開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧 : デ ラウェア州における株主の情報収集とガーナー原則 の適用
著者 釜田 薫子
雑誌名 同志社法學
巻 70
号 2
ページ 449‑473
発行年 2018‑07‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000336
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号三七四四九
開 示 免 除 特 権 で 保 護 さ れ た 文 書 ・ 資 料 の 閲 覧
――デラウェア州における株主の情報収集とガーナー原則の適用――
釜 田 薫 子
[目次]第一章 問題の所在第二章 米国の会社訴訟における開示免除特権 第一節 会社が依頼者である場合の弁護士依頼者間通信秘匿特権 第二節 弁護士依頼者間通信秘匿特権の例外第三章 ウォルマート判決とガーナー原則の適用 第一節 閲覧権の行使とガーナー原則 第二節 ウォルマート判決 第三節 ウォルマート判決とその後の判決の検討結び
( )同志社法学 七〇巻二号三八開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四五〇
第一章 問題の所在 平成二六年会社法改正やコーポレート・ガバナンス・コードによって社外取締役の果たすべき役割に目が向けられてきたが、近年、株主代表訴訟(以下、代表訴訟)における社外取締役の役割についても議論がされているようである。企業統治に関する新たな会社法改正に向けた議論では、代表訴訟の提起に新たな制限を設けるべきかどうかという論点が取り上げられ、新たな制限を設けることに賛成の論者からは、具体案として、社外取締役または社外監査役の判断を一定の範囲で裁判所が尊重するような仕組みを設けるべきであるという指摘があるとされる
)(
(。このような考え方は米国の訴訟委員会制度を参考にしていると思われるが、このような制度をわが国に導入するのは、現状では難しいといえよう。というのも、米国の訴訟委員会制度は「独立性の高い社外取締役による調査・検討・詳細な報告書の作成」と「株主の閲覧権の行使による情報収集」が一体となって訴訟に十分な情報を反映することを前提に機能しており、そういった観点からの検討がわが国では十分でないと考えられるからである。
前述したような代表訴訟の提起についての新たな規制を設ける前提として、すでに法制審議会の議論でも指摘されているとおり、社外取締役や社外監査役の独立性をより厳格に要求することが必要となる。今日の米国では、代表訴訟を判断する社外取締役の独立性については、経済的な利害関係だけでなく非経済的関係すなわち被告の会社から寄附を受けているか、友人関係があるかといった社会的な関係も詳細に検討されている )(
(。わが国においても、このような社会的な関係をどう考えるのかについて議論が必要である。また、判断者だけではなく、裁判所が会社の判断を尊重する枠組みをどう考えるのかも問題となる。不提訴理由書制度については、充実した内容の理由書が裁判所に提出されれば、裁判所の心証形成に影響する可能性があり、結果として米国の訴訟委員会と同様の機能を果たす可能性も指摘されてお
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号三九四五一 り )(
(、枠組みを考えるにあたっては、少なくともこの不提訴理由書制度の法的位置づけについて十分な検討がされる必要がある )(
(。
米国では、一九九〇年代以降の米国のデラウェア州の裁判所が株主の情報不足を批判し、閲覧権を行使して十分な情報を得た上での代表訴訟の提起を推奨してきた )(
(。米国の制度では、閲覧権の行使によって得られた十分な情報が株主から裁判所に提出されてから、裁判所による会社の判断の尊重が検討されることになる。わが国の制度を考える際にも、多くの調査資料を訴訟に反映することによって代表訴訟の充実を図るという観点から代表訴訟に際しての株主の情報収集について十分に検討する必要がある。
このような問題意識を前提に、本稿では、現在のわが国の代表訴訟の充実という観点から、どのような文書が閲覧できるのか、つまり株主に入手させるべき資料の範囲をどこまで認めるのかについて検討する。会社内部の文書の閲覧についてわが国の裁判例は、取締役会議事録の閲覧謄写請求については、平成一八年決定の判示を踏襲して権利行使の蓋然性や具体性を検討している )(
(。しかし内部調査によって得られた報告書や意見書といった内部文書の閲覧については基準が十分に確立しているとは言い難い。そこで、以下では、代表訴訟に関して閲覧権を行使した株主はどのような情報を得ることができるのか、訴訟の充実と会社の秘密保持のバランスをとることの必要性から、特に開示免除特権で保護された文書はどのような場合に閲覧が許されるのかを米国法を参考に検討したい。開示免除特権は連邦の民事訴訟における証拠開示(ディスカバリ)の手続において問題とされてきたことはよく知られているとおりであるが、近年のデラウェア州においては、「開示免除特権で保護された文書」に対する閲覧権(デラウェア州法二二〇条)の行使に関する裁判例が出されているため、それらの裁判例を中心に検討を試みる。
( )同志社法学 七〇巻二号四〇開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四五二
第二章 米国の会社訴訟における開示免除特権 第一節 会社が依頼者である場合の弁護士依頼者間通信秘匿特権
