日本譜学習者に対する音声教育についての考え方
一教師への質問紙調査より一
轟木 靖子・山下 直子
(国際理解教育講座) 760−8522 高松市幸町1−1 香川大学教育学部PhoneticEducationforJapaneseLearners:ATeacherSurvey
Yasuko TodorokiandNaokoYamashita
凡7CZノ砂q/ガ血cαJわ乃,ぷbgαWαこ加ルe和才功ノーJ,ぶd加αf−Cゐ0,批点〟∽αね〟7∂0−β∫22 要旨 日本語教師58名にアンケート調査をおこない,日本語学習者に対する音声教育につ いて,教育経験,普段の指導や重要度の認識の分析をおこなった。その結果,単音の発音, 終助詞の使い方,′句末・文末音調については,重要度が高いと考える教師が比較的多く,文 全体のイントネーションについでは重要度は高いものの指導する機会が少なく,単語のアク セントと終助詞の音調はその中間に位地することがわかった。 キーワード 日本語教育,音声教育,イントネーション,終助詞,重要度 ところで,日本語教育の現場で実際に音声教 育をおこなうのはそれほど簡単ではない。聞き 取りの能力や発音の問題点は,学習者によって 異なること,また,文型・文法の指導とは異な り,音声教育については指導すべき内容や方法 が確立していないことがその原因であると考え られる。 本稿では,日本語教師へのアンケート調査の 結果から,学習者の「不自然な発音(発話)」 について教育の現場ではどう捉えられている か,どのようなものを優先して指導するべきだ と考えられているか等についての考察をおこな う。実際に留学生に接している教師の考え方を 分析することにより,教育現場でのニーズに対 応する音声教材開発の基礎資料とすることを目 指すものである。 1 はじめに 日本で生活する外国人にとって,周囲の日本 人とのコミュニケーションは,生活するうえで 重要な問題である。大学に進学して学ぶ留学生 の場合,基礎的な日本語能力はもちろんのこ と,より高度な日本語能力が必要となる。教科 書を読んだりレポートを書いたりするときに求 められる読む・書く能力のほか,講義を聞いた り,ゼミでのディスカッションに参加したり, 様々な場面で必要とされるのが,聞く・話す能 力である。 日本語の音声教育というと,従来は単音レ ベルの指導が主であったが,近年,串田ほか (1995),中川(2001),鮎沢(2003)等,プロ ソデイーの教育にも焦点が当てられる機会が以 前より増えている。 ー45−最低1学期毎週おこなう授業で, (1)現在,聴解の授業を担当している (2)現在,発音の授業を担当している (3)現在,LLの授業を担当している (4)過去に,聴解の授業を担当したことがあ る (5)過去に,発音の授業を担当したことがあ る (6)過去に,LLの授業を担当したことがあ る
4−1授業中に学習者の不自然な発音(a)
∼(f)に気づいたときの対処(音声の 授業でなくてもよい) ア.ほとんど気がつくこともなく,意識して いない イ.気がつくが,指摘することはない ウ.ときどき指摘・指導することがある エ.できるかぎり指導するようにしている オ,かならず指導している (a)単音の発音(例:「まつ」をマチュ,「がっ こう」をカツコウと発音するなど (b)単語のアクセント(例:「飴」「飴」が同 じアクセント,「私」が低高低など,共 通語 と異なるなど) (c)文全体のイントネーション(例:必要の ないところで声の立ち上げがある,声の 上下 が激しいなど) (d)句末・文末の音調(例:常に語尾が上が る,疑問文なのに上昇しないなど) (e)終助詞の使い方(例:常に「ね」をつけ る,「ね」と言うべきところで「よ」を 使う など) (f)終助詞の音調(例:「よ」が常に上昇調, 疑問の「か」で上昇しないなど) 4−2(a)から(f)の重要度を自由に記述 5 授業で扱ったことのある項目を選択,内容 について記述(単発的な指導を含む) (1)単音の聞き取り(例:ひらが射こよる語2 調査の概要
