自由化後10年の検証
平成20年度大会シンポジウム
質 疑 応 答
[司会・山下友信]それでは再開して,まずシンポジスト間のディスカッショ ンを始めたいと思います。事前に準備の打合をしており,各報告に対して,
それぞれたくさんの質問・意見があるのですが,それを1対1でずっとやっ ていると朝までかかりそうなので時間を効率的に使うために,あるシンポジ スト1人が他の1人の報告者の報告に対してまとめて質問をするという形で 進めたいと思います。
それでは,まず堀田さんの報告につきましては,植村さんからご質問をい ただきます。
[植村信保]それでは1つご質問なのですけれど,スライドの18に 保険会 社を選ぶ時代 であると同時に, 保険会社から選ばれる時代 にと書いて あります。実際自由化が始まる前は, 自由化を進めると,日本の保険マー ケットも例えばアメリカのように保険に入りたくても入れない人がたくさん 出てくる。それが自由化の行き着く先というか,行き過ぎるとそんな事にな るんだ という議論もあったように記憶しています。堀田先生ご自身は,こ の10年間で自由化が進み,日本もそういった 顧客が保険会社から選ばれ る という,入れない人がどんどん増えていくような世界に近付いていこう としているのか,それとも何か日本型の自由化というものがあり,例えばア メリカとはちょっと違った道を歩もうとしているのか,この辺りについての お考えを伺わせていただけないでしょうか?
[堀田一吉]実は,今回この報告を準備するにあたって,実際に料率体系に ついて保険会社にインタビューをさせていただきました。そこで,あらため て感じた事は,保険自由化以降,料率体系が非常に複雑になっているという ことです。以前の算定会料率体制下では,保険料体系がまとめられた冊の本 がありまして,それをめくると私でも保険料が分かりました。今は,そうい うオープンになっている料率体系というのはないのです。ご存知のように保 険の比較サイトがあります。あれに自分の条件を入れると,さっと比較表が 出てくる仕組みにはなっているのですけれども,実はあれだって完全な比較 にはなっていないのです。インタビューの結果分かったことは,一部の会社 では,特定の属性のドライバーを集中的に取り込みたいというので,その特 性の人だけ有利に料率を作り,逆に自分の契約者としては望ましくないと思 う方については,極端に高い保険料をつけたり,あるいは引受けを制限する という動きがあるということです。その結果,おそらく一部の方はかなり料 率を高く設定されているのだろうと思います。要するに,かつての自由化以 前の段階ではそういった問題を基本的には排除できるような水準に保険料が 設定されていたと思うのですけれども,今やその価格が競争できない状況に 置かれてしまいますと,結局どこのカテゴリーで利益を上げるかということ が,保険会社にとってみても重要な経営戦略となってくるわけです。
従いまして,ご質問に関してですが,アメリカのような現象が直ちに表れ てくるかどうかはわかりませんが,少なくとも保険会社の行動としてはハイ リスクの契約者はできるだけとらないという方向性は,料率体系を見る限り においては明らかに見えていると思います。これが社会問題化していくかど うかというのは,今後の自由化の流れによると思います。
ちなみに,先ほど十分に説明できなかったのですが,例えば損害率だとか 経費率のスライドがございますけれども,ここでもご覧いただくと分かるよ うに確かに損害率は上がっていって経費率は下がっているのですが,その両 方を足したコンバインドレシオの数字は100より下にあります。ですから利 益が減っているのは,事実だと思うのです。従ってこの部分がどう動くかに
よって,またさらに展開が違う可能性が感じられると思います。よろしいで しょうか?
[植村]そうすると,まだ保険会社の経営に余裕があるから,自由化の弊害 というか,保険に入りにくいような事が出ていないだけであって,やはりも っとプレッシャーがかかってくると弊害が出てくるということでしょうか。
[堀田]やっぱり自由化が進めば,その問題がいずれ顕在化しないとも限ら ないという気がします。
[植村]なるほど。それでは自由化がさらに進み,保険会社の経営に余裕が なくなった場合には,それでも自由化をそのまま進めていってもいいという お考えなのでしょうか。それとも規制なり,何らかの対応が必要だというふ うにお考えなのか。もしくは,それはまだまだ先の話だから,このまま自由 化を進めるべきなのか。この辺りは,いかがですか?
[堀田]私は,そうした社会的弊害を避けるとすれば,アメリカで創設され ているような残余市場を公的な形で作らなければならなくなるかもしれない と思います。そのことは,自由市場をどこまで押し進めていく一方で,残余 市場の創設費用を新たに保険業界は負わなければならなくなります。トータ ルで見た時に,そこまで推し進める意味があるのかということを考えなけれ ばならないと思います。
[司会]それでは続きまして米山さんへの質問ですが,これは私が質問させ ていただきたいと思います。3点ばかり質問させていただこうかと思います。
第1点は自由化の効果という中にもいろいろな側面があるというお話で,
業務規制や商品規制についてはそれなりに目に見える効果があったけれども,
価格規制の面については特にこの10年が生保危機の10年でもあったという関
係もあるのでしょうが,堀田先生のご報告された損保との対比では,競争が どの程度のものであったのか,もう1つはっきりしないということではなか ったと思います。現状として,米山先生は,配当も含めて価格競争がかなり 見えにくいけれども広まっていると見ておられるのか,あるいはさらにもっ とこの面の競争が強くなって然るべきであるとお考えなのかというのが1点 目です。
2点目が,自由化でいろいろ消費者にとってメリットとなる効果もある反 面,理想的な効果が発揮されているかというと,そうでない面もあるという こともあったかと思います。そうであるとすると法律上の規制も含めて,今 後自由化が良い方向に進むようにさらに人為的に何らかの政策的な措置を取 るべきかどうか。この点については上柳さんのご報告の中で,商品のアンバ ンドリング化でありますとか比較を容易にするための手法を考えてはどうか という提案がありまして,米山さんも何らかの人為的な方策をとるというこ とは必ずしも否定されないかと思いますが,他方で事前のやり取りなどを見 ておりますと,やはり上柳さんのような方向についても何らかの問題がある のではないかということであったかと思います。そこで,人為的に方策をと るべきかどうか,とるとすればどういう方策なのかというのが第2点です。
この点に関して,現在,生保に限らないわけですが大衆分野の保険では商 品・価格とも認可制度というものがとられているわけですが,これが現在ど ういう役割を果たしているのか,あるいは将来どうすべきかのかについても,
ご感触というものが,もしあれば伺わせていただければと思います。
