博士(医学)唐 思健 学位論文題名
アミトリプチリンのラット脊髄における 鎮痛作用に関する組織学的研究
学位論文内容の要旨
【背景と目 的】抗うつ薬は各種の癌南緩 m に有効であることが臨床的に知られている.しかしその 鎮痛作用の機序については,十分には解明されていない,動物実験では,炎症性または神経障害陸の 疼痛モデルを用いて,各種の抗うつ薬をクモ膜下腔,末梢神経近既または腹腔内に投与し,行動学的 方法により抗うつ薬カ溌漏作用を持つことを示した報告が多数ある.しかしその作用機序については 未だに不明な点が多く,仮説の域を出ない,代表的な仮説としては,抗うつ薬がノルアドレナリンやセ 口トニンの再取り込みを阻害することで下行陸抑制系の作用カミ増強さわ鎮痛作用を発揮するというも のがある.ノルアドレナリン作動陸下行 陸抑制系は脊髄においてa2 受容体を介した経路と,a1 受容 体とGABA 作 動陸介在二ユー口ンが関与する経路のニっが存左していると考えられている,本研究で は,これら ニつの経路のうち,ai 受容体 と GABA 作動陸二ユー口ンが 関する経路について,抗うつ 薬との関係を明らかにすることを目標とした,っまり,抗うつ薬投与により,脊髄においてai 受容体 を 介し てGABA 作 動 陸ニ ュー 口ンが 興奮ことを証明するのが目 的である.GABA 作動陸二ユー 口ン 興 奮 の 指 標 と し て は , c‑Fos 夕 ン バ ク の 発 現 を 免 疫 組 織 学 的 に 検 出 す る 方 法 を 用 い た 。 謝 象と 方法 】実 験 1 :体 重 250 〜350g 雄陸ラットを使用し,抗 うつ薬は臨床的にも広く使用 され ているアミトリブチリンを使用した,アミトリブチリン(溶媒:6 %ブドウ糖帝O のクモ膜下腔投与は 直接穿刺法により行い,イソフルラン麻酔下に腰椎椎間から薬液をクモ膜下腔投与した,投与後の時 間経過とo Fos 発現の関係を調べるために,60yg のアミトリプチリンをクモ膜下投与し,投与して 0 , 1 ,2 ,3 ,4 および5 時間後にラットを固 定し脊髄を摘出したアミトリプチリンの投与量とc ーFos 発 現の関係を調べるため,アミトリプチリン15 ,30 ,60 および90Ltg を脊髄クモ膜下腔投与し、対象群 として溶媒のみをクモ膜下投与したr 時間経過との関係で調べた結果に基づき,4 時間後にラットを固 定し脊髄を摘出した.摘出した標本の凍結切片を作成し,免疫組織染色を施行した。脊髄の切片に対 し てc . Fos の DAB 染色 及び c ・ Fos とグ ルタ ミン 酸脱 炭酸酵素 (GAD) の螢光二重染色を行っ た,
DAB 染 色したc‑Fos 陽幽沺胞の定量 と,蛍光二重染色によるc‑Fos とGAD の共存性の解析を行 ったI c‑Fos 陽性細胞の定量に関するデータについては,多群間の比較を一元配置分散分祈で行い,post‑hoc test として は′mkey's test を用いた, c‑Fos とGAD の局在に関するデ一夕については,Studentt 検 定 を 用 い て , 層 別 に ア ミ ト リ プ チ リ ン 0 嶇 群 と 60 嵋 の c . F0s 陽 陸 細 胞 数 を 比 較 し た . 実験2 :実験 1 と同様の方法で薬液をクモ 膜下投与した, a 受容体拮抗薬としてプラゾシン(a1 受容 体 拮 抗 薬 ) と ヨヒ ンビ ン( d2 受容 体拮 抗薬 )を 使 用し た4 群に 分け て, 第1 群傍 鰐) で は 6 % ブ ドウ 糖10 山の み をク モ膜 下腔に 投与した第 2 群では6 %ブド ウ糖lO 山をクモ膜下腔に投与 し,
15 分後 にア ミト リ プチ リン 60ng を クモ 膜下 腔投 与し たI 第3 群 では 6 %ブドウ糖10 山に溶解 した
ヨ ヒン ピン 30 昭 を クモ 膜下 腔に投 与し, 15 分後に6 %ブドウ糖 5 山に溶解したアミトリプチ リン
