白梅学 園大 学大 学院 子ど も 学 研 究 科 博士 課程 2014年度学 位論 文
多重知 能理 論を 踏ま えた中 学生 の特 性と 英語語 彙学 習方 略の 関係
主査: 無藤 隆
副査:佐 久間 路 子( 指導教 員)
副査: 小林 美 由紀 副査: 白川 圭 子
BOH001 阿久津 仁史
多重知 能理 論を 踏ま えた中 学生 の特 性と 英語語 彙学 習方 略の 関係
BOH001 阿 久 津 仁 史
主 査 : 無 藤 隆 副 査 : 佐 久 間 路 子 ・ 小 林 美 由 紀 ・ 白 川 圭 子
第 一 部 問 題 と 目 的 ( 第 Ⅰ 章 ~ 第 Ⅲ 章 ) 第 Ⅰ 章 多 重 知 能 理 論 の 教 育 現 場 へ の 応 用
Gardner(1999)が 提 唱 し た 多 重 知 能 理 論( 以 下 MI 理 論 )で は 、人 間 の 知 能 特 性 を(1)言 語 的 知 能 (2)論 理・数 学 的 知 能 (3)音 楽 的 知 能 (4)空 間 的 知 能 (5)身 体・運 動 的 知 能 (6)対 人 的 知 能 (7)内 省 的 知 能 (8)博 物 的 知 能 の 8 つ に 分 類 し て い る 。 学 習 者 の 実 態 に 即 し た 教 授 方 法 が 十 分 に な さ れ て い る と は 言 え な い 現 状 に 対 す る 対 策 と し て 、学 習 者 の ア セ ス メ ン ト の 一 助 と な る と 考 え ら れ る MI理 論 を 概 観 し 、 教 育 現 場 に い か に 応 用 す る か を 探 っ た 。
第 Ⅱ 章 英 語 教 授 法 に 対 す る 多 重 知 能 理 論 か ら の 考 察
日 本 の 英 語 教 育 は 第 二 言 語 教 育 で は な く 外 国 語 教 育 で あ る に も か か わ ら ず 、多 く の 教 育 現 場 で 、欧 米 の 第 二 言 語 教 育 を そ の ま ま 取 り 入 れ て き た 。浦 上(2000)の
「 日 本 人 の 日 本 人 に よ る 英 語 教 授 法 を 考 え る べ き 」と い う 論 の 具 現 化 の た め に も 、 Dornyei & Skehan(2003)に よ る 4 つ の 分 類 で あ る 、① 適 性 、② 学 習 ス タ イ ル 、
③ 学 習 方 略 、 ④ 動 機 、 に 加 え 、MI 理 論 と の 関 係 が 深 い と 考 え ら れ る 知 的 能 力 を 取 り 上 げ 検 討 し た 。
第 Ⅲ 章 英 語 学 習 に お け る 多 重 知 能 理 論 と 学 習 方 略 の 関 係
山 崎 (2005) は 、 学 習 ス タ イ ル と 学 習 方 略 の 違 い を 、 前 者 は 生 得 的 な 内 的 要 因 で 、 後 者 は 学 習 者 に 伝 授 で き る 外 的 要 因 で あ る と し て い る 。 そ こ で 、 よ り 学 習 者 の 実 態 に 即 し た 効 果 的 な 英 語 学 習 の た め に 、 日 本 の 英 語 学 習 に お け る 学 習 方 略 と 語 彙 学 習 方 略 を 概 観 し た 。 し か し 、 ど の 学 習 方 略 が ど の よ う な 学 習 者 に 対 し て 有 効 で あ る か 、 も し く は 、 有 効 で は な い か 、 に 関 す る 先 行 研 究 は ほ と ん ど 見 当 た ら な か っ た 。 そ こ で 、MI 理 論 に 基 づ く 学 習 者 の 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 の 関 係 を 明 ら か に す る 先 行 研 究 を 探 っ た 。
第 Ⅳ 章 本 研 究 の 目 的 と 構 成
第 二 部 多 重 知 能 理 論 を 踏 ま え た 中 学 生 の 特 性 と 英 語 語 彙 学 習 方 略 の と の 関 連 の 検 討 ( 第 Ⅴ 章 ~ 第 Ⅹ 章 )
第 Ⅴ 章 学 習 者 の 特 性 を 測 る 質 問 紙 の 妥 当 性 と 信 頼 性 の 検 討 ( 研 究 1 )
Christison(2005)と Armstrong(2000)の 質 問 紙 を 組 み 合 わ せ 、 中 学 生 の 特 性 を 測 る 質 問 紙 の 信 頼 性 と 妥 当 性 を 検 証 し た 。 東 京 都 の 5 つ の 公 立 中 学 校 の 生 徒 634 名( 男 子 292名 、女 子 342 名 )を 対 象 に そ の 質 問 紙 を 用 い て 学 習 者 の 特 性 を 測 定 し た 。 主 因 子 法 プ ロ マ ッ ク ス 回 転 を 用 い て 因 子 分 析 を 行 い 、 8 因 子 を 確 認 し た 。 質 問 紙 の 妥 当 性 を 確 認 す る た め に 、 共 分 散 構 造 分 析 を 行 い た 確 認 的 因 子 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 モ デ ル の 適 合 度 は 、GFI=.896、AGFI=.874、CFI=.750、RMSEA
=.053で あ り 、 十 分 な 妥 当 性 が 確 認 さ れ た 。 次 に 、 因 子 ご と の 信 頼 性 を 確 認 す る た め に α 係 数 を 算 出 し た と こ ろ 、言 語 的 知 能 は α=.71、論 理 数 学 的 知 能 は α=.80、
空 間 的 知 能 は α=.79、身 体 運 動 的 知 能 は α=.65、音 楽 的 知 能 は α=.86、対 人 的 知 能 は α=.68、内 省 的 知 能 は α=.74、博 物 的 知 能 は α=.79、と い う 結 果 で あ り 、十 分 な 信 頼 性 が 確 認 さ れ た 。 こ の モ デ ル に 沿 っ て 知 能 特 性 ご と の 質 問 項 目 を 確 定 し た が 、 各 知 能 特 性 の 質 問 項 目 を 細 か く 検 討 し た 場 合 、 知 能 特 性 と い う 言 葉 が 当 て は ま ら な い 項 目 も あ っ た 。 そ の た め 、 研 究 2 以 降 で は 、 学 習 者 の 特 性 と い う 言 葉 を 用 い る こ と に し た 。
第 Ⅵ 章 英 語 学 習 法 に 対 す る 意 欲 と 学 習 者 の 特 性 と の 関 連 の 検 討 ( 研 究 2 ) ま ず 、先 行 研 究 を 参 考 に 、従 来 の 英 語 学 習 法 を 学 習 者 の 特 性 に よ っ て 分 類 し た 。 そ れ を 踏 ま え て 、英 語 学 習 法 に 対 す る 学 習 者 の 特 性 の 影 響 を 検 討 し た 。そ の 結 果 、 自 ら が 取 り 組 ん だ こ と の あ る 英 語 学 習 法 に 再 び 取 り 組 み た い か ど う か と い う 意 欲 に は 、 学 習 者 の 特 性 に よ っ て 差 が あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 例 え ば 、 博 物 的 特 性 は 、 全 て の 英 語 学 習 法 と 中 程 度 以 上 の 相 関 が あ っ た が 、 論 理 数 学 的 特 性 と 中 程 度 の 相 関 が あ る 学 習 法 は 音 読(r=.35** p<.01)と 五 文 型 へ の 分 類(r=.40** p<.01) の み で あ っ た 。 ま た 、 事 前 に 学 習 者 の 特 性 に 応 じ て 分 類 し た 英 語 学 習 法 と 学 習 者 の 特 性 と が 一 致 し た も の も あ れ ば 、 一 致 し な か っ た も の も あ る 。 例 え ば 、 音 楽 特 性 能 を 活 か し た 英 語 学 習 法 と し て 分 類 し た 英 語 の 歌 と 音 読 で あ る が 、 英 語 の 歌 は 中 程 度 の 相 関 が 見 ら れ (r=.54** p<.01)、 音 読 も 他 の 全 て の 学 習 者 の 特 性 と の 相 関 は 有 意 差 が な か っ た が 、 音 楽 的 特 性 の み 有 意 差 が 表 れ た (r=.31* p<.05) こ と か ら も 分 か る よ う に 分 類 も 正 し く 行 わ れ た と 言 え る だ ろ う 。 そ の 一 方 で 、 対 人 的 特 性 を 活 か し た 英 語 学 習 法 と し て 分 類 し た Jeopardy( 班 対 抗 のGuessing game)