3点目として,生命保険市場がどうもぱっとしない,募集体制を含めて戦 後のビジネスモデルが行き詰っているということもあるのではないかと感じ ているわけです。しばらく前に予定利率の引下げを金融審議会で議論してい るようなときも,単に下げるというのはよろしくないので,生保市場が何か いい方向へ向かうためのビジネスモデルというか,方策をいろいろ考えなく てはいけないので,そういう将来の方向性というものを併せて議論したとい う覚えがあります。その後何か具体化したのかというと,1つは銀行の窓販
で,これについては制度的にはかなり新しいものが整備されました。現状で は,これが先ほど米山さんのご報告にあったように,まだどういう評価をす べきか,そう簡単には分からない状況であるということですが,そういうこ とも含めて自由化というのを今後どう進めていくか,あるいはもうこれでい いのか。また,そういう自由化についての政策的な判断をする際には,やは りどういうビジネスモデルが今後主流になっていくのか,そういうことも併 せて考える必要があるのかなと思っておりますが,その辺り米山さんとして 何らかの見通しを持っておられるのか,あるいはその点に関してもむしろ一 定の方向へ誘導する,あるいは促進するような制度的な手当てを,あるいは 政策というものを考えられるかどうか。いずれも聴いていて答えにくい質問 かなと思うのですけど,よろしくお願い致します。
[米山高生](笑)大変難しい問題を頂戴致しました。私の基本的な考え方を 一番最初に申し上げますと,新しいシステムの理論というのはとても重要で,
その理念が何かと言いますと自由化・規制緩和等した効率性の追求とその結 果を消費者に還元するということで,そこのところは大きな理念としてとて も大事だと思っています。ただそれはそれとして,先ほどの図で示せば人為 的な,例えば風船を付け加える事によってそのシステムがうまくいくような 事があれば積極的にするべきです。そういう意味で規制を加えることが即自 由化等に反しているとは思っておりません。そういったスタンスで,お答え をさせていただきたいと思います。
まず第1点の自由化の効果ですが,生保の場合は基礎率で自由化されると すれば商品の多様化という現状から考えると,消費者にとって望まれる方向 なのかと心配です。自由な様々な商品が出てくるということは消費者にとっ てとてもありがたい事ではありますが,その反面計算がまちまちな商品が出 てくることになります。特に第3分野の商品では,そういったところが問題 視されると先ほど申し上げたとおりです。損保の料率は割とはっきりしてい まして,理論的には割引保険金支払いコストという,ある意味でリスクの原
価みたいなものがありまして,それにローディング付加されて割とシンプル に見え,生保と比べればシンプルです。生保の場合は貯蓄保険料部分が入っ たり,また割引保険金支払いコストの部分に安全マージンが入ったりして,
とても見えにくいのです。
理想的なかたちの競争を促進する方法はこのように難しい事なのですけれ ども,多分,山下先生の2番目と絡まってくる問題だと思うのですけれども,
そういう競争,価格競争の制度のところでみます。1つの解としては保険を 商品で売るということと保険を機能で売るということを分けて考えてみるこ とです。例えば機能を中心に,非常にある意味ではコモディティ化するかも しれませんけれども,国民にとって最低必要な保障・ニーズを商品ではなく て標準化し,より比較可能・競争可能な方向に持ってくる方向があります。
一方で そんな規格商品は嫌だ と言う方がいらっしゃると思いますから,
今までどおりスペシャリティ商品と言いますか従来型の商品もありうるかな と思います。そういう意味ではアンバンドリング,一方方向でいくのではな くて2方向を並存させるような制度設計でいくというのも考えられると思う んです。
前者に関しては,機能中心の流れに関しては多分損保の参考純率みたいな ものは参考になりますし,商品の場合には例えばモデル商品を提示しまして それを基準に比較していくことも考えられます。そもそも消費者が保険商品 というものを肌で感じ取るためには何らかの比較が必要なので,それを作る ための 風船 は作るべきかなという気がしております。その時に従来の認 可方式が果たしていいのかどうかという問題が出てくると思うのですけれど も,私は認可よりも,官民による標準化に期待を持ちたいと思います。
第3点目の生保市場はまったく夢がないとは言いませんけれども,見えに くい状況にあるのは事実です。戦後のシステムが変わったけれど,ビジネス は変わらないのでは困ります。これについては確かにおっしゃるとおりだと は思うのですけれども,生保の立場から考えてみますと,先ほどの図表にし ました90年代に, 二つの悪魔 と書いちゃいましたけれども,今三つ目の
悪魔が来てるので大変なんですけども,そういう厳しい時代にシステム転換 しているということを考えると,同時に起こった3つの変化に対して,充分 な対応や投資をできてこなかったという現実があります。そういった事を割 り引いて考えていきますと,より現代の保険会社が経営の,経営戦略の裁量 を広げるようないいかえれば従来型の生保が新しいビジネスモデルを展開で きるような政策,あるいは先ほどの言い方でいくと 風船 も必要ではない かと思います。
[司会]それでは引き続き,上柳さんのご報告についての質問で,これは米 山さんから,引き続きで恐縮ですがお願いします。
[米山]引き続き米山が質問させていただきます。4点質問させていただき たいと思います。
第1点は,上柳先生の報告レジュメのところに 不招請勧誘の規制につい ては,すべての保険商品について禁止すべきである と,こう述べられてい ることに対する質問です。不招請勧誘の禁止によって消費者が本来は欲して いなかった保険商品を購入しなくて済み,また本来のニーズに従って自主的 に商品を選べるはずであるという点については,十分に理解できます。しか しながら,死亡保障ニーズは消費者がそのようなニーズが本当に必要な時に なって初めて気付くものだと一般には言われております。また消費者という のは多様でありますから,前者のような賢い消費者ばかりでなくって 元気 なうちはいいよね っていう,楽観的な消費者がいるわけです。そう考えて みますと,理想を追い求めるあまり後者のような人を切り捨ててしまってよ いのかと,大いに判断に迷うところであります。従って現時点で保険商品の 招請勧誘を全面的に禁止するということは,国民全体の厚生を考えると,や や難しいのではないかというのが私の考えですけれど,この点について先生 いかがお考えでしょうか。
第2点は,報告レジュメで保険は現在と将来のキャッシュフローの交換で
あり一定のリスクを反映するので,保険も他の金融商品と同様に適合性原則 が採用されるべきだろうと指摘されております。この理由から考えますと金 融商品であればすべて適合性原則を採用すべきだというロジックになってし まいますが,もしそうでありますと貯金も現在と将来のキャッシュフローの 交換ですので,これも適合性原則を採用することになってしまいますが,そ れでもよろしいですかというのが第2点。
