博 士 ( 水 産 科 学 ) 木 元 愛
学 位 論 文 題 名
Validation of Common Beliefs in
Fisheries Management using Meta― analysis
( 水 産 資 源 管 理 に お け る 通 説 の 妥 当 性 に 関 す る メ タ ア ナ リ シ ス )
学位論文内容の要旨
【目 的】近年 ,世界 的に伸び 続けて いる漁業 資源の需要を支えるため,多くの資源は過剰に漁獲さ れ, 資源量が 減少し ている。 漁業資 源の持続 的利用のため,資源の維持,回復を目指した資源管理 が広く実施されており,その役割は極めて重要である。現在,世界の各漁業管理機関が,年齢別の解 析により漁業資源の評価を行い,それに基づく資源管理を広く実施している。一方,年齢別の解析が でき ず,漁獲 量やCPUE( 単位努 力量当た り漁獲量 )に基づく資源管理が実施される場合も少なくな い。
特に いくっ かの管理 方策は ,管理効 果が十 分に検討 されていないにも関わらず,管理者や研究者 に広く通説として受け入れられている。例えば「禁漁すれば資源は増える」,あるいは「高い漁獲圧は 資源を枯渇させる」という通説である。情報量が乏しく,年齢別の評価ができない資源にも通説に基づ き広く資源管理が実施されている。今後も実施する対象が広がると考えられる現状を考慮すると,これ らの通説を,資源に適用したときの実効性を十分に検討する必要がある。
本研 究では ,より科 学的根 拠に基づく資源管理の実施のため,資源管理における4つの通説,「現 状の漁獲圧は資源を減少させる」,「禁漁は資源を回復させる」,「漁獲量と資源量の問にはトレードオ フ が 存 在 す る 」 , 「 大 き な 漁 獲 圧 が 維 持 さ れ る と 資 源 は 枯 渇 す る 」 の 妥 当 性 を 検 討 した 。
【資 料およ び方法】 個々の 資源評価 結果を統 合,再 評価して普遍的な結果を導くメタアナリシスを 用 い ,資 源 全般 に対する 管理方策 の実効 性の程度 を示す 凡資源管 理効果 を定量的 に調べた 。デー タに は,ICES(国際海洋探査委員会)がコホート解析により資源評価を行った54の系群を,資源全般 を示 すラン ダムな資 源とみ なし,そ の年齢別 資源量 推定結果を用いた。各資源において資源動態モ デル を用い ,通説の 管理方 策に従っ て漁獲し た場合 の資源変動を予測し,各通説の妥当性を検討し た 。 不確 実 性を 考慮し, 独自の再 生産予 測確率モ デルを 用い,そ れぞれ の方策に 対して1000回の 試行を行い,その中央値やばらっきを算出した。
【結果および考察】
通説1:「現状の漁獲圧は資源を減少させる」
現状 の 漁 獲圧で 漁獲した 場合の 今後20年間 の資源 変動を予 測した。 通説は56%の資源 で確認 さ れたが,20%もの資源で20年後に資源量,漁獲量ともに現状より増加すると予測された。しかし,検討 資源 全体の 平均では 資源量 ,漁獲量 ともに現 状の16% が減少すると予測されたため,資源全般にお いて 現状の 漁獲圧は 僅かに 高いと考えられた。さらに,現状の漁獲圧を2割削減した場合を検討した
結 果, 通説は43%の資源で確認され、検討 資源全体の平均では,漁獲圧を削減しない場合と比較し て 資源 量は19% 増加 した が, 漁獲 量はほぼ等しかった。2割の漁獲圧削減は漁獲量の増加には寄与 しないが,漁業コストを 下げ,確実な資源回復を導くため,効果的な資源管理であると判断された。
通説2:「禁漁は資源を回復させる」
本通 説の 検討 のた め,3年間 の禁 漁後 ,現 状の 漁獲 圧で 漁獲 した 場合 の今 後20年 間の資源変動 を予測した。禁漁をしな い場合と比較して,禁漁による資源量の増加が20年間持続すると予測された 資 源は63%でしかなかった。さらに39%も の資源で禁漁時に漁獲しなかった漁獲量を20年かけても 取 り戻 せなかった。検討資源全体の平均で は,20年後の資源量と累積漁獲量は禁漁の有無によらず 等しかったため,禁漁の 効果は20年以内に消失すると判断された。さらに,禁漁 後の漁獲圧を2割削 減 した 場合を,禁漁と漁獲圧削減がない場 合と比較した結果,資源量は93%の資源で増加し,検討 資 源 全 体 の 平 均 で は20年 後に23% 増加 した 。一 方,20年 後の 累積 漁 獲量 の検 討資 源全 体の 平均 はほぼ等しかった。禁漁 を行う場合,3年間の禁漁後 に漁獲圧の2割削減を併用することにより,確実 に禁漁の効果が期待できることが示唆された。
