中央大学大学院理工学研究科情報工学専攻 修士論文
鉄道輸送障害時の旅客流動を 考慮した運転整理案
A Study of Rescheduling Method to Recover the Disorder of Commuter Train Schedule
小澤 勇紀
Yuuki OZAWA
学籍番号08N8100008C
指導教員 田口 東 教授2010
年3
月i
概要
首都圏の鉄道ネットワークは,世界で類を見ない高密度なネットワークを誇っており,ネ ットワークは既に成熟されてきている状況にある.それ故,利用する乗客も多く,現在の首 都圏における鉄道定期券利用者は,約800万人以上にのぼり,乗客が1日で最も集中する朝 ラッシュ時間帯には列車内や駅構内は激しく混雑している.
鉄道交通では,ダイヤが乱れることがある.朝のラッシュ時間帯にある路線で大規模な輸 送障害が発生すると,鉄道会社はラッシュ時の輸送力を確保の観点から折り返し運転を実施 する.すると,旅客の流れ(旅客流動)は通常時と大きく変わり,迂回路線や乗換駅へ旅客 が集中し,混乱を引き起こす可能性がある.一方,鉄道会社は乱れたダイヤを正常のダイヤ に戻す,運転整理と呼ばれる動作を行う.本研究では,鉄道旅客の観点から研究を進める.
そのため,鉄道旅客が不便を被らないように運転整理を行なうためには,輸送障害発生時の 旅客流動を考慮することが大変重要である.輸送障害発生時の旅客流動を推定することは,
旅客の集中する駅や振替輸送,代替輸送機関の受け入れ側の対応や運行再開後の駅や乗務員 の適切な対応,輸送障害ごとの運転整理案の検討・評価に役立つと考えられる.
そこで,本研究の目的は2 つある.まず,鉄道ネットワークにおいて大規模な輸送障害が 発生し,折り返し運転を実施した際の旅客流動を推定することである.本研究では,通常時 における旅客流動から輸送障害が発生した時刻の OD交通需要を求め,折り返し運転を表現 した時空間ネットワークに OD交通需要を配分することで折り返し運転実施時の旅客流動を 推定し,また現状の折り返し設備ではどのような運転整理案がよいかを求める.次に,ある 路線に新たに折り返し設備を新設するにはどの駅に設置したらよいかを求める事を目的とす る.
キーワード:鉄道,運転整理,大規模輸送障害,時空間ネットワーク,運行管理
ii
目次
第1章 序論 ……….……….…………1
1.1 研究背景 1.1.1 運転整理 1.1.2 運転整理の難しさ 1.2 研究目的 第2章 通常時の鉄道旅客流動の推定 ……….……….…………7
2.1 対象範囲………7
2.2 時空間ネットワークの構築……….……….…….…………..….…….8
2.2.1 停車ノード 2.2.2 走行リンク 2.2.3 待ちリンク 2.2.4 待ち合わせリンク 2.2.5 乗換えリンク 2.2.6 折り返しリンク 2.3 構築した時空間ネットワーク……….…………..….………….14
2.4 大都市交通センサス……….……….………..……….15
2.5 最短時間経路問題(dijkstra法)を用いた旅客流動の推定……….…….….17
第3章 折り返し運転実施時の旅客移動モデル ……….….…….……21
3.1 折り返し運転とは……….………….…21
3.2 最大滞留不通区間の推定……….……….…22
3.2.1 滞留者の定義 3.2.2 最大滞留不通区間の推定 3.3 時空間ネットワーク上での折り返し運転の表現……….…….……24
3.3.1 出発時刻の変更 3.3.2 電車運行に関する制約 3.3.3 折り返しリンクの張り直し 3.3.4 時空間ネットワーク上での表現手順 3.4 輸送障害時の旅客流動の推定……….……….…………27
3.4.1 輸送障害発生時刻におけるOD交通需要の作成 3.4.2 不通区間を表現した時空間ネットワークへの交通量配分 3.5 評価指標……….….………31
iii
3.6 現状の折り返し設備での比較……….…….32 3.6.1 列車種別変更の時空間ネットワーク上での表現
3.6.2 直通運転中止の時空間ネットワーク上での表現
3.7 折り返し設備新設駅の検討……….……….…34
第4章 適用事例 ……….……….….…………35 4.1 JR京浜東北・根岸線……….………35
4.1.1 路線概要
4.1.2 混雑による遅延の計算 4.1.3 シミュレーション結果
4.2 東急東横線……….………..………..…………49 4.2.1 路線概要
4.2.2 現状折り返し設備での運転整理案比較 4.2.3 折り返し設備新設駅
第5章 総論 ….……….…….………58 5.1 まとめ
5.2 今後の課題
謝辞 ……….………..…………60 参考文献……….………..…………61 付録A 大都市交通センサス……….………...………63
1
第 1 章 序論
1.1
研究背景近年,ヨーロッパ・アメリカ・アジアを中心とした都市交通における鉄道の役割が見直さ れつつある.それは,先進国では地球温暖化の解決として,新興国では経済成長・人口増加 による大量輸送・交通渋滞緩和のために,鉄道を導入する流れが世界中で起きている.その 中で,日本は世界の中で鉄道先進国と言われ,旅客輸送に関しては世界一を誇る[29].とり わけ,首都圏の鉄道ネットワークは,世界で類を見ない高密度なネットワークを誇っており,
ネットワークは既に成熟されてきている.また,鉄道事業者は,都心との相互直通運転の実 施や新型車両導入,騒音低減などの旅客サービス・車内環境の向上や沿線環境への配慮など 多額の設備投資を行っており,諸外国の鉄道サービス水準をはるかに凌駕している.それ故,
利用する乗客も多く,現在の首都圏における鉄道定期券利用者は,約800万人以上にのぼり,
乗客が1日で最も集中する朝ラッシュ時間帯には列車内や駅構内は激しく混雑している.
