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米 国 刑 事 法 研 究 会

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(1)

アメリカ刑事法の調査研究

(133)

米 国 刑 事 法 研 究 会

(代表 椎 橋 隆 幸)

Miller v. Alabama, 132 S. Ct. 2455 ( 2012 )

堤   和  通

**

犯行時に14歳であった少年が謀殺(murder)で有罪判決の言渡しを受 けた場合にパロ-ルの可能性のない終身刑を必要刑として科すことが合衆 国憲法第 8 修正の残虐かつ異常な刑罰になるとされた事例。

≪事案の概要≫

1 Jackson

の事案

申請人

Jackson

は,14歳のときに,二人の少年とビデオ店を強奪する計

画を立てた。ビデオ店に向かう道中,Jacksonは少年の一人,Shields ショットガンを携行していることを知った。店に着いた当初,店の外に止 まった後,Jacksonが店内に入ると,Shieldsが店員に銃を突きつけて金 員を要求しているところであった。Shieldsは,店員が警察への通報を予 告した後店員を射殺した。

 所員・中央大学法科大学院教授・法学部教授

** 所員・中央大学総合政策学部教授

(2)

検察官は少年に対する刑事訴追権限を行使し,Jacksonを重罪遂行中の 謀殺(murder)の罪と加重強盗罪で起訴し,Jacksonはいずれの訴因につ いても有罪と認定された。州(アーカンソー州)の裁判官は,有罪評決が あった犯罪事実を理由とする場合に許される唯一の量刑としてパロールの 可能性のない終身刑を言い渡した。

Jackson

は,Roper (Roper v. Simmons, 543 U.S. 551 (2005))で当裁判所 が18歳未満の少年に対する死刑を無効とした後に州のへービアス・コーパ スを請求し,請求棄却に対する上訴係属中に,当裁判所が

Graham

(Graham

v. Florida, 130 S. Ct. 2011(2010) )で,人の死亡を要件としない犯罪事実を

理由とする少年に対するパロールの可能性のない終身刑が違憲であると判 示した後には,Roper

Roper

と併せてと併せてと併せて

Graham Graham Graham Graham

を根拠に請求をしたが,州を根拠に請求をしたが,州を根拠に請求をしたが,州を根拠に請求をしたが,州を根拠に請求をしたが,州

Su- Su- Su- Su- Su- Su- preme Court

は,Roper

Graham

の射程は本件に及ばないとして請求棄 却の判断を確認している。

2 Miller

の事案

申請人

Miller

は14歳で本件犯行に至るまで繰り返し里子に出されてい

た。その理由は,母親がアルコール中毒で薬物依存症であり,また

Miller

が継父から虐待を受けていたことにあった。Miller本人も薬物を使用し,

6 歳のときから 4 回自殺を図っている。

本件で,Millerは友人の

Smith

と自宅にいたときに,隣人の

Cannon

(Millerの)母親との薬物取引に訪れた折,Cannonが自分のトレーラーに 戻るのに付いていき,三人でマリワナを吸引し飲み比べを競っているうち に寝込んだ

Cannon

から取り出した財布を戻そうとして

Cannon

が気づき 揉み合っているところを,

Smith

が野球のバットで

Cannon

を殴打した後,

今度は

Miller

がバットで殴打し,二人で火をつけたために,Cannonは死

亡した。

検察官は,州法(アラバマ州)にしたがって

Miller

を刑事裁判所に送 致し放火時の謀殺(murder)の罪で起訴し,Millerは有罪と認定された。

Miller

は,州法が本件犯罪事実に対する必要刑とするパロールのない終身

刑に処せられた。アラバマ州

Court of Criminal Appeals

は有罪判決確認し,

(3)

