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佐藤保久著 金融自由化と金融経済教育

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佐藤保久著 金融自由化と金融経済教育

保険料自由化に学ぶ金融風土変革のあり方

関西学院大学出版会,2012年3月,はしがき6頁,目次3頁,

本文・巻末資料・あとがき176頁 ⎜

本書は,明治生命保険に長く勤務されたあと,香川大学,流通科学大学で 教育・研究に従事されてきた佐藤保久先生の著作である。わが国の金融の自 由化に内在する問題点として金融経済教育の欠落を指摘するという非常に独 創的でかつ政策的なインプリケーションに富む議論が展開されている。

本書は6章で構成されているので,順を追って本書の概要を紹介すること にしたい。ただし,紙幅の制約から筆者にとって興味深い議論を重点的に紹 介させていただくことをご容赦願いたい。

第1章 金融自由化再考 では,金融の自由化を経営サイド(業務範囲と 金利・手数料・保険料)と利用者サイド(プロ・大口とアマ・小口)の2次 元のマトリックスに整理し,(著者の用語法では)第④分野(すなわち,ア マ・小口向けの金利・手数料・保険料の自由化)に本書の焦点を当てること が述べられる。その上で,ドイツ,イギリス,アメリカの金融自由化と日本 の金融自由化の経緯を対比して,日本の特殊性を次の5点にまとめている。

①個人にとってメリットのある第④分野の自由化が後順位となっている。② 自由化後も,横並び的な体質は温存された。③監督当局と業界が話し合って 上からの自由化 を進めており,利用者が要求する 下からの自由化 が ほとんど見られなかった。④自由化の完了に長い時間をかけた漸進的自由化 であった。⑤外圧が影響することもあり,第④分野の自由化に関して政策的 意図・整合性が認められなかった。

佐藤教授は,こうした特殊性が見られた原因として次のような日本固有の 金融環境を指摘する。①自由化の事実を利用者に周知徹底する手段(典型的 197

【書 評】

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には,比較情報)が全く提供されない状態が継続したこと,②提供された比 較情報を正しく理解し金融商品を購入するために必要不可欠な金融経済教育 への取り組みが乏しかったこと,③金融機関の利用者の大多数を占める一般 国民に自己責任意識が欠如していたこと,の3点である。

第2章 生命保険料の自由化 では,第④分野の自由化が最も先行して進 められたのが生命保険の分野であったことが指摘され,その自由化がどのよ うに進められてきたかについて,大蔵省 銀行局金融年報 を中心的な資料 としながら詳細に確認作業が行われている。そして,確かに配当の自由化は 進められていったが,その本質は(大蔵省に主導された) 管理された自由 化 であって,一般利用者が求めた自由化ではなかったという重要な特徴が 明らかにされる。

こうした形で自由化が行われたのは,大蔵省にとって簡易保険事業に負け るわけにはいかず,そのために生保経営者に競争圧力を与えて保険会社の効 率化を図る必要があるが,他方で,過当競争が生じて20社体制が崩壊するこ とも避けたいという相反する目的を達成するためであった。したがって,一 般利用者によくわかる形で比較情報を提供することは(真の競争を招くため に)好ましくなく,一般の利用者にわかりにくいが経営者には伝わる形での 開示( 銀行局金融年報 に配当の分布を示すだけで,公表資料には個社名 をださない)が選択されたのである。つまり,配当自由化は進められたが,

自由化の事実は実質的に一般利用者に知らされていなかったのである。 知 る権利 を封殺された保険契約者の側に,保険知識を身につける必要性の認 識と自己責任の意識が芽生えなかったのは当然であろう。

第3章 保険制度改革と 日本版ビッグバン ・日米保険協議 は,1990 年代後半に進められた保険分野の自由化が 外圧 によるものであり,他の 自由化との整合性がなかったことを指摘している。

第4章 損害保険料の自由化 では,第④分野の自由化を最も遅く,しか し最も激烈な形で経験した損害保険を取り上げている。損害保険業界は料率 算定会制度に象徴されるように保険料の競争を長く封印してきたが,1996年

