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スポーツ権とオリンピック・レガシー 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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(1)

著者

谷塚 哲

著者別名

Tetsu YATSUKA

雑誌名

東洋法学

62

3

ページ

375-383

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00010359/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

(2)

《 論  説 》

スポーツ権とオリンピック・レガシー

谷塚 哲

1  スポーツをする権利 1 ― 1  スポーツ権  スポーツ権とは私たち一人ひとりに与えられたスポーツをする権利のことで ある。戦後の日本ではスポーツの在り方について定めたスポーツ振興法(1961 年)に、このスポーツ権に関する文言が直接明記されることはなく、むしろス ポーツ権は憲法における基本的人権の 1 つとして解釈されてきた。一方、欧州 のスポーツ先進国では、体育・スポーツ国際憲章(1978年)の第 1 条に「体 育・スポーツの実践はすべての人にとって基本的権利である」( 1 ) と定められて いるように、昔から人々の権利として認められているものと解釈されていた。  2011年、日本ではスポーツ振興法が全面改正され、スポーツ基本法が施行さ れたことにより、このスポーツ権に注目が集まることになった。なぜならス ポーツ基本法の前文( 2 ) 及び第 2 条(基本理念)( 3 ) には「スポーツをする権利」 に関する記述があり、また第 5 条(スポーツ団体の努力)や第15条(スポーツ に関する紛争の迅速かつ適正な解決)にも「スポーツを行う者の権利利益の保 護」という文言が記述されたからである。  今後、私たちのスポーツ権は、法律に定められた明確な権利として保障され なければならないのである。 1 ― 2  地域スポーツとスポーツ権  日本の地域スポーツ現場において、近年、スポーツをする権利についていく

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つかの問題点が指摘されている。まず一つ目は選手移籍に関する問題である。 地域の少年サッカーチームにおいてアマチュアである少年が他チームに移籍を 希望する場合、現チームの承諾がないと移籍をすることができないというロー カルルールがある。移籍というとプロスポーツなどを思い浮かべるが、これは あくまでも地域の少年サッカーの話であり、アマチュア選手の移籍である。現 チームの承諾ルールが必要な原因として考えられることは、例えば移籍を希望 する選手がチームのエース格であったりする場合、その選手が抜けることで チームが弱くなることが考えられる。それは他チームからの引き抜きかもしれ ない。このような思いからせっかく育てた選手が他のチームに移籍されると困 るといった思いから、暗黙の了解のようにこのような承諾ルールが存在するの である。しかし移籍を希望する理由は単に引き抜きなどの実力的な話の場合だ けではない。例えばチーム内でいじめがある、また何らかの理由でチームに居 づらい場合などもあるだろう。このような場合でも、他チームに移籍するには 現クラブの承諾がなければならないとすることに合理的な理由は見当たらな い。そもそも選手はアマチュアなので、どこでプレーしようが本人の勝手(権 利)であるし、チームに選手を引き留める権利もないはずである。この点にお いて公益財団法人日本サッカー協会(以下「JFA」という)は「サッカー選手 の登録と移籍等に関する規則」の第20条( 4 ) 第 2 項において「本規則の定めによ り移籍元チームが抹消申請をするべきにもかかわらずこれを行わないときは、 本協会は、移籍を希望する選手の申請に基づき移籍元チームの承諾に代わる決 定をなすことができる。」との規定を定めている。この規定に基づけば仮に現 チームが移籍の承諾をしない場合でも、JFA が、現チームの移籍承諾に代わる 決定をすることができるとし、移籍の自由を促している。しかしこのような規 定が必ずしも周知されているわけでもなく、現実に子供たちが移籍できないと いう問題が地域の少年サッカーの現場では起こっているのである。このような アマチュア選手の移籍に関して現チームの承諾有無の是非については、2017年 に実業団スポーツのラグビートップリーグでも一時期話題となったこともあ る( 5 ) 。