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60Ligを ク モ 膜 下 腔 投 与 し た . 第4群 で は 蒸 留 水10LL1に 溶 解 し た プ ラ ゾ シ ン20Ltgを ク モ 膜 下 腔 に 投 与 し ,15分 後 に 6% ブ ド ウ 糖5山 に 溶 解 し た ア ミ ト リ プ チ リ ン 60ygを ク モ 膜 一F腔 投 与 し たl実 験1 と 同 様 の 方 法 で 切 片 を 作 成 し た 後 ,c‑FosのDAB染 色 を 行 い ,c‑Fos陽 性 細 胞 の 定 量 分 析 を 行 っ た , 隊 吉 果 】 実 験1: 胆 髄 のc‑F.os陽 ´ 陸 細l胞 数 は , ア ミ ト リ プ チ リ ン 投 与 後4時 間 ま で は 綴 畳 時 間 に 依 存 し て 増 加 す る 傾 向 が 認 め ら れ た 。 投 与4時 間 で 最 大 値 と な り ,0時 間 と 比 較 し て 有 意 な 増 加 が 認 め ら れ た . 用 量 別 で は30,60お よ び90嵋 の 投 与 で は ,0嵋 に 比 較 し て 有 意 にc.F| 鳩 陽 性 細 胞 数 が 増 加 し た ,c・ F0sとGADの 螢 光 二 重 染 色 で は , 多 く のc. Fos陽 幽 齟 胞 カt同 時 にGAD陽 陸 で あ る こ と が 示 さ れ た . し か しc・Fbs陽 性 で あ る がGAD陰 性 の 細 胞 も 存 在 し た . 層 区 分 毎 に そ の 共 存 概 を 比 較 す る と ,I・H層 に お い て はc.Fos陽 陸 か つGAD陽 陸 の 細 胞 も ,c.Fos陽 陸 か つ GAD陰 陸 の 細 胞 も , と も に 有 意 に 増 加 し た .III・W層 で はc.Fos陽 性 か つGAD陽 性 の 細 胞 の み カ £ 百 意 に 増 加 し て お り , c‐ Fos陽 陸 か つGAD陰 陸 の 細 胞 は0嵋 群 と 比 較 し て 有 意 差 は な か っ た , V.W層 とVu.X層 で は c.Fos陽 陸 か つGAD陽 陸 細 胞 Ic‐Fbs陽 性 か つGAD陰 陸 細 胞 と も に ,0昭 群 と 比 較 し て 有 意 な 変 化 を 認め な か っ た ,
実 験2:a受 容 体 拮 抗 薬 を 投 与 後 に ア ミ ト リ プ チ リ ン を 投 与 し た 場 合 のc・Fos陽 陸 細 胞 数 を 比 較 し た 結 果 , 対 照 群 と 比 較 し て , ブ ド ウ 糖 / ア ミ ト リ プ チ リ ン 群 と ヨ ヒ ン ピ ソ ア ミ ト リ プ チ リ ン 群 で は , c.F|os陽 陸 細 胞 数 が 有 意 に 多 か っ た が , プ ラ ゾ シ ン / ア ミ ト リ プ チリ ン 群 で は 有 意 差は 認 め な か っ た , 拷 察 】c.Fosは 補 経 細 胞 の 興 奮 を 示 す 細 織 学 的 な マ ー カ ー と し て 広 く 利 用 さ れ て い る . 本 研 究 で は ア ミ ト リ プ チ リ ン に よ っ て 賦 活 化 さ れ る ネ 噺 鬪 聯 を 解 析 す る 指 標 と し てc. 亜 、osを 用 い た . 実 験1か ら , ラ ッ ト の 脊 髄 く も 膜 下 腔 に ア ミ ト リ ブ チ リ ン を 投 射 る と , 時 間 依 存 性 三 お よ び 用 量 依 存 性 に , 脊 髄 灰 白 質 にc.F0s夕 ン パ ク が 発 現 す る こ と が 示 さ れ た , 投 与 後 の 時 間 経 過 と の 関 係 で は ,4時 間 後 にc・Fos カ ミ最 大 に 増 カ [ げ るこ と カ ゞ 示 さ れ た. 