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『戯場百人一首』演劇資料としての狂歌集

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(1)

『戯場百人一首』演劇資料としての狂歌集

著者 山田 和人

雑誌名 同志社国文学

号 50

ページ 15‑52

発行年 1999‑03

権利 同志社大学国文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000005185

(2)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

山  田 和  人

 ﹃戯場百人一首﹄は︑絵入りの狂歌集である︒﹃小倉百人一首﹄をほぼ順番にもじって︑当時の劇場の様子を読み込んでい

る︒下の句は百人一首のままにして︑上の句だけをもじっている︒狂歌そのものとしては︑必ずしも秀逸な狂歌集とは言え

ないかもしれない︒だが︑収められている絵とあわせ見るとき︑文化・文政頃の江戸の劇場の生態を提えるうえで興味深く︑

演劇資料として資するところの大きい狂歌集といえる︒

 構成は︑半丁ごとに二首の狂歌を配している︒百人一首の作者順にそれをもじった狂歌を︑上部に配し︑その下に︑それ

ぞれに勝川春亭の絵が描き込まれている︒この画文一体の構成が︑当時の劇場の様子をあますところなく捉え︑客席︑舞台︑

役者︑道具︑鼠廣などをいきいきと描写し得ている︒

 本書は︑文政三年に初版が刊行され︑文政六年に再版されている︒再版の際に︑岩井半四郎の小野小町︑市川団十郎の在

原業平の絵表紙を付している︒

 なお︑本書は︑国会図書館︑京都大学︑早稲田大学︑西尾市立岩瀬文庫︑武藤禎夫氏を始めとして︑相当数が所蔵されて

いるようだが︑今回は︑文政三年版︑六年版をともに所蔵している︑洛東遺芳館本を用いた︒ただし︑文政三年版には一部

破損個所があり︑それについては︑文政六年版で補った︒参考のために︑文政六年版の当該個所及び︑六年版の表紙を影印

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集      一五

(3)

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集       一六

編の最後に掲げた︒

 平成一一年二一月に︑武藤禎夫氏の﹃もじり百人一首を読む﹄︵東京堂出版︶が刊行され︑﹃戯場百人一首﹄の狂歌六八首︑

挿絵八図が収められたが︑前述のように︑本書を演劇資料として立置づけた場合︑狂歌と絵を共に影印で収めて紹介すべき

であると判断し︑ここに全文を掲げることにした︒

書誌の概要

所蔵

外題

内題題祭

表紙寸法

冊数

丁数判型

作者

版元

奥付丁付 洛東遺芳館戯場百人一首小倉/狂歌/戯場百人一首原題簸﹁戯場百人一首全﹂原表紙 茶色 無地縦一七・七センチ横二一・七センチ

一冊二二丁

中本諌鼓堂尾佐丸

春松軒西宮新六

文政三年庚辰春/正月吉日/鈍々亭蔵版/春松軒西宮新六

上部に﹁百人﹂とあり︑下に丁付を記す︒

(4)

序一︑序二︑序三︑一−四︑□︑六−二十︑廿一

続けて︑上部に﹁百人﹂︑下に﹁敗﹂とある︒

備考表紙見返しに︑界線で三行に区分されて︑

  戯場百人一首﹂︑左に﹁勝川春亭狂画︵印︶﹂

他に︑所蔵

外題

内題

題簸

表紙

寸法

冊数丁数

判型 −廿五︒次から上部に﹁百人政﹂︑下に︑廿六︑廿七︒

右に﹁本町庵三馬先生序/諌鼓堂尾佐丸戯作﹂︑

とある︒

後刷りの二冊合冊本がある︵以下︑仮に上下と表記︶︒

洛東遺芳館

なし以下の通り

狂歌小倉百人一首文政六年癸未春新版開見式亭一二馬編撰栄久堂板

狂歌小くら百人一首 式亭三馬ゑらふ 山もと栄久堂にちりはむ

なし原表紙 茶色 無地で合冊︒各冊とも︑彩色 絵模様の表紙︒

﹁式亭一二馬撰 狂言百人一首全 発行栄久堂﹂

﹁当時高名家百人一首狂歌撰 文政癸未の春 よし町川おやぢ橋角 山本版﹂

縦一七・九センチ横二一・四センチ

ニ冊各十五丁

中本

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集 中央に﹁小倉/狂歌/

一七

(5)