鉄道交通では,しばしば地震や豪雨などの天災,または,人身事故,車両や信号機の故障 などの鉄道事故により,運転見合わせが発生し,ダイヤが乱れることがある.鉄道事故は,
鉄道事故等報告規則によって定められ,本研究では,この規則の中の輸送障害を扱っていく.
本来,輸送障害は鉄道による輸送に障害が生じた事態で,鉄道運転事故以外のものを呼ぶが,
本研究では,事故などによりダイヤが乱れることを輸送障害と呼び,特に大規模な輸送障害 に焦点を当てる.国土交通省鉄道局による,日本での列車に運休または30分以上の遅延が生 じた輸送障害の推移を図1.1に示す.30分以上の統計なので,30分以下の輸送障害も併せる とかなりの数に上ることが考えられる[24].
朝のラッシュ時間帯にある路線で大規模な輸送障害が発生すると,鉄道会社はラッシュ時 の輸送力を確保する観点から折り返し運転を実施する.すると,旅客の流れ(旅客流動)は 通常時と大きく変わり,迂回路線や乗換駅へ旅客が集中し,混乱を引き起こす可能性がある.
すなわち,非常に多くの利用者が影響を受ける.このことから,国土交通省も引き込み線な どの整備や旅客への情報提供等の本格的な対策に乗り出している[22].
鉄道会社は乱れたダイヤを正常のダイヤに戻す,運転整理と呼ばれる作業を行う[14].(詳
細は1.1.1項で後述)本研究では,鉄道旅客の観点で研究を進める.そのため.鉄道旅客が不
便を被らないように運転整理を行なうためには,輸送障害発生時の旅客流動を考慮すること
2
が大変重要である.輸送障害発生時の旅客流動を推定することは,旅客の集中する駅や振替 輸送,代替輸送機関の受け入れ側の対応や運行再開後の駅や乗務員の適切な対応,輸送障害 ごとの運転整理案の検討・評価に役立つと考えられる.
輸送障害が発生した場合の旅客流動に関する研究には[7],[9],[13],[15],[18],[19],
[20],[21]などがある.多くの既存研究では,運転整理案の評価を行なうためにダイヤが 乱れた路線のみを対象として,旅客の流れの推定や乱れたダイヤを通常時のダイヤに戻すた めにどのようなアルゴリズムを作ればよいか,といった研究がなされている.しかし,首都 圏における鉄道ネットワークは,複数の路線が複雑に繋がっているため,旅客の流れが変わ る可能性がある.また,旅客の集中によって輸送障害で乱れたダイヤがさらに拡大したり,
他路線の列車が遅延を起こしたりする.そのため,ある路線のダイヤが乱れた時の鉄道ネッ トワーク全体での旅客流動がどのように変化し,列車がどのように動いているかを把握する かを知ることは重要である.加えて,既存研究のほとんどが小乱れを対象としており,大規 模な輸送障害を対象とした研究は,既存研究の中にはあまり見られない.従って,大規模な 輸送障害では旅客流動がどうなるかを知ることはどうなるか興味深い.
図1.1 輸送障害件数の推移(平成4年〜平成19年)[24]
1.1.1
運転整理本項では,運転整理について説明をする.鉄道の運行は,あらかじめ定められた列車ダイ ヤに基づいて行われるが,必ずしも常に定時で運行できるわけではなく,車両や設備の故障,
事故,悪天候等によって列車が運休,遅延することがある(一時的な輸送力の低下).その際 に,元の運行計画のままで運転を続けると遅延が一向に回復せず,影響が広い範囲に波及す
3
ると共に,旅客への影響が甚大なものとなる.このため適切な計画変更を行って平常運行へ の早期復旧・遅延収束を運転指令員,ダイヤ作成者(スジ屋)らが図ることになる.この一 連の作業を「運転整理」という.また,運転整理の主な手法を以下にあげる[5],[11],[14],
[23].
z 回復運転
回復運転は,最も簡単な運転整理である.列車が遅延をしている際に,通常定められ た速度より速い速度を営業最高速度以下で運行したり,駅での停車時間を切り詰めたり して,各列車の運転士がダイヤの遅れを取り戻すことを指す.しかし,通常より速い速 度で運転することは,2005年のJR福知山線脱線事故から避けられている.
z 抑止
運転時刻変更の一種と言えるが,後の予定を決めずにとりあえず列車を止めておくこ とを指す.列車が駅間で停車すると以後の運転続行が不可能になった場合に旅客の誘導 に多大な問題が発生すると共に,駅で止まっている場合には下車して乗客が他の行動を 選択する余地があることから,不通区間が発生した場合にはまずその区間へ向かって走 っている他の列車を最寄りの駅で止める措置が取られる.また,駅間で列車が停車して しまうことを機外停車という.2000 年東海集中豪雨で,東海道新幹線史上最悪の 22 時間21分の遅延を記録したことから,機外停車は強く忌避されている.
z 運転時刻変更
運転時刻の変更は,列車の運転時刻を変更する方法である.もっとも基本的な手段で あるが,特に他の手段と組み合わせをしなければ、列車運行管理システムがその時の運 行状況に基づいて信号扱いを行い,駅の発車標を操作して旅客への案内も自動で行える ようになっていることが多い.