投 与 量 と の 膜 ヨ 係で は ,60pgま でf搬 与 量 に 岱 商 し てc・Fbsカ湖 ロ す る こ と が 明 ら か と な っ た . ア ミ ト ル プ チ リ ン に よ っ てc.Flosカ 講 さ 捫 一 た と い う こ と は , ア ミ ト リ プ チ リ ン に よ っ て あ る 種 の ニ ュ ー 口 ン が 興 奮 し た こ と を 示 し て い る , 層 別 に み る と , ア ミ ト リ プ チ リ ン で 誘 導 さ れ るc・F〔 熔 は 主 にI‐IV層 に分 丶 布 し て い る こと カ ミ わ か っ た .c・F|0sとGADの 蛍 光 二 重 染 色 に よ る と ,Iu,IV層 に お い て は , ア ミ ト リ プ チ リ ン に よ っ て 誘 導 さ れ たc・F( 鳩 の 大 部 分 がGADと 共 存 し て お り , ま た ,I.u層 で 誘 導 さ れ るc・Fosの 多 く も GADと 共 存 し て い る , 呱 丶 はQ壥 A合 成 に 必 要 な 酵 素 で あ り ,GADが 存 荏 す る 細 胞 はG蛾 丶 作 動 性 ニ ュ ー 口 ン で あ る . っ ま り , ア ミ ト リ プ チ リ ン に よ っ てI.W層 で 賦 活 さ れ た 多 く の 細 胞 , 特 にIIIーW層 で 賦 活 さ れ た ほ と ん ど の 細 胞 は GABA作 勃 性 二ユ ー 口 ン で あ る こと カ 詠 さ れ た .
実 験2か ら ,a2受 容 体 拮 抗 薬 で あ る ヨ ヒ ン ビ ン は , ア ミ ト リ プ チ リ ン に よ るc.F|os誘 導 に 影 響 を 与 え な い が ,a1受 容 体 桔 抗 薬 で あ る プ ラ ゾ シ ン を 前 投 三 与 す る と , ア ミ ト リ プ チ リ ン に よ るc.Fbs誘 導 が 抑 制 さ れ る こ と が 示 さ れ た . こ れ は , ア ミ ト リ プ チ リ ン が 脊 髄 後 角 でc.F08を 誘 導 し て い る ネ ヰ 経 回 路 にa1受 容 体 が 関 与 し て い る こ と を 意 味 し て い る . 実 験1と2の 結 果 を ま と め る と , ア ミ ト リ プ チ リ ン 投 与 に よ り , 脊 髄 後 角 の 主 にI・IV層 に お い てc.F0sが 誘 導 さ れ そ れ ら の 多 く はGABA作 動 陸 二 ユ ー 口 ン で あ り , ま た こ の 反 応 に はa1受 容 体 が 関 与 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た ,
【 結 論 】 ラ ッ ト の 脊 髄 く も 膜 下 腔 に ア ミ ト リ プ チ リ ン を 投 与 す る と ,a1受 容 体 を 介 し て , 脊 髄 後 角 のGABA作 動 性 ニ ュ ー ロ ン が 賦 活 さ れ る こ と が 示 さ れ た . こ れ は , ア ミ ト リ プ チ リ ン の 銃 南 作 用 の 一 部 を担 っ て い る 可 能 性が あ る ,
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
アミトリプチリンのラット脊髄における 鎮痛作用に関する組織学的研究
抗 う つ薬 は 神 経 因性 疼 痛 な どの 疼 痛 緩 和に 有 効 で ある が 、 そ の鎮 痛 作 用の機 序につ いては 未だ 十 分 には 解 明 さ れて い な い 。今 回 の 研 究で は 、 8 エ ア ドレ ナ リ ン 受容 体 と GABA 作 動 性ニ ュ ー ロ ン が 関 与 す る経 路 に っ いて 、 抗 う つ薬 と の 関 係を 明 らかに するこ と.を 目標と した。 実験1 で は、三 環 系 抗 う つ薬 の ア ミ トリ プチ リンを くも膜 下腔投 与し、 投与後の 時間経 過とc ― Fos 発現 の関係、 及 ぴ 投 与 量 と c − Fos 発 現 の 関 係 を 調 べ た 。 