 作者

 版元

 奥付

 丁付

 上

 下備考  ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集 諌鼓堂尾佐丸 山本栄久堂 なし︒裏表紙見返しに出版目録あり︒ 上部に﹁百人﹂とあり︑下に丁付を記す︒ 序一︑序二︑序三︑一−四︑□︑六−十二︒ 十三−二十︑廿一−廿七︒

表紙には︑それぞれ︑五世岩井半四郎の小野小町︑七世市川団十郎の在原業平が描かれている︒

 翻刻に際して以下の諸点に留意した︒

 底本を忠実に翻刻することを原則としたが︑次のような校訂を施した︒

 1 仮名は現行の字体に統一した︒捨て仮名はそのまま残したが︑それ以外の﹈一﹂﹁ハ﹂﹁ミ﹂は

  た︒ 2 漢字は通行字体を原則とし︑できるだけ異体字は用いなかった︒

 3 漢字︑仮名ともに︑仮名遣い︑清濁は底本の通りとした︒

・畳字は︑平仮名は﹁こ︑漢字は﹁々一に統一した︒ただし︑﹁く一は底本のままである︒

 5 各丁の表・裏は︑実丁数の数字とオ・ウの略号を︵ ︶に入れて示した︒

 本書の紹介にあたり︑翻刻を許可せられた洛東遺芳館館長香川聖一氏に深謝申し上げます︒なお︑

同志社大学学術奨励研究の成果の一部です︒

﹁に﹂﹁は﹂﹁み﹂とし

本稿は︑一九九六年度

(6)

翻刻篇

 序をぐらやま  ぺつさう       えら         きやう二くくわうもんていかきやう      あほしばゐ  さんじさ       よみ       かんこだうを さまろ小倉山の別荘に百人一首を撰み給ひしは京極黄門定家卿なり︒大戯場の花掴に一人百首を詠たりしは諌鼓堂尾左丸なり︒

かれ  まんえふこきんしふ  さるわか      わ か  かきぬき       じだいさやうげん       うた   とり  みそひともじ  いはゆる       でん彼は万葉古今集︒猿若ならぬ和歌の書抜︒第一番めの時代狂言にして︒歌よみ鳥の三十一字は所謂さとの子のん太郎︒伝

ばうくみ  まなこ      まんざいとうざいしふ      ぱ       すめ  も︑さへづ    いはゆるみ坊組の眼におよばず︒是は万載東西集︒狂言っくし狂歌の正本﹂第二ばんめの世わ場にして︒芝居雀の百噂りは所謂見

かうしやがくやさがし  ひ・きれん  み・  よろこ       もと         きやうか       み  きやく  ひと      のきならび  けじやう功者楽屋探︒晶虞連の耳を歓ばしむ︒素より和歌と狂歌とはおなじ茶屋から観る客に斉しく︒狂言狂歌は連稽の戯場

 に    ふうてい   かくしき       たいよう        つき  し きこひざう  けんだいあが   しよにちいで  ぷたい     きそくたに似て︒風体あり格式あり︒シテワキあれば体用あり︒四番続の四季恋雑︒兼題上つて初日出︒舞台廻つて規則立つ︒序

まく  えん二  おほづめ  きよう         おちあひ  ば  れんぞく       すぢ      ひかう  ぷんだい  でぱや幕の縁語は大詰に興をむすび︒落合の場に連続するはだんまりの幕︵一オ︶に条を流せばなり︒されば披講の文台は出麟

し  もうせん  つらな    かうしどくし      さみせん  はつせいざ       ぢよせい  ながれ  かた        このまく  でがたりじやう      なが子の毛暁と列り︒講師読師の太夫三絃︒発声坐が・りにうたひ出れば︒助声の流を語るあり︒此幕の出語浄るり︒長う

    こんほんか   せどうくわいぷん        で      あにうちだし  ことぱ       たうざだい  たつぎん  かはりやくしや  たつしやたあれば混本歌︒旋頭回文ついて出ませうとは量終場の言のみならんや︒当坐題の達喰と代役者の達者とにあるべし︒   あや     ふきみづ     かざし 二とば      みつじ  さ・や あゆひ 二とば       こそアニフ怪しやとは吹水をにらむ挿頭の辞なり︒ぢやはいなアとは密事を曝く脚結の辞なり︒申上升何ごとぢや︒社すれ

