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保険の自由化と保険の研究

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保険の自由化と保険の研究

小 川 浩 昭

■アブストラクト

自由化が保険研究に与えた影響について,保険関連の学会の動向を分析す ることによって考察する。保険研究を取り巻く大きな流れを経済学の動向と して把握し,保険関連の学会の動向へと考察を進め,自由化によってリスク が重視され,米国化・金融化が生じる中,保険研究においては保険の相対化,

保険と金融の同質性重視,保険学の一般性指向がもたらされたとする。しか し,より根源的には,投機をどう捉えるかという今後の研究の方向性を問う 問題を自由化が突き付けていると結論付ける。

■キーワード

リスク,米国化・金融化,一般性・特殊性

1.本稿の目的と問題意識

本稿では,自由化の保険研究への影響について考察する。わが国の保険事 業が自由化されて約10年が経つが,世界的な自由化の文脈の中に位置付ける ことができるので,米英が先導した世界的な自由化に遡って考えてみたい。

世界的な自由化の起点は,1971年のニクソン・ショックにあると考える。

これでブレトンウッズ体制の崩壊が始まり,1973年の変動相場制への移行を もって崩壊したとする。そのため金融市場は変動の激しいものとなり,その 変動に投機が蔓延りますます変動性を高めるという悪循環がもたらされるこ

/平成22年9月10日原稿受領。

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とになったと考える。この悪循環をもたらしたものは,実物経済に対する金 融経済の肥大化という慢性的な資金余剰である。変動の激化に対応するため のヘッジ手段として商品市場に見られたデリバティブが金融市場にも導入さ れるが,さらにそこに投機が蔓延り,金融デリバティブは金融の変動性,肥 大化に対してマッチポンプ的な役割を果たし,さらなる金融経済肥大化の主 因となった。特に,1980年代以降の金融自由化で競争が激化する中,金融機 関がレバレッジを効かせる手法をとったことが金融経済肥大化の主因の一つ であろう。1980年代に実物経済の1.5倍であった金融経済は, 100年に1度 といわれた2008年のリーマン・ショックの頃には3.7倍にまで膨れ上がってい たといわれる 。

こうした世界的な自由化の流れの中で,わが国の保険自由化は銀行,証券 の後追いであったが,1996年日米保険協議の決着を契機として保険が日本版 ビッグバンの先頭に立たされることで,漸進的なものから急進的なものへ移 行する。このわが国の自由化も含む大きな世界的な自由化の流れが顕著とな る1980年代以降を本稿の考察期間とし, リスク をキーワードに保険に関 わる学会の活動の分析を行う。 リスク を重視するのは,金融肥大化で一 大ブームとなったファイナンス論が従来の金融論に対してミクロの主体行動,

資本市場の均衡理論を中心に発展したという分野の違いのみならず リス ク を真正面から取り上げているという点で決定的に異なること, リスク 社会 という言葉が定着するほど時代のキーワードといってよいぐらいリス クという言葉が様々な分野で取り上げられているからである。本稿は, リ スク をキーワードにしながら,自由化によって保険研究に何が起き,何が もたらされたかを保険関連の学会を分析することによって考察し,わが国保 険研究が直面している課題を明らかにする。

まず,保険研究の動向をみるにあたって,学問の土台を経済学に求め,自 由化の流れとの関係をみてみよう。ここでは,ノーベル経済学賞を取り上げる 。

1) 数字は 日本経済新聞 朝刊,2010年7月21日,p.7による。

2) 正確には経済学賞はない。同賞は,スウェーデン銀行が創立300年を記念し

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2009年度まで64名が受賞しているが,その内43名が米国人であることが注 目される。また,学派ではいわゆるシカゴ学派(Milton Friedman,Theodore William  Schulz, George Joseph Stigler, Harry M ax  M arkowitz, 

Merton H. Miller, Ronald Harry Coase, Gary Stanley Becker, Robert William  Fogel, Robert E. Lucas Jr. )が多い。1976年度受賞者のフリー

ドマンについては,マネタリズム,新自由主義,シカゴ学派など様々な言わ れ方をするが,いずれにしても,市場機能に全幅の信頼を置き,資本主義を 純化させるべきであるという 市場原理主義者 といえ,自由化を象徴する 経済学者である。こうした市場原理主義的な考えはサッチャー政権,レーガ ン政権で現実のものとなり,1980年代の金融自由化につながっていく。

