博 士 ( 水 産 科 学 ) 日 野 裕 司 学 位 論 文 題 名
lVIolecular biological study on
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related genes in s; 虹 mon lnlpnntingrelatedgeneSlnS ;
(サケの母川記銘関連遺伝子に関する分子生物学的研究)
学位論文内容の要旨
サケは繁殖のために生まれた河川に回帰する(母川回帰)事から、日本における水産増殖上の有用対 象魚のーっにな っている。近年、シロザケ(Oncorhynch us keta)やカラフトマス(〇・gor6u蝕a)の 漁獲量は増加し、日本の重要な水産資源となっている。一方、ベニザケ(Dカ餓ぬ)やサクラマス(〇.
ma駟 )の漁獲量は回帰率が安定しないため増加せず、これら魚種の回帰率を向上させる増殖法の確立 が求められている。サケは稚魚期に生活した河川のニオイを記憶(母川記銘)して降海し、海で数年間 成長した後、その記憶を想起する事により母川回帰を可能にしている。そのため、母川記銘機構の解明 カミサケ増殖事業の重要な課題のーっとなっている。
サケの母川記銘に関して行動学や電気生理学など多くの分野から研究が行われ、母川記銘はパーから スモルトヘの移行(parr.8molttransf( rmation;PST)期に起こると考えられており、嗅神経系(嗅上 皮、嗅神経、嗅球)が重要ぬ役割を果たす事が示唆されている。哺乳類において、記憶に関する研究は 分子生物学の分野で精力的に行われているが、サケの母川記銘に関して分子生物学からのアプローチは 殆ど無い。本研 究では、サケの母川記銘機構を分子生物学的手法により解明する事を目的とし、PST期 の嗅神経系で母川記銘に関与する遺伝子の単離を試みた。
【cDNA.repre8entationaldifferenhalanalysi8(cDNA RDA)による母川記銘関連遺伝子の単離】
母川 記銘 に関与する遺伝子の単離はcDNA.RDAより行った。供試魚にはP8T期およぴ索餌回遊時期 の ヒ メ マ ス の 嗅 球 を 用 い た 。 索 餌 回 遊 時 期 の 嗅 球 に 比べPST期の 嗅球 で発 現量 が 多い 遺伝 子を cDN.かRDAによ り濃縮し、母川記銘に関与する遺伝子の候補を検索した 。その結果、PST期の嗅球で 発 現量 が多 い2種 類の クロ ーン (ク ロー ン2お よび クロ ーン みを 単離 した 。本 研究 では ク ローン2 をSOCkeyeSalmon01f址toryimprintingrelatedgene(SOIG) 、ク ロー ンぷ を8almon呂1utamate carboxypeptid舗e(sGCP)と命名し、それら遺伝 子の特徴をヒメマス、サクラマス、シロザケ、カ ラフトマスおよびニジマス(〇.m.ドを嵒s)を用いて解析した。
【SOIGの解析】
ノーザンブロ ット法により、ヒメマスの脳6領域(嗅球、終脳、視床下部、視蓋、小脳、延髄)お よぴ体組織9部位(嗅上皮、鰓、肝臓、心臓 、頭腎、脾臓、筋肉、消化管、精巣)におけるSOIGmRNA の 発現 部位 を解 析し た。 その 結 果、SOIGmRNAの発 現は 嗅上 皮の みに 認め られ た。 また 、 わ硫uハ イ ブリ ダイ ゼー ショ ン法 によ り 、SOIGmRNAは 嗅上 皮の 嗅細 胞と 基底細胞に局在する事が明らかと な っ た 。 し か し 、 嗅 球 に おけ るSOIGmRNAの 発現 は両 手法 では 認め られ なか った 。 そこ で、 嗅球 に お け るSOIGmRNAの 発 現 をRいPCRに よ り 解 析 し た 。 そ の 結 果 、 約50サ イ ク ル でSOIGmRNA の 弱 い シ グ ナ ル が 確 認 さ れ、 嗅球 にお けるSOIGmRNAの発 現量 は低 いこ とが 明ら か とな った 。こ れ よル ミ本 研究 では 嗅球 にお け るSOIGの 遺伝 子解 析は 困難 であ ると判断し、SOIGの解析を嗅上皮
において行うこととした。 ―1179−
SOIGの 配 列 解析 を 行 うた め に 、嗅 上 皮cDNAラ イブ ラ リ ーよ り 全SOIG cDNAを 単 離 した 。SOIG は 予想さ れる翻訳 領域252アミノ 酸残基 を含む全 長1,700 bpからな り、ド メイン解 析よりSOIGに はL|y.6superfamilyドメインが存在する事が明らかとなった。Lly.68uperfamilyは多くの生物から 単離されているが、その詳細な機能に関しては不明である。しかし、近年Ly 6superfamilyに属する 遺伝子が細胞の分化や嗅覚の神経修飾物質として機能する事が報告された。これらの結果、嗅上皮の 基底細 胞および 嗅細胞 に局在す るSOIGは、 ヒメマスの基底細胞から嗅細胞への分化もしくは嗅神経 系の神経修飾に関与する可能性が示唆された。