やらんとがき      て に はおもひれくつかんむり  でんじゆひみつ  あ・二ざ      こ二      さんじつきう  はりこ  くび也覧トのよみ方︒手爾葉○沓冠︒云授秘密は汗ムり升かな︒さるほどに麦に又︒大太刀ひらめいて三十級︒張紙の首

 なげいだ     まくやうみとく      けんぷつ       ほんみづ  くみ  ほんこめ  かし   かま     まこと  もや   しやうじんを投出すは︒ド養未得の昔狂言となりて︒今の看客ヤンヤとはいはず︒本水を汲て本米を炊き︒釜の下を宴に燃して正真

 いも   に      きんてい      はんじや     あたら      よろこ       ひとの芋を煮るは︒近体の小刀細工といへども︒今の判者しかも新しきを喜ぶ︒其はなはだしきに至ては他の︵一ウ︶廷言す

 ひま  おのれ  まおち  ほかまうけ       けんぷつはうだい    とがめず    かへつ  すき        ほ  あそび       よろこ       をんながたる隙に己が場落の余計をするあり︒看官傍題をも不答して却て透がないと誉め空隙がないと喜ぶ︒さる中にも女形の

しよさ      わるみ  だうけ  まじふ      こらい  ふうてい      なかの し       いにし    まなぱ所作ぶりに醜身の道化を交ることは︒古来の風体なるをもしらずして︒いっも中野溢とほむるたぐひは︒古へを学ざる

へきけん     せんぎんとうるい  わけ       わづか     きうざ  やくしや  こと  たいびやう  うはさ       ひろ  み     をくせつ     ひやうとうどう僻見にして先吟等類の訳をしらざるなり︒僅一チ日休座の優子を殊に大病と噂するは︒博く試ざるの億説にして平頭同

じ  やまひ      あるひ       てい  あるひ  おほさつま  おに    とりひし  てい     ことく      その字の病をしらざるなり︒或は江戸ぶしのひとふしある体︒或は大薩摩の鬼をも取拉ぐ体など︒悉くかぞへあげなば其

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集       一九

(7)

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集      二〇

かずりくていしちへんげ   やくもはつけい    つき  このころりうかう  しよさこと  に       なが     こ・        そもくわ か       この数六体七変化︒八雲八景十二月︒迩日流行の所作事に似て︒こと長ければ薮にいはず︒抑和歌をたしみ芝居を好み︒狂言

 くはし  さぐ       ぎん    もの  たれ         ひとりかん二だうを さまろ         じやうず      すぎ      しろうと  み・  とほを委く探りて狂歌ををかしく喰ずる者は誰とかする︒独諌鼓堂尾左丸なり︒此人上手になり過て︒狂歌は素人の耳に遠く︒

   た︑︑くろうと       しぱゐ       しろうと      みかうしや        がくや   こゑ  から      なげ    しろうとおち︵ニオ︶唯黒人の悦ぶのみ︒劇場は黒人の目もおよばず素人ならぬ見功者なれば︒戯房で声を唖さんことを嘆き︒素人落を

おも     たはぷ      つひ    ひやくしゆ     きやうげんぼん  みず   こじん ふうてう くはし もんきりかた うつ表にせばやと戯れにつらねし歌ども︒寛には芝居百首となりぬ︒狂言本をも不閲して古人の風調︒微く紋切形を移し︒

あふむせき   よまず   わか  こわいろ こまか しんめんもく  え    およそ    もとづき   をぐら     おほ        ゐたく     いへな鶉鵡石をも不読して和歌の声色︒細に真面目を得たり︒凡百首に原たる小倉もどきは多かる中にも︒居宅は堺町で家名

      きうきん  うそ      で        よみいで      くらべ    このひやうばんき      まつくろきち  うたよみは何がし屋︒給金は謹八百両出たらめに詠出たりしてにはもしらぬたぐひに比ば︒此評判記は大極上︒真黒吉の歌人とや

まを      そのむかしこんだううぢ       きりおとし  おち       かれ  うへ         らくしゆてい  まぬか        くてう  たかど ま告さん︒晴昔近藤氏のどうけ百首︒よく切落に落たり︒さるを彼が上をまたぎて落首体を免れしは︒口調の高土間にあ