分野別に受賞動向をみると,計量経済学,マクロ経済学が各9名で最も多 いが,金融経済学,情報の経済学,均衡理論,ゲーム理論が各5名で続く。

ここでは,前2者について注目したい。不確実性下の契約取引は当事者間の 情報の非対称性を前提とするので情報の経済学による分析が発展してきたが,

特に金融取引において重要なため,情報の経済学は金融論に取り入れられて きている。こうした点からは,情報の経済学は金融関連分野といえ,そのよ うに考えると,金融経済学として5名受賞者を出したのみならず,金融関係 の情報の経済学でも5名,計10名出しているといえる。また,多くの受賞者 の研究が金融と関わっており,ノーベル経済学賞の傾向として 米国 の他 に 金融 ,すなわち,米国化・金融化を指摘することができよう。米・英 が主導する 自由化 , 国際化 のもとで,市場経済の発展が金融経済を肥 大化させて金融の重要性を高めているという流れと整合的な受賞動向と言え るだろう。

ところで,トリニティ大学(Trinity University)で開催された 私の経 済学者としての進化 という共通演題でのノーベル経済学賞受賞者の講演録 を収めたBreit=Roger[1986]は,その後一部編者の入れ替わりがあるも

て賞金などの諸経費をノーベル財団に寄託し,1969年に始まった。

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のの,第5版まで出版されており,初版(Breit=Roger[1986]),第4版

(Breit=Hirsch[2004])については,翻訳されている。初版の翻訳書(佐 藤ほか訳[1988])は原書通りであるが,第4版の翻訳書(村中訳[2008])

は原書18名に対して,8名に絞り込んでいる。その理由を 開発経済学(ル イス),マネタリズム(フリードマン),産業組織論・経済史(スティグラ ー),証券投資理論(シャープ),ゲーム理論(ハーサニー),金融工学(シ ョールズ),労働経済学(ベッカー),計量経済学(ヘックマン)と,さまざ まな専門分野を網羅したかったからです (同訳p.ⅰ)とするが,この理由 と翻訳書のタイトル 金融経済の進化に寄与したノーベル賞経済学者たち は矛盾していないだろうか。引用分からは一見様々な分野に見えるが,タイ トル通り実は金融経済に密接に関連している分野ばかりであり,しかも,シ カゴ学派に著しく偏っている人選である。この人選にシカゴ学派重視の姿勢 がうかがわれ,それはまたこの訳書に限らず一般的な傾向といえるのではな いか。もちろん,シカゴ学派が金融経済に関連する様々な分野を席巻する圧 倒的な研究を誇っている結果とされるのかもしれない。いずれにしても,こ のような傾向が,保険研究の動向にも影響を与えているのではないか。

ここで 金融経済学 , ファイナンス という用語について簡単にふれて おきたい。1990年度(Harry Max Markowitz, Merton H. Miller, William F. Sharpe),1997年度(Robert C. Merton, Myron S. Scholes  )は,今日

いうところの ファイナンス論 , 金融工学 といった分野での先駆的業績 のある者が受賞している。両年度の受賞分野は,“Financial economics”と なっている。本稿では 金融経済学 と訳したが,わが国ではあまり 金融 経済学 という言葉は聞かれない 。本稿では, 金融経済学 ではなく,

ファイナンス論 , 金融工学 という用語を使用することにする。

3) 国立情報学研究所が提供するWebcat Plusを使って 金融経済学 で1980 年以降の文献(本)を検索するとヒット数がわずか6件であるのに対して,

金融論 , 金融工学 , ファイナンス はそれぞれ170件,112件,569件であ った(アクセス日2010年8月20日)。

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ノーベル経済学賞の受賞で1990年代はファイナンスにとって躍進の10年と いえ,ファイナンス・ブーム到来と言えよう。金儲けの研究として一人前の 学問とは認識されていなかった分野が一躍脚光を浴びる形となり,その後の アカデミズムの動向に大きな影響を与えたと言える。後に見るように,わが 国でもファイナンス系の学会が1990年代以降に設立されるのが注目される。

シカゴ学派的な新自由主義が優勢になる中,ファイナンス論が金融自由化と 互いに導き合いながら,保険研究を含めたアカデミズムに大きな影響を与え たと考える。このアカデミズムに対する影響に,1990年代から進められてい る大学教育改革も含まれよう。すなわち,大学教育改革も含めて,新自由主 義に基づく米国化・金融化の流れに包摂されたと考える。

2.学会の分析

保険研究の動向をみるために,保険関連の学会の動向をみてみよう。内閣 府の特別機関である 日本学術会議 の協力学術研究団体 日本学術会議協 力学術研究団体 をわが国の公式の学会とすることができるのであろうが,

この団体に含まれないものでも全国大会や地方部会の研究会の実施,学会誌 発行などを行っているものは学会とみなす。こうして選び出した保険に関連 する学会は,表1の通りである。

名称に着目すると,日本ファイナンス学会,日本金融・証券計量・工学学 会の設立に,1990年代のファイナンス・ブームが反映していると思われる。

また,日本リスクマネジメント学会,日本リスク研究学会,日本保険・年金 リスク学会の設立にリスクが重要であることが現れているといえよう。日本 保険学会を歴史のある保険学のメインの学会とし,その他の学会を保険に関 連する学会として,まず保険に関連する学会を考察し,その後に日本保険学 会について考察する 。ただし,紙幅の関係から,社会政策学会,日本保険 医学会,生活経済学会,法と経済学会は除く。

