障害児のぞい寝に関する研究 中村朋子*上田禮子*
は じ め に
わが国に伝統的にある親子のぞい寝につき,その頻度と種々な形態,および,それらの形態に関 与する諸変数にっき,上田らは横断的あるいは縦断的調査を実施してきている。1989年度には同一 調査地域で1981年度に実施した調査結果と比較して,そい寝の時代差を検討した。その結果,大人 とのぞい寝は,①1981年に比べて増加の傾向にあること,②家族形態や住宅密度とともに母親の就 労の増加とマスコミの育児情報源が関与する傾向にあること,③母親の生育期にそい寝を経験した
ものが子育てにあたりそい寝を選ぶ傾向にあることなどを報告した%また,同じ1990年に東京都 の離島(○島)に在住する99組の乳幼児とその母親を対象に就寝形態とそれに関与する変数を検討 し,得られた結果を1989年における都内の調査と比較してそい寝の地域差とその意味を考察した。
都内と離島との間には大人とのぞい寝の頻度にほとんど差がなく,両地域の都市化のレベルに殆ど 差のないことが推測された。しかし,そい寝に関与する変数として都内で得られた結果,すなわち,
母親の就労,住居の高密度,母親の子ども時代の就寝形態が離島におけるそい寝群とひとり寝群と の比較では必ずしもあてはまらないことが明らかになった。その理由として,都内と離島には生活 構造上の違いがあり,①母親の就労は都内に比べて家業が多い,②家業に民宿が多く,家族の使用 する部屋数はそい寝群ひとり寝群ともに少ない,③育児情報源は近隣知人の者が多いなどを特徴と していた。言い替えれば,離島の人々は比較的同質的な物質的・社会的環境に住んでいる理由によ ると考えられた2)。
本調査の目的はこれらの知見を基にして障害をもちながらも成長・発達しっっある障害児就寝形 態とそれに関与する諸変数を知り,障害児の発達過程における大人とのぞい寝の意味を検討するこ とである。このことは同時に,生活水準・医療の向上によって疾病や障害をもちながらも青少年や 成人期を迎える者が増加している今日3)4) 5),障害児の生活習慣の形成および自立への支援の必要
とも関連する日常生活上の基礎資料の1っを得ることでもある。
1.対
象
対象は1983年〜89年に東京都内に所在する総合病院リハビリテイション部外来,肢体不自由療育・
施設外来,および,精神発達遅滞児通園施設に治療・教育のために訪れた障害児とその母親82組
(以下H群称す)である。年齢は1〜9歳と幅があり,診断名は肢体不自由児(脳性まひ,進行性 筋ジストロフィ症を含む)62名,精神発達遅滞児20名であった。対照群として東京都内K:保健相談 所に1歳6カ月健診で訪れた母親と幼児271名(以下N群と称す)を設定した。
*茨城大学教育学部
2.調 査方 法
調査方法は面接法であり,主なる内容は①障害の種類と程度,②H課,③日頃子どもを世話して いる人と子どもの愛着の対象者,④就寝形態(図示を求める)就眠儀式の有無寝ることについて 参考にしているもの,⑤家族の健康状態と人数,部屋数などであった。面接調査の結果はH群とN 群を比較すること,またH群内の大人とのぞい寝とその他群とを比較することによって検討した。
3.結 果
(1)就寝形態とその類型 表1 就寝形態 H:群82名の就寝形態は大分類す
ると表1にごとくであった。個室 でのひとり寝1人,1.2%,大入 との同室でひとりぶとん53人,
64.6%,きょうだいとそい寝5人,
6.1%,大人とそい寝23人,28.1 %であった。一方,N群では,個
室でのひとり寝7人,2.5%,大入 表2 大人とのぞい寝類型の比較 と同室でひとりぶとん140名,51.7
%,きょうだいとそい寝19人,大 人とのぞい寝68人,25.1%であっ た。
この結果はH群の年齢分布が9・
歳の学童までの者を含むにもかか わらず,そい寝の割合28%がN群 の25.1%と殆どおなじであった。
(2)大人とのぞい寝
大人とのぞい寝をしている者に注目して被検者によって図示された就寝形態を詳細に検討し,
A,B, C, Dの4型に分類した。すなわち, A型は両親が子どもを真中に川の字に寝かせるタイ プ,B型は両親が共寝で子どもをどちらか一人の親の側に寝かせるタイプ, C型は同室で親の一 人が子どもとそい寝するタイプ,D型は両親分室であり,親の一人が子どもとそい寝するタイプ である。表2は大人とのぞい寝群に注目し,H群23名とNi群59名とを比較した結果である。
