歩行している交通弱者の存在を認知することによって
運転行動がどのように変化するか
― 平成 26 年度(本報告)
ISSN 2185-8950
タカタ財団助成研究論文 ―
研究代表者
徳田克己
研究実施メンバー
研究代表者
筑波大学 医学医療系
報告書概要
道路交通法には,交通弱者がいる場合にドライバーは一時停止や徐行をして,その通行 を妨げないようにすることと定められている.これまで,ドライバーが交通弱者に気づい た時にどのような運転行動をとるのか,交通弱者の保護についてどのような認識をもって いるか,交通弱者はいかなるニーズをもっているかを明らかにした研究はない.本報告書 では,これらの点を明らかにするために実施した調査と実験の結果をまとめた. 自動車運転者対象の調査(2 章)では,視覚障害者とすれ違う際に速度をかなり落とす か停まる者が87%,間隔をかなり空ける者が 61%であった.幼児連れの親子については, 速度をかなり落とすか停まるとした者は 69%であったが,間隔をかなり空ける者は 48% であった.車いす使用者については速度をかなり落とすか停まる者が65%,間隔をかなり 空ける者が55%であった.実験(5 章および 6 章)においても,視覚障害者とすれ違う際 にドライバーが速度をかなり落とし,大きく迂回して避けている様子が観察された.また, 視覚障害者とすれ違い際には一時停止する車両もあった. 一方,交通弱者への調査(3 章)からは,視覚障害者がすれ違う際の速度と間隔に配慮 してほしいが,一時停止や近くで警笛を鳴らすことは止めてほしいと思っていることが明 らかになった.また,車いす使用者や ADHD の子どもをもつ母親も,速度を落とすだけ でなく間隔を大きく空けることを望んでいることが明らかになった. 1目 次
第1 章 問題の所在と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.1 交通弱者における移動上の問題 1.2 運転教本における「交通弱者の保護」の扱われ方 1.3 本研究の目的 第2 章 自動車運転者に対する質問紙調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.1 目的 2.2 方法 2.3 結果と考察 第3 章 交通弱者に対するヒアリング調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3.1 目的 3.2 方法 3.3 結果と考察 第4 章 プロドライバーに対するヒアリング調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4.1 目的 4.2 方法 4.3 結果 第5 章 ドライバーと歩行者のすれ違い実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5.1 目的 5.2 方法 5.3 結果 第6 章 公道での観察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6.1 目的 6.2 方法 6.3 結果 第7 章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7.1 結果のまとめ 7.2 総合的考察 文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 7 19 28 30 34 37 40 2第
1 章 問題の所在と目的
1.1 交通弱者における移動上の問題 ①交通弱者とは 一般的に「交通弱者」には 2 通りの解釈がある.一つは「交通事故に遭いやすい特性が あり,交通安全上,周囲による配慮が必要とされる者」を指し,もう一つは「運転免許を 保持していない,あるいは公共交通機関が発達していない地域に住んでいるなどの理由か ら,移動に制約がある者」を指す.本稿の「交通弱者」は前者の解釈を使用する. なお,「交通の方法に関する教則」によると,交通安全上,周囲による配慮が必要とされ る者の中には,視覚障害者,車いす使用者,高齢者,乳幼児が含まれている. ②視覚障害者の移動上の問題 徳田・新井・松村・長岡・望月(1999)が視覚障害者を対象に行った調査によると,全 盲者の 35%および弱視者の 17%がけがを伴う交通事故に遭った経験があり,そのほとん どが屋外を歩行する際に走行中の自動車や違法駐車をしている自動車と接触していること が明らかになっている.また,安部・橋本(2005)が視覚障害者に行った調査によると, 視覚障害者が屋外歩行の際に歩きづらいと感じる道路として,障害物の多いところや工事 現場,凸凹のある道,歩車道の区別がないところなどが挙げられていた.