4) 各学会の内容については,各学会のホームページを参照した(表1参照)。

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⑴ 日本アクチュアリー会

純粋な学会というよりも専門職団体としてのアクチュアリー(保険計理 人)の会であるが,アクチュアリーの教育・育成,資格試験の実施,海外の アクチュアリー団体との交流などの他にアクチュアリー学の研究を行ってお り,保険の学会ともいえよう。1899年設立の大変歴史のある学会である。近 代保険の要件の一つは合理的保険料の算出にあるといえ,わが国保険の近代 化に重要な役割を果たしたという点では,保険事業の学会ともいえる。

学会誌である アクチュアリージャーナル をみると,1990年創刊とかな り新しいことが注目される。自由化に対する保険審議会の議論が活発になっ たことを背景に,会員の発言の場を確保するために創刊されたとされる。同 誌における理事長などによる巻頭言,末尾の 編集後記 などをみると,創 刊後間もない1990年代前半は資金運用や投資理論の重要性が繰り返し指摘さ れているが,1991年発行第7号では,アクチュアリーは保険,年金という制 度の中でPricing, Valuationという業務を営んでいるが,より広い金融的 対象に対しリスクコントロールを行うことになるかもしれない,と早くもフ ァイナンス面に踏み込んだ指摘がみられる。2000年代になってくると,さら にファイナンスとの関わりが進展する。すなわち,後述の日本保険・年金リ

表1.保険に関連する学会

学会名 設立年 学会誌

社会政策学会 1896 社会政策学会誌 アクチュアリージャーナル 日本保険医学会誌 保険学雑誌 金融経済研究 危険と管理 生活経済学研究

日本リスク研究学会誌,Journal of Risk Research 1899

1901 1940 1943 1978 1985 1988 日本アクチュアリー会

日本保険医学会 日本保険学会 日本金融学会

日本リスクマネジメント学会 生活経済学会

日本リスク研究学会 日本ファイナンス学会 日本金融・証券計量・工学学会 日本保険・年金リスク学会 法と経済学会

1993 1993 2003 2003

現代ファイナンス,International Review  of Finance 和文ジャーナル,Asia-Pacific Financial Markets(英文ジャーナル) リスクと保険(実務ジャーナル),ジャリップ・ジャーナル (査読誌) 法と経済学研究

(注)網掛けは,日本学術会議協力学術研究団体に含まれないもの。

(出所)筆者作成。

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スク学会の学会誌 リスクと保険 が本学会会員向けには アクチュアリー ジャーナル 特別号とされる。特別号は産学協同プロジェクトの一つの成果 とされるが,金融工学と保険数理学の統合を指向し,その点でファイナンス との関係を強めているので,産学協同もさることながら,保険と金融の融合 を指向している面もあろう。ファイナンス・ブームを背景としながら, リス ク をキーワードに,アクチュアリー学がファイナンスに接近してきている 様子がうかがえる。

⑵ 日本金融学会

戦前設立された本学会は,経済の金融化においていわば総元締め的な学会 といえよう。金融制度会(1922年設立)を前身とする通貨制度研究会(1932 年設立)が本学会の前身である。1943年設立なのであまり長いとはいえない ものの,戦前から続く社会科学系の学会が少なく,米国金融学会の設立が 1939年であることを考慮すれば,それなりに歴史のある学会といえよう。設 立趣意書によれば,学者と実際家による総合的研究団体であるとされ,発起 人に日本銀行関係者が名を連ねる。

年2回(春季,秋季)開催される全国大会では1951年より共通論題が設定 されるが,そのテーマを理論的な問題,現実的な問題に大別すれば,圧倒的 に後者が多い。1980年以降のテーマをみると,ファイナンス論が顕著に優位 であるとはいえないものの,自由論題ではデリバティブの分析,資産選択論,

情報の経済学,リスクマネジメントなどが増えてきており,また,学会誌 金融経済研究 第5号ではミラーの寄稿論文(ミラー[1993])が掲載され るなど,ファイナンス論優位の状況となってくる。なお,本学会における保 険関係の研究報告については家森[2010]で分析されており, 多くの金融 学者が関心を持って,保険学会とは無関係に, 保険 を研究しているとい うよりは, 保険 を金融面から捉えることに関心のある保険研究者が日本 金融学会でも報告しているというのが実態のようである (家森[2010]p.