H群とN群に比較して,A型とB型か少なく,逆にC型とD型が多い傾向にあった。一方, N群 にはH:群に比較してA型が36.8%あり,より多く,また,幼児を持つ両親の分室D型は皆無であっ たのに比べて,H群にはA型が13.0%にすぎなかった。(P〈0.005)
(3)H群のぞい寝とそれに関する変数
同じように障害をもちながらも比較的早くからひとり肥している群と学童期になっても大人と そい寝をしている群との間には子ども側および環境側にどのような違いがあるのだろうか。
表3はH群の中で,大人とのぞい寝群23名とその他群59名とを属性について比較した結果であ
対象撞
形 態 H 郡 N 郡
個室ひ と り 寝 1人 (1.2)% 7人 (2.5)%
ひ と り ぶ と ん 53 (64.6) 40 (51.7)
きょうだいとそい寝 5 (6.1) 19 (7.0)
大人 と そ い寝 23 (28.1) 68 (25ほ)
不明 0 37 (圭3.7)
計
82 (100) 271 (100)
対象児
形態 H 郡 N 郡
A型(糾 の 字) 3人
(13.0)%
25人(36。8)%
B型(両 親 そ い 寝)
2 (8.7) 8 (11.8)
C型(親の一人とそい寝) 13
(56.6)
30(44.1)
D型(親の一人とそい寝・
5 (21.7) 0
両親二二)不明
0 5 (7.4)
計
23
(100)
68(100)
る。そい愚輩はその他群に比 べて一人っ子が有意に多く,
また,一人当たりの畳数が有 意に少なかった。
表4はそい寝に対する親の 態度および就眠儀礼との関係 を示している。調査時点で大 人とのぞい寝をしている者が 何時頃にひとり寝させると 決めているか についてその 時期を質問した結果,57%は その時期を決めていなかった。
また,就寝前に子どもがい つも行うこと,くせ,気がか りなことなど,就眠儀礼の有 無にっき両群を比較した結果,
両津に有意差はなかった。
表5はそい寝群とその他群 とを起床時刻と就寝時刻にっ き比較した結果である。そい 寝群の起床時刻は5時から10 時まで幅があり,7〜8時の 頻度が最も多かったが,その 他群との間に有意差はなかっ
た。
さらに,表6は先に述べた そい寝のパターンA,B, C,
Dの4型と被検者の年齢およ び診断名との関係を示してい る。年齢との関係では両親を 真中に川の字に寝かせるA型 は4歳以下の幼児前期である のに対し,B型は幼児後期に みられた。また,C型とD型 は乳幼児期から学童期にかけ て幅広く分布する傾向を示し ていた。また,そい寝のパター ンと診断名との関係をみると,
筋ジストロフィ症児はA型,
表3 そい寝と対象児の属性
**P〈O. OOI
就寝形態ョ 性
そい寝群
@n罵23
その他群
@n=59
父親の職業 事務・専門 ゥ営 サの他
15人(65.2)%
P (4.3)
V (30.5)
42人(71.2)%
U (10.2)
P1 (18.6)
母親の職業 家事
d事 サの他
21 (91.4)
P (4.3)
P (4.3)
54 (9L5)
P (1. 7)
S (6。8)
父親の学歴 大学・短大卒
mZ卒?学卒
7 (30.4)
W (3嘆.8)
W (34.8)
24 (40.7)
Q1 (35.6)
P4 (23.7)
母親の学歴 大学・短大灘
mZ卒?学卒
4 (17.4)
P1 (47.8)
W (34.8)
13 (22.0)
R0 (50.8)
P6 (27.2)
同 胞 1人子 Q人 R人
9 (39.1)
P2 (52.2)
Q (8.7)
17 (28.8)纏 R4 (57.6)
W (13.6)
畳 数 i1人当り)
〜4帖まで
̀5
̀6
̀7
@それ以上
11 (47.8)
S (17.4)
P (4.3)
R (13.0)
S (17.4)
16 (27.1)**
U (10.2)
X (15.3)
V (1L9)
Q1 (35.5)
表4 そい寝と育児及び就眠儀礼
項 図
就寝形態 そい寝群
@n霜23
その他群
@職魑59 ひとり寝させる時期 決めている
?めていない サの他
2 (8.7)
P3 (56。5)
W (34.8)
就眠儀礼 有無
8 (34.8)
P5 (65.2)
16 (27.1)
S3 (3G.S)
就寝前に親が qどもにしていること
有無
9 (39,1)
P4 (60.9)