視覚障害者は, 迷った時や歩きにくい場所を移動する際に事故に遭う可能性が高く,このような場所で事 故に遭いやすいと考えられる. そもそも,視覚障害者が安全に歩行するためには,本人の歩行能力,道路等の環境,周 囲の配慮の 3 者が必要であると言われている(芝田,2007).視覚障害者が安全に歩行を するためには,周囲が視覚障害者の歩行特性を知り,事故を起こさない配慮が必要となる. 特に,道路環境が整っていない場所では,自動車が徐行をしたり,違法駐車をしないとい う周囲による配慮が必要になると言える. ③車いす使用者の移動上の問題 徳田・松村・水野・小宮(2001)は,車いす使用者が歩道上にある店の立て看板,バス 停の停車場名や時刻表を記した看板,車止めの柵やポール,駐輪自転車,歩道に乗り上げ 駐車している車両などに通行を妨げられることがあるとしている.最近では,歩きながら 携帯やスマートフォンを操作する者が増えており,歩きスマホが車いす使用者の通行の妨 げとなっているという報告もある(富樫,2008).このように,歩道の有無や歩道幅だけ でなく,歩道に障害物(ひとを含む)があることによって,車いす使用者が歩道を通行で きずに車道を通行しなくてはならないことがある. 加えて,車いすはその構造上,歩道の路面が車道側に向って下がるような横の傾き(横 断勾配)に弱い(写真1-1).車いすは,左右の後輪が同じ方向に平行に進むように固定さ れている.そのため,横断勾配のある歩道を通行しようとすると,車輪が坂を転がって車 道に飛び出したり,後輪の片方が路面から浮いてバランスを崩し,車道側に倒れたりする 3写真1-1.横断勾配と車いす使用者 写真 1-2.横断勾配により車道側に倒れる車いす使用者 ことになるのである.写真 1-2 は,実際に横断勾配部で車いす使用者がバランスを崩して 車道側に倒れ,走行車両と接触するという事故が起こった場所で,その時の状況を再現し たものである. ④高齢者の移動上の問題 高齢者は,加齢にともなう筋力やバランス機能,視機能,認知機能の低下,関節等の変 形,姿勢の変化などにより,歩行に支障が出ることがある.金・久野・相馬・増田・足立・ 西嶋・石津・岡田(2000)は 60~70 歳あたりを境に,歩行能力は顕著に低下するとして いる.特に,バランス機能が低まっている状態では,障害物をうまく避けることができず, 転倒リスクが高まることが指摘されている(島村・高柳・金村・国分・安彦・安彦,2013; 相馬・村田・岩瀬・村田・上城・久保・江渡,2014 など). 竹嶋(2007)は高齢者が歩いて移動する際の物理的バリアについて調査を行っており, その結果から,高齢者が不便を強く感じる歩道の状態とは車道と分離されていないこと, 幅が狭いこと,自転車が走っていること,障害物でふさがっていることであることを明ら かにしている.また竹嶋(2007)は,自動車が速度を出して走行している道路や路面に凹 凸のある道路においても不便を感じている者が多くいることを確認している.室永・両角 (2004)は高齢者の外出行動を分析し,その結果から,歩道が整備されていたとしても自 動車の交通量が多く,高齢者が危険を感じる通りは高齢者の外出を狭めたり減らしたりす る要因となりうるとしている.高齢者は,危険を回避する動作をすばやくとることが難し く,また,危険回避のために身体の動きを変化させた場合にバランスを崩して転倒する不 安をもっている.そのために,速度の速い自動車や自転車に恐怖を感じるのだと推察され る. 歩行に何らかの障害があって杖や歩行補助車(写真 1-3)などの補助具を使用している 高齢者は,上述のバリアをより強く感じていると言える.安心院・徳田・水野(2010)は, 歩行補助車使用者の約 2 割が転倒あるいは転倒しそうになった経験をもっていること,彼 らの多くは段差や坂道でバランスを崩していること,歩行者と接触あるいは接触しそうに 4
なった経験のある者が 2 割弱,走ってきた自転車と接触あるいは接触しそうになった経験 のある者が約2 割いることを明らかにしている.北島(2013)は,データベース「福祉用 具ヒヤリ・ハット事例検索」の分析より,補助具の使用中のバランスの崩れが転倒するリ スクにつながること,歩行補助車についてはキャスタの引っかかりによる転倒リスクがあ ることを指摘している. 写真 1-3.高齢者が使用する歩行補助車(シルバーカー)の例 ⑤ベビーカー使用者,子どもを持つ保護者の移動上の問題
