原 著 〔東女医大誌 第60巻 第5号頁416∼429平成2年5月〕
輸血による抗白血球抗体の産生と消長
東京女子医科大学 第3外科(主任:太田和夫教授) 同 輸血部(指導:清永 勝教授) 国立病院医療センター輸血部 国立熱海病院外科 オリ イ タカシ 折 居. 喬 (受付 平成2年1月20日目Development of Anti・leukocyte Antibodies and their Changes Alternate between Negative and Positive Seroconversions
by Blood Transfusions
Takashi ORII
Department of Surgery III(Director:Prof. Kazuo OTA),
Department of Transfusion Medicine(Director:Prof. Masaru SHIMIZU),
Tokyo Women’s Medical College
Blood Transfusion Survice, National Medical Center Hosp重tal
Department of Surgery, Atami Nationa正HospitaI
Anti−leukocyte antibodies(LCTAbs)were investigated mainly by a micro−lymphocyte cytotoxicity test(LCT)according to a modified method of Amos. This method using 5μl of serums was l.5 times more sensitive than the current ordinary one using 2μL The incidence of LCT−Abs in the serums of 5,470cases with blood transfusions was significantly higher in females(5..1%)than in males(2.8%)。 Heart surgery cases transfused a large amount of fresh blood during operations had a tendency to develop LCT−Abs(13.2%)more than the others(6.0%). Hemodialysis cases followed more than a year showed a tendency to become LCT・Abs negative. In 23.6%of the cases developing LCT−Abs these antibodies disappe3red with repeated blood transfusions, but in some cases alternated between positive and negative seroconversions. It was observed that the rates of LCT−Abs development increased to make a peak in proportion to the rise of both blood units and frequency of transfusions, and turned to decrease there−after. These changes could be considered to be due to immunosuppressive effect of blood transfusions.
It was assumed that the development of LCT−Abs and their changes alternate between negative and positive seroconversions by blood transfusions should be very complicated phenomena under many restrictions such as original diseases and their treatments, blood components and volumes transfused as well as both frequency and interval of transfusions.
はじめに 抗白血球抗体が輸血,妊娠,臓器移植などによ り産生されることは衆知の事実である. しかし輸血を受けた患者について,長期にわた り,各受血者別にその抗体の発生および消長を観 察した報告は少ない. 著者は東京女子医科大学輸血部において,約5 年間にわたり,交差適合試験の目的で提出された 患者血清について頻繁に,抗白血球抗体の存否消 長を追求し,使用患者血清量の影響,マイクロリ
ンパ睡気鞄毒性試験と血小板補体結合試験の比 較,輸血量との関係,長期観察例における消長な ど種々の検討を加えたので報告する. 対 象 約5年間にわたり,東京女子医科大学輸血部に 交差適合試験の目的で提出された患者血液を対象 とし,5,470例について検討した. 方 法 マイクロリンパ球細胞毒性試験micro−lym− phocyte cytotoxicity test(以下LCTと略)を主
として行なったが,一部比較のために抗血小板抗 体を補体結合反応complement蝕ation test(以 下CFと略)により検索した.
1.LCT