18 (30.5)
S1 (69.5)
表5 就寝形態と起床・就寝時刻
就寝形態 そい寝群 その他群
起床・就寝時刻 a瓢23 n=59
起床 時 刻 5時〜 3人(13.0)% 2人(
3.4)%
6時〜
5 (21.8)
18(30.5)
7時〜 10
(43.5)
22(37.3)
8時〜
3 (13.0)
10(16.9)
9時〜
2 (8.7) 3 (5.1)
10時〜
2 (3.4)
不明
2 (3.4)
就寝時刻 6時〜
0 1
(1. 7)7時〜
1 (4.3) 4 (6.8)
8時〜
5 (21。8) 8 (13.6)
9時〜 11 (47、,8) 28
(47。5)
10時〜 4
(17.4)
15(25.2)
11時〜
1 (4.3) 1 (1。7)
12時〜
o 1 (1.7)
不明 1 (4. 3)
1
(L7)B型,C型, D型のいずれのパターン をもとっているが,脳性まひ児や精神 発達遅滞児はC型あるいはD型を選ぶ 傾向を示していた。
表6 そい寝のパターンと年齢・診断名
そい寝 A B C D
パターン
揺字名 年齢 n瓢3 n=2 n躍13 aロ5
1歳
1
2 2 1 1
3
1 1
4 1 4 1
5 3 1
6
7 1 2 圭
8
9歳以上
1 1
進行性筋ジストロフィ症
3 2 3 2
脳牲まひ
1
精神発達遅滞
8 3
脳性まひ・発達遅滞
1
4.考 察
在宅の障害児を対象として就寝形態の様相を健常な幼児の就寝形態と比較することによってその 特徴を検討した。
1)そい寝の頻度とそのパターン
障害児の大人とのぞい寝の頻度は27.7%であり,健常児のぞい寝25.1%と殆ど同じであった。
この結果は,H群の年齢分布1〜9歳に比べて, N群が1歳6カ月であったことを考えれば, H 群は基本的生活習慣の1っである睡眠領域の自立において遅れていると見なすこともできる。そ の理由はおそらく,障害児が歩行困難や言語発達遅滞などのために,暦年齢に比べ外見上幼く見 えること,あるいは,自力で寝返りができないことなど障害の程度が就寝形態に関与していると 考えられる。また,大人とのぞい寝のパターンにっいてはH群がN群に比較してA型,B型,が少 なく,逆にC型,D型が多い傾向にあった。これは就寝形態を家族内の人間関係のあり方を示す 1っの指標とみなすなら6),H群の家族関係はN群といくらか異なることを示唆しているといえ よう。特に,H:群はN群に比べて親子が川の字に寝るA型が少なく(13.0%v.s.36.8%), D型が多 かった(21.7%v.s.0%)ことが注目される。親子の間の愛着関係形成にかかわりあいが重要で あるとする立場からみると7),障害児と分室して就寝する家族と比べて,家族構成員のコミュニ ケーションのあり方に差があるかもしれない。また,障害児の情緒社会的発達の面にも差があ ることも予想される。今後これらに関して検討する必要があろう。
2)そい寝に関与する変数
H群にっきそい寝の頻度に関する変数を検討した結果,同胞数と一人当たりの畳数が関与する こと,また,そい寝のパターンには被検児の年齢および,障害の種類(診断名)や程度が関与す ることが示唆された。これらの結果の一部は健常児においても一人当たりの床面積が少なくそい 寝を余儀なくされている者がある点において類似していた8)。
しかし,同胞(兄弟姉妹)の有無に関しては健常児の場合とは逆の結果であった。すなわち,
健常児の場合には,同胞のあるほうが大人とのぞい寝がより多く,物理的な居住密度と関係する
ことを示唆しているが障害児の場合は同胞のある方がそい寝が少なかった。これは,そい寝が単 なる就床面積ばかりでなく親の同胞に対する育児経験が障害児の就寝のさせ方,ひいては生活習 慣の形成に影響している可能性がある。思春期近くになっても大人とそい織し,そい寝を止めさ せる時間を考えていない障害児の親は日常生活における しつけ のモデルを欠き無意識に継続 してきていると考えられる。
一方,そい寝のパターンの検討から筋ジストロフィ症児が学童期になっても,親とそい寝が6 名あり,B型2名, C型3名, D型1名であったことを考えると就寝中の介助(寝返りなど)の 必要性からそい寝をしていることも無視できない。従って,障害児のぞい寝の是非は健常児と同 じレベルで論じることはできず,障害の種類や程度をふまえた上で好ましい生活習慣の形成を目
標として現実的に対応する必要がある。