と ス キ ッ ト( ペ ア の 寸 劇 )で あ る が 、対 人 的 特 性 と 相 関 が 高 か っ た の は 、Jeopardy の み で あ っ た(r=.52** p<.01))。し か し 、「博 物 的 特 性 」は ど の 英 語 学 習 法 と の 相 関 が 強 く 、 逆 に 「空 間 的 特 性 」は ど の 英 語 学 習 法 と の 相 関 も 低 か っ た た め 、 そ の 二 つ の 特 性 を 除 い て 、 英 語 学 習 法 を 目 的 変 数 、 特 性 を 説 明 変 数 と す る 強 制 投 入 法 に よ る 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、「 ス ピ ー チ 」は「 言 語 的 特 性 」と プ ラ ス の 関 係 が あ り ( β=.320)、 「手 紙 を 読 む 」は 「言 語 的 特 性 」と 「内 省 特 性 」と プ ラ ス の 関 係
が あ り( そ れ ぞ れ 、β=.396、β=.248)、「物 語 を 読 む 」も 「言 語 的 特 性 」と プ ラ ス の 関 係 が あ っ た( β=.310)。「 カ ル タ 」は「 音 楽 的 特 性 」と プ ラ ス の 関 係 が あ り( β
=.410)。「 英 語 の 歌 」は「 音 楽 的 特 性 」と は プ ラ ス の 関 係 が あ っ た( β=.398)。「CD の 後 に 続 け る 音 読 」も「 音 楽 的 特 性 」と プ ラ ス の 関 係 が あ り(R=.322)、「Jeopardy」 は「 身 体 運 動 的 特 性 」と プ ラ ス の 関 係 が あ っ た( β=.395)。「 ス キ ッ ト 」は「 言 語 的 特 性 」と「 音 楽 的 特 性 」と プ ラ ス の 関 係 が あ り( そ れ ぞ れ 、β=.304、β=.354)、
「 原 稿 作 り 」 は 「 言 語 的 特 性 」 や 「 音 楽 的 特 性 」 と プ ラ ス の 関 係 が あ り ( そ れ ぞ れ 、 β=.278、 β=.312)、「 五 文 型 の 分 類 」 は 「 数 学 的 特 性 」 プ ラ ス の 関 係 が あ っ た ( β=.367)。
第 Ⅶ 章 語 彙 学 習 法 と 学 習 者 の 特 性 と の 関 連 の 検 討 ( 研 究 3 )
6 回 の 授 業 の 最 初 に 6 種 類 の 語 彙 学 習 法 を 1 回 ず つ 取 り 入 れ 、 各 授 業 の 最 後 に 意 味 を 確 認 す る 10 問 の 語 彙 テ ス ト を 行 い 、 定 着 率 を 確 認 し 、 学 習 者 の 特 性 と の 関 係 を 検 討 す る 実 験 授 業 を 行 っ た 。 特 性 と 語 彙 テ ス ト の 結 果 の 相 関 を 取 り 、 各 特 性 と 語 彙 指 導 の 方 法 に よ る 差 を 考 察 し た 。 そ の 結 果 、 特 性 に よ っ て 、 定 着 率 が 高 い 語 彙 学 習 法 と 低 い 語 彙 学 習 法 が あ る こ と が 分 か っ た 。 例 え ば 、 辞 書 引 き 競 争 を 行 っ た 後 の テ ス ト の 結 果 は 、 言 語 的 特 性 が 高 い 学 習 者 と 音 楽 的 特 性 が 高 い 学 習 者 の 結 果 が 良 か っ た 。 次 に 、 ペ ア で 問 題 を 出 し 合 っ た 後 に 行 っ た 語 彙 テ ス ト で は 、 言 語 的 特 性 や 論 理 数 学 的 特 性 、 音 楽 的 特 性 が 高 い 学 習 者 に 効 果 が あ っ た が 、 対 人 的 特 性 が 高 い 学 習 者 に は 効 果 が 見 ら れ な か っ た 。 ま た 、 絵 を 見 て 意 味 を 類 推 さ せ る 指 導 は 言 語 的 特 性 や 論 理 数 学 的 特 性 、 身 体 運 動 的 特 性 が 高 い 学 習 者 に は 効 果 が あ っ た が 、 空 間 的 特 性 が 高 い 学 習 者 に は 効 果 が 見 ら れ な か っ た 、 し か し 、 ま た 、 接 頭 辞 や 接 尾 辞 の 解 説 に よ っ て 語 彙 指 導 を 進 め た 場 合 、 言 語 的 特 性 が 高 い 学 習 者 と 論 理 数 学 的 特 性 が 高 い 学 習 者 に 加 え て 、 内 省 的 特 性 が 高 い 学 習 者 の 結 果 も 高 い こ と が 分 か っ た 。 ま た 、 様 々 な 発 音 練 習 を し て か ら 語 彙 テ ス ト を 行 っ た 場 合 は 、 言 語 的 特 性 が 高 い 学 習 者 も 論 理 数 学 的 特 性 が 高 い 学 習 者 も 良 い 結 果 を 得 ら れ て い な か っ た 。 そ の 一 方 、 有 意 で は な い が 、 身 体 運 動 的 特 性 や 音 楽 的 特 性 が 高 い 学 習 者 の 方 が 、 様 々 な 発 音 練 習 を し て か ら 行 っ た 語 彙 テ ス ト の 得 点 が 高 い こ と が 分 か っ た 。 最 後 に 、 意 味 と 英 語 を 何 度 も 書 か せ た 後 に 行 っ た 語 彙 テ ス ト は 、 言 語 的 特 性 や 論 理 数 学 的 特 性 、 音 楽 的 特 性 が 高 い 学 習 者 が 良 い 結 果 を お さ め た 。 以 上 の こ と か ら 、学 習 者 の 特 性 を 考 慮 し て 語 彙 指 導 を 行 う こ と の 必 要 性 が 明 ら か に な っ た 。
第 Ⅷ 章 中 学 生 の 英 語 語 彙 学 習 方 略 を 測 る 質 問 紙 の 検 討 ( 研 究 4 )
平 野 ほ か(2001)の 語 彙 学 習 方 略 質 問 紙 を 時 代 に 合 わ せ て 再 検 討 す る た め に 因 子 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 6 つ の 因 子 が 抽 出 さ れ 、 そ れ ぞ れ を 、 ① イ メ ー ジ 化 ・ 関
連 づ け 因 子 、② 繰 り 返 し 作 業 因 子 、③ 単 語 分 類 重 視 因 子 、④ 単 語 カ ー ド 活 用 因 子 、
⑤ 文 脈 重 視 因 子 、 ⑥ 語 彙 使 用 因 子 、 と 命 名 し た 。 そ し て 、 そ の 因 子 ご と の 信 頼 性 を 検 討 し た と こ ろ 、 各 因 子 の α 係 数 は 、 イ メ ー ジ 化 ・ 関 連 づ け 因 子 :α=.88、 繰 り 返 し 作 業 因 子:α=.82、単 語 分 類 重 視 因 子:α=.83、単 語 カ ー ド 活 用 因 子:α=.79、
文 脈 重 視 因 子 :α=.80、 語 彙 使 用 因 子 :α=.84、 で あ り 、 質 問 紙 と し て の 十 分 な 信 頼 性 が 確 認 さ れ た と 言 え よ う 。 ま た 、 分 散 分 析 を 用 い て そ の 語 彙 学 習 方 略 を 男 女 差 と 学 年 差 の 点 か ら 検 討 し た 。ま ず 、「 イ メ ー ジ 化・関 連 づ け 」は 、性 別 の 主 効 果 が 有 意 で あ り 、男 子 よ り も 女 子 の 方 が 高 い 数 値 を 示 し(F(1, 630)=5.88, p<.05)、
2 年 生 の 女 子 よ り 。 も 3 年 生 の 女 子 の 方 が 5 % 水 準 で 高 い 数 値 を 示 し た 。 次 に 、
「 繰 り 返 し 作 業 」 に お い て は 、 性 別 と 学 年 の 両 方 の 主 効 果 が 有 意 で あ り 、 男 子 よ り も 女 子 の 方 が 高 い 数 値 を 示 し(F(1, 630)=26.61, p<.001)、2 年 生 よ り も 3 年 生 の 方 が 高 い 数 値 を 示 し た(F(1, 630)=5.08, p<.05)。ま た 、2 年 生 の 女 子 よ り も 3 年 生 の 女 子 の 方 が 5 % 水 準 で 高 い 数 値 を 示 し た 。最 後 に 、「 単 語 カ ー ド 活 用 」に お い て も 性 別 と 学 年 の 両 方 の 主 効 果 が 有 意 で あ り 、 男 子 よ り も 女 子 の 方 が 高 い 数 値 を 示 し(F(1, 630)=18.47, p<.001)、2 年 生 よ り も 3 年 生 の 方 が 高 い 数 値 を 示 し た
(F(1, 630)=8.07, p<.05)。ま た 、2 年 生 の 女 子 と 3 年 生 の 女 子 で は 5 % 水 準 で 3 年 生 の 女 子 の 方 が 高 か っ た 。
第 Ⅸ 章 語 彙 学 習 方 略 と 学 習 者 の 特 性 と の 関 連 の 検 討 ( 研 究 5 )
