,落ちついた環境 をつくり出すことが難しい」など,ユニット制の基準も課題となっている。

  2 )施設空間

 施設設備(空間改善)に関する意見は,14件あった。これらの意見から,「落ちつく環境」

「個室(二人部屋を含む)」「落ちつかせるための空間」が抽出された(表 3 )。

 「落ちつく環境」については 5 件であり,ADHD など周囲の刺激に影響を受けやすい傾向 のある発達障害児がいる場合,「他の刺激が多いために落ちついて生活ができない」ので,

「落ちついて集中できる環境」「居室を別に」「(別の)学習施設」をといった意見である。さ らに,「環境の構造化」というような,障害に応じた空間整備を求める意見もあった。

 同じく「落ちつく」という言葉ではあるが,これらとは異なり,他児とのトラブルやその 他の要因で子どもを「落ちつかせるための空間が必要」という意見が 3 件あった。こうした 落ちつかせるための空間に関する実態について,埼玉県のある施設長はつぎのように述べて いる。

(8)

 「小規模施設である当園では施設整備をすすめているのですが,子どもたちの生活の場は確 保したものの,それ以外に用いる場がないというのが実情です。一人が暴れていて,他の10 人,15人という数の子を別の場に移すということが設備の面から難しい。研修を受け(タイ ムアウトなどの)知識をもったとしても,現場では何もできない,それを生かす場がないと いうことが起きてしまうのです。」(内田他,2012)

 「個室」の要望も,個別の対応や,集団生活の中での発生がちなトラブルへの対応を理由と するものであった。

 現行の児童福祉施設最低基準上,施設は子ども 1 人あたりの面積(3.3㎡)で 1 室あたり15 人という居室と,最低限必要とされる調理室,浴室,便所などの諸設備という考え方である が,実際の施設は徐々に居室の人数を減らし,空間を工夫している。しかし,全国どこの施 設も,子どもが育つにふさわしい環境となるように,施設基準の抜本的な見直しがされなけ ればならない。そうした基準の見直しと同時に,発達障害傾向のある子どもの入所を前提と した観点をもった施設設備のあり方を検討していく必要があろう。

  3 )研 修

 研修にかかわる意見は20件あり,「知識を身につけたい」という全般的要望のほか,大半は

「発達障害の理解」「具体的な支援方法」の二つを内容とした研修を望むという意見であった

(表 3 )。「専門知識を身につけ,障害の内容を理解した上で適切な支援が行えたらと思う」

「発達障害の勉強会や具体的な支援方法など,勉強できる場もあったらと思う」「発達障害に 対して正しい理解を得ることで良い支援ができると思う」といった意見に代表されるもので ある。

 しかし,研修の機会はまだ十分ではない。埼玉県のある施設長はつぎのように述べている。

 「休日に自費で(研修に)参加する職員が多いようです。施設経費で参加できるものは業務 命令として参加させますが費用は少ないのが現状です。……研修の案内として届いたものを 職員室に掲示しています。」(内田他,2012)

⑶ 諸機関との連携

 諸機関との連携に関する職員の意見について,選択項目については表 2 ,自由記述の分類 は表 4 で示したとおりである。

  1 )児童相談所

 連携すべき機関としてもっとも意見が集まったのは,児童相談所である(31件)。内容面で は,他の機関にはない専門機能での連携を求める意見が集中している。詳細をみていこう。

 「支援プログラム作成」( 7 件)に関係する意見としては,「入所後,早い時点で先を見通し てのプログラムをたててほしい」「支援を必要とする子どもたちに対しては,長期的な支援計 画をもって対応してもらいたい」「入所前に発達障害だとわかっている時点でそのケースプラ ン(何年後に心理判定をする,手帳取得など長期的な対応のプラン)をたてて,わかりやす

(9)

くしてほしい」などに代表される。これらと関連して,「継続したケア」( 6 件)に関する意 見が比較的多い。「(児童相談所は)一度,施設に入れてしまうと,その後のケアをしようと しない」「施設に入所したからといって施設職員のみが対応するのではなく……」といった,