Amosら1)の方法に若干の変更を加えて行なっ た. 1)検査患者血清 不活化せず5μ1を使用した. 毎回陽性血清対照として抗イヌ・リンパ球ウマ 血清を,陰性対照として抗リンパ球抗体陰性と判 明しているヒト血清を使用した. 抗イヌ・リンパ球ウマ血清はヒトリンパ球に対 して細胞毒性反応を示すので,陽性血清対照とし た. 2)パネル・リンパ球 検査当日,輸血部を訪れた供血者中から無作為 に選んだ6人の血液より下記の方法でリンパ球を 分離し使用した. (1)静脈血約10mlを採血し,三角コルベン中で ガラス玉により脱線維を行なった. (2)試験管(20×100mm)に脱線維素血を移し, 5%デキストラン1.5mlを加え,よく混和した. (3)試験管を12∼20度に傾斜して放置後,時々 赤血球の沈降状態を観察し,血清部分と血球部分 とがほぼ分離したところで試験管を直立させ,赤 血球部分を更に沈降させた. (4)試験管(12×100mm)にコンラキシンL(比 重1.078)1.5mlを入れ,(3)の血清を重層した. (5)1,900rpm,30分遠沈後,白血球層を取り gelatin verQnal buffer(GVB)で満たした試験管 (12×100mln)に入れた. (6)1,300rpm,10分遠沈後,上清を捨てた. (7)沈渣にGVB 3∼4滴を加え,その0.5μ1 をマイクロプレートに入れて鏡検(×200)し,約 1,000/mm2となるように希釈度を修正した. 3)補体 ウサギ正常血清をそのまま5μ1使用した.ウサ ギ血清は試験管に少量ずつ分注後,冷凍保存し, 溶解後1週間以内に使用した. 4)実施法 (1)6×10穴のマイクロプレート(Falcon No. 3034)1枚に1観ずつ60種の被験」血清を各5μ1入 れた.同様の操作を更に5枚,計6枚のマイクロ プレートに行なった. (2)パネル・リンパ球浮遊液毎に1枚のマイク ロプレートを割り当て,それぞれの60穴に1μ1ず つ加えた. (3)各マイクロプレートを振湯器で1分間振罎 し血清とリンパ球浮遊液とを混和した. (4)この際,乾燥防止のためマイクロプレート の反応野の外側の平坦部に,生理食塩水を十分浸 した濾紙を置き,検査中濾紙の乾燥がみられたと きは適宜ピペットで生理食塩水を補充した. (5)マイクロプレートの蓋をとり,液面を下に 向けて1回強く振って上清をできるだけ除去し た.次に加える補体が血清により希釈されるのを 避けるためである. (6)補体(ウサギ血清)5μ1を加え,再び振寸寸 で1分羽振温後,蓋をして,室温に90分間放置し た. (7)(5)の操作をもう一度繰り返し,0.5%ト リパン青5μ1を加え,室温に30分間放置した. (8)更に(5)の操作で上清を除去後,生理食 塩水を少量ずつ加え,弱拡大で鏡検した. 5)判定法 パネル・リンパ球が20%以上膨化染色したもの を陽性とした. 1回の検査で抗体陽性と確認できなかったもの は,後日更に6例のリンパ球で同様の検査を行 なった.2回の検査で,なお判定に困難を感じた 場合は,更にもう一度同様の検索を行なった. なお,すべての検査は必ず2名の検査者が同時に行なったが,両検査者の結果に著しい食違いの あるものは再検した. 2.CF 1)抗原
0型血液9mlに5%EDTA・2Naを1ml加え,
200G 10分遠心して得た多血小板血漿を,さらに 1,600Gで30分遠心した.上清を除去して得た沈瘡 を1%蔭酸アンモニウムで1回,生理食塩水で2 回洗浄し,その沈渣1mlに血小板が109個浮遊する ようにGVBを加え,冷蔵庫に保存した.抗補体性 を避けるため,1週間以上保存したものを使用し た. 対照として次のものを置いた. (1)陰性対照:抗血小板抗体陰性と判明してい る供血者血清 (2)陽性対照:抗イヌ・リンパ球ウマ血清 (3)抗原対照:被験血清をGVB 10μ1と置き 換えて実施した. (4)溶血系対照:抗体陰性供血者血清を,2倍 から128倍まで倍数希釈し,その10μ1に溶血系を 加え,37℃2時間加温し,判定した. (5)血清対照:抗原液をGVB 10μ1に置き換 えて実施した. 2)実施法 (1)被験血清(GVBで10倍に希釈)10μ1ずつを マイクロプレートに入れた. (2)2.5単位のモルモット補体10μ1を加えた. (3)抗原10μ1を加え,よく混和して37℃に2時 間放置した. (4)梅毒血清学的検査法の緒方法に使用する溶 血系10μ1を加え,37℃に30分間放置した.(5)更に4℃に2∼4時間または1日静置し
た. 3)判定法 沈渣血球に溶血がみられた場合は陰性,不溶血 の場合は陽性とした. 結 果 1.患者血清を2μ1と5μ1使用した場合の検査成 績の比較 抗HLA−B5の単一特異性1血清と思われる10血 清(血清番号110,116,18,34,117,24,7,21, 22,104)とそれらにやや近い相関を示した5血清 (血清番号32,9,27,26,33)の計15血清と30種 目パネル・リンパ球を使用し,Amos法により LCTを行い,被験血清を2μ1使用した場合と5μ1 使用した場合の各血清のパネル・リンパ球に対す る反応の相関(κ2検定)および抗体検出感度の変 動を比較観察した. 相関は5μ1に増量した場合ば,2μ1使用時より有 意に低下した(5μ1使用時には,一部の血清に含ま れていた弱い抗HLA−A2も陽性となっていた) が,パネル・リンパ球の50%以上が死滅染色され るものは,血清を2μ1使用した際の26.4%から,5 μ1では38.9%と約1.5倍に上昇した. 2.地帯現象 輸血開始後6ヵ月以上を経過し,その間の輸血 回数が5回以上であったにもかかわらず,抗体が 検出されなかった17例,および一旦抗体を検出後, それが消失したかに見えた21例の計38例について 検討した.患者血清を2倍から256倍まで倍数希釈 して検査したが,地帯現象は,認められなかった.3.LCTとCFとの比較
1)LCTにより陽性もしくは疑わしい反応を示 した198例について,CFにより抗血小板抗体の検 出を行なった(表1) CFでは27,8%が陽性であったにすぎなかっ た.LCT陽性のものでは, CFで34.3%,弱陽性 のものでは22.9%,疑陽性のものでは6.7%が陽性 であった.このようにCFでの検出率は低かった. LCT陰性例でCF陽性例は認められなかった. 表1 マイクロ・リンパ球細胞毒性試験(LCT)で 陽性ないし疑陽性を示した例での血小板補体結合 反応(CF) CF kCT 陽 性i%) 陰 性 i%) 計(%)陽 性 45i343) 86i65.7) i100)131
弱陽性 8i22.9) 27 i77.1) 35 i100) 疑陽性 2i6.7) 30 i93.3) 32 i100) 計 55i27.8) 143 i72.7) 198 i100)