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 次に地域のサッカー連盟に登録する際の要件に関する問題がある。一般的に 地域のサッカー連盟に登録しないと公式戦等に出場することができない( 6 ) 。し かしこのような連盟に登録するためには一定の要件を満たす必要がある。その 要件とは例えば公式戦が開催できるグラウンドを提供できること、最終的に連 盟の決議が必要になること、などがある。しかしグラウンドの要件は既に他の チームが提供しているグラウンド(小学校等の公共施設)は、新規チームが提 供することができないという解釈のため、スポーツ施設が少ない現状におい て、結局提供できるグラウンドが無いことによりいつまでたっても新規チーム が連盟に登録することができないということが起こっている。さらに最終的に 登録にあたり連盟(会員)の決議を得る必要がある場合、近隣のチームからし たらライバルチームができることにより、自チームの選手がそちらに流れてし まうかもしれないなどの思いから、加入を承諾しないこともある。このような 要件が、現実的に新規チームにとって参入障壁となり、いつまでたっても新規 チームは登録できない(公式戦に出場できない)といった問題が起こってい る。この問題において現在全国を統括する日本連盟から、新規チームの参入条 件にはいかなる条件を付けてはならないとの指導が来ているが、まだ最終的な 結論が出ていない(2018年11月現在)。正論で考えれば、サッカーがしたくて チームを作るのに、その他の要件でサッカーができない(試合ができない)と いうことはおかしいとの考え方もできる。事実、既存チームが公式試合として 使用している小学校等の公共施設は、その既存チームの専有施設ではなく、そ の地域の者のためにある以上、新規チームもその地域の住民が中心となって作 られたのならば、その施設を使用する権利があるはずである。とはいえ要件を 無条件とすることで、筍のようにサッカーチームが増え、結果、質の悪いチー ムが増え、施設の取り合いになる懸念もある。しかしあまりにも閉鎖的な要件 では地域スポーツの活性化が損なわれ、結果的に参加する子供たちのスポーツ をする権利を侵害する恐れがある。これらはスポーツをする権利と地域のス ポーツ施設状況、さらには地域スポーツ市場全体のバランスが求められる問題 である。しかしこのようなローカルで起こっている問題についても、今後は

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チーム側の理屈だけではなく、子供たちのスポーツ権についても考えていかな ければならないだろう。 1 ― 3  プロスポーツによる移籍等の制限  プロスポーツにおいては移籍に関する様々なルールがある。例えばプロ野球 では、保留制度がある。これは実質選手の移籍を禁止する制度である。この制 度があるためプロ野球球団が保留権を有する選手は、国内国外を問わず、選手 側が他球団に移籍するための契約交渉、練習参加等を行うことはできない。さ らにこの保留権は、球団が保留権を行使すれば、現役中はもちろんのこと、任 意引退後 3 年間は継続することになっている( 7 ) 。またサッカーでは、世界的に 移籍に関する統一ルールがあり、契約期間終了後の移籍は原則自由(フリート ランスファー)であり、移籍金なども発生しない。しかし契約期間中の移籍は 移籍金(損害賠償金)を払わなければならない( 8 ) 。このため有能な選手を引き 留めるには契約期間の長期化、報酬の高額化傾向となり、現在世界のサッカー 界はバブル状態である( 9 ) 。  このようなプロスポーツにおける移籍のルールは、見方によれば選手の移籍 の自由(権利)を無視しているようにも思える。事実この移籍制限により移籍 がかなわなかった選手は過去に多数存在する。しかしプロスポーツの醍醐味は 本来、戦力均衡であることを鑑みると、移籍に一定のルールが無ければ資金力 があるチームばかりが有能な選手を獲得し、一強となればプロスポーツ興行自 体の価値が損なわれることになる。戦力均衡を維持するためにはある程度、こ のような制限があることは合理的であるとの見解が一般的である(10) 。 2  スポーツ権に対する日本スポーツ界の取り組み 2 ― 1  ガバナンス・コンプライアンス、スポーツインテグリティ  スポーツ基本法ではスポーツを行う者の権利や利益を保護するために国や地 方公共団体、そしてスポーツ団体等の責任について定めている。特に第 5 条で はスポーツ団体の努力としてスポーツをする者の権利利益の保護以外にも、心