Supreme Court

は上訴申立てを却下している。

アーカンソー州の

Jackson,並びにアラバマ州の Miller

について合衆国 最高裁判所がサーシオレイライを認容。

≪判旨,法廷意見≫

1 Kagan

裁判官執筆の法廷意見 破棄差戻し

1  残虐かつ異常な刑罰を禁止する第 8 修正の中心にある罪刑均衡の要 求は二つの先例の流れに反映している。

第一の流れは,あるグループの被告人に問うことができる責任非難

cul- cul-

pability

に着目し,その責任非難に相応しない厳格な制裁を一律に禁止す

るもので,Roper

Graham

はその流れに属する。Roper

Graham

が確 立したように,第 8 修正を適用するうえで少年に対する量刑は成人に対す る量刑とは異なる評価を受ける。Graham

Graham

が判示するように,無力化(in-が判示するように,無力化(in-が判示するように,無力化(in-

in- capacitation)を根拠に,少年に対してパロールの可能性のない終身刑を

科すのは少年の可塑性を否定するものであり,更生の理念を否定すること になる。

Graham

が下した違憲判断は人の死亡を要件としない犯罪に限定される

が,Grahamの理由づけは少年に対するパロールの可能性のない終身刑の すべてに当て嵌まる。

我われは,被告人の年齢が第 8 修正にとって重要であることを明確にし ている。パロールの可能性のない終身刑を必要刑とするのは,犯行時に少 年であったことを審理せずに被告人を州の最高刑に処すことを禁止する先 例の原理に反する。

次に,Grahamが明確にしたように,少年に対するパロールの可能性の ない終身刑は死刑になぞらえることができる。少年の人生を奪い取る後戻 りできない選択である。Grahamが終身刑について,有期刑には前例がな い,一律禁止を課した理由のひとつは,終身刑のこのような特異性にある。

パロールのない終身刑が死刑に類似しているので,第 8 修正に関する第

(4)

二の先例の流れが本件にとって重要になる。それは,死刑について量刑の 個別化を要求する先例である。量刑の個別化の要求に応えるには,被告人 が少年であることを軽減事由として審理できるようになっていなければな らない。Eddings(Eddings v. Oklahoma, 455 U.S. 104 (1982))が判示する ように,少年期にあること,それに少年の家庭環境等の背景と精神発達と 心理発達の段階が責任非難の評価で審理されなければならない。ところ が,少年に対する必要刑は,少年の年齢,並びにそれぞれの少年の特徴と 特有の事情を度外視して,すべての少年に同じ刑を科す。

本件で,Jacksonは殺害を意図していない。Jacksonはビデオ店に向か

う途中で

Shields

が銃を携行しているのを知ったが,Jacksonが当時14歳

であったことは,銃を携行するリスクの評価にも,また,その時点で犯行 から離脱する決意にも影響したことであろう。また,Jacksonは母親と祖 母がともに他人に発砲をした過去のある家庭環境に育っている。

Miller

は継父から身体的な虐待を受け,アルコール中毒で薬物依存の母

親は育児を放棄している。Millerは何度も里子に出され,幼少時から 4 度 自殺を図っている。こうした事情を審理せずに少年に対してパロールの可 能性のない終身刑を言い渡すべきではない。

本件では,少年,少なくとも14歳以下の少年に対するパロールの可能性 のない終身刑を一律に禁止することの是非は検討しないが,それが適法な 量刑として選択できるのは稀であろう。若年期にある少年の犯行が,成長 過程での過渡的な未成熟さを反映しているのか,それとも矯正できない堕 落した傾向を反映しているのかを見極めるのは大変に困難である。

2  州は我われの判断が

Harmelin(Harmelin v. Michigan, 501 U.S. 957

(1991))に違反するという。Harmelin

では,650グラムを超えるコケイン

所持を理由に,必要刑として定められているパロールなしの終身刑の言渡 しがあった事案について,その他の点で残虐かつ異常な刑罰に当たらない 量刑が必要刑であるだけで残虐かつ異常な刑罰になるわけではないと判示 されている。しかし,Harmelinは少年事件ではない。我われの法と裁判 の歴史は,子どもを小さな大人とみることはできないことを認めてきてい

(5)