通説3:「漁獲量と資源量の問にはトレ―ドオフが存在する」
「資源量の増加には, 漁獲量の減少が必要」という通説である。漁獲圧を極端に小さぃ場合から大 き い場 合まで変化させ,各漁獲圧での20年 後の資源量と漁獲量を算出した。小さぃ漁獲圧では,漁 獲圧を下げると漁獲量が減少し,資源量が増加するというトレードオフが見られ,大きい場合には漁獲 圧を下げると資源量,漁獲量ともに増加するというりカバリーが見られた。トレードオフとりカバリー範囲 の 漁 獲 圧 の 閾 値 は ,Fmsyに 相 当 す る も の で あ る 。 検 討 資 源 全 体 の 平 均 で は ,漁 獲圧 の閾 値は 0.5Fmedであり,Fmsyの代替値として適用できると推定された。さらに,現状の漁獲圧では,69%の資 源はりカバリー範囲にあることがわかった。今後,資源管理を実施する上で,現状の漁獲圧がトレード オ フ と り カ バ リ ー の い ず れ の 範 囲 に あ る の か を 確 認 す る こ と が 重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。 通説4:「大きな漁獲圧が維持されると資源は枯渇する」
大き な漁獲圧の例として,各資源で過去 最大の漁獲圧で漁獲した場合を検討した。今後50年以内 に57%もの資源で枯渇の 可能性があった。さらに,現状の漁獲圧でも,20%もの資源に枯渇の可能性 が確認され,枯渇の可能 性は漁獲圧の2割削減によっ て劇的に減少すると判断された。また,禁漁は 枯渇を避ける効果はなく ,遅らせる効果があり,禁漁後に漁獲圧を2割削減すると,ほぼ枯渇の可能 性が消失した。これらの ことから,2割の漁獲圧の肖fJ減は資源の枯渇の可能性を確実に避けることが 示唆された。
以上 の結 果か ら, 本研 究で 解析 した4つの通説は,必ずしも資源全般に該当しないことが 示され た 。詳 細な調査が行われ,年齢別の 解析が可能な資源では,管理方策の適用前に,その確実 性につ いて十分検討する 必要があることがわかった。一方,情報量の乏しく管理方策の検討ができない資源 で は, 本研究で示した凡資源管理効 果を参照することにより,資源変動予測に基づいた資源 管理が 促進できると考えられる。例えば,禁漁を行ったとしても63%の確率でしか禁漁は成功しないが,禁漁 後 の漁 獲圧削減を併用すると93%の 確率で成功するという凡資源管理効果は,「禁漁すれば 資源は 増 え る 」 と い う 通 説 と は 一 線 を 画 し て お り , 禁 漁 方 策 の 検 討 に 寄 与 す る と 考 え ら れ る 。 メタアナリシス に用いた資源には,年魚や熱帯性の魚類は含まれていな い。一方,FAO(国連食糧 農業機関)は熱帯 から寒帯までの底魚,浮魚,および沿岸魚種を含む584資源を調査し,75%以上の 資源において開発 を広げる余地がないと示唆している。この結果は,現在の漁獲圧で69%の資源がり カバリーの範囲で あるとぃう本研究の結果とほば一致していると考えられ,本研究の結果は,一定程
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度,資源全般を表現していると考えられた。
以上のよ うに,本 研究で は漁業へ の一般 的な資源の応答や通説の妥当性を定量的に表現できた。
また、メタアナリシスを用いた結果,漠然と管理者や研究者に広く信じられてきた通説の一部の誤りを 指 摘でき た。さら に,本 研究で提 案した 凡資源管 理効果は,資源全体に対して管理方策の成功確率 を 定量的 に評価で きる。 管理方策 の効果 が検討で きない情報量の乏しい資源は世界中に多く存在す る ため, 凡資源管 理効果 は,特に それら の資源に 対して,より適切な資源管理の履行や合意形成の 達成に貢献できると考えられる。
学位論文審査の要旨
主査 教授 桜井泰憲 副査 教授 高橋豊美 副査 准教授 松石 隆
副査 准教授 平松一彦(東京大学)
学 位論文題 名
Validation of Common Beliefsin FiSherieSManagementuSingMeta―analySiS
( 水産資源 管理にお ける通説 の妥当性 に関するメ タアナリ シス)
近年 ,世界的 に伸び続 けている 漁業資源の 需要を支 えるため ,多くの資源は過剰に漁獲 され ,資源量 が減少し ている。 漁業資源の 持続的利 用のため ,資源の 維持,回復を目指し た資 源管理が 広く実施 されてお り,その役 割は極め て重要で ある。現 在,世界の各漁業管 理機 関が年齢 別の解析 により漁 業資源の評 価を行い ,それに 基づく資 源管理を広く実施し て い る。 一 方, 年 齢 別の 解 析 がで き ず, 漁獲量やCPUE(単位努 力量当た り漁獲量) に基 づく資源管理が実施される場合も少なくない。