表2 血液疾患を主とする疾患別のCFとLCTに よる抗体陽性例日(率) 抗体陽性例 検査例数 CF LCT 急性骨髄性白血病 17 0 6 その他の白血病 6 2 3 再生不良性貧血 8 0 4 発作性夜間血色素尿症 2 0 1 自己免疫性溶血性貧血 3 1 3 特発性血小板減少性紫斑病 5 0 0 全身性エリテマトーデス 11 1 7 汎血球減少症 5 0 3 その他 19 1 8 計 76 5 35 (%) (100) (6.5) (46.1) また同一患者について連続的に比較検査できた ものが5例あったが,抗体が同時期に検出できた もの2例,CFによる抗体検出が1回遅れたもの 3例であり,逆に陰性化する時期ではLCTより もCFの方が1∼2回早いものが多かった.すな
わちCFで検出される時期はLCTで陽転する時
期より遅れ,また陰性化する場合は,LCTよりも 早い例が多かった. 2)血液疾患を主とする76例の患者血清についてLCTとCFによる抗体陽性率を比較検討した
(表2). 対象とした76例中,急性骨髄性白血病,再生不 良性貧血,自己免疫性溶血性貧血,全身性エリテ マトーデスなどの35例(46.1%)がLCT陽性で あったが,CFでは5例(6.5%)に検出できただ けであった.また,抗体価においてもLCTでは 1,024倍の高値を示したものがあったが,CFでは 一般に低値で32倍のものが1例あったのみであっ た.またLCTで8倍以下であった21例中, CFで も検出できたものは1例のみであった. 3)自然流産のあったもの1/例,死産2例,切迫流産1例の計14例についてCFとLCTによる抗
体陽性率を比較検討した(表3). LCTでは14例中9例(64%)が陽性であったが, CFでは1例も陽性例を認め得なかった. 4.輸血後の抗体検索 1)全対象例 表3 流死産のあった患者におけるCF とLCTによる抗体陽性例数(率) 抗体陽性 例 数 CF LCT 自然流産 1回 Q回 R回 S回 3611 0000 3211 死 産 2 0 1 切迫流産 1 0 1 計(%) 14 0 9 i64.3) 表4 男女別にみた輸血前抗白血球抗体陽性例数(率) 全対象例 輸血前抗体陽性例(%) 男 性 3036 84(2。8) 女 性 2434 24(5,1) 計 5470 208(3.8) P〈0.05 今回調査の対象とした患者は5,470例(男性 3,036例,女性2,434例)で,すべて輸血前にLCT (Amos法)により抗白血球抗体の有無を検査でき たものである.その内輸血前にすでに抗体陽性で あったものは男性84例(2.8%),女性124例(5.1%) の計208例(3.8%)であり,女性に高率であった (p<0.05)(表4). 2)輸血後追跡1ヵ月未満の例における抗体陽 転率(輸血前抗体陰性例) 追跡調査は定期的には実施し得なかったが,輸 血後3日以降1ヵ月未満に再検査し得たものは 1,702例(男性1,036例,女性666例)であり,抗体 陽転例は男性80例(7.7%),女性103例(15.5%) の計183例(10.8%)で,女性に有意(p<0.001) に高率であった(表5). またその抗体の発生状況を検討すると,男性で は10日以内に1.5%,11日から20日までに3.6%, 21日から30日までに4.6%と上昇し,女性ではそれ ぞれ4.2%,9.7%および12.3%であり,女性のほ うがより早期に,より高率に陽性となった. 3)輸血後1ヵ月以上追跡し得た例 輸血後引き続き1ヵ月以上検査し得たものは表5 輸血前抗体陰性例における輸血後1ヵ月未満 の男女別にみた抗体陽転例数(率) 対象罪数 抗体陽転例(%) 男 性 1036 80(7.7) 女 性 666 103(15.5) 計 1702 183(10.8) p<0.001 表6 輸血後1ヵ月以上追跡しえた例における男女 別にみた輸血前抗白血球抗体陽性例数(率) 対象冊数 輸血前陽性(%) 男 性 562 25(4.5) 女 性 356 27(7.6)
r
v
918 52(5.7) p<0.01 表7 輸血前抗白血球抗体陰性で輸血後1ヵ月以上 追跡しえた例における男女別にみた抗体陽転二二 (率) 対象例数 陽転例数(%) 男 性 537 58(10.8) 女 性 329 65(19.8) 計 866 123(14,2) 表8 輸血後抗体陽転例における男女別にみた輸血 後期間別陽転戸数(率) 輸血後期間 男 性 女 性 計(%) ∼1ヵ月 @1∼2ヵ月 @3ヵ月以内 14 @ 15 @ 35 @ (60.3) 16 @ 17 @ 47 @ (72.3) 30(24.4) @32(26.0)@82
@ (66.7) 4∼6ヵ月 15i25.9) 8 i12.3) 23 @(18.7) 7∼12ヵ月 5i8.6) 7i10.8) 12@(9.8) 13∼16ヵ月 3i5.2) 3i4.6) 6(4.9) 計(%) 58 i100) 65 i100) 123 @(100) 表9 長期観察例(長期透析患者)における輸血後期 間別抗体陽性例数(率) 輸血後期間 対象例数 陽性例数(%) 6ヵ月以内 115 29(25.2) 7∼12ヵ月 18 9(50,0) 13∼24ヵ月 16 5(31.3) 25ヵ月以上 11 4(36.4) 計 162 47(29,0) p<0,01 918例(男性562例,女性356例)で,そのうち輸!血 前に抗体陽性であったものは男性25例(4.5%), 女性27例(7.6%),計52例(5.7%)であった(表 6).輸血前に抗体陰性であった866例(男性537例, 女性329例)中,輸血後に陽性となった例は123例 (14.2%)で,男性58例(10.8%),女性65例(19.8%) であった.いずれもやはり女性に有意に高率で あった(表7).またこれら123例の抗体陽転時期 の分布をみると,その66.7%(男性の60%,女性 の72%)は,初回輸血後3ヵ月以内に陽転してい た(表8). 4) 長其月観察{列 本調査を開始する前,すでに当院において輸血 を受けていた例で,当院における輸血開始時期が 明白であり,かつ全期間を通じてほぼ一様に間欠 的に輸血を受けている患者について,今回の調査 期間内の検査が,当人の輸血開始後のどのような 時期に当たっていたかにより,抗白血球抗体の有 無を検討した.対象症例はほとんど長期透析患者 であった。 