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沖繩県離島における伝統的補完・代替療法の      実態と医療費の関連

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 医 学 ) 林    美 枝 子 学 位 論 文 題 名

沖繩県離島における伝統的補完・代替療法の      実態と医療費の関連

― 診 療 報 酬 明 細 書 に基 づく 分析 疫学的 研究 一

学位論文内容の要旨

  補完・代替療法(Complementary Alternative Medicine)とは、鍼灸、漢方や伝統的自 己治療などの通常医療を補完、あるいは代替する療法の総称である。世界各国における その実施率は上昇し、合わせてその費用も増加している。本邦における補完・代替療法 の実施率は76.5%で、研究がなされている諸外国の中では最も高い。しかし本邦におけ る実施関連要因や実施実態に関してはYamashita.et al.の2002年の論文以外は研究が行 われていない。また、増加する補完・代替療法の費用に関しては、アヌリカやイギリス を中心に医療保険の適用に関する費用自己負担額の問題が研究されている。欧米とは異 なり本邦では既に鍼灸や柔道整復、漢方などに医療保険が適用されており、補完・代替 療法の費用自己負担額と医療費との関係が他の国とは異なった状況にある。さらに歴史 的経緯から費用のかからない生薬製剤や食事療法、各種の手技などの伝統的自己治療も 補完・代替療法として沖縄県の離島や他県の山村で現在も行われている。しかし国の内 外を問わず、こうした補完・代替療法の中でも自己治療についての研究は実態調査すら まだ緒についたばかりである。特にその実施と医療費との関連に関する研究は、全く行 われていない現状である。

  そこで本研究では、補完・代替療法としての伝統的な自己治療を実施している沖縄県 のA離 島を 調査 対象 地と し、 研究Iとして、今日における自己治療の実態と実施の関連 要因を明らかにするとともに、研究Hでは、自己治療の実施と医療費との関連を診療報 酬明細書のデータに基づいて検証するために調査を行った。

  対 象地 域は 、過 疎化 ・高 齢化が進む人口887人の村で、島内に医師、看護師各1人の 診療所はあるが、入院設備のある一般病院、薬局などはない。そのため島の高齢者は、

種々の補完・代替療法の経験や知識が豊かである。本研究ではA島で行われている自己 治療 の中 から3種類 の「 手技 」に焦点を絞り、研究Iとして自記式調査票による調査を 2001年に 行っ た。 対象 者は65歳以 上の 全て の在 宅高 齢者243人で、調査項目は基本的 属性 、健 康状 況、ADL、IADL、ソ ーシ ャル サポ ート ・ネ ットワーク、生活習慣、及び 自己治療の実施状況である。さらに研究Hとして診療報酬明細書に基づく医療費調査を 2002年に実施した。これらの調査は自治体の協力、および対象者の同意を得て行い、分 析は単変量解析の後、ロジスティック回帰分析を行った。

  調査票の回収数は211人(回収率86.7%)、研究Iはそのうちの有効回答数200人(82.3%、

男性65人 、女 性135人) を分 析し た。 研究Hでは 、こ の200人を対象として診療報酬明

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細 書 か ら190人(78.2% 男 性60人 、 女 性130人 ) の 医 療 費 に 関 す る 情 報 を 収 集 、 分 析 し た。

  そ の結 果、 研究Iでは 、自 己治 療の 実施 経験 が 過去 にある者は130人(65.0% )で、最近 1年間の実 施は70人(35.0%)であった 。「女性」、「後期高齢者」、「同居配偶者なし」「飲 酒の 習慣 なし 」、 「 日常 的な 運動 習慣 あり 」の 者は 、そ うで ない 者に 比べ て 有意 に過去の 自己 治療 実施 経験 率 が高 かっ た( 全てpくO.Ol)。有 意な 関連 のあ った 変数 を 全て 強制投入 し た □ ジ ス テ ィ ッ ク 回帰 分析 を行 うと 、「 後期 高齢 者」 (0R〓2.4、95%CI(1.5‑3.9)、 pくO.OOl)、「同居配偶者 あり」(OR=0.5、95%CI(0.3‑1.0)、pく0.05)、「日常的 運動習慣あ り」(OR=2.2、95%CI(1.1‑4.5)、pく0.05)が過去の自己治療の実施と有意に関連 していた。