      ちかころきやうかだう       さんじき  うけ      それ  かた      きやうかてい  うしなは        くっ︑・きるゆゑなり︒迩来狂歌堂のどうれ百首︒よく桟敷に受たり︒さるを夫と肩をならべて狂歌体を失ざるは︒句続の︵二

  っきさじき      てんちてんわうせみまろ みなわりこみ おしあひ   こんぴら    さいぎやう  ざじゆん       ぱんつけウ︶続華掴にあるゆゑなり︒天智天皇蝉丸も皆割籠に押合て︒金毘羅さまも西行も坐順はかまはぬ百首に引かへ︒番附

づら  くらゐ  わか    はくけん   へだて  せき  さだ    めいじんじやうず  きやうかじん  しよこく  あまた      なか    なか       たはれうた面の位を分つに○舶を隔て席を定むる名人上手の狂歌人︒諸国に許多のなつかよ中よ︒中にもをかしき戯咲歌︒よま

    みやう        き どげいしや  よみたて       かやう  まを      こわいろつかひ  こふう  なら    じよ  いで        ほんちやうあんれたりな妙でんすと木戸芸者の読立めかして︒たしか斯様か告されし口技的人の古風に徽ひ︒序に出まするは本町庵︒/

御ぞんじの/式亭三馬戯題︵印︶/文政二年巳卯孟阪︵三オ︶

序文に続けて︑見開きの挿絵と狂歌がある︒

     げいのう  ひいで  よし       ゃまとや僧正遍昭 芸能は秀て佳と三つ大のその大入や人の大和屋

     はいみやう  にしき  ます       まく      もと大伴黒主 俳名の錦の升にはかりこむひ・きは幕のあくをまっ本

       ぐみ  ます      ひ・き在原業平 三っ組の升のすみからすみまでももれぬ鼠貝は市川の水

文屋康秀 くれなゐの梅の花さくひやうばんは尾上のかねの音にひけり

     そめぬき小野小町染貫のまくにひ・きとかきつはた岩井の水に江戸のむらさき

(8)

      なには喜撰法師わか庵はみやこのたつみ難波にて世をたのしめるはらの中むら︵三ウ.四オ︶

 本文

天智天皇

 すひ       き        わ  二ろもで  つゆ 吸ものをこぼした人の気のどくさ我が衣手は露にぬれっ︑

持統天皇

 みづじあひ       ころも 水仕合すみしあとにはしぼりたる衣ほすてふあまのかぐ山︵四ウ︶

柿本人麿

 むすめ   二娘の子あすのしばゐをまちかねてながくしよをひとりかもねん

山辺赤人

 きやうだい もら かりば  ゑづめん     たかね  ゆき 兄弟の貰ふ狩場の絵図面もふじの高根に雪はふりつ・︵五オ︶

猿丸大夫

 いりあひ  かね       こゑ 入相の鐘ニツ三ツひぐらしの声きく時ぞ秋はかなしき.

中納言家持

 よひ  ま  きやうげん      よ  ふけ 宵の間の狂言してもあんどうのしろきをみれば夜ぞ更にける︵五ウ︶

安倍仲麿

 まつしろ        な 一︑一や  もんどころみかさ 真白に見ゆる名古屋が紋所三笠の山に出し月かも

喜撰法師       わた       よ 我がのぞむさじきをよそへ渡されっ世をうぢ山と人はいふなり︵六オ︶

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集一一一

(9)

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

小野小町 書やうげん        だうぐ         ゆくわがみ 狂言もまはり道具にうつり行我身世にふるながめせしまに

螺丸      で         きどくち       せき これやこの出るもはいるも木戸口にしるもしらぬもあふさかの関︵六ウ︶

参議篁 おはあた  やくしやぴいき       ぷね 大当り役者品員のひやうばんを人にはっげよあまのっり舟

僧正遍昭      きどぐち をとめ すがた あなたがたどのさじきじやと木戸口で乙女の姿しばしとめん︵七オ︶

陽成院       でいり みづじあひ はじまりは女出入の水仕合恋ぞつもりてふちとなりぬる

河原左大臣        まちがひ  ぴん けんくわした人問違で責の毛のみだれそめにし我ならなくに︵七ウ︶

光孝天皇

 ぷたいぎは      さむ      わがころもで   ゆき 舞台際からだはさのみ寒からで我衣手に雪はふりつ・.