8 つ の 特 性 と 6 つ の 語 彙 学 習 方 略 の 関 係 を 探 る た め に 両 者 の 相 関 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 い く つ か の 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 の 関 係 が 明 ら か に な っ た 。 し か し 、 相 関 だ け で は 、 そ れ ぞ れ の 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 の 関 係 が 個 々 に 検 討 さ れ て い る に 過 ぎ な い た め 、 語 彙 学 習 方 略 ご と に 検 討 す る た め に 、 語 彙 学 習 方 略 を 目 的 変 数 、 特 性 を 説 明 変 数 と す る 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。 相 関 分 析 の 結 果 、 あ る 程 度 の 相 関 が あ る 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 が 明 ら か に な っ た 。 し か し 、 相 関 だ け で は 、 そ れ ぞ れ の 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 の 関 係 が 別 々 に 検 討 さ れ て い る に 過 ぎ な い た め 、 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 の 関 係 を 語 彙 学 習 方 略 ご と に 検 討 す る た め に 、 語 彙 学 習 方 略 を 目 的 変 数 、 特 性 を 説 明 変 数 と す る 強 制 投 入 法 に よ る 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、「 イ メ ー ジ 化 ・ 関 連 付 け 」 の 語 彙 学 習 方 略 は 、「 言 語 的 特 性 」「 空 間 的 特 性 」「 内 省 的 特 性 」
「 博 物 的 特 性 」と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ り( そ れ ぞ れ 、.149、.144、.161、.187)、
「 対 人 的 特 性 」と は 弱 い マ イ ナ ス の 関 係 が あ っ た(-.229)。「 繰 り 返 し 作 業 」の 語 彙 学 習 方 略 は 、「 言 語 的 特 性 」と「 音 楽 的 特 性 」と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ っ た( そ れ ぞ れ 、.160、.302)。「 単 語 分 類 重 視 」 の 語 彙 学 習 方 略 は 、「 言 語 的 特 性 」「 数 学 的 特 性 」 と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ っ た ( そ れ ぞ れ 、.199、.128)。「 単 語 カ ー ド 活 用 」の 語 彙 学 習 方 略 は 、「 内 省 的 特 性 」と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ っ た(.259)。
「 文 脈 重 視 」 の 語 彙 学 習 方 略 は 、「 言 語 的 特 性 」「 数 学 的 特 性 」「 内 省 的 特 性 」「 博 物 的 特 性 」 と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ り ( そ れ ぞ れ 、.230、.156、.122、.107)、
そ れ 以 外 の 特 性 と の 関 係 は 有 意 で は な か っ た 。「 語 彙 使 用 」の 語 彙 学 習 方 略 は 、「 言 語 的 特 性 」「 音 楽 的 特 性 」「 内 省 的 特 性 」 と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ っ た ( そ れ ぞ れ 、.197、.105、.182)。 以 上 の 結 果 、 語 彙 学 習 方 略 に 対 す る 特 性 の 影 響 が い く つ か 明 ら か に な っ た 。
第 Ⅹ 章 語 彙 学 習 方 略 に も と づ く 指 導 方 法 と 学 習 者 の 特 性 と の 関 連 の 検 討 ( 研 究 6 )
中 学 生 の 語 彙 学 習 方 略 は 高 校 生 に 比 べ て 頻 度 も 種 類 も 少 な く 、 経 験 の な い 語 彙 学 習 方 略 の 中 に も 、 実 際 に 取 り 組 ん で み る と 効 果 が あ る 語 彙 学 習 方 略 も あ る 可 能 性 も あ る 。 そ こ で 、 6 つ の 語 彙 学 習 方 略 の 中 の 代 表 的 な 方 略 を 実 験 的 に 行 い 、 そ の 効 果 と 取 り 組 ん だ 方 略 に 対 す る 意 欲 と 特 性 の 関 係 を 探 っ た 。 そ の た め に 、 学 習 者 の 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 の 相 関 を 取 っ た 結 果 、 い く つ か の 特 性 と 語 彙 テ ス ト 結 果 や ま た 取 り 組 み た い と い う 意 欲 と の 間 に 相 関 が 見 ら れ た 。 し か し 、 空 間 的 特 性 と 博 物 的 特 性 は 、 他 の 特 性 に 比 べ て 関 係 が 低 か っ た 。 そ の た め 、 そ の 二 つ の 特 性 を 除 い て 、 重 回 帰 分 析 の 結 果 、 空 間 的 特 性 が 高 い 学 習 者 は 、 ど の 語 彙 学 習 法 と の 関 連 が 低 か っ た 。 そ こ で 、 空 間 的 特 性 と 博 物 的 特 性 を 除 い て 、 特 性 と 英 語 学 習 法 の 関 係 を 英 語 学 習 法 ご と に 検 討 す る た め に 、 語 彙 テ ス ト の 結 果 や ま た 取 り 組 ん で み た い と い う 意 欲 を 目 的 変 数 、 特 性 を 説 明 変 数 と す る 強 制 投 入 法 に よ る 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。
ま ず 、語 彙 テ ス ト の 結 果 だ が 、「 イ メ ー ジ 化・関 連 付 け 」は 、「 論 理 数 学 的 特 性 」 と 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ り(.350)、「 繰 り 返 し 作 業 」も 、「 論 理 数 学 的 特 性 」と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ り(.292)、「 単 語 分 類 重 視 」は 、「 言 語 的 特 性 」と「 対 人 的 特 性 」 と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ り ( そ れ ぞ れ 、.384、.336)、。「 文 脈 重 視 」 は 、
「 言 語 的 特 性 」 と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ り (.366)、「 単 語 カ ー ド 活 用 」 と 「 語 彙 使 用 」 は 、 い ず れ の 特 性 と も 有 意 な 関 係 は な か っ た 。
次 に 、語 彙 学 習 法 に 対 す る 意 欲 だ が 、「 イ メ ー ジ 化・関 連 付 け 」は「 論 理 数 学 的 特 性 」 と の プ ラ ス の 関 係 が あ り (.312)、「 繰 り 返 し 作 業 」 は 、「 身 体 運 動 的 特 性 」 と プ ラ ス の 関 係 が あ り (.364)、「 単 語 カ ー ド 活 用 」 は ど の 特 性 と の 関 係 も 有 意 で は な か っ た 。「 単 語 分 類 重 視 」は 、「 論 理 数 学 的 特 性 」と の プ ラ ス の 関 係 が あ り(.307)、
「 文 脈 重 視 」は 、「 言 語 的 特 性 」と の プ ラ ス の 関 係 が あ り(.335)、「 語 彙 使 用 」は 、
「 言 語 的 特 性 」 と の 弱 い プ ラ ス の 関 係 が あ っ た (.307)。
第 三 部 研 究 の 総 括
第 XI 章 結 論