1 弁 護 士 依 頼 者 間 通 信 秘 匿 特 権
会社内で内部調査を行った結果、会社内に蓄積されている資料が証拠開示を免れる方法として、開示免除特権が挙げられる。中でも、英米法における最も古くから認められてきた特権の一つである弁護士依頼者間通信秘匿特権(以下、通信秘匿特権)は、弁護士と依頼者との間の内密の交信を証拠開示から保護することによって、弁護士との交信を開示されるというおそれを取り除き、依頼者が情報をすべて弁護士に伝えることができるようにしている点で重要な役割を果たしている。この特権を主張するためには、①特権を主張する者は依頼者または将来の依頼者であること、②交信は弁護士(弁護士の部下を含む)と依頼者(将来の依頼者を含む)との間で行われたものであること、③交信については、秘密性を保持した状態であること、④交信は法的助言を目的として行われたこと、⑤特権が依頼者(将来の依頼者を含む)によって放棄されていないことの要件を満たさなくてはならない )(
(。このように通信秘匿特権は、弁護士と依頼者の間の完全で率直な交信を促進することを目的とするが、他方で、公益の促進も目的としているため、証拠開示の免除によって公益促進が害されるような場合には、通信秘匿特権による保護は認められない。
2 会 社 が 「 依 頼 者 」 の 場 合
株事きべす慮考。るあが項の項かつくいきべす慮考、事となるもそもそ⑴、はに合場あしで主株が告原に特、はてり異 「的で権特匿秘信通るすと目るを護保の報情の」者頼あ依とは合場の者頼依が人個、に、合場るあで者頼依が社会が
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号四一四五三 主が原告である場合の証拠開示手続において会社に通信秘匿特権が認められるのか、⑵認められるとして、会社内の誰との交信が認められるのか、⑶株主代表訴訟においても通信秘匿特権が認められるのか、⑷特権による保護の範囲はどこまでか、つまり通信秘匿特権の保護の例外はあるのかが挙げられる。
⑴ 会社に通信秘匿特権は認められるのか まず、考慮すべき事項⑴であるが、会社が依頼者であり原告が株主である場合の通信秘匿特権については、会社は株主の利益のために行動しているのであり、株主らには会社と弁護士の間の交信はすべて閲覧する権利があるから、これを認めないとする判例がある )(
(。しかしこれに対し、株主からの証拠開示請求であるからといってそれだけで通信秘匿特権を否定されるわけではないとして、会社が依頼者の場合も通信秘匿特権を認めるものがある )(
(。この特権を認めた裁判例(ガーナー判決)については、特権による保護の例外も示した初めての裁判例として、後に紹介する。
⑵ 会社内の誰と弁護士との交信が保護されるのか 会社が依頼者の場合、次に考慮すべきは、⑵会社内の誰と弁護士との交信が通信秘匿特権の保護の対象となるのかということである。内部調査が行われる場合、弁護士は上級の役員等に対する聞き取り調査を行うであろうが、それだけではなく、従業員らに対しても様々な質問を行うことになる。そこで、「依頼者」である会社には会社内の上級の役員だけでなく、従業員らも含まれるのかどうか、すなわち、弁護士と従業員との間の交信にも通信秘匿特権が認められるのかどうかが問題となるのである。この点については、米国の判例法において二つの基準が発展・対立してきたが、一九八一年の連邦最高裁判決によってその対立に決着がつけられた )((
(。一九八一年連邦最高裁判決によれば、従業員と弁護
( )同志社法学 七〇巻二号四二開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四五四
士との間の交信であっても、彼らが上級の役員等の指示にしたがって弁護士と交信をし、その交信が会社のためにするものであって、内容が従業員の業務の範囲内である場合には通信秘匿特権が認められるとされる。上級の役員等のように会社の法的な行動を決定したり指示したりするなど会社にとって「重要な役割」を担う者にのみ通信秘匿特権を認めるという考え方もあり得る。しかし、「重要な役割」という言葉の意味は不明確であり、会社にとって「重要な役割」を果たす者と弁護士との交信にのみ通信秘匿特権を認めるとすれば、弁護士や依頼者が、自分達が特権によって保護されるのかどうか予測できないことになる。
⑶ 代表訴訟においても特権は認められるのか 考慮すべき事項の⑶は、代表訴訟において特権が認められるか、つまり、通信秘匿特権などの開示免除特権は、通常の民事訴訟だけでなく代表訴訟にも適用されるのかどうかである。なぜなら、会社の所有者である株主が会社の代わりに訴訟を提起しているという構造から、代表訴訟における証拠開示を他の民事訴訟と同様に考えてよいかという疑問が生じるからである。つまり、原告である株主は会社の「代わりに」に訴訟を提起して原告になっている。そう考えると、株主は会社の代理人として、会社内にあるすべての資料の開示を要求する権限があるのかどうかが問題となる )((
(。これについてデラウェア州の裁判例は、もし代表訴訟において特権の保護を認めないとすると、①代表訴訟と通常の民事訴訟とで証拠開示のルールが二重の基準になるということと、②通信秘匿特権による会社の情報の保護がないことで株主が証拠開示制度を濫用することを懸念して、株主であれば会社の持つすべての情報を制限なく入手できるという原告側の主張を退けている )((
(。
考慮すべき事項の⑷特権による保護の範囲はどこまでか、通信秘匿特権の保護の例外はあるのかについては、次節で