第3点は 保険商品を,貯蓄と保険にアンバンドリングする というご指 摘がございましたが,拝聴に値するものだと思います。しかしながら,この 場合,終身保険のように商品の特性からアンバンドリングすることが無理な 商品もございます。また一部の生命保険会社が販売しているアカウント型の 商品の場合はまさに貯蓄と保障がはっきりと分かれていますから,先生のご 主張から言えば理想的な商品ということになりますが,実際には消費者から 全面的に受け入れられているとは限らないというところが難しいところであ ります。さらに先生は,進んで貯蓄と投資性を切り分けるということを提案 されていますが,この切り分けは金融商品に含まれるリスクで判断すること になるのでしょうが,どの程度のリスクなら投資で,どの程度なら貯蓄とす べきなのか,なかなか難しい点があります。以上の点についてどうお考えで しょうか。
長くなって申し訳ありません。第4点,最後の点ですが,報告レジュメの 一番最後のところで 出資者が契約者利益をはかるためのインセンティブと して,公的規制ないし監督が必要 とされております。出資者が契約者利益 をはかるための公的規制とは,マーケット前提として考えますと契約者への 余剰を増やすような規制をするというように受け止められます。もしマーケ ットが前提とすれば,出資者はそんな投資を止めて別の投資に行ってしまい ますから,結局は資本コストが増大してその分が公正保険料のプロフィッ ト・ローディング部分に転嫁されることになります。その結果,最終的には,
契約者の負担に戻ってきてしまいます。そこで先生の意図は,おそらくこう いう配当規制みたいな事をするというものではないと思うのですけれども,
その辺のお考えをお聞きしたいと思います。
[上柳敏郎]いずれも難しい質問ですけれども,私の報告の問題意識を敷衍 させていただくということで大変ありがたいと思っております。不招請勧誘 の禁止ですけれども,原則禁止をする。その上で,例えば自主規制のあり方 であるとか,あるいは保険商品の性質に応じ,あとのアンバンドリングの点 や保険の定義とも関わりますが,部分的に解除するというのが,あるべき法 制だと考えています。つまり,結論としては全部を駄目だと言っているわけ じゃないのですが,不招請勧誘の禁止が原則で,これからの保険のあり方,
あるいはビジネスのあり方を考える時にも,それを出発点として考えるとい うのは大変有意義だと思っているところです。
従来の日本のビジネスモデルは,募集人の方々,外務員の方々,代理店の 方が,その地域や職場のつながりあるいは血縁そのほかに頼って積極的な販 売をしてこられた。このような不招請勧誘を多様した販売力が保険産業全体 の支えだったということは否めないと思うんです。そういった販売力に依存 するのではなく,保険会社の健全性や商品の魅力自体で,商いをしていくの が,時代にあったビジネスモデルではないでしょうか。このほうが販売力を 組織できない国外での競争力にもつながっていく。私自身は,国際的競争力 というよりも,従来の弊害事例の視点から主張しているわけですけれども,
そんなふうに思っているところです。
わたし自身は大学生の時に父親が亡くなりまして,死亡保険がかかってい たので助かったんですね。多分職場で系列の保険会社から勧められて(笑)
不招請勧誘だったんじゃないかと思いますが。そういう社会的機能があった ことは確かだけど,時代が違ってきているのではないかと思います。大きな 議論になり過ぎるかも分かりませんけれども,基本は公的保険があって,国 民が こんな程度の社会保障では困る という時に,公的保険の充実を求め て投票行動に移るのか,それとも私的保険の活用を考えるのか,改めて選択 する過程を経るべきではないか。消費者教育全般や国民主権のあり方という
ところと関わるかも分かりませんけれども,少なくとも原則としては不招請 勧誘禁止からスタートして考えるべきじゃないかというふうに思っていると ころです。
適合性原則は,お客様に対し勧誘する場合は,保険会社は,お客様のこと をよく知らなければならず,そのうえで不適合な商品は勧誘してはならない というものです。ご質問の答えとしては,貯蓄も含めて金融商品一般に当て はまる原則と考えています。民法改正の議論が始まっていますが,有力な学 者から,民法の本則に適合性原則を入れようという考え方も提案されていま す。取引をする時に相手方のことを思いやると言いますか考えるという原則 が,だんだん規範として高まってきているというふうに思います。ただし,
この適合性原則はお客様の状況と商品の特性との掛け算といいますか,両方 の総合評価ですので,一般的な商品,一般向けの商品あるいは安全な商品に ついては勧誘してもよいということになるわけですね。純粋の保険というこ とであればやっぱり適合性原則のハードルが低くなるでしょうし,不招請勧 誘も許されるかもしれない。こういう流れになっていくような気がしていま す。
3つ目のご質問は,アンバンドリングについて,貯蓄と投資とどこで分け られるか。これはそれこそ銀行と証券の間の業際の問題まで関わってきて大 変難しいと思いますし,大変答えにくいのですけれども,相対的な区分はあ るのではないかと思っているところです。先生方のお考えを伺えればなと思 っているところですけれども,ただやっぱり具体的には,変額保険といわれ ているようなものについては投資性が強いというべきで,アンバンドリング するべきだと考えます。
4つ目のご質問の保険行政のあり方について,価格統制は出来ないでしょ う。技術的にも難しいと思いますし,弊害が大きいと思います。それから業 際規制はどちらかと言うと緩和していく,もちろん弊害防止措置が必要です けれども,というふうに思っています。が,どういうものを保険と称するこ とができるのかとか,あるいは運用方針やその実施状況,植村先生のお話も
含めてですけれども,開示の真実性を確保すること。実体を示す開示を,各 社が開発すること。その工夫を励ますような行政であるべきではないか。各 社のコンプライアンス状況についても,実務指針に書かれているものを持っ て来いというのではなくて,どういうふうに工夫しているのか,どういうふ うに消費者のほうを向いているのかということを聴いていく。そういう方向 につながないと,日本の格差社会化とどこまで関わるか分かりませんけれど も,ことによると中間層の人たちが保険というものから,離れていくのでは ないかと思っているところです。
[司会]それでは最後ですが植村さんの報告に対して,堀田さんからです。
[堀田]先ほど私がご報告の中で申し上げましたように,ここ数年,保険収 益が非常に圧縮されています。これは自由化によるものが大きいのだろうと 思うのですけれども,一方で資産運用収益に大きく依存する体質になってい る。あるいは海外事業展開を積極的に押し進める状況にあります。いずれも 新たなリスクを取り込む動きと理解できるわけですが,そういった中で消費 者はそういった新たなリスクを思わぬ形で負わされてしまっていないだろう か。そんな背景の中で,健全性規制だけで十分なのだろうかと。あるいは新 たな規制が必要というのはないだろうか。これが1つ目の質問です。
それから2つ目は昨今の金融不安の中で,いわゆるその時価主義に対する 疑問が呈されていまして,契約者保護のために,一部に凍結という動きもあ るような話を聞いています。先ほどのご説明では経済価値ベースつまり時価 主義に進むべきであるということをおっしゃったかと思うのですけれども,
