博 士 ( 理 学 ) 佐 々 木 浩 宣
学位論文題名
Scattering and inve
`'rse scattering problems
for nonlinear Klein
―Gordon equations
(非線型クライン・ゴルドン方程式に関する散乱及び逆散乱問題について)
学位論文内容の要旨
本論 文では非 線型ク ライン ・ゴル ドン方 程式( 以下NLKG) に関する散乱問題及ぴ逆散乱問題に ついて考察する。NLKG は自由クライン・ゴルドン方程式(束縛されていない状態を記述している。
以下FKG と略する)に摂動項(特定の束縛状態を記述している)が加えられた関数方程式である。
NLKG
は 場 の理 論 等 で 導出 さ れ る重要 な方程 式であ るが、 純粋数 学的観点 から見 ても非 線型偏 微分方 程式論 のみな らず、 他の分野(例えば関数空間論、リーマン幾何学)への刺戟を与え得る 重入な方程式である。
【第一章・散乱問題】
第一章ではNLKG の散乱問題について考察する。
NLKG
は 恒 常 的な 物 理 現 象に 由 来 し てい る ことが 多い為 、時間人 域解の 存在は 肯定的 に予測 される 。実際 に摂動項 に一定 の条件 を課せば解の時間火域的存在を証明することは容易である。
そこで、より深く、「時間人域解はどのような振舞いをするのか?」という漸近挙動を考察していく。
漸近挙 動のタ イプのー っとし て短距 離散乱 が挙げ られる 。これ は、NLKG の 解が、 時刻が充分に 経過し た後に 、束縛されない自由な状態、即ちFKG の解に挙動している現象である。っまり、『時 間の経過と共に、摂動項の影響が弱まり、最終的に影響は無視出来る』と解釈される。これと同義 な概念 は『FKG の 解めーを入射させると、それは摂動の影響を受け、非線型解になるが、時刻が充 分に経過した後には影響が消え去り、異なるFKG の解めャとなって反射する』状態である。¢―から めャー 移す写 像を散乱 作用素 という 。散乱作用素の存在を示すことは短距離散乱の挙動を示すこ とに他ならなぃ。
散乱問 題は方 程式の 散乱作 用素の有 無を吟 味する 問題で あり、 方程式 の時間 人域解 の存在、
及びその一意性、更には解の漸近挙動を統括的に扱う分野である。
これまで、「摂動項に、適当な条件を課せば、ある定義域上で散乱作用素が定義出来る」ことが 知られていた。ところが、既存の結果のままでは、ポテンシャルの条件を連続的に変更させていくと、
それに 伴う散 乱作用素 の定義 域の条 件が、突如不連続的に強くなるという問題点が残っていた。
本論文 の第一 章では 上記の 問題が解 消されることを証明する。解決方策としては、関数空間の 補間理 論を用 いることが挙げられる。これは、異なる2 つの関数空間の「中間」に位置する関数空
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間 を 解析 する こ とで 、不 連 続さ を解 消 しよ うと す る取 り組 み であ る。 そ して 、適 切 な関数空 間に関す る 補 間 理 論 を 用 い る こ と に よ っ て 、先 に 述べ た不 自 然さ を解 消 し、 なお 且 つ定 義域 の 条件 を弱 く す る こ と が出 来 た。 これ を 概し て言 え ば「 『時 刻 を無 限火 に 経過 させ た とき に、FKGの 解 に漸 近す る 時 間 人 域解 』を 導 く初 期デ ー タの 条件 を 弱め るこ と が出 来た 」 とな る。
【第二章・逆 散乱問題】
本章では非局所 的非線型項を摂動 項とするNLKGの逆散 乱問題を扱う。