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号四三四五五 取り扱う。
第二節 弁護士依頼者間通信秘匿特権の例外
1 ガ ー ナ ー 原 則 ( Garner doctrine )
会社が依頼者である場合にも通信秘匿特権が認められるとした一九七〇年のガーナー第五巡回区控訴裁判所判決(以下、ガーナー判決)は、通信秘匿特権の例外を認める際に検討すべき複数の要素に言及している。一九三三年証券法違反の詐欺を理由とするクラスアクションにおいて、裁判所は、株主が九つの要素から成る「十分な理由(
good cause
)」を示した場合には通信秘匿特権の例外が認められ、会社と弁護士の間の交信は開示されると判示した。その要素とは、①株主の数および彼らが有する株式の割合、②株主の善意、③株主の申立ての性質およびそれが明らかに正当なものかどうか、④株主が情報を得ることの明確な必要性とその情報の他の情報源からの入手可能性、⑤株主の申立てが、会社の不正行為、刑事法違反行為、刑事法違反ではないが違法行為または違法の疑いのある行為を理由として行われたものかどうか、⑥交信は、過去または将来の訴訟に関係するものかどうか、⑦交信は、訴訟自体に関係するものかどうか、⑧開示を求められている交信は特定できるものか、または株主は証拠漁りをしているだけで特定できないものかどうか、⑨開示によって会社が利益を有している取引の秘密または他の情報の漏洩のリスクがあるかどうか、の九つである。そして、ガーナー判決が示したこのような基準をガーナー原則(Garner doctrine
)とよぶ。ガーナー判決を引用した裁判例は非常に多いにもかかわらず、この判決が示した原則を支持し、適用する判例はあまり見られない。特にデラウェア州以外の州には、ガーナー原則のような考え方を明確に採用しない裁判例も見られる。たとえばテキサス州最高裁が一九九六年に下した
Huie v. DeShazo
判決は、弁護士と直接の仕事上の関係のない信託の( )同志社法学 七〇巻二号四四開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四五六
受益者を真の依頼者ととらえて、信託財産の受託会社と弁護士との間の交信を開示させること、すなわち通信秘匿特権の例外を認めることは、真実を曲げることになるとして認めなかった )((
(。また、二〇〇〇年の判決においてカリフォルニア州最高裁は、信託の受益者が、信託財産の受託会社と弁護士との間の交信の開示を求め得るかどうかの判断に際して、通信秘匿特権は立法によって創造されたものであるから、条文に書かれていない例外を裁判所が認めることはできないと判示した )((
(。
2 デ ラ ウ ェ ア 州 に お け る ガ ー ナ ー 原 則 の 適 用
前述のようにガーナー原則を支持し、適用した判例は少ないが )((
(、以下ではデラウェア州においてこのガーナー原則の内容に言及した判例および原則を適用した判例を紹介する。
⑴ 一九九三年に州最高裁が下したザーン(
Zirn v. VLI Corporation, et .al.
)判決は、取締役らによる開示義務違反と詐欺を請求原因とするクラスアクションについてのものである。原告らが、受益者である株主の経済的な利益に直接影響を与えるような情報(会社と特許に携わる弁護士との交信)から株主は遠ざけられるべきではないと主張したことについて、デラウェア州衡平法裁判所は、まず、原告らがガーナー原則の「十分な理由」を申し立てることができれば、通信秘匿特権の例外を認めて情報は開示され得ることは認めた。しかし、本件では取締役による明確な利益相反がないから、特権の例外は認められないと判示した )(((。これに対し、州最高裁は、取締役の利益相反を要件とする衡平法裁判所の意見には賛成できないとした。そして、本件においては、会社と弁護士との交信に含まれる情報がすでに部分的に開示されているので、通信秘匿特権は放棄されたと判示した。このようにザーン判決において州最高裁は、最終的にはガーナー判決の基準を適用して通信秘匿特権を排除したわけではない。しかし州最高裁は、部分的な開示がすでにされて
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号四五四五七 いたという問題から離れて考えれば、原告はガーナー原則の「十分な理由」を満たしているとして、傍論でガーナー原則を認めている )((
(。
⑵ 一九九八年に衡平法裁判所が下したグリムズ判決(
Grimes v. DSC Communications. Corp.
)は、デラウェア州一般会社法二二〇条の閲覧権の行使に関するものである。本件においては、取締役の信認義務違反を理由として会社に行った提訴請求を拒絶された株主が、提訴請求について調査をした特別委員会の構成員の独立性や検討の手続について調査することを目的として閲覧権を行使した。株主が請求した資料には特別委員会の構成員と弁護士との交信も含まれていた。衡平法裁判所は、デラウェア州においてガーナー原則がすでに係属している訴訟には適用されてきたことを確認した上で、本件は訴訟係属前の提訴請求の判断に関するものではあるが、本件の状況を見れば、近い将来訴訟になると考えられるのだから、本件についてもガーナー原則を適用すべきであるとした。そして、検討の結果、原告は十分な理由を申し立てているとして文書の閲覧を認めた )(((。
⑶ 二〇〇二年に衡平法裁判所が下したサイトウ判決(
Saito v. McKesson HBOC Inc.