私はかねてより,そもそも保険負債に対して,時価で評価する事について大 きな疑問を持っています。やはり投資家が必要とする情報であるから,この 経済価値ベースというのはやっぱり必要不可欠な考え方なのかどうか。保険 特性を考えたら,時価主義に一定の歯止めをかけるべきだという考え方がな いのかどうかということをお聞かせいただきたいと思います。
それから3つ目は契約者の自己責任にもつながる話なのですけども,消費 者は,ディスクロージャー,あるいはその健全性指標をうまく活用している のかどうかということなのです。もし経営状況を知っていて,それにも拘ら ずそういった危ない会社を選んでいるとすれば,もちろん自己責任を追及で きるわけですけれども,それを知らないで,この指標を何かはっきり知らな いまま入っていて,そして破綻によって被害を受けるということだとすると,
元々のこのディスクロージャーが活用されていなかったということにもなる ような気もするのですが,いかがでしょうか。質問は,以上3点です。
[植村]まず1点目です。損保に限らず,保険グループが従来にないような リスクをどんどんとっている,契約者が新たなリスクを負わされている。こ れに対し今の規制で十分なのかというお話かと思います。 今の規制で十分 なのか? と言われれば, 十分ではないでしょう という回答になります。
ただ,保険会社が企業価値を高め,契約者に対しても還元するためにビジネ スのリスクをとっていくのは,民間で運営する以上当然のお話だと思ってい ます。そのようなビジネスのリスクをコントロールできるかどうかがポイン トではないかと思っています。
ただ,規制という観点で今回の金融混乱を考えてみます。例えばAIGが 公的管理下に置かれたというケースでは,保険事業の延長線上にCDSなど,
ある意味で多角化があったのだと思います。そしてAIGはいろいろな国で,
いろいろなビジネスを展開した結果,経営がどこまで本当に自分のグループ をコントロールできていたのかという疑問が最近の報告でも浮上しています。
これは1つの例ですけれども,コングロマリット化が進むと見えない部分と でも言うのでしょうか,コントロールできにくい部分が出てくる。もちろん,
その一方で事業や地域の分散を進めると,分散効果で必要な資本を減らす効 果があると認められるわけですが,今回は前者の コングロマリット・ディ スカウント ,すなわちコングロマリット化や分散を進めることでリスクが わからなくなる面が顕在化しました。今まで議論されていなかったわけでは
ないのでしょうけれども,これを規制に従来以上に考慮しなければならない ということが,われわれに突きつけられた課題かと思っています。
それから2点目ですが,これはなかなか難しい話です。 時価主義 とい う言葉を私は使っていなくて,あくまで会社の価値を示すようなベースの規 制なり健全性の枠組みに向かっていると見ていますし,そうするべきだと思 っています。それが 時価主義 だと言われれば,そうなのかもしれません。
足元では負債の評価以前に,資産の時価がうまくつかないものは,時価評価 を凍結しましょうという議論が起きているわけですが,それでは従来の取得 原価主義に戻って保険会社の経営が分かるのか,金融機関の経営が分かるの かといえば,やはり私は ノー だと思っています。過去の反省から 時価 で見ていきましょう という話になったわけです。もちろん,何をもって時 価とするのかという評価の余地は相当あるでしょうし,危機対応として時価 会計を一時緩和することも場合によっては理解できなくはありません。しか し,保険会社の経営状態はやはり資産・負債とも経済価値ベースと言います か,会社価値ベースと言いますか,こちらで見ていかないとおそらく経営は できないと思いますし,まして外部からも見えないと考えています。
それから3点目は, 大和生命の契約者はハイリスクを承知で入っていた 消費者の自己責任原則の一方で,健全性指標やディスクロージャーがうま く活用されていないのではないか そうだとすると,どうしたらいいのか と整理させていただきますと,まず,大和生命の契約者が,ハイリスク・ハ イリターンだと思って入っていた人がいたかもしれませんが,私の感覚では,
昔のお宝契約 ということでずっと持ち続ける件はあっても,あえて そ この会社がハイリスク・ハイリターンだから入る というところまで日本の 一般的な消費者は成熟していないと思っています。
それから,健全性指標について 活用されているのか という以前に,非 常に困ってしまう状況があると思います。私のところにも大和生命が破綻し た日には問い合わせが殺到しまして,その際に 何を見たらいいのか? と いうこともしばしば聞かれ, 消去法ですが,格付けとソルベンシーマージ
ン比率を見てください と申し上げました。 消去法で とつけざるを得な いところが,格付け会社のアナリストとして情けないところではあるのです が,アメリカのサブプライム問題での高い格付けや,日本でもリートの会社 など,的確なメッセージが必ずしも出せていないというケースもありますの で,このような言い方をしています。大和生命の場合は幸い B という,
こちらとしては厳しい格付けを提示していたのですが。ソルベンシーマージ ン比率に関しても,大和生命が550%で破綻してしまったので,全然役に立 たないという見方が根強いです。すでに一昨年のソルベンシーマージン比率 見直しの検討会でも,そのような議論があり,だから見直しを進めるべきと いう話になったわけです。だからといって,それでは世間に出回っているい いかげんな数字を使うとか,もしくは規模だけで見るとかいうよりは,ソル ベンシーマージン比率を参考にするほうがマシです。考え方としてソルベン シーマージン比率は正しいと思っていますし,より洗練させていく方向です ので,引き続き使っていくべきかと思っています。
格付けを提供している立場から見ると,消費者ないしは保険を販売してい る皆さん,特に銀行なんかそう感じるのですが,ここ数年,保険会社の健全 性についてほとんど注意を払われていなかったようです。特に貯蓄性の商品 では現状について結構歯がゆい思いをしています。ですので,格付けや健全 性指標の活用という点では,啓蒙不足と言いますか,まだまだ普及させる必 要があると思っているところです。以上です。
[司会]それではシンポジスト間のディスカッションはこれくらいにして,
フロアーの方からの,ご質問・ご意見をいただきたいと思います。記録の都 合もございますので,ご発言のときはご所属とお名前をお願いします。
[質問](ライフネット生命・出口治明)ライフネット生命の出口と申します。
先生のお話大変勉強になり,ありがとうございました。2点質問がございま す。1点目は堀田先生と米山先生にお聞きしたいのですけれども この10年
間で,損保から生保への参入は成功した。でもその逆は,うまくいかなかっ た というご指摘が両先生からありましたけれど,その理由について一言ず つお伺いしたいと思います。