13)とされる。報告の中身について若干補足すれば,当初の資金運用をテー

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マとしたものから広がりを見せ,ミクロ経済学を使った需要分析等も行われ,

経済学の動向,ファイナンス重視の傾向が概ね反映していると思われる。

金融の本家本元の本学会がファイナンス優位になってきているものの,も っとファイナンス論に特化したいという要請が強いと思われ,それが後述の ファイナンス関連の学会の新設につながったのではないか。なお,本学会が 金融危機直後の2009年春の大会で早くも金融危機を共通論題のテーマにして いるのが注目される。

⑶ 日本リスクマネジメント学会

1978年に創設され,わが国で最も古いリスクマネジメントに関する公認学 術団体であるとされる。リスクマネジメントに関心の高い日本保険学会会員 が中心を占めるという点で,保険との関連が深い学会といえる。学会誌は 1985年発行の第13号からRM双書となりテーマが掲げられるが,そのテー マをみると,興味深いことに,ファイナンス関連のものが見当たらない。そ こで,2010年発行の第41号までの学会誌に掲載されたファイナンス関係の論 文数をみてみると,第15号に1,第24号に2と少なく,財務管理まで含めて も,第3号1,第11号3,第12号1に過ぎない。日本アクチュアリー会がリ スクを介してファイナンスと密接になっていったのに対して,リスク研究の 本家本元といえる本学会がファイナンス・ブームの影響を受けていないよう である。この点に関連して,本学会の理事長・会長を長年務め,現在名誉会 長である亀井利明の見解をみてみよう。

亀井[2004]では,ファイナンス論を使った企業価値最大化をリスクマネ ジメントの目的とする考えやERM(Enterprise Risk Management)に否 定的である(亀井[2004]p.7)。また,リスクの捉え方も事故発生の可能性 として,ファイナンスに親和的な期待値の変動性という捉え方に否定的であ る。伝統的なリスクマネジメント論を先発理論とし,ファイナンス的な見解 をはじめとする最近のリスクマネジメント論を後発理論として,前者を支持 する立場である。先発理論研究を行う日本におけるリスクマネジメント研究

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の老舗的存在が本学会であるとする(亀井=亀井[2009]p.222)。また,リ スクが社会化したため,ソーシャル・リスクマネジメントが必要であるとす る点でかなり独創的でもある(同第14章)。そもそも日本独自のリスクマネ ジメントを指向しており(亀井[1992]pp.189‑190),それが米国化の流れ,

ファイナンス・ブームに抗うことになったと思われ,本学会の基本姿勢にも なっているようである。ただし,ブームを無視していない点に注意を要する。

⑷ 日本リスク研究学会

アメリカに本部を持つ国際的なリスクについての学術団体SPA(The Society for Risk Analysis,リスク分析学会,1980年設立)の  Japan Sec-

tionとして1988年に発足した。リスク研究の関連研究分野における相互理 解と協力を促進し,これまでの国際交流をさらに継続発展させ,国際的な連 携を深めるというのが本学会の設立趣旨とする。防災科学,公衆衛生,環境 医学,環境工学,放射線科学,保健学,社会心理学,災害心理学,経営学な ど個別分野における 安全の科学 を踏まえて発展した総合的政策科学とし ての リスク学 を指向する。そもそも高度産業技術社会におけるリスクの 科学的評価を重視するので,ファイナンス論とは別次元でのリスク重視とい えよう。

本学会が規定する学会誌投稿分野は, リスク学全般 , 環境・健康リス ク , 災害リスク , 工学リスク , 経済学・保険リスク , リスク認知と コミュニケーション , リスク分析・評価の方法 , リスクマネジメントと リスク政策 となっている。大変幅広い投稿分野であり,様々な分野から研 究が行われているという点で,ファイナンス・ブームの影響を受けにくいと いえそうである。総合的政策科学としてのリスク学を目指すことからすれば 当然ともいえるが,しばしば,リスク概念の不一致について指摘されている ことが注目される。たとえば,2001年発行の第12巻第2号は リスク概念の 進化を探る という特集を組んでいるが,未だ一致を見ていないようである。

ここに リスク学 が十分体系化されていないことが示唆されている。ファ

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イナンス論とは異なる次元でのリスク重視ではあるが,自然科学を駆使した 分析をリスクの次元にするための計量化や,分析を政策提言に結びつけるた めの費用便益分析などからファイナンスや経済学と親和的である。そのため,

総合政策科学を指向した関連科学に 経営学 , 保健学 はあっても 経済 学 , 保険学 はないにもかかわらず,学会誌投稿分野に 経済学・保険リ スク が含まれているのではないか。

なお,保険関連の論文も若干みられるが,日本保険学会会員によるファイ ナンス論的アプローチによるものが多く,この点において先に見た日本金融 学会の場合と類似する。

⑸ 日本ファイナンス学会

先に指摘したファイナンス・ブームの中,日本におけるファイナンス研究 の飛躍的発展に資する全国的な学会組織を創設する機会がきているとして 1993年に設立された。学会誌としては 現代ファイナンス ,International Review  of Financeがある。  

