2012 August 日産婦内視鏡学会 第28巻第1号
原 著
Is ureteral catheter placement indispensable for laparoscopic
hysterectomy?
Examination of 99 cases conducted by the same surgeon
Takahiro Tsuji1), Makoto Orisaka2), Motonori Matubara1), Kenji Oida3), Yasufumi Imoto1),
Kimihisa Tajima1), Makoto Kubo4), Yosio Yosida2), Fumikazu Kotsuji2), Hayato Shimada1)
Fukui Red Cross Hospital1), Department of obstetrics and Gynecology, University of Fukui2), Osaka National Hospital3), Gifu Red Cross Hospital4) Abstract Objective: Laparoscopic hysterectomy (LH) and total laparoscopic hysterectomy (TLH) are associated with a higher incidence of urinary tract injury. We investigated whether ureteral catheter placement immediately before surgery improves intraoperative outcomes and protection of the urinary tract in laparoscopically assisted vaginal hysterectomy (LAVH), LH, and TLH. Methods: There were 56 patients treated by LAVH, 30 by LH, and 13 who underwent TLH, constituting 99 cases, all performed by the author. Pre-operative placement of ureteral catheters was conducted in 85 cases, including all of the LH and TLH cases and 42 of the 56 LAVH cases. Operative procedures, operating times, uterine weights, blood loss, and intraoperative complications were examined retrospectively. Results: The time necessary for ureteral catheter placement was about 20 min. Although we converted 2 cases from LAVH to laparotomy, no serious complications, including ureteral injury, developed in any of the surgeries. The ureteral catheter placement caused the ureters to jut like tents, which allowed us to easily confirm their course laparoscopically. With LAVH, the operating time and intraoperative bleeding in the catheter-placement group were significantly worse than in the non-catheter placement group. Blood loss during TLH was significantly reduced compared to LAVH or LH in the presence of the catheters . Conclusions: The pre-operative placement of ureteral catheters did not improve intraoperative outcomes in LAVH. Although ureteral catheters may contribute to protection of the urinary tract, the present results suggest that ureteral catheter placement is not essential for laparoscopic hysterectomy. Key words: total laparoscopic hysterectomy; ureteral catheter; urinary tract injury
腹腔鏡下子宮全摘術に尿管カテーテル留置は必要か?
~同一術者による99例の検討成績~
福井赤十字病院1)、福井大学医学部産科婦人科学教室2)、大阪医療センター3)、岐阜赤十字病院4)辻 隆博
1)、折坂 誠
2)、松原慕慶
1)、種田健司
3)、井元康文
1)、
田嶋公久
1)、久保 真
4)、吉田好雄
2)、小辻文和
2)、島田逸人