Mizuno & Tokuda(2010)がベビーカー使用者を対象に屋外を歩行する際に感じるバリ アについて尋ねた調査によると,凸凹のある道や歩道上の段差,側溝の蓋,点字ブロック といった突起物やへこみがある箇所でベビーカーの車輪がひっかかって困った経験をして いる者が多いことが確認されている.その際に,「歩道と車道の間の段差でベビーカーの車 輪がひっかかって倒れ,曲がってきた車とぶつかりそうになった」「歩道の凸凹にベビーカ ーの車輪がひっかかって,子どもが飛び出しそうになった」という回答が挙がっていた. このことより,段差や凸凹等がある場所では,ベビーカー使用者が立ち往生するだけでな く,ベビーカーごと横方向に転倒する可能性や子どもがベビーカーから飛び出してしまう 危険性があることが示唆された. また,「交通の方法に関する教則」によると,子どもは「興味をひくものに夢中になり, 突然路上に飛び出したり,判断力が未熟なために,無理に道路を横断しようとしたりする ことがあるので,特に注意しましよう」と記されている.このように,幼児は車道に飛び 出してしまう可能性がある.特に,ADHD 衝動型の幼児は,目の前に自分の興味や関心の ある事柄があったり,ふと頭に思い浮かんだことがあると,周囲を見渡すことなく,突然, 行動を起こしてしまう特性があることから,自動車と接触する可能性が高いと言える. 1.2 運転教本における「交通弱者の保護」の扱われ方 自動車運転免許取得のための教習において用いられている教本には,警察庁交通局が発 行している『交通の教則』,全日本指定自動車教習所協会連合会が発行している『安全運転 の知識』,各出版社が発行している学科教本および運転教本がある.西館・水野・黄金井・ 徳田(2006)が『交通の教則』,『安全運転の知識』,3 社から発行されている学科教本およ び運転教本を対象に行った分析によると,『安全運転の知識』を除くすべての教本に障害に 5
関する内容が掲載されていたと言う.具体的に,『交通の教則』には「自動車の運転の方法」 という項目において,歩行者としての身体障害者の保護や身体障害者標識をつけた車の保 護の必要性が記され,「特集:現代社会の交通事情」という項目の中で障害者用駐車スペー スに一般車両が駐車してはいけない理由が記されていた.また,学科教本については,3 社とも歩行している障害者の保護や,身体障害者標識をつけた車の保護に関する内容を掲 載していた.なお,1 社の学科教本にのみ,これらに加えて障害者のバリアとなる路上駐 車に関する内容が掲載されていた. 歩行している障害者の保護に関する内容が学科教本に必ず掲載されるのは,道路交通法 第71 条 2 に「身体障害者用の車いすが通行しているとき,目が見えない者がつえを携え, 若しくは盲導犬を連れて通行しているとき,耳が聞こえない者若しくは政令で定める程度 の身体の障害のある者がつえを携えて通行しているとき,又は監護者が付き添わない児童 若しくは幼児が歩行しているときは,一時停止し,又は徐行して,その通行又は歩行を妨 げないようにすること」,第71 条 2 の 2 に「前号(第 71 条 2)に掲げるもののほか,高齢 の歩行者,身体の障害のある歩行者その他の歩行者でその通行に支障のあるものが通行し ているときは,一時停止し,又は徐行して,その通行を妨げないようにすること」と定め られているためである.この規定に基づき,歩行している障害者の保護に関する内容は, 学科教習第 1 段階の 8「歩行者の保護など」において扱われている.たとえば A 社出版の 教本には「車は,つぎのような場合には,一時停止か徐行をして,これらの人が安全に通 行できるようにしなければなりません.①こどもがひとりで歩いている場合.②身体障が い者用の車いすで通行している人がいる場合.③白か黄のつえをもった人が歩いている場 合.④盲導犬を連れた人が歩いている場合.⑤上記のほか,通行に支障のある人(つえや 歩行補助車などを使っている高齢者,視覚障がいや聴覚障がい,肢体不自由などの障がい のある人,松葉づえをついている人,妊産婦など)が通行している場合.こどもの場合は, 興味をひくものに夢中になり突然路上に飛び出したり,判断力に欠けるため無理に道路を 横断しようとすることがあるので,特に注意しましょう.」と記されている. 1.3 本研究の目的 現在,日常的に運転をしている者は,運転中に高齢者,車いす使用者,視覚障害者,幼 児などの交通弱者とすれ違う際に,健常者が歩行している場合とは異なる運転行動をとっ ているのか,どのような行動が望ましいと考えているかを明らかにする.また,歩車道の 区別のない比較的狭い道における実験を通して,シルバーカーを使用している高齢者,車 いす使用者,白杖歩行の視覚障害者,母親に連れられている幼児などの交通弱者および健 常者とすれ違った時の,ドライバーの運転行動を明らかにする.加えて,視覚障害者や車 いす使用者,高齢者,幼児連れの保護者などが,ドライバーに対してどのような運転行動 をとることを望んでいるかを明らかにする. これらの結果より、交通弱者とすれ違う際に、ドライバーはどのような点に気をつけ、 どのように行動する必要があるかについて、具体的な提案を行う。 6
