昭 和56年11月(1981年) 一g
ラ ッ トに お け る鉄 の 吸 収 と代 謝 に及 ぼ す
年 令 と性 の 影 響
一 鉄 欠 乏 或 い は過 剰 鉄 投 与 時 の血 清 鉄 と
臓 器 フ ェ リ チ ン の 変 動 を 中 心 と し て 一
説
田
武,下
浦 頼 子,鈴
木 元 始 美,小
野 房 子,
村 井 悦 子,栗
田 か す み,山
本 千 寿 子
Absorption
and Metabolism
of Iron in Rat in Relation
to Age and
Sex,
Particularly
as Viewed
from
the
Changes
in Serum
Iron
Level
and Ferritin
Contents
of the Organs
in the State
of
Iron Deficiency
or Iron
Overload
Takeshi
Setsuda,
M.D.,
Yoriko
Shimoura,
Motomi
Suzuki,
Fusako
Ono,
Etsuko
Murai,
Kasumi
Kurita
and
Chizuko
Yamamoto
1 は じ め に
幼 若 ラ ッ トは成 熟 ラ ッ トと異 り発 育 が 盛 ん で,各 臓 器 で は代 謝 或 い は 酸化 過 程 が 活 発 で あ る 。 従 って 。 体 内 で は酸 素 の 需 要 が 大 き く.酸 素 運 搬 の役 を つ と め る 赤 血 球 を増 加 す るた め に骨 髄 で は赤 血 球 造 血が 充 進 し, 引 いて は体 内 に 鉄 不 足 を 来 た しやす い と考 え られ る。 従 って.幼 若 ラ ッ トは鉄 の 腸 か らの吸 収 や 体 内で の 代 謝,或 い は鉄 の貯 蔵 の面 で,成 熟 ラ ッ トと異 って い る こ とが 推 察 さ れ る。 又,雌 ラ ッ トは数 日な い し十 数 日 と い う短 い周 期 で 反 復 す る性 周 期1),或 い は妊 娠 や 授 乳 な どに よ り。雄 ラ ッ トに 比 べ て鉄 の消 耗 が 大 き く, 鉄 不 足 に 陥 りや す い こ とが 考 え られ る 。 吾 々 は こ れ らの 点 を 究 明 す るた め に,Wistar系 ラ ッ トを雄,雌 及 び 幼 若 と成 熟 に分 けて,そ れ ぞ れ 鉄 欠 乏 飼 料 で 飼 育 して 鉄 欠 乏 性 貧 血 を発 症 さ せ た 後,標 準 飼 料 を投 与 して 貧 血 を 回復 させ た場 合,或 い は雄,雌 の 成 熟 ラ ッ トに過 剰 鉄 を経 口 投 与 した場 合 に つ い て, 血 清 鉄 及 び 肝,脾,十 二 指 腸 粘 膜 の フ ェ リチ ンを 経 過 を 追 って 測 定 し,比 較 検 討 した 。]1 実験材料及び実験方法
栄 養学第1研 究室 雄,雌 のWistar系 ラ ッ トを 用 い,体 重609前 後 の も の を 幼 若,体 重250g前 後 の も の を 成 熟 と 見 徹 し た 。 ラ ッ トを 一 定 の 温 度(23士2℃)と 湿 度(40士10%) の 室 内 で,オ リ エ ン タ ル 固 形 飼 料 と 水 を 自 由 に 与 え て 飼 育 し た 。 実 験 前16時 間 は ラ ッ トを 絶 食 さ せ,水 だ け を 自 由 に 与 え た 。 祉 ノF弓1麟ア舩 止処 片 虫 酷 ・ 号 … ト丸 酵看 畔 天_/X)肌 」人一7入燃'ノ ノ ・(』瓦瓢g劃 匹ゐへ)り り!]gろアド仙 字; }仏く κ 成 熟 に分 ち,そ れ ぞ れ 標 準 合 成 飼 料2)か ら ク エ ン酸 鉄 を 除 いた もの と,水 を 自 由 に与 え て60日 間 飼 育 して 貧 血 を発 症 させ た 後,標 準 合 成 飼 料 に切 り変 え て30日 間 飼 育 し.貧 血 を 回 復 さ せ た 。実 験 中 は ラ ッ トを プ ラ ス チ ッ ク製 の ク リー ン ・ケ ー ジ 内 に 保 ち,ス テ ン レス の 呑 口 の つ い た給 水 瓶 か ら再 蒸 留 水 を 自 由 に 飲 ま せ た 。 貧 血 実 験 中 は20日 毎 に,又 貧 血 の 回 復 実 験 中 は6,24 時 間,10,20,30日 毎 に,そ れ ぞ れ ラ ッ トを2匹 ず つ エ ー テ ル麻 酔 下 に 開 腹 し,肝 静 脈 か ら採 血,致 死 させ た 後,肝,脾,十 二 指 腸(幽 門 か ら5cm肛 門 側 の 小 腸)及 び 骨 髄 を摘 出 した 。 過 剰 鉄 投 与 実 験:雄,」 雌 の成 熟 ラ ッ トの 胃 内 に ク エ ン酸 鉄90mg(鉄18 mg)を 蒸 留 水5mlに とか して- 1