る。本日の判示が

Harmelin

を変更しあるいはそれを掘り崩すなどという ことはない。

次に,州は多くの法域が少年に対するパロールなしの終身刑を定めてい ることを指摘し,社会の基準を示す客観的な尺度にしたがうことを論じる。

しかし,本日の判示は,そのような客観的な尺度を拠り所にした従来の裁 判例とは異なり,立法府の選択を大きく制約するものではなく,それに,

Roper,Graham

と量刑の個別化を要求する先例の原理からそのまま導き

出されている。

少年に対する死刑やパロールなしの終身刑を是認する法域の大半は,少 年事件を刑事訴追に付する手続きを定める法規と,刑事訴追での量刑を,

成人,少年を問わずに定める別の法規を組み合わせて適用することになっ ていて,刑事訴追を受けた少年に対する量刑に関する立法府の判断が常に 明確に示されているとはいいがたい。

州は,少年を刑事訴追の手続きに送致する段階で個別事情を審理できる ので本日判示するルールは不要であるという。

しかし,現在29の法域が刑事訴追により謀殺で有罪認定を受けた少年に 対するパロールなしの終身刑を必要刑とするが,そのうち約半数が,刑事 訴追自体を命令的なものとしている。その場合,刑事訴追の手続きに送致 する判断に,少年ごとの個別事情を反映させる余地はない。

次に,刑事訴追への送致段階の聴聞は有罪認定後の量刑聴聞と異なる。

刑事訴追への送致段階では,少年裁判所の手続きで緩やかな制裁で終わら せるのか,それとも刑事裁判所で成人と同様の量刑を予定するのか,とい う選択になるのが多いのに対し,刑事裁判所での量刑では多くの異なった 選択肢からの選択がなされる。

3  謀殺罪で有罪認定を受けた少年を必要刑としてパロールなしの終身 刑に処するのは,少年の年齢,年齢に関連する少年の特徴,並びに犯罪の 状況を審理する余地をなくす点で罪刑の均衡に反する。アーカンソー州

Supreme Court

とアラバマ州

Court of Criminal Appeals

の判断を破棄し差 戻す。

(6)

2 Breyer

裁判官の補足意見(Sotomayor裁判官参加)

Graham

が人の死亡のない犯罪を理由とする少年に対するパロールなし

の終身刑を違憲とした理由のひとつは,殺害の意図を要件としない犯罪類 型については謀殺の罪に比べて道義的な責任非難の程度が弱いことにあっ た。この理由づけにしたがえば,少年本人が殺害を行っておらず,また殺 害の意図を欠いている場合に,少年に対してパロールなしの終身刑を科す のは違憲となるはずである。

本件で,Jacksonは重罪遂行中の謀殺で有罪認定を受けているが,この 犯罪類型では,重罪を遂行するという意図を被告人が抱いていれば,謀殺 の要件である殺害の意図があるという擬制がはたらく。しかし,このよう な擬制による殺害意図では,Grahamの理由づけから導き出される,少年 に対するパロールなしの終身刑に必要な殺害の意図があるとみることはで きない。

なぜなら,第一に,成人に対する死刑判決を合憲とするに当たって,我 われは,そのような擬制による殺害意図の存在を根拠とする判断を下して きていない。

第二に,擬制による殺害意図の認定が認められる根拠は,重罪を遂行す る場合,犯罪行為者は重罪の被害者が殺害されるリスクがあることを理解 しているべきであり,そのようなリスクには共犯者による殺害が含まれる,

と考えられることにあるが,少年については,自己の行為の結果を周到に 考慮に入れてそれに応じて選択を下す能力が十分にはなく,したがって,

重罪遂行中のリスクの評価を十分に行うことができないと考えられる。

重罪遂行中の謀殺(murder)の罪については,Jacksonが被害者を殺害 したことも,また殺害を意図したことも犯罪成立要件事実になっていない。

Graham

の理由づけに従えば,そのような事実が存在しない場合に,少年

に対してパロールなしの終身刑を科すのは違憲である。

3 Roberts

首席裁判官の反対意見(Scalia,

Thomas, Alito

各裁判官参加)