抗体陽性例は,当院での輸血開始後6ヵ月以内 の例では115例中29例(25.2%),6ヵ月∼1年の 例では18例中9例(50%),1∼2年の例では16例 中5例(31.3%),2年以上の例では11例中4例 (36.4%)であった.6ヵ月以上の例数は少数で あったが,1年以上になるとむしろ陽性率の低下 する傾向がみられた(表9). 5.全血および成分輸血症例における抗白血球 抗体 1)全血輸血症例 全血輸血のみを行なった503例(観察期間が1カ 月以上最長7カ,月間)中,抗体が検出されたもの は71例(14.1%)であった.これを輸血総量と輸血回数別に検討した(表10).輸血量が10単位以下, 11∼30単位の各群では,輸血回数が増加するにつ れて抗体検出率も高くなる傾向を認めたが,31単 位以上の大量輸血群では,11回以上の輸血群でむ しろ抗体検出率は低下した. 2)10単位以上の全血輸血症例 輸血前に抗体陰性であった症例で,連続2日以 内に計10単位以上の新鮮血が輸血され,その後輸 血が行なわれていない場合の抗白血球抗体の発生 状況を検討した(表11).対象症例は主に心臓手術 例であったが,大量輸血後定期的に採血すること は困難であったので,次回輸血直前までに検査し 得た86例を対象とした.したがって,症例により 検査時期は必ずしも一定していないが,抗体陽転 表10 全血のみを輸血した場合の輸血総量別・回数 別抗白血球抗体産生状況 量 10単位 ネ内(%) 11∼30 P位(%) ネ上(%)31単位 計(%) 1 20/145 i13.8) 0/9 0/10 20/164 i12,2) 2∼3 14/93i15.1) 6/54 i11,1) 3/13 i23.1) 23/160 i14.4) ∼5 i12.5)3/24 7/37 i18.9) 2/13 i15.4) 12/74 i16.2) ∼10 k30.0)3/.10 4/39 k10.3) 5/25 i20,0) 12/74 i16,2) ∼20 i23.1)3/13 1/14 i7.1) 4/27 i14.8) 21∼ 0/4 0/4 計(%) 40/272 i14.7) 20/152 i13,1) 11/79 i14.0) 71/503 i14.1) 表U 1回10単位以上の輸血を受けた症例におげる 輸血量別・輸血後期間別抗白血球抗体陽転例数 (率);心臓手術例(新鮮血輸血例)のみ 輸血後期間 10∼3Q単位 31単位以上 計(%) ∼14日 3/26 2/12 5/38 i13,2) 15∼30日 0/18 0/1 0/19 31日∼ 2/22 0/7 2/29 i6.9) 計(%) 5/66 i7.5) 2/20 i10.0) 7/86 i8.1) 抗体陽転例数/検査例数 (連続2日間に計10単位以上の輸血を受けた例を含む.) 例は7例(8.1%)であった.この内,輸血後14日
以内に抗体陽性となったものは,38例中5例
(13.2%)であった.輸血丁丁(31単位以上と未満) による抗体陽転率には差を認めなかった. 新鮮血輸血に限らず,また大量輸血前の輸血の 有無に関係なく,連続2日以内に10単位以上の輸 血を実施した601例(男性422例,女性179例)につ いて検討した(表12).輸血後1∼14日の抗体陽性 率は6.0%と前掲の心臓手術の場合(13.2%)より 低かったが有意ではなかった.また最高の陽転率 は,31∼45日の20.0%(男性15.2%,女性31.5%) であり,それ以前は1∼14日で6。0%,15∼30日で 12.6%と輸血後日数の経過とともに陽性率が上昇 していったが,46日以降では10.3%とむしろ陽性 率が低下していた. 3)成分輸血症例 成分製剤のみの輸血例は例数も少なく,かつ輸 血量も少ないものが多かったが,抗白血球抗体発 生例は,赤血球濃厚液の輸血例17例中1例,洗浄 赤血球の輸血例20例中6例,血小板濃厚液の輸血 例4例中2例,新鮮凍結血漿の使用例2例中1例 であった. 6.抗白血球抗体の消長を認めた症例 1)頻度 輸血前に抗体が陰性で,その後少なくとも1カ 月以上経過後に抗体検出の機会を得た866例中123 例(14.2%)で,輸血後に抗体が陽性となった(表 高12 1回10単位以上の輸血を受けた症例における 男女別の輸血後期間別口白血球抗体陽転脚数 (率) 男 性 女 性 計(%) 1∼14日 9/220 i4.1) 10/95 i10.5) 19/315 i6.0) 15∼30 10/100 i10.0) 8/43 i18.6) 18/143 i12.6) 31∼45 7/46 i15.2) i31.6)6/19 13/65 i20.0) 46日∼ 7/56 i12.5) 1/22 i4.6) 8/78 i10.3) 計(%) 33/422 i7.8) 25/174 i14.4) 58/601 i9.7) 抗体陽転文数ノ検査口数 (連続2日間に計10単位以上の輸血を受けた例を含む.)表13抗白血球抗体の陽転後の消長
抗体の消長
陽転例数 持続例 陰転例 出没例 男 性 i%) 58 i100) 47 i81.0) 9 11 @(19.0) 2 女 性 i%) 65 i!00) 47 i723) 12 6@ 18
@ (27.7) 計(%) 123 i!00) 94 i76.4) 21 8@ 29
@ (23,6) 7).しかし,引ぎ続き抗体が陽性であり続けた例 は123例中94例(76.4%)で,男性47例(81。0%), 女性47例(72.3%)であり,男性11例(19.0%), 女性18例(27.7%)の計29例(23.6%)では,輸 血を繰り返しているにもかかわらず一旦検出され ていた抗体が再び検出されなくなった,また,こ の29例のうち8例(27.6%,全体の6,5%)では抗 体の変転後に陽転し,更に8雨中3例(男性1例, 女性2例)ではその後再度陰性化した(表13).こ の際,検出されなくなったとするには,少なくと も引き続き行なった2回以上の検査で,いずれも 陰性であることを条件とした. 陽性となった抗体が再び陰性化した21例(男性 9例,女性12例)では,陽性であった最後の検査 日から,陰性となった最初の検査日まで,1ヵ月 以内14例(うち10日以内9例),2ヵ月以内5例, 3ヵ月以内2例であった. 2)症例 次に抗体の消長をみた代表例を呈示する. (1)陽性であった抗体が陰性化した例 症例1:32歳男性,急性リンパ性白血病. 