本 研 究 で は 、Gardner(1999) の MI 理 論 を 背 景 と し た 学 習 者 の 特 性 と 語 彙 学 習 方 略 の 関 係 を 明 ら か に し よ う と し た 。 そ の た め に 、 ま ず 、 学 習 者 の 特 性 を 明 ら か に し た 上 で 、 そ の 学 習 者 に 合 っ た 語 彙 学 習 法 を さ ぐ る た め に 、 特 性 を 把 握 す る 質 問 紙 と 語 彙 学 習 方 略 を 把 握 す る 質 問 紙 の 妥 当 性 と 信 頼 性 を 検 討 し た 。そ の 結 果 、 あ る 程 度 の 妥 当 性 と 信 頼 性 が 確 認 で き た 。 そ こ で 、 さ ら に 両 者 の 関 係 を 検 討 し た 上 で 、 実 験 授 業 を 通 し て 、 そ の 関 係 を 再 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 学 習 者 の 特 性 に よ っ て 好 む 語 彙 学 習 法 と 好 ま な い 語 彙 学 習 法 や 、 学 習 者 の あ る 特 定 の 特 性 が 高 い 学 習 者 が テ ス ト で 良 い 結 果 を お さ め る 語 彙 学 習 法 が あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 つ ま り 、 本 研 究 は 、 教 師 が 直 感 的 、 も し く は 、 経 験 的 に 効 果 が あ る と 考 え て き た 指 導 法 か ら 、 心 理 学 的 な 根 拠 を 踏 ま え た 実 証 的 な 指 導 法 へ の 第 一 歩 と 言 え る で あ ろ う 。 対 象 生 徒 に よ っ て 指 導 法 を 変 え て い る 教 師 も 多 い で あ ろ う が 、 そ の 根 拠 を よ り 一 般 化 で き れ ば 、 各 教 師 が 採 用 し て い る 英 語 指 導 法 の 効 果 の 保 障 に も つ な が る 可 能 性 が あ る た め で あ る 。 今 後 は 、 よ り 多 様 な 語 彙 学 習 法 を よ り 多 様 な 学 習 者 に 対 し て 処 遇 し て い く こ と に よ り 、 本 研 究 の 結 果 を 補 完 し て い く こ と が 必 要 と な る で あ ろ う 。
目次
第一部 問題と目的 ... 6
第Ⅰ章 多重知能理論の教育現場への応用 ... 7
1.1 問題と目的 ... 8
1.1.1 学力低下の要因 ... 8
1.1.2 知能の構成概念 ... 8
1.1.3 本論の目的 ... 9
1.2 多重知能理論 ...10
1.2.1 多重知能理論 ...10
1.2.2 MI理論の背景 ...11
1.3 MI 理論に対する批判 ...12
1.3.1 特性の分類について ...12
1.3.2 定義に対して ...12
1.3.3 実証的検証について ...13
1.4 MI 理論の教育に対する応用 ...14
1.4.1 日本における実践例 ...14
1.4.2 米国での実践例 ...14
1.5 授業に活かすために ...15
1.5.1 MI 理論の特徴 ...15
1.5.2 MI 理論を元にした授業計画の立て方 ...16
1.6 考察...17
第Ⅱ章 英語教授法に対する多重知能理論からの考察 ...18
2.1 問題と目的 ...19
2.1.1 外国語学習における個人差要因 ...19
2.1.2 本論の目的 ...19
2.2 第二言語習得理論における個人差研究 ...20
2.2.1 適性 ...20
2.2.2 学習スタイル ...20
2.2.3 学習方略 ...21
2.2.4 動機付け ...22
2.2.5 知的能力 ...22
2.3 日本における生徒の実態把握方法 ...23
2.4 多重知能理論の視点から ...23
2.4.1 多重知能理論の応用 ...23
2.4.2 学習者の個人特性の把握のために ...25
2.5 本研究の限界と今後の課題 ...25
第Ⅲ章 多重知能理論と学習方略の関係 ...27
3.1 問題と目的 ...28
3.2 語彙学習方略 ...28
3.2.1 学習方略 ...28
3.2.2 従来の語彙指導法の問題点 ...29
3.2.3 語彙学習方略 ...30
3.3 多重知能理論と学習方略 ...31
3.3.1 大学生や成人に対する研究 ...31
3.3.2 小学生・中学生・高校生に対する研究 ...32
3.4 考察...33
第Ⅳ章 本研究の目的と構成 ...34
4.1 従来の英語指導法研究に欠けている視点 ...35
4.2 なぜ語彙学習方略か ...36
4.3 実験授業の必要性 ...36
4.4 本研究で明らかにしたいこと ...37
4.5 本研究の構成 ...37
第二部 多重知能理論を踏まえた中学生の特性と英語語彙学習方略のとの関連の 検討 ...42
第Ⅴ章 学習者の特性を計る質問紙の妥当性と信頼性の検討(研究1) ...43
5.1 問題と目的 ...44
5.1.1 多重知能を測定する質問紙 ...44
5.1.2 Christison(2005)の大学生への適用 ...44
5.1.3 Armstrong(2000)の中学生への適用 ...48
5.1.4 本研究で検証する目的 ...49
5.2 方法...49
5.2.1 質問紙作成と分析の手順 ...49
5.2.2 被験者と時期 ...50
5.3 結果...50
5.3.1 妥当性の検討 ...50
5.3.2 信頼性の検討 ...51
5.4 考察...55
5.5 本研究の限界と今後の課題 ...56
第Ⅵ章 英語学習法に対する意欲と学習者の特性との関連の検討(研究2) ....58
6.1 問題と目的 ...59
6.1.1 多重知能理論と英語学習に対する効果 ...59
6.1.2 本研究の目的 ...59
6.2 方法...60
6.2.1 英語学習法の分類 ...60
6.2.2 実施時期、被験者及び特性を把握する質問紙 ...63
6.3 結果と考察 ...65
6.3.1 特性の記述統計 ...65
6.3.2 学習者の特性と英語学習法の相関 ...65
6.3.3 学習者の特性と英語学習法の重回帰分析の結果 1 ...68
6.3.4 学習者の特性と英語学習法の重回帰分析の結果 2 ...70
6.3.5 考察と今後の課題 ...71
第Ⅶ章 語彙学習法と学習者の特性との関連の検討(研究3) ...73
7.1 問題と目的 ...74
7.1.1 多重知能理論と語彙学習に対する効果 ...74
7.1.2 本研究の目的 ...75
7.2 方法...76
7.2.1 実施時期、被験者及び特性を把握する質問紙 ...76
7.2.2 語彙の選定基準 ...76
7.2.3 指導の流れ ...78
7.2.4 分析方法 ...78
7.3 結果と考察 ...78
7.3.1 語彙テストの結果 ...78
7.3.2 語彙指導の相関 ...79
7.3.3 各特性と語彙指導の結果の相関 ...80
7.4 考察...81
第Ⅷ章 中学生の英語語彙学習方略を測る質問紙の検討(研究4) ...84
―性差と学年差の視点から― ...84
8.1 問題と目的 ...85
8.1.1 語彙学習方略 ...85
8.1.2 本論の目的 ...86
8.2 方法...86
8.2.1 調査協力者と手続き ...86
8.2.2 質問紙 ...87
8.3 結果...87
8.3.1 因子分析の結果 ...87
8.3.2 信頼性の検討 ...87
8.3.3 分散分析の結果 ...89
8.4 考察...89
8.5 本研究の限界と今後の課題 ...91
第Ⅸ章 語彙学習方略と学習者の特性との関連の検討(研究5) ...94
9.1 問題と目的 ...95
9.2 方法...95
9.2.1 調査協力者と手続き ...95
9.2.2 質問紙 ...95
9.3 結果...95
9.3.1 相関分析の結果 ...95
9.3.2 重回帰分析の結果 ...97
9.4 考察...98
第Ⅹ章 語彙学習方略にもとづく指導法と中学生の特性との関連の検討(研究6) ...100
-6 回の実験授業の結果- ...100
10.1 問題と目的 ...101
10.1.1 現在の英語教育の動向 ...101
10.1.2 語彙指導 ...101
10.1.3 本研究の目的 ...102
10.2 方法 ...103
10.2.1 被験者と時期 ...103
10.2.2 手順 ...103
10.3 結果 ...105
10.3.1 語彙テストの相関分析の結果 ...105
10.3.2 語彙テストの重回帰分析の結果 ...106
10.3.3 学習者の特性と語彙学習法に対する意欲の相関分析の結果 ...107
10.3.4 語彙学習法に対する意欲の重回帰分析の結果 ...108
10.3.5 学習者の特性と語彙テストの重回帰分析の結果 2 ...109
10.3.6 学習者の特性と語彙学習法に対する意欲の重回帰分析の結果 2 ..110