自 己 治 療 実 施 経 験 者130人 を 「 最 近1年 間 の 実 施 なし 群」60人(46.2%) と、 「最 近1年間 の 実 施 あ り 群 」70人(53.8% )に 分け て 分析 する と、 性別 と年 齢で 調整 した ロジ ステ ィツ ク回 帰分 析の 結果 、 「高 血圧 症J (OR=2.2、95%CI(1.1‑4.4)、pく0.05)、「関節 炎/リウマ チ 」(OR=2.9、95%CI(1.3‑6.3)、pく0.01)、 「IADLの 数 値 が 高 い 者 」(OR=1.2、95%CI (1.1‑1.4)、 pく 0.05)が 「 最 近 1年 間 の 実 施 」 と 有 意 に 関 連 し て い た 。   研 究Hで は、 「外 来診 療費 」、 「医 療費 総額 」 を3分位 に分 け、 単変 量解 析 で自 己治療と の関 連を 分析 した 結 果、 やや 関連 して いた (pくO.l)のは 「外 来診 療費 」と 「最 近1年間の 実施 」で あっ た。 「 外来 診療 費」にたいして、自己治療の影響をより詳しく分析 するため、

多 項 口 ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 解 析 を 行 っ た 。 自 己 治 療 を 「 最 近1年 間 に 実 施 し た者 」と 「よ り高 額の 外来 診療 費 」と の関 連は 見ら れな かっ たが 、「 最も 高額 の外 来診 療 費」 とはやや 関 連 が 見 ら れ た(OR=2.1、95%CI(0.9‑5.1)、pくO.l)。性 別、 年齢 、世 帯月 収で 調整 した 分 析 に お い て も 、 結 果 は 同 様 で あ っ た(OR=2.1、95%CI(0.9‑5.3)、pく0.1)。   研 究Iの 結 果 か ら は 、A島 の 自 己 治 療 実 施 率65.0% は 、 ア メ リ カ の 高 齢 者 に 関 す る Nam.eta亅,(2003年)の15.9%やアメリカの一般住民に関するBurg.(1998年)の31%と比 較 す る と 極 め て 高 い 数 値 で あ る こ と が わ か る 。 これ は調 査対 象が 特殊 な環 境で ある こと が影 響し てい ると 思 われ る。 また 「過 去の 自己 治療 の実 施経 験」 は「 女性 」 、「 後期高齢 者」、「同居配偶者なし」、「飲酒の 習慣なし」、「日常的な運動習慣あり」等の社会的要因 と関 連し 、「 最近1年の 自己 治療 の実 施」 では そ れら は有意ではなく、「高血圧 症」や「関 節 炎 / リ ウ マ チ 」 な ど の 健 康 状 況 と 関 連 が あ っ た。 補完 ・代 替療 法は 、も とも と自 己責 任 に よ っ て 実 施 さ れ て い る が 、 本 研 究 か ら 個 人 の属 性や 生活 習慣 が有 意に 関連 する のは 長 期 間 の 過 去 の 実 施 経 験 に お い て で あ り 、 最 近 の実 施状 況に 関し ては 健康 状態 が有 意に 関 連 す る こ と が わ か っ た 。 本 研 究 は 伝 統 的 な 自 己治 療を 長年 実施 して いる 土地 で調 査を 行っ たの で、 これ ま での 内外 の研 究で はな され なか った 点を 明ら かに する こ とが できた。

  研 究Hで 「 最 近1年 間 の 自 己 治 療 の 実 施 」 と 最 も 高 額 な 外 来 診 療 費 の 問 に や や 関 連 が 示さ れた わけ は、 「 高血 圧症 」や 「関 節炎 /リ ウマ チ」 の疾 患を 有す る者 が 、症 状を軽減 す る た め に 通 常 医 療 の 受 診 と 併 行 し て 自 己 治 療 を実 施し てい たこ とが ーつ の理 由で ある と考えられる。

  老 人 医 療 費 に つ い て は 、 こ れ ま で 県 単 位 、 市 町村 単位 のマ クロ レベ ルで は比 較的 多く の 研 究 が な さ れ て い る が 、 個 人 の 診 療 報 酬 明 細 書に 基づ く研 究は 、ほ とん ど行 われ てい な か っ た 。 本 研 究 は 沖 縄 県 離 島 に お け る 在 宅 高 齢者 に対 して 行っ た全 数調 査で あり 、さ ら に 我 が 国 が 国 民 皆 保 険 制 度 で あ る こ と を 活 か して 診療 報酬 明細 書か ら得 られ たデ ータ を 個 人 の 社 会 的 項 目 と り ン ケ ー ジ さ せ て 統 計 分 析 し て い る 点 で 、 こ れ ま で の 内 外 の 補 完 ・ 代 替 療 法 研 究 で は 明 ら か で な か っ た 点 を 解 明で きた 。ま た、 今後 の本 邦の 補完 ・代 替 療 法 の 研 究 に お い て は 、 伝 統 的 な 療 法 に 配 慮 し た 調 査 が 必 要 で あ る と 示 唆 さ れ た 。