残虐かつ異常な刑罰に関する先例は,第一に,全米の立法と州の実務に

(7)

現れる,社会の基準を測る尺度と,第二に,品位ある社会が成熟に向かう のに伴って変容する基準に目を向けてきた。しかし,品位は寛大さと同じ ではない。

本件量刑は大半の州法で定められており,量刑に関する基準はパロール の可能性を縮減する方向で変容をし,パロールなしの終身刑を定める州法 は過去四半世紀で一般的なものになっている。

先例の基準から導き出される結論を回避するに当たり,法廷意見は,刑 事訴追での少年に対する量刑が二つの法律を適用して決まることを指摘す る。法廷意見によれば,先例は,刑事訴追での少年に対する量刑が立法府 の明確な決断ではないとみることができることを示唆しており,したがっ て,各法域の立法が社会の基準を測る有効な尺度ではないという。

しかし,本件のような重要な争点について立法府が十分に認識せずに法 律を定めているという前提に立つことには大きな疑問が残る。少年に対す るパロールなしの終身刑は近時広く科されており,このような量刑が立法 府の無知による付随的な産物であるとはとても考えられない。

法廷意見は主に

Graham

Roper

に依拠している。しかし,Graham 人の死亡を要件としない犯罪事実を理由とする量刑に関する事案であり,

Graham

は,人の死亡が要件である犯罪と明確に区別をし,両者は比較で

きないと述べている。Grahamが本件の争点を決める余地はない。

また,Roperは,少年に対する死刑を違憲とするに当たり,死刑による 抑止の必要がない理由のひとつとして,パロールなしの終身刑があること を挙げている。本日の法廷意見は

Roper

の約束を反故にしている。

法廷意見は,犯罪に対する妥当な量刑を定める役割を裁判所が立法府に 取って代わる通過点である。法廷意見は本件が必要刑であることに焦点を 合わせた分析をしているが,同時に,パロールなしの終身刑が裁量による 量刑で選択されるのは稀であるはずだという。今後,量刑実務が法廷意見 の見通しに沿って行われるようになれば,次には,稀にしか選択されない 量刑は一律に禁止されることになるだろう。

(8)

4 Thomas

裁判官の反対意見(Scalia裁判官参加)

法廷意見は,本日の判示が先例の二つの流れに沿うものだというが,い ずれも,第 8 修正に関する元来の理解に一致しない。法廷意見はこの二つ を組み合わせることで一層大きな誤りを犯している。

法廷意見が依拠する第一の流れの先例は,罪刑の不均衡を理由に量刑を 一律に禁止するが,第 8 修正は権利章典の採択時に残虐で異常であると考 えられていたのと同様の,拷問のような苦痛を生む態様の刑罰を禁止する ものであるというのが元々の理解であった。第 8 修正は,罪刑均衡の判断 を立法府にゆだねており,本件量刑は各州の立法府が犯行に値するものと して定めたものであり,合衆国最高裁判所にそれを覆す権限はない。

法廷意見が依拠する第二の流れは量刑の個別化を要求する先例だが,必 要刑としての死刑を禁止する立場は第 8 修正に関する元来の理解に基礎を おいておらず,その考えをパロールなしの終身刑に及ぼすことはできない。

Furman (Furmen v. Georgia, 408 U.S. 238 (1972)) 以降,当裁判所は必要

刑として科される死刑を違憲としてきているが,合衆国建国当初から19世 紀を通じて,必要刑として死刑を科すことは多くの法域で広く行われてい た。どのような量刑であれ,それが必要刑であることを唯一の根拠にして,

それを残虐かつ異常な刑罰とすることは,憲法の歴史と文言が支持すると ころではない。

Harmelin

は,量刑の個別化の要求を死刑以外の刑罰に及ぼす立場に立

たなかった。

Harmelin

は,死刑と他の刑罰との質的な相違を強調し,パロー ルなしの終身刑について,それが他の拘禁刑と大きく相違するとしても,

死刑とは比較ができない隔たりがあることに変わりはないと述べている。

法廷意見は,Roper

Graham

を用いて

Harmelin

での明白な区別をやめ る根拠にしている。法廷意見はそれが引用する裁判例よりもさらに根拠が 薄弱である。

5 Alito

裁判官の反対意見(Scalia裁判官参加)