z 時隔調整
運転時刻変更の特殊例である.大都市の列車が頻発運転されている線区では,乗客は 特に時刻表を見ずに駅にやってきて,その時点でもっとも都合のよい列車を選んで乗車 するという行動をとることが多い.このような状態で特定の列車が遅延すると,遅延し た分だけ駅で列車を待っている乗客が増加して乗降に時間が掛かるようになり,さらに 遅延が拡大していく.一方でその後の列車は前の列車との間隔が詰まって駅で待ってい る乗客が少なくなるために乗降時間が短くなり,何も手を打たなければどんどん早くな って前の列車に追いつき団子運転となってしまう.このため遅延している当該列車の先 行列車を故意に遅らせて運転間隔を調整し,各列車に均等に乗客が分散するようにして,
遅延の拡大防止を図っている.
z 運行順序変更
運行順序の変更は,A列車→B列車という運行順序を,B列車→A列車に変更するな ど,列車の始発駅や複数の路線が合流する駅で,どの列車から走らせるかを通常時と変
4
更する方法である.快速・普通列車が特急列車の通過待ちをする駅の変更,単線におい て列車の行き違いをする駅の変更など,待避駅・列車交換駅変更で部分的に順序を変更 したりするのも含まれる.
z 臨時停車・臨時通過
通過駅に臨時停車,停車駅を臨時に通過する方法.臨時停車は,ほかの列車の運休な どで当分の間,列車が来ない駅での乗降客を救済するために実施される例が多い.イベ ントの開催に応じて臨時停車させるような例は,あらかじめ運行計画の中で決められて いるため運転整理の範疇ではない.停車駅を通過することは,誤乗を誘発し案内が大変 困難であるため避けられるが,地下鉄サリン事件や阪神・淡路大震災のように駅で事 故・災害などが発生した場合などに見られる.
z 運用変更
運用変更は,ある列車に使用する車両や乗務員の運用を変更する方法である.車両や 乗務員の行路は決められているが,特に到着列車の折返し遅れを出さないために,別の 車両や乗務員を手配するという形で運用変更することが多い.
z 運休・運転打ち切り・特発・延長運転
運休・運転打ち切りは,始発駅から列車を運転休止にする、または途中駅で運行を中 止する方法である.列車を運休させることは遅延を回復する上で大きな効果があるが,
一方で輸送力を減少させることになるので,慎重な判断が必要になる.部分運休は障害 発生区間を運休にして途中駅で折返し運転にする形で,障害発生区間以外の運転を再開 させる時によく用いられる.また,輸送力が不足している区間に車両や乗務員を回すた めに運転を打ち切ることもある.
逆に,特発・延長運転は,遅延している列車を後続の列車に充当させて,ある駅から は別の車両を充当させて時刻通りに運転する方法.輸送力が不足している区間に,ほか で運休・運転打ち切りをした車両と乗務員を手配したり,新たに基地から送り込んだり して,臨時列車を運転することもある.既存の列車の運転区間を延長するのも同様の事 例である.
z 種別・着発線・運転線路変更
一般的に,他の運転整理と組み合わせて使う運転整理である.まず,列車種別変更は,
特急から急行に変更する等,主に格下げする方向で行われる.一般的に格上げすること は,誤乗の観点から避けられている.
次に,着発線の変更は,駅の到着・発車・通過する線路を変更する方法である.到着 番線の変更は比較的容易であるものの,発車番線については,特に長距離列車の場合に 直前に実施することは困難である.前述の待避駅・列車交換駅変更の際に追い抜かれる 列車を待避用の番線に変更するなどの形で組み合わせて用いられることが多い.
最後に,運転線路の変更は,複々線区間において走行する線路を列車線から電車線など へ変更する方法である.複々線区間で先行列車に遅延が発生しているとき,後続列車の運
5
転線路を変更することで,後続列車へ遅延を及ぼすことを阻止することができる.
1.1.2
運転整理の難しさ本項では,運転整理の難しさについて述べる.運転整理の手法を使い,運行管理者は通常 時のダイヤに戻していく.しかし,実際の運転整理は非常に難しいとされる.また,評価も 立場によって異なってくるために,より運転整理が難しさを増している.その主な理由を以 下にあげる [8],[11],[12],[14],[23].
z 評価尺度が一律に決定しない
一般には平常運転に回復する時刻が早い方がよいとか,列車の総遅延時間が少ない方 がよいと考えられがちであるが,遅れている列車を全て運休にしてしまえば遅延はすぐ に回復するため,そのような評価方法ではとにかく運休する方がよいということになっ てしまう.運転障害が朝ラッシュ時間帯に起きたのであれば,遅れが長引いたとしても とにかく列車を運転して輸送力を維持しなければならない.昼過ぎに起きたのであれば 大胆に列車を運休してでも夕ラッシュが始まるまでにダイヤを平常運転に回復させた い,夜間帯に起きたのであれば,列車の遅れそのものよりも終電との接続関係を考慮し なければならない.このように状況に応じてどのような運転整理がよいかは一概に判断 できない.また,会社側と運行側(運転士など),乗客側といった立場の違いによって も大きく変わってくる.
z 整理案の迅速性
運転整理に取り組んでいる間も列車は実際に走り続けており,手配が遅れると時機を 逸してしまう.極めて複雑な問題に対処しなければならないにも関わらず,短時間で処 理しなければならない.
z 運転整理中の完全な予測が不可能
運転整理を行ううえでは,様々な予測を行うことが必要となるが,本質的に予測不能 な事象も多い.たとえば,天候が理由で運転を見合わせている場合,いつ運転を再開で きるかの見極めは困難である.大雪になった場合などは,運転不能区間が次々に拡大し ていくこともあり,そのたびに運転整理計画はやり直しになる.