摂 動項 が どの よう な 条件 のと き に、 解は ど のよ うに 振 舞う のか 、 とい う疑 問 をよ り数 学的表現に換 言 し た 問 題 が 第 一 章 で 考 察 し た 散 乱 問 題 で あ る 。 逆 に 、 振 舞 い 方 の 情 報 が 十 分 に 判明 して い ると き に 、 摂 動 項 の 詳 細 な 情 報 を 得 よう と 試み る問 題 が逆 散乱 問 題で ある 。 具体 例と し ては 、『 摂 動項 の 構 成 を 担 う ポ テ ン シ ャ ル は 都 合の 良 い関 数空 間 に属 して い るこ とは 判 明し てい る 。し かし 、 各位 置に おけ る ポテ ンシ ャ ルの 値そ の もの は分 からな い。そこで入射と 反射の組(¢−, めェ)の情報を利 用して不明な値を 求める』等が挙げ られる。
逆 散 乱 問 題 は よ り 数 学 的 に 表 現 す る と 「 既 知 な る 散 乱 作 用 素 の 性 質 か ら 、 摂 動 項の より 具 体的 な 性 質 を 探 り 出 す 」 と な り 、 所 謂逆 問 題の 領域 に なる が、 前 述し た散 乱 問題 の更 な る応 用と も 解釈 され、時間大域解 の更に詳しい性質 を見出せる可能性を 秘めている。
摂 動 項 が 局 所 的 非 線 型 項 で あ る と き の 逆 散 乱 問 題 に つ い て は 既 に 結 果 が あ る が 、 非 局 所 的 非 線型項の場合は結 果が無かった。
. 本 論 文 の 第 二 章 で は 、 申 請 者 に よ り 初 め て 得 ら れ た 非 局 所 的 非 線 型 項 に つ い て の 結 果 を 紹 介 する。得られた結 果は人きく分けて ニっある。
夐 一 の 結 果 : 既 知 な る 散 乱 作 用 素と 初 期デ ータ か らな る汎 関 数を 線 型 化 し、 更 に適 切な テ スト 関 数 を 適 用 さ せ る こ と に よ り 、 逆 散 乱 問 題 に お け る 一 意 性 定 理 が 証 明 さ れ た 。 標 語 的 に 言 え ぱ
「 非 線 型 性 の 度 合 い が 一 致 して い れば 、非 線 型項 は全 く 同じ にな る (同 じ非 線 型現 象と 解 釈出 来る)」となる。
釜 三 堕 鑓 墨 : 逆 散 乱 問 題 の 究 極 的 目 標 は 「 既 知 な る 散 乱 作 用 素 の 性 質 か ら 、 摂 動 項 を 再 構 成 す る」ことである。通常、観測者が知り得る情報は散乱データ(ここでは(¢―,め一I)のこと)のみである。
その デー タ から 、不 詳 であ った 摂 動項 を確 定 する 、と い う経 過か ら も見 て取 れ るよ うに 、本目標は実 験 ・ 観 測 の 現 場 に 於 い て 要 求 さ れ る 事 柄 に 最 も 密 接 し て い る 。 残 念 な が ら 、 第 一 の結 果は 本 目標 よ り は 弱 い 結 果 で あ る 。 こ の 問 題に 関 し、 既存 の 方法 を人 幅 に改 良す る こと で、 摂 動項 を再 構 成出 来 る こ と を 初 め て 証 明 し た 。 こ の 証 明 に は 第 一 章 に 於 い て 紹 介 さ れ た 手 法 も 用 い ら れ て い る 。
【 第 三 章 ・ 補 遺 】
第 一 ・ 二 章 に 於 い て 用 い た 命 題 の 中 に は 、 構 成 の 煩 雑 さ を 回 避 す る 為 に 証 明を 略 した もの が あ る 。 本 章 で は 、 こ れ ら の 完 全 な 証 明 を 与 え る 。
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学位論文審 査の要旨 主査
副査 副査
助 教 授 教 授 教 授
津 田 谷 小 澤 中 村
公 利 徹 玄
学位論文題名
Scattering and inverse scattering problems for nonlinear Klein − Gordon equations
(非線型クライン・ゴルドン方程式に関する散乱及び逆散乱問題について)