特に いくっか の管理方 策は,管 理効果が十 分に検討 されてい ないにも関わらず,管理者 や研 究者に広 く通説として受け入れられている。例えば「禁漁すれば資源は増える」,ある いは 「高い漁 獲圧は資 源を枯渇 させる」と いう通説 である。 情報量が 乏しく,年齢別の評 価が できない 資源にも 通説に基 づき広く資 源管理が 実施され ている。 今後も実施する対象 が広 がると考 えられる 現状を考 慮すると, これらの 通説を, 資源に適 用したときの実効性 を十分に検討する必要がある。
本研 究 では ,より科学 的根拠に 基づく資 源管理の 実施のた め,資源 管理におけ る4つの 通説,「現状の漁獲圧は資源を減少させる」,「禁漁は資源を回復させる」,「漁獲量と資源量 の間 にはトレ ードオフが存在する」,「大きな漁獲圧が維持されると資源は枯渇する」の妥 当性を検討した。
個々 の資源評 価結果を 統合,再 評価して普 遍的な結 果を導く メタアナリシスを用い,資 源全 般に対す る管理方 策の実効 性の程度を 示す凡資 源管理効 果を定量 的に調べた。データ には ,ICES(国際 海洋探査 委員会) がコホート 解析によ り資源評 価を行った54の系群を,
資源 全般を示 すランダ ムな資源 とみなし, その年齢 別資源量 推定結果 を用いた。各資源に おい て資源動 態モデル を適用し ,通説の管 理方策に 従って漁 獲した場 合の資源変動を予測
し,各通説の妥当性を検討した。不確実性を考慮し,独自の再生産予測確率モデルを用い,
それぞれの 方策に対し て
1000回の試行 を行い,そ の中央値や ばらっきを 算出した。
通説1 :「現状の漁獲圧は資源を減少させる」
現状の漁獲圧で漁獲した場合の今後
20年間の資源変動を予測した。通説は
56%の資源 で確認できたが,
20%もの資源で20 年後に資源量,漁獲量ともに現状より増加すると予測 した。しかし,検討資源全体の平均では資源量,漁獲量ともに現状の16 %が減少すると予 測 さ れ た た め , 資 源 全 般 に お い て 現 状 の 漁 獲 圧 は 僅 か に 高 い と 考 え ら れ た 。 通説2 :「禁漁は資源を回復させる」
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年間の禁漁後,現状の漁獲圧で漁獲した場合の今後
20年間の資源変動を予測した。禁 漁をしない場合と比較して,禁漁による資源量の増加が20 年間持続すると予測された資 源は
63%であった。また,禁漁時に漁獲しなかった漁獲量を,禁漁後17 年以内に補った 資源は61 %のみでしかなかった。検討資源全体の平均では,20 年後の資源量と累積漁獲量 は禁 漁 の有 無 によ ら ず等 し く ,禁 漁 の効 果 は
20年以 内 に消 失すると判 断された。
通説3 :「漁獲量と資源量の間にはトレードオフが存在する」
「資源量の増加には,漁獲量の減少が必要」という通説である。漁獲圧を極端に小さい 場合から大きい場合まで変化させ,各漁獲圧での20 年後の資源量と漁獲量を算出した。
小さい漁獲圧では,漁獲圧を下げると漁獲量が減少し,資源量が増加するというトレード オフが見られ,大きい場合には漁獲圧を下げると資源量,漁獲量ともに増加するというり カバリーが見られた。現状の漁獲圧では,31 %の資源はトレードオフ範囲にあり,今後資 源管理を実施する上で,現状の漁獲圧がトレードオフとりカバリーのいずれの範囲にある のかの判断が重要と考えられた。
通説4 :「大きな漁獲圧が維持されると資源は枯渇する」
大きな漁獲圧の例として,各資源を過去最大の漁獲圧で漁獲した場合を検討した。今後
50年以内に
57%もの資源で枯渇の可能性があった。さらに,現状の漁獲圧でも,20 %もの 資源で枯渇の可能性が確認され,枯渇の可能性は漁獲圧の2 割削減によって劇的に減少す ると判断された。
以上の結果から,本研究で解析した
4つの通説は,必ずしも資源全般に該当しないこと,
詳細な調査により年齢別解析が可能な資源では,管理方策の適用前に,その確実性を十分 検討する必要があると判断した。一方,情報量が少なく,管理方策の検討ができない資源 では,本研究で示した凡資源管理効果を適用することにより,資源変動予測に基づいた資 源管理が促進できると考えられる。