1)はじめに 1989年にReichらが腹腔鏡補助下腟式子宮全摘 術(Laparoscopic Assisted Vaginal Hysterectomy: LAVH)を報告1)して以来、開腹既往症例や未産 婦など従来ならば腹式子宮全摘術(Abdominal Total Hysterectomy: ATH)の適応であった症例 に対しても、腹腔鏡下の子宮全摘術が広く行われ るようになった。近年の手術デバイスの進歩に伴 い、鏡視下に子宮動脈の処理までを行う腹腔鏡下 子宮全摘術(Laparoscopic Hysterectomy: LH)や、 腟壁切開・縫合まで行う全腹腔鏡下子宮全摘術 (Total Laparoscopic Hysterectomy: TLH)2)が、 本邦でも急速に普及しつつある3)。 LHやTLHでは、腹腔鏡下に子宮動脈を結紮・ 切断するという高度な鏡視下手技が必要であ り4)、ATHや 腟 式 子 宮 全 摘 術(Vaginal Total Hysterectomy: VTH)といった従来の子宮全摘 術と比較して合併症、特に尿路損傷の頻度が有意 に高い5-8)。合併症は腹腔鏡下手術の導入時に最も 多く、鏡視下手技の熟達や一定のラーニングカー ブを経過するに伴って、その頻度はATHやVTH と同レベルまで低下することが知られている8-11)。 腹腔鏡下手術の修得には、日本産科婦人科内視 鏡学会が推奨するように、手術見学→手術研修→ カメラ持ち→ドライラボ→アニマルラボでの研修 を経て、内視鏡手術指導医の下で助手→執刀医へ とステップアップするのが望ましい4)。しかしな がら、腹腔鏡下手術の修得を熱望しながら、指導 医が在籍しない病院で勤務する若手医師も少なか らず存在しており、彼らが独力で(アニマルラボ 以降の)臨床研修を実践するのは決して容易でな い。 筆者自身も長年、地方の中小規模病院に勤務し、 独学で腹腔鏡下手術を始めざるをえなかった経緯 がある。従来、骨盤内手術12)や腹腔鏡下手術13) における尿路損傷の予防に、尿管カテーテル留置 の有用性が報告されている。そこで本研究では、 腹腔鏡初心者の筆者が腹腔鏡下子宮全摘術を導入 するにあたり、術直前に尿管カテーテルを自ら留 置することによって、尿路損傷を回避し、手術成 績を向上することができたか、後方視的に検討し た。 対象と方法 筆者は、2001年より腹腔鏡下手術を開始した。 特に本格的に取り組み始めた2004年以降は、腹腔 鏡下子宮全摘術のすべての症例に対して、十分な 説明と同意のもと、尿路損傷を予防する目的で、 筆者自らが術直前に尿管カテーテルを留置してい る。まずはLAVHの経験を蓄積し、鏡視下手技の 習熟を確認しながら、2006年よりLHさらには TLHを順次導入していった。 LHでは、尿管の走行を確認後、鏡視下に子宮 動脈本管を同定・単離し、吸収糸で結紮・切断し たうえで、経腟的操作に移行し基靭帯以降の処理 を行った。TLHでは、LHの要領で子宮動脈を処 理した後、基靭帯の結紮・切断さらには腟壁の切 開・縫合まで鏡視下に施行しており、子宮の回収 のみを経腟的に行った。 本研究の対象は、2001年から2009年に筆者が腹 腔鏡下子宮全摘術を試みた99例(LAVH 56例、 LH 30例、TLH 13例)である。LAVH 56例のう ち(開腹術に移行した2例を除き)腹腔鏡下に完 遂しえた54例を、尿管カテーテルを留置していな い14例と尿管カテーテルを留置した 40例に分類 し、手術時間、摘出子宮重量、術中出血量、手術 合併症について後方視的に検討した。また、尿管 カテーテル留置下に腹腔鏡下の子宮全摘術を施行 した83例について、術式別(LAVH 40例、LH 30 例、TLH 13例)に同様の検討を行った。成績は 平均値±SDで表し、統計解析はStudent t testも しくはOne-way ANOVAを用い、p<0.05を有意 差ありと判定した。なお開腹手術に移行した2例 は統計解析より除いている。 結 果 対象疾患は、子宮筋腫60例、子宮腺筋症25例、 子宮内膜症5例、CIN3が1例、子宮内膜増殖症 6例、子宮留膿腫1例、卵巣腫瘍1例であり、悪 性腫瘍や子宮脱は含んでいない。 手術症例のうち、未産婦はLHで6例、TLHで 2例含まれていた。開腹既往はLHで6例、TLH で1例に認めた。すべての手術で、尿路を含めた 他臓器損傷や、輸血あるいは入院期間延長を要す る重篤な合併症は経験しなかった(表1)。なお LAVHを試みた2症例で、開腹術に移行している。 (開腹移行例を含む)85例に尿管カテーテル留 置を行ったが、その所要時間は平均20分で、挿入 時出血は皆無であった。尿管カテーテルは手術終 了時に抜去しており、一過性の血尿を数名に認め たのみで、疼痛を含めた術後合併症は経験しなか った。 尿管カテーテルを留置すると、尿管はテント状
に張り出すようになり、体外からカテーテルを動 かすことでその走行を容易に視認できた(図1 A)。一般的に、鏡視下での手術操作は臓器を直 接触診できる開腹手術と比較して触覚が著しく劣 るため、腹腔鏡下手術の際に尿管を直接触知する ことなどは極めて困難である。しかしながら、尿 管内に硬度を有するカテーテルが通ることによっ て、鉗子による間接的な尿管触知が初めて可能と なり、尿管走行が目視しづらいケースでも触覚的 に尿管を確認同定できるようになった。 LHやTLHにおいて尿管を広間膜や子宮動脈か ら剥離する際は、カテーテルの有する適度な硬度 によって、尿管と広間膜・子宮動脈の間に反対方 向への牽引力(カウンタートラクション)が自然 に生じ、尿管との剥離面がより明瞭となった。ま た、尿管に対して絶えず一定方向のテンションが かかっているため、広間膜や子宮動脈を把持・牽 引しながら、尿管さらには子宮動脈を単離・露出 する操作が、初心者でも比較的容易であった(図 1B)。TLHにおいて、基靭帯の運針・結紮・切 断や、腟壁の切開・縫合を行う際にも、尿管を常 に確認しながら安全に手術操作を遂行できた。 LAVH 54例を、尿管カテーテルを留置してい ない群(留置なし群 14例)と、尿管カテーテル を留置した群(留置あり群 40例)に分類し、手 術時間・摘出子宮重量・術中出血量について比較 検討した結果を、図2に示す。手術時間は、留置 なし群142.3±43.3分vs.留置あり群222.3±42.8分 と、 留 置 あ り 群 で 有 意 に 延 長 し て い た(p< 0.01)。 摘 出 子 宮 重 量 は、 留 置 な し 群252.6 ± 表1 腹腔鏡下子宮全摘術99例の内訳 A.カテーテルを留置した右尿管(矢印) 図1 腹腔鏡で観察した尿管の走行 B.左尿管(黄色矢印)と左子宮動脈(赤色矢印)