それから2点目は米山先生,上柳先生にお聞きしたいのですけれども,比 較情報に関わることですが 日本の生命保険業界では,必ずしも損保のよう に価格の弾力化がうまくいかなかった というご指摘があったのですけれど も,確かに比較が難しいという事情はありますが,商品そのものが約款であ り,プライスが保険料表であるとすれば,保険約款と保険料表が公開されて いない,あるいは十分な開示がなされない,できないという現状では多分比 較のしようがないと思います。価格の弾力化,つまり価格規制の実効を上げ るためには,比較情報をピュアに考えなければいけないというふうに普通は 考えるのではないかと思うんですけれど,この点について両先生からご意見 をいただければと思います。以上です。
[堀田]ご指摘のとおり,生命保険会社が設立した損保子会社は,現在ほと んど残っておりません。当初,大量の営業職員を抱えている生保の方が保険 販売に有利なのではないかという説もあったのですが,やはり,損害保険の 場合には,販売だけでなく,損害査定のためのサービス網を全国に配備しな ければならず,相当な費用が必要となり,結局,それが経営を圧迫したのだ ろうと思います。
逆に損害保険会社が取り扱う生命保険は,査定網を整備する必要はありま せん。全国どこ行っても同じ商品が同じ形で売れますので,既存の販売網を どう活用するかだけが問題となります。その部分においても,追加的費用は 大きくないため,参入が容易に行われたのだと思います。
[米山]では補足的に私の意見を述べさせていただきます。90年代はじめに 損保の資産が生保の5分の1ぐらいだったと記憶しています。トップの会社 を比較しても大体5分の1ぐらいでした。このことを考えると,やはり損保
の総資産への思いというのは相当大きく,損保はそれなりの準備をしていた のではないかなと思います。
一方生保に関しては,既に資産に大きい差があって,損保ほどの思い入れ がなく,あまり準備をしなかったのではないかと思います。それで,その時 にチャネル依存で力仕事でいけるのではないかと考えたのではないでしょう か。総資産も5倍だし。ところが損保はある一定の準備をしていて,しかも 商品開発のところで競争を考えていました。生保は,特に大手は商品開発し てきませんでした。つまり,したってすぐにほかの企業が真似できる環境で 商品開発してもしょうがないですから。このように損保と生保のスタート地 点の意識がだいぶ影響したのではないかと思います。他の要因は堀田先生と 重なっています。
[司会]それでは続きまして,第2の質問について,上柳さんからお願いし ます。
[上柳]私自身は,結論から言うと,そもそも比較する事自体許されないと か,現状みたいに比較広告はダメとか,そんな話だとなかなか話が進まない というふうに思っています。ただ現状において, 比較広告をできるように しよう と大きな声で言わないのは,今までの広告のあり方とか会社のあり 方を信頼してないのでしょうね。ですので販売側からの比較広告だけである と,やっぱり何か消費者の意思形成がゆがめられるのではないかと,思って います。ですから,きちんとした広告規制が少しずつ整備されてきています ので,そういうものと,繰り返しですけれども, 何を保険と言うのか
何を貯蓄と言うのか という辺りをきちんとすることが,条件です。その うえで これとこれとを比較して,いいですよ というふうに販売側もおっ しゃり,消費者側も 本当にそれが本当かな というふうに考え,そこで対 話が始まっていき,それで商品選択をするなり,契約をしていくというふう になるのが理念的には正しいだろうなと思っております。
[米山]約款に関する開示の規制があるとは思ってないのですけれど,私の 勉強不足なんですけれども。別に販売する前に,約款を見せてはいけないと いう規制はないですよね?
[司会]逆に開示が十分されていないことが問題ということではないでしょ うか。
[米山]されてないことが,ということですね。開示する事自体は当然だと 思うんですね。約款というのは商品そのものですから,その商品を見ないま ま買うというのはちょっとおかしいわけです。そういう事は規制とかいう問 題以前の問題ではないかと思っています。約款を一般に開示するということ に,会社が前向きになるということについては正しい方向だと私は思ってい ます。
[出口]一言お聞きしたかったのは比較情報規制のあり方で,そういうもの を助長するという面では約款とか保険料表というのは商品の内容そのものな のですから,これは開示をむしろ強制するようなやり方もあるのではないか というふうに思ったので,その辺をちょっとご意見を聞きたかったのですが,
そこのところは質問の仕方がまずくて申し訳ありませんでした。
[質問](元 戸大学・刀禰俊雄)元 戸大学の刀禰でございます。3人の先 生方へ1問ずつお聞きしたいと思います。質問といいますよりも,クレーム と言った方がいいのかも分からないですけれども。上柳先生にですね,やっ ぱりちょっと今日のご報告の 保険商品全般について不招請勧誘を禁止すべ きである というご意見は聞き捨てならないご発言かなと思いまして…。全 国二十数万人の営業職員がこれを聞けば愕然とすると思うのですけれども,
これは先生のレジュメにも書かれてありますように最近問題になっている外 国為替証拠金取引とか先物であるとか,リスクの高い投機性商品を対象にし
て,国民の財産を守るために,そういった法律ができたと思うのです。私も 30年前に日本生命の大阪中央支社というところで400人の営業職員を抱える 仕事を経験致しましたけれども,全国のそういった営業職員がやはりドアツ ードアで保険について日常意識していない顧客に保険の必要性を説いて入っ てもらうということで保険産業が成り立っているわけですね。生命保険文化 センターが毎年中学生の作文コンクールをやっていますけれども,冊子にな っていますので一度お読みになったらいいと思うのですけれども。また,お 父さんが亡くなって学校を中退せざるを得ない高校生が随分多いと最近問題 になっているようですけれども,やはり今必要でないと思っていても,営業 職員の訪問を受けて入ったところ,その後思いがけない事故に遭って家庭が それで救われたということもよくあるわけですね。そういったことを考えま すと,生命保険を投機性商品と一緒くた,十把一からげにして, 生命保険 の全商品について不招請勧誘の禁止をすべきだ とおっしゃるご発言をお聞 きして,こういうお考えを弁護士の先生が主張されるのかな?って,ちょっ と悲しくなって申し上げたのです。
次に堀田先生のご発言について,堀田先生のレジュメの中に 幼稚産業 としての 生命保険 という言葉が使われていますが,いかがなものでしょ うか。
[堀田]産業組織論という分野では, 幼稚産業 という用語は普通に使われ ます。ここで申し上げたかったのは,戦争直後の保険業は成長発展段階の産 業であったという意味であって,特別な感情を込めて使用したわけではあり ません。
[刀禰]分かりました。それはそれで結構です。最後に米山先生に伺います。
戦後型保険システムの特徴 のご説明の中で,損保は供給が少なくて生保 は需要が過少であるというお話がございました。戦後60数年経ちまして顧み るとき,昭和31年に もはや戦後ではない と経済白書に謳われて…。
