旅行者モチベ‑ション研究の展望 : 「旅行者行動の 心理学」に向けて(2)
その他のタイトル A Review of Psychological Research of Tourist Motivation : Toward the Psychology of Tourist Behavior (2)
著者 佐々木 土師二
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 28
号 2
ページ 27‑68
発行年 1996‑12‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00022492
旅行者モチベーション研究の展望
「旅行者行動の心理学」に向けて(2) 佐 々 木 土 師 二
A Review of Psychological Research of Tourist Motivation : Toward the Psychology of Tourist Behavior (2)
Toshiji SASAKI
Abstract
Tourist motivation, which is one of the most important problems of the psychology of tourist beh;wior, is analyzed in two phases; one concems the basic needs of tourists and the other concerns the attractiveness of travel destinations. In each phase, the motivational contents of tourists are investigated in several ways.
This paper was written to overvi邸 theempirical research on tourists basic needs, and to evaluate two theoretical models of tourist motivation: a travel career model based on Masi畑 'stheory and a six‑dimensional model foll叩 ing Katz's functional theory of attitudes. With reference to these research works, a conceptual framework of tourist motivation was proposed by the present writer.
Keywords: tourist behavior, tourist motivation, content theory of motivation, novelty, Maslow's model, travel career, functional approach to motivation.
抄 録
旅行者モチベーションは旅行者行動の心理学的研究の中心課題であるが,人々がそのエネルギーや 時間を旅行に向けるための発動因になる基礎的欲求の側面と,特定の目的地や旅行形態を選ぷ際の魅 カ(ベネフィット)認知の側面とに分けて論じることができる。この2側面は,旅行者の意思決定過 程の異なる段階で機能する要因と考えられるが,主たる研究的関心はそれぞれの特性内容(コンテン ト)の多面性の分析に向けられている。この論文では,旅行行動に関する基礎的欲求の特性内容に関 する実証的研究の現状を把握することを意図し,その特性内容の包括的構造に接近する多変量解析的 分析のいくつかの事例をふまえて,特に重視されている「新奇性(novelty)」の分析と測定尺度開発の 試みを検討する。さらに,旅行者モチペーションの一般的体系構成の意図を表している,マスロー理 論にもとづく旅行キャリア・モデルと,特性次元の機能論的分類枠組みの提唱に注目したうえで,筆 者により,より直接的に旅行者モチペーションに関連づけた概念的枠組みの試案が提示される。
キーワード:旅行者行動,旅行者モチベーション,動機のコンテント理論,新奇性,マスロー理論,
旅行キャリア,動機の機能論的分析.
この論文は、平成6年度在外研究(調査研究)の成果の一部を成すものです。筆者は平成7年1月‑3月にオ ーストラリアのJamesCook UniversityのDepartmentof Psychology and Sociologyに訪問研究員として滞 在しましたが、その間MikeSmithson博士の多大のご助力を得ながら「旅行現象の心理学的研究」について調 査・検討する機会をもつことができました。この論文は、その際に収集した資料をもとに執筆したものです。ご 支援いただきましたSmithson博士、および、こうした機会を与えていただきました関西大学ならびに関西大学 社会学部に謝意を表します。
1 旅 行 者 モ チ ベ ー シ ョ ン の 研 究 の 方 向
(1)旅行者モチペーションヘのアプローチの手がかり
旅行者行動 (touristbehavior)は,経済学,人類学,社会学など広い学問分野で関心を集め ている複合科学的な問題であるが,心理学的アプローチが貢献しうる可能性が特に大きいこと は言うまでもない。
そうした観点から,佐々木 (1996)は,旅行者行動に関する心理学的課題領域を整理し,当 面は,それらの課題領域のそれぞれでの知見を集約し体系的枠組みを構築することの必要性を 強調している (p.53ff.)。