10.4 考察 ...111
10.5 本研究の限界と今後の課題 ...113
10.5.1 本研究の限界 ...113
10.5.2 今後の課題 ...114
10.6 教育的示唆 ...114
第三部 研究の総括 ...115
第 XI 章 結論 ...116
11.1 各章の結果 ...117
11.1.1 学習者の特性を測定する質問紙の信頼性と妥当性 ...117
11.1.2 英語学習法に対する学習者の特性の影響 ...118
11.1.3 語彙学習方略 ...119
11.1.4 語彙学習方略と特性の関係 ...119
11.1.5 語彙学習方略と中学生の特性の関係-6 回の実験授業の結果- ...120
11.2 本研究の成果 ...121
11.2.1 学習者の特性について ...121
11.2.2 語彙学習方略について ...121
11.2.3 学習者の特性と語彙学習法について ...122
11.2.4 言語的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...123
11.2.5 論理数学的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...125
11.2.6 空間的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...126
11.2.7 身体運動的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...126
11.2.8 音楽的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...127
11.2.9 対人的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...127
11.2.10 内省的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...128
11.2.11 博物的特性が高い学習者と語彙学習方略 ...128
11.3 本研究の限界と今後の課題 ...129
11.3.1 特性の質問紙について ...129
11.3.2 語彙学習方略の質問紙について ...129
11.3.3 語彙学習方略と特性の関係について ...130
引用文献 ...132
第一部 問題と目的
第Ⅰ章 多重知能理論の教育現場への応用
1.1 問題と目的
1.1.1 学力低下の要因
小学生から大学生までの学力低下が叫ばれて久しい(苅谷,2001;PISA, 2000, 2003 等)が、その要因として、市川(2002)は、(1)ゆとり教育、(2)教育制度の変化、(3)社会的 な変化による学習意欲の低下、をあげている。また、岸本(2001)は、(1)読み書き計算力の 低下、(2)家庭の教育力の低下、(3)テレビやゲームを長時間見るに任せること、(4)本を読む 機会が少ないこと、をその要因として主張している。その他にも、(1)日本が豊かになったた め、(2)若者の価値観の変化、(3) 少子化、(4)教師の質の低下、(5)絶対的な勉強量の不足、等 が考えられている(和田,1999;菱山等,2004)。
しかし、それらの視点には、価値観の多様化や子どもや保護者の学校へのニーズの多様化、
あるいは、現代社会のニーズに合う指導方法が少ないことが、その要因としてあげられてい るものは少ない。
一方、カウンセリングや心理療法等において、クライアントのアセスメントを行うのは常 識である。しかし、学校現場において、生徒の実態に対するアセスメントを行い、その実態 に合うように教育方法を工夫するということは、特別支援学校を除けば、学校全体、もしく は学校教育全体として行われることはほとんどないと言って良いだろう。そのため、例えば、
とある高校英語の授業では、選択教科として音楽を取ったクラスは発音が得意でリスニング が得意なため、その活動を増やす。それに対して、美術を取ったクラスは発音は苦手だが、
視覚的な認知が得意なので、導入の時に視覚に訴える工夫をする、というように、各教師が 経験的に身につけた教育方法に任されている面が強い。しかし、各教師の工夫に任されてい るということは、多種多様な生徒に対しても同じような教え方をしている教師も少なからず 存在するということであろう。
生徒の実態に合った教育方法を工夫することは、学力低下を防ぐことにつながると考える のは自明の理である。そこで、生徒の実態に合った指導法を工夫するためには、教師の勘に のみ頼るのではなく、生徒に対する客観的なアセスメントが必要となるだろう。そして、客 観的なアセスメントのためには、生徒に対して知能検査を行ったりすることが必要と考えら れるが、例えば、現在の学校教育の中では、倫理的な問題として行うことが出来ない。そこ で、まずそのアセスメントの前提となる生徒の知能について考えてみる。
1.1.2 知能の構成概念
知能という概念は、人の社会的地位や教育機会、職業選択等において、深い影響を与えて きたが、実際のところ、我々の何人が知能とは何かという問いに対して、的確な定義を与え
ることが出来るであろうか。多くの人は、知能はビネーの知能検査で測定されるIQを意味 していると考えるかもしれない。それは、1916年にスタンフォード・ビネー式知能検査を
開発したTermanの「高いIQは個人の社会的成功を予測する」という言葉に代表される概念
と言えるとも考えられるだろう(永江,2008)。
しかし、歴史的に見れば、研究者は人間の知能を単一のものと捉えてきたわけではない。
古くは、Spearman(1904)の知能の二因子説(two-factor theory of intelligence)によれば、
知能は、一般因子(g因子)と特殊因子(s因子)から構成されており、一般因子は全ての知的活 動に共通に働く因子で、特殊因子は相互に独立した、各能力ごとの固有の要素であり、とさ れている。
その後、Thurstone(1938)の多因子説(multiple factor theory)が提唱された。多因子説は 知能を7つの因子に分けており、「基本的精神能力」は、(1)S:空間因子(図形や立体を知 覚する能力)、(2)N:数因子(単純な数の演算能力)、(3)V:言語因子(語の意味把握や 文章理解力)、(4)P:知覚因子(知覚の速さに関する能力)、(5)R:推理因子 (論理的 能力や掲画力)、(6)W:語の流暢因子(語を速く柔軟に使う力)、(7)M:記憶因子(機械 的な暗記力)からなっているとしている。
さらに、Vernon(1950)による階層群因子説(hierarchical group factor theory)によって、
因子間に階層的関係が認められた。それにより、すべての下位検査が共有するg因子の下に v:ed大群因子(言語・数的・教育的因子)とk:m大群因子(実際的・機械的・空間的・身体的因 子)とがあり、さらにこれらの下にいくつかの小群因子がある、と考えられたのである。
その後、Guilford(1967)によって、知能(知性)の構造モデルが提唱された。Guilfordは、
人間が情報を認知したり記憶したりする処理能力だけでなく、既知の情報から新たな知識を 生産する創造的な能力を持っていることに着目し、そこから知能よりも広い概念である「知 性(intellect)」のモデルを構想した。そして、因子分析の手法を用いて、知能因子の抽出と構 造の解明を行い、「内容」、「操作」、「所産」の三次元からなるモデルを提唱した。
以上のような、知能に関する歴史的経緯を踏まえて、Gardner(1983)は、IQという単一 の概念ではなく、人間の知能は1つではなく、いくつかの特性が複合したものが知能なので ある、という多重知能理論(Multiple Intelligences Theory)を提唱したのである。
1.1.3 本論の目的
世界的に見れば、GardnerがMI理論を提唱した1983年以来の25年以上に渡って、MI理 論を踏まえた教育方法が各国で実践されてきており、Chen, Moran, & Gardner(2009)の中 で 16ヶ国に渡って紹介されている。また、それらの国以外にも、南アメリカや東 アジア、オセアニアやアラブ圏や東欧圏ですら、MI理論の論文が見られることか ら、まさに世界中で MI 理論を活用した教育実践されていると推測できるであろう。
しかし、日本での教育実践は少なく、小学校低学年までに限定されがちである(本田,
2006)。しかし、世界各国で取り入れられてきたMI理論を踏まえた教育実践は、小学生か
ら大学生にかけての学力低下が社会問題にまでなってきた日本の閉塞的状況を打開するため に役に立つのではないかと考えた。そこで、学力低下の要因の可能性である生徒の実態に即 した教授方法が取られていない現状に対する対策として、児童・生徒のアセスメントに対し て有効であると考えられるGardnerのMI理論を概観し、教育現場にいかに応用するか、そ の可能性を探ることを本論の目的とする。