2.1 調査の方法および対象 調査は,アンケート用紙を手渡して記入して もらう方法と,同じ内容をメールで送り,入力 して返信してもらう方法の2通りでおこなっ た。アンケート用紙の場合,A4用紙4枚分を 表裏に印刷し,2枚となった。調査協力者を介 して配布してもらい,記入されたものを郵送し てもらった場合もあった。 調査対象者は日本語教師で,とくに言語形成 期を過ごした地域や教育機関・教育暦等に制限 はもうけなかった。最終的に,20歳代から60歳 代までの58名(男性12名,女性46名)の協力を 得た。調査は平成17年3月から平成20年11月ま での間に実施した。 2.2 調査の内容 アンケートで尋ねた調査項目および回答方法 は以下のとおりである。 革入日,年齢(20代,30代,…70代以上の中 から選択),性別,現在の居住地(都道府県), 居住暦,専門分野 1 現在の仕事について (1)勤務先(大学,短期大学,日本語学校, その他から選択) (2)身分(常勤,非常勤から選択) (3)コマ数(週_時間) (4)学習者の主な国籍(記述) 2 現在も含めて,これまで主に担当している 授業(いくつでも選択可) (1)レベル(初級,初中級,中級,中上級, 上級から選択) (2)内容(文型・文法,読解,作文,聴解, 会話,発音,LL,日本事情,その他) 3 音声に関する授業の担当について(「はい」 「いいえ」のどちらかを選択) 一46−道・東北2名(2),関東4名(1),北陸・信 越2名(1),中部・東海9名(3),近畿18名 (2),中国9名(2),四国5名(1),九州・ 沖縄5名(2),記入なし2名であった。この うち,成育地と現在の居住地が同じである回答 者は18名で,内訳は関東1名,北陸・信越1名, 近畿10名,中国3名,四国3名となった。 日本語教授暦は,5年以下13名,6年以上10 年以下14名,11年以上15年以下14名,16年以上 20年以下10名,21年以上25年以下5名,26年以 上30年以下2名であり,それぞれ1名から3名 の男性教員が含まれていた。 3.2 音声に関する授業の担当について 現在,最低1学期毎週おこなう授業で,聴解 の授業を担当している回答者は18名,発音の授 業を担当している回答者は4名であった。LL の授業を担当しているという回答者はいなかっ た。発音と聴解の授業を両方おこなっている回 答者数は3名おり,どちらも∴担当していない回 答者は38名で,全体の半数以上となった。ま た,記入なしが1名あった。 しかし,過去に経験したことがあるかどうか
の問いには,聴解37名,発音18名,LL7名と
なり,現在も過去も一度も経験のない回答者は 17名(うち男性5名)であった。 3.3 学習者の不自然な発音に対する対処につ いて とくに音声に関する授業でなくて、も,学習者 の不自然な発音や発話に気が付いたとき,どの ように対処するかについて尋ねた。結果を表2 および図1に示す(注1)。ほとんどの項目で 最も多かったのが,「ときどき指摘・指導する ことがある」であった。なかでも,単音の発音 は25名(43.1%),次いで単語アクセント(23 名39.7%),終助詞の音調(22名37.9%)と続 く。句末・文末音調については,「できるかぎ り指導するようにしている」(22名37.9%)が「と きどき指摘・指導することがある」より1名多 旬のデイクテナションなど) (2)単語アクセントの聞き取り(例:「雨」(高 低)■ と「飴」(低高)の聞き分けなど (3)文全体のイントネーション(例:アクセ ントの連結や,文の途中の声の立ち上げ などについて説明するなど) (4)句末・文末音調(例:疑問文における文 末音調の上昇について説明するなど) (5)終助詞の音調(例:上昇の「よ」と下降 の「よ」の使い方の違いについて説明す るなど) 6 終助詞の音調に関する,学習者のニーズや 教師の知識など,日本語教育の現場で気づい ていることがあれば記述3 調査結果
3.1 回答者について 回答者の年齢と性別の構成を表1に示す。年 代では30代の25名がもっとも多く,全体の半数 近くを占めているが,このうち男性は5名のみ である。40代も,14名中男性は2名のみであるが,50代は男性4名と女性6名とほぼ同数で