第
2 章 自動車運転者に対する質問紙調査
2.1 目的 日常的に自動車運転をしている者を対象に,運転中に高齢者,車いす使用者,視覚障害 者,幼児などの交通弱者が車の前方を歩行している際に,健常者が歩行している場合とは 異なる運転行動をとって事故を未然に防ごうとしているのか,また具体的にどのような運 転行動の変化があるのかについて明らかにする. 2.2 方法 ①調査対象者 日常的に自動車を運転している,20 歳以上の成人 1350 名に依頼し,986 名から回答を得 た(回収率 73%).そのうち,自動車運転の頻度についての回答がなかった者の回答を除 外し,933 名を分析対象とした. 性別の内訳は,男性742 名,女性 143 名,無回答 48 名.運転歴の内訳は,1~5 年 87 名, 6~20 年 457 名,21 年以上 368 名,無回答 21 名.自動車運転の頻度の内訳は,「ほぼ毎日」 809 名,「週に 3~5 回」78 名,「週に 1~2 回」46 名であった. ②調査手続き 全国に営業所,支社を持ち,営業等で外勤をする職員を多く持つ企業 4 社に依頼し,全 国各地の営業所,支社に勤務する社員に質問紙調査の回答を求めた.質問紙は,対象者の 在籍する事業所に対して質問紙を郵送(一部はデジタル配信)し,対象者に手渡してもら った.記入された質問紙は事業所単位で集められた.なお,質問紙は無記名式,自記式で あり,回答所要時間は約15 分間であった.調査は平成 26 年 6~8 月に実施された. ③調査内容 性別などの属性に関する内容4 項目,いろいろな属性を持つ 8 種類の歩行者が前方から 歩いてきた場合の実際の運転行動について,それぞれ3 項目(速度,警笛の有無,間隔, 選択式),いろいろな属性を持つ歩行者が前方から歩いてきた場合の望ましい運転行動につ いて,それぞれ 3 項目(速度,警笛の有無,間隔,選択式)の計 32 項目で構成された. なお,いろいろな属性を持つ8 種類の歩行者とは,1)幼児の手を引いた親子連れ(以下, 幼児連れ親子),2)幼児(4 歳ぐらい)の一人歩き(以下,一人歩きの幼児),3)シルバ ーカーを使用する高齢者(以下,シルバーカー高齢者),4)自転車に乗っている高齢者(以 下,自転車高齢者),5)車いす使用者,6)白杖を使用している視覚障害者(以下,視覚障 害者),7)歩きスマホをしている人(以下,歩きスマホ者),8)通常の歩行者であった. ④倫理的配慮 得られた質問紙調査結果については,筆者ら以外の第三者の目に触れないようにした. 回答は全て電子データ化され,統計的に処理された.匿名性を確保するために性別,年齢 等の属性は全て数値化された.質問紙との連結不可能匿名化電子ファイルとして USB メ モリに保存し,その USB メモリは,大学内で筆者らのみが施錠・解錠可能なファイルマ スター内に保管した. 7研究データ処理に使用するパソコンについては,最新のセキュリティプログラムをイン ストールしてあり,ネットワークに接続してあるパソコンを用いた.電子データは,研究 終了後に専用ソフトを用いて消去する.回答後の記録用紙及び質問紙は,研究終了後シュ レッダーにより粉砕破棄する.本調査は筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認を得て 実施された(承認番号844). 2.3 結果と考察 (1)実際の運転行動 ①すれ違う際の速度 調査対象者が自動車を運転している際に,歩車道の区別のない道の端を進行方向の前方 から調査対象者の方向に向かっていろいろな特徴のある人が歩いてくる場面を思い出して もらい,それぞれの歩行者とすれ違う場合に,速度に関してどのような運転行動をしてい るかを「停まる」「かなり落とす」「少し落とす」「特に何もしない」のいずれかから選択し てもらった(図2-1). 図 2-1 を見ると,「停まる」あるいは速度を「かなり落とす」という配慮をした運転行動 が最も多かったのは一人歩きの幼児であった.次いで視覚障害者,幼児連れの親子であっ た.「停まる」だけに着目すると,一人歩きの幼児と視覚障害者は2 割を超えていた.幼児 連れの親子に関しては,「かなり落とす」を6 割以上の者が選択しており,速度に配慮をし ていることが確認できたが,一人歩きの幼児よりは「停まる」を選択する者が少なかった. また,自転車高齢者,シルバーカー高齢者,車いす使用者に関しても半数以上の者が「か なり落とす」を選択していた.