現代ファイナンス を見ると,ポートフォリオ分析,アセット・プライ シング,コーポレート・ファイナンス,コーポレート・ガバナンスなど各種 の分析が多いものの,株式や株式市場の分析が,特に他の資産や市場と比較 して非常に多い。最も注目される市場に関する分析が多いということであろ うか。株式市場に関わる分析は効率性向上などに貢献し,その点で社会経済 的意義があるのかもしれないが,全体的には社会経済的意義があまり感じら れない。また,大会における金融危機に関わる報告が第17回大会(2009年5 月9,10日)は63報告中ゼロ,第18回大会(2010年5月22,23日開催)は70 報告中3しかない状況をみると,未曾有の金融危機によってファイナンス論,

金融工学という学問自体が厳しい批判にさらされていることに対する反応が 鈍く思われる。前述の日本金融学会の反応との差が目立つ。これらの点から は,ファイナンス・ブームに乗って,大手を振って学問として資金運用収益 を追求しているようにみえる。

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なお,保険に関するものは,変額年金保険,確定拠出年金といずれも年金 に関わるもので2本しかなかった。日本保険学会会員との接点が薄いことが 主因と思われる。本学会は資金運用に関心が高く,保険のみならず学際的な 展開があまり見られない。

⑹ 日本金融・証券計量・工学学会(The J apanese Association of Financial Econometrics and Engineering,JAFEE,ジャフィー) 

本学会は,ファイナンシャル・エンジニアリング,インベストメント・テ クノロジー,クウォンツ,理財工学,ポートフォリオ計量分析,ALM,ア セット・アロケーション,派生証券分析,ファンダメンタルズ分析等の領域 に関係する産官学の研究・分析者が,それぞれの立場から個人ベースでリベ ラルな相互交流のできる場を形成し,それを通じてこの領域を学術的領域と して一層発展させ,国際的水準に高めるために設立された。学術関係者主導 の学会からは生まれにくい新しい発想の提案や有益な意見交換のため,産官 学のバランス,実務家の積極参加が重視されるところに特徴がある。

学会誌は和文ジャーナルと英文ジャーナルがある。和文ジャーナルは ジ ャフィー・ジャーナル と呼ばれるが,全9巻単行本として出版されている。

第1巻では資産運用が重視され,実務との関係が強調されるが,その後は確 率過程論,計量経済学,数理統計学,数理計画法など様々なものが掲載され ている。第4巻で本学会が金融工学の発展の普及に努めてきたとされるよう に,端的に言うと金融工学の学会といえよう。

なお,保険に関する論文は保険リスク関係が1,間接的に関係するといえ る天候デリバティブ関係が2とわずかではあるが,日本保険学会会員ではな い金融工学者によるものであることが注目される。

ところで,リーマン・ショック直後の第30回大会(2009年1月29,30日開 催)で会長企画特別セッションとして サブプライム問題と金融工学 とい う講演が行われている。日本ファイナンス学会と対照的な反応である。

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⑺ 日 本 保 険・年 金 リ ス ク 学 会(The Japanese Association of Risk, Insurance and Pensions, JARIP, ジャリップ)

具体的な研究対象として,広い意味での保険市場,保険リスク,リスクフ ァイナンス,保険ビジネス・リスクマネジメント,保険リスクプライシング,

保険デリバティブ,年金リスクマネジメント,年金運用などとその経済的,

金融的意思決定に関わる理論的・実証的領域をあげる。学会誌は リスクと 保険 , ジャリップ・ジャーナル であり,前者は,前述のとおり,日本ア ク チ ュ ア リ ー 会 会 員 向 け に は ア ク チ ュ ア リ ー ジ ャ ー ナ ル 特 別 号,

JARIP会員向けには実務ジャーナルとされているように,アクチュアリー

的な研究が中心の一つを占める。

リスクと保険 は,第一,二号は アクチュアリージャーナル 特別号 として本誌独自の印刷製本ではなかったが,第三号より独自のものとなり,

査読論文以外の特別寄稿等が掲載されるようになった。特別寄稿等をみると,

第三号はリスク尺度,第四号は内部モデルを使ったリスク管理,第五号はリ スク尺度,第六号はリスク管理と自己資本規制であり,経済価値ベースの規 制やERM という実践的なテーマに関連したものばかりである。 リスクと 保険 第三号の学会についての説明では,端的に, 保険数理学と金融工学 を統合し,更に他の学際的な諸科学で得られた先端研究成果を共有すること により,新しいリスクの研究方法や分析手法,リスク管理技術を発展させ,