この視点に立って,本稿では,旅行者モチベーション (touristmotivation [人が旅行者にな る場合の,また,旅行者として行動する場合の,動機づけ])に関する研究的知見を集約するこ とを意図している。
ところでPearce,P. L. (1982)によれば,旅行者モチベーションに関する文献は主に次の3 タイプに分けられる (p.54):
1. 旅行の理由を歴史的,マクロ社会学的に説明したもの(数世紀にわたり旅行の形態を追 跡し,その主要決定要因を展望する。)
2. 特定のマーケット・リサーチ的アプローチによるもの(特定の状況のなかでの旅行者の 動機の予測や識別を試みる。)
3. より一般的な心理学的アプローチによるもの(旅行者の動機に関する知見の統合を試み る。)
そしてPearceは,第一のタイプの文献研究によって,ローマ時代から現代までの旅行現象の 歴史を振り返ってみて明らかにされる旅行者モチベーションは,「健康」「教育」「精神的(宗教 的)価値」およぴ「自己の楽しみ (self‑indulgence)」という 4要因に整理されるとしているが,
同時に,こうした大きなスケールの歴史的総括よりも,現代心理学の視点に立った第二,第三 のタイプの文献のほうが,旅行者モチベーションの今日的な姿への直接的な接近に役立つとも 考えている (p.54‑8)。
しかし,第二のタイプの文献に関しては,若干の調査事例を紹介し,旅行の目的地(destina‑ tion)に関して人々が知覚している魅力 (perceivedattractiveness)やイメージのプロフィー ルを描くことに重点がおかれている一方で,旅行者にとっての旅行の意味やその内的欲求を明 らかにする点では不十分なものが多いと述べている。つまり,そうした調査研究には,モチベ ーションに関する基本的な分析枠組みが欠けていたり,旅行者モチベーションには生活満足を 達成するための複雑かつ自己決定度の高い個人的な意欲が凝縮されているという考え方がな い,という問題点を指摘している (p.58‑62)。
こうした認識から, Pearceは,旅行者モチペーションには,より緻密で,より理論的で,ょ り個人内部に踏み込んだアプローチがとられるべきだと考え,そうした方向を示唆するものと して, Dann,G. (1977)の社会学的研究と Crompton,J. (1979)の心理学的研究を例示してい る。
Dann (1977)は,旅行者モチベーションに関する歴史的文献研究が明らかにする概念に「逃 避 (escape)」があるとしたうえで,アノミー (anomie)と自我高揚 (ego‑enhancement)と いう二つの概念と関連づければ,この概念の理解がより促進されるという。アノミーに関して は,人々を旅行に駆り立てる要因として,現代のアノミー的社会 (anomicsociety)での日常 生活で体験する孤立感を乗り越えたいという欲求があると考える。アノミー的社会では,人々 は,他人から気に掛けられ,相互に緊密な結びつきがあり,情緒的に報われるコミュニティに 所属したいという強い欲求をもっているからである。他方,旅行をすることは人々に新しい社 会的立場を提供してくれ,社会的な力や承認を求める欲求を満たす一つの手段にすることがで きると見ている。この側面は自我高揚ということができるが, Dann(1977)は,これをアノミ ーの対極にあるものと考えている。つまり,旅行者モチベーションは一次元的な連続体として 描かれ,その一方の極に自我高揚的動機が,反対の極にアノミー的動機があるとされている。
こうして, Dann(1977)の旅行者モチベーションの研究は,生活のなかで人々が旅行行動を発 動する際の基礎的欲求(後述のようにpushfactorと呼ばれることが多く,旅行形態や目的地の 選択に関連するpullfactorと区別される。)を問題にしている (Pearce,1982. p.62‑64)。
Crompton (1979)も旅行行動を促す個人内要因を強調し,休暇や旅行の行動の最初の発動力 を説明するために社会心理学的要因を導入するが,同時に,それを,旅行者の目的地選択の分 析にも用いようとしている。つまり, Cromptonは,旅行の動機として, a)B常的環境からの 脱出, b) 自己探求と自己評価, C) リラックスすること, d)威光, e)回帰, f)血族関 係の強化, g)社会的相互作用の促進,という 7要因を示しているが,同時に,人々が旅行に 動機づけられるのは,こうした欲求を満たすのに目的地がどれほど適しているかによるとして,
目的地の質的内容(クオリティ)と旅行者モチベーションとの適合関係を重視している。人々 の欲求にどれほどフィットするかという視点で目的地をとらえるとすれば,その評価や分類の 基準も,目的地までの距離やその文化や気候などではなくて,自己探求や社会的相互作用など,
旅行者モチベーションの諸次元にあることになる。 (p.64‑65)
以上のDann(1977)とCrompton(1979)の研究はPearce(1982)からの引用である。 Pearce は,旅行者モチベーションの一般理論を構築するための条件として,モチベーションの自己決 定的,自律的,非決定論的な側面を強調する立場から,これらの研究を評価し,また限界も指 摘している。しかし Pearce自身は,現在提唱されているモチベーション理論には単独でそうし た条件に適うものはなく,旅行者モチベーションの説明に役立つ着想は, Maslow,A. H. の欲 求階層理論を基礎にして,それに帰属理論 (attributiontheory)と達成理論 (achievement
theory)からの種々の知見を連結した包括的な立場から生まれるという考えである (p.53,65)。