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ー テフロン・チュープを用いて注入し, 15, 30, 60分. 3, 6, 24時間後に.それぞれラットを 2匹ずつ解剖 して測定を行った。 ラットの発育に伴う実験:ラットを雄.雌及び幼若, 成熟に分ち,オリエンタル固形飼料と水を自由に与え て飼育し, 20, 40, 60, 70, 80, 90日後に,それぞれ ラットを 2匹ずつ解剖して測定を行った。 血液学的検査:吾々が以前に報告した方法2)により. 血中では血清鉄 (5I),総鉄結合能 (TIBC),赤血球 (RBC) ,血色素(Hb),網状赤血球(RC),又骨髄では 赤芽球/骨髄球(E/M)比と,赤芽球に対する含鉄赤芽 球(5B)の比率('Yo)を測定した。 臓器フェリチンの測定:約 19の肝と牌.又はカバ ーグラスの端で軽く l同掻きとった十二指腸粘膜に. それぞれ生食水 3mlを加えて氷冷しながらホモジナ イズシ,得られたホモジネートを750 C,10分間熱処理 した後, 3,000rpmで 30分間遠沈して得た上清を, Pearsonらぬの方法に準じて 5ephadexG-200カラム に通してゲル炉過した。得られたフェリチン分画につ いて.日本ロッシュのキットを用いて鉄を測定し,ブ ェリチン分画鉄 (Fr-鉄)とした。なお, フェリチン 分画について,たん白質を Lowry法で測定し.フェ リチン分画たん白質 (Frーたん白質) を求めたが,今 回は都合上,割愛した。E 実 験 結 果
1. 年令と性別にみた正常ラットの5Iと各臓器の Fr-鉄の比較 幼若ラットは雄,雌とも(特に雄), 5Iが成熟ラッ トに比べて著しく低値である (Fig.1)。 幼 若 . 成 熟 ラットとも,雌は雄に比べて 5Iが高値で,とくに幼 若ラットでは雄.雌の差が著しい。幼若ラットの雌は. 雄に比べてTIBCが高値である。幼若ラットは雄,雌 とも,十二指腸粘膜の Fr-鉄が成熟ラットに比べて高 値である (Fig.2)。幼若ラットは雄,雌とも.肝の Fr-鉄が成熟ラットに比べて同様に高値である。 幼若ラットの牌の Fr-鉄は,成熟ラットに比べて雄 は低値であるが,雌は著しく高値である。成熟ラット でも.牌の Fr-鉄は雌のほうが雄よりも高値である (Fig. 2)。肝と牌のへそジデリン沈着は.組織学的 に幼若ラットの雌では雄よりも著明で.又成熟ラット の雌よりも顕著であった。 幼若ラットでは雄,雌とも.血中のRCが多く.又 RBCはとくに雌が著しく多い。しかし,骨髄の E/M 比とSB
は,雄と雌の問,又は幼若と成熟の間に著し 食物学会誌・第36号 い差がない (Fig.3)。 2. 雄,雌の成熟ラットの胃内 l乙過剰鉄を投与した際 の 5Iと各臓器の Frー鉄の変動の比較 成熟ラットの胃内に過剰のクエン酸第 2鉄を投与す ると,雄.雌とも, SIが15分後から上昇して 30分後 JJ.g
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に最高値となり.以後減少するが,雌は雄に比べて減 少が幾分軽度で.24時間後には両者とも前値を僅かに 上回勺ナこ。十二指腸粘膜の Fr-鉄は雄.雌とも.60分 後に一過性増加を示すが.特に雌の増加が著明で,以 後両者とも減少して6時間後にはほぼ前値に戻った (Fig. 4)。肝と牌のFr-鉄が. 24時間後に雌では僅か に増加したが.雄では著変がなかった (Fig.4)。肝 と牌のヘモジデリン沈着が,雌では 3時間後に軽度の 増加を示した。又.6 ...24時間後には雄,雌とも,血 中のRBCとHbが僅かに増加したが,骨髄のEfM比 とSBには著変がなかった。 雄,雌の成熟ラットにおける鉄欠乏と鉄投与時の S1と各臓器のFr-鉄の変動の比較 成熟ラットを鉄欠之飼料で60日間飼育すると,雄, 雌とも SIが20日後に一時的上昇を示した後,雄は著 誠するが.雌は誠少が軽度であった。卜二指腸粘膜の Fr一鉄は雄,雌とも. 20日後に一時的増加を示した後, 著減した。肝の Fr鉄は,雄では 20日以後に著減し, 又雌では20日後に一時的増加を示した後,減少した。 牌の Fr-鉄は.雄.雌とも,漸次減少したが,雄の お占少が顕著であった (Fig.5)。雄. 雌とも. 60日後 には.I(lII!Jの RBCとHbの著減と RCの増加.又 什髄のEfM比のi骨加とSBの減少を示した (Fig.6)。 -11ー 昭和56年11月 (1981年〉 RC