入所後の児童相談所の関与が不足している現状が指摘され,「入所後も子どもの発達経過の把 握と心理判定などを積極的に行ってほしい」「よりきめの細かい対応を施設と両輪で支援して ほしい」という,定期的・継続的な連携を希望する意見があった。そして,さらに,退所後 を展望した支援である。現行施策では「就労が困難な場合のサポート体制が脆弱」「自立支援 の動きが遅く,メニューも乏しい」「18歳以降の支援のあり方や自立にむけた取り組みは課題 が山積している」という状況の下,「児童相談所・学校と連携して自立にむけての進路選択を 行っていかなければならない」,そのための連携の要としての役割を児童相談所に期待するな ど,退所後の生活にかかわる意見が 6 件意見であった。

 記述の中には,児童相談所との連携が不足しているという意見ばかりではなく,心理職,

児童相談所との定期的な話し合いをして「共通の意識」を形成している,子どものようすを つねに児童相談所のケースワーカーに報告しているといった連携に努めている例もあったが,

心理判定,家族への支援や連携,退所後の生活など,子ども一人ひとりにたいする支援を決 定するさいに必要となるケースカンファレンスにさいして,先々を見通した主導的な機能を 児童相談所に期待する意見が中心を占めていた。虐待件数の増加など,近年の児童相談所の 業務はたいへん荷重になっているといわれる現状ではあるが,発達障害のある子どもの児童 養護施設入所後の支援を強化するためには,施設と児童相談所との連携をいっそう強める必 要があるといえよう。

  2 )医療機関,心理職などの専門職

 障害の理解を含めた子どもの理解と,発達障害児への支援方法について,相談したり研修 を受けたりするさいに必要とされる機関として,医療機関,専門職(心理職にかんする記述 のみ)が重要である。「子どもが起こす行動・言動が,どこから来るものなのか,そのつど相 談していけるよう,心理職や医療機関等と協力して支援していく必要がある」「医師に助言を 受けながら,施設内心理士と相談しながら支援する」といった意見である。前述の「研修」

の項とも関連して,障害の基本的な理解,子どもの行動と障害の関係をふくんだ,支援の前 提としての子ども理解と,支援方法を工夫していくために,これらの諸機関との連携がつよ く意識されている。

 そのほか,医療機関との連携には,子ども理解とは区別されるその他の注目すべき意見が いくつかあった。通院に時間がとられ,負担が大きい,特に子どもの精神面での医療機関が 少ないために専門病院に通院するのに時間がとられる,児童養護施設に関する理解のある医 師が少ないなどの意見である。これらはいずれもそれぞれの施設では解決できない問題であ るが,解決の糸口が見えない問題でもある。

(10)

  3 )学 校

 学校との連携については11件であった。具体的には,発達障害をもつ,あるいはその傾向 がある子どもについて,学校が理解することとともに,障害や発達の状態のみならず,生活 状況もふくめて学校と情報を共有すること,さらに支援の方法についても共通理解を図るこ とが必要であるとする内容であった。また,「施設からの自立」という観点での学校との連携 をあげた意見も 1 件あった。

  4 )家族,地域との連携

 家族への支援については,12件のうち,半数が「(家族が)その子を受けとめるという意味 での家族支援」「親が障害を認知,理解するための家族支援」を課題ととらえていた。家族

(特に親)が,発達障害という見えづらい障害を受けとめること,行動面での課題をふくめて 子どもを理解することが困難であるだけに,大きな課題である。その他としては,「本人とそ の家族支援のためにかかわる専門家のネットワークが築かれることが必要」「子どもの障害が 家族関係の障害になっていることも考えられる」というように,家族に視野を広げた支援の 必要性が指摘されている。

 また地域に関係する意見として,「その児童をより良く知ってもらう。『地域で育てる』」と いう観点が必要,卒業後の就職を考えると企業等の地域関係者との連携が不可欠といった意 見があった。

 自由記述を分析すると,第一に,児童相談所との連携を強める意見が最も多く,その内容 は,児童相談所が本来発揮しなければならない判定や支援計画,自立支援などの機能の充実 を求めるものであった。第二に,医療機関や心理職に代表される専門職には,発達障害の基 礎知識と子ども理解に関する助言等の連携が求められていた。この 2 点が特記されるべきで あろう。学校との連携に連携については,事項に含めて述べる。

