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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 大 坂 恵 一

学 位 論 文 題 名

X 線回 折法 を用いた Cu‑Mn 合金の短距離規則構造と Fe ・ Pt 合金の長距離規則構造に関する研究

学位論文内容の要旨

  合 金 結 晶 中 の 原 子 配 列 の 状 態 が 物 性 に 大 き な 影 響 を 与 え る こ と か ら 、 原 子 配 列 の 規 則 性 を 調 べ る 研 究 が 古 く か ら 行 わ れ て き た 。 配 列 の 規 則 性 は 短 距 離 規 則 と 長 距 離 規 則 の2種 類 に 大 別 さ れ る 。 短 距 離 規 則 と は 、 近 接 す る 原 子 間 に 限 定 さ れ る 原 子 配 列 の 規 則 で あ り 、 長 距 離 規 則 は 結 晶 全 体 に 及 ぶ マ ク 口 な 規 則 で あ る 。 こ れ ら の規 則状 態を 定量 的 に扱 うた めに 、 Bethe (1935)やBragg and Williams (1935)に よ っ て 短 距 離 お よ び 長 距 離 規 則 度 が 定 義 さ れ た 。 規 則 度 の 変 化 を 定 性 的 に 観 測 す る 実 験 方 法 が 多 い 中 、X線 や 中 性 子 線 な ど の 回 折 現 象 を 利 用 す る 方 法 は 、 規 則 度 を 定 量 的 に 得 る こ と が で き る 実 験 方 法 の 代 表 例 で あ る 。 X線 回 折 に お い て 、 結 晶 の 平 均 構 造 に 関 す る 情 報 は 強 く て 鋭 いBragg反 射 に 現 れ る 。 こ れ に 対 し 、 平 均 構 造 か ら の 局 所 的 な ず れ は 、 弱 く 散 漫 な 散 乱 と し て 観 測 さ れ る 。 逆 に 言 え ば 、 散 漫 散 乱 の 強 度 を 分 析 す れ ば 、 原 子 レ ベ ル の 局 所 的 な 構 造 に 関 す る 知 見 が 得 ら れ る 。 合 金 結 晶 中 に 生 じ る 短 距 離 規 則 は 、 結 晶 の 平 均 的 な 構 造 か ら の ず れ の 一 種 で あ り 、 散 漫 散 乱 の 強 度 か ら 短 距 離 規 則 度(Warren−Cowley、1950)が 求 め ら れ る 。 こ の こ と に 基 づ い て 、 多 く の 合 金 の 短 距 離 規 則 性 が 調 べ ら れ て い る 。Gehlen and Cohen(1965)は 、 測 定 さ れ た 短 距 離 規 則 度 を 持 つ 結 晶 を 計 算 機 中 に 作 成 す る 方 法 を 提 案 し た 。 計 算 機 の 進 歩 に 伴 い 彼 ら の 方 法 は 改 良 さ れ 、 合 金 の 局 所 的 な 原 子 配 列 を 評 価 す る 方 法 と し て 応 用 さ れ て い る 。 ま た 、 熱 力 学 的 観 点 に 立 て ば 、 規 則 状 態 の 原 子 配 列 は 原 子 の 対 交 換 エ ネ ル ギ ー に 左 右 さ れ る 。 こ の こ と を 利 用 し て 、Gerold and Kern (1987)が 計 算 機 中 に 作 成 し た 結 晶 を 用 い て 対 交 換 エ ネ ル ギ ー を 算 出 す るinverse Monte Carlo法 を 考 案 し た 。 こ れ に よ っ て 、 短 距 離 規 則 に よ る 散 漫 散 乱 の 研 究 は 熱 力 学 の 分 野 と も 結 ば れ る よ う に な っ た 。 一 方 、 長 距 離 規 則 は 規 則 格 子 反 射 と し て 観 測 さ れ る 。 規 則 格 子 反 射 は 長 距 離 規 則 構 造 の 決 定 的 な 証 拠 で あ り 、 合 金 状 態 図 中 の 規 則 相 の 構 造 や そ の 存 在 領 域 を 正 確 に 決 定 す る 手 段 と し て し ぱ し ば 用 い ら れ て い る 。

  本 研 究 で 取 り 上 げ る Cu―Mn合 金 は 、 古 く はCu3Mn、CusMnの 組 成 に 長 距 離 規 則 構 造 を 持 っ と 考 え ら れ て い た 。 し か し 、X線 回 折 に よ る 実 験 で は 、 長 距 離 規 則 を 持 つ 構 造 は 確 認 さ れ て い な い 。 そ の 後 、Cu3Mn、CusMnの 組 成 の 合 金 に つ い て 散 漫 散 乱 強 度 が 測 定 さ れ 、 異 種 原 子 が 隣 接 す るorderingの 傾 向 を 持 つ 短 距 離 規 則 性 が あ る こ と が 示 さ れ た 。 し か し 、 同 組 成 の 領 域 に は 相 分 離 を 示 す 相 境 界 が 状 態 図 中 に 描 か れ て い る 。 規 則 化 と 相 分 離 は 相 反 す る 現 象 で あ り 、 同 じ 組 成 域 か つ 同 じ 温 度 域 で こ れ ら が 同 時 に 起 こ る こ と は 理 解 し 難 い 。 一 方 、Fe‑Pt合 金 は 、Fe3Pt付 近 の 組 成 でLlユ 型 規 則 構 造 を 持 ち 、 規 則 ― 不 規 則 相 転 移 を 経 て 高 温 で 不 規 則fcc構 造 と な る こ と が 知 ら れ て い る 。Kussmann (1950)は 電