20世紀前半,イギリスの理論物理学者Hart reeはハートリ一近似と呼ばれる,多電子系の波動関数を求める近似法を提 案した.これは多電子原子に対する代表的な近似方法の1つである.この方法によると,波動関数はある非線型シュレディ ンガー方程式の解になる.その非線型項は非局所的相互作用を記述し,ハートリー項と呼ばれる.この方程式の相対論的な 場 合を扱うにはハートリー項をもったクライン・ゴルドン方程式を考える必要がある.本論文の前半はハートリー項をも つ クライン・ゴルドン方程式 および冪乗型の非線型項をもつクライン・ゴルドン方程式の散乱問題を考察している,散 乱 問題は散乱作用素カ箪耐るかどうかを問題とし,方程式の解の無限の過去での状態と無限の未来での状態を比較する,
したがって,散乱作用素の存庄を証明するには方程式の時間大域解の存在および漸近自由の両方を示さなければならない,
時 間 大 域 解 が 自 由 解 の よ う に 振 る 舞 う か ど う か を 解 明 す る の は 大 変 興 味 深 く 重 要 な 問 題 で あ る . ハ ート リー 型の ク ライン・ ゴルドン方程式についての 数学的研究は1980年ごろからMenzalaとStraussによって 始 ま った,この方程式の特徴はハートリー項である三次合成積にポテンシャルが含まれていることである,著者はハートリ ー 項に含まれるポテンシャルの無限遠方における減衰評価と散乱作用素の定義域との関係に着目した.ポテンシャルがあ る 条件をみたすならば;ある定義域上で散乱作用素が定義できることは知られている.しかし,定義域を重みっきソボレ フ 空間で考える場合,これまでに知られてしゝる研究結果では,その重みはポテンシャルの減衰指数について不連続であ り ,連続にできるかどうかは 未解決であった,冪乗型のクライン・ゴルドン方程式についても同じ状況で,解決すべき 問題として残されていた.
本論文はハートリ一型およ硼〓乗型のクライン・ゴンレドン方程式に対し,その不連続陸を解消し重みの条件を弱めて お り,散乱作用素の定義或をある意味で拡張することに成功した.証明ではいくっかのストルッカーツ評価式を巧妙に組 み合わせて使うことと適切な解空間の選択という工夫が見られる.そゎ以ヒに重要な点として関数空間の複素補間法としゝう 概念を用いている.これによって上記の不連続性を解消することができた.この手法は新しく独自のものであり,他の方程 式の散乱理論においても新しい展開が期待できる.
著者は本論文の後半で逆散乱問題について考察している.散乱作用素からポテンシャルを決定する問題である.ハート リ ー型のシュレディンガー方 程式および同じ型のクライン ・ゴルドン方程式を扱っている.主として2つの新しい結果 を 示している. 1つ目は, 両方の方程式について散乱作用素が等しけれぼある条件の下ではポテンシャルも等しいと い うこと,っまり一意陸である. 2つ目は散乱作用素からポテンシャルの無限遠方での減衰評価が決められるという結 果 である.ハートリー型のク ライン・ゴルドン方程式についてはこれまで何も知られていなかった.冪乗型のシュレデ
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インガ一方程式およびクライン・ゴルドン方程式の逆散乱問題についての研究結果はあるが,そこで用いられた手法は ハートリー型の方程式にそのままでは適用できない.著者はシュレディンガー方程式,クライン・ゴルドン方程式の両 方に対してハートリー項に応用できる方法を開発した.それは入射波にパラメーターをもう1 つ導入するという新たな 方法であり,これによって極小振幅極限から決まる汎関数が定義できるようになった,ハー卜リー項をもつクライン・
ゴルドン方程式の逆散乱問題では最初に示された研究結果である.シュレディンガー方程式についても非線型項の係数 が変数の場合を扱っているという点で既に知られている研究結果の拡張になっている,これらの研究結果をきっかけに 逆散乱問題研究の進展が今後期待できる.
これを要するに,著者は,散乱作用素の定義域およびポテンシャルの再構成について新知見を得たものであり,非線 型偏微分方程式の散乱理論,逆散乱理論の発展に貢献するところ大なるものがある.よって著者は,北海道大学博士(理 学)の学位を授与される資格あるものと認める.
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