(2)旅行者モチペーションにおけるpushmotiveとpullmotive
ここまでPearce(1982)に依拠して記述してきたのは,旅行者モチベーションの理論構成の ための彼の方法論的視点を直接の検討課題にするためではなく,「旅行者モチベーション」には 一般に二つの側面が含まれていることを確認する必要があると考えたからである。一つはマー ケット・リサーチの検討課題になることが多いとされている「目的地の選択理由」の側面であ り,他方は研究的視点から取り組まれる課題としての「(個人内要因としての)基礎的欲求」と 呼んだ側面である。
この二側面は,旅行者行動に関する文献で,しばしばpullfactor (pull motive)とpushfactor (push motive)と区別されているモチベーション要因に対応する (vanHarssel, 1986. p.150 ; Hudman & Hawkins, 1989. p.37 ; Ryan, 1991. p.31 ; Witt & Wright, 1992. p.38)。
push factor (「発動要因」と訳す。)は,旅行をしたり休暇を過ごす行動をする際の甚礎的欲 求である心理的・内部的な要因(主に,社会心理的要因)であり,多くの生活行動のなかで特 に旅行という行動を発動させる機能を果たす。他方, pullfactor (「誘引要因」と訳す。)は,
具体的な目的地の選定を左右する自然・文化的要索や雰囲気や娯楽機会などの魅力要索 (attraction)で,どこへ,いっ,どんな形で旅行するかを決めるのに影響する。要するに,旅 行者モチベーションには2組の要因が含まれていると考えられる。これら2組の要因は,一般 に,旅行行動の意思決定過程で異なる段階に位置するものとされ,まずpushmotiveが先に働 いて「旅行する」ことが決まり,その後でpullmotiveが機能して「どこへ行くか」が選ばれる,
というのである。
ちなみにWitt& Wright (1992)は, Crompton (1979)の分析における上記の7要因はす べてpushmotive(s)であるとし, pullmotive(s)には「新奇性(珍しさ) (novelty)」と「変化
(change)」をあげている (p.39)。
(3)旅行者モチペーションの分類
a. 旅行行動を発動する基礎的モチペーション
旅行 (tourism)に関するテキストプックには,その多くで,人々を旅行に動機づける基礎的 欲求のリストが示されている。
たとえばRyan,C. (1991)は,上述のCrompton (1979)ら先達の研究成果を参考にしなが ら,深層的な心理的欲求 (deeppsychological needs)として次の11タイプの欲求をあげている
(p.25‑29) :
a. 逃避動機づけ (escapemotivation)…... B常的環境からの脱出を求める。
b. リラックスすること (relaxation)……自己回復を望む。(逃避動機づけにも多少関連す
る。)
C, 遊ぴ (play)……子ども時代を想起し.気がねなくその時代に自己を回帰させる。
d. 家族の絆の強化 (strengtheningfamily bonds)……夫婦間あるいは親子間の関係を強 める契機にする。
e. 威光 (prestige)……社会的な力や立場やライフスタイルを誇示しようとする。
f. 社会的相互作用 (socialinteraction)……日常的環境では会えない他人と経験を共有す る。
g̲性的機会 (sexualopportunity)……(社会的相互作用の一面)日常の制約を離れ自由な 性的活動を望む。
h. 教育的機会 (educationalopportunity)……新しいものや未経験のことを知ったり学ん だりする。
i. 自己充実 (self‑fulfilment)……自分のなかに新しいものを見出し(自己発見).自らを 変貌させる。
j̲願望充足 (wish‑fulfilment)……長い間はぐくんできた夢を実現したり.実現困難なこ とを疑似体験する。
k. ショッピング (shopping)……名産品.珍奇品,廉価品などを入手する。
またvanHarssel (1986)は.モチベーション要因の概括的分類を示す文献を引用して,領 域別分類と機能的分類とでも言える二つの見方からの区分を示している (p.152)。
領域別分類では, Mclntoch& Goldner (1984)による 4タイプのモチベータ(動機づけ要 因)をあげている:
a. 身体的モチペータ……休息.スポーツ参加.レクリエーション,娯楽,健康など。身体 的活動を通じて緊張を低滅させる。
b. 文化的モチベーダ…••他の地域・国の文化や宗教を知る。
C• 対人的モチベーダ…••新しい人との出会い,友人・親戚を訪問,家族・近隣での日常性 から脱出.など。
d. 地位と権威のモチペータ……認知・注目・理解・名声などを高め,自我欲求の充足や精 神的発達を求める。
さらに機能的分類では,Kosters (1981)が集約している 3分類を引用している:
a. 補償欲求……したいと思っていても普段はできないことをする• B常生活での仕事や家 庭のプレッシャーから逃れる. 日常にはない自由を経験する.スポーツ・ギャンプル・交 際などで新しいことを試みる.など。
b. 探求欲求……新しいことを経験したり学んだりする,新しい活動に参加する.変わった ものを収集する.見知らぬ人と交わる.新しい風習に触れる.など。
C, 地位承認欲求……(財貨の所有に代わり.余暇時間の使い方で)個人の成功や幸福を表
現する。
他方Hudman& Hawkins (1989)は,人間の基礎的欲求に関する理論である Maslow,A.
