博士(医学)鄭 日男 学位論文題名
月をlicobacter pylori のCagA チロシンリン酸化モチーフ 構造とSHP ―2 結合能の胃癌株と十二指腸潰瘍株による検討
学 位論文内容の要旨
[目的と背景]
欧米では〃. pyl ori感染者の約60%がCagA陽性株であり,CagA陰性風pyl ori感染者よ り胃 癌発生率 が約6倍高い と言われ ている が,日本では胃癌や十二指腸潰瘍患者から分離 さ れ る風pyloriはほば100%CagA陽性であ る,発 癌に関連 する病 原因子と してのCagA蛋 白, 特にチロ シンリ ン酸化モチーフの個数と構造およびSHPー2結合能の関連が分子生物学 的 研 究 か ら 示 唆 さ れ て い る が , 臨 床 的 に 発 癌 と の 関 連 は 明 ら か に なっ て い な い.
申請 者はCagA陽 性で胃癌 発症の低 リスク 疾患であ る十二 指腸潰瘍 霞pyloriのCagA蛋白 と胃 癌H pyloriのCagA蛋 白の発現 ,チロ シンリン 酸化モ チーフ数 と構造 ,SHP−2結合能 との 関連を検 討する ことによ ってCagA蛋 白と胃癌 の関連 を臨床的 に明らかにしようと試 みた.
[対象と方法]
1)患者と菌株
十二 指 腸 潰瘍 丘pylori8株 , 胃癌 丘pylori8株を対 象とし ,患者の 胃粘膜生 検組織 の 組織学的特徴はUpdated Sydney Systemにより評価した.
2)培養,DNA抽出,PCR,DNAシークエンス
菌株 を37℃の培 養器内 で一晩振 動培養 した後,3000rpmで遠心して沈渣となった細菌を 試料 とした. DNA抽出は 核酸抽出 剤によ って行っ た.PCRは(94℃―30秒 ,55℃―30秒,
72℃―30秒)35サイクル,条件下で行った. QIAquick Gel Extraction kitでDNAを精製し,
反応プロトコールによってシークエンスを行った.
3)丘pyloriの蛋白抽出,Hpyloriと胃癌培養細胞株AGSの共培養
グリ シンバッ ファー 法で蛋白 を抽出 した.H pylori菌をAGS細胞と100:1の比率で5時 間共培養した.
4)免疫沈降,ウエスタンブロット法
免疫 沈降kitを用い て免疫沈 降を行 った.ウ エスタン ブロッ ト後の陽 性バンドをHRP発 色 キ ッ ト で 発 色 さ せ , density scoreは コ ン ピ ュ ー タ ー 上 で 測 定 し た ,
[結果]
1)背景胃粘膜r
炎症スコア(炎症細胞浸潤)およぴ活動性スコア(好中球浸潤)は十二指腸潰瘍群の前庭部 で有意に高かった(P<O. 01,P〈O.Ol),体部腸上皮化生スコアは胃癌群で有意に高かった (Pく0.01).
2)臨床分離株のチロシンリン酸化モチーフ数
十二 指 腸 潰瘍株 と胃癌株16株全て がPCR法 でCagAが陽 性であ った,十 ニ指腸潰 瘍では 8株全てがC端に3個 のtyrosine phosphorylation motifs (TPMs)を有していた.胃癌株で は 8株 中 7株 がC端 にTPMsを3個 有 し て い て ,1株 が4個 のTPMsを 有 し て い た .
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4)臨床分離株のチロシンリン酸化モチーフ構造
十 二 指 腸 潰 瘍8株 と 胃 癌8株 中15株 がTPMsY−894,Y―913,Y―967を有 し ,1株 が TPMs−Y―894,Y‑913,Y一949,Y―1003を有していた.すなわち,チロシンリン酸化モチーフ とその周辺遺伝子シークエンスでは十二指腸潰瘍株(8株)と胃癌株(7株)のTPMs構造は完 全に一致しており,両株の聞で差異は全く見られなかった,
5) AGS細胞との共培養後の細胞内CagA蛋白およびSHPー2の解析
胃癌株CagA蛋白のdensityスコ アは平均 値136. 08土30.75 (SD)で, ナ二指腸潰瘍株は 平 均 値133. 29土35.16 (SD)で あ り , 両 群 問 に 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た . 胃癌株SHP―2のdensityスコア は平均値73. 00土10.06 (SD)で,十二指腸漬瘍株は平均 値80. 18土13.30 (SD)で , 両 群 間 にCagA蛋 白 結 合SHP−2量 に 有 意 差 は な かっ た .
[考察]
本研究で はAGS細胞とCagA陽性の胃 癌株およ ぴ十二指腸潰瘍株を共培養し,細胞内ヘ挿 入さ れ るCagA蛋 白およ び結合す るSHPー2を 比較検討 した. 免疫沈降 後のAGS細胞内 に挿 入されたCagA蛋白は 胃癌株間 あるい は十二指 腸潰瘍 株間で著 しい差 異があり,疾患の差 異よりも 株間で の差異が 著しか った.挿 入CagA蛋白 量の平均 値でも 十二指腸潰瘍株と胃 癌株の間 で有意 差はなかった.この結果は結合するSHP―2量の比較でも同様であり,胃癌 株間ある いは十 二指腸潰瘍株間で著しい差異があり,疾患の差異よりも株間での差異が著 しかった .これ らの結果 から, 胃癌株お よび十二 指腸潰 瘍株霞pyloriのCagA遺伝子およ び胃上皮 細胞内 に挿入さ れるCagA蛋 白および 結合す るSHP−2は差 異は認 められず,疾患 の差異で はなく 個々の株間での多様性に依存することが明らかとなった.この菌株間での CagA蛋白産 生の差異 の生じる 機序は 明らかで なく, 今後の研 究が必 要である.臨床分離 株におけ る本研 究から単 に胃上 皮細胞内 に挿入さ れるCagA蛋 白およ び結合するSHP―2の 差異から 胃発癌 を考察す ること は困難で あり,感 染から 胃発癌に 関わる 機序の解明には CagA蛋白以 外の菌側 要因,宿主要因(炎症性サイトカインの遺伝子多型など),環境要因
( 塩 分 な ど ) を 加 味 し た 総 合 的 な 検 討 が 必 要 で あ る と 考 え ら れ る .
[結語]
1)霞pylori陽性胃 癌8株中8株が,十二指腸潰瘍8株中8株がCagA陽性であった(100%).
2)十 二指腸 潰瘍8株中8株,胃 癌8株 中7株 は3個 のチロ シンリン 酸化モ チーフがあり,そ の周辺遺伝子のシークエンスにも全く差異は見られなかった.
3) AGS細胞内に挿入されたCagA蛋白量および,それに結合するSHP―2結合量の比較では胃 癌株と十二指腸潰瘍株間の差異が認められなかった.
したがっ てこれ らの差異から胃発癌の意義を考察することは困難であると推定された.
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