1.2 多重知能理論
1.2.1 多重知能理論
Gardner (1983)によれば、「人はみな、それぞれ一組のMultiple Intelligences(多重知能)を
持っており、少なくとも8-9つの知的活動における特定の分野で、才能を大いに伸ばすこ とが出来る」としており、知能(Intelligence)に関しても、「(知能とは)ある文化に置い て価値を持った問題を解く、またはプロダクトを創るためにその文化的背景に置いて活性化 された、一定の方法で情報を処理する生物学的、心理学的潜在力である」と定義している。
そして、Gardner(1999)は、人間には、(1)言語的知能 (2)論理・数学的知能 (3)音楽的
知能 (4)空間的知能 (5)身体・運動的知能 (6)対人的知能 (7)内省的知能 (8)博物的知能
の8つの知能があるとし、それぞれに関して、以下のように説明している。
(1) 言語的知能は、心にあるものを表現し、他人を理解するために自国語、他国語を使う 能力であり、詩人は言語的知能に特化されており、このほかにも、政治家、弁護士なども高 い言語的知能を持っている。
(2) 論理・数学的知能が高度に開発された人は、ある因果システムに介在する法則を、科
学的、あるいは理論的な方法で理解することができ、数字、量を数学者的に操作できる。
(3) 音楽的知能は、音楽で考える能力で、パターンを聞くことができ、認識したり、覚え
たり、巧みに扱うことが出来る。音楽的知能の強い人間は、ただ容易に音楽を覚えるのでは なく、彼らの心の中から音楽を捨てられないのであり、いつどこにいても音楽と共にあるの である。
(4) 空間的知能は、心の中に空間的世界を再現する能力、すなわち、航海士や飛行機のパ
イロットが大きな空間世界を航行し、チェスプレイヤーや彫刻家が線で取り囲んだ空間的世 界で再現する能力である。空間的知能は、芸術や科学において使われ、空間的知能があり、
そして芸術に向いている人は、音楽家や著述家より画家や彫刻家、または建築家になるであ ろう。同様に、解剖学、位相幾何学のような科学でも空間的知能が重要になる。
(5) 身体運動的知能は、問題を解き、何かの物作りをするために、体の全体、または、一 部、手、指、腕を使う能力で、最も明らかな例は、運動競技選手や特にダンスや舞台の演技 者である。
(6) 対人的知能は、他の人を理解する知能である。この能力は我々全ての人に必要だが、
教師、医師、セールスマン、政治家には大いに必要である。誰でも他の人と取引をし、関係 を結ぶとき、人はこの領域で熟練を必要とするのである。
(7) 内省的知能は、自分が誰か、何が出来るか、何をしたいか、物事にどう反応するか、
何を避けようとするか、何に引かれるか、といった自分自身を理解することに帰する。我々 は、自分自身をよく理解している人々に惹かれる。それらの人々は大きな間違いをせず、自 分たちが何をすることが出来るか、あるいは何が出来ないかを理解しており、助けが必要な 場合にどこに行くべきかを知っている傾向にあるのである。
(8) 博物的知能は、人間の自然の世界における雲や岩の形状などの特徴への感度だけでな
く、植物、動物など生物間の識別能力を示す。この能力は、猟師、収集者、農民としての 我々の進化の過程で、明確に価値のあるものであった。それは植物学者、またはシェフとし ての役割において、中心を構成するものとして継続している。我々の消費社会の多くはこの 知能を活用している。そして、博物学的知能は、車、スニーカー、化粧品等の中の識別にお いても活用されている。ある科学分野で価値を評価されているパターン認識もこの知能を思 い出させるのである。
1.2.2 MI理論の背景
Gardner(1983)によれば、MI理論の背景として、(1)脳科学の側面、(2)学者や天才などの
例外的な個人の側面、(3)進化の歴史と進化との整合性の側面、等があげられている。
Gardnerは、脳損傷を受けた多くの事例で、健常者の脳の機能との差を理解した。また、
言語の認識能力に関する障害の事例から、言語的知能が他の機能と独立することを確認した。
また、天才児や自閉症児の多くのケースから、音楽的知能、論理・数学的知能、空間的知 能が独立していることをGardnerは確認した。例えば、言語的な遅れがあっても絵を描く能 力が極めて発達している事例が、発話量が増えるに従って、絵の量と質が衰退した点につい て言及されている。
加えて、人類の進化の過程で、言語的知能から博物的知能までの8つの知能が備わってき
たとGardnerは考えた。それは、他の種に比べて肉体的に劣る人間が、生存するための必要
条件であったためだ。つまり、Gardnerは人間の脳の進化は、それらの8つの知能の進化で あったとも言えると考えたのである。
1.3 MI 理論に対する批判
1.3.1 特性の分類について
GardnerのMI理論に対する批判は、1983年にFrames of Mindが出版されてからずっと存
在してきた。多くの議論の中で、まずは知能特性の分類に対する批判があった。Gardner
(2006)によれば、1994年から1995年の時点で、当初考えた7つの特性の他に、8番目の 知能特性として、偉大なる科学者であるダーウィンの業績を考慮に入れて博物的知能を加え た後に、Spiritual Intelligence(精神的知能)とExistential Intelligence(実存的知能)を加える ことも考えたという。しかし、博物的知能は、例えば、5歳児が自分の両親や祖父母よりも はるかに恐竜の種類を見分けるのが上手であることからも分かるように、客観的に実証しや すい知能特性であると言えるだろう。
そのような例と比較して、Spiritual IntelligenceやExistential Intelligenceは具体的な例があ がりにくい。もちろん、人間には宗教や精神性に対する明確な見解がある上に、現代人にと って、人間の存在そのものを考える上で精神性や実存性という考え方は大変有用であろう。
しかし、宗教的な価値や神に対する考え方は人それぞれで、統一見解を出したり、合意を得 たりしにくい面があるのは否定できまい。Gardner自身の言葉を借りれば、「もし精神的知 能を分類の中に入れると、私の友人は喜ぶかも知れないが、私の敵をさらに喜ばすことにな るだろう。」と述べ、精神的知能や実存的知能を知能特性の分類の中には入れなかったよう だ。
その他に、Gardnerは、artistic intelligence(芸術的知能)についても言及しているが、それ と同時に、その存在を否定している。というよりは、むしろ、知能が芸術的に働く場合があ ると考えている。例えば、詩を書く時には言語的知能が芸術的に働き、彫刻を彫ったり絵画 を描いたりする際には空間的知能が芸術的に働くという。そして、それらの芸術作品をつく りあげる際にどの能力を活用するかは、個人やその個人が属する文化が決めるとしている。
というのは、日本で古くから俳句や短歌が多くの人に親しまれたような文化もある一方で、
アイヌやネイティヴ・アメリカンのように文字を持たないことから詩を書くことができない 代わりに、口承伝聞が発達した文化もあることからも理解することができるであろう。
1.3.2 定義に対して
MI理論独特の言葉の使い方として、「知能特性」という言い方があるが、その定義を読 み返すと、むしろ、「能力」という言葉を使う方が適切のように考えられるかもしれない。
しかし、Morgan(1996)は、Gardnerの言葉の使い方は、それぞれの知性を無理なく描写し ており、多様な知性を考える上で新しい考えを与えたというよりは、知性全体を考える枠組 みを明らかにしたに過ぎない、という。にもかかわらず、Morganは、それらの知性の描写
と知性に関する多くの要因を支えたMI理論の構築が、人間の知能を考える上で非常に大き な貢献をしてきたことを認めている。さらに、Morganは、MI理論は学校や教師にとって有 益で、生徒達が標準化された試験で良い結果を残さない理由を説明するのに役に立つと信じ ている。つまり、知能に対する伝統的な定義は狭すぎて、もっと広い定義の方が、様々な人 間が考えたり学んだりする方法を、より正確に反映するのである、とMI理論の擁護者は主 張しているのである(Armstrong, 2000;Christison, 2005 など)。
また、Gardner(1993)は、認知的な学習スタイルについても言及している。例えば、二 人の人間が音楽的知能を発展させようとする時に、異なる方法を取ることがある。片方の人 は、音楽を聴いたり、聞こえた通りに演奏したりするやり方を好み、もう片方の人は、楽譜 を読んでから座って演奏するやり方を好むかも知れない。認知スタイルの違いはあるが、ど ちらも、音楽的知能を活用しているという点では共通しているのである。
1.3.3 実証的検証について