H. の欲求階層説を参考にして,旅行者モチベーションとして次の9タイプをあげ,それぞれの 主要側面を表1に示したように整理している (p.38‑42)。
a. 健康 (health)……心身の健康の回復.休養とリラックス(緊張解消),などのため。
b. 好奇心 (curiosity)……新しい経験を求めて他人や他の文化・社会を訪問する,有名人 や高級地へ興味をもつ,異なる政治的イデオロギーと出会う,自然の威力や驚異に接する,
などを目的にする。
c. スポーツ(sports)……スポーツ競技の観覧・参加を通して,現実逃避,他人との一体化,
幻想体験などを経験する。
d. 楽しみ(pleasure)……スリルや興奮を経験する, 日常性を離れた開放感をもつ,ライフ スタイルを拡張する,などを目的にする。
e. 精神的または宗教的(spiritualor religious)……自ら行脚する,宗教的会合に出席する,
宗教的メッカを訪れる,歴史的遺産を見る,宗教的芸術を楽しむ,など宗教的関与の違い を反映した種々の動機がある。
f. 専門的・職業的 (professionaland business)……研究調査旅行,会議出席.業務出張,
見学旅行,など。
g̲友達・親戚 (friendand relatives)……友達・親戚訪問,グループ旅行,など。
h. ルーツ探し (rootssyndrome)……母国・出身地・縁故地の訪問.家系調査の旅,など。
i . 自尊心 (esteem)……他人に強い印象を与える,他人を羨ましがらせる,箔をつける,
などを目的にする。
表1 Hudman & Hawkins (1989)のマスロー理論を参考にした旅行者モチベーションの 9タイプ
a. 健康 C. スポーツ d. 楽しみ f. 専門的・職業的
身体的 [参加] 旅行 研究調査旅行
精 神 的 狩猟、魚釣り 美 術 会議出席
b. 好 奇 心 ゴルフ、テニス 音楽 業務出張
文 化 チーム試合 催しもの 教育
政治 [観覧] ギャンプル g̲友達・親戚
社会、有名人 フットボール ハネムーン h. ルーツ探し 自然の驚異 野球 e. 精神的または宗教的 母国訪問
天災 陸上競技 巡礼(聖地詣で) 家系調べ
競馬 ムコA ロ i. 自尊心 メッカ訪問
遺跡
演劇、 ミュージカル
b. 魅力要素のリスト
目的地が提供する景観・施設内容,文化・社会的要索,娯楽・飲食サービスなどが旅行者を
引き寄せる条件になるが,これらの条件が誘引要因になるためには,旅行者がそれらを魅力と して認知することが前提であり,さらに,他の類似の目的地よりも強い魅力を認知することが 必要である。そうした魅力が,人々の旅行行動を特定の目的地に方向づけ惹きつける働きをし,
また人々も目的地にそうした魅力的要素(ペネフィット benefit)を期待するところから,モチ ペーション機能を果たすことになる。
旅行のテキストプックには,このような魅力要素(誘引要因)をリストアップしているもの が少なくない。
たとえば, Mill(1990) は,旅行目的地の成立要因として,太陽•海などの自然的環境要因(気 候,天候,季節性),風景(地形,水,植物),狩猟・魚釣り,温泉・ 健康リゾート,都市的魅 カ(建造物,飲食物,芸術・宗教活動,市民生活など複合的),地方的魅力(自然条件,歴史的 背景,地域生活など複合的),スポーツ・イベント,開発的魅力(計画的娯楽・文化施設,気候)
などをあげているが(p.54ff.),これらは,取りも直さず,旅行者からみれば魅力要索になる。