患者は,入院当初血小板減少(2∼4×104/mm3) を示し,1週間後から白血球減少(1,000∼2,500/ mm3)をみ,血小板を主体とする輸血を行なった. 輸血開始当初の抗白血球抗体は陰性であったがや がて陽性となった.その間,間欠的に血小板70単 位が3週間にわたって輸血されだ.最後の血小板 輸血後約1週間で検査したところ,抗体は陰性と なっていた(この間赤血球濃厚液2単位が輸血さ れた).その後,赤血球濃厚液,血小板等をかなり 輸血したが,ついに陽性となることはなく,陰性 を確認した期間はユヵ月半であった.患者は一般 状態も改善され,退院も予定されていたが,大腸 菌による敗血症,DICを併発して脳出血で死亡し た. 症例2:40歳男性,移植後腎不全. 本心は,腎移植後急性腎不全の疑おれた例で, 副腎皮質ホルモンを主とする免疫抑制剤が投与さ れていた.輸血を始めた当初(全血4単位が2回 に分けて輸血された)は抗体陰性であったが,約 2週間後強い抗体が出現し,約10日間続いた.そ の間,全血10単位が7回にわたって輸血された. その後山」血は20日間中止されていたが,白血球減 少(500/mm3)を主とする汎血球減少症が現われ たので再開された.再開時の抗体検索では陰性で あった.その後死亡時まで10日間に2回の検査を 行なったが,ともに陰性であった. 症例3:40歳女性,肺癌. 当院での輸血開始時,すでにきわめて弱い反応 がみられたが,陽性とはいいがたい程度であった, やがて陽性となり,約6ヵ月間持続した.その間 の輸血は,前半は全血,後半は赤血球濃厚液がか なりの間隔をおいて行なわれた.陽性を示した最 後の輸血から約20日間の休止期を挟んで,赤血球 濃:心止i8単位,」血小板69単位がその後の1ヵ月間 に輸血され,その間連日輸血されたこともあった. しかし,今回の輸血開始直後から2ヵ月間全く抗 体を検出し得なくなった.なお輸血による発熱性 副作用は全くみられなかった. (2)抗体の出没例 症例4:22歳女性,慢性腎不全. 長期透析患者(週3回)で,時々透析時にあわ せて赤血球濃厚液1∼2単位が輸血された.入院 当初の3ヵ月間に行なった3回の検査では陰性で あったが,約3ヵ月の輸血休止期を経て,輸血を 再開したところ,弱い抗白血球抗体が2度にわ たって検出された.しかし,その後約2ヵ月間陰 性が続き,再び陽性となり,8ヵ月間続いた.そ の後陰性陽性を繰り返した後,ついに陰性となっ た(ここまでの総輸血量は全血4単位と赤血球濃 厚液30単位であった).この期間中で,陰性を示したときは,使用した6リンパ球のすべてに反応し なかったが,陽性となった場合には,6リンパ雪 中の2∼4例にきわめて強い反応を示した, 症例5:27歳男性,急性リンパ性白血病. 入院中ほとんど血小板のみの輸血が行なわれた 例で,その健全血4単位が使用された.輸血開始 後6日間に50単位の一血小板輸血を受けた時点まで は抗体陰性であったが,4日後(総輸血量血小板 79単位)に抗体が陽転し,15日後(同219単位)陰 性となり,約20日後(同239単位)また陽性となっ た.その後,約2ヵ月間血小板輸血は中止されて いた.その後再びほぼ連日,血小板輸血が行なわ れ,当初は抗体陽性であったが,間もなく陰性(同 318単位)となった.2回目の連続血小板輸血後, 血小板数は35×104/mm3にまで回復し退院した. 考 察 1.抗白血球抗体 抗白血球抗体にも多くの種類があり,標的とな る細胞の種類により,抗穎粒球抗体,抗リンパ球 抗体等の別があり,また後者のなかにも抗T細胞 抗体,抗B細胞抗体,更に抗HLA抗体,.また作 用至適温度により,温式,冷式の差が,更に同種, 自己,異種の別などがある. 今回検討の対象としたものは,輸血領域におい てもっともしばしぼ遭遇する,抗リンパ球抗体の うち温式同種抗リンパ球抗体の分類に属するもの である. 抗白血球抗体が後述するように輸血,妊娠,臓 器移植等により産生することは,すでに衆知の事 実である.したがって輸血以外に妊娠という抗体 産生の機会をもち得る女性に男性より高率に抗体 産生がみられることが多い. 2.抗白血球抗体検出方法の検討 抗白血球抗体検出の方法としては,現在LCT がもっとも広く使用されているが,その他白血球
凝集反応,時には血小板補体結合反応
(Colombani2))も一部では使用されてきた.これ らの検出法とLCTとでは検出対象は必ずしも同 一ではない.肺過敏症のような輸血副作用の検討 の際には,むしろ白血球凝集反応の方がLCTよ り優れているとされている.LCTが他の方法より 優れている点は,抗体検出に使用されるリンパ球 のABO式血液型が,必ずしも被験血清のそれと 同一または適合である必要がなく,検査血清が少 量ですむこと,白血球凝集反応に比べて非特異性 反応が少ないことなどである. 著者は今回一部血清について,LCTとCFとを 比較検討したが,すでに諸家により指摘されるよ うに,CFは抗体検出率も低く,補助的にしか利用 できない成績を得た.しかし,用いたりンパ球と 血小板とが同一人のものではなかったこと,LCT では使用したリンパ球が12例以上であったのに, 血小板抗原としては4∼8例であったことも多少 影響していると思;われた(表1,2,3). LCTにおいて,種々の理由から被験血清量は 0.5∼1μ1とされている.一般に抗体の検出に際し ては,被験血清量を,使用する抗原細胞数に比し て相対的に増量することにより検出率を高め得る ことは,すでに抗赤血球抗体の検出にあたっても 多くの報告がなされており,衆知のところである. そこで,本研究では被験血清量を2μ1とした場合 と5μ1とした場合について,抗HLA−B5抗体をも つと思われる15血清について検討した.その結果, 5μ1を使用すると各血清のパネル・リンパ球に対 する反応の相関(κ2検定)の低下をみたが,これ は一部被験血清中に混在すると思われる,他の特 異性をもつ抗体(抗HLA−A2抗体の存在は確認で きた)のためと考えられた.しかし強い抗体陽性 を示す(パネル・リンパ球の50%以上が死滅染色 される)ものは,26.4%から38.9%と約1.5倍に上 昇した.このようなことから,本研究では被験血 清を5μ1使用することとした.