摘 出 し た 脊 髄 切 片 で の c − Fos 発現 は DAB 染 色で 評 価 し た 。 次 い で 、 DAB 染 色 と 、 GABA 作 動 性 ニュ ー ロ ン を同 定 す る グル タ ミ ン 酸脱 炭 酸 酵 素(GAD) の 蛍 光 二 重 染 色を 行 い 、 c − Fos 発現 と GABA 作 動 性 ニュ ーロ ンの共存 性の解 析を行 った。 実験2 で は、実 験 1 と同 様 の 方 法で の ア ミ トリ プ チ リ ンく も 膜 下 投与 に 先 立 ち、 Q エ 受 容 体拮抗 薬とし てプラ ゾシ ン 、 a2 受 容 体 拮抗 薬 と し てヨ ヒ ン ビ ンを そ れ ぞ れ投 与 し た 。実 験 1 と 同 様 の方 法 で 脊 髄切 片 を 作 成 し た 後 、DAB 染 色 を 行 い、 c − Fos 陽 性 細胞 の 定 量 分析 を 行 っ た。 実 験 1 では 、腰髄 のc −Fos 陽性 細胞数は、アミトリプチリン投与後4 時間で最大となり、0 時間と比較して有意な増加が認められた。用量 別 で は 、 30 、 60 お よ び 90U9 の 投 与 で は 、 OLig に 比 較 し て 有 意 に c ― Fos 陽 性 細 胞 数 が 増 加 し た 。 c ― Fos と GAD の螢 光 二重 染色で は、多 くのc − Fos 陽性細 胞が、 同時に GAD 陽性で あるこ とが示 さ れた。以上より、脊髄くも膜下腔にアミトリプチリンを投与すると、時間依存性および用量依存性に、脊髄 灰 白質に おいて ある種 の細胞 が興奮 し、そ の細胞 はGABA 作動 性ニュ ーロン であることが示された。実 験 2 では、 プラゾ シンの 前投与 で、c − Fos 陽性細 胞の増加が有意に抑制された。実験1 と2 の結果をまと めると、ラッ卜の脊髄くも膜下腔にアミトリプチリンを投与すると,Q ユ受容体を介して,脊髄後角のGABA 作 動 性ニュ ーロン が賦活 される ことが 示され た。公 開発表に 際し、 副査の 吉岡充弘教授から、@GABA 系 を 賦活す る薬剤 でも鎮 痛効果 はあるか、◎選択的にノルアドレナリンの再取り込みを阻害する薬剤の方 がこの仮説を証明するにあたって適しているのではなぃか、という質問カ§あった。次いで、副査の丸藤 哲教授から、くD くも膜下腔にノルアドレナリンを投与することで鎮痛作用は得られるのか、◎臨床的にアミ ト リ プ チ リン を 経 口 投与 した 場合髄 液への 移行性 はどの 程度か、 ◎脊髄 後角I 、 n 層には GABA 系の ほ かに、どのような細胞が賦活されていると考えられるか、という質問があった。最後に主査の森本裕ニ教 授からは、@慢性疼痛モデルで実験した場合、どのような結果が予想されるか、◎アミトリプチリンの機序 ―396 ‑
二 哲
弘
裕
充
本 藤
岡
森 丸
吉
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
を含めて今後の研究 の展望はどうか、という質問がなされた。いずれの質問に対しても、申請者は自験例 や 、 国 内 外 の 鎮 痛 や 抗 う つ 薬 に 関 す る 論 文 を 引 用 し 、 適 切 か つ 簡 潔 に 回 答 し た 。 本 研 究 は 、 抗 う つ 薬 の 鎮 痛 機 序 に 関 し て 、 ai 受 容 体 と GABA 作 動 性 ニ ュ ーロ ンと の関 係を 初 めて 明らかにしたという 点で高く評価され、今後さら なる発展が期待される。
審 査 員 一 同 は 、 こ れら の成 果を 高 く評 価し 、大 学 院課 程に おけ る研 鑽 や取 得単 位な ども 併 せ申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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