z 多数機関への伝達
運転整理案の作成にあたっては,ダイヤのみの変更だけでなく,それに対するリソー スの割り当て計画の変更案も併せて必要となる.そのためには,予備などの車両・人員,
それらが使用可能になる時間など様々な部署に対しての情報の交換・決定がされた上で,
列車運行に携わる人々に周知しなければならない.もちろん,利用者にアナウンスする ことも非常に重要である
z インフラゆえの社会的使命が大きい
6
鉄道は公共的な使命を持った交通機関である.首都圏では,多くの利用者がいるため,
輸送障害が発生すると多くの人が影響を受ける.よって,運転整理案を考える時にも,
公共性を無視することはできない.例えば,全ての列車を運休してしまえば,遅延もな く列車ダイヤの復旧も容易であるが,著しく利用者に不便をこうむることはできない.
z 利用者への配慮
輸送障害によって不便を被っている利用者に配慮する必要がある.列車や駅に鉄道旅 客が異常に集中してしまう事は避けなければならない.また,列車を打ち切ったり,急 に行き先を変えたりすることは,利用者の鉄道への信頼を失うこととなる.
z 情報の不完全性
社会的な事象を対象としているため,利用者の行動を考慮する必要があるが,その予 測は難しい.列車がどの程度の混雑か,駅にどれくらいの利用者が来るかなど必要な情 報を予測すること,また,全ての情報がそろうとは限らない.
z 多数の列車を対象とした大規模組合せ問題
首都圏の線区では,運転整理の対象となる列車は数百本以上になることも珍しくない.
これらの,列車相互の関係と列車運行の制約を満たし,各列車の運転区間,運転時刻,
番線等を決定しなければならないという複雑で大規模な問題となる.
1.2
研究目的本研究の目的は 2 つある.まず,鉄道ネットワークにおいて大規模な輸送障害が発生し,
折り返し運転を実施した際の旅客流動を推定することである.本研究では,通常時における 旅客流動から輸送障害が発生した時刻の OD交通需要を求め,折り返し運転を表現した時空 間ネットワークに OD交通需要を配分することで,折り返し運転実施時の旅客流動を推定す るとともに,また現状の折り返し設備ではどのような運転整理案がよいかを求める.次に,
ある路線に折り返し設備を新設するにはどの駅に設置したらよいかを求める事を目的とする.
本論文の構成として,第2 章で電子時刻表をもとに首都圏鉄道網を対象にした時空間ネッ トワークを構築し,大都市交通センサスを交通需要として交通量を配分し,通常時の旅客流 動の推定について説明する.第 3 章では,折り返し運転実施時の時空間ネットワークを構築 し,交通需要を割り当てることで折り返し運転実施時の旅客流動を推定する.そして,運転 整理のパターンを作り,平均遅延時間を評価指標として現状の折り返し設備で利用者が,ど れくらい事故の影響を受けるか推定を行う.そして,折り返し設備の新設駅の検討をする.
第 4 章では,折り返し運転実施時の旅客移動モデルを実際の路線に適用してシミュレーショ ンを行なう.
7
第 2 章
通常時の鉄道旅客流動の推定
鉄道は,時刻表に従い運行する公共交通機関である.時刻表どおりに運行する鉄道は,時 間変化を離散的に捉えることができる.この特性を利用し,鉄道網(空間ネットワーク)を 時間軸方向に拡張した静的なネットワーク(時空間ネットワーク)上で,鉄道利用者の流動 を再現する.時空間ネットワークは元のネットワークに比べ大規模であるが,構造が単純で あることから,鉄道旅客の流れを正確に再現できる[10].そこで,本章では[6] ,[10]を 参考に,空間ネットワークを拡張し,時空間ネットワークを構築する.
加えて,大都市交通センサスを鉄道旅客のOD交通需要として構築した時空間ネットワー クを使用し,いつ,どこに,どのくらいの鉄道旅客がいるか(鉄道旅客流動と呼ぶ)を推定 する.本研究では,最短時間経路問題を用いて,大都市交通センサスに記載されている内容 を反映するように OD交通需要を時空間ネットワークに配分することで旅客流動を求める方 法を扱う.
2.1節では,本研究での対象範囲について述べる.2.2節では,時空間ネットワークの構成,
構築の手順について述べる.2.3 節では,構築した時空間ネットワークについて述べる.2.4 節では,本研究で OD交通需要として使用する大都市交通センサスの鉄道定期券・普通券等 利用者調査について述べる.2.5節では,旅客流動を推定する鉄道利用モデルについて述べる.
2.1
対象範囲本研究での対象範囲は,2005 年に実施された大都市交通センサス[3]が対象としている 首都圏132路線1,899駅である.図2.1に対象範囲の鉄道網全体(a)と都心部分を拡大した(b) を示す.図中の黄緑色の線がJR山手線である.
8
( a ) 対象範囲全体 ( b ) 都心部拡大
図2.1 対象範囲の鉄道ネットワーク
2.2
時空間ネットワークの構築鉄道旅客の乗車から降車までの一連の行動をネットワーク上で表現するため,図 2.1 の鉄 道網で表される空間ネットワークを時間軸方向に拡張し,時空間ネットワークを構築する.
本研究では,市販の時刻表の電子データ(以下,電子時刻表とする)を基に時空間ネットワ ークを構築する.使用する電子時刻表は,全国JR 時刻表2005年 1月号と,JTB パブリッ シングの私鉄データ(2005年2月10日現在)に市販の紙の時刻表から手作業で電子化した つくばエクスプレスのデータ(2007年10月1日現在)を加えたものである.