122.9 g vs. 留置あり群292.0±202.0gと、留置あ り群で重い傾向にあるものの両群間に有意差はな かった。術中出血量は、留置なし群266.3±205.5 gvs.留置あり群447.0±218.0gと、留置あり群の 方が有意に多かった(p<0.01)。 尿管カテーテル留置下に腹腔鏡下子宮全摘術を 完遂しえた83例について、LAVH・LH・TLHの 術式別に、手術時間・摘出子宮重量・術中出血量 を比較検討した(図3)。手術時間は、LAVH 222.3±42.8分vs. LH 279.0±63.1分 vs. TLH 256.2 ±46.7分であり、3群間で有意差がなかった。摘 出 子 宮 重 量 は、LAVH 292.0 ± 202.0 g vs. LH 344.8±331.8gvs. TLH 229.2±143.1gであり、3 群間に有意差はなかった。術中出血量は、LAVH 447.0 ± 218.0 g vs. LH 301.1 ± 254.4 g vs. TLH 112.6±104.6gであり、TLHはLAVHやLHと比較 して出血量が有意に少なかった(p<0.01)。 考 察 子宮動脈を腹腔鏡下に処理するLHやTLHでは 高度な鏡視下手技が必要であり4)、ATH やVTH と比較して尿路損傷を合併する頻度が高い5-7)。も ともと腹腔鏡下手術では、2次元視野に伴い空間 位置感覚が欠如しており、鉗子操作の触覚が著し く劣ることと相俟って、目前の索状物が血管なの か尿管なのか、それとも単なる索状組織なのか、 判別が容易でない。重篤な合併症は、腹腔鏡下手 術を導入したばかりの、ラーニングカーブが上昇 する以前に多く8,9)、パワーソースの多用や不十分 なカウンタートラクションが原因に挙げられてい る14)。ひとたび合併症が起これば、患者に多大な 負担をかけるだけでなく、医療者側が新規術式の 図2 尿管カテーテル留置の有無がLAVH の手術成績に及ぼす影響 図 3 尿管カテーテル留置下における LAVH / LH / TLH の手術成績の比較
導入にブレーキをかける事態にもなりかねない。 そのような背景から、筆者が腹腔鏡下子宮全摘 術を本格導入する際には、合併症とくに尿路損傷 の予防を最重視した。具体的には、術直前に尿管 カテーテルを留置することによって、術中に尿管 走行の同定が容易となり、手術操作中も尿管保護 に寄与するのではないかと考え、十分な説明と同 意のもと、手術開始時に術者自らが尿管カテーテ ルを留置する方針とした。尿管カテーテルの留置 操作には一定の習熟期間を要したものの、その所 要時間は平均20分で合併症も皆無であったことか ら、患者に過重な負担を強いるものではなかった と考える。 カテーテルを留置した尿管は、視覚的・触覚的 に確認同定が容易であった。カテーテルの有する 適度な硬度によって、尿管に一定方向のテンショ ンが絶えずかかるため、尿管と広間膜あるいは子 宮動脈の間の剥離面が明瞭になり、尿管や子宮動 脈の単離・露出が比較的容易であった。これらは いずれも主観的な印象であり、数値化など客観的 な評価は困難だが、少なくとも初心者の筆者にと っては安心材料であり、結果的に尿路損傷を1例 も経験することなくLAVH → LH → TLHへと術 式を進展させることができた。さらには、尿管カ テーテル留置操作の習熟に伴い腎尿路系の解剖知 識が深まり、Urogynecology領域の手術手技が向 上するという副産物も経験した。婦人科医が尿管 カテーテル留置手技を習得することは、決して無 駄でないように思われる。 LAVHにおいて、尿管カテーテル留置あり群の 手術時間は、留置なし群と比較して有意に延長し ていた。カテーテル留置操作に約20分を要し、留 置後に膀胱鏡の片付け、術者の手洗い、腹腔鏡の セットアップを行う時間がそれぞれ必要だったと しても、約80分の時間延長を説明するのは困難で ある。加えて、留置あり群の術中出血量は、留置 なし群と比較して有意に多かった。尿管カテーテ ルを留置しながら手術症例を重ねつつ、ラーニン グカーブの上昇に伴い、巨大子宮や高度癒着など 難易度の高い症例にトライするようになったこと も事実である。しかしながら、留置あり群におけ る手術時間の延長、術中出血量の増加は明らかで あり、今回の検討では尿管カテーテル留置が LAVHの手術成績向上に寄与する可能性は否定的 である。 LAVHから開腹に移行した2例は、骨盤を大き く超える単発性の巨大子宮筋腫であった。上部支 持組織を処理しても子宮はまったく下降せず、経 腟的に子宮の分割・切除を進めたが、出血量の増 大に伴い開腹へ移行せざるをえなかった。幸い輸 血せずに済んだものの、今ではLAVHの適応外で あったと反省している。安全な腹腔鏡下手術の適 応と限界について、常に謙虚に熟慮すべきことを 再確認した症例であった。 尿管カテーテル留置下に行ったLAVH・LH・ TLHの3術式を比較すると、TLHで術中出血量 が有意に少なかった。