MI理論の妥当性を支持する実証的な証拠はほとんどないという批判もある(Schaler, 2006)。確かに、例えば、教師、医師、セールスマン、政治家には対人的知能が高い、とい
うGardnerの見解はある(Gardner, 1993)。しかし、MI理論に基づく知能特性を測る質問紙
を用いてそれらの職業の知能特性を測定して、実際に対人的知能が高ければ、それらの職業 人の対人的知能が高いという結論を出すことはできるだろうが、そのような検証をした研究 は見あたらない。そのため、MI理論は、実証的な研究からではなく、Gardnerの直感から引 き出されたものである、という批判も的外れとは言えないかも知れない。
確かに、Gardner自身が認めているように、MI理論に即した教育実践の効果を実証するこ とは難しい。Gardner(2006)によれば、かつては、他の検査とMI理論に基づく質問紙の相 関を測定することも考えた。しかし、Gardner自身の言葉を借りれば、「もし、生徒の知能 特性を知りたければ、生徒達だけではなく、親や前に受け持っていた担任の先生に質問紙に 答えてもらう必要があるだろう。生徒の自己評価は信じられないからだ。」という。また、
Dastgoshadeh & Jalilzadeh(2011)からMI理論の「鍵となる解釈者(key interpreter)」とも 呼ばれている Armstorng も、「学習者のアセスメントの最高のツールは観察を通してである。
例えば、教師は、学習者が教室の中でどのように自分の自由な時間を過ごすかを観察するこ とができるからだ。」と述べてはいる。
しかし、その一方で、Gardner(1991)では、MI理論を学校教育の場に実用的に応用する 際の可能性と限界についても述べられており、Gardnerの理論を学校教育に応用するための
方法もArmstrong(1993)では提案されている。それに加えて、観察を通じたアセスメント
ほどは正確ではない可能性もあるが、「Gardnerが投げかけたMI理論を教育の場に応用す る」ために、学習者の多重知能をアセスメントするために使用できるようなチェックリスト
が作成されたのである(Armstrong, 2000)。もちろん、Armstrong(2000)以外の質問紙を用 いて生徒の自己評価をもとにしたアセスメント(Shearer,1996;McKenzie,1999;Christson,
2005;Tirri & Nokelainen,2008 など)をもとに指導法を工夫する試みも海外の先行研究に
は多く見られる(Brown,2000;Babak,2008;Ramin & Kobra, 2008;Roohai & Rabie,
2013;Bandarabbasi & Karbalaei,2013;Hajhashemi et al,2013;Tahriri & Divsar,2011;
Karim et al,2011;Mahmood & Maryam,2012;Liu & Chen,2014 など多数)。
しかし、日本の先行研究の中には、そのような試みは非常に少なく、アセスメントを全く 行っていない研究や実践が非常に多いのである。そのため、学習者の実態に即した指導法を 行い、その成果を実証的に検討するためにも、チェックリストの作成が必要であろう。
1.4 MI 理論の教育に対する応用
1.4.1 日本における実践例
日本の小学生を対象にしたMI理論を応用した教育実践としては、本田(2006)が紹介し ている日本の小学校の実践や、藤澤・田代(2002)による算数の学習指導案や理科の指導計 画の提案、齋藤・遠藤(2002)による総合的な学習の時間のカリキュラムの提案等がある。
中学生以上を対象にしたMI理論を応用した教育実践としては、中学校の国語教育や理科 教育等における千葉市立緑町中学校(2008)がある。
高校の英語教育における実践としては、「英語Ⅱ」の授業で、学習者一人ひとりの学習方法 に着目してMI理論を応用した中原(2008)がある。
大学の英語教育においては、ライティングの授業に応用した林(2006)、学習者の知能特 性に合わせて授業を工夫した村井(2008)やChen, Moran, & Gardner(2009)等が散見され る。
しかし、前述したように、上記の実践は、被験者に対するアセスメントを行っていないか、
もしくは、観察によって行っていたとしても、妥当性や信頼性が確認された質問紙を用いた アセスメントを用いていない。そのため、日本の中学校以上においては、妥当性や信頼性が 確認された知能特性を測定する質問紙を用いてMI理論を適切に応用した教育実践はほとん どないと言えるであろう。
1.4.2 米国での実践例
Chen, Moran, & Gardner(2009)は、MI理論を用いた教育実践を、中国、マカ
オ、日本、韓国、フィリピン、オーストラリア、ノルウェイ、オランダ、英国、
アイルランド、スコットランド、ルーマニア、トルコ、アルゼンチン、コロンビ ア、米国の計 16ヶ国に渡って紹介している。それら以外にも、シンガポールやブ
ラジル、ニュージーランド、アラブ圏や東欧圏ですら、MI理論の論文が見られる ことから、まさに世界中で MI理論を活用した教育実践されていると推測できるで あろう。
Gardner(1982)において、Gardner が子どもや芸術家の 創造性について言及して
いることからも分かるように、Gardnerは、MI理論を発表する前は、芸術教育に 強い関心があった。そして、MI理論が発表されてからは、ハーバード・プロジェ クト・ゼロ(Harvard Project Zero)と呼ばれる芸術教育を踏まえて、キィ・スクー
ル(Key school)やアーツ・プロペェル(Arts PROPEL)などの中で、実際に学校
教育の中で MI理論を踏まえた教育実践が始まったのである(Gardner, 1993)。
その中で、ディスカバリー・スクール(植山剛行,2004)の特徴について論述す る。
ディスカバリー・スクールは、サウスカロナイナ州のランカスター郡にあるチ ャータースクールの小学校である。そこでは、1日の学習の最後に、各 児童が各 自の学習成果をファイルに納めてその日の学習を終える 。それは、いわゆる、ポ ートフォリオと呼ばれる学習評価の道具である。そして、担任がそのファイルを チ ェ ッ ク し 、 各 児 童 の 学 習 経 過 を 確 認 し て か ら 、 そ の 翌 週 の 課 題 を 決 め る と い う 。 その際に、各児童が特定の特性に関わる課題に偏らないように、 児童と先生の話 し合いで決定されるとのことである。
また、ディスカバリー・スクールでは、観察やポートフォリオ、自己評価、保 護者からの評価、教師に対する授業評価、教師の自己評価を通して、学習者の 知能 特性や知能の発達過程に関してアセスメントをしている。それらは、非常に時間 を要する作業の積み重ねであろうことは想像に難くないが、州が定める学力達成 基準を十分に超える成果を出しているということは、その教育方法が、学習者に とっていかに効果的であるかを実証していると言えよう。
1.5 授業に活かすために
1.5.1 MI理論の特徴
Armstrong(2009)は、MI理論の特徴として、次の4点をあげている。
第1に、8つの知性は、全ての人間が潜在的に持っており、各個人によって、高い知能特 性の差はあるとしても、8つの知能特性をバランス良く発達させることが大切である、とい う点である。つまり、1つの知能特性が突出していたとしても、その知能特性だけを伸ばし ていこうとするのではなく、他の知能特性もバランス良く発達させることによって、人間と してのバランスも良くなるであろう、とArmstrongは考えているのである。
第2に、ほとんどの人が、それぞれの知能特性を十分に発達させることができる可能性が ある、という点である。そのために、最も発達した知能をさらに発達させるような学習をさ せたり、8つの知能を活かした学習方法に統一的に取り組ませたり、学習者に自分の知能の 傾向を確認させたりする方法を取る、とArmstrongは考えているのである。
第3に、8つの知能特性に相互作用がある、という点である。すなわち、1つの知能だけ が単独で働いて人間の活動に影響しているわけではない、ということだ。これは、前述した、
言語的な遅れがあっても絵を描く能力が極めて発達していたが、発話量が増えるに従って絵 の量と質が衰退した事例と矛盾しているように思えるかもしれない。しかし、例えば、ボー ル遊びをする場合を考えれば、身体運動的知能と空間的知能の両方を活用しているのは明ら かであろうが、それに加えて、友達と一緒に遊ぶためには対人的知能を活用するであろうし、
もっと上達しようと思えば内省的知能を活用するであろう、ということである。
第4に、8つの知能特性が発現される方法は様々である、という点である。例えば、言語 的能力を例に取った場合、たとえ文盲であったとしても、耳から広範な語彙を学習し、情感 豊かな物語を口頭で伝えることができる人が存在しうる、ということだ。
