熱伝導解析によるコンクリート壁面の方位別診断予測
日大生産工(院) ○江藤 亮 日大生産工 栁内睦人 中央工学校 金光寿一 1.はじめに
連続したコンクリート構造物の診断では,赤外線カメラを用いたパッシブサーモグラフィー法が効率的で ある。しかし,太陽エネルギーは季節や天候,また,構造物の方位や傾きによって日射吸熱量が異なり,検 出可能な温度差が得られないことが予測される。そこで,本研究では方位の異なるコンクリート壁面にはど の程度の熱量が供給され,ひび割れ部がどの程度の温度差が得られるかを二次元非定常熱伝導解析から究明 して,水平面全天日射量と入力日射量との関係から各方位別に最適な診断予測を試みたものである。
2.数値シミュレーション
図-1 はひび割れ解析モデルで枝分かれを設けている。構造物は水 平及び鉛直なコンクリート壁を想定したもので,ひび割れ部の温度変 化を明らかにするために上下面をそれぞれ日の出及び日没面として 日射量を入力した。全天日射量及び外気温は過
去 10 年間の晴れ,快晴日の平均値で,各方位面 への入力日射量は Bouguer 式及び Berlage 式を 用いて既往の実験結果から水平全天日射量の 40%として算出した。また,熱伝達係数は両面 ともに 14W/m 2 ・K に設定した。図-2 には 3 月の 各方位への入力日射量を図-3 には外気温を示 す。凡例の数値は最大日射量(W/m 2 )である。
3.解析結果
(1)全天日射量を用いた上昇温度の推定 図-4 は 3 月の入力日射量から得られた
日の出時からのコンクリートの上昇温度 (健全部) と日射積算量との関係である。
凡例に示す各方位の数値は上昇温度を示 している。この日射積算量と上昇温度の関 係では,日の出面と日没面で推移曲線が明 らかに異なっている。また,北東面では,
5℃の変化点以降に再び温度が上昇してお り外気温(7℃上昇)及び反対面である南西
面からの熱伝達の影響を受けている。図-5 には 3,6,9 及び 12 月の入力日射量から得られた各方位面の コンクリートの最大上昇温度と最大上昇温度までの日射積算量との関係を示す。その両者の関係はほぼ比 例関係にあり,各方位面に供給される日射積算量が推定できれば最大上昇温度が予測可能である。図-6 は 各月の全天日射積算量と最大上昇温度までの日射積算量の関係である。両者の関係は相関性が高いとはい
THE DIAGNOSIS PREDICTION IN CONSIDERATION OF AZIMUTH OF CONCRETE WALL SURFACE BY HEAT CONDUCTION ANALYSIS
Ryou ETOU ,Mutsuhito YANAI and Juichi KANAMITSU 図-2 入力日射量(3 月)
0 200 400 600 800 1000
4:00 10:00 16:00 22:00 時刻
入力日射量(W/m2)
北東(126) 南西(259) 東(227) 西(227) 南東(259) 北西(126) 南(242) 北(74) 水平面(310) 底面(74) 全天日射量(793)
図-3 入力外気温
0 5 10 15 20 25 30
0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 時刻
入力外気温(℃)
3月(6.9℃) 6月(6.5℃) 9月(5.7℃) 12月(6.0℃)
数値は日の出時からの 上昇温度
図-1 解析試験体モデル
200
21 0
260 100 240
18 0
幅:0.2mm 角度:35°
単位:mm
図-4 上昇温度と日射積算
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
0 1000 2000 3000
日射積算量(W/m2・h)
上昇温度(℃)
北(9.9℃) 北東(9.6℃) 東(9.9℃) 南東(12.6℃) 南(14.2℃) 南西(15.4℃) 西(14.6℃) 北西(11.7℃) 水平(16.7℃) 底面(10.5℃)
図-5 最大上昇温度と日射積算量
0 5 10 15 20 25
0 1000 2000 3000
最大上昇温度までの日射積算量 (W/m
2・h)
上昇温度(℃)
北 北東 東 南東 南 南西 西 北西 水平 底面 y=0.0069X+ 4.9211 日の出面からの透過熱 が影響
えないが,各方位を季節別でみると良好な比 例関係にあり,全天日射積算量から最大上昇 温度までの日射積算量及び最大上昇温度を 推定できる。構造物の方位は既知であり,測 定日の全天日射積算量も算定可能である(図 -2 参照)。 図-7 は各方位別の上昇温度である。