あった。 表1 世代別人数(人) 年代 男性 女性 合計 20代 1 2 3 30代 5 20 25 40代 2 12 14 50代 4 6 10 60代以上 0 6 6 合計 12 46 58 成育地は,15歳までの間,居住地が同一都道 府県にあったのが58名中44名で,他の14名につ †、ては,その間もっとも長く居た地域を成育地 に代わるものとして考え,分布を調べると,次 のようになった。()の数字は,同一都道府 県で過ごしていない回答者の数である。北海 −47−るようにしている」(19名32.8%)が「ときど き指摘・指導することがある」と同数であった。 「ときどき,できるかぎり,かならず」指導 かった。文全体のイントネーション(必要のな いところで声の立ち上げがある,声の上下が激 しいなど)については,「できるかぎり指導す 表2 学習者の不自然な発音・発話について(人) ほとんど気づ 気が付くが, ときどき,指 できるかぎり かならず指導 かず,意識し 指摘すること 摘・指導する 指導するよう するようにし ていない はない ことがある にしている ている 単音の発音 1 7 25 17 7 単語アクセント 3 23 17 3 文イントネーション 3 14 19 19 2 句末・文末音調 8 21 22 5 終助詞の使い方 3 7 18 17 終助詞の音調 6 8 22 18 4 単音の発音 単語アクセント 文イントネーション 句末・文末音調 終助詞の使い方 終助詞の音調 田ほとんど意識してい ない 田気が付くが指摘しな い ロときどき指摘・指導 する ♯できるかぎり指導す る 碧かならず指導する 0% 20% 40% 60% 80% 100% 人数(%) 図1 学習者の不自然な発音・発話について が学習者に指導する場面が他の項目に比べて少 ないと予想される。いっぼう,単音の発音,句 末・文末の音調,終助詞の使い方については, 約8剖の回答者が,頻度に差はあっても指導を することがあると答えていることから,比較的 教師が指導をする場面が多いと考えられる。と くに,終助詞の使い方については,「かならず 指導する」としている回答者が11名で,他の項 目より明らかに多かった。単語アクセントと終 助詞の音調については,単音の発音,句末・文 末の音調,終助詞の使い方と文全体のイント ネーションの中間に位地すると言えそうであ る。 すると答えている数を合計して各項目で比較 すると,最も多かったのが単音の発音で49名 (84.5%),次に句末・文末の音調(常に語尾が 上がる,疑問文なのに上昇しないなど)で48名 (82.8%),終助詞の使い方(常に「ね」をつけ る,「ね」と言うべきところで「よ」を使うな ど)46名(79.3%),終助詞の音調44名(75.8%), 単語アクセント43名(75.4%)で,最も少な かったのは文全体のイントネーションの40名 (69.0%)であった。文全体のイントネーショ ンについては,「気づくが指摘することはない」 が14名,「気づかず,ほとんど意識していない」 が3名とあわせて3割に近く,また「かならず 指導する」が2名で最も少ないことから,教師 ー48一
3.4 音声教育の項目の重要度について 先の各項目について,日本語教育で指導す べき優先順位をつけてもらった。58名中30名 (51.7%)の回答があった。各項目間の比較を おこなうため,回答者が項目につけた順位に 点数を与え,各回答者の合計が30点となるよ う係数をかけた。たとえば,a,b,C,d, e,fに1,2,3,4,5,6と順位をつけた場 合は,8鼠 7.1,5.7,4.3,2.9,1.4となり,a b cがd e fより重要と答えた場合は,6.7, 6.7,6.7,3.3,3.3,3.3となる。このようにして 各項目ごとの合計を算出したところ,単音の発 音(197.7),終助詞の使い方(163.6),文全体 のイントネーション(147.4),句末・文末の音 調(146.88),単語アクセント(136.6),終助詞 の音調(107.8)の順となった。 先の,指導の有無についての結果と合わせて 考えると,以下のことが考えられる。単音の指 導については,教師の考え為重要度が最も高 く,また実際に学習者に指導する機会も最も多 い。教師の考える重要度で見ると,次いで終助 詞の使い方,文全体のイントネーション,文末 音調の順になるが,この中で実際に指導するこ とが多いのは文末音調と終助詞の使い方であ り,教師が重要であると考えているからといっ て指導する機会が多くなるとはいえないことが わかる。 