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  今回申請者が明らかにした自己治療の現在実施と高額外来診療費の関係は、必ずしも 他の補完・代替療法の実施と医療費との関連を明らかにしたわけではない。しかし世界 一の長寿国である本邦において、高齢者の自己治療の実態、及びその実施と医療費との 関連を明らかにした初めての研究である。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

沖繩県離島における伝統的補完・代替療法の      実態と医療費の関連

― 診 療 報 酬 明細 書に 基づ く分 析疫 学的 研究 ―

  補完・代替療法(Complementary Alternative Medicine)とは、鍼灸、漢方や伝統的自 己治療などの通常医療を補完、あるいは代替する療法の総称である。世界各国において そ の実 施率は 上昇 し、 費用 も増 加し てい る。 本邦 における補完・代替療法の実施率は 76.5%で、研究対象の諸外国の中では最も高い。しかし本邦における実施の関連要因や 実態に関してはYamashita.et al.の2002年の論文以外は研究が行われていない。また、

増加する補完・代替療法の費用に関しては、アメリカやイギリスを中心に医療保険の適 用に関する費用自己負担額の問題が研究されている。欧米とは異なり本邦では既に鍼灸 や柔道整復、漢方などに医療保険が適用されており、補完・代替療法の費用自己負担額 と医療費との関係が他の国とは異なった状況にある。さらに歴史的経緯から費用のかか らない生薬製剤や食事療法、各種の手技たどの伝統的自己治療も補完・代替療法として 沖繩県の離島や他県の山村で現在も行われている。しかし国の内外を問わず、こうした 補完・代替療法、とくに自己治療についての研究は実態調査すら始まったばかりで、特 に医療費との関連に関する研究は、全く行われていない。

  本研究では、補完・代替療法としての伝統的な自己治療を実施している沖縄県のある 離 島を 調査対 象地 とし 、研究Iとして今口における自己治療の実態と実施の関連要因を 明 らか にする とと もに 、研究Hでは自己治療の実施と医療費との関連を診療報酬明細書 のデータに基づいて検証するために調査を行った。

  対象 地域は 、過 疎化 ・高 齢化 が進 む人 口887人の 村で、島内に医師、看護師各1人の 診療所はあるが、入院設備のある一般病院、薬局などはない。そのため島の高齢者は、

種 々の 補完・ 代替 療法 の経験や知識が豊かである。本研究ではA島で行われている自己 治 療の 中から3種 類の 「手 技」 に焦 点を絞 り、 研究Iとして自記式調査票による調査を 2001年 に行っ た。 対象 者は65歳 以上 の全 ての 在宅 高齢 者243人で 、調 査項 目は 基本的 属 性、 健康状 況、ADL、IADL、 ソー シャル サポ ート ・ネ ット ワー ク、 生活 習慣 、及び 自己治療の実施状況である。さらに研究IIとして診療報酬明細書に基づく医療費調査を 2002年に実施した。これらの調査は自治体の協力、および対象者の同意を得て行。ゝ、分

郎 子 一

恒 玲

井  

  沢

櫻 岸

授 授

教 教

査 査

主 副

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析は単変量解析の後、ロジステイック回帰分析を行った。

  調査票の回収数は211人(回収率86.7%)、研究Iはそのうちの有効回答数200人(82.3%、

男 性65人 、 女 性135人 )を 分析 した。研 究uでは、 この200人を対 象として 診療報酬 明 細 書 か ら190人(78.2% 男性60人、女 性130人)の 医療費に 関する情報 を収集、 分析し た。

  その結果、研究Iでは、自己治療の実施経験が過去にある者は130人(65.0%)で、最近 1年間の実施は70人(35.0%)であった。「女性」、「後期高齢者」、「同居配偶者なし」「飲 酒の習慣なし」、「日常的な運動習慣あり」の者は、そうでない者に比べて有意に過去の 自己治療実施経験率が高かった(全てpく0.01)。有意な関連のあった変数を全て強制投入 し た口ジス ティック 回帰分析 を行うと 、「後期高 齢者」(OR=2.4、95%CI(1.5‑3.9)、 pく0.001)、「同居配偶者あり」(OR=0.5、95%CI(0.3・ 1.0)、pく0.05)、「日常的運動習慣あ り」(OR=2.2、95%CI(1.1‑4.5)、pく0.05)が過去の自己治療の実施と有意に関連していた。