その研究成果を広く社会に還元させていく必要がある とする。

ジャリップ・ジャーナル 創刊号(第1巻第1号)では,保険の機能は 社会的に極めて重要であるが業態的思考に束縛されて社会的ニーズに十分応 えておらず,重要なことは各経済主体に最適なリスクポジションを構築させ ることであるとする。同誌第1巻第2号では,明治に始まる長い歴史を有す るわが国の保険数理学や保険経済学は長い規制時代が続いたためかすっかり 切れ味が鈍っており,規制緩和の方向に大きく舵を切られた今日,理論的基 礎の不足が目立ってきたので,それを充足することが必要であるとし,その

ためにJARIPの研究活動を金融工学が金融業に果たしたのと同様な貢献を

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することとする。この点からは,自由化に対応した学会であるといえる。

ジャフィーの学会長であった刈屋武昭は本学会の学会長も務めていたこと から,保険に直接関わる学会といえるものの,金融工学の色彩の強い学会と いえよう。

以上の考察結果をまとめると,次のとおりである。保険に直接的に関わる 学会(日本アクチュアリー会,日本リスクマネジメント学会,ジャリップ)

では,日本リスクマネジメント学会が例外であるものの,ファイナンス論の 影響を強く受けている。保険に間接的に関わる学会(日本金融学会,日本リ スク研究学会,日本ファイナンス学会,ジャフィー)では,若干の例外を除 いて,日本保険学会会員による他学会での活動を中心に散発的にしか保険に 関する研究がみられないものの,ファイナンス論の影響を受けた保険研究が 多くみられる。その特徴は,リスク重視によって保険がリスクマネジメント 手段の一つとされ,リスク処理という次元あるいは資金の流れでリスク処理 を行っているという金融の次元で把握され,保険と金融を同質的に,保険を より一般的に考察するようになっている。これは,リスクマネジメント手段 の一手段とすることで保険を相対化し,保険と金融の同質性を重視し,その ことによって一般的な方法による研究を指向するという意味で保険研究の一 般性を指向しているといえる。自由化によって各業態間の垣根が低くなって きていることと整合的でもある。その意味で,自由化によってもたらされた 保険研究の傾向といえよう。

また,日本リスクマネジメント学会はリスクが社会化したとしてリスク認 識を進展させている。独自の見解,方向といえるものの,他学会と同様ます ますリスクを重視した動きといえよう。このように,リスク重視ということ では全学会一致する。しかし,学会間の関係は,例外はあるものの,総じて 希薄であることもあり,リスク概念で一致する傾向は見られない。

3.日本保険学会の動向

本稿の考察期間である1980年以降の日本保険学会の動向を把握するために,

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全国大会を題材に考察する。共通論題に着目しよう。共通論題は1986年度か ら定例化される。1980年代から1990年代半ばまでの動きが,金融自由化,そ の後追いの保険自由化,そのための保険業法改正ということで,自由化,業 法改正に関わるテーマが多かった。1995年度 新保険業法について ,1996 年度 新保険業法の論点 で一応の頂点を極めるが,1996年に日本版ビッグ バン構想が出され日米保険協議決着で保険自由化が急速に進むことになった ため,ビッグバン,急進的な自由化に関わるテーマが1990年代後半より取り 上げられる。ここ2年は2008年度 今保険とは何かを考える ,2009年度 保険概念の再検討 と保険本質論的なテーマが取り上げられるが,本質論 議ではなく,従来からの保険本質論に対して否定的な本学会の姿勢に変化は ないようである。こうした展開の中で,特に1995年度の共通論題 新保険業 法について に注目してみよう。それは,会員外の池尾和人が報告者に含ま れているからである 。会員外の報告というのは例外的である。

1995年度は自由化に向けた規制緩和・規制改革をいわばテーマとしたわけ で,池尾は自由化への規制改革において後述の 新しい金融論 に基づく自 由化論者として注目されていた。池尾[1996]では, 今回の保険業法改正 は,国内的な文脈からみると,56年ぶりの抜本的改革であるということにな るかもしれない。しかし,よりグローバルな文脈からそれをみると,遅きに 失した改革のささやかな一歩に過ぎないと言わざるを得ない (池尾[1996]

p.1)と大変手厳しい。具体的には,業態の壁を超えた競争激化を回避する ために業務分野規制を残し,制度改革の先送りをしたと批判する(同p.2)。

1980年代以降の情報通信・処理技術の発展が分業体制の高度化(今日いうと ころの業務のアンバンドリング化)をもたらし,金融コングロマリットが指 向されるので,業務分野規制を徹底して緩和し,競争を促進すべきとする

(同pp.5‑6)。池尾[1996]は,保険会社を特殊な金融機関とせず,銀行な

どと同列に置きながら,BIS規制の形成などに結びつく理論的な枠組みで

5) この報告に基づく成果が池尾[1996]である。

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保険業法の改正を分析したものといえ, 一般性 指向が強くなっていたわ が国保険研究において,大いに注目された。もっとも,そもそも保険研究の 一般性指向に池尾は重要な役割を果たしている。