鉄道利用を開始してから終了するまでの鉄道旅客の行動は,以下の 4つの行動に分類でき る.
列車に乗って駅間を移動する行動
駅で次の列車を待つ行動
駅で待合わせを行う列車に乗り換える行動
駅で別の路線へ乗り換える行動
ここで,普通列車が後続の優等列車を待って発車するようなことを,駅での待合わせと呼 ぶ.これら一連の鉄道利用者の行動をノードとリンクとして以下のように定義し,ネットワ ークの要素として表現する.また,本研究では既存研究にはない列車の動きを簡易的に取り 入れるために,折り返しリンクを新たに定義する.
横浜 八王子
大宮
東京
渋谷 新宿
池袋
東京 上野
品川
9
・ 停車ノード :各駅における各列車の停車
・ 走行リンク :列車に乗って次の駅への移動する行動
・ 待ちリンク :駅で次の列車を待つ行動
・ 待ち合わせリンク :駅で待ち合わせを行う列車に乗り換える行動
・ 乗り換えリンク :駅で他路線へ乗り換える行動
・ 折り返しリンク :停車場で列車が方向転換をする動き
2.2.1
停車ノード各駅における各列車の停車を,停車ノードとして定義する.電子時刻表には,駅に列車が 到着する時刻(着時刻)と駅から出発する時刻(発時刻)が分単位で記載されている.した がって,ネットワークの時刻の基本単位は分とする.また,停車ノードは以下の要素に分け て表現する(図2.2).
着ノード :各駅における各列車の到着
発ノード :各駅における各列車の出発
着発間リンク :列車の到着から出発までの停車
図2.2 停車ノード
着ノードは着時刻と停車している駅(停車駅)の情報を,発ノードは発時刻と停車駅の情 報を持つ.
2.2.2
走行リンク列車に乗って駅間を移動する行動を,走行リンクとして定義する.走行リンクは,移動元 の駅の発ノードから移動先の駅の着ノードへのリンクとして表現する(図2.3).
停車ノード 発ノード
着発間リンク 着ノード
走行リ 施された 幹線」に 定義する 示す [
(a) 座
(b) 肩
(c)
(d)
(e)
(a)
2.2.3
駅で次 発ノーリンクは,列 た大都市交通 に分類する.
る.混雑率が
[27].(a)
座席につく 肩が触れ合 体が触れ合 体がふれあ 電車がゆれ
100%
待ちリンク 次の列車を待 ドからつぎに
列車の種別,
通センサス
.編成定員 が100[%]
〜(e)はそ
か,吊り革 合う程度で,
合うが,新聞 い相当圧迫 れるたびに体
(b)150
ク
待つ行動を にその駅を
図2
,編成定員
[3]を参考 は車両定員
の時,乗車 それぞれ以下
革につかまる 新聞は楽に 聞は読める.
迫感があるが 体が斜めにな
0% (
図2.
,待ちリン 出発する列
着発間リ 着ノード
10 2.3 走行リ
の情報を持 考に,「各駅停 員に編成数を
車人員は定員 下のような状
るか,ドア付 に読める.
が,週刊誌程 なって身動き
(c)180%
4 混雑率の
ンクとして定 車の発ノー
発
リンク ド
ンク
持つ.ここで 停車」,「快速 を掛けた値と
員と等しくな 状況を表し
付近の柱につ
程度なら何と きができず,
(d)
の目安
定義する.待 ードへのリン
走 発ノード
で,列車の種 速,急行等」
とし,路線,
なる.図2.4 ている.
つかまること
とか読める.
手も動かせ
200%
待ちリンクは ンクとして表
行リンク
種別は,2005
」,「有料列車 列車種別毎 4に混雑率の
とができる.
せない.
(e)25
は,各駅にお 表現する(図
5年に実 車」,「新 毎に値を の目安を
50%
おける各 図2.5).
11
図2.5 待ちリンク
2.2.4
待ち合わせリンク駅で待合わせを行なう列車に乗り換える行動を,待合わせリンクとして定義する.図 2.6 のように駅で待ち合わせが発生する場合,先に到着した列車の着ノードから,次に到着し,
先に出発する電車の発ノードへ待ち合わせリンクを張ることで,待ち合わせを利用した乗換 えを可能にする.図 2.7(a)の赤い線(リンク)は,電車の待ち合わせを利用し,電車 11 から電車12に乗り換える様子,図2.7(b)の赤い線(リンク)は,電車22から電車21に 乗り換える様子を表している.
図2.6 待ち合わせリンク
待ちリンク 発ノード
着発間リンク 着ノード
走行リンク 列車2 時間
列車1
A駅
待ちリンク 発ノード
着発間リンク
着ノード
待ち合わせリンク 時間
列車1 列車2
走行リンク
12
(a)電車11から電車12への乗り換え (b)電車22から電車21への乗り換え 図2.7 待ち合わせによる乗り換え
2.2.5
乗り換えリンク駅で別の路線へ乗り換える行動を乗り換えリンクとして定義する.図2.8のように,路線1 と路線2が B駅と B’ 駅で乗り換えが可能であるとする.このとき乗り換えリンクは,乗り 換え元の駅の着ノードから,乗り換え先の駅で乗り換えが間に合う最も早い電車の発ノード へのリンクとして表現する(図2.9).