その際一段目を行 なえばFalconプレートの容量が約11μ1であるの で,これにリンパ球浮遊液,補体,染色液を加え てゆくと,液があふれでる恐れがあることから, 二段法を採用した.この方法では反応液の上清の 一部を除去するので反応液による過度の補体希釈 を避けることができる.その際,Amosらの実施し ている,プレートをつよくふり上清を除去する方 法を検討し,それにより容易に目的を達し得るこ とを経験したので,その方法を採用した.また入 手したトリパン青は,その染色能力からして0.5%液5μ1を使用したが,鏡検前に染色リンパ球の検 出を容易にするために,いま一度上清を上記の方 法で除去し,少量の生理食塩水を加えたうえで鏡 検した. 3.輸血による抗白血球抗体の産生 抗白血球抗体が後述するように輸血,妊娠,臓 器移植等により産生することはすでに衆知の事実 である.したがって,輸血以外にも妊娠という抗 体産生の機会をもつことのあり得る女性に,輸血 後の抗体産生が高率にかつ早期にみられることが 多い.このことは本研究においても,輸血後の観 察期間が1ヵ月未満の例,1ヵ月以上観察し得た 例のいずれの患者群においても,有意の差をもっ て観察することができた(表5,7).また,輸血 前にすでに抗体の認められたものも全対象例,1 ヵ月以上観察例でともに,女性の方に男性よりも 有意に多くみられた(表4,6). 一方,輸血後に抗体が陽性となったのは,男女 とも3カ,月以内に陽転する者が66.7%と大部分を 占めており,その後,急速に減少したことは,経 過とともにpoorないしnon−respondersがとり 残されるためと考えられる.ただし,今回の検索 では,全例について定期的に抗体を検査し得たわ けではなく,時には1ヵ月以上間隔の開いた場合 もあったことから,ここに得られた数字以上に早 期により高率に抗体の産生をみていた可能性は十 分にある(表5,8). 輸血による抗白血球抗体の産生は多くの条件に 左右されている.使用製剤,1回の輸血量,各輸 血間の間隔,回数などによりかなりの差異が認め られる.更に最近は後述するように受血者が免疫 不全を示すような疾患に罹患しているか否かも, 大きな因子であることが判明している, 抗赤血球抗体の産生には,輸血量よりもむしろ 輸血回数の方が大切な条件とされている.抗白血 球抗体でもほぼ同じ傾向がみられるようである. 例えばCurutoniら3)によると,1回50∼70mlの 輸血群で抗体の産生をみたものの平均輸血量は 447.5mlであったのに対して,1回250mlの輸血 群で抗体のできなかった例での平均輸1血量1,950 mlと,有意の差(p<0.001)がみられたとしてい る.またAmosら1)は皮内注射の場合でも,その間 隔を1∼2週としたほうが4週以上とするよりも 抗体産生率が高かったとしている. 1回輸血量による差異に対して,Ferraraら4)は 毎週20m1ずつ輸血し,9∼23週(平均15週)で, 約90%に抗体を産生したとし,Curutoniら3)は毎 週50∼70mlの輸血を6回行ない,輸血後2ヵ月休 止して,また輸血を再開することにより25名中24 名に抗体の産生をみたが,250mlの全血を2ヵ心 おきに輸血した例では,18例中3例にしか抗体の 産生をみなかったとしている.Hammondら5)は 毎週70∼80m1ずつの輸血を繰り返し,数ヵ月から 1年後た250nllのブースターを行なうと100%に 抗体の産生がみられたとし,また1回量250mlを 45∼60日おきに輸血し,時々ブースターを行なう と38%に抗体の産生をみている.各輸血量により 実施した輸血スケジュールに大きな差があり,一 概に比較することはできないが,70∼80mlまでの 少量輸血群で抗体産生の多かった例は,休止期の あるものもあるが大体毎週輸血していたのに対し て,250m1群では1カ,月半ないし2ヵ月の間隔が あったことが,抗体産生率の低かったことに大き な影響を与えているようである.しかし1回輸血 量が250mlであった二つの報告で,ともに抗体産 生率が低かったとしていることは興味深いことで ある.欧米では440∼550mlを1単位としている. Dausset6)は,1957年10月から1959年3月までの1 年6カ,月間の輸血回数の明白な641例に白血球凝 集反応を施行し,1∼3回群3.63%,4∼20回群 8.79%, 50回群33.33%, 51∼100回君羊42.85%, 100∼200回群42.45%,201回以上群20%の産生率 であったとしている.但し,200回以上は5例にす ぎず更に検討を要するところであろう. 個々の研究者によりかなりのぼらつきがみられ るが,輸血総量,輸血回数が増加すると抗白血球 抗体の陽性率も上昇するという考え方が一般的で ある. 然るに著者の経験では,輸血間隔が一定でない 欠点はあるが,表10にみるような成績を得た.全 体としては輸血回数1∼20回で12.2∼16.2%,輸
血量10単位以内,11∼30単位,31単位以上で
13.!∼14.7%と,輸血回数,輸血粗面の抗白血球 抗体陽性率の増減は著しくなかった.しかも,1 回に全血11単位以上を輸血した19例で,抗体を検 出し得たものがなかった.輸血総量が20単位以下 の2群では輸血回数が増えると抗白血球抗体の陽 性率が高率となる傾向がみられたが,総輸血量31 単位以上の群で,輸血回数11回以上では逆に検出 率の低下する傾向がみられた.これは,後述する 輸血による免疫抑制効果の関与している可能性が ある. また対象となる患者に妊娠歴のある女性がどの 位含まれるかによっても大きな差が起こるものと 考えられる.例えば,Payne7)は,妊娠回数1回で 3/14,2回で1/11,3回で2/8,4コ口0/2,5回 で6/6と経産婦で輸.血により容易に抗白血球抗体 が産生することを報告している. 著者の今回の研究でも,妊娠という抗体発生の 機会をもつ女性に輸血後の抗体産生が男性より高 率(p<0.05)かつ早期にみられた(表4,5,6, 7).また自然流産のあったもの11例,死産2例,
切迫流産1例,計14例の検討では,LCT(Amos
法)で9例(64%)に抗白血球抗体が陽性であっ た(表3). 4.大量輸血による抗体産生1回の大量輸血後の抗体産生に関して,