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気抵抗率の測定結果を基に相転移温度を決定したが、この値を否定する結果がBerkowitz   (1957) によって示された。両者の結果には 100 ℃程度の差があり、現在もなお正確な 相転移温度は決定されていない。

   以上に示したように、 Cu −Mn 合金およびFe‑Pt 合金の規則構造に関しては、矛盾する 点 や不明な点が未だに残されている。本研究は、 Cu ―Mn 合金については短距離規則構 造を明らかにし、 Fe‑Pt 合金については長距離規則構造の存在温度領域をX 線回折法によ って解明することを目的とした。

   本論文は第 1 章から第8 章で構成される。

   第1 章では、本研究の背景および目的を述べた。

   第 2 章では、短距離および長距離規則を持つ合金によるX 線回折の基礎理論を示した。

この中では、X 線散漫散乱強度の解析方法や、規則格子反射の強度の特徴を示し、以降の 章 で 示 さ れ る 実 験 結 果 を 解 析 す る た め に 必 要 な 回 折 理 論 を 与 え た 。    第 3 章では、 X 線散漫散乱の測定に用いたCu ーMn 合金単結晶の作製と実験装置につい て詳細に説明した。一般にX 線散漫散乱の実験は放射光や原子炉などの特殊な実験施設を 用いて行うことが多い。本研究では、一般的な実験室規模の設備でX 線散漫散乱の測定を 行った。本論文では、実験に際して装置、周辺機器などに施した特別な配慮を示すために、

敢えて章を割いた。

   第 4 章ではまず、 Cu ―Mn 合金の X 線散漫散乱の強度分布の測定結果を示し、その特徴 を述べた。測定した強度分布には、 Bragg 反射の近傍に比較的強い散漫散乱が観測され た。次に、第2 章で示した X 線散漫散乱の強度を表す理論を用いて、合金の短距離規則度 を第17 近接原子対まで算出した。その結果、最近接位置に同種原子が隣接するclustering の傾向を示す短距離規則性があることを明らかにした。このような傾向は、過去に同じ合 金で報告された異種原子が隣接するordering の短距離規則性とは全く異なる結果である。

   第 5 章では 、第 4 章 で得られた 短距離規則度を満たす原子配列を Monte Carlo 法を用 いて求め、 Cu −Mn 合金中の局所的な原子配列を視覚的に示した。次に、得られた原子配 列に inverse Monte Carlo 法を適用し、第9 近接原子までの対交換エネルギーを求めた。

その結果、 clustering が最近接原子間の対交換工ネルギー(― 18.5meV) に支配されてい ることが明らかとなった。

   第 6 章では 、長距離規 則構造を持 つ Fe‑Pt 合金の粉末 X 線回折プロファイルを温度を 変えながらその場観察した結果を示した。Fe −22 〜36 at. % Pt 合金については、規則ー不規 則相転移温度と長距離規則構造の組成依存性を明らかにした。この結果、Ll2 型規則―不 規則相転移温度は従来報告されていた値とは大きく異なることが明らかとなった。これに 加えて、Fe − 34.5 at ,%Pt 付近の組成に2 種類の規則相の共存領域があることを初めて観 測した。また、 X 線回折による実験と併せて、電気抵抗率および示差熱の測定も行った。

こ れ ら の 結 果 と X 線 回 折 の 結 果 を 比 較 し 、 X 線 回 折 法 の 有 用 性 を 示 し た 。    第 7 章では、第6 章で得られた X 線回折プ口ファイルの測定結果を用いて、 Fe‑Pt 合金 の長距離規則性を定量的に解析した。最後に、第6‑‑‑7 章のまとめとして、新しいFe‑Pt 合金の平衡状態図を提案した。

   最後の第 8 章では、本研究で得られた結果をまとめ、 Cu −Mn 合金の短距離規則構造と Fe‑Pt 合金の長距離規則構造の特徴を述べた。

   本研究では、 Cu ―Mn 合金の散漫散乱の測定からは短距離規則度と対交換エネルギーを

求めた。この結果、同合金では同種原子のclustering が生じており、このclustering は

最近接原子間の対交換工ネルギーに支配されていることが明らかとなった。また、Fe‑Pt

合金の高温粉末 X 線回折からは規則ー不規則相転移温度と長距離規則構造の組成依存性を

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明らかにした。この結果に基づいて、新しいFe‑Pt 合金の平衡状態図を提案した。以上