筆者はこの点に関わる考察をすでに小川[2010]で行っているので,ここ ではその要約を交えながら述べよう。明治に輸入学問として始まったわが国 の保険研究は,ドイツ保険学的な総合保険学,保険経済学を土台とする保険 学などそのあり方自体に見解の相違があり,現在でもその違いを引きずって いるといえるが,明治以来の研究により形成されてきた大きな共通点・特徴 点として,保険本質論および保険の二大原則(給付・反対給付均等の原則,

収支相等の原則)の重視をあげることができよう。この2点を戦前から戦後 に形成されたわが国 伝統的保険学 の特徴として把握し,戦後の研究動向 をみると,前者の保険本質論重視に対して,過度な保険本質論争との批判が 佐波[1951],水島[1979]などでなされた。しかし,これらの批判も後者 の特徴に対して批判していない点で伝統的保険学の枠組みの中にあるといえ よう。ただし,保険本質論に対する否定的見方が学会のコンセンサスになっ ていく。これに対して,高尾[1987]は,水島[1967]の 保険学の一般性 と特殊性の議論 を理念的なものから他の分野のイノベーションの応用を意 識しつつ,研究の方向性,具体的な提言に発展させ,伝統的保険学への批判 を高度化させた。その具体的な提言とは,保険学に応用ミクロ経済学を適用 すべきというものであるが,保険学の将来の方向性を展望するにあたって,

池 尾 和 人 の 池 尾[1985]か ら 類 推 す る と い う 方 法 を と っ て い る(高 尾

[1987]p.139‑142)。応用ミクロ経済学の重要分野として産業組織論と不確 実性の経済学をあげ,後者の中で将来豊かな成果が期待できるのは 情報・

組織の経済学 であるとし(同p.126),池尾[1985]を情報の経済学が本 格的に利用された研究として注目する(同p.139)。池尾の研究を情報の経 済学を適用した 新しい金融論 と考え,同様の方向を目指すべきとの考え と思われ,いわば 新しい金融論 ならぬ 新しい保険論 を指向して,伝 統的保険学を批判する。こうして保険研究の動向にも,経済学一般の動向が

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反映してくる。このように,すでに池尾は保険研究に重要な影響を与えてい る。それでは,1990年代以降の展開はどうなったか。

21世紀に入って,リスクを重視した伝統的保険学批判である箸方[2003]

が登場する。これは箸方[1962]などの従来の主張の集大成的な位置づけを できる面があるので,これまでの伝統的保険学に対する批判が繰り返される が,単なる繰り返しではなく,リスクを保険学の出発点とし,Harrington= Niehaus[1999],Doherty[2000]を研究することが日本の保険教育のあ り方を考える上で愁眉の課題とし,研究と教育の一体的な考察もなされてい る点で,今後の保険研究の方向を提示する重要な文献といえる。リスクを重 視した保険学を指向しているので,これを リスク重視の保険学 と呼ぶこ とにしよう。

さらに,米山[2005]が注目される。米山[2005]では,保険学の一般性 と特殊性の議論を保険自体の理論と保険に関係する外延の研究の関係とし,

中核 と 外延 によって規定されているとする。この 中核 と 外延 を 土台 と 自立 に転換し,保険理論を脱中心化すべきとする。土台を 通して関連分野と会話をするための共通言語を獲得し,新しい一般性の上に 保険論が再生するための唯一の方法であるとする(米山[2005]p.17)。ま た, 収支相等の原則と給付反対給付均等の原則から始まり,大数法則を通 俗的かつ抽象的に解説するという方法は,学生に対して保険の特殊性を強調 しすぎるために,他の分野との通訳可能性がない学問であるとの誤解を増大 してきたのではないか (同p.15)と二大原則による把握にまで批判は及ぶ。

そして,目指すべき一般性を重視した保険学の再生において,共通言語とし てリスクを重視する。一般性と特殊性からの議論を転換させ,伝統的保険学 に対する批判が保険の二大原則にも及んで批判が徹底しており,保険学の再 生を目指す形に高度化している。これも リスク重視の保険学 の重要な文 献といえよう。

そして,リスク重視の保険学は単に方法論的抽象論議に終始せず,ファイ ナンス重 視 の 保 険 学 の 文 献(Harrington=Niehaus[2004])の 翻 訳(米

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山=箸方監訳[2005]),自らのテキスト(下和田編[2003],米山[2009])

の出版などを行い,具体的な成果で一つの方向性を提示することによって,

わが国保険学界に貢献しているといえよう。

以上のように,今日までの流れをリスク重視の保険学までの流れとして捉 えることができるのではなかろうか。それはまた,日本保険学会においても,

保険の相対化,保険と金融の同質性重視,保険研究の一般性指向,リスク重 視の傾向が見られるということである。

4.自由化のもたらしたもの

自由化によってリスクが重要となってきたことにより,様々な分野でリス クが取り上げられることとなったが,経済の金融化で金融との関連が特に重 視される。学問の動向としては,新自由主義的なファイナンス論が重視され,