)は、会社の収益修正再表示および合併に関連する取締役らの不正行為による信認義務違反を理由に株主代表訴訟を提起した株主が行った二二〇条の閲覧権の行使に関するものである )(((。株主が請求した資料には、合併前後の会社の弁護士による法的助言が含まれていた。本件において衡平法裁判所は、まず、通信秘匿特権の例外にはガーナー原則を適用することを認めた上で、二二〇条の閲覧権に関するものは、ガーナー原則の九つの要素のうち五つであると判示した。つまり、①株主の数および彼らが有する株式の割合、②株主の申立ての性質およびそれが明らかに正当なものかどうか、③株主が情報を得ることの明確な必要性とその情報の他の情報源からの入手可能性、④開示を求められている交信は特定できるものか、または株主は証拠漁りをしているだけで特定できないものかどうか、⑤交信は、訴訟自体に関係するものかどうかである。衡平法
( )同志社法学 七〇巻二号四六開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四五八
裁判所はこれらの五つの要素を検討し、次のように結論づけた。①については、株主はごく少数の株式を有するにすぎないが、株式数は「十分な理由」を示したかどうかとは関係がないとして、この要素は満たされたと判示した。②については、提訴請求の原因となった信認義務違反行為などを調査するという目的で申し立てられたものであるから、明らかに正当なものであるとして、この要素は満たされたと判示した。③については、合併前に行われた弁護士の合併に関する助言の内容は、取締役らがどのような情報に基づいて判断を行ったのかを知るために、原告の申立てにとって必要であるし、他の情報源から入手することはできないものであるとして、この要素も満たされたと判示した(しかし合併後に行われた助言については、原告はその情報を合併後に被告から開示された会社の文書によってすでに入手しているから、不要として認められなかった)。④については、情報は特定されており、合併に関連して不正行為が行われたのではないか調査するという原告の目的とも関連するので、この要素も満たされたと判示した。⑤については、弁護士の助言は訴訟自体に関するものではなく、助言の目的は、取締役会が合併についての判断を行わせるためのものであるから、この要素も満たされたと判示した。以上のように、五つの要素が満たされたため、原告はガーナー原則の「十分な理由」の基準を満たしたことになり、通信秘匿特権の例外が認められて文書が閲覧されることになった。
⑷ 二〇一一年に州最高裁が下したエスピノザ判決(
Espinoza v. Hewlett-Packard Co.
)は、従業員に対するハラスメントについて会社内の特別委員会が行った調査報告書の閲覧を求めた事例である。この閲覧権の行使に先立って、株主代表訴訟の前提となる提訴請求が行われたが、提訴請求は拒絶された。この提訴請求は、ハラスメントを行ったとされるCEOの退職金支払いに同意した取締役らの行為が信認義務違反にあたるとして行われたものである。株主が請求した資料には、労働問題専門の弁護士からの手紙が含まれていた。本件の一審である衡平法裁判所はガーナー原則を適用して原告は十分な理由を示していないことを理由に申立てを退けた )(((。州最高裁は原告の申立てを退けるという結論に
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号四七四五九 は同意したが、第一審とは異なる理由づけを行った。すなわち、原告は閲覧請求している文書の「必要不可欠性」を示していないとして、原告の閲覧請求を認めなかった。「不可欠性」とは、「ある文書・資料が、株主が閲覧の目的としていることの核心部分を扱っており、この文書・資料に含まれる重要情報が他の情報源からは入手できない場合」を指す。また、州最高裁によれば、文書の不可欠性の審査は通信秘匿特権の審査に先立つものであるから、不可欠性を示していない本件においてはさらに通信秘匿特権の審査を行う必要はないとされる )((
(。本件において州最高裁は、通信秘匿特権の審査をしていないため、特権の例外であるガーナー原則を明確に認めたわけではない。しかしガーナー原則を適用した②判決を引用しており、明確にガーナー原則を排除してはいない。
以上のように、デラウェア州においてガーナー原則は肯定的にとらえられているといってよい。次章では、近年のデラウェア州最高裁がガーナー原則の適用を認めた事例であるウォルマート判決を取り上げたい。
第三章 ウォルマート判決とガーナー原則の適用 第一節 閲覧権の行使とガーナー原則
1 判 例 の 状 況
一九九八年のグリムズ判決において衡平法裁判所は、ガーナー原則がすでに係属している訴訟のみならず、訴訟係属前の提訴請求の判断に関するもの、つまり閲覧権の行使に関する手続であってもガーナー原則を適用すべきであるとした )((
(。これは、現在は訴訟が係属していないが、近い将来訴訟になり得る状況であることを理由とする。このようにグリムズ事件においては閲覧権の行使に際して通信秘匿特権の例外が認められることを明言したが、これについて州最高裁
( )同志社法学 七〇巻二号四八開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四六〇