車いす使用者に関しても速度対応をしている者が多かった が,視覚障害者よりは「停まる」を選択していなかった. 表 2-1 には,性別の違いでみるすれ違う際の速度を示した.表によると,車いす使用者 (χ2(3)=9.75,p<0.05),自転車高齢者(χ2(3)=7.83,p<0.05),シルバーカー高齢 者(χ2(3)=10.17,p<0.05)に有意な差が認められた.男性の方が,車いす使用者や高 齢者とすれ違う際に,「かなり落とす」という運転行動をしており,女性は「少し落とす」 程度であった.回答者本人の速度の感覚で回答しているため,実際の速度とは必ずしも一 致していない可能性があるが,男性の方がこれらの歩行者とすれ違う際に,通常よりも速 度を極端に落とすという意識で運転していることが推測される. また,女性は運転歴が長い者がいなかったことから,男性について,運転歴(5 年以下, 6 年~20 年,21 年以上)によって,速度に違いがみられるかを検討した(表 2-2).なお, 一人歩きの幼児,歩きスマホ者に関しては,セル内に0 が含まれていたため,χ2検定を行 うことができなかった.表 2-2 によると,運転歴による違いが認められたのは「幼児連れ の親子」のみであった(χ2(6)=13.70,p<0.05).運転歴が 5 年以下の回答者は,運転歴 が長い回答者と比べて,「停まる」「かなり落とす」を選択した者が少なく,「少し落とす」 と回答する者が多かった.ベテランのドライバーは,保護者が一緒にいても幼児の場合に は「停まる」「かなり落とす」という配慮が必要であると経験から感じていると判断できる. 8
図2-1.特徴のある歩行者のいる場合の実際の運転行動:すれ違う際の速度(N=933) 表2-1.性別の違いでみる特徴のある歩行者のいる場合の実際の運転行動:すれ違う際の速度 性別 停まる かなり 落とす 少し 落とす 何も しない χ2値 一人歩きの幼児 男性 24% 64% 6% 6% 6.92 女性 19% 61% 12% 8% 白杖使用の 視覚障害者 男性 25% 54% 11% 10% 4.63 女性 19% 52% 16% 13% 幼児連れの親子 男性 8% 24% 62% 6% 2.42 女性 9% 30% 53% 7% 車いす使用者 男性 14% 53% 21% 12% 9.75* 女性 13% 41% 31% 15% 自転車乗車の 高齢者 男性 10% 57% 21% 12% 7.83* 女性 11% 45% 29% 15% シルバーカー 使用の高齢者 男性 10% 56% 24% 10% 10.17* 女性 7% 44% 34% 15% 歩きスマホを している人 男性 3% 32% 41% 24% 4.23 女性 2% 27% 39% 32% 通常の歩行者 男性 1% 13% 57% 29% 7.44 女性 2% 18% 44% 36% *:p<0.05 %の母数は男性742 名,女性 143 名 2% 3% 9% 10% 14% 8% 23% 23% 14% 31% 54% 55% 51% 61% 54% 63% 54% 40% 26% 23% 23% 25% 12% 7% 30% 26% 11% 12% 12% 6% 11% 7% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 通常の歩行者 歩きスマホをしている人 シルバーカー使用の高齢者 自転車乗車の高齢者 車いす使用者 幼児連れの親子 白杖使用の視覚障害者 一人歩きの幼児 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 9
表2-2.運転歴の違いでみる特徴のある歩行者のいる場合の実際の運転行動(男性のみ) :すれ違う際の速度 運転歴 停まる かなり 落とす 少し 落とす 何も しない χ 2値 一人歩きの幼児 5 年以下 17% 73% 10% 0 - 6~20 年 25% 63% 6% 6% 20 年以上 25% 61% 6% 8% 白杖使用の 視覚障害者 5 年以下 18% 65% 11% 6% 5.53 6~20 年 25% 53% 12% 10% 20 年以上 25% 53% 10% 12% 幼児連れの親子 5 年以下 4% 58% 36% 2% 13.70* 6~20 年 10% 64% 22% 5% 20 年以上 7% 62% 23% 8% 車いす使用者 5 年以下 12% 56% 24% 8% 10.42 6~20 年 14% 49% 25% 12% 20 年以上 13% 58% 16% 13% 自転車乗車の 