なお,乗り換えが可能な駅対には,同一構内にあり乗り換えにほとんど時間がかからない 駅対(以下,同一駅と呼ぶ)と,ホームが離れた場所にあり,改札を通過するなど乗り換え に時間がかかる駅対(以下,乗換駅と呼ぶ)がある.同一駅,乗換駅の分類は田口[10]を 参考にする.田口[10]では,同名もしくは似通った名前の駅対,大都市交通センサスに実 際に乗り換える記録のある駅対を拾い出し,駅間の距離,駅の構造,事業者などを考慮して,
個別に同一駅か乗換駅かを決定している.それぞれの乗り換え所要時間は,同一駅では0[分], 乗換駅では
( ) ( )
] [ ] 2
m/
[ 55
] m 2[ 2
]
[ 分
分 分
乗換駅の乗換所要時間 − + − +
= xs xt ys yt
とする.ここで,乗換駅s,tの座標をそれぞれ,
(
xs,ys)
,(
xt, yt)
,歩行速度を55[m/分](=3.3[km/時]),階段や改札の通過にかかる時間を2[分] とする.
列車11 列車
12
時間列車21 列車22 時間
13
図2.8 乗り換えの例
図2.9 乗り換えリンク
2.2.6
折り返しリンク本研究では既存研究にはない列車の動きを簡易的に取り入れるために,折り返しリンクを 新たに定義する.折り返しリンクは終端駅や途中駅で列車が反対方向に折り返す動きを表す.
図2.10のように終端駅で列車が折り返す場合,到着した列車の着ノードから,逆方向に出発 する列車の発ノードへ折り返しリンクを張ることで,列車の折り返しを表現する.なお,実 際の列車の折り返しには最小折り返し時間(列車が逆方向に転進するのにかかる時間)が存 在する.本研究ではこれを2分として仮定し,折り返しリンクを張れない列車がある場合に はその列車が回送になったと仮定をする.
図2.10(a)の黄線(リンク)は,列車11が終端駅であるC駅に到着し,逆方向に出発す
る列車21に折り返している様子,図2.10(b)の黄線(リンク)は,途中駅C駅で上り列車 12が折り返して,下り列車22になる様子を表している.
C駅
B’駅
E駅 A駅
B駅
D駅
路線1 路線2
待ちリンク 発ノード 着発間リンク
着ノード
走行リンク
乗り換えリンク
B駅
B’駅
列車11 時間 列車12
列車21 列車22
14
(a)端駅での折り返し (b)途中駅(折り返し可能駅)での折り返し 図2.10 折り返しリンク
2.3
構築した時空間ネットワーク首都圏の鉄道網を時間軸方向に拡張し,構築した時空間ネットワークを図2.11に,ネット ワークの規模を表2.1に示す.対象とする列車は43,042本である.ネットワークの規模をで きるだけ小さくするため,1 日を通じて停車する各列車の着時刻,発時刻がすべて同じであ る駅は,着ノード,発ノード,着発間リンクをまとめて 1つのノード(停車ノード)として 表現する.以上より,地表面に垂直な方向に時間軸をとり,首都圏の鉄道網を時空間ネット ワークで表現すると,図 2.11 のようになる.図 2.11 は,リンクの種類により色を分けて表 示している.また,この時空間ネットワークの総ノード数は783,533,総リンク数は3,156,349 である.
待ちリンク 発ノード 着ノード
走行リンク
C
駅時間 列車11
列車12
列車21 列車22 折り返しリンク
待ちリンク
停車ノード
停車ノード 走行リンク
C駅(上り)
C駅(下り)
時間 列車11
列車12 列車21
列車22
列車13
列車23 折り返しリンク
15
表2.1 時空間ネットワークの規模 列車本数 43,042
ノード 783,533
リンク 3,156,349
走行リンク 530,589 着発間リンク 218,489 待ちリンク 558,012 待合せリンク 21,084 乗り換えリンク 1,098,305 折り返しリンク 42,506
図2.11 構築した時空間ネットワーク
2.4 大都市交通センサス
大都市交通センサス[3]は,首都圏,中京圏,近畿圏における鉄道,バス等の大量 輸送交通機関を対象に利用実態を調査し,各都市圏における旅客流動量や鉄道,バス等 の利用状況を把握することにより,公共交通施策の検討に資する基礎資料を提供するこ とを目的に実施される交通統計調査である.[25]本研究では,2005 年(平成 17 年)
に実施された第 10 回大都市交通センサス[3]のうち,首都圏の鉄道定期券・普通券 利用者調査を使用する.鉄道定期券・普通券利用者調査の調査期間は2005年(平成17 年)11月15日〜17日である.全体で約800万人にのぼる鉄道定期券利用者のうち,
時間
16
約14万人がサンプルとして選ばれている.以後,2005年に実施された首都圏の鉄道定 期券・普通券等利用者調査を大都市交通センサスと呼ぶ.
大都市交通センサスは,首都圏の鉄道利用者を対象に,最大2回の鉄道利用状況と帰 宅のデータが収録されている.鉄道利用状況では,利用目的(「通勤」,「通学」,「業務」,
「私事」,「帰宅」に分類),出発地の出発時刻,鉄道利用を開始した時刻,鉄道利用を 終了した時刻,目的地への到着時刻,鉄道利用を開始した駅,途中で乗り換えを行なっ た駅,鉄道利用を終了した駅,利用路線毎の利用列車種別(「各駅停車」,「快速・急行」,
「有料特急」,「新幹線」に分類)等の項目が記載されている.帰宅のデータでは,帰宅 経路(1回目,2回目の鉄道利用状況と経路と同じかどうか),鉄道利用を開始した時刻,
鉄道利用を終了した時刻,鉄道利用を開始した駅,鉄道利用を終了した駅のみ記載され ている.以下,鉄道利用を開始した時刻を乗車時刻,終了した時刻を降車時刻,鉄道利 用を開始した駅を出発駅,終了した駅を目的駅と呼ぶ.鉄道定期券・普通券利用者調査 はサンプル調査であるため,これらの項目に加え,各レコードにそのレコードが何人分 を代表するか(拡大率)が記載されている.