⑷ 学校への要望・意見

 この項目への自由記述は,前 2 項目と比べて少なかった。すでに学校との定期的な協議を 開いているとの記述も 2 件あり,いずれも有効であるとの評価であった。記述が他項目より 少なめな理由としては,比較的良好にすすんでいる施設が未記入となったのではないかとも 考えられる。なお,この 2 件は,表 5 では「協議の機会」の 7 件に含まれている。

 しかし,集約した自由記述からは,学校における子ども理解の不足,子どもに合った指導 への要望など,学校と施設間の相互連携の切実な課題が浮かび上がってきた。

  1 )子ども理解

 学校における発達障害をもつ子どもの理解は,前項の関係機関との連携でも指摘されてい たが,ここでは関係する意見が12件あった。このうち, 5 件は児童養護施設そのものに理解 を求めるものであった。「児童養護施設についての知識が乏しい」「児童養護施設に入所して いる子の理解が厳しく一般家庭の子と比較されてしまうため支援が難しい」,さらには虐待を

(11)

受けた子どもに対する理解がないというように,子どもの生活背景を理解するという点での 不足を指摘する意見があった。このこと関係して,保護者の承諾や判定会議待ちといった,

子どもの権利を保障するための児童福祉の手続きなどにおいて,時間がかかる事柄があるこ とを理解して,学校に柔軟な対応を望む意見が加えられていた。

 そのほかの子ども理解に関する意見は,発達障害の理解である。「まだまだ発達障害への理 解がないのが現状のように思われる」「学校の先生たちに発達障害をもつ子どもとの接し方な どについて研修などに積極的に参加してほしい」など,施設からの要望の切実さが理解され る意見である。小・中学校においては特別支援教育の展開において第一にすすめられてきた とされる発達障害理解であるが,実際にはまだまだ不十分なのだろう。

  2 )指導内容・方法

 子ども理解につづいて,実際の指導内容・方法である。この点での意見を整理すると,「一 人ひとりのニーズに合わせた支援と指導」,「子どもの特性を把握してその子にあった課題内 容」を,施設と連絡をとりあって,共通理解をしたうえで,一緒になって考えていきたいと いう施設の姿勢が見えてくる。「授業のやり方や関わり方をもっと還元してほしい」という意 見もあった。また,特に学力面での遅れに対応してもらいたいという意見が 3 件あり,その うちの 1 件は,「学校で学習していることが理解できないままで宿題として出された場合,施 設職員が本当に理解させていくのにかなりの時間を要する毎日だ」という現実が記述されて いる。

 この項目の「他児への理解」とは,クラスの子どもたちの発達障害のある子どもへの理解 である。「他の子からバカにされたりいじめられたりしないように上手にサポートしてほし い」,「児童にむけての共通理解を促してほしい」などの意見があった。

 「卒業後にむけた指導」としては,実際に職業実習などを体験させることが有意義だったと いう意見,職業実習に力を入れてほしいという意見である。前項の関係機関との連携の中で も,これに関連する意見が 1 件あった。

  3 )学校システム

 学校システムとは,上記 1 ),2 )などの教室内や教職員個々の対応では解決できない,学 校全体で取り組むべきと考えられる事項をまとめたものである。たとえば,教師の中にも「対 応が上手な人と下手な人がいる」のが現状だが,学校全体として教師の資質を向上させる方 向で取り組んでほしいという意見,毎年担任が替わるのでは子どもにとってもたいへんであ るのと同時に,施設としては同じ説明を求められることになるので「積み上げられる環境 を」,「学校で対応できることも施設職員任せになるときがある」など,施設から通学する発 達障害のある子どもの対応を,学校として整理してほしいという意見としてまとめられる。

また,特別支援学級在籍児のほとんどが施設からの通学児で占められている学校では,定員 いっぱいの年度は特別支援学級で学ぶことがよいと判断されても通常学級在籍になることも あり,施設と学校の間の改善課題になっている。

(12)

 さらに,「学校によって特別支援学級の設置,支援内容が大きく異なっているように感じ る。どの学校でも平等に同様の教育が受けられるようになるとよい」という意見は,県や市 の教育委員会に届けられなければならないだろう。