高齢者 5 年以下 8% 61% 26% 6% 6.93 6~20 年 11% 56% 23% 10% 20 年以上 10% 58% 19% 14% シルバーカー使用 の高齢者 5 年以下 6% 29% 59% 6% 5.36 6~20 年 10% 26% 54% 10% 20 年以上 11% 21% 57% 11% 歩きスマホを している人 5 年以下 0 23% 48% 29% - 6~20 年 3% 34% 39% 24% 20 年以上 3% 33% 41% 23% 通常の歩行者 5 年以下 1% 9% 61% 29% 6.71 6~20 年 1% 16% 56% 27% 21 年以上 1% 11% 56% 32% *:p<0.05 %の母数は5 年以下 66 名,6~20 年 361 名,21 年以上 312 名 ②警笛の有無 表 2-3 には,男女別にみた警笛の有無を尋ねた結果を示した.表によると,歩きスマホ 者には全体で約1 割の人が警笛を鳴らしていた.Fisher の直接確率検定を用いて性別の比 較をしたところ,5%水準で有意な差が認められ,男性の方が女性よりも歩きスマホ者に警 笛を鳴らしていることがわかった. ただし,警笛鳴らす割合は,歩きスマホ者以外は全体的に非常に少なく,性差も認めら れなかった. 10
表2-3.特徴のある歩行者のいる場合の実際の運転行動:警笛を鳴らす割合 全体 男性 女性 p値 歩きスマホをしている人 11% 12% 6% 0.021 視覚障害者 2% 2% 2% n.s. 自転車高齢者 1% 1% 2% n.s. 通常の歩行者 1% 1% 0.7% n.s. 一人歩きの幼児 0.6% 0.8% 0 n.s. シルバーカー高齢者 0.5% 0.7% 0 n.s. 幼児連れの親子 0.3% 0.4% 0 n.s. 車いす使用者 0.3% 0.3% 0 n.s. %の母数は933 名,男性 742 名,女性 143 名 ③歩行者との間隔 図 2-2 には,調査対象者が実際に運転している際に,それぞれの歩行者とすれ違う場合 に,間隔をどの程度空けるかを尋ね,「かなり空ける」「少し空ける」「空けない」のうちか ら選択してもらった結果を示した.図2-2 によると,「かなり空ける」を選択した割合が最 も高いのが一人歩きの幼児,次いで視覚障害者であり,速度と同様に一人歩きの幼児,視 覚障害者に配慮する割合が高いことが確認できた. また,通常の歩行者に対して「かなり空ける」と答えた者が19%であったことを考える と,自転車高齢者(60%),車いす使用者(55%),シルバーカー高齢者(52%),幼児連 れの親子(48%)に対しては通常の歩行者よりも意識して「かなり空ける」行動をとって いる者が多いことがわかる. 表 2-4 には,性別によって,実際の運転行動の際の空ける間隔に違いがあるのかどうか を確かめた結果を示した.表より,性別の違いが認められたのは一人歩きの幼児のみであ り(χ2(2)=9.33,p<0.01),男性の方が「かなり空ける」を選択した者が多いことが確 認できた. なお,男性について,運転歴によって空ける間隔に差があるかどうかを確かめたところ, どの歩行者に対しても,差は認められなかった. ④速度と歩行者との間隔の関係 歩行者への配慮としては,速度と歩行者との間隔の両面からの対応が必要である.そこ で,速度と歩行者との間隔への配慮がどのように関連しているのかを明らかにしたいと考 えた.「速度」に関する配慮した行動を「停まる」および「かなり落とす」を選択した者, 「間隔」に関する配慮した行動を「かなり空ける」を選択した者として,「速度」と「間隔」 の関連において配慮していない者の割合を表 2-5 に示した.具体的には,実際に運転する 際に,「速度」に関しては「停まる」「かなり落とす」を選択したが,「間隔」に関しては「空 けない」「少し空ける」と答えた者,「距離」に関しては「かなり空ける」を選択したが「速 度」に関しては「何もしない」「少し落とす」と答えた者,「速度」も「間隔」もどちらも 特に配慮をしていない者の割合が示されている. 11