当法廷が第 8 修正に関する元来の理解から離れて久しいが,そのような

(9)

理解から離れた当初は,社会の基準を図る客観的な尺度を拠り所にし,具 体的な尺度として主に州の立法に目を向けていた。しかし,その後,At-

At- kins(Atkins v. Virginia, 536 U. S. 304 (2002))で,過半数の州法が是認し

ている量刑実務であることを認めながら,IQの低い被告人に対する死刑 判決を違憲としたように,客観的な尺度に依拠する比重は次第に弱くなり,

次に,従来の客観的な尺度に代わるものとして,刑罰に関する顕著な傾向 に着目をしたが,Roperで,法廷意見の立場に沿う刑罰制度の改革が顕著 ではないのに,18歳以下の少年に対する死刑を違憲としたように,刑罰に 関する立法の傾向は重視されなくなっている。その後,

Kennedy

(Kennedy

v. Louisiana, 554 U.S.407 (2008))は,12歳の少女に対する残忍な(brutal)

強姦行為を理由とする死刑を違憲としているが,凶悪犯(heinous crime)

に対する死刑を容認する立法の傾向を無視するものであった。Kennedy の 2 年後に下された

Graham

は,立法府の立場を尊重する素振りすら示し ていないが,それでも,謀殺罪(murder)とそれ以外の犯罪を区別する 原理は維持していた。ところが,本日の法廷意見はその原理からも離れて いる。いまや,第 8 修正は社会の基準を図る客観的な尺度と結びつくもの ではなくなってしまった。法廷意見のような立場は,いずれ,当裁判所の 多数が妥当だと考える量刑基準を第 8 修正を名目に全米に押し付けるとこ ろにまで行き着くだろう。

≪解説≫

1 本件で,合衆国最高裁判所は,犯行時に14歳であった少年が謀殺で

有罪判決の言渡しを受けた場合にパロールの可能性のない終身刑を必要刑 として科すことが合衆国憲法第 8 修正の残虐かつ異常な刑罰に当たると判 示した。

2 本件法廷意見のリーズニングに合わせて,第 8 修正に関する最高裁

判所裁判例を振り返ると,先ず,少年に対する量刑について,Roperが,

17歳のときに死刑の定めがある謀殺罪を行った被告人に対する死刑判決

(10)

を,犯行時18歳未満の少年に対する死刑が残虐かつ異常であることを理由 に違憲とし,Grahamが,16歳のときに武器を携行した侵入盗で答弁協議 により執行猶予となった少年が保護観察条件違反となる別の犯罪を行い,

当初の侵入盗の罪でパロールのない終身刑に処せられた事案で,人の死亡 を要件としない(nonhomicide)犯罪事実による,少年に対するパロール なしの終身刑が残虐かつ異常であることを理由に違憲判断を下している。

死刑については多くの裁判例がある。その中で確立した原理として挙げ られるのが,本件にとっても重要な,量刑の個別化要求である。現在の米 国の死刑量刑法は,Furman以降の一連の裁判例から形成されていくが,

それは,必要刑の死刑を違憲とし,とりわけ,軽減事由に制限を設ける死 刑量刑を個別化要求に反するとして違憲としながら,他方で,死刑量刑に 認められる裁量に恣意が入らないように指針を要求する,という二つの原 理を核にしてきている。そのうちの個別化要求は,Lockett(Lockett v.