厚さ 210mm の壁面は,各方位面別に最適な診 断時期が確認できる。
(2)上昇温度とひび割れ温度 図-8 には,上昇温度と枝分かれしたひび割
れ部の中央 (上面左端から 510mm の位置)か ら健全部の温度を減算した温度差との関係を, 図-9 には,健全部とひび割れ発生部(底面左 端から 200.2mm の位置)との関係を示す。この 季節毎の温度差と上昇温度との関係は,両者 ともに同様の傾向を示しており,同上昇温度 であっても日の出面側(北東・東・南・水平) に対して日没面側は熱量の供給が昼以降と遅 くなっているために 6 月の南面を除き温度差 が小さい。特に,枝分かれひび割れ位置が深 くなるほど,この最大温度差は小さくなり,
最大温度差が得られる時刻も異なってくるが,
どの程度の深さまでなら検出可能であるかは 季節毎に推定可能である。
(3)晴れ時々曇りの上昇温度と診断予測 図-10 は,9 月 15 日に得られた晴れ後曇り 時の水平面全天日射量である。日の出から日
没までの全天日射積算量は 3,495W /m 2 ・h で快晴を想定した計算値は 6,278 W/m 2 ・h となる。解析への入力日射積算量は全天日射積算量の 40%とすると,
それぞれ 1,398 W /m 2 ・h と 2,511W /m 2 ・h となる。図-11 に上昇温度の比較を 示す。快晴と曇り時の上昇温度の比較では,日射面及び底面ともに約 5℃ほど の温度差がみられる。この曇り時のランダムな日射量から最大上昇温度が予測 できるかでは,図-6 の水平面の回帰式に 3,495 W/m 2 ・h を代入し,さらに図-5 から上昇温度は 12.54℃となり,図-11 の 13.8℃と良く一致している。また,
510mm の位置のひび割れ部の温度差では図-8 に健全部の上昇温度 12.54℃を代
入すれば,温度差 0.31℃となり 0.34℃と一致する(図-12 参照)。このように,快晴時の全天日射量は算定可 能(図-10 参照)であり,この全天日射量を基準として赤外線カメラでの検査時と平行して計測された日射 量とを比較することで,さらに検出精度を期待して再診断を行うのかどうかの判断が可能となる。
5. まとめ
(1)コンクリートの方位から最大温度時刻及びその日射積分量も推定可能であり,全天日射積分量から上昇温 度を予測することができる。(2)壁面方位によって最適な診断時期が存在し,東面等では上昇温度に 5℃ほど の差が生じる。(3)日陰面であっても版厚 210mm では,熱透過から診断時間を長く利用できる。
図-12 温度差(510mm)
-0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 0.25 0.5 0.75 1
時刻
健全部との温度差(℃)
快晴 曇り
図-10 曇り時の日射量
0 200 400 600 800 1000
4:00 10:00 16:00 22:00
時刻
日射量(W/m2 )全天測定値 日陰測定値 全天計算値 天空計算値
図-11 快晴と曇りの比較
0 4 8 12 16 20
4:00 10:00 16:00 22:00
時刻
日の出時からの上昇温度(℃)
快晴水平 快晴底面 曇り水平 曇り底面 外気温
図-8 ひび割れ温度差(上面) 図-9 ひび割れ温度差(底面)
y = 0.0168x + 0.0992 R
2= 0.9893
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 10 20 30
健全部の上昇温度(℃)
健全部とひび割れ部の温度差(℃)
北(0) 東(90) 南(180) 西(270)
水平
0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
0 10 20 30
健全部の上昇温度(℃)
健全部とひび割れ部の温度差(℃)
北(0) 東(90) 南(180) 西(270) 水平
0 500 1000 1500 2000 2500
0 2000 4000 6000 8000 全天日射積算量(W/m
2・h) 最大上昇温度ま で の 日射積算量 (W /m
2・h )
北(0) 北東(45) 東(90) 南東(135) 南(180) 南西(225) 西(270) 北西(315) 水平 底面
図-6 全天日射積算量との関係 5 10 15 20 25
0 90 180 270 360 450 540 壁面方位(°)
上昇温度(℃)