[米山]すみません。お話の途中ですけど,まさに昭和20年代だけのことを 言っておりますのでご了承下さい。
[刀禰]はい。ですから戦争直後の,戦後の10年間ぐらいは,そうだったで しょうけれども。
[米山]そうです。そのとおりのことを言っているだけです。
[刀禰]その後,昭和30年代以降の高度成長期に入り,生命保険の需要も大 型化してきたと私は認識しているのですが。
[米山]戦後システムの成立を機に,過少ではない状況になったということ でご理解いただければと思います。
[刀禰]了解しました。
[上柳]不招請勧誘の考え方については,先ほども米山先生から質問をいた だきましたけれども,原則としてやはり禁止すべきだと思っています。禁止 が解除されると商品や取引がないわけではないと思っていますけれども,現 行法みたいに,極めてリスクが高くてしかも訴訟事件が多かった一部商品だ けを禁止するというのは,私は誤っていると思います。それが,金融商品取 引法の本則に条文として掲げられた意義ではないかというふうに,私は思っ ているところです。
それから誤解があるとあれなのですけれど,営業員の方々や働いておられ る方が解雇されるべきだとそんなふうに思っているわけでは全然なくて,不 招請勧誘が原則になったとしても,たくさんやるべき仕事はあるというふう に思っております。しかも総合的な金融サービスになればなるほど,第一線 の方々の資質というのが一番大事で,その方々の資質によって各社の競争力
が決まっていくというふうに思っています。
[質問](あいおい基礎研究所・島田公一)あいおい基礎研究所の島田でござ います。先生方,貴重なご報告をありがとうございました。私は植村先生と 上柳先生に,自由化と保険会社のコーポレートガバナンスのあり方について お伺いしたいと思います。金融庁はCOSOレポートをベースにした保険検 査マニュアルを作成していますが,各保険会社はこれにもとづきリスク管理 体制が構築されています。ところが一方で自由化が進展したこの間に損保2 社,生保1社が,非常に厳しい業務停止を伴う行政処分を受けて,経営トッ プがみな辞めてしまうという事態にまで至りました。そしてこの3社は行政 処分後,過半数が社外取締役で構成する委員会設置会社に移行しております。
しかしながら,今でもこの3社以外のほとんどの保険会社は監査役設置会社 のままです。この自由化の中でこのような事態を受けてコーポレートガバナ ンスのあり方がどうあるべきかということについて2名の先生にお伺いした いと思います。
[植村]委員会等設置会社とか,相互会社ではなく株式会社とか,いろいろ 議論はあるかと思うのですが,あくまでもそれはツールということです。例 えば私が,その保険会社の信用力,つまり破綻リスクをみようとする時に,
ガバナンスが本当に効く組織になろうとしているのか,もしくは,そうなっ ていくのかという点を評価する際,必ずしも経営形態やツールに重きを置く のではなくて,実態がどうなのかを見ようとしています。実態をつかむのは なかなか難しいことですが,例えば経営陣とミーティングをして, ○○と いう事があったから,その商品を売り止めにした とか, ○○という事を 踏まえ,このように新しい仕組みを作った とか,具体的な事例から実態を つかもうとしています。
もちろん,信用力を評価する機軸として,横文字で言えば ERM の範 疇に入るのですが,例えばその会社がどのようなガバナンス向上の仕組みを
採用してくるか,内部の牽制機能がどうなっているのかなども評価の項目と しています。ただ,繰り返しになりますが,外部からガバナンスの実態をつ かむのは非常に難しいとも思っていまして,変な話,しばしば騙されます
(笑)。おそらく監督官庁も同じだと思います。これという解はなくて,模索 しながら,場合によっては経営陣とも議論しながら,あるべき方向を求めて いく。そのように現状では理解しています。よろしいでしょうか?
[上柳]私も多分実質的な結論は植村先生と同じなのですけれども,形では なくて,中身だろうと思います。もっと言えば,会社ですから従来は営利が 目的だと言われてきたとしても,その営利のあり方にもいろいろあると思い ますし,本来会社は何のためにあるのか,その明確化と実践ということだろ うと思います。
委員会設置会社は,ガバナンスが類型的には優れた姿と位置づけられると 思います。つまり,社外の人たちを取締役にして,その人たちが経営の根幹 を外部の目からきちんと見ていくという意味で,優れた形態であると思いま す。
それからもう1つは,問題があった企業が改革する,その改革のシンボル として,随分会社の形態を変えたんだというふうに,外部にアピールするこ とにもなります。それから,組織替えをする中で,何のために組織替えする のかということを会社の内部で討議をする。あるいは外部のコンサルタント の方々も含めて議論をするという中で,意識改革ができる。ということから 言うと,経営組織を変えていくというのは1つの方法ではあると思っており ます。
[質問](立命館大学・村田敏一)立命館大学の村田ですけれども,植村さん にご質問致します。いわゆるフォーミュラーベースの手法については以前生 保がよく破綻した時,日銀の幹部と議論していますと,あれは早期是正措置 ではなくて早期破綻促進措置だとおっしゃる。そのとおりであって,ソルベ
ンシーマージンは早期是正には役に立ってないという認識があり,私も同感 です。もちろん,早期破綻を促進するのも一つの重要な機能です。ただ,そ ういう意味では健全化のための措置としては実際,前回の生保危機と言われ ている時期の末期で,早期是正措置とは一般には区別している 早期警戒措 置 と言われていている将来収支分析を行って,保険計理人が中心になって 当局と対話し,シミュレーションベースの手法で更生手続の申し立てと連動 させていく。その中で必要に応じて追加責準の積み立てを促していくと。こ うした手法が非常によくさらなる大型破綻回避のために機能していたのでは ないかという認識を持っているんですね。金融庁の担当者もよく変わるんで なかなかそうした評価の引き継ぎがされていないのかもしれませんけれど,
この将来収支分析というのはディスクローズしていないし,またすべきもの でもないので,やはり格付け会社の方には分からないのは当然と思うんです けれども。こういう早期是正じゃなくて早期警戒措置と言われているものを より機能させていく方向で,金融庁と業界が知恵を出していくと。こういう のがあるべき姿じゃないかなと,私は思っています。こうした考え方につい てのご感想を教えていただければと思います。
[植村]私のスライド8にも,更生手続き申し立ての基準としては将来収支 分析,3号分析と言われるものについて書いてあります。小さくしか書いて ありませんが。
まず,認識の違いがあるのかもしれませんが,生保危機の末期,例えば 2000年から2001年ぐらいという意味合いなのか,もしくは2002年ぐらいまで というお話なのか分かりませんが,この3号分析を通じて申し立てをしたケ ースを私は知りません。
それから1号分析のほうですが,これで追加責任準備金を積み,破綻を回 避したという会社も,その期間であれば,やはりなかったと思います。これ は将来収支分析という仕組みがいけないのではなく,たぶん具体的な分析基 準が甘かったため,うまく機能しなかったのだと思います。例えば,わずか