図2-2.特徴のある歩行者のいる場合の実際の運転行動:間隔(N=933) 表2-4.性別の違いでみる特徴のある歩行者のいる場合の実際の運転行動:間隔 性別 かなり空ける 少し空ける 空けない χ2値 一人歩きの幼児 男性 65% 8% 27% 9.33** 女性 58% 17% 25% 白杖使用の視覚障害者 男性 61% 10% 29% 5.10 女性 57% 16% 27% 自転車乗車の高齢者 男性 61% 16% 23% 2.08 女性 57% 20% 23% 車いす使用者 男性 56% 18% 26% 0.56 女性 53% 20% 27% シルバーカー使用の 高齢者 男性 53% 22% 25% 3.35 女性 50% 28% 22% 幼児連れの親子 男性 49% 25% 26% 3.69 女性 45% 32% 23% 歩きスマホをしている人 男性 34% 34% 32% 3.80 女性 28% 42% 30% 通常の歩行者 男性 20% 43% 37% 1.26 女性 17% 48% 35% **:p<0.01 %の母数は男性742 名,女性 143 名 19% 33% 48% 52% 55% 60% 61% 63% 44% 35% 26% 23% 18% 16% 11% 10% 37% 32% 26% 25% 27% 24% 28% 27% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 通常の歩行者 歩きスマホをしている人 幼児連れの親子 シルバーカー使用の高齢者 車いす使用者 自転車乗車の高齢者 白杖使用の視覚障害者 一人歩きの幼児 かなり空ける 少し空ける 空けない 12
表によると,「速度も間隔も配慮しない」行動をする人は,通常の歩行者や歩きスマホ者 に比べると,幼児,障害者,高齢者に対しては少なく,配慮した運転行動をしていると言 える. しかし,「速度に配慮するが,間隔に配慮しない」行動をしている者が幼児や障害者に対 して約3 割いることが確認できた.また,高齢者や障害者に対しては,「間隔に配慮するが 速度に配慮しない」行動をしている者が1 割以上いた.加えて,「速度に配慮するが間隔に 配慮しない」者と「間隔に配慮するが速度に配慮しない」者の割合を併せると,幼児や障 害者,高齢者に対しては,いずれも3 割以上になった.幼児や障害者,高齢者には,速度 と間隔の両面からの配慮が必要となることから,運転行動の修正を促していかなければな らない. 表2-5. 特徴のある歩行者のいる場合の実際の運転行動:速度あるいは間隔の配慮を していない割合 速度に配慮するが 間隔に配慮しない 間隔に配慮するが 速度に配慮しない 速度も間隔も 配慮をしない 一人歩きの幼児 28% 5% 10% 白杖使用の視覚障害者 27% 10% 14% 自転車乗車の高齢者 21% 16% 20% 車いす使用者 27% 10% 14% シルバーカー使用の高齢者 25% 14% 24% 幼児連れの親子 30% 10% 23% 歩きスマホをしている人 14% 14% 53% 通常の歩行者 8% 12% 65% (N=933) (2)望ましい運転行動 ①すれ違う際の速度 図 2-3 にさまざまな特徴のある歩行者とすれ違う際に,速度に関して「停まる」「かなり 落とす」「少し落とす」「何もしない」のいずれが望ましいと考えるかを選択式で尋ねた結 果を示した.図 2-4~2-11 には,それぞれの歩行者について実際の運転行動と望ましい運 転行動を比較したものを示した. 図 2-3 より,それぞれの歩行者とすれ違う際の望ましい運転行動として,「停まる」「か なり落とす」を選択した者が一人歩きの幼児(90%,実際の運転行動は 86%),視覚障害 者(84%,実際の運転行動は 77%),車いす使用者(82%,実際の運転行動 65%),自転 車高齢者(81%,実際の運転行動 65%),シルバーカー高齢者(82%,実際の運転行動 63%), 幼児連れの親子(81%,実際の運転行動 69%)それぞれに対して 8 割を超えた.それらの 数値は,実際の運転行動よりも割合が高かった. 13
図2-3.特徴のある歩行者のいる場合の望ましい運転行動:すれ違う際の速度(N=933) 図2-4.一人歩きの子どもに対する運転行動:速度 図 2-5.視覚障害者に対する運転行動:速度 図2-6.車いす使用者に対する運転行動:速度 図 2-7.シルバーカー高齢者に対する運転行動:速度 39% 23% 51% 54% 2% 12% 8% 11% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 36% 23% 48% 63% 5% 7% 11% 7% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 26% 14% 56% 51% 8% 23% 10% 12% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 21% 9% 60% 54% 8% 26% 11% 11% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 10% 17% 21% 21% 26% 36% 39% 39% 50% 64% 60% 61% 56% 48% 51% 41% 21% 11% 8% 8% 8% 5% 2% 20% 19% 8% 11% 10% 10% 11% 8% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 通常の歩行者 歩きスマホをしている人 幼児連れの親子 自転車乗車の高齢者 シルバーカー使用の高齢者 車いす使用者 白杖使用の視覚障害者 一人歩きの幼児 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 14