がどのように考えているかは明確とはいえなかった )((
(。このような状況の下で、閲覧権の手続におけるガーナー原則の適用について二〇一四年に州最高裁が下したのがウォルマート判決である。以下では二二〇条について概観した上で、ウォルマート判決(
W all-Mart Stores,Inc. v . Ind.Elec.W orkers Pension Fund Ibew
) )(((について紹介・検討する。
2 デ ラ ウ ェ ア 州 一 般 会 社 法 二 二 〇 条
デラウェア州一般会社法二二〇条は、株主の権利として、株式会社とその子会社の株主名簿とその他の帳簿・記録の閲覧・コピーおよび抄本を作成する権利を定めている )((
(。裁判例によれば、条文中の文言の「その他の帳簿・記録」には社内の内部調査によって作成された委員会の調査報告書や法律事務所の報告書、弁護士の手紙等も含まれる。同じように原告が情報を入手する手段として認められている証拠開示(ディスカバリ)が広範囲の情報を入手できるのに比べて、閲覧権には資料の特定や範囲の限定の必要性などいくつかの制限がある。
株主名簿以外の資料について閲覧を求める株主は、いくつかの要件を段階的に満たす必要がある。第一段階は、その資料の閲覧について正当目的があることを立証しなくてはならないというものである。正当性を示すためには、信頼できる根拠を示さなくてはならず、一般的に会社の経営陣の浪費や誤った経営の可能性を示唆するだけでは足りない。裁判例によれば、SEC等の公の機関の調査が行われていることや理由なく取締役の解任がされたこと、独立会計人や社外取締役が会社の問題点を指摘して辞任したことなどの具体的な事情を示す必要があるとされる )((
(。正当な目的の例としては、不適切な取引や誤った経営について調査をするといったことが挙げられ )((
(、不当な目的とは、会社に対する嫌がらせ訴訟の提起や株主としての持分を会社に強制的に買い取らせるためなどが考えられる )((
(。第二段階は、閲覧を求めているのが必要不可欠な文書や資料であることを立証しなければならないということである。閲覧に正当目的があることが
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号四九四六一 立証されたとしても、この要件を満たさなければ閲覧は認められない。判例では「必要で不可欠な」とまとまった使い方をされることが多く、これらを分けて検討することはあまりないが、特に「不可欠性」の意味に言及したものもみられる。それによれば「不可欠性」とは、ある文書や資料が株主の閲覧目的の核心部分を扱っており、当該文書に含まれる重要な情報が他の情報源からは入手できないことをいうとされる )((
(。また、文書や資料は実際に会社の支配下にあって提出可能なものでなくてはならない。第三段階は、通信秘匿特権等の特権によって文書が保護されていないことの立証である。通信秘匿特権の例外を認めたガーナー原則は、この段階で適用を検討されることとなる。
第二節 ウォルマート判決
1 事 実
本件は、デラウェア州一般会社法二二〇条に基づき、弁護士依頼者間通信秘匿特権(以下、通信秘匿特権)で保護されている文書を対象として、閲覧権が行使された事例である。二〇一二年六月、ウォルマート社(
W all-Mart
)は、株主であるインディアナ州電気工退職年金基金(IBEW、以下、株主)から、二二〇条に基づく文書の閲覧請求を受けた。閲覧の対象とされた文書は、ニューヨークタイムズに掲載されたW alMex
社(W all-Mart
社のメキシコ子会社、以下、子会社)役員らによるメキシコ政府官僚に対する贈賄事件の記事に関するものであった。新聞報道によれば、二〇〇二年から二〇〇五年の間子会社は、子会社CEOの指示の下にメキシコ政府官僚に贈賄を行っており、この件についてはウォルマート社も気づいていたこと、それにもかかわらずウォルマート社は、社外の弁護士事務所を雇って詳細な調査をしようとした前顧問弁護士の意見を入れず、社内者によるおざなりな調査しかせずに贈賄の明確な証拠はないと結論づけたとされる。ウォルマート社の前顧問弁護士は、前述の( )同志社法学 七〇巻二号五〇開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四六二
ような役員らの対応に抗議してウォルマート社を退職した。
閲覧権の行使にあたって株主は、ⅰ子会社の贈賄事件に関連する不正行為の調査、ⅱウォルマート社および子会社役員の信認義務違反の可能性、ⅲそして取締役会に対する株主代表訴訟の提訴請求が無益であるかどうかの三点の調査を閲覧の目的として挙げている。この請求を受けてウォルマート社は、海外腐敗行為防止法(FCPA)に関するウォルマート社の方針とともに、子会社の贈賄事件に関連する取締役会および監査委員会の議事録や資料を株主に開示したが、それらの議事録は、編集されたものであった。この編集についてはウォルマート社から何らの説明もなかった。またウォルマート社は会社内のすべての文書を開示したわけではなく、株主の目的にとって不必要であり不可欠な文書ではないとウォルマート社が考えた文書・資料、通信秘匿特権によって保護されている文書・資料については開示しなかった。