3)その他
子どもの就寝前に親が子こもにしてやることや就眠儀礼の有無をH:群のぞい寝群とその他群と の間で比較した結果,両群に差はなかった。しかし,親が本を読むなど何かしてやっている事に 関しては,障害児と3歳児健診に訪れた幼児では,障害児群は普通児群に比較して頻度力沙なかっ た9)。(31.0%v.s.42.4%)親子関係は相互作用から成りたっていることを考えれば e),障害児が 親の反応を誘発する能力が弱いこと,一方,親が障害児のサインに気づきにくいことの両方がこ の結果に関与していると推測される。いずれにせよ,障害児も健常児と同じように多様な感覚,運 動刺激を求めている存在であり,このような視点から親への支援が必要であることを示唆してい
た。
また,起床,就寝時刻をH群のぞい寝群とその他群の間で比較した結果,両群に差はなかった。
しかし,両群ともに起床時刻が9時過ぎの者が8.7〜11.9%あり,就寝時刻10時以降の者が21.7
〜28.8%あったことに注目しなければならない。健常児との間で起床時刻や就寝時刻が著しくず れることは日課に違いを生じることを意味しており,たとば,幼児期から総合保育やノーマライ ti 一一ションを目標としても現実的になることを困難にするであろう。これらのことは総じて障害 児の保育・教育を知的面のみならず日常生活全体の中で構造的にとらえて,実践しようとするな
ら,就寝形態就寝時刻,起床時刻は1っの重要な手がかりとなることを意味していると考えら
れる。
5.ま と め
障害児82人の就寝形態を健常な幼児271人のそれと比較すること,および障害児群の中でそい寝 をしている者とそうでない者について検討した。その結果,①大人とのぞい寝は殆ど同じ割合で みられること,②しかし,そい寝のパターンには違いがあり,A型, B型が少なく, C型, D型が 多いこと,③H群のぞい寝の型には障害の程度ばかりでなく,家族の人間関係やしっけの方針が 反映されていることが知られた。従って,就寝形態は就寝時刻や起床時刻とともに障害児の日常生 活を構造的に把握する際の有力な手がかりの1つとなり,支援活動に役立っ可能性のあることを論
じた。
謝辞:資料収集に協力いただいた東京大学付属病院リハビリテイション部の職員の方々,および,
あすの子学園松井良子氏,i整育園花岡真由記氏に感謝いたします。
附記:本論文の要旨は第55回日本民族衛生学会,宇都宮,90.11にて発表した。
参 考 文 献
1)上田禮子,中村朋子 幼児のぞい寝:その時代差について 茨城大学教育学部紀要 40号 (199D 41 N−49
2)上田禮子,藤井直子 幼児のぞい寝:その地域差について 第44回日本保育学会研究集論文集 44号(1991)198〜199
3)広瀬たい子,上田禮子 脳性麻痺児(者)に対する母親の受容過程について 小児保健研究
48(5) (1989) 545−551
4) Hirose Taiko and Ueda Reiko, Long−term follow up study of cerebral palsy children and coping behavior of parents J,of AdvaRced Nursing 15 (1990) 762−770
5)広瀬たい子 上田禮子 脳性麻痺児(者)に対する父親の受容過程について 小児保健研究
50(2) (1991) 489・一一494
6) Caudill, W. and Plath P, W Who sleeps by whom ? parent−child iRvolvement in urban Japanese families , Psychiatry.29.4 (1966) 344−366
7) Klaus, M. H,and Kennell J. H. Mother−infant bonding, St Louis, C, V Mosby (1976)
8)小沢道子,上田禮子 子どもの睡眠様式とその選択に関する要因の検討,民族衛生 43巻付録 9)前掲書 1)
IO)Busch 一 Rossnagel N. A.,障害はどこで不利益を招くのか Lernar R.M and Busch :Rossnagel ed. Individuals as producers of their development.上田禮子訳 生涯発達学
(1990)280〜282岩崎学術出版