Ohio, 438 U. S. 586 (1978))で,加重謀殺の罪で有罪認定を受けた被告人

について少なくともひとつの法定事由が認められる場合には,法定された 軽減自由(被害者の誘因,強制等の状況,精神発達不全)が認定できる場 合を除いて,死刑を言い渡すべきことを定める州法に基づく死刑判決につ いて,被告人の性格,記録,犯行の状況を軽減事由として審理する道を閉 ざす点で違憲であるとする複数意見が示されてから以降,例えば,Ed-

Ed-

dindgs

が,加重事由と軽減事由の比較衡量よる死刑量刑で,犯行当時16

歳の少年であった被告人について,劣悪な家庭環境と父親による身体的虐 待を軽減事由として認めずに下された死刑判決を違憲としている。

終身刑については,Harmelin1)が,650グラムを超えるコケインの所持 で有罪認定を受けた被告人について,パロールなしの終身刑を必要刑とし て科すことが残虐かつ異常な刑罰に当たらないとしている。パロールなし の終身刑について

Harmelin

と反対の結論を下したのが,Grahamである。

Graham

は,16歳のときに武器を携行した侵入盗で答弁協議により執行猶

1) 米国刑事法研究会(代表 渥美東洋)・アメリカ刑事法の調査研究(60)比 米国刑事法研究会(代表 渥美東洋)・アメリカ刑事法の調査研究(60)比60)比)比 較法雑誌28巻 1 号35頁(堤和通 担当)参照。

(11)

予となった少年が保護観察条件違反となる別の犯罪を行い,当初の侵入盗 の罪でパロールのない終身刑に処せられた事案で,人の死亡を要件としな い犯罪事実による,少年に対するパロールなしの終身刑が残虐かつ異常で あることを理由に違憲判断を下している。パロールなしの終身刑に関して は,これに加えて,Harmelinが,有期刑との相違を認めながら死刑と比 較できない隔たりがあるという評価を示していたのに対し,Grahamは,

少年に対する終身刑が,「少年の人生を奪い取る後戻りしない判断(forfei-

forfei- ture that is irrevocable)」

2)として,死刑になぞらえていた。

3 このような裁判例の状況で,本件では,犯行当時14歳の少年に対す

る,謀殺罪を理由とするパロールなしの必要的終身刑の合憲性が問われた。

パロールなしの終身刑の合憲性を問う点で,Grahamの考えを人の死亡を 要件としない犯罪事実に及ぼすことができるのか,それに,Harmeiln の区別ができるのか,が問われるとともに,量刑の個別化要求がどの範囲 に及ぶのか,が問われた。

この問いについて,法廷意見は,本件量刑を違憲とし,その根拠を,被 告人の属性が量刑の合憲性にとって重要であるとする先例の中に,犯行時 に少年であったことをその属性として認める裁判例があることと,先例が 求める,量刑の個別化要求が,犯行時に少年であった事案ではパロールな しの終身刑に及ぶという裁判例が謀殺を犯罪事実とする場合を射程におい ていると解されること,に求める。これに対して,反対意見は,第 8 修正 の元利の理解,客観的尺度を拠り所とする従来の基準からみた,全米の立 法府の判断とその傾向,具体的な事実状況に沿ってリーズニングを展開し ている,Roper,並びに

Graham

での判示,死刑量刑の考えを終身刑に及 ぼさなかった

Hamerin

の判断,それに,妥当な量刑を定めるうえでの,

立法府と裁判所のそれぞれの役割,を根拠に反論を述べている。

2) Graham, 130 S. Ct. 2011, 2027. Graham, 130 S. Ct. 2011, 2027.

Graham, 130 S. Ct. 2011, 2027.