サ ク ラ マス 、 シ ロザ ケ 、 カラ フト マスおよ びニジマ スの嗅 上皮からSOIG皿RNAのホモロ グの単 離 、お よ び 組織 で の 発現 部 位 を解 析 し た。 そ の 結 果、SOIGに 対 して 高 い 相同 性 を 示し 、Ly‐6 superfamilyドメイン を含む遺 伝子を 単離した 。また 、これら 遺伝子 の発現部位はSOIGと同様に嗅 上皮の みであっ た。こ れより、SOIGはサケ 科魚類の嗅上皮で共通に発現する遺伝子の可能性が示唆 された。
リ ア ル タイ ムPCRに よ り、 ヒ メ マス お よ ぴ シロ ザ ケ の各 生 活 史段 階 に おけ るSOIGmRNAの 発現 量 を解析 した。ヒ メマス に茄いて 、SOIGmRNAの発 現量は 初期発生 に伴っ て上昇す る傾向を 示し、
孵 化 後 に 急 激 に 増 加し た 。 浮 上か らPST期 後 およ ぴ 成 熟に 伴 うSOIGmRNA量 の変 化 は 、PST期の 嗅上皮で高値を示したが、成熟に伴.う変化に有意な差は認められなかった。シロザケにおいて、降下 回 遊時 期 の 嗅上 皮 に おけ るSOIGmRNA量 は 、5月 に 著し い 上 昇を 示 し た。 一 方 、母 川 回帰 に伴い SOIG班RNA量 は増 加 す る傾 向 を 示し、 産卵直前 で高値 を示した 。これら の結果 より、SOIGはヒメ マスで はPST期 、シロ ザケでは 降下回 遊およぴ 母川回 帰の最終 段階の嗅 覚機能に関与する遺伝子の 可能性が示唆された。
【sGCPの解析】
ヒ メ マ スの 脳6領域 お よ ぴ体 組 織9部 位 を 用 いて 、 半 定量 的に8GCPmIい 聡の発現 部位を 解析し た 。そ の 結 果、sGCPmRNAは 脳6領 域 、 心 臓、 消 化 管、 頭 腎 およ び 精 巣に 発 現 して い た。sGCPの 配 列 解 析 を 行 う た めに 、 脳cDNAラ イブ ラ リ ーよ り 全sGCPcDNAを単 離 し た 。sGCPは 予 想 され る 翻 訳領 域407ア ミ ノ酸 残 基 を含 む 全 長1,803bpか らな り 、M20peptidasefamilyドメイ ンおよぴ6 箇所の亜鉛結合部位が保存されている事が明らかとなった。このfamiりに属する遺伝子は亜鉛により 活 性を 示 す 特徴 を 有 する が 、 詳細 な 機 能は 未 解 明 であ る 。 一方 、M28peptidasefamnyに属する glutamatecarboxypeptidaseH(GCPII)は 哺乳類 の脳内で 神経修 飾物質と して機能することが知ら れ ている 。GCPnにも 亜鉛結合 部位が 存在し、 亜鉛によ る活性 を有する 。本研 究で得ら れたsGCPの 発 現部 位 は 、過 去 に 報告 さ れ ているGCPIIの 発現部位 と一致 した。こ れより 、sGCPは亜鉛 により 活 性 を 示 し 、 ヒ メ マ ス の 脳 内 で は 神 経 修 飾 に 関 与 す る 遺 伝 子 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
以 上の結果 、サケ の嗅神経 系より単 離したSOIGはサケ のPST期 および母 川回帰の嗅覚機能もしく は 嗅細胞の 分化に関 与する 遺伝子、sGCPはM20 peptidase familyに属し、神経修飾に関与する遺伝 子である可能性が示唆された。しかし、これら遺伝子のタンパクとしての機能解析、そして母川記銘お よ び 母 川 回 帰 と の 関 与 を 解 明 す る た め の 実 験 系 の 確 立 が 今 後 の 課 題 と し て 残 さ れ た 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 上田 宏 副査 教授 山羽悦朗 副査 助教授 工藤秀明
副査 教授 山下正兼(生命科学院)
学位論文題名
IN/Iolecular biological study on
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1mprlntingrelatedgeneSlnSalmon
(サケの母川記銘関連遺伝子に関する分子生物学的研究)