図2.12に1回目,2回目の鉄道利用状況と帰宅の乗車時刻の分布を示す.図2.12よ り,1回目は主に朝の通勤通学時間帯,2回目は主に夕方から夜の時間帯の鉄道利用状 況を表していることが分かる.また,1回目の鉄道利用状況では多くの利用者が短い時間 帯に集中して鉄道を利用していること,2回目の鉄道利用状況と帰宅では長時間にわたり多 くの利用者が鉄道を利用していることがわかる.また,帰宅のデータが少ないが,実際の 帰宅の鉄道利用は鉄道利用2回目と帰宅のデータに含まれているためである.なお,大 都市交通センサスはアンケート形式で調査が行なわれるため,乗車時刻,降車時刻など 時刻に関する項目では7時15分や23時00分というようなきりのいい時刻の回答が多 い.5 分刻みの回答が多いため,佐藤[9]を参考にそれぞれのレコードの乗車時刻,
降車時刻を前に4分,後に5分ずつ拡げ,各データを均等に分ける.ただし,2回目の 鉄道利用状況と帰宅に関する回答では,30 分単位の回答が多いため,前述のように均 等に振り分けても,1回目の鉄道利用状況に比べ時刻によって偏りがある.
17
図2.12 乗車時刻分布
2.5
最短時間経路問題(dijkstra
法)
を用いた旅客流動の推定鉄道旅客は目的駅までの所要時間が最短の経路を選択すると仮定し,最短時間経路問 題を解くことで時空間ネットワーク上での鉄道旅客の移動経路を求める.また,最短時 間経路問題はダイクストラ法を用いて解く.ただし,大都市交通センサスの記載内容を 反映するために各旅客の乗車時刻や鉄道利用経路,利用列車の種別(以下,列車種別と 呼ぶ)を限定する.
しかし,大都市交通センサスには帰宅に関する鉄道利用経路は1回目,2回目の鉄道 利用状況と同じかどうかが記載されているのみで,列車種別の記載がない.そのため,1 回目,2回目の鉄道利用経路どちらかと同じ場合は,帰宅のための鉄道利用経路を一致 した鉄道利用状況の経路の逆とし,列車種別も同じとする.それ以外の場合は,鉄道利 用経路,列車種別を考慮しないとする.また,帰宅経路が1回目,2回目の利用経路と 一致するのは全体の鉄道利用者数のおよそ43[%]である.
また,走行リンクの容量を乗車定員の2.5倍とし,得られた経路で使用する走行リン クが容量を超えていた場合,その列車に乗車できないものとし,それ以降の列車を利用 する.しかし,リンク容量に上限があるため,大都市交通センサスに記載されている順 番で処理を行なうと,駅で列車に乗車する順序が必ずしも正しくはならない.つまり,
ある列車に先に乗車した旅客の処理を,後から乗車する旅客より後回しにしたときに,
乗車できなくなることを表している.このような状況を避けるために,大都市交通セン
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000 180,000
0:00 1:00 2:00 3:00 4:00 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 18:00 19:00 20:00 21:00 22:00 23:00 0:00
鉄道利用者数[人]
時刻
1
回目2
回目 帰宅18
サスから各旅客の利用経路を路線ごとに分割し,それぞれの路線について利用開始時刻 順に最短時間経路を求める.
図2.12 旅行時間別旅客数集計(1回目の鉄道利用状況)
図2.13 旅行時間別旅客数集計(2回目の鉄道利用状況)
図2.14 旅行時間別旅客数集計(帰宅)
1回目,2回目の鉄道利用状況,帰宅のデータそれぞれについて最短時間経路問題を 解いた結果から,旅行時間1分ごとに旅客を集計すると,図2.12,図2.13,図2.14が 得られる.図2.12から図2.14より,1回目,2回目の鉄道利用状況,帰宅ともに旅行 時間が30分から40分の旅客が多く,ほとんどの旅客が90分以内に鉄道利用を終了す
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180
旅行時間[分]
旅客数[人]
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180
旅行時間[分]
旅客数[人]
0 5,000 10,000 15,000 20,000
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180
旅行時間[分]
旅客数[人]
19
ることが分かる.
また,図2.15 から図2.17 は大都市交通センサスの回答どおりの旅行時間を横軸に,
最短時間経路での旅行時間を縦軸にとり,旅客数が1,000人以上の組合せを表示したも ので,旅客数が多いほど赤く,少ないほど青く表示している.大都市交通センサスの乗 車時刻,降車時刻はきりのいい時刻の回答が多いため5分刻みに縦長の線が現れている.
図2.15では,45度の線に沿って旅客数の多い点が現れている.従って1回目の鉄道利 用について,大都市交通センサスの旅行時間と最短時間経路の旅行時間はよく一致して いるといえ,時空間ネットワーク上で最短時間経路問題を解くことにより鉄道旅客の流 れが再現できていることが分かる.一方,2 回目の鉄道利用状況と帰宅では,45 度の 線に沿って旅客数が多い点が現れているが,1回目の鉄道利用状況ほど大都市交通セン サスの旅行時間と最短時間経路の旅行時間が一致しておらず,大都市交通センサスの旅 行時間の方が長くなる傾向が見られる(図2.16,図2.17).これは朝とは違い,何時ま でにどこに行かなくてはいけないというような時間的制約がない旅客が多いことが考 えられる.そのため,駅において,混んでいる先発の電車に乗らず,座れる電車を待つ などの行動によって,大都市交通センサスの旅行時間が最短時間経路の旅行時間より長 くなる理由として挙げられる.