(12)

4 アメリカ合衆国の少年法制は,1970年代後半にみられた「社会復帰

思想」である

Medical Model

の後退と,それに伴う,Justice Modelの台 頭とダイヴァージョンへのシフト以降3)

Medical Model

の再評価,

Justice

Model

の成果の集積と分析,RJ

BAJR

などのダイヴァージョンの手法

の活用4),1974年の連邦法(The Juvenile Justice and Delinquency Preven-1974年の連邦法(The Juvenile Justice and Delinquency Preven-年の連邦法(The Juvenile Justice and Delinquency Preven-

The Juvenile Justice and Delinquency Preven- tion Act of 1974)を契機とする,OJJDP

での

Comprehensive Strategy

等の 犯罪・非行予防への新たな取り組み5),など様々な側面で新たな展開を示 してきている。

近時のこうした展開の中で注目できることの一つが,少年の発達心理の 仮説を拠り所としながら,こどもの発達段階に応じたドメインごとの危険 因子(risk factor)と保護要素(protective factor)を経年追跡調査により 割り出し,危険因子の抑制と保護因子の伸張を図るというアプローチであ る。薬物乱用の防止プログラムである,CTC(Communities that Care)が その先駆的な取組みの例であり,また,先に挙げた

Comprehensive Strat- Comprehensive Strat- egy

でも活用を促している6)

本件法廷意見は個別量刑の要求をパロールなしの終身刑に及ぼすに当 たって,少年の年齢と,その年齢期にある少年にみられる,千差万別の特 徴 と 状 況(an offenderʼs age and the wealth of characteristics and circum-

stances attendant to it)を挙げている。法廷意見は,Eddings

を引用して,

3) 渥美東洋・宮島里史・堤和通「アメリカ合衆国における少年裁判所制度の動 渥美東洋・宮島里史・堤和通「アメリカ合衆国における少年裁判所制度の動 向」警察学論集47巻 6 号41頁参照。

4) RJ RJ

RJ

については,ポール・マッコールド/テッド・ワクテル(中野目善則訳)については,ポール・マッコールド/テッド・ワクテル(中野目善則訳)については,ポール・マッコールド/テッド・ワクテル(中野目善則訳)については,ポール・マッコールド/テッド・ワクテル(中野目善則訳)

「リストーラティヴ・ジャスティス理論の有効性のデータによる検証」比較法 雑誌45巻 4 号23頁参照。BARJについては,渥美東洋「ペンシルヴェイニア州 アルゲイニー・カウンティの少年非行・犯罪に対応する家庭裁判所少年部の構 造と実施計画」比較法雑誌37巻 2 号 1 頁参照。

5) 中野目善則「OJJDP 中野目善則「OJJDP

OJJDP

によるによるによるによる

Comprehensive Strategy」渥美東洋編『犯罪予防 Comprehensive Strategy」渥美東洋編『犯罪予防 Comprehensive Strategy」渥美東洋編『犯罪予防 Comprehensive Strategy」渥美東洋編『犯罪予防 Comprehensive Strategy」渥美東洋編『犯罪予防

」渥美東洋編『犯罪予防 の法理』(2008年)参照。

6) 渥美東洋「少年非行の管理システム 渥美東洋「少年非行の管理システム

managerial system(上) managerial system(上) managerial system(上)

(上)(中)(中)(中)(中)(下)」警察(下)」警察(下)」警察(下)」警察 学論集58巻10号,11号,12号参照。

(13)

母親の薬物乱用と父親による身体的虐待をはじめとする,育児を放棄した 暴力的な家庭環境と少年本人の情緒の動揺を審理に入れない点に量刑を無 効とした根拠があったことを確認し,「少年の年齢自体が相当に重みのあ る軽減事由であるように,少年の背景,並びに,少年の精神発達と情緒発 達 の 段 階(the background and mental and emotional development of a