二〇一二年八月、株主は、衡平法裁判所に対し、ウォルマート社がいくつかの文書を秘密としたことや編集したことに関連する問題点を主張し、請求の目的の範囲に含まれる文書が開示されていないと申し立てた。これに対しウォルマート社は複数の文書を開示した。これらの文書は編集されたものではなかった。しかし株主はさらに文書の開示を請求し、ウォルマート社は衡平法裁判所に対し開示制限命令を申し立てた。
2 衡 平 法 裁 判 所 の 判 断
衡平法裁判所はウォルマート社に対し、①取締役会や委員会に提出されたか否かを問わず、上級役員レベルの文書を開示すること、②問題となっている約七年分の文書を開示すること、③修復されたテープの文書を開示すること、④法務部が把握しているその他の文書を開示すること、⑤通信秘匿特権によって保護されている文書であっても、株主がガーナー原則に基づく通信秘匿特権の例外の要件を満たせば開示しなくてはならない旨を判示した )((
(。この判断に対し、原
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号五一四六三 告被告の双方が上訴した。以下では、この上訴に対し州最高裁がどのような判断を下したのかを紹介する。判決文の引用が長いため、何についての判示なのか、小見出しをつけて区切っていく。⑴から⑹の小見出しは筆者による。
3 判 旨
⑴ ウォルマート社の主張「ウォルマート社は、ガーナー原則について、ⅰ本裁判所によってガーナー原則が採用されたことはなく、そのため、この原則が本件に適用されるか否かは訴訟当事者にとって予測できない問題であること、ⅱ本訴の手続において適用されるものか否かにかかわらず、ガーナー原則は二二〇条の文脈で適用されるべきではないことの二つの主張をしている。」
⑵ ガーナー原則の概要「一九七〇年のガーナー判決において、第五巡回区控訴裁判所は、通信秘匿特権の例外を次のように認めた。それは、『通信秘匿特権は、会社が依頼者である場合にも適用される可能性がある。株主がその地位に基づいて情報を請求しているという理由のみで、会社が特権の主張をできないわけではない。しかし、株主利益に反する行為を理由に会社が訴訟を提起されている場合には、特権は、株主利益の保護と公共の要請により、株主が示す特権を認めない理由に照らして、一定の場合にのみ認められることになる。』というものである。さらに第五巡回区控訴裁判所は、原告がこのような『十分な理由』の立証責任を果たしたかどうかを検討するに際して考慮すべき複数の要素を挙げている。このようにガーナー判決の判示は、株主が十分な理由を示すことで、会社の支配者による信認義務違反を立証するために、通信秘匿特権による保護を奪うことを認めている。衡平法裁判所は、ある書類をウォルマート社に開示させるに際して、ガーナー原
( )同志社法学 七〇巻二号五二開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四六四
則の通信秘匿特権の例外に依拠した…ウォルマート社は、当裁判所が本訴においてガーナー原則を支持したことはないし、ましてや二二〇条の手続において支持したことはないことを理由に、衡平法裁判所がガーナー原則を適用したことは誤りであると主張している。』と主張している。」
⑶ ガーナー原則に言及した州最高裁の先例「当裁判所は、二つの事件において傍論で黙示的にガーナー原則を支持した。二〇年前、ザーン判決において当裁判所は、通信秘匿特権は『完璧ではなく、法的助言が株主の会社に対する訴訟に関係するようなものであれば、通信秘匿特権の発動は制限されるか完全に否定される』ことを認めた。ザーン判決において我々は、通信秘匿特権で保護された交信の開示に『十分な理由』を要求するガーナー原則を適用した衡平法裁判所の文言を引用しながらも…通信秘匿特権は部分的な開示によって放棄されたとして、最終的にはガーナー原則に依拠したわけではなかった。また、当裁判所が下した二二〇条に関する手続であるエスピノザ判決はガーナー原則の適用可能性の問題の検討にまで至らなかった。エスピノザ判決において我々は、要求された文書が原告の正当目的にとって『必要不可欠』であることを原告が示していないことを理由に衡平法裁判所の判断を支持した…したがって、我々は、本訴の手続または二二〇条の手続の文脈でこの法理が適用されるかどうかについて、いまだに明確な判示をしてはいない。」
⑷ ガーナー原則に言及した衡平法裁判所の先例「…しかしながら、衡平法裁判所はこれまでに少なくとも三つの事件において、二二〇条の手続の文脈における通信秘匿特権の例外として、明確にガーナー原則を採用している。『衡平法裁判所がガーナー原則を適用した事件の一つであ
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号五三四六五 るグリムズ事件(一九九八年)において衡平法裁判所は、『特に重要な点は、請求されている文書が他の方法では入手できないことであり、同時に、その文書の開示が、取締役会の行為について原告が評価すること――それが本件の二二〇条の請求の目的であるが――にとって必要不可欠なものであることである。』と結論づけている。」