佐藤保久著 金融自由化と金融経済教育保険料自由化に学ぶ金融風土変革のあり方

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の日米保険協議の結果,国内関係者の事前の想定を超える形で第④分野(と くに,自動車保険)での自由化が進むことになった。それに伴い,日本の金 融風土の一つであった乏しい比較情報という特徴も,民間の情報提供業者に よって事実上解消され,自己責任を伴う欧米型の自由化が進展した。

第5章 金融自由化とわが国固有の金融風土 では,第2章から第4章で 詳細に分析された日本の金融自由化の特殊性が,日本の固有の金融風土であ った,①金融経済教育の不徹底,②比較情報の欠如,③自己責任意識の欠如,

という諸現象が複雑に絡み合って生じていることが説得的に議論されている。

本章は本書の核心であるので,少し詳しく紹介しよう。

佐藤教授は,1990年代までの金融風土を次のような3つの観点でとらえて いる。第一に,金融経済教育の観点である。わが国では,第④分野の自由化 の過程において金融経済教育の裏付けがなく,学校現場では金融経済教育は 全く実施されてこなかった。日本では, 金融や経済は,どうも難しくてよ く理解できない と嘆く人が多いが,それは金融経済教育を全く受けていな かったためなのである。さらに,佐藤教授は, 当局・金融業界両者が共に,

利用者が 賢い利用者 として成長することを望まなかった ためだと,そ の理由を指摘している。

第二に,比較情報の提供に関してである。ここでも佐藤教授の厳しい評価 が示される。佐藤教授は次のように述べる。業界秩序の維持=護送船団行政 に拘泥するあまり,金融機関と利用者の間に存在する 情報の非対称性 を 少しでも小さくする努力を当局・業者が見せたことは皆無である。その結果,

利用者は,第④分野の自由化の詳細を知らされることなく,各金融機関が販 売する金融商品について同一内容・同一価格と思い込まされていた。

第三に,自己責任原則に関してである。欧米の金融先進国では,自己責任 意識の浸透が金融自由化定着のための大前提であると考えられているが,日 本では,自己責任意識がほとんど浸透していなかった。

次に,2000年以降に金融風土がどう変わったか(変わらなかったのか)が 上述の3つの観点で議論されている。まず,金融経済教育については,政府

保険学雑誌 第 623号

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が取り組んでいることは事実であるが,組織的な実施にはなっておらず,き わめて不十分なままである。比較情報の提供に関しては,インターネットを 利用した比較サイトや来店型保険ショップの登場などにより,相当の進展が 見られる。ただし,比較情報の内容を正しく理解し,判断するためには,利 用者に対する金融経済教育が実施・徹底されていることが必要であるが,そ の点で大きな課題が残っている。自己責任意識については,2004年の消費者 保護基本法の改正,2006年の金融商品取引法の成立などが相まって,金融風 土の中で,最近10年余の間でもっとも大きく変化した。

最後の第6章 金融経済教育の充実を目指して―終わりにかえて― では,

前章までの議論をまとめ, わが国が自由化を決意した時点で,政府・監督 当局が我が国固有の金融風土を冷静に分析し,その変革を国家政策として導 入すべきであった と総括されている。そして,自由化を定着させるために 最も遅れている(つまり,金融風土の改革が進んでいない)のが,金融経済 教育であり,金融経済教育を進展させるための具体的な提案がなされている。

評者は,以上のような内容をもつ本書をとくに次の点で高く評価したい。

第一に,保険制度の自由化に関しての政策的な判断の推移およびその背景を 明快に整理することに成功している点である。第二に,金融経済教育を金融 システムの発展と不可分の要素に位置づけた点である。こうした独創的な視 点のおかげで,金融経済教育の重要性が広く認識できるようになる。

2013年6月に金融審議会 保険商品・サービスの提供等の在り方に関する ワーキンググループ の報告書 新しい保険商品・サービスおよび募集ルー ルのあり方 が, 金融経済教育の取り組みをなお一層推進することを求め たい という文章で結ばれているように,金融経済教育の重要性は広く認識 されている。しかし,本書を読むと,金融経済教育の充実が金融システム改 革の本丸であることを改めて認識できる。本書が広く読まれ,問題意識が共 有されることを望みたい。

(評者:名古屋大学教授 家森信善) 200

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