自 己治療実 施経験者130人を「最近1年間の実施なし群」60人(46.2%)と、「最近1年間 の実施あり群」70人(53.8%)に分けて分析すると、性別と年齢で調整したロジステイツ ク回帰分析の結果、「高血圧症」(OR=2.2、95%CI(1.1‑4.40、pく0.05)、「関節炎/リウマ チ 」(OR=2.9、95%CI(1.3‑6.3)、pく0.01)、「IADLの 数値が高い者」(OR=1.2、95%CI (1.1‑1.4)、 pく 0.05)が 「 最 近 1年 間 の 実 施 」 と 有 意 に 関 連 し て い た 。   研究IIでは、「外来診療費」、「医療費総額」を3分位に分け、単変量解析で自己治療と の関連を分析した結果、やや関連していた(pく0.1)のは「外来診療費」と「最近1年間の 実施」であった。「外来診療費」にたいして、自己治療の影響をより詳しく分析するため、

多 項口ジス テイック 回帰解析 を行った 。自己治療 を「最近1年間に実施した者」と「よ り高額の外来診療費」との関連は見られなかったが、「最も高額の外来診療費」とはやや 関連が見られた(OR=2.1、95%CI(0.9‑5.1)、pくO.l)。性別、年齢,、世帯月収で調整した 分 析 に お い て も 、 結 果 は 同 様 で あ っ た(OR=2.1、95%CI(0.9‑5.3)、pく0.1)。   研 究Iの結 果 から は 、A島 の自 己 治療 実 施 率65.0% は 、アメリ カの高齢 者に関す る Nam.etal.(2003年)の15.9%やアメリカの一般住民に関するB丗g.(1998年)の31%と比 較 すると極 めて高い 数値であることがわかる。これは調査対象が特殊な環境であること が影響していると思われる。また「過去の自己治療の実施経験」は「女性」、「後期高齢 者」、「同居配偶者なし」、「飲酒の習慣なし」、「日常的な運動習慣あり」等の社会的要因 と関連し、「最近1年の自己治療の実施」ではそれらは有意ではなく、「高血圧症」や「関 節 炎/リウ マチ」な どの健康状況と関連があった。補完・代替療法は、もともと自己責 任 によって 実施され ているが、本研究から個人の属性や生活習慣が有意に関連するのは 長 期間の過 去の実施 経験においてであり、最近の実施状況に関しては健康状態が有意に 関 連するこ とがわか った。本研究は伝統的な自己治療を長年実施している土地で調査を 行ったので、これまでの内外の研究ではなされなかった点を明らかにすることができた。

  研 究Hで「最 近1年間の 自己治療 の実施」 と最も高額 な外来診 療費の間 にやや関 連が 示されたわけは、「高血圧症」や「関節炎/リウマチ」の疾患を有する者が、症状を軽減 す るために 通常医療 の受診と併行して自己治療を実施していたことがーつの理由である と考えられる。

  老 人医療費 にっいて は、これまで県単位、市町村単位のマクロレベルでは比較的多く の 研究がを されてい るが、個人の診療報酬明細書に基づく研究は、ほとんど行われてい な かった。 本研究は 沖繩県離島における在宅高齢者に対して行った全数調査であり、さ ら に我が国 が国民皆 保険制度であることを活かして診療報酬明細書から得られたデータ

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を個 人の 社会 的項 目と りンケージさせて統計分析している点で、これまでの内外の補 完・代替療法研究では明らかでたかった点を解明できた。また、今後の本邦の補完‐代 替療法の研究においては、伝統的ナょ療法に配慮した調査が必要であると示唆された。

  今回申請者が明らかにした自己治療の現在実施と高額外来診療費の関係は、必ずしも 他の補完・代替療法の実施と医療費との関連を明らかにしたわけではたい。しかし世界 ーの長寿国である本邦において、高齢者の自己治療の実態、及びその実施と医療費との 関連を明らかにした初めての研究である。審査員一同はこの;研究の成果を高く評価し、

大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ、申請者が博士(医学)の学位を受ける のに充分橙資格を有するものと判定した。

参照

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