別紙1
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
報告番号
甲 第 3235 号 氏 名小原 大宜
論文審査担当者
主査 教授 井上 富雄 副査 教授 飯島 毅彦
副査 教授 山本 松男
(論文審査の要旨)
論文題名「Effects of vibratory feedback stimuli through oral appliances on sleep bruxism: A 6-week intervention trial」
掲載雑誌名:Sleep and Breathing(投稿中)
上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
申請者らが開発した、咬合圧が上昇するとスプリントが振動する振動刺激スプリントを用い、睡眠時ブ ラキシズム(SB)に振動刺激が及ぼす影響を10名の被験者に対して解析した。2週間の振動刺激スプリン ト装着の順応期間を設けた後に振動刺激を与えたところ、単位時間当たりのSBが出現回数およびSBの持 続時間は、振動を与える前に比べて有意に減少した。その後4週間連続して振動刺激を与え続けても同様 の減少効果が認められたが、振動刺激の付加を止めると、減少効果は消失した。一方、総睡眠時間、睡眠 効率、睡眠潜時、微小覚醒指数、覚醒反応指数、各睡眠ステージの割合については、いずれも振動刺激に よる有意の変化は無かった。以上の結果から、申請者らが開発した振動刺激スプリントは、睡眠構造に影 響を与えることなくSBを継続的に抑制する可能性が示唆された。
本論文の審査において、副査の飯島委員および山本委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対 する回答を以下に示す。
飯島委員の質問とそれらに対する回答:
1.振動刺激によってSBが抑制されるメカニズムを推察せよ。
(Nishigawaらの電気刺激を用いたSB抑制の研究では、SB抑制のメカニズムとして閉口筋の抑制反射が関
係していると報告されており、振動刺激に関しても同様の反射によるものであると推察される。Watanabe らのスプリントを用いた振動刺激による抑制装置の報告では、抑制効果は三叉神経の機械受容器が関与し 抑制が生じているのではないかと報告している。本研究で使用した抑制装置においてもSBの抑制は振動が 侵害刺激となって防御反射として生じる開口反射が関与しており、振動刺激により歯根膜の圧受容器に刺 激が伝達し、三叉神経節を経由し三叉神経運動核で開口筋運動ニューロンを興奮させる一方で、抑制性の 介在ニューロンが三叉神経閉口筋運動ニューロンを抑制することで閉口筋の抑制が生じていると推察され る。しかし、抑制効果が歯根膜刺激によって生じているとは限らず、歯根膜咬筋反射や咀嚼筋の反射が関 与している可能性もあり、詳細なメカニズムは不明である)
2.Wakeに移行しない程度の振動強度はSBに有効であるのか。
(振動刺激を用いたSB抑制効果が開口反射によって引き起こされていると仮定すると、開口反射は侵害刺
激でも非侵害刺激でも引き起こされる可能性があるため、Wakeに移行しないような振動強度(非侵害刺激) に設定しても一定の効果はあるのではないかと考えられる。最小限の振動強度でSB抑制効果が得られると いうことはとても重要なことなので、今後様々な振動強度で研究を行い、詳細を明らかにする必要がある)
山本委員の質問とそれらに対する回答:
1.本研究でバイオフィードバック療法、特に振動刺激に着目したのはなぜか回答せよ。
また、各マネジメント法について説明せよ。
(SBのマネジメント方法にはオクルーザルスプリント療法、薬物療法、認知行動療法等、バイオフィード バック療法がある。オクル-ザルスプリント療法に関しては、装置装着直後にはSB抑制効果が認められる が、2週間以降になるとその効果が失われると言われているため、筋活動自体の長期的抑制効果はなく、
歯や補綴装置の保護のみで、SBの根本的な解決にはならない。薬物療法に関しては、クロナゼパムやクロ ニジンの服用によりSBのレベルや睡眠の質が改善したという報告があるが、長期服用により薬剤耐性や依 存性が生じる可能性があり、倦怠感・眠気・運動障害・低血圧などの副作用が起こる事があるため、まだ 推奨される治療法ではない。認知行動療法においては、一定のSB抑制効果はあるが、その効果は比較的小 さく十分なエビデンスが無いのが現状である。以上より、我々はバイオフィードバック療法に注目した。
バイオフィードバック療法には、電気刺激、音刺激、振動刺激を用いたものがある。音刺激を用いた研究 では、SB持続時間の39%の減少を認めたという報告があるが、音により患者や睡眠同伴者を覚醒させるリ スクがあった。側頭筋に電気刺激を与えた研究では単位時間あたりのSB episode数が52%減少したと報告 している。電気刺激による方法は、微量ではあるが体内に電流を流すため、ペースメーカーなどの医療機 器を用いる患者に対して影響を及ぼす可能性があることなどから、臨床的応用にはまだ課題が残る。以上 より、これらのリスクがない振動刺激に着目し研究をおこなった)
2.SB episodeが睡眠段階N1、N2に多いと言われるのはなぜか。
(SB episodeの発生は深睡眠期から浅睡眠期またはREM睡眠期への変わり目で大部分が起こると言われて
おり、睡眠中の覚醒反応(微小覚醒)に付随して発生するといわれている。睡眠サイクルの変化期における
SB episode 数の増加は、この微小覚醒に対する反応性によるものである考えられ、これはCyclic
alternating pattern(CAP)と呼ばれる偽周期型の関連が報告されている。SBは覚醒反応を伴ってから生じ
ることを考えると、N3では発生しにくいことが考察される)
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 井上委員の質問とそれらに対する回答:
1.振動刺激が加わった後、咬筋活動や脳波、睡眠ステージはどうなるか。
(振動刺激時のピエゾフィルムから得られる波形および筋電図波形を見る限りでは、振動直後に筋活動が停 止しているように見受けられる。睡眠ステージに関しては、振動により26.2%の睡眠ステ-ジが覚醒方向 に変化した。しかし、その後約7割で元の睡眠ステージに戻る傾向を示した。振動刺激時の脳波に関して は検証を行えていないので、今後検証していく必要がある)
2.振動刺激によるSBの抑制効果は、被検者のSBの重症度あるいはタイプによって差が見られたか。
(被験者毎に、SB回数は8.3%~80.4%、SB持続時間は2.1%~88.5%の減少率と幅が広い結果となったが、
重症度とSBタイプによる減少率の関係に一貫性は認められなかった。今後、最適な強度を明らかにした うえで、検証していく必要がある)
主査の井上委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確 認するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
本論文は本学大学院学位論文(博士)審査基準を満たしており、学位論文に値すると判断した。
(主査が記載)