自由化後10年の検証:問題提起
⎜⎜ 平成20年度大会シンポジウム ⎜⎜
総合司会 山 下 友 信
■アブストラクト
この 問題提起 では, 自由化後10年の検証 という本シンポジウムの 目的を明らかにする。自由化の大きな曲がり角であった平成7年の新保険業 法の制定の基礎となった平成4年の保険審議会答申が自由化・規制緩和につ いて述べていた箇所を紹介し,それらがその後どのように展開されていった かが4名の報告者により多角的に分析されることを明らかにする。
■キーワード
自由化,規制緩和,新保険業法
1 シンポジウムの目的
保険事業に関する自由化・規制緩和進展の 大 き な 曲 が り 角 が 平 成 7
(1995)年の新保険業法の制定と平成8(1996)年の同法の施行であったこと は異論がないであろう。本シンポジウムは,この時期から10年余りを経た現 時点において,自由化・規制緩和はどのように実現され,またそれがどのよ うな結果をもたらしたかを改めて検証しようとするものである。
新保険業法の方向性を明らかにした平成4年6月17日の保険審議会答申 新しい保険事業の在り方 では,自由化・規制緩和に関して,次のように述 べている。
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*平成20年10月25日の日本保険学会大会(獨協大学)報告による。
/平成21年1月20日原稿受領。
【平成20年度日本保険学会大会】シンポジウム 自由化後10年の検証
保険事業については,利用者の立場,国民経済的見地,国際性のいずれ の視点からも,効率性が強く求められている。すなわち,利用者の立場から は,経営資源の有効活用により,効率性,収益性を向上させると共に,その 成果を的確に利用者に還元することが重要である。また,国民経済的見地か らは,経営資源の有効活用を図ると共に,規制緩和,自由化を通じて競争の 促進を図り,事業の効率化を進めることが必要となっている。更に,国際性 の視点からは,諸外国においても基本的には規制緩和の方向で見直しが行わ れていることに留意しつつ,国際的に調和のとれた制度を構築する必要があ る。
また,環境の変化に伴い,保険事業は収益性と健全性のバランスを求め られるようになっている。すなわち,収益性は,事業の効率化と密接に関係 するものの,一方では,それを過度に追求する場合には,事業の健全性を阻 害するおそれも考えられる。また,保険事業がその諸機能を通じて国民生活 に密接に関連していることを考慮すれば,自己責任原則の下で事業の健全性 を維持することは,引き続き重要であると考えられる。更に,国際性の視点 から,諸外国においても,このような健全性の維持が重視されていることに も留意すべきである。
更に,保険事業が国民生活と密接に関連していることや,契約者間の公 平性確保の要請が高まっていること等から,利用者の信頼に耐えうる公正な 事業経営を確保することが重要である。すなわち,利用者の立場からは,デ ィスクロージャー等を通じて,契約者間の公平性等についての利用者による 監視が適切に行われる必要がある。また,国民経済的見地からは,公正な事 業運営が確保されるよう,保険会社において自律的な経営チェック体制が構 築されることが必要となっている。更に,このような公正な事業運営の確保 は,国際性の視点からも不可欠となっている。
以上から,当審議会としては,保険事業及び保険関係法規の見直しに当 たっては,①規制緩和,自由化による競争の促進,事業の効率化,②健全性 の維持,③公正な事業運営の確保,の3つを指針とし,これら指針で示され
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た方向に基づいて検討を行った。
平成7年新保険業法による自由化・規制緩和は,その後の相次ぐ自由化・
規制緩和の進展の第一波にすぎなかったが,上記答申の基本的な考え方自体 は今日に至るまで変わっていないということができるであろう。しかし,そ の基本的な考え方が,具体的にはどのように実現され,あるいは実現されえ なかったのか,また,実現していく中で,想定どおりの結果がもたらされた のか,想定外の結果がもたらされたのかは,保険市場の中でその後起こった 事象を多面的に検証することによりはじめて明らかになる。本シンポジウム はこの作業を行うことを目的としている。
2 シンポジウムの構成
本シンポジウムでは,自由化・規制緩和を多面的に検証するために,研究 者,実務法律家,アナリストという,それぞれ異なる立場で保険事業に関わ りのある4氏に報告をお願いした。お願いに当たっては,各報告者に自由に 問題を設定していただくようにした。
堀田一吉氏の報告では,損害保険市場の自由化による構造変化の状況と消 費者利益に対する影響を実証的に分析し,その結果を踏まえて損害保険業な いし損害保険市場に関する今後の課題が明らかにされる。
米山高生氏の報告では,戦後における生命保険システムの変化という大き な視野で,この10年の自由化が生命保険市場にどのような変化をもたらした かが多面的に分析され,またその将来像について考察される。
上柳敏郎氏の報告では,保険契約者ないし消費者の利益の観点から,自由 化の進展の下で発生した様々な事象を整理して,自由化の功罪を明らかにす るとともに法規制等の課題を提示する。
植村信保氏の報告では,自由化の進行する中で保険会社の経営の健全性の 規制がどのように機能してきたかを保険会社の破綻事例等の分析を通じて明 らかにするとともに,健全性の規制,会計,ディスクロージャー,ガバナン スの今後のあるべき姿を提示しようとしている。
保険学雑誌 第 604号
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自由化ないし規制緩和がもたらした影響については,すでにかなりの研究 が行われているが,本シンポジウムは自由化ないし規制緩和について幅広い 視野の下に包括的に現状と課題を明らかにするものであり,大きな意義をも つものと考える。
(筆者は東京大学教授)
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