5年間だけ将来収支分析をするという点,経営改善策を作ればとりあえず OKといったいろいろな抜け道がある点。これは日本アクチュアリー会のホ ームページにある 実務基準 を見るとわかります。例えば事業費削減対策 を立てれば,責任準備金を追加で積まなくてもいいのですね。2002年ころに 日経の経済教室だったか,金融財政事情だったか忘れてしまいましたが,も っときちんと機能するように見直すべきと発表させていただいた記憶があり ます(植村注=2001の金融財政事情でした)。
ですので,当時それが役に立ったのかと言われると,私は役に立っていな かったと思いますが,ただ,この仕組みを今よりも役立つ方向で見直すとい うのも1つのアイディアとは思います。もっとも,おそらく経済価値ベース のソルベンシー規制ということであれば,あえて将来収支分析をブラッシュ アップする必要はたぶんなくて,経済価値ベースのソルベンシー規制に包括 されるのかと思っています。とりあえず以上です。
[村田]1点だけ。 機能した というのは,将来収支分析に基づいた更生法 の申し立てをしたという意味ではなくて,申し立てなどをしないように健全 化のために機能したという意味です。これは公表されていませんので,分か らないで当然と思いますけれど,早期警戒措置という仕組みを使う中で行政 の方でそういう警戒措置に基づく経営改善指導が行われて,申し立て自体を 避けることができたという意味で機能したという意味なので,それは更生手 続きを申し立てたということが機能したという評価となることを,私は申し 上げているのではない。
[質問](東京経済大学・柳瀬典由)東京経済大学の柳瀬と申します。植村さ んに2点質問がございます。多くはガバナンスに関する質問なのですけれど,
1点目が報告要旨の最後のところにある結論に関してです。すなわち, 自 己規律,内部要因をいかにコントロールするか。すなわち自己規律をいかに 有効にのせるかが重要な教訓であり,そのためのそういったものが,働きや
すい仕組みの構築。例えば,民営化を進めることが重要である 。そういう ご結論だと思うんですが,1つ目の質問は,このような自己規律というもの がそもそも高まるということが,この言葉から例えば株式市場や債権者,あ るいは契約者からの市場規律というものを使って,使うことによって自己規 律を間接的に高めるというふうにも読み取れるわけなのですけれども,ここ に関してコメントをいただきたい。つまり,簡潔に言いますと市場規律と自 己規律の関係ですね。その関係についてコメントをいただきたいのが,1点 です。
それから2点目なのですけれども,そもそも,自己規律のみに頼るという ことは,われわれ自身の生活の中でもなかなか難しいところがあって,だか らこそ外からの力をいろいろ借りることなのだと思うのですね。つまり,そ れがガバナンスなのかなと思うのですけれども。そうなった時に例えばアメ リカの研究なんかで数多くあるんですけども会社形態の違い,つまり,株式 会社か相互会社かによって,その規律を働かせるべきプレーヤーの質や数,
力がそもそも違うわけです。したがって,プレーヤーの違う資本市場からの 規律付けも働くという意味においては,株式会社の方が市場規律を通じた自 己規律が働きやすいという,そういった解釈もあると思います。
しかしながら,日本の場合,どうも株式会社か相互会社かといった違いが 自己規律のあり方にあまり影響していないというような感想をよく聞くわけ です。ここに理論と実体のギャップと言いますか,アメリカと日本のギャッ プと言っていいのでしょうか,それを常に感じるわけです。そこで,まず差 があると思われるのか,ないと思われるのか。ないと考える場合には,なぜ その差が日本においては少なくともこの我々が知っている戦後のこの50年ぐ らいの期間においては,ないというふうに考えられるのだろうかという点に ついて,コメントを頂きたいと思います。これが2点目です。
[植村]1点目のその ガバナンスに関しての市場規律と自己規律の関係 は? というお話ですけれども,ここで私は必ずしも市場規律と自己規律だ
けを想定しているわけじゃなくて,行政による規律というのも併せて意識し ており,3者のトライアングルの中で自己規律も高めていけばいいのかと思 っています。
それから 自分ではなかなか自分を変えられない と言われれば,それは そうかもしれませんけれども,曲がりなりにも会社経営をしていて,投資家 なり契約者なり,誰かから付託されてやっているのですから,性善説かもし れませんけれども,自己規律の向上を促す仕組みは重要だと思います。おそ らく現状はその前の段階にいて,例えば生命保険会社であれば,経営者が本 当に自分の会社の経営実態をつかめているのか,言い方を変えれば,何をす れば経営者が誉められるのかと言ってもいいでしょう。本来はリスクをコン トロールしたうえで,会社の価値を高めれば誉められるべきなのですが,そ ういったものが見えている保険会社がどれぐらいあるのかと疑問に思います。
ですから,まだまだ自己規律については,やろうと思えば高める余地は相当 あると思っています。
おっしゃられるとおり,確かに人に言われるともっと進むという面もある でしょうから,そこは市場の役割,ディスクロージャーもあれば格付け会社 もあるかもしれません。それから行政があると思います。
それから2点目ですが,会社形態と言うか,相互会社と株式会社ですよね。
私が戦後の破綻事例を調べた限りでは,株式会社でもアフラックやAIGを 除けば上場生保がなかったためか,相互会社も株式会社も基本的には経営と してあまり変わらなかったと思います。行政が,株式会社といえども相互会 社と同じように契約者への還元を重視する経営を促していたということもあ ります。ですから,株式会社だからと言って,外部の規律がすごく働いてい るということはなかったようです。ただ,近年は株式を公開する会社も増え る方向にあり,データがたまっていけば,日本でももしかしたら株式会社と 相互会社でガバナンスの違いが実証できるようになるかもしれません。今は データがほとんどないので,なかなかこれ以上のことは申し上げられないで す。
個人的な見解ですが,上柳先生がおっしゃったように, 会社形態を変え ることでガバナンスを高める というのはあると思っています。例えば,相 互会社が株式会社に変わることをきっかけに,ガバナンスを向上させること はあるでしょう。もちろん,先ほどのご質問ではありませんが,結果的に上 場している損保会社で行政処分が発生したわけですから,上場会社であれば ガバナンスが優れていると言うつもりはさらさらありませんが,会社形態を 変える事をきっかけに,優れたものにしていくというのは十分ありうると思 っています。以上です。
[質問](滋賀大学・久保英也)滋賀大学の久保でございます。今日は4人の 先生から確固たる見識を聴かせていただきまして,どうもありがとうござい ました。質問につきましては,堀田先生と米山先生にお願いをしたいと思い ます。先ほどスライドの中で,堀田先生は 保険の自由化がもたらした構造 変化 ,米山先生は 自由化とは何だったのだろう? と銘打たれ,今回自 由化に伴い実施された事柄を提示いただきました。これについては,よく理 解致しました。