の結果は、合金の短距離および長距離規則の平衡規則状態を理解する上で重要であるばか

りでなく、物性を理解するためにも重要な意味を持っている。

(4)

学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

石政 前 堤 高間

学 位 論 文 題 名

    勉 晋爾 耀広 俊彦

X 線 回折法を 用いたCu ・N/In 合金の短距離規則構造と Fe ・Pt 合金の長距離規則構造に関する研究

  2種類の金属の組み合わ せにおいて、それらが混じり合って規則合金を形成するか、そ れとも相分離して2相共存 状態を形成するかは金属原子間の相互作用に依存している。隣 接する2原子が異種の場合 の相互作用エネルギーと同種の場合のエネルギーの差を対交換 エネルギーと呼び、合金の状態は対交換エネルギーの正負に依存することが知られている。

さらに、有限温度における合金の相安定性はエントロ ピーの寄与が加わった自由エネル ギーによって理解される。このような考え方に基づぃて、Bragg and Williams(1935)とBethe

(1935)は、それそれ合金の長距離および短距離規則状態を議論した。ここで、長距離規 則は結晶全体に及ぷマクロな規則であり、X線や中性子線回折においては規則格子反射と して認識される。一方、短距離規則とは、原子配列の近接する原子間の規則状態であり、

回折 実験 にお いて は弱 い散 漫散 乱が 生じ る。 例え ぱ、規則構造が 断片的に生じている orderingの短距離規則性をもつ場合もあれぱ、それとは逆に同種原子が集まる(相分離)

傾向であるclusteringの短距離規則性をもつ場合もある。これらは、短距離規則度の原子間 距離依存性の違いとして認識される。Warren‑Cowley(1950)は、散漫散乱の強度分布から 原子間距離ごとに短距離規則度を決定する方法を提案 した。しかし、短距離規則度は2原 子間の相関を結晶全体にわたって平均的に表したものに過ぎないので、具体的原子配置の 特徴が判りにくいという難点をもっている。そこで、測定された短距離規則度を再現でき る原子配置をもつモデル結晶を計算機中に作製する方法(モンテカルロ法)が考案された。

さらに、Gerold andlくern(1987)は熱平衡条件から原子間距離ごとの対交換エネルギーを 算出する方法(逆モンテカルロ法)を考案した。

  本研究では、相分離傾向をもつ例としてCu‑Mn合金を、長距離規則が生じる例としてFe‑Pt

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合金を取り上げて回折学的な研究を行った。前者においては、散漫散乱強度の測定、短距 離規則度の決定、モデル結晶の作成、さらには逆モンテカルロ法の応用による対交換エネ ル ギーの 決定を通して短距離規則の詳細を明らかにした。後者においては、高温X線回折 実験を行って長距離規則形成の詳細を明らかにした。

  第1章では、本研究の背景および目的を述べた。

  第2章 では、短 距離お よび長距 離規則を 持つ合金によるX線回折の基礎理論を示した。

  第3章 で は、X線散漫散 乱の測 定に用い るCu‑Mn合金単結 晶の作 製とX線散漫散 乱の実 験 装置に ついて詳細に説明した。本研究では、一般的な実験室規模の設備でX線散漫散乱 の 測 定 を 行 っ た の で 、 装 置 、 周 辺 機 器 な ど に 施 し た 特 別 な 点 を 説 明 し た 。   第4章では、C¥l‑Mn合金のX線散漫散乱の強度分布の測定結果を示しその特徴を述べた。

Warren‑Cowleyの理論を用いて、合金の短距離規則度を第17近接原子対まで算出した結果、

最近接位置に同種原子が隣接するclusteringの傾向を示す短距離規則性があることを明らか にした。

  第5章 では、得 られた 短距離規 則度を満 たすモデル結晶を求め、それを用いてCu‑Mn合 金 中の局 所的な原子配列を調ぺた。次に、逆モンテカルロ法を用いて、第9近接原子まで の対交換エネルギーを求めた。その結果、最近接原子間の対交換エネルギーが、clustering を強く促すことを明らかにした。

  第6章では、Fe‑Pt合金の高温X線回折実験の結果を示した。Fe‑22〜  36at.%Pt合金につ いては、規則・不規則相転移温度と長距離規則構造の組成依存性を明らかにした。また、

Fe‑34.5at. %Pt付 近 の 組 成 に2種 類 の 規 則 相 の 共 存 領 域 が あ る こ と を 示 し た 。   第7章 では、Fe‑Pt合金の長距離規則性を定量的に解析した。また、新しいFe‑Pt合金の 平衡状態図を提案した。

  第8章では、本研究で得られた結果をまとめた。

  こ れを要 するに著者は、Cu‑Mn合金の散漫散乱から短距離規則度と対交換エネルギーを 求め、この散漫散乱が同種原子のclusteringによるものであることを明らかにした。また、

Fe‑Pt合金においては規則・不規則変態を明らかにし、新しい状態図を提案した。これらの 結果は、応用物理学および量子物理工学の進展に貢献するところ大なるものがある。よっ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学位 を 授 与さ れ る 資格 あ る もの と 認 める 。

901 ‑

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