サケは繁殖のために母川に回帰する事から、日本における水産増殖上の有用対象魚のーっになってい る。近年、シロザケ(〇ncorhynchus keta)やカラフトマス(〇.gor6鯲めロ)の漁獲量は増加し、日本の重 要な水産資源となっている。一方、ベニザケ(〇.脚庇・ロ)やサクラマス(〇.m伽 )の漁獲量は回帰率 が安定しなぃため増加せず、これら魚種の回帰率を向上させる増殖法の確立が求められている。サケは 稚魚期に生活した河川のニオイを記憶(母川記銘)して降海し、海で数年間成長した後、その記憶を想 起する事により母川回帰を可能にしている。そのため、母川記銘機構の解明がサケ増殖事業の重要な課 題のーっとなっている。
サケの母川記銘はパーからスモルトヘの移行(pam皿olttra恥form.ぬon;PST)期に起こると考えられ ており、PST期の嗅神経系(嗅上皮、嗅神経、嗅球)が母川記銘に重要な役割を果たす事が示唆されて いる。本研究では、サケの母川記銘機構を分子生物学的手法により解明する事を目的とし、PST期の嗅 神経系で母川記銘に関与する遺伝子の単離を試みた。
【cDNA‑representational differential analysis (cDNA‑RDA)による母川記銘関連遺伝子の単離】
試料にはPST期 および索 餌回遊時 期のヒ メマスの 嗅球を 用いた。cDNA‑RDAにより、索餌回遊時期 よりもPST期の嗅 球で発 現量が多い2種類の遺伝子を単離した。本研究では、これら遺伝子をsockeye salmon olfactory imprnnngrelatedgenC(SOIG)、およびSalmonglutamateCarboxypCptidaSe(SGCP)と命 名し、解析を行った。
【SOIGの解析】
ノーザン ブロッ ト法およぴin situハイブリダイゼーション法により、SOIGはヒメマスの嗅上皮の みに発現し、嗅上皮の嗅細胞と基底細胞に局在する遺伝子である事が明らかとなった。しかし、嗅球 におけるSOIGの発現 は両手法 では認 められな かった。 嗅球に おけるSOIGの発現をRI、‐PCRにより 解析した 結果、SOIGの嗅球で の発現 量は低い 事が明らかとなった。これより、嗅球からのSOIGの解 析は 困 難 であ る と 判断 し 、 本研 究ではSOIGの解析 を嗅上 皮におい て行った 。SOIGは翻 訳領域252 アミノ酸 残基を含 む全長1,700 bpで構成されていた。ドメイン解析の結果、SOIGには細胞の分化や
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嗅覚の神経修飾に関与するLy‑6 superfmilyドメインが存在する事が明らかとなった。これより、SOIG は 基底細 胞から嗅 細胞への 分化も しくは嗅 神経系の神経修飾に関与する遺伝子の可能性が示唆され た。
シ ロザケ 、サクラ マス、カラフトマスおよびニジマス(〇.W廊沁)からのSOIGホモログの単離、
お よび組 織での発 現部位を 解析し た。その 結果、嗅上皮のみに発現し、SOIGに対して高い相同性を 示 す遺伝 子を各魚 種より単 離した 。これよ り、SOIGはサケ科魚類の嗅上皮で高度に保存されている 遺伝子の可能性が示唆された。
ヒ メマ ス お よび シ ロ ザ ケの 各生活 史段階に おけるSOIGmRNAの発現 量を、リ アルタ イムPCRによ り 解 析 した 。 ヒ メマ ス に お いて、 嗅上皮に おけるSOIGmRNAの発現 量はPST期で高 値を示し 、シロ ザ ケにお いては、 降下回遊時期の5月および母川回帰に伴って増加する傾向を示した。これらの結果 よ り、SOIGは サケの母 川記銘 時期およ び母回 帰時期の嗅上皮において、重要な役割を果たす可能性 が示唆された。
【sGCPの解析】
半定量 的RT・PCR法により、sGCPは脳、心臓、消化管、頭腎および精巣に発現する遺伝子である事 が明ら かとな った。sGCPは 翻訳領 域407ア ミノ酸 残基を含 む全長1,803bpで構成されており、アミ ノ酸配 列にはM20pepdd終efa血ルドメ インお よび6箇所の亜 鉛結合 部位が存 在した。この緬ilyに属 する遺伝子は亜鉛により活性を示す特徴を有するが、詳細な機能は未解明である。―方、M28pepddase fa拙yに属するヰutamatecarboxypep6d舗eII(GCPII冫は亜鉛により活性を示し、哺乳類の脳内で神経修 飾物質 として 機能する ことが 知られて いる。本 研究で得られたsGCPの発現部位は、過去に報告され ているGCPIIの 発現部位 とー致 した。こ れより 、sGCPは亜鉛 により 活性を示し、ヒメマスの脳内で は神経修飾に関与する遺伝子の可能性が示唆された。
以上のように、本論文はこれまで殆ど解析されなかったサケの母川記銘関連遺伝子に新知見を提供し ており、その成果は水産科学の基礎的研究として評価された。よって審査員一同は申請者が博士(水産 科学)の学位を授与される資格があるものと判定した。
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