中納言行平

 とも    号 供に来たでっちはうちへいなばいねまっとしきかば今かへりこん︵八オ︶

在原業平朝臣

 もみじゆばん言  な      はし      みづ 紅絹橋襟着て投げらる・橋のたてからくれなゐに水くヅるとは

藤原敏行朝臣 二一一

(10)

     こ     やくしや     ね       ぢ むすめの子ひいき役者を思ひ寝のゆめのかよひ路人目よぐらむ︵八ウ︶

伊勢       なか けんくわする中引わけてた・かれつあはで此世をすぐしてよとや

元良親王

 つけ      しゆかう  おや  かたさやく 付ねらふ趣向は親の敵役に身をつくしてもあはんとぞおもふ︵九オ︶

素性法師

    あひて      ふみ      ありあけ         いで やみ仕合手に入る文をとりおとし有明の月をまち出つる哉

文屋康秀織蜥と賛と繊はかはれどもむべ山鰍をあらしといふらむ一九ウ一

大江千里

 わりあひ   ど ま 割合の土間を見すて・出るをしさわが身ひとっのあきにはあらねど

菅家

 みわた       わ.けゆひ見渡せば土間やさじきに髭結のもみぢのにしきかみの乏く一一〇オ一

三條右大臣

 しばゐ 芝居ずき廷言ごとにか・さねば人にしられてくるよしもがな

貞信公

      しぱゐ  きやく ふるまひし芝居の客の心あらば今ひとたびのみゆきまたなん︵一〇ウ︶

中納言兼輔

 さけ      ちや        ま 酒のみは茶やの来る問をまちかねていつみきとてか恋しかるらむ

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集一=二

(11)

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

源宗干朝臣       くさ うづらまでなみだもよほすしうたんに人目も草もかれぬと思へば︵一一オ︶

凡河内躬恒

      一.一ざし着      はな いくっ目か同じしるしの産敷ておきまどわせるしらぎくの花

壬生忠峯     かは   いしよう 早かはり替る衣裳におしろいのあかっきばかりうきものはなし︵一一ウ︶

坂上是則      ちやや  りやうり   だ 気のきいた茶屋の料理に出しものもよし野のさとにふれるしらゆき

春道列樹 ゑが         こ   は  なみ 画きたる川に木の葉の波まくはながれもあへぬもみぢなりけり︵二一オ︶

紀友則

       あた  きやうげん ひやうばんはあらしが当り狂言にしづ心なく花のちるらん

藤原興風

 わり     さけ       とも 割土問に酒の相手の二一人まつもむかしの友ならなくに︵二一ウ︶

紀貫之

 さんかく  かみ         いろ       か  にほ 三角な紙ちるばかり色けなくはなぞむかしの香に匂ひける

清原深養父

      さ       くも あんどうをぶらりと下げて引上る雲のいづこに月やどるらむ︵二ニオ︶

文屋朝康 一一四

(12)

        りう     だ ち いつとても市川流の大太刀をっらぬきとめぬ玉ぞちりける

右近

 着りおと  くび       しあはせ    いのち         ある 切落す首ははりこでお仕合人の命のをしくも有かな︵二ニウ︶

参議等         さかな  ぺんたう手をっけたばかり肴に弁当のあまりてなどか人のこひしき

平兼盛 ひ   やくしやで  まち      がんしよく       と 引く役者出を待かねる顔色はものや思ふと人の問ふまで︵一四オ︶

壬生忠見        やくしや 美しきひゐきの役者むすめきの人しれずこそ思ひそめしが

清原一兀輔

他鍬よくはえたごとくに禁をすゑのまっ山なみ・一さじとは一一四ウ一

権中納言敦忠

 暑         はなみち  おつ       気がっけばみな花道へ追てゆくむかしはものを思はさりけり

中納言朝忠 わりとま      しぱゐすき       うらみ 割土問におしあふて見る芝居好人をも身をも恨ざらまし︵一五オ︶

謙徳公      み てら子やのつくへにのりしよだれくり身のいたづらになりぬべきかな

曾禰好忠      おつ       ゆくゑ ぬれ事しかたきのあとを追つかけて行衛もしらぬ恋の道かな︵一五ウ︶

     ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集 一一五

(13)

     ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

恵慶法師 き ど    きうようよぴ 木戸迄の急用呼てもらへども人こそ見えね秋は来にけり

源重之      ちやいれ  ひ ︑︑     づ・       ころ にせもの︑茶入は日々に一っ宛くだけてものをおもふ比かな︵ニハオ︶

大中臣能宣朝臣

 おほづめ       しよくだい 大詰にとぼして見する燭台もひるはきえっ・物をこそおもへ

藤原義孝      まく      けんぷつ  なが うちだしの幕ををしみて見物の長くもがなと思ひける哉︵ニハウ︶

藤原実方朝臣

   やくしやよん  もら    さかづき ひく役者呼で貰ふて盃をさしもしらじなもゆるおもひを

藤原道信朝臣

 しばゐみ るすゐ    ゆふぺ  なほ 芝居見の留守居せよとの夕より猶うらめしきあさぼらけかな︵一七オ︶

右大将道綱母

 ひいき      まく  あく       ひさ 晶員する役者の幕の明るまはいかに久しきものとかはしる

儀同三司母       よ ひとかたなきっかけも能キかへりうちけふをかぎりのいのちともがな︵一七ウ︶

大納言公任

しばらくと柏きな声をあげまくに枠こそながれて灘き一えけれ

和泉式部 二←ハ

(14)

献つきの費に慾をおくりては今一たびのあふ籔もがな一一八オ一

紫式部

 ︑       くも      よ は 離かきはにげてのあとのやみじあひ雲かくれにし夜半の月かな

大弐三位

 処しぶり土間であふたは識やらといでそよ人をわすれやはする︵一八ウ︶

赤染衛門様かけ警いっぱい概かへしかたぶくまでの月を見しかな

小式部内侍       やくしや      ふみ 大江戸くだり役者のはつぶたいまだ文も見ずあまのはしだて︵一九オ︶

伊勢大輔

絆藪をせり出す熾はさうじゆっのけ春戴に蛾ひぬるかな

清少麹言      さど       せき むかしとはちがふて木戸もきまりあるよにあふ坂の関はゆるさじ︵一九ウ︶

左京大夫道雅

 鮒廊ぞと微耕にあふてくちづから人づてならでいふよしもがな

権中麹言定頼      .ぎ 朴声都勘つかふこはねも出たやうにあらはれわたるせ・のあじろ木︵二〇オ︶

相模 ぬれごと肝見るばかり手もさ・れずに恋にくちなん名こそをしけれ

     ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集 一一七

(15)

     ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

大僧正行尊

      ぺ         ほか 大入におされてひとつせつな屈のはなより外にしる人もなし︵二〇ウ︶

周防内侍 ちうしん         やくしやふかで       な 忠臣ののりぢの役者深手にてかひなくた・ん名こそをしけれ

三集院      むすめ       よま やっしがた見ほれし娘わすれかねて恋しかるべき夜半の月かな︵二一オ︶

能因法師 ぷたいぎは       いた     まいたつた 舞台際ゑがきし板の;二枚立田の川のにしきなりけり

良退法師 まく       びやうし  いなか 幕あきのきぬた拍子や田舎うたいづくもおなじ秋の夕ぐれ︵二一ウ︶

大納言経信

 わり       と ま 割こみの土問で見る人きうくっなあしのまろやに粥鰍ぞふく

祐子内親王家紀伊

      ちや  さけ そそうもの上さじきから茶か酒かかけしや袖のぬれもこそすれ︵二ニオ︶

前中納言匡房

 おくふか  はな  し       とやま  かすみ 奥深く花の仕かけを見わたして外山の霞た・ずもあらなむ

源俊頼朝臣

 きりわと 切落しあたりてけんくわ大さはぎはげしかれとはいのらぬものを︵二ニウ︶

藤原基俊 一一八

(16)