⑸ 通信秘匿特権の意義「通信秘匿特権は、ローマ時代まで遡る英米法によって認められた最古の特権である。当裁判所は、通信秘匿特権は『依頼者が会社である場合を含めて、弁護士と依頼者の間の完全で率直な交信にとって不可欠であり、これによって法の遵守と司法の運営における公益を促進するものである』という連邦最高裁による性格づけに賛同する。したがって、ガーナー原則の信認義務による特権の例外は、範囲が狭く、そして要件を満たすのは非常に難しいものであることが意図されているといえる。それは、対立する利益の間の適切なバランスをとることになる。」
⑹ 結論 州最高裁は次のように判示して、原告はガーナー原則の「十分な理由」を示したとした衡平法裁判所の判断を支持した。「当裁判所は、ガーナー原則は株主と会社の本訴の手続に適用されるものであることを認める。また、この法理は二二〇条の訴訟においても適用される。しかしながら、二二〇条の手続においては、文書の必要性と不可欠性の審査があらゆる特権の審査に先行しなくてはならない。なぜなら、必要性と不可欠性の審査は、原告が二二〇条の下で入手できる文書の範囲はどこまでかという問題の方向を決定するものだからである。」
( )同志社法学 七〇巻二号五四開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四六六
「衡平法裁判所は、ガーナー原則が挙げた十分な理由が存在するかどうかを検討した。まず衡平法裁判所は、原告が正当な申立てを行ったかどうか、そして原告が求めている情報は他の方法で入手可能かどうかを検討した。その結果、衡平法裁判所は、原告の申立ては、メキシコで起こっていることと、その適法性についての懸念を示すウォルマート社自身の供述書を前提にしているため、正当な申立てであると結論づけた。また、入手可能性については…これは会社内部の文書であることから、他の手段では入手できないと判示した。」「ガーナー原則はまた、『弁護士と依頼者との交信は、訴訟自体についての助言なのかどうか、そしてその交信は特定できるのか、それとも株主は証拠漁りをしているのかを分析しなくてはならない』と判示している。衡平法裁判所は、これらの要素について検討し、情報は特定されており、証拠漁りには当たらず、また、交信は訴訟自体に関するものではないと結論づけている。」
第三節 ウォルマート判決とその後の判決の検討
1 ウ ォ ル マ ー ト 判 決 の 意 義
ウォルマート判決は、それまで明確でなかったデラウェア州におけるガーナー原則の適用について、本訴の手続と二二〇条の手続の両方にガーナー原則が適用されることを初めて正面から認めた点に意義がある。また本判決は、エスピノザ州最高裁判決(二〇一一年)を前提に、通信秘匿特権によって保護されている文書を開示すべきかどうかの検討は、文書の必要性および不可欠性の検討を行った後の段階ですべきことを判示した。これによって二二〇条の手続において様々な要素が検討される段階が明確になった。本判決に対しては、開示免除特権の例外を本訴だけでなく二二〇条の手続においても認めたことで、慎重な取り扱い
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号五五四六七 が必要な会社内の文書が安易に株主に閲覧されることになるとして批判もされている )((
(。
2 「
必 要 不 可 欠 性 」 に 関 す る 二 つ の 検 討 段 階
ウォルマート判決によって、ガーナー判決とエスピノザ判決が示した検討要素が二二〇条の手続として統一されたといえるが、両方の要素を比較した時に検討すべき要素の具体的内容についてもさらに検討が必要となってくる。なぜなら、二二〇条の正当目的の検討段階(第一段階)をクリアした原告は、文書の必要不可欠性の検討段階(第二段階)をクリアした後に通信秘匿特権の例外の検討段階(第三段階)に進むのであるが、この第二段階の「必要不可欠性」の要素は第三段階のガーナー原則にも含まれているからである。ガーナー原則が「十分な理由」の④の要素に挙げる「株主が情報を得ることの明確な必要性とその情報の他の情報源からの入手可能性」は、第二段階での文書の「必要不可欠性」の検討と違いがあるのだろうか。これについては、ウォルマート判決以降に下された衡平法裁判所の判決に若干の説明が見られるため、以下に紹介する。
二〇一五年のルルレモン判決は、内部者取引と誤った経営について調査する目的で株主が二二〇条の閲覧権を行使して文書の閲覧を求めた事例である )((
(。会社は一定の文書や資料を開示したが、原告は従業員ではない取締役の私的なEメール、弁護士と取締役会議長・CFOとのEメールおよびウォール・ストリート・ジャーナル関連Eメール(ウォール・ストリート・ジャーナルが内部者取引に関連して会社に送ったEメールに返信するための取締役会議長らへの法的助言が含まれたEメール)についても開示するよう求めている。本件では、このEメールが通信秘匿特権の例外によって開示されるかどうかが争点となった。衡平法裁判所はまず、原告の請求の正当目的を認めた上で、次に従業員ではない取締役の私的なEメールが原告の正当目的にとって必要不可欠なものかどうかを検討した。その結果、そのような会社と
( )同志社法学 七〇巻二号五六開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四六八
関係のないEメールは、内部者取引と誤った経営の調査にとって必要不可欠な資料ではないと判示した。