  4 )協議の機会

 最後に,施設と学校間の協議の機会であるが,先にふれたように,協議の場が有効である という意見が 2 件あった。ここにかかわる意見からは,「学校でのようすと施設でのようすの 差がある場合もあるため,定期的に情報交換をしたい」「子どもとの関わりを持つ上で,施設 と学校とで共通理解をしていくことは大切なことだと思う」というように,子ども理解の基 礎となる情報交換と意思疎通の場の必要性が浮きぼりになった。学校と施設で子どものよう すが異なるという点については,「学校では難しいが施設では問題が少ない」子,逆に「学校 では『お客さん』で,自身を表現できず,施設に帰ってきて悪態暴言」となる子もいると,

子どもによってさまざまであるとの指摘もあり(内田ら,2012),子どもの示す行動に立ち 返って丁寧に共通理解を図ることが重要である。また,日常的には「どんな小さなことでも 連絡してほしい」「話し合う機会は他児より多くしてほしい」という具体的な意見もあった。

おわりに

 発達障害のある子ども受けとめるための改善課題に関する児童養護施設職員アンケートか ら明らかになったことを要約すると次の 3 点になるだろう。

①職員は,施設内の生活において,発達障害のある子どもに対して個別の関わりをする必 要性を感じており,そのための職員配置や施設空間の改善を求めている。

②発達障害のある子どもの支援を行うために職員は,障害の特性とともに子どもを深く理 解することが重要と考えており,そのための職員増や研修を求めている。

③諸機関との連携についても,「子ども理解」がキーワードとなる。また,諸機関との連携 を円滑にすすめるためには,児童相談所の機能の強化が求められる。

 同時に見えてきたことは,発達障害のある子どもを支援する上での困難と児童養護施設そ れ自体長年抱えてきた困難とが重なり合っている現実である。第 1 に子どもの直接支援して る職員の人数において,第 2 に施設の空間整備において,第 3 に力量形成のための研修の内 容や機会において,さらに第 4 に諸機関との連携において,第 5 に学校との関係において,

いずれも「発達障害のある子どもがいるから」という理由だけで生じた困難ではない児童養 護施設の課題が存在し,発達障害のある子どもがともに暮らすことによって,そこに「新た な」課題が生じているということである。児童養護施設において発達障害のある子どもがよ りよい生活を送るための改善課題は,児童養護施設そのものの課題として認識されるべきだ ろう。

(13)

1 )児童養護施設の職員配置は2013年度から,少年5.5人につき児童指導員・保育士 1 人に改 善されている。(厚生労働省「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準の一部を改正する 省令」2012年 5 月31日)

2 )自由記述の内容は,埼玉県児童福祉施設協議会調査委員会(2012)埼玉県内の児童養護 施設で生活する発達障がいが疑われる子どもに関する実態調査中,「発達障がいをもつ子ど もを支援するにあたっての職員の意見」(pp.22-32)にまとめられている。

文 献

後藤武則・池本喜代正(2008)栃木県の児童養護施設における発達障害児の実態と処遇.宇 都宮大学教育学部教育実践総合センター紀要,31,pp.357-363

堀場純夫(2010)児童養護施設の小規模化 特集にあたって.子どもと福祉,vol. 3 ,pp. 4

- 6

内田伴之ほか(2012)座談会・発達障がいのある子どもの育ちを支える施設をめざして。埼 玉県児童福祉施設協議会調査研究委員会『埼玉県内の児童養護施設で生活する発達障がい が疑われる子どもに関する実態調査』pp.43-55

参照

関連したドキュメント

【選択必修 6 時間TV会議】 【選択 18 時間ライブ】

 本人の弾力性要因としては知的障害・発達障害

第6章では,以上の知見を,時間処理障害に焦点づけた視点から総合的に考察した。時間処理障

「青春」とは, 「若い時代.人生の春にたとえられる時期.希望をもち,理想にあこがれ,

発達障害のある子どもへの配慮

まず、自閉症というものが、理解しがたい症状を呈することによる。知的障害というときの「知

「ルーマンが長い間観察されると,彼がけっし  ている。フッサールのウィーン講演以来60年の歳

きている。しかし,発達障害児と災害に関する具体的