単語アクセントと終助詞の音調については, さらに重要度は低いように捉えられているいっ ぼうで,指導する機会は文全体のイントネー ションよりも若干多いようである。 3.5 音声項目の指導経験について 単発的な指導も含めて,授業で扱ったことの あるものをすべて答えてもらった。尋ねた項目 は,単音の聞き取り,単語アクセントの聞き取 り,文全体のイントネーション∴句末・文末 音調,終助詞の音調の五つである。もっとも 多かったのが,単音の聞き取りで58名中47名 (81.d%),次に句末・文末音調の42名(72.4%) であった。終助詞の音調と単語アクセントは37 名(63.8%)で,もっとも少なかったのが,文 全体のイントネーションで34名(58.7%)であっ た。 先の重要度についての回答と比べると,単音 の指導については,聞き取りについて約8剖の 回答者が指導の経験があり,また発音指導につ いても重要度が高いと考えていることがわか る。句末・文末音調についても指導経験者は多 く,実際に学習者の不自然な発音に気づいた場 合も指摘や指導をおこなうこともあり,重要度 の認識も高いようである。 文全体のイントネーションについては,授業 で扱った経験のある回答者が最も少なく,学習 者の発音がおかしいときに実際に指摘・指導す る機会も他の項目に比べると少ないが,重要度 についての認識は句末・文末の音調よりも若干 向い。 単語アクセントの聞き取りと終助詞の音調に ついては,授業で扱ったことがあると答えて回 答者がどちらも6剖余りであるが,重要度につ いては他の項目ほど高いと考えられていない。 しかし,実際に学習者の不自然な発音を耳にし たときの対処では,文全体のイントネーション よりは指摘あるいは指導するという回答者が若 干多いようである。 4 考察 単音の発音,終助詞の使い方,句末・文末音 調については,重要度が高いと考える教師が比 較的多いことがわかった。文全体のイントネー ションについては,句末・文末音調と並んで重 要度が高いと考えられているものの,指導の経 験は少なく,また学習者の発音の不自然さに遭 遇したときに指摘・指導することが他の項目に 比べると少ないようである。 単語アクセントと終助詞の音調については, 文全体のイントネーションよりは実際に学習者 に指摘・指導する機会がやや増えるようである が,重要度についてはそれほど高いと考えられ ていないようである。しかし,この二つの項目 一49−
中30名(51.7%)であったが,性別を見ると, 男性12名のうち19点を超えたのは3名のみで あった。また,専門分野について日本語教育及 びその関連分野を答えた回答者について見ると 19点以上15名,20点未満8名となった。なかで も,25点以上の回答者8名のうち7名が日本語 教育及びその関連分野を専門として答えてい た。これは,とくに音声の指導についてという よりは,学習者に対する指導がより熱心であ り,発音や発話についても指導する機会が多い とも考えられる。日本語教授暦については,19 点以上の比率が最も高かったのは16年から20年 の10名中9名であった。経験年数10年を超える と19点以上の回答者の比率が増えているが,26 ∼30年の回答者2名はどちらも19点未満であっ た。 に関しては,自由記述の回答を見ると,単語ア クセントよりは文全体のイントネーションや実 際にコミュニケーションに関係する句末・文末 音調や終助詞の指導が大事であるという記述が 目立った。 実際に学習者の不自然な発音や発話を耳にし たときの対処で,「かならず指導するようにし ている」を5,「できるかぎり指導するように している」を4,「ときどき指摘・指導するこ とがある」を3,「気が付くが指摘することは ない」を2,「ほとんど気づかず,意識してい ない」を1として,回答者ごとに6項目の合計 の点数を算出したところ,最高は30点(1名), 最低は8点(1名)で,平均は19.4点となった。 得点の分布を図2に示す。 全体では,平均の19点を超えた回答者は58名 点数 26点以上 21∼25点 16∼20点 11∼15点 10点以下 0 5 10 15 20 25 図2 学習者の不自然な発音・発話について 教授経験 26∼30年 21∼25年 16∼20年 11∼15年 6∼10年 1∼5年 □19点以上 ■19点以下 10 15 人数(人) 図3 日本語教授暦による点数の分布 −50−