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身の健康の保持増進及び安全の確保、スポーツ団体の運営の透明性の確保、事 業活動に関し自らが遵守すべき基準の作成、スポーツに関する紛争について、 迅速かつ適正な解決に努めること、などが求められている。いわゆるスポーツ 団体のガバナンス・コンプライアンスについて定めている。さらに第 2 期ス ポーツ基本計画(2017)では、スポーツインテグリティという言葉が使われる ようになり、独立行政法人日本スポーツ振興センターの HP によれば、スポー ツインテグリティとは、スポーツが様々な脅威により欠けるところなく、価値 ある高潔な状態を指す。今後私たちは、八百長や違法賭博、ガバナンス欠如、 暴力、ドーピング等の様々な脅威から、Sport Integrity(スポーツにおける誠実 性・健全性・高潔性)を守る取組をしていかなければならない。このような取 り組みは、結果としてスポーツをする者の権利利益を保護することにつながる のである。 2 ― 2  公益財団法人日本スポーツ仲裁機構  スポーツ基本法では、第 5 条(スポーツ団体の努力)第 3 項、及び第15条 (スポーツに関する紛争の迅速かつ適正な解決)において、スポーツに関する 紛争についての記述がある。スポーツに関する紛争とは様々なものがあるが、 例えば代表選考による選考基準が不透明であるためその選考のやり直しを求め ることや、移籍のトラブル、ドーピング検査の結果の処分に対する不服などが 挙げられる。従来このようなトラブルが必ず解決されてきたかといえば、必ず しもそうではない。結局、選手側が泣き寝入りするようなケースも少なくな かった(11) 。そこでこれらの諸問題を解決するために設立されたのが、公益財団 法人日本スポーツ仲裁機構(以下「JSAA」という)である。  スポーツに関する紛争は、必ずしも法律上の問題ではない場合も多く、裁判 所で取り扱えないケースも多い。また裁判では解決までに長い時間を要するこ とも少なくない。このようなスポーツ界の紛争に関して、選手が競技に打ち込 みやすい環境を作るために JSAA は設立されたのである(12) 。またスイスのロー ザンヌには、スポーツ仲裁裁判所も存在し、世界で起こるスポーツ紛争の解決

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に努めている(13) 。  このように今日ではスポーツに関する紛争解決手段が存在し、今日までも 様々な問題を解決している。けしてスポーツ選手が泣き寝入りする時代ではな い。このような時代の流れにより、スポーツ選手たちは自らの権利についての 意識がますます高くなったと言えるだろう。その点、スポーツ団体側もスポー ツ権に対する考え方をより一層、真剣に考えていかなければならないのであ る。 3  2020年以降の日本のスポーツ界 3 ― 1  オリンピック・レガシー  2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催の決定を受け、日本のス ポーツ界に大きな期待と注目が高まっている。しかし近年、度重なるスポーツ 団体の不祥事が続き、スポーツへの信頼は崩れ落ちている。このような一連の 不祥事は日本のスポーツ界にとっては大きなマイナスである。超党派のスポー ツ議員連盟が設置した有識者会議では、順守すべき組織運営規定を国が策定 し、競技団体がそれを満たしているかどうかを第三者機関が審査する仕組みを 検討しているという(14) 。このままでは2020年以降の日本のスポーツ界は危う い。正直、2020年までは国を挙げてスポーツは前に進むだろうが、それ以後は 分からない。少なくとも今まで以上の支援は期待できないと覚悟しておいた方 がよいだろう。そこで重要なことは国際オリンピック委員会(以下「IOC」と いう)が掲げるオリンピック・レガシー(15) である。この言葉が意味しているも のは、2020年大会の開催が後世に語り継がれる素晴らしい大会でなければなら ないということである。私たちは東京でオリンピック・パラリンピックを開催 してよかったと言われる大会にしなければならない。そしてオリンピック・レ ガシーの 1 つにスポーツ団体のガバナンス、コンプライアンス、さらにはス ポーツインテグリティがある。これらが2020年東京大会の開催により一層、日 本スポーツ界で意識されたと評価される大会としなければならないのである。

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3 ― 2  スポーツとは  スポーツとは本来、「遊び」や「気晴らし」といった意味があると言われて いる(16) 。それは誰に規制されるものではなく、誰もが自由にすることができる ものである。一方で教育の中でスポーツが形作られてきた日本において、ス ポーツは厳しい、一部の上手な人だけのものという認識が根付き、いつの日か ら勝利至上主義が当たり前となっていた。教育や勝利至上主義の中でするス ポーツの構図には大抵、主従関係があり、スポーツを「やらされている」こと も少なくない。スポーツ本来の意味を考えれば、スポーツはけしてやらされる ものではなく、自ら楽しんでするものである。  2018年 4 月には公益財団法人日本体育協会が日本スポーツ協会に名称を変更 した。これは体育からスポーツへの移行において重要なことである。今後、体 育からスポーツへの意識の変化が必要な時代となってくるだろう。 3 ― 3  After 2020  After 2020という言葉がある。東京オリンピック・パラリンピック開催後の 2020年以降、日本のスポーツ界がどのようになるのか? ということである が、けしてポジティブな使われ方ではない。むしろ心配する声の方が多い。  2011年にはスポーツ基本法が施行され、その後2012年にはスポーツ基本計 画、2017年には第 2 期スポーツ基本計画がスタートしたことにより、日本のス ポーツ界は大きく動き始めた。そのきっかけはやはり2020年東京オリンピッ ク・パラリンピックの開催が契機といっても過言ではない。そしてあらためて スポーツ権という言葉を意識し、少しずつであるが日本のスポーツ界にも変化 が起こり始めている。この2020年は日本のスポーツ界が大きく変わる最大の チャンスである。このチャンスを活かすも殺すも私たち自身の行動にかかって いる。私たちは権利(スポーツ権)を得た以上、義務もしっかりと果たさなけ ればならないことを忘れてはならない。  2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催は、単なる世界的なスポー ツの祭典ではない。2020年以降、新しい日本のスポーツ界のスタートの時なの