上記の点を踏まえて教育活動を再考した場合、多様な知能特性を持っている多様な学習者 に対しては、多様な指導方法を取らなければならないことは言うまでもないことであろう。
1.5.2 MI理論を元にした授業計画の立て方
Armstrong(2009)によれば、MI理論を元にして、授業者が授業計画を立てる場合には以
下の7段階の過程をたどる。
(1) 特定の目的や主題に焦点を当てる。
(2) 学習者の知能特性をいかに授業で活用するかを考える。
(3) 教材とMI理論を踏まえた方法のマッチングを考える。
(4) 同僚とブレインストーミングをする。
(5) 適切なアクティビティを選択する。
(6) 指導計画を立てる。
(7) 計画を実行する。
上記の7段階に加えて、藤澤・田代(2002)も、「7つめの段階を踏まえてアプローチの 評価、学習活動の評価を行い、実践をより豊かなものへと改善していくことが必要とな る。」と述べていることからも分かるように、授業に先立ち、学習者の知能特性に関するア セスメントと、授業終了後の振り返りも必須であろう。
1.6 考察
本論では、学力低下の要因である可能性もある生徒の実態に即した教授方法が取られてい ない現状に対する対策として、児童・生徒のアセスメントに対して有効であると考えられる
GardnerのMI理論を概観し、教育現場にいかに応用するか、その可能性を探ってきた。
Gardner(1999)によれば、標準化された試験とMI理論に基づく生徒に対する評価の違い
の最も大きな違いは、前者は、ある意味で子ども達の一定の割合が失敗することを要求して いる一方で、後者は、どの子どももみな成功する機会が与えられる点であるという。全ての 生徒の努力を正確に通知表に反映するために、中学校の通知票が相対評価ではなく、絶対評 価による評定に基づいて作成されるようになって久しい。しかし、通知票を絶対評価による ものにしただけで、生徒にとって効果がある方法を模索せずに、独りよがりの旧態依然たる 教育方法をとっている教育現場も多いと考えられる。もちろん、その一方で、児童・生徒の ために多くの時間を費やして、様々な指導法を取り入れながら少しでも意欲や学力を高めよ うと日夜奮闘している良心的な教員も多いことであろう。
藤澤・田代(2002)は、「MI理論は、総合的な学習の時間における様々な活動の方法論 として有効であると思われる。なぜなら、子どもたちの活動が少なくとも8つの領域におい て展開できるからである。」という見解を示している。しかし、上述のディスカバリー・ス クールの実践の効果からも分かるように、単に総合的な学習の時間だけに留まるのではなく、
あらゆる教科の中で、その理論を取り入れた実践を構築していく必要があると考えられる。
そのためにも、「(MI理論は)英語教育に全く新しい地平を開くというよりは、これま での指導法に対して知能という枠組みを設定したものである(阿久津 他,2010)。」とい う指摘からも分かるように、直感的に教師が行ってきた学習者に対するアセスメントや、経 験的に有効とされてきた指導法を、MI 理論によって再検討することが今後の課題となろう。
そこで、第Ⅱ章では、英語教授法に対してMI理論の視点からの考察をし、MI理論に基づ く授業実践を積み重ねるために、学習者の知能特性に関する適切で効果的なアセスメントの 検証と、それを踏まえた教育実践の効果の検証へとつなげていく。
第Ⅱ章 英語教授法に対する多重知能理論からの考察
2.1 問題と目的
2.1.1 外国語学習における個人差要因
日本の英語教授法の歴史は、フリーズのパターンプラクティース(羽鳥,1963)やオーラ ルアプローチ(伊村,1997)を紐解くまでもなく、英米の第二言語習得理論の輸入の歴史と 言っても過言ではない。つまり、英米の第二言語習得理論が問題にしたことを、少し遅れて 取り入れる、ということを繰り返してきた観がある。
その一方、本田(2005)によると、英語学習に影響を与える個人差要因の範疇は多様化し、
その種類は研究者によって意見の分かれるところであるという。例えば、林(1998)は、第 二言語としての外国語学習の個人差要因は、主に、年齢、適性、動機・態度、学習方略、学 習スタイル、性格・情緒、母語、性別、教育経験であるとし、山崎(2005)は、 学習者の 年齢、性格、学習適性、学習スタイル、学習方略、学習経験、動機づけなどが含まれるとし ている。また、梅田(2005)によると、学習者特性は、知的能力、パーソナリティ、学習方 法(学習方略・学習スタイル)、学習への興味・関心、学習に関わる信念・価値観、学習へ の感情・動機付け、であるという。このように、研究者によって様々な個人差要因があげら れているが、それらの個人差要因はどのように分類されてきたのであろうか。
Ellis(2004)は、①学習環境に影響を与える「社会的要因」、②学習者に内在する「情意 的要因」、③学習者に内在する「認知的要因」に分けて言及している。また、申(2007)に よると、第二言語習得研究での学習者要因研究は、大きく情意的要因と認知的な要因に分か れており、前者には、自我尊重、抑圧、冒険試し、不安、感情移入、動機があり、後者には、
言語適性、知能、認知スタイル、学習スタイル、学習方略などがあるという。また、倉八
(1994)によれば、第二言語習得において、学習者の個人差を説明する要因として、環境要 因(文化的要因、教授法など)と適性要因(知的要因、情意的要因)があり、適性の個人差 が外国語の習得の成否に関わることは疑う余地のないものだという。さらに、Brown
(2000)は、個人差要因を学習方略と性格的要因の二つに大きく分け、それぞれの下位項目 として第二言語習得に関連づけて分類している。
2.1.2 本論の目的
その一方で、日本の英語教育は第二言語教育ではなく、外国語教育であるため、東矢
(2003)による、「アメリカでの最先端の理論や教授法を、日本の言語環境や外国語教育の 現状にそのまま取り込んだとして同じ効果は期待しがたく、日本の環境での効果の検証が必 要である」という記述や、浦上(2000)による「日本人の日本人による英語教授法を考える べき」という指摘に対する異論は少ないのではないであろうか。
しかし、東矢や浦上の提案も、学習者個人の特性に合った教授法という視点は欠けている。
並木(1997)は、適性処遇交互作用(ATI)に基づく教授方法の最適化が必要であるという が、向山(2008)によれば、適性と指導方法の交互作用を検証するような実証研究は少ない という。
以上の点を踏まえて、本論では、第二言語習得における個人差研究を概観するために、
Dornyei & Skehan(2003)による4つの分類である、①適性、②学習スタイル、③学習方略、
④動機づけ、に加え、多重知能理論(Gardner, 1999)との関係が深いと考えられる知的能力 を取り上げ、多重知能理論の視点から検討することを目的とする。
2.2 第二言語習得理論における個人差研究
2.2.1 適性
Ellis(1994)によれば、言語学習における適性は、「生まれつき人が持つ言語学習能力で、
言語学習に影響力を持つもの」と定義されている。その分類として、Modern Language
Aptitude Test (MLAT)を開発したCarrollは、Carroll(1965)の中で、①音声識別能力、②文
法的感受性、③機械的記憶能力、④帰納的言語学習能力の4つを挙げている。それに加えて、
Carroll(1981)は、言語適性に対して、①習熟度とは区別するべき、②動機づけや態度とは 異なる、③修正するのは難しい、④言語獲得の速さや容易さに影響するが、言語学習に絶対 に必要なものではない、⑤一般的な知能とは区別するべき、という5つの特徴に対して言及 している。また、Skehan (1998) は、第二言語習得の言語適性の前提として、①一般知能と は別の言語適性がある、②既存の学習の結果とは異なる、③言語適性は安定している、④個 人差がある、という4つの条件を指摘している。
言語適性の高低によって英語学習の必要性が決まるわけではないため、MI理論からは、
どのような言語適性を学習者が持っていようが、それぞれの学習者に合うような指導方法を 工夫することが必要と考えられるだろう。
2.2.2 学習スタイル
Skehan(1998)によれば、学習スタイルは、学習へのアプローチの個人的な好みを反映し たものとしている。学習スタイルの分類は、研究者によって様々であるが、Kolb (1976)
は、学習スタイルを静的か動的かに分け、Willing (1987)は、抽象的と具体的に分けてい る。また、Brown(2000)は、①場依存・場独立、②左右脳機能、③曖昧さへの寛容、④熟 考、⑤視聴覚型か聴覚型か、の4つに分類している。さらに、山崎(2005)は、学習スタイ ルを、①場依存型と場独立型、②熟慮型と衝動型、③多義性への寛容と非寛容、④知覚学習 スタイル、に分けているが、これは、Brownの分類とGrotjahn(2003)による以下の5つの