より包括的な分類がHudman& Hawkins (1989)によって示されている (p.62‑66)。 a. 建造物とその環境……古代文明から現代社会にいたる建造物や工芸作品。初期産業活動
の跡,歴史的な出来事や人物の記念,博物館,民俗的風習の保存,政治的建造物,宗教的 建造物,現代建築,工場見学,再開発地域,ショッピング・センターなど。
b. 文化的活動……文化的な伝統風習。祝祭,芸術的行事・展示,手芸品,音楽と舞踊,住 民生活と風習,言語,など。
c. 宗教……伝統的あるいは非伝統的な宗教集団。
d. 政治……政治過程の成立の仕方,異なる政治システム,など。
e. 科学……科学的最新技術,科学的足跡,など。
f. 自然……道,池,牧場,山,岩,海,丘,川,太陽,など。
g̲気候……暑さや寒さの気候それ自体,健康への効果,など。
h. 風景……地形(山岳,渓谷,火山,珊瑚礁,平原,など)。水(海洋,湖,河川,滝,な ど)。植物(温帯森林,熱帯ジャングル,荒野,砂漠,紅葉・落葉,など)。
i. 野生生活……動物観察(野生動物,動物保護地域,動物園・水族館,など)。狩猟と魚釣 り。
L屋外レクリエーションとスポーツ……スポーツ(観覧,参加)。各種野外活動,動植物の 生態。オリンピック,各種選手権試合。
k. 娯楽……テーマ・パーク。映画館,劇場。ナイトライフ。食べ物。ギャンプル。世界博 覧会・見本市。
1. 健康と温泉……保養,療養。
(4)コンテント理論とブロセス理論
このように旅行者モチベーションの内容 (content)に注目し体系的に分類する視点は「コン テント理論 (contenttheory)」と呼びうるが.この理論では.行動の基礎にあるモチペーショ ンの性質は分かっても.それがどんな行動を導くのかについてはごく一般的なことしか言えな いので.行動におよぽすモチペーションの機能を知るためには.その「内容」だけでは十分で ないという批判もある。そこで.特定の対象の選択につながるモチベーションの過程(process) に注目し.行動の方向を予測しようとする「プロセス理論 (processtheory)」が提唱されてい る。このプロセス理論のなかでは.産業心理学的な課題である職務選好や職業選択でのモチベ ーションの理論としてVroom,V. H. (1964)の「期待理論 (expectancytheory)」がよく知
られている。
ヴルーム理論は.対象がその人の欲求を満たす手段としてどれほど有効か(誘意性.つまり.
対象の魅力)を認知することと,誘意性の高い(魅力ある)対象に向けて行動することによっ て欲求満足が実現する見込みはどれほどかという「期待(expectation)」をもつこと.という二 つの機能にもとづいて対象に対する行動のモチベーションが強さがきまってくるというもので ある。理論を構成する概念は操作的(数量的)にとらえられ.複数の対象に対するモチペーシ ョンの強さも数量的モデルにもとづいて測定されるために.合理的な比較・選択につながるモ チベーション理論として注目されている。
この期待理論は.旅行者モチベーションにおける「目的地の比較・ 選好」の段階にもっとも よく適用することができる。これを図式化したモデルを,Witt & Wright (1992)は.図1の ように描いている:
r‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑,‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑:
基礎的欲求
休暇目的地の特徴 についての知識
制約条件
(例:他人の影響、
費用etc.)