youthful defendant)を審理しなければならない」

7)という判示があったこ とを指摘し,本件の申請人

Miller

についてその劣悪な家庭環境と成育歴 などを審理しなければパロールなしの終身刑が妥当な量刑であることには ならないと判示する。

Travis Hirschi

が 愛 着 の 有 無 を 非 行 の 原 因 と し8), そ の 後,J. David

Hawkins

Richard F. Catalano

9)が家庭をはじめとする,少年の発達過程 ごとの保護因子の醸成を軸とする薬物乱用防止プログラムを実施してきて いることに示されるように,少年の家庭環境10)に非行を促進する危険因子 とそれを抑制する保護因子があるということは,少年犯罪・少年非行に対 処する法政策にとって重要な行動科学の知見になっている。Millerに関す る法廷意見の判示は,行動科学の知見が将来に向けての犯罪・非行の予防 だけではなく,すでに行われた犯罪についての評価を重要な根拠とする量 刑にとって重要であるという立場を表している。劣悪な家庭環境と生育歴 のために,選択の自由が大きく損なわれているとみれば,応報刑論上の軽 減事由になり(Atkins,Roper),また,これまで享受していなかった社会 化の機会が提供されれば更生の可能性があるとみれば,社会復帰論上の量 刑の根拠─例えば,死刑やパロールなしの終身刑を選択しない根拠─

7) Eddings, 455 U.S. 104, 116. Eddings, 455 U.S. 104, 116.

Eddings, 455 U.S. 104, 116.

8) T・ハーシ(森田洋司・清水新二監訳) T・ハーシ(森田洋司・清水新二監訳)

T・ハーシ(森田洋司・清水新二監訳)

・ハーシ(森田洋司・清水新二監訳)『非行の原因』『非行の原因』『非行の原因』『非行の原因』(1995年)。(1995年)。(1995年)。(1995年)。1995年)。年)。

9) Richard F. Catalano and J. David Hawkins, The Social Development Model: A  Richard F. Catalano and J. David Hawkins, The Social Development Model: A

Richard F. Catalano and J. David Hawkins, The Social Development Model: A Theory of Antisocial Behavior, J. David Hawkins, ed., Delinquency and Crime:

Current Theories, Cambridge University Press (1996).

10) David P. Farrington, The Explanation and Prevention of Youthful Offending, J.  David P. Farrington, The Explanation and Prevention of Youthful Offending, J.

David P. Farrington, The Explanation and Prevention of Youthful Offending, J.

David Hawkins.

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になるであろう。

5 本件で,最高裁判所裁判官が法廷意見,それに反対意見(Roberts

裁判官と

Alito

裁判官)で表した見解と,それぞれのリーズニングに目を

向けると,第一に,第 8 修正の解釈の手掛かりをどこに求めるのかに違い がある。重要な先例に一致していることを論じる点で違いはないが,法廷 意見が,量刑論──とりわけ,少年であることが量刑上重要であるとされ る根拠──,死刑量刑での個別化要求,応報・抑止・社会復帰という刑罰 論などが表す理論を説くことで先例上の基礎を見出すのに対し,反対意見 は,全米の立法状況と近時に至る動向という,社会の基準を測る客観的な 尺度を合憲性の判断基準に挙げる先例の判示部分を根拠に,立法府の選択,

さらには立法府に反映する社会の選択を重視する。これに加えて,原意主 義に立って,第 8 修正の元々の理解を維持する立場から反対意見(Thomas 裁判官)が述べられている。

法廷意見は法の理論構成を重視するが,先例との関係で本件結論を導く リーズニングのかなめにあるのが,少年に対するパロールなしの終身刑を 死刑になぞらえる部分である。この点について,反対意見は

Harmelin

の判示を引用して死刑に関する議論からのアナロジーを拒絶する。法廷意 見が引用する

Graham

の判示部分であがっている最高裁裁判例,Rummel

(Rummel v. Estelle, 445 U.S. 263 (1980))は,パロールの可能性があることを 根拠の一つにして終身刑に対する合憲判断を下しているが,強調されてい るのは,パロールの可能性の有無であり,確かに,パロールの可能性がな い場合に残りの人生が確実に刑務所で終わるか否かが量刑の評価に重要で あることを述べてはいるが,パロールなしの終身刑を死刑になぞらえるも のだとはいいにくい。その点で,パロールなしの終身刑を死刑になぞらえ,

それが謀殺で有罪認定を受けた少年に対する必要刑として科されることに 違憲判断を下した,本事例は,量刑に関する理論構成を踏まえながら,従 来の裁判例にない新たな判断を示したものとして注目できる。量刑法を形 成するうえで裁判所の果たすべき役割は何かを考える参考になるであろう。

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