日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-37 194
-抑うつ症状に対する注意切り替え新ストループ検査を用いた神経行動的介入の試み
○山口 亞希子1)、下津 咲絵2)、箱田 裕司2) 1 )京都女子大学大学院発達教育学研究科、 2 )京都女子大学発達教育学部 【問題と目的】 近年,うつ病の脳神経基盤に直接的に焦点を当てた 介入方法として,神経行動的介入法が有効であること が示されてきている(山本, 2017)。Koster et al. (2011)で示されているように,うつ病に対しての効 果が実証されている認知行動療法(以下,CBT)は, 実行機能の低下した患者において効果的な治療を期待 することができない。このことから,うつ病の治療を より効果的にするには実行機能の向上が必要不可欠で あると言える。 また,ストループ課題を用いた『注意切り替え新ス トループ検査』によって,実行機能の一つである,注 意機能を視覚的に測定することができると考えられ る。この検査を遂行する際にはうつ病において機能不 全部位(山本, 2017)とされる背外側前頭前野や前部 帯状回の働きが求められると考えられている。うつ病 においては,特に背外側前頭前野の活動低下が認知 的・行動的・情動的特徴をもたらすと考えられている ため(De Raedt et al., 2015),当該部位へ直接的な 影響をもたらす手法がうつ病の治療効果をもたらす可 能性があると言える(山本, 2018)。Siegle, Ghinassi, & Thase(2007)によれば,うつ 病の神経基盤に直接的に焦点を当てた神経行動的介入 法は『うつ病に対する従来の治療方法の効果を増大さ せる』などの可能性を持つと示唆されている。さら に,今井・熊野(2011)では抑うつの高い大学生を対 象として,CBTと合わせて注意訓練による注意制御機 能への介入を行った結果,注意制御機能への介入が CBTに対する増強効果があるということを示してい る。 これらのことから,心理的介入を行うにあたって注 意制御機能への介入を合わせて行うということの有効 性が示されつつあると言える。しかし,注意制御機能 への介入として確立した方法はまだ少ない(例えば Wells, 1990)。 そこで,本研究では,CBTやその他の心理的介入に おけるうつ病の改善の効率化を目指すことを最終的な 目標に据え,注意切り替え新ストループ検査を用いた 注意制御機能の向上を図るトレーニングを実施し,抑 うつ症状低減への影響を検討することを目的とした。 【方法】 ( 1 )対象者 実験対象者は女子大学生26名(平均年齢20.92歳, 標準偏差= 2.22)であったが,全日程への参加が確認 できなかった 3 名を除いた女子大学生23名(平均年齢 21.04歳, 標準偏差 =2.33)を分析対象者とした。 ( 2 )アセスメント材料 1 . 抑うつ
日本語版Beck Depression Inventory-II(小嶋・古 川, 2003)より自殺関連項目を除いた計20項目 4 件法 を用いた。 2 .反すう Rumination-Reflection Questionnaire 日本語版 (高野・丹野, 2008)の全12項目 5 件法を用いた。 3 .能動的注意制御機能 能動的注意制御機能尺度(Voluntary Attention Control Scale:VACS, 今井, 2009)の全18項目 6 件 法を用いた。「選択的注意」「転換的注意」「分割的注 意」の 3 因子で構成される。 ( 3 )介入実験に使用した検査 注意切り替え新ストループ検査 注意切り替え新ストループ検査は,新ストループ検 査II(箱田・渡辺, 2005)の実施手順を改変したもの である。この検査は,4 つの課題(課題 1:逆ストルー プ統制課題,課題 2 :逆ストループ課題,課題 3 :ス トループ統制課題,課題 4 :ストループ課題)で構成 されており,これらの課題を各課題20秒ずつ1-3-1-3-2-4-2-4の順で行う。各課題の達成数・誤答数・正答 数を算出し,以下の計算式で逆ストループ・ストルー プ干渉率の計算が出来る。 逆ストループ干渉率= (課題 1 の正答数-課題 2 の正答 数)/課題 1 の正答数 ストループ干渉率= (課題 3 の正答数-課題 4 の正答 数)/課題 3 の正答数 ( 4 )実施スケジュール 実験参加者は全 5 日間の介入実験に参加した。 1 日 目および 5 日目は実験室において,質問紙調査および 注意切り替え新ストループ検査の実施を集団で行っ た。 2 , 3 , 4 日目は実施者のリマインダー送信のも と,HW形式で注意切り替え新ストループ検査の実施を 各自で行った。なお,実施方法については 1 日目の介 入実験前に実施者から説明を行い,十分に理解を得た 上で実施した。 ( 5 )倫理的配慮 本研究における質問紙および検査用紙への回答は自 由であり,気分等が優れない場合は回答の中止をして
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-37 195 -も良いということを実施者が事前に書面及び口頭で説 明し,参加者の同意を十分に得た上で強制のない状況 で実験は行われた。また実験内容は実験終了後にデブ リーフィングを行った。 【結果】 注意切り替え新ストループ検査による介入実験の前 後における尺度得点について t 検定を用いて比較した 結果,介入実験後の抑うつ得点が有意に低下,分割的 注意得点が有意に増加した(BDI-II: t(22)= 3.30, p = .003 ; 分割的注意: t(22)= 2.62, p = .016)。さ らに,介入実験により,逆ストループ干渉率及びスト ループ干渉率が有意に低下した(逆ストループ干渉 率: t(22)= 2.97, p = .007 ; ストループ干渉率: t (22)= 3.39, p = .003)。一方で反すう,選択的注意, 転換的注意の得点に有意な変化は見られなかった (RRQ: t(22)= 1.26, p = .221 ; 選択的注意: t(22)= 0.86, p = .398 ; 転 換 的 注 意: t(22)= 1.49, p = .149)。また,各尺度の変化量得点について相関分析 を行った結果,BDI-II得点及び逆ストループ干渉率の 変化量について有意傾向の中程度の正の相関があるこ とが示された(r = .38)。 【考察】 以上のことから,注意切り替え新ストループ検査に よる介入実験によって,神経基盤上の注意制御機能が 向上し,抑うつ症状が低減したことが予測される。さ らに,抑うつ得点と逆ストループ干渉率の正の相関傾 向からは介入実験による学習効果だけでなく,抑うつ 得点と逆ストループ干渉率得点が連動しながら変化し ていることが予測された。 しかし, VACSにおいて介入実験でトレーニングされ たはずの選択的注意と転換的注意得点の有意な上昇が 見られなかった。このことから,注意切り替え新スト ループの介入実験によって,認知的な能動的注意制御 機能の上昇は十分に得ることが出来なかったと言え る。実験参加者が注意制御機能の向上を認知すること が抑うつ症状の低減にどのような効果をもたらすか, といった視点は本研究の限界であり,今後明らかにす べき課題であるとも言える。 本介入実験はまだ探索的なものであるため,今後, 統制群を設定した上で,対象者のスクリーニングを し,高抑うつ者を対象に同様の介入を行い,データの 蓄積をしていく必要があると考えられる。