次に衡平法裁判所は、弁護士が関わった二種類のメール(取締役会議長およびCFOとの交信と、ウォール・ストリート・ジャーナル関連の交信)について、それらが通信秘匿特権で保護されるかどうかを検討した。衡平法裁判所は、第二段階での「必要不可欠性」の検討と第三段階でのガーナー原則の④の要素の検討は同一ではないにしても似通っていると判示し、④の要素については、原告がすでに情報を得ているかどうかで判断するとした。会社は内部者取引と疑われている取引計画はすでに開示しているし、Eメールの内容は弁護士が原告に話しているから、Eメールの開示は不要であると主張した。これに対し衡平法裁判所は、Eメールにおいて弁護士が具体的にどのように助言したのかは、原告が内部取引と誤った経営を調査する際に必要な資料であり、会社内のデータであるこのようなEメールは他の情報源からは入手できないとして不可欠なものであると判示してEメールの開示を認めた。
判決文が述べているように、第二段階と第三段階における文書の「必要不可欠性」の審査は非常に似通っている。ただ、判決文を読む限りでは、ある文書が通信秘匿特権によって保護されていると主張されるような場合は、第二段階では「必要不可欠性」の検討は詳細には行われておらず、一応「必要不可欠性」の要件を満たしたとしてもさらに第三段階で通信秘匿特権の例外を認めるほどに「必要不可欠な」文書かどうかが詳細に検討されるようである。いずれの段階にしても、「必要不可欠な」文書と認められれば、すでに原告に対して関連する情報が提供されていたとしてもそれだけでは足りず、交信の内容自体が開示されることになる。
( )開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧同志社法学 七〇巻二号五七四六九 結 び 本稿においては、わが国の株主代表訴訟の充実という観点から、株主の情報収集について、特に開示免除特権(通信秘匿特権)で保護された文書・資料はどこまで閲覧が認められるのかという点について米国の裁判例を参考に検討してきた。検討は主にデラウェア州の裁判例を中心に行った。検討の結果、次のような結論に至った。
通信秘匿特権で保護された文書がどのような場合に閲覧を認められるのかは、一九七〇年に第五巡回区控訴裁判所が下したガーナー事件判決が示した九つの要素を満たすかどうかで決定される。この基準をガーナー原則とよぶ。ガーナー原則のような考え方をとらず、通信秘匿特権で保護された文書は常に保護されるとする州もあるが、デラウェア州は二〇一四年の最高裁判決によって採用することを認めた。その結果、デラウェア州の手続は次のようにまとめられることとなった。まず、デラウェア州において通信秘匿特権は二二〇条の株主の閲覧権の手続においても認められる。そして、二二〇条の手続において株主は、まず自分の閲覧の正当目的を申立て(第一段階)、正当目的が認められた場合には、自分が求めている文書・資料が自分の閲覧権行使の目的にとって必要で不可欠なものかどうかを申し立てる(第二段階)。求める文書・資料が必要不可欠なものと認められた場合に、通信秘匿特権で保護された文書について例外的に閲覧を認められるかどうかの検討に移る(第三段階)。ガーナー原則が適用されるのは、この第三段階である。
ガーナー原則に言及あるいはこれを適用したデラウェア州の複数の裁判例の検討からは、通信秘匿特権で保護された文書が閲覧を認められるかどうかは、次のような要素に配慮して決定されることが明らかとなった。
⑴
原告である株主が証拠漁りをしているかどうか。要求する文書の範囲が広すぎると閲覧が認められないことが多い(開示されない)。( )同志社法学 七〇巻二号五八開示免除特権で保護された文書・資料の閲覧四七〇
⑵
申立てが正当であるかどうか。これは、会社内の不正行為を調査する場合は認められることが多い(開示される)。⑶
取締役と弁護士との交信であっても、会社とは関連のない私信であるかどうか。会社と関連がない私信の場合は閲覧が認められないことがある(開示されない)。裁判例では社外取締役と弁護士との交信である。⑷
他の情報源からは入手不可能であるかどうか。会社内のデータとして保存されているEメールは入手不可能であるから閲覧が認められる(開示される)。⑸
一定の情報は原告株主に開示されているとしても、それが関連情報にすぎない場合には弁護士との交信の記録等の閲覧が認められる(開示される)。以上のように、デラウェア州においては通信秘匿特権で保護された文書や資料であっても一定の要件を満たせば閲覧が認められている。裁判例では社外取締役が会社とは関係なく弁護士と行った交信は開示されなかったが、上級役員らが会社の問題で弁護士から受けた助言を含むEメールなどは他の情報源からは入手不可能であるからという理由で開示されている。米国においてはこのような閲覧権によって収集された情報が代表訴訟に反映されている。また、会社の秘密保持とのバランスがとれるよう通信秘匿特権の例外は慎重に検討されている。この会社の秘密保持という観点は、現在のわが国の制度には十分に取り入れられていないものではないだろうか。仮に、将来のわが国が米国の訴訟委員会に類似の制度の導入を検討するのであれば、まず、その前提として、会社の秘密保持にも配慮した株主の情報収集制度をさらに充実させる必要があるのではないかと考える。
(
(よ点の検討」第一・一「株主にるる責任追及等の訴えの提起の制限論す) 会会社法制(企業統治等関係)部資関料七「その他の規律の見直しに」