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Fig. 5 15 30 60min. 3 6 Fig. 4 SI level and the Fr-iron contents duodenal mucosa, liver and spleen the adult male and female rats given an excessive dose of iron citrate into the stomach by tube.食物学会誌・第
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Fig.7 The blood and bone marrow picturesin the iron deficient adult male and female rats. Fig.6 も.SIが 6時間後に著明な一時的増加を示し,幼若 ラットは14日後 lと.又成熟ラットは 30日後に回復した。 十二指腸粘膜の Fr-鉄は.幼若,成熟ラットとも, 6時間後に一時的増加を示した後.20日後まで増加 を持続したが,特に幼若ラットの増加が顕著であった (Fig. 7)。しかし,肝と牌の Fr-鉄の回復は,幼若, 成熟ラットともに著しく遅くれた。血中の RBCは, 幼若ラットでは回復が早く.20日後には対照を大きく 上回ったが,成熟ラットでは30日後に漸く回復した。 血中の RCと骨髄のE/M比の回復は,幼若ラット が成熟ラットより早いが.
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の回復は幼若.成熟ラ ットともに著しく遅くれた。 (ii) 雄ラットにおける幼若と成熟の比較 鉄欠之飼料で雄ラットを6
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日間飼育すると.SIが 幼若ラットでは漸減し,成熟ラットでは20日後に一時 的増加を示した後.誠少した。十二指腸粘膜の Fr-鉄 は,幼若ラットでは急速に著減したが,成熟ラットで は20日後に一時的増加を示し. 40日以後著減した。肝 の Fr-鉄は,幼若,成熟ラットとも著誠し,又牌の Fr-鉄は幼若,成熟ラットとも減少するが,幼若ラッ トの減少が顕著であった (Fig.8)。 なお,血中のRBCの減少と RCの増加は,幼若ラ ットのほうが成熟ラットよりも著じいが,骨髄のE/M 標準合成飼料に切り変えると,雄,雌とも. SIが 6時間後に著明な一時的増加を示した後. 30日後には 雌は回復したが,雄はなお低値であった。十二指腸粘 膜の Fr-鉄は,雌では6時間後に著明な一時的増加を 示した後.20日後まで増加を持続したが,雄では一時 的増加を示さず. 20日後まで増加したが雌に比べて軽 度であった (Fig.5)。肝と牌の Fr-鉄の回復は,雄. 雌とも.著しく遅くれた。又. 30日後には,雄,雌と も,血中の RBCとHbが正常近くまで回復したが, 血中のRC及び骨髄のEjM
比とSB
は,雄,雌とも, 完全には回復しなかった (Fig.6)。 幼若と成熟の雄,雌ラットにおける鉄欠之.及び 鉄投与時の SI と各臓器の Fr-鉄の変動の比較 ( i ) 雌ラットにおける幼若と成熟の比較 鉄欠之飼料で雌ラットを6
0
日間飼育すると,幼若. 成熟とも.SIが 20日後に一時的増加を示した後. 減 少した。十二指腸粘膜の Fr-鉄の誠少は,幼若ラット が成熟ラットよりも早く,著明であった (Fig.7)。 肝の Fr-鉄の減少も同じく,幼若ラットのほうが早く, 著明であったが,牌の Fr-鉄は.幼若,成熟とも同様 に漸減した。血液学的所見では.幼若と成熟の問に著 しい差がなかった。 標準合成飼料に切り変えると,幼若,成熟ラットと 4.が大きく,腸からの鉄吸収が活発なととを示唆する。 幼若ラットでは雄.雌とも,発育の促進?代謝の冗進 など.鉄欠乏を来たす要因の存在が考えちれるが,躍 では乙の他