         な︑︑一り をしまれし役者は名残狂言にあはれことしの秋もいぬめり

法性寺入道前関白太政大臣

 おほじかけうみ      ひきあ   くもゐ     おきつ大仕懸海をだんく引上げて雲井にまがふ沖津しらなみ一二一一オ一

崇徳院

    ゐ       すゑ       一 かりに居てはなすとなりのさんじきはわれても末にあはんとぞ思ふ

源兼昌

 やくそく  しばゐ  とも      よ      せきもり 約束の芝居の供もまちかねていく夜ねざめぬすまの関守一二三ウ一

左京大夫顕輔

 さんがい        くも  あいだ       ︑ 三階にたなびく雲の間よりもれ出る月のかげのさやけさ

待賢門院堀河

    やく       くろかみ とつた役むすんで出たる黒髪のみだれてけさはものをこそ思へ︵二四オ︶

道因法師    ま うれひ場になかじとすれど女中づれうきにたえぬはなみだなりけり

後徳大寺左大臣

 やみじあひ  まくぎは ひ      一 闇仕合する幕際は日おほひにた有明の月ぞのこれる︵二四ウ︶

皇太后宮大夫俊成

 ふえ   ね        きこ      み す      おく    しか 笛の音は下坐に聞えて山翠簾の山の奥にも鹿そなくなる

藤原清輔朝臣

        すがはら      よ ながらへばまた菅原の白太夫うしと見し世ぞ今は恋しき︵二五オ︶

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集一一九

(17)

    ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

俊恵法師 女形身を任すのもたからゆゑねやのひまさへつれなかるらむ

西行法師       とほ やくしやよりからしを通すはな道にかこちがほなる我なみだかな︵二五ウ︶

寂蓮法師 けんぷつ 見物もまづ今日はこれぎりときり立のぼる秋の夕ぐれ

皇嘉門院別当

 なりひら      しもぺなりへい 業平もやっせば下部業平と身をっくしてや恋わたるべき︵二六オ︶

式子内親王

 かたひいき       まへ 片晶虞するのも人の前ありてしのぶることのよわりもぞする

段富門院大輔

 しろたへ  さらし  ふどしみづじあひ       いろ 白妙の晒の揮水仕合ぬれにぞぬれし色はかはらず︵二六ウ︶

後京極摂政太政大臣

 かたきやく  けいせい       ころも 敵役又傾城にふられては衣かたしきひとりかもねん

二條院讃岐

 みちゆき      ないしやう      ま 道行に見とれる女内讃は人こそしらねかはく問もなし︵二七オ︶

鎌倉右大臣

 はなみち  ぷたい     ひきだうぐ       をぷね 花道や舞台の上を弓道具あまの小舟のつなでかなしも

参議雅経 三〇

(18)

独哉に野もよほすむら融のふるさとさむく衣うっなり一二七ウ一

前大僧正慈円

 きやうげん  なだい  ふ じ みさいぎやう      ︑    そで 狂言の名代は富士見西行とわが立そまにすみぞめの袖

入道前大政大臣

 他籍まで見よとす・めもき・入れずふり行ものはわが身なりけり︵二八オ︶

権中納言定家      一︑︑一ひいさ おまへさん何がしさんが御晶虞とやくやもしほの身もこがれつ︑

正三位家隆

 棚州のせ酢へもち遮嚇もの・みそ如ぞ夏のしるしなりける︵二八ウ︶

後鳥羽院      たいへいきよ      み かたき役ほろぼすときの太平記世を思ふゆゑにものおもふ身は

順徳院 じだい︑︑一と       かね      なほ 時代事あたりて金のまうかれば猶あまりあるむかしなりけり︵二九オ︶

 自蹴わざをきみちをさま みよ   もの  うべ 君まく  たか二   み   みし二すき ︒ぺんとうくさけ俳優の道は納れる御代のうっは物なりと︒宜なる哉︒幕あきの田の苅穂には︒実をいれて見る芝居好あり 弁当を喰ひ酒     われし ま  すぎ な;   しろた一 ゆ   き さじき芒あ あつた︑た︑あつ   みつねつねみを鮒めば・我知らず腹のはる過て︒夏来にけりな白妙の︒湯かたびら着て桟敷に押合ひ︒敦忠の唯暑きにも︒拐恒の常に見

るを毒︒び・よしあし蛾の雌島るは・狂一言の講つ蟹の譲・講寛ざる人までもつい醸て見象になりけむ︒掌の

うら欝柏茶屋まで・露の一二九ウ一おさ茅朴っどひて・入りは蜜の和さとまでも︒講つ畿−や離ゆらん︒されば激

     ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集       三一

(19)

     ﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集      三二

嘩つ卸の歓戯き帥の︒譲のっらきもいとはで・麟き臓きも韓の・きせむをいはず嚢く饗・としよりもゆき余集   ね      ひで      た・       この   ひ; 婁こ