休暇の諸属性の魅力
魅力属性の提供に関する 種々の影響の道具性
考慮対象になっている 休暇をとることが できるかどうかの期待
:
‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑図1 Witt & Wright 0992)による休暇の選好に関する期待理論的モデル
I I I
'
I
このモデルは.どの形態の旅行をすることが基礎的欲求の充足に結びつくか.という評価・
比較にも適用できる。ただし.その適用の前提として.目的地や旅行形態が旅行者欲求を満た
すために役立ちうる側面を,基礎的欲求の次元,あるいは,目的地の魅力属性で(つまり push factor, pull factorとして)示すことが必要である。また,実際の利用では,測定上の煩雑さ
は避けられず,また,結果として得られる情報が,あらかじめ設定したモチベーション内容の 範囲内での対象間比較にとどまるという制約もある。
(5)本稿で取り扱う旅行者モチベーション:旅行に関する基礎的欲求の特性内容
一般に,モチベーションは動因と誘因が相互に作用しあって生じる心理的状態を指している が,その相互作用状態をとらえるためには,動因(人間)に着目する視点と誘因(剌激)に着 目する視点があって,それらが相互に関連づけられることになる。旅行者モチベーションをと らえる場合にも,旅行者(人間)の「基礎的欲求」と,その欲求の充足に結ぴつく「旅行のベ ネフィット」(旅行そのものに,あるいは,旅行目的地や旅行形態から,認知される誘引的魅力)
という二つの側面を問題にすることが必要である。そして,時には,そうした基礎的欲求が生 まれる生活的背景や,誘引的魅力が生み出される環境的条件を問題にすることも必要になる。
こうした問題の広がりを意識しながらも,本稿では,主に,「旅行行動に関する基礎的欲求」
の側面に限って旅行者モチベーションを取りあげることにする。しかし「旅行のベネフィット」
は,「基礎的欲求」(あるいは,そこから派生した二次的欲求)の充足に結ぴつく魅力的要索を 指しているので,自ずから,次に取り組まなければならない問題になる。
ところで,旅行者の甚礎的欲求が問題にされるとき,現状では,その特性内容(コンテント)
の分析に主たる努力が注がれている。そこで,本稿でも,旅行者モチベーションのコンテント 分析という立場から,三つの課題にアプローチしたいと考えている。第一は,そのコンテント の包括的分析であり,結果的に,旅行者モチベーションの多様性に触れることになろう。第二 に,旅行者モチベーションの多様なコンテントのなかで,歴史的にも,実証分析的にも, もっ とも注目されている特性に「新奇性 (novelty)」(あるいは,珍しさ)があるので,この特性に 関するいくつかの分析事例を検討したい。個人特性(パーソナリティ特性)としての機能に焦 点を当てることになる。第三に,多様な旅行者モチベーションを統合的に理解するための一般 的体系を構成する試みについて,現状理解を深めたい。この旅行者モチベーションの体系化の 努力は,個別的・ 具体的な分析と同時並行的に進められることが必要で,そのなかで旅行者モ チベーションの統合理論への展開が成り立つことを期待できるであろう。
2 旅 行 者 モ チ ベ ー シ ョ ン の 包 括 的 内 容 の 実 証 分 析
(1)調査によるモチペーション特性の測定
旅行に関する意見調査や態度調査で旅行の理由や動機について質問が行われるのはごく一般 的なことであるが,そうした質問項目には,比較的包括的なモチベーションを表すものもあれ
ば,かなり具体的な目的を表すものもある。
たとえばGuinn(1980)は, R V車 (recreationalvehicleレジャー用多目的車)を利用して 旅行中の高齢者 (50歳以上で,ほとんどが退職者)のレジャー活動のモチベーションをとらえ るために,次の9項目について,レジャー参加の理由としてどの程度重要かを尋ねている。( ) 内は「重要」という回答率(%),N=1089。
a. f木養したりリラックスすること (88.9)
b. 友達や家族に会ったり,一緒に過ごす機会をつくること (87.4)
C. 身体の運動をすること (81.9) d. 自己学習の機会をもつこと (80.7)
e 自己充実感や達成感を経験すること (80.7) f. 自然への親近感をもつこと (69.1)
g̲興奮すること (67.1)
h. すばらしい記憶をつくること (65.3) i. 自分を雑踏から離れさせること (51.4%)
またKrippendorf(1987)は「1986年に行った休暇旅行の主な理由は何でしたか」という質問 に対する回答として次の29項目を用意している [Witt& Wright, 1992から引用]: ( )内 は回答率(%)。
1. 心機一転, リラックスする (66)
2. 日常生活から離れる,場面を変える (59) 3. f本力を回復する (49)
4. 自然を経験する (47)
5. 他人のために時間を過ごす (42)
6. 日光を浴ぴる,悪い気候から脱出する (39) 7. 他の人々と一緒に過ごす,仲間になる (37) 8. おいしいものを食べる (36)
9. いろいろな娯楽をする,楽しむ,よい時間を過ごす (35) 10. 自分の好きなことをする,自由になる (35)
11. いろいろ経験する,多くの変化を経験する (33) 12. まったく違った経験をする,新しいものを見る (33) 13. きれいな空気や水を求め,汚れた環境から抜け出る (32) 14. 運動する,軽いスポーツやゲーム活動をする (30) 15. 外国を経験する,世界を見る (30)
16. 十分に休養する,何もしない,力を出さない (29) 17. 飲み食いにふける,楽しむ (26)