ただ私は,商品が変わり,規制が変わり,チャネルが変わり,競争環境が 変わった中で,結果として,米山先生がおっしゃったように①各生保・損保 の効率化がどこまで進んだかということと,②それが消費者にどれだけ還元 されたかということが最も重要ではないかというふうに考えます。そう考え た時に,とりわけ,堀田先生には損保を,米山先生には生保についてお伺い したいのですが,その効率化は本当に進んだのかということを数字でも結構 ですし認識としてでも結構ですので明確にお示していただきたいということ が,まず,第一点です。
もう1つは,例えば国民生活センター等における苦情件数は,自由化後も 急激に増えており,消費者へのサービスの質が向上したという気があまりし ないのですが,消費者への利益還元,配当水準などについて計量的にお示し いただければ幸いです。
[堀田]保険自由化によって効率化はどれだけ進んだのかと,その証拠は数 値でどう示されているかというと,今日の報告の中では久保先生に直接お答 えする資料を提示していないのだろうと思います。客観的に,計量的に分析 したわけではありません。傾向をたどったということですので,いわゆる厳 密な意味での効率化をはかるというスタンスに立っていないという部分はあ ろうと思います。しかしながら一方で,損害保険会社の経営状況は,この自 由化以降大きく変わってきています。問題はおっしゃるように保険会社がこ れまで護送船団行政で守られてきた中から得られた利益がずっと内部に蓄積 されていて,必ずしも契約者に還元されていなかったというのは事実です。
これが自由化以降,どういう形で還元されたかです。1つは価格が下がった という形であろうかと思いますし,もう1つはさまざまな保険商品を提供す る形で,加入させたそのコストに多分使われています。けれども,それによ って,保険会社の経営効率が進んでいるのかということは,さらなる精査が 必要だと思います。
ただ1つだけ申し上げたいのは,やはりこの自由化以降その保険会社が,
先ほど申し上げたように,要するにリスクを今までとは違う形で背負い込ん でいるわけです。一方で効率化は進んだのかもしれませんけれども,もう一 方で契約者に対して新たなリスクを負わせてしまっている可能性というのは 多分にあるのですね。その意味では契約者の利益を還元しつつも目に見えな い形で,経営リスクも含めて契約者に負わされていってしまってはいないだ ろうかと。この辺りをうまく規制をしなければならないのではないだろうか というのが,本日,私が最も申し上げたかったことです。
[米山]さすがに要点をとらえられていて,それで,私の報告の一番弱点を 指摘されましたけれども,要するに自由化の中で効率化がどう進展しそれが どう還元されたかっていうことは,ここでは,この報告では言っておりませ んし,ここでは出てきません。従って,じゃあどうするのかって話ですけれ ども,一方で実証研究に待たなければいけないということです。本当はここ
でそういった事を含めた報告をしなきゃいけないのでしょうけれども,ちょ っと時間的にも実力的にもそこまでいかなかったものですから。その点は堀 田先生と同様にご容赦いただきたいと思います。
それで,ただ記述統計による分析でもある程度,例えば先ほどの質のサー ビス,質的なものとか明らかにすることができますので,そういった面も重 要だと思います。実証研究は必ずしも本質をつかんだ結論ばっかりではない と私は思っているものですから,実証研究に加えて,実務家の方の感覚をお 聞きしながら記述統計を十分に補塡しながら,新しいシステムが本当に機能 しているのかということを,これからも検証していかなきゃいけないと思っ ております。
[質問](元アクチュアリー会役員・田中淳三)かつてアクチュアリー会の役 員をしておりました田中と申します。ア会実務基準3号収支分析について一 言申し上げます。植村先生のお話全般的には異論ありません,問題の3号収 支分析はキャピタルゲインとロスについて考慮されていないので将来発生す るであろう収支を全てを反映していない。したがってその機能の限界をよく 理解して見ていく必要があると思う。その実務基準の作成に携わった一人と してはそれが無意味のように受け取られると残念です。
[質問](青山学院大学・本間照光)青山学院大学の本間です。2つほどお聞 きしたいと思います。1つ目は植村先生と堀田先生にお聞きします。もう1 つは上柳先生にお聞きしたいと思います。
1つ目ですが,そこそこの収益で経営すべきだということで,私もまった くその通りだと思います。それと自己責任を問えるかということですが,私 は問えないと思います。なぜかと言うと個別保険会社を選択するということ では,とれるかもしれません。しかし今起こっている事は,そうではない。
金融・保険全般の危機です。それについて契約者・国民,あるいは市民とし て責任はとれない。
それからもう1つ,破綻の原因になってきている金融投機ですね。金融再 保険の問題です。大成火災については破綻にしないでも良かったのではない か回避できたのではないかという疑問が,相当まだ残っているなということ です。分からないことですね。これまで自由市場に任せる,市場が決める,
自己責任だということできました。しかし今非常に膨大な税金が全世界で投 入されようとしているわけですね。そうすると今保険についても大きな検証 の時期を迎えています。われわれの学問も試されているのではないかと思い ます。自由化の流れの中でプラスの側面とマイナスの側面があって,プラス の側面が大きくて不可避であって正しかったということなのだろうか。その 事自身がやはり問われるんじゃないか。なぜかと言うと,プラスとマイナス が別々に出てきていないのではない。一見するとプラスと見えることが,実 は大変な命取りになっているということはないだろうか。保険事業にとって 決定的なことがらが何なのか,その価値判断に照らして検証される必要があ ります。
効率化を図ったあげく実は管理部門や営業と顧客とのつながりが切れてい ったということはないだろうかですね。これが1点です。
それから上柳先生についてですが,法曹関係の関係者の方は,おそらく熱 心のあまりだと思いますが消費者保護の名で,実は国民主権,消費者主権を 規制しているということが,あるのではないか。あるいは,そこについての かなり甘い認識があるのではないかと思います。無認可共済について金融行 政が動いたと。消費者保護も動き出したと言いますが,私がかねてから指摘 しているのは問題とされるべき本質は無認可共済ではなくて,無認可保険で あり,規制が必要なのは無認可保険であり共済ではないと。それから行政が 動いたのではなくて,これは保険のマーケット拡大のためにアメリカ政府と アメリカの保険業界が動いたのですね。それに日本の保険業界も合流して,
消費者の保護ではないということです。そうすると,やはり本当のところを もう一度考えてみる必要が。消費者保護の名で消費者主権を縛ったら,どう なります? 逆になりますね。おそくらこれは熱心さのあまりだと思います