Walford8)は,体外循環後の抗体産生をみると,凝 集反応では10日後に,また抗グロブリン消費試験 では4∼6日後に陽性となるものがあるとしてい る.その理由として,新鮮血が多く使用されてい ることをあげ,患者が免疫学的に正常であれぽ新 鮮白血球では早く抗体ができるが,保存血を使用 すれぽ,白血球はその一部のまだviableなものだ けが免疫原になるので,抗体産生が遅くなるとし ている.Martinら9)も臓器移植の術前輸血による 抗体産生は,viableな白血球に有意に相関すると 報告している. またFauchetら10)は保存5日以内の新鮮血お よび新鮮凍結血漿(手術が長期にわたるときは濃 厚血小板も)を使用した開心手術212例において, 男性の33.6%,女性の64.3%に抗白血球抗体の産 生をみたが,もっとも検出率の高かったのは術後 8日目であったとし,その理由に,過去における 妊娠歴や輸血歴の存在をあげている.また彼は Genetet(未発表)が,大量輸血後に血清IgGが一 過性に低下した後,7日目に急速に上昇する事実 を認めたことを紹介している.また抗体が陽性と なった97例では,8日目には82例が陽性であった のに,15日目には15例しか陽性でなかったとし, 19例は8日目にのみ陽性で,その内13例は男性で あったという.さらに,術前に抗白血球抗体が陽 性であった21例についてみると,男性例ではすべ て術後8日目および15日目には陰性化していた が,女性では引き続き陽性であったとし,男女に より抗体の変動に差のある事実を報告している. これらの事実からみると,8日目における抗体産 生を単に受動免疫や二次的な抗体形成にのみ帰す ることは,一考を要すると思われる.また,Tongio ら11)は22年前,4ヵ月で流産した既往歴のある女 性で,術後9∼10日に抗体を検出し得た例を報告 している. Colombaniら12)は平均71を使用した体外循環 患老について,抗体は術後5∼12日で発生しはじ め,20曰くらいで最高に達するが,その大部分は 女性で以前の妊娠によりすでに抗体を作ったもの に,二次的応答により抗体が産生したものとして いる. 著者も1回に10単位以上の新鮮血が使用された 心臓手術における抗体発生状況を検討した.表11 に示すように14日以内に13.2%と早期に抗体の検 出し得る場合のあることを知った.他院における 輸血状況は完全には把握できなかったので,二次 的応答による抗体の発生を完全には否定できな かった.そこである期間を限り,1回に10単位以 上の新鮮血または保存血を輸血した例について検 討してみたところ,表12に示すように,大量輸血 後1∼14日に6.0%と,かなり高率に抗体を検出し 得たが,心臓手術の場合に比べるとやや低率であ り,15∼30日,31∼45日目それぞれ12.6,20。0% と上昇し,その後の発生状況もやや異なっていた. また46日以降で検出率が10.3%と低下したこと は,一旦産生された抗体のなかで検出できなくな るほど抗体価の低下したものがあったためであろう.また今回の検討で,表12において,輸血後1 ∼14日の抗体陽性率が,新鮮血を使用した心臓手 術の例に比してむしろ低かったことは,Walford8) やMartin9)が述べているように, viableな白血球 数が抗体産生を左右する重要な因子であるためか もしれない.新鮮血を大量に使用するときには考 えておくべきことであろう. 5.人工透析と抗白血球抗体 透析患者の多くが尿毒症症状を伴っており,免 疫抑制状態にあることはよく知られている事実で ある. 透析患者に抗白血球抗体がどのように産生する かについても,種々の見解が述べられている.慢 性透析患者に抗白血球抗体を検出し得るもののあ ることは事実であるが,その陽性率は一般の輸血 時に比べるとはるかに低率である.Ohら13)は全血 2単位以上を毎週2回使用した時代でも,3ヵ月 (輸血量としてはすでに50単位をこえている)でも 陽性例はなく,その後徐々に陽性率は上昇し,6 ヵ月で17.5%,1年半で59.6%に上昇したとして
いる.Manzlerら正4}, Opelzらi5), Jeannet三6)も同
様の報告をしており,透析中は輸血された白血球 のHLA抗原が認識されにくいのではないかとの 見解も述べられている.Tongio17)も抗体が消失 後,全血輸血を行なっても再び検出し得ない例の あることを報告している.Vorgheseら18), Klatz− mannら19)は尿毒症による免疫抑制を重視する必 要のあることを報告し,Fehrmannら20)は同じ尿 毒症患者でも多嚢胞腎患者では抗体を作りやすい としている. 著者の今回の研究でも,長期透析患者で1年以 降の検査例ではむしろ抗白血球抗体陽性率の低下 する傾向を認めた(6ヵ月以内では25.2%,7カ 月以上1年以内では50%,1年以上では33.3%) (表9).また,長期透析患者で,一旦発生した抗 白血球抗体が消失したように見えることは,著者 も経験していることである(症例4). 6.輸血による免疫抑制 長期透析患者では,輸血.により短期間にT4/T8 比の急低下をみることが,Mohanakumarら21)に よって報告されている.しかし一般の輸血におい ては,Gasconら22), Kaplanら23)が誌面赤血球貧 血,サラセミア,鉄心球性貧血などの患者でNK 活性は輸血量が増すとともに低下するとしてい る.T4/T8比については, Kaplanら23)は低下をみ たとし,Gasconら22)はほぼ正常値を保ったとし ている.また輸血直後に風疹ワクチンを接種する と赤血球凝集抑制(HAI)抗体の上昇が十分でな いことは,Wattsら24), Grillnerら25)によって報告 されている. このような免疫抑制を示す疾患は,悪性腫瘍な どでかなり多くみられる.しかし,がん患者は化 学療法,放射線療法などそれ自体が免疫抑制効果 を伴う処置を受けているものが多く,これらの患 者にみられる免疫抑制に疾患自体がどの位関与し ているかの判定はきわめて困難である. また悪性腫瘍患者に行なった長期の血小板輸血 ではLichtigerら26), Holohanら27)が抗体産生の 抑制を報告している.血小板についてはBorleffs ら28)29),Fouchetら10), Ragniら30)の報告もある.