る︒価のたかむらもやす秀といひ︒きのっらゆきもよし忠と思ふは︒おのく好む心より農の眼も避ふなるべし・撚も

人もそのこ歳ざしは麓の︒韓ならぬ君彫に・君の骸のでんぼ︑つは・隷臨にはらふも棉なん・嚢の鐵ひはさらにも

いはず︒繍ひの争ぬ撚ひ慈あれば︒客せ森のむ鵜き隷・一三・オ一灘榊の瀧らにいでたち・勢のしげく俄かふ・花道

缶人くをはじめて︒豪譲︒撚くの役者の却に琳るまで・錨さず澱さず滅つ肺に瞥て・どうけ哉く哉の叫まねする・力の  苔     ひと     あつ いつさつ         わざ彼あふむ石といふものに等しく︒っいに集めて一冊となせり︒人わらへなる業とはしれど︒たに雌むも概嵌しければ・概

に織たる崇雌︒をぐらきより熾あ腓らかに︒搬して脳をかきの差・磯さぬ︐諏ばのあとや埣かぞへあげなば戴や・哉き

しゆかう  おろか       なほ趣向の愚さを︒もし見給はむ人あらば︒しのぶにも猶あまりある︒たはけとやいはむ我はいとはじといふ・諌鼓堂尾佐丸

述︵三〇ウ︶

 敗かんこだうつねしぱゐ この     うた     きやうげんきやうかこと は諌鼓堂常に芝居を好み︒又たはれ歌をたのしむ︒狂言狂歌言の葉をならぶる・一とおなじうして一見る人きく人の︐仙ろく

によく崎つをうつさしむ︒油にな−膚憾︒君む贈のあ−かを歓し︒ずののふとな−ては・戒らをもいれ

ずして襲り︸させ︒蟹の轟には壌が隷ろの籍もあはれを機ほす・吏戴の嚢宍搬のひ諦つ畿にして・轟

勘わる−ちの議つを讐れば︒蟻彫三ツの絨らの帳ゐ胴も・繊れぬ械といふなるべし・されば一一一講のし蛾くに耕とりの鰍み

湛言︒翁骨謙い蟻は︒黙の鷲のしもにたっ事かた−・僕やさしき瓢姑な淡あれば・轟にたくみ織き惹

燃さあり︒評輔にもをかしみに鷺ある影一・一一オ一桝の辞く坐つ部を鶴として・凡の郁の械饗搬ら一の駿も・珂ぢてんわうだちまく奮  ぢとう   でま    ちよくしいりもこき     しくみとら智天王建の幕明より︒地統てんつ︑の出端もまじりて︒勅使お入の百敷まで︒あらまし仕組は整ひぬれど・イヨ微勘触卸

第のわる晋らんことを腎て︒簸つ叫に襲嚢︒鰍もあらうかの叫質を・鐵に轟椛趾したるは・炉察の蝕

せ鶴か︒難蜜の棚警︒お窯せは講つ戯・す賊ち巖島たれど・くどうも麟ふお影えせりふ・一に嚢辞に議つ刊

(20)

       こはいろ         すがた         うしろは︒うつとしいのもかまはぬと︒つけ声色のふきかへ姿︒ちよつと背を見せてしかいふ︒

書︵二ニウ︶

文政三年庚辰春/正月吉日/鈍々亭蔵版︵印一/製本所/春松軒 西宮新六︵印︶ /鈍々亭和樽︵印︶/藍亭晋米

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集三三

(21)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集三四

影印篇

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榊・      秀   ・萎号       繁榊嚢獲蟹一蟻馨夏一 ぎ篶       妻

ぎ︑      蛾姦屯..・・汝滋燃

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堅宗糠撚鐙瀦の籔欝 萎嚢.象潔落嚢蓼蒙泊湊撚会  嚢嚢・灘議繊繍 u

(22)

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﹃戯場百人一首一演劇資料としての狂歌集 灘︑徽

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(23)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

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(24)

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. 7 ︵

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集三七

(25)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集三八

一引

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(26)

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(27)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

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(28)

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﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

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(29)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

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(30)

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﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集四三

(31)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

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(32)

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﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

残ゆ

燃引 2 2 ︵

.一刊一3

 2 ︵

一一・.一

四五

(33)

﹃戯場百人一首﹄演劇資料としての狂歌集

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  ︶  ウ

一一似.榊

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