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である。 (参考文献) スポーツ基本法 2018年11月28日閲覧 公益財団法人日本サッカー協会 HP 2018年11月28日閲覧 ラグビートップリーグ HP 2018年11月28日閲覧 一般社団法人日本プロ野球選手会 HP 2018年11月28日閲覧 公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 HP 2018年11月28日閲覧 株式会社三菱総合研究所 HP オリンピック・レガシーとはなにか 2018年12月 3 日閲覧 スポーツ庁 Web 広報マガジン DEPORTARE 2018年12月 3 日閲覧 注 ( 1 ) 1978年:ユネスコ第20回総会 ( 2 ) 「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり」 ( 3 ) 「スポーツは、これを通じて幸福で豊かな生活を営むことが人々の権利であることに 鑑み」 ( 4 ) 第20条〔移籍の手続き〕 1 .選手が移籍を希望する場合、当該選手は、移籍元チーム から登録抹消され、移籍先チームが登録申請をし、本協会の承認を得なければならな い。 2 .本規則の定めにより移籍元チームが抹消申請をするべきにもかかわらずこれを 行わないときは、本協会は、移籍を希望する選手の申請に基づき移籍元チームの承諾に 代わる決定をなすことができる。 ( 5 ) 移籍に関する問題は、ラグビートップリーグにおいて「移籍承諾書が無い場合、移籍 後 1 年間試合をすることができない」という趣旨の条項について公正取引委員会から、 ラグビー分野における人材市場の実態について知見を伺いたいとの公正取引委員会から の要請があり、リーグが規約等の情報提供の協力をした事実があった(2017年 7 月)。 http://www.top-league.jp/2017/07/18/news0718/ ( 6 ) 現実的に地域連盟等に加盟しなくても公式戦に出場できる方法はある。 ( 7 ) この保留制度の例外として FA 制度がある。また海外移籍に関してはポスティングシ

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ステムがある。 ( 8 ) 欧州で行われた1995年ボスマン判決がきっかけとなり、その後移籍に関するルールが 統一された。 ( 9 ) 移籍は夏と冬の 2 回で行われる。異常なまでの移籍金にそろそろ限界が来ているとの 噂もある。 (10) ドラフト制度、サラリーキャップ制度なども戦力均衡においては必要とされている。 (11) 選考基準が明らかでないことが当たりまえであったり、監督、コーチ、協会などに逆 らうことができなかった。 (12) JSAA には 4 つの仲裁と調停がある。①スポーツ仲裁規則②ドーピング紛争に関する スポーツ仲裁規則③特定仲裁合意に基づくスポーツ仲裁規則④加盟団体スポーツ仲裁規 則と特定調停合意に基づくスポーツ調停(和解あっせん)規則 (13) 国際オリンピック委員会(IOC)は迅速な裁定ができるよう1983年にスポーツ仲裁裁 判所(CAS)を設立し、翌1984年に活動を開始。 (14) 2018年10月16日 SANSPO. COM「続発する競技団体不祥事…審査の仕組みを議連が 検討、国がガバナンス規定策定も」 (15) 長期にわたる、よりポジティブな影響 (16) ラテン語で Deportare(デポルターレ)が語源。運び去る、運搬するの意。義務からの 気分転換、元気の回復、仕事や家事といった日々の生活から離れる、気晴らしや遊び、 楽しみ、休養といった意味を指す。 ―やつか てつ・東洋大学法学部助教―

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