図2.15 旅行時間(1回目の鉄道利用状況)
20,000
1,000 10,000 15,000
5,000 旅客数[人]
120 100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間[分]
20,000
1,000 10,000 15,000
5,000 旅客数[人]
120 100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間[分]
20
図2.16 旅行時間(2回目の鉄道利用状況)
図2.17 旅行時間(帰宅)
1,000 10,000 15,000
5,000 120
100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間[分]
20,000 旅客数[人]
1,000 10,000 15,000
5,000 120
100 80
60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間[分]
20,000 旅客数[人]
120 100 80 60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間[分]
1,000 3,000 4,000 旅行者数[人]
2,000
120 100 80 60 40 20 0 0
120 100 80
60 40 20
大都市交通センサス 旅行時間[分]
最短時間経路旅行時間[分]
1,000 3,000 4,000 旅行者数[人]
2,000
21
第 3 章
折り返し運転実施時の旅客移動モデル
ある鉄道路線に大規模な輸送障害が発生し,鉄道会社が折り返し運転を行うと,鉄道 旅客は部分的に途絶された鉄道ネットワーク上を移動することとなる.その結果,旅客 は迂回経路を使い目的地へ向かったり,駅で運行再開を待ち,運行再開後の列車に乗車 したりと旅客流動は通常時の旅客流動とは大きく異なる.本章では,ある鉄道路線に大 規模な輸送障害が発生し,折り返し運転を実施した際の旅客流動を推定するための旅客 移動モデルについて述べる.
折り返し運転実施時の旅客移動モデルの概要について説明する.まず,第2章で説明 した時空間ネットワークの構造を変化させることで折り返し運転を時空間ネットワー ク上で表現する.そして,輸送障害を表現した時空間ネットワークに交通需要を割り当 てることで輸送障害発生時の旅客流動を推定する.折り返し運転を実施する区間では,
通常時と同じダイヤで列車の運行を行うが,混雑による遅延は発生する.
3.1節では,大規模な輸送障害で鉄道会社が用いる,折り返し運転について述べる.
3.2節では,滞留者を定義し,ある路線のどこに事故が発生すると影響が大きいかにつ いて述べる.3.3節では,時空間ネットワーク上での表現について述べる.3.4節では,
折り返し運転を表現した時空間ネットワークに交通需要を割り当てる,鉄道利用モデル について述べる.3.5節では,評価指標と折り返し設備新設駅の検討について述べる.
3.1
折り返し運転とは折り返し運転とは,大規模な輸送障害発生時に鉄道会社が行う一般的な運転整理の一 つである.小規模な輸送障害では,全区間で運転を抑止し復旧と同時に抑止を解除する 方法を取ることにより,列車の偏りなどを避ける事ができ,以後のダイヤの復旧が容易 である.しかし,大規模な輸送障害では,全区間で長時間の抑止をしてしまうと,駅は どんどん人であふれてしまう.また,駅間に停車した列車内で,乗客が長時間閉じ込め られる可能性もある.よって,運行管理者は復旧まで全区間で運転を抑止せず,途中駅 での折り返し運転を行うことにより可能な限り輸送力を確保している.折り返し可能な 駅は分岐駅や車両基地が隣接する駅などに限られ,一般の中間駅にはない.
22
3.2
最大滞留不通区間の推定本節では,ある路線で輸送障害が発生した時に,どの区間で事故が発生すると影響が 大きいかを推定する.つまり,どこで輸送障害を発生させると影響が大きいかを推定す るということである.3.2.1 項では,最大滞留不通区間の推定を行うために滞留者の定 義をする.3.2.2 項では,ある路線で輸送障害が発生すると影響の大きい脆弱な区間を 最大滞留不通区間と定義する.また,滞留者を用いて,最大滞留不通区間の推定を行う.
3.2.1
滞留者の定義本論文では,滞留者を「事故などによる不通区間の設定によって,目的駅まで移動で きない人」と定義する.ここで,目的地まで移動できない人として2種類が考えられる.
まずは,出発駅まで来たが,その駅から列車が出ておらず,駅から移動できない人であ る.その滞留者は,不通区間内の迂回経路のない出発駅で,支障時間内に出発する利用 者を数える.次に,目的駅が不通区間内で,途中駅まで来て,運転再開を待っている人 である.先ほどと同様に,不通区間内の迂回経路のない駅を目的駅としている利用者を 抽出する.そして,その人たちの旅行時間を求め,通常時と比較をし,増加している人 を滞留者とする.以下,E駅の滞留者の算出の例を図3.1と表3.1に示す.E‐F駅間 で輸送障害が発生し,B‐G駅間が不通区間になったとする.この時,E駅の滞留者は,
E駅を出発駅とする人と E駅を目的駅としていて,B駅,G 駅まで出発駅から来て,
立ち往生している人,D,F駅で立ち往生している人の合計となる.
表 3.1 各駅の滞留者の計算
駅 滞留者
A駅,B駅,C駅 なし
D駅 D駅を出発出来ない人+B,E,F,G駅で立ち往生している人 E駅 E駅を出発出来ない人+B,D,F,G駅で立ち往生している人 F駅 F駅を出発出来ない人+B,D,E,G駅で立ち往生している人
G駅,H駅 なし