様々な学問に影響を与える。リスク対処法の一つである保険にとっては,保 険をリスクマネジメントの手段として相対化することとなり,また,金融的 に保険が把握されることで保険が金融と同質視される。それはまた保険の研 究において金融論と同様な考察がなされることで,より一般的な考察を指向 しているとされる。このような自由化によってもたらされた保険研究の動向,

すなわち,保険の相対化,保険と金融の同質性重視,保険研究の一般性指向,

リスク重視の傾向は,規制時代の保険学から自由化時代への保険学への脱皮 という側面があるのだろう。リスク重視の保険学は,そのような脱皮を目指 す保険研究の一つの方向性を提示していると言えるのではないか。

しかし,未曾有の金融危機は,その自由化自体の評価を迫っていると言え るのではないか。もちろん,未曾有の金融危機が自由化の帰結であるのか否 か,どちらにしても,リスク社会化した現代社会でリスク学の構築は今後ま すます求められるであろう。その成否の鍵を握るのは,学際的な研究で,既 存のリスク関連の学会が共同できるようなテーマの設定が重要であろう。そ の前提として,リスク概念に対してある程度のコンセンサスが必要とされよ う。このような面に保険学が大いに関わっていくことが保険学の再生にとっ

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て重要であろうが,自由化時代の保険学を求める延長線上で良いのかどうか を考える必要が金融危機によって生じたと言えるのではないか。

未曾有の金融危機によって,ファイナンス論・金融工学バッシング,ある いは,市場原理主義批判が生じたが,すぐに反論がなされた。ここでは,池 尾の反論を引用しよう。池尾[2010]では, 市場(原理)主義批判には,

市場経済を否定してみせても,それに代わる真っ当な代替案を提示したもの はない。(…中略…)。それゆえ,市場経済であることが問題なのではなく,

その質が低いことが問題なのだと理解すべきである (池尾[2010]pp.43‑

44)とし,今回の危機の原因の一つであるCDS(Credit Default Swap) についても, 高度な金融技術に基づいてリスク管理をしていたのに問題が 起きたんじゃなくて,カウンターパーティ・リスクというのをちゃんとリス ク管理しなかったから問題が起きたにすぎません (池尾=池田[2009]p.

115)とする。これは,世界大恐慌を政策の失敗に帰すフリードマンと同様 な見解であり,本質的に資本主義を安定的なものとする資本主義観に基づく といえよう。これに対して,今回の未曾有の危機を自由化の帰結とする捉え 方は,資本主義を本質的に不安定なものとする捉え方といえよう。今回の危 機は,どちらの資本主義観に立つのかという選択を迫っているのではないか。

そして,それを決めるのは,投機に対する見方ではないだろうか。金融経済 の肥大化で投機が盛んになったが,この投機をそもそもどう捉えるのかとい う問題である 。

資本主義観が大きく二つに分かれるように,投機に対する見方も二つに分 かれよう。それは,投機が経済を安定させるとするフリードマン的投機と投 機が経済を不安定にするとするケインズ的投機である。前者は,投機家は儲 けるために安く買い,高く売るのだから,投機家が稼げて存在するというこ とは,安くなったときに買い高くなったときに売るということが行われてい ることを意味するので,投機は市場を安定させると考える。後者は,いわゆ

6) ここでの資本主義,投機の議論は,主として岩井[2009]による。

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る 一般理論 で示された 美人投票 の理論で,客観的な美の基準や自分 の主観的な美の基準で投票するのではなく,平均的な投票者の投票を予想し なければならないということに擬えられるプロの投機家がしのぎを削るよう な市場を想定し,皆が上がると思えばバブルが起こり,皆が下がると思えば パニックが起こり,投機は市場を不安定にするとする。

未曾有の金融危機は,自由化の一つの節目といえるだろう。その点を踏ま えて自由化が保険研究にもたらしたものを考えると,それはリスクと背中合 わせといえる投機,また, 保険の歴史は投機を排除する歴史 という点で 保険と密接な投機をどう捉えるかという問題ではないか。換言すれば,各自 に今後の保険研究の方向性を問うているのではないか。投機をフリードマン 的投機と考えるならば,これまでの流れに乗って自由化時代の保険研究を指 向するということになろう。投機をケインズ的投機と考えるならば,これま でと流れが異なる保険研究を指向することになるのではないか。いずれにし ても,保険学の再生が求められ,そのためにリスクを重視した学際的な展開 が必要なのであろうが,われわれはどちらの研究方向を指向して保険学が直 面する課題に取り組むかの選択を迫られているのではないか。

(筆者は西南学院大学商学部教授)

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