Mohanakumarら2D, Ellisら31)はbuffy coatと 保存血の輸血によりT4/T8比の低下がみられた ことを報告している. アルブミンについてはCliftら32)が受血者の細 胞性免疫ないし液性免疫に抑制のみられることを 報告している. 静脈注射用免疫グロブリンについては,Nilsson ら33)が血友病Bの抗facter IX抗体について, Junghansら34>, Kekomekiら35>が抗血小板抗体に ついて,それぞれ液性免疫の抑制を思わせる例を 報告している. 著者も長期透析患者を主とする長期輸血曲譜に おいて,1年以降では抗体陽性率がやや低下して くることを観察している(表9).また1ヵ月以上 観察し得た例において,一旦抗白血球抗体が陽性 となった123例のうち,その後2回以上の検査(主 に輸血時)で,引き続き陰性の結果が得られ,再 び陽転することのない例(21例,17.1%)や,そ の後再び陽性化し,一定期間陽性を維持した後に 再度陰性化する例など(8例,6.5%)のあること を見出した(表13,症例1∼5).この現象は,陰 性持続期,陽性持続期における輸血量または輸血
間隔などから,輸血による単純な吸着による陰性 化だけでは説明することができない症例のあるこ とを認め,その数例について経過を明らかにした, このような例においても,原病や長期輸血によ る免疫抑制の発生がかなり影響していることも考 えられる. 輸血が免疫抑制を患者に惹起し得ることについ ては,その機序は未だに不明であるが,それが明 瞭に現われてくるのは免疫機構のまだ完成してい ない幼児,またそれがすでに衰退している高齢者 により多くみられ,尿毒症,臓器移植,悪性腫瘍 など,すでに患者が免疫不全に陥っている場合に 強く表現されることについても十分考えておかな けれぽならない. 我々が輸血の領域で遭遇する抗白血球抗体の産 生には,上述したように, 1)抗原刺激による免疫の発生, 2)頻回輸血による免疫抑制状態の発生, 3)輸血以外の要因(手術,原疾患,化学療法, 放射線療法など)による免疫抑制, など多くの因子が総合的に影響して,その産生を 規制しているものであり,その状況はきわめて複 雑であると考えなくてはならない.以前のように 輸血回数が増えるほど抗白血球抗体の産生は多く なると,単純に考えることは必ずしも正しくない. 以上のごとく,血液および血液成分の投与によ る免疫抑制の発生についてはすでに多くの報告が あり,村上の総説36)37)もある。 著者は本研究で,輸血患者を長期にわたって観 察することにより,その抗白血球抗体の産生や消 長が,多くの因子により制約される極めて複雑な 現象であると考えるに至った. この現象の究明には今後さらに検討が必要であ る. 結 論 輸血を受けた患者5,470例の抗白血球抗体の産 生およびその消長について,Amosのマイクロリ ンパ球細胞毒性試験(LCT)の変法を主とし,一 部比較のためColombaniらの血小板補体結合試 験(CF)を用いて検討し,次のよぢな成績を得た. 1.患者血清量を5μ1使用した.この場合,2μ1使 用時より抗体検出の感度が約1.5倍に上昇した. 2.LCTにより抗白血球抗体が陽性の患者血清 131例中CFでは55例27.8%彰このみ陽性であった (表1). 3.血液疾患を主とする76例の患者血清に対し て,LCTでは35例46.1%に陽性であったが, CF ではわずかに5例6.6%が陽性を示したにすぎな かった(表2). 4.自然流産11例,死産2例,切迫流産1例のう ち,LCTでは9例64。3%に陽性であったが, CF での陽性例はみられなかった(表3). 5.対象とした患者5,470例(男性3,036例,女性 2,434例)中,輸血前にすでに抗体陽性であったも のは208例,3.8%(男性2.8%,女性5.1%)で, 女性に有意に高率であった(表4). 6.輸血前抗体陰性で,追跡1ヵ月未満の1,702 例(男性1,036例,女性666例)中,抗体陽転例は 183例,10.8%(男性7.7%,女性15.5%)であり (表5),輸血後1カ,月以上追跡し得た輸血前陰性 の866例(男性537例,女性329例)中,抗体陽転例 は123例,男性!0.8%,女性19.8%でそれぞれ女性 が有意に高率であった(表6,7). 7.輸血後抗体が陽転した123例の抗体陽転時期 の分布をみると,その66.7%(男性60.3%,女性 72。3%)は3カ,月以内に陽転していた(表8). 8.長期観察例(ほとんどは長期透析患者)では, 1年以上になると抗体陽性率の低下がみられた (表9).これは長期透析と長期輸血による免疫抑 制状態であったことも否定できなかった. 9.1回輸血量:あるいは輸血回数が増加しても 抗体陽性率の上昇傾向は顕著には認められなかっ た.むしろ,輸血回数が11回以上,輸血総量が31 単位以上と多い群では逆に抗体陽性率が低下して いたことから,免疫抑制による可能性が考えられ た(表10). 10.1回大量輸血例において,新鮮血を使用し
た心臓手術例では,2週間以内の抗体発生率
(13.2%)が,それ以外の例(6.0%)より高い傾 向があった(表11,12).これは新鮮血1中のviable な白血球が主な免疫原になることによるものと考 えられた.11.輸血後抗白血球抗体が陽転した123例中29 例(23.6%)はその後陰性化し,その内8例は輸 血を繰り返しているにもかかおらず再び陽性とな り,更に再度陰性化することを繰り返していた(表 13). そのうち,典型的な5症例を示した. なおこのような陰性化は地帯現象によるもので はなかった. このような現象について文献的考察を含めて検 討した結果,原疾患やその治療,長期輸血による 免疫抑制等,多くの因子により制約されている極 めて複雑な現象であるものと考えられた, 稿を終えるにあたり,10余年にわたり終始ご指導を 賜った東京女子医科大学才教授村上省三先生,ご指導 ご校閲いただいた清水 勝教授,ご協力いただいた国 立病院医療センター外科高橋一洋博士,国立熱海病隣 外科梅原誠一医長,安藤 亨医長,麻酔科山根 建医 長,東京女子医科大学輸血部の各位に謹んで感謝の意 を表します。 文 献
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