ラーニングカーブの上昇が 主な原因と考えるが、もう一つの理由に術式の違 いが挙げられるかもしれない。すなわちTLHで は、集蔟結紮を含めた腟式操作を極力避け、鏡視 下に血管を1本ずつ剖出・処理しており、そのこ とが出血量の減少に寄与した可能性がある。ただ し、腹腔鏡下子宮全摘術の出血量を論じる際には、 ①骨盤高位に伴う上腹部への血液貯留を正確にカ ウントできていない可能性があること、②術中の 洗浄操作に使用する生理食塩水がin-outバランス の評価を不正確にしている可能性があることに、 留意する必要がある。 我々の検討では、少なくともLAVHにおいては、 尿管カテーテル留置の有用性を証明できなかっ た。一方Tanakaらは、子宮動脈の処理を伴う TLHの際に、尿管カテーテルが尿路損傷の予防 に寄与する可能性を報告している13)。今回の検討 では、すべてのLH・TLH症例に尿管カテーテル を留置しているため、留置していないケースとの 比較検討ができず、カテーテル有用性の客観的評 価に至っていない。それでもなお、尿路損傷を含 む重篤な合併症が1例も生じなかった結果は、 Tanakaらの結論に矛盾しないと考えている。 今回の検討では、腹腔鏡下子宮全摘術における 尿管カテーテル留置の有用性を、尿路損傷の予防 も含めて、証明することはできなかった。尿管カ テーテルをすべての手術症例に留置する正当性は 乏しく、その適応は重症子宮内膜症や子宮頚部筋 腫など手術困難が予測される症例に限定すべきと 思われる。一方で、尿管カテーテル留置が尿管や 子宮動脈の同定・単離を容易にするメリットを体 験しており、LAVHからLH・TLHへ移行期の症 例に限っては、尿管カテーテル留置が許容される かもしれないと考えた。 なお、本論文の要旨は第62回日本産科婦人科学 会で発表した。
文 献
1) Reich H, et al.: Laparoscopic hysterectomy. J Gynecol Surg 5: 213-6. 1989
2) Seracchioli R, et al.: Total laparoscopic hysterectomy compared with abdominal hysterectomy in the presence of a large uterus. J Am Assoc Gynecol Laparosc 9:333-8. 2002 3) 塩田 充, ほか: 婦人科領域における内視鏡手術の現況 と将来. 産婦人科治療 3: 271-276. 2010 4) 日本産科婦人科内視鏡学会編: 産婦人科内視鏡下手術 スキルアップ(改訂第2版) 5) Härkki-Sirén P, et al.: Urinary tract injuries after hysterectomy. Obstet Gynecol 92:113-8. 1998
6) Gilmour DT, et al.: Rates of urinary tract injury from gynecologic surgery and the role of intraoperative cystoscopy. Obstet Gynecol 107:1366-72. 2006
7) Johnson N, et al.: Methods of hysterectomy: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 330:1478. 2005
8) Johnson N, et al.: Surgical approach to hysterectomy for benign gynaecological disease. Cochrane Database Syst Rev. 2006 Apr 19;(2):CD003677. 9) Perino A, et al.: Total laparoscopic hysterectomy
versus total abdominal hysterectomy: an assessment of the learning curve in a prospective randomized study. Hum Reprod 14: 2996-9. 1999
10) Wattiez A, et al.: The learning curve of total laparoscopic hysterectomy: comparative analysis of 1647 cases. J Am Assoc Gynecol Laparosc 9: 339-45. 2002
11) Härkki-Sirén P, et al.: Finnish national register of laparoscopic hysterectomies: a review and complications of 1165 operations. Am J Obstet Gynecol 176:118-22. 1997 12) Redan JA, McCarus SD.: Protect the ureters. JSLS 13: 139-41. 2009 13) Tanaka Y, et al.: Ureteral catheter placement for prevention of ureteral injury during laparoscopic hysterectomy. J Obstet Gynaecol Res 34: 67-72. 2008 14) Resad P, et al.: Laparoscopy and minimally invasive gynecology. A Clinical Cookbook (Second edition) 439-441