図2-8.自転車高齢者に対する運転行動 図 2-9.幼児連れの親子に対する運転行動 :速度 :速度 図2-10.歩きスマホをしている人に対する 図 2-11.通常の歩行者に対する 運転行動:速度 運転行動:速度 また,図2-4,2-5 より,一人歩きの幼児と視覚障害者に対しては速度を「かなり落とす」 が減り,「停まる」方が望ましいと考える人が増えていた.一方,図2-6~2-10 のすべてに おいて,「停まる」と「かなり落とす」がそれぞれ増えていた.このことから,一人歩きの 幼児と視覚障害者に対しては,その他の歩行者よりも速度を「かなり落とす」ことよりも 「停まる」ことが望ましいと考える傾向にあると考えられる. なお,図2-11 より,通常の歩行者に対しては「停まる」ことが望ましいと考える人はい なかった. また,速度に関しては,性別の違いで望ましいと考える運転行動に違いは見られなかっ た.加えて,男性について,運転歴(5 年以下,6 年以上 20 年以下,21 年以上)による違 いがあるかどうかを確かめたが,統計的な有意差は認められなかった. 10% 3% 50% 31% 21% 40% 19% 26% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 21% 10% 61% 55% 8% 23% 10% 12% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 17% 8% 64% 61% 11% 25% 8% 6% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 39% 14% 41% 54% 20% 30% 0% 100% 望ましい 実際 停まる かなり落とす 少し落とす 何もしない 15
②警笛の有無 表 2-6 には,歩行者とすれ違う際に警笛を鳴らすことが望ましいかどうかを尋ねた結果 を実際の運転行動の結果と併せて示した.表より,歩きスマホ者以外には,警笛を鳴らす ことが望ましいと考えている人は少なかった.ただし,実際の運転行動と比較すると,通 常の歩行者以外の歩行者に対しては,警笛を鳴らした方が望ましいと考える人の割合が若 干であるが増えていた. 表2-6.特徴のある歩行者のいる場合の警笛を鳴らした方がよいと考える割合と 実際の運転行動 望ましい運転行動 実際の運転行動 歩きスマホ 15% 11% 視覚障害者 6% 2% 自転車高齢者 2% 1% 通常の歩行者 1% 1% 一人歩きの幼児 2% 0.6% シルバーカー高齢者 1% 0.5% 幼児連れの親子 2% 0.3% 車いす使用者 1% 0.3% (N=933) ③歩行者との間隔 図 2-12 にさまざまな特徴のある歩行者とすれ違う際に,空ける間隔に関して「かなり空 ける」「少し空ける」「空けない」のいずれが望ましいと考えるかを選択式で尋ねた結果を 示した.また,図2-13~2-20 には,それぞれの歩行者について実際の運転行動と望ましい 運転行動を比較したものを示した. 図 2-12 より,「かなり空ける」ことが望ましい対象として,自転車高齢者が最も多かっ た.また,幼児連れの親子,一人歩きの幼児,シルバーカー高齢者,車いす使用者,視覚 障害者に対しても,6 割以上の者が「かなり空ける」ことが望ましいと考えていることが わかった.その一方で,どの歩行者に対しても,「空けない」ことを選択した者が約3 割い た. なお,性別,運転歴(5 年以下,6 年以上 20 年以下,21 年以上)によって,空ける間隔 に統計的に有意な差は認められなかった. 図 2-13~2-20 より,幼児連れの親子,シルバーカー高齢者,車いす使用者,歩きスマホ 者,通常の歩行者に対しては,実際の運転行動よりも「かなり空ける」を選択した者の方 が多かった.しかし,視覚障害者,一人歩きの幼児に対しては,「かなり空ける」を選んだ 者の割合は実際の運転行動と望ましい運転行動の間でほとんど差がなかった. 16
図2-12.特徴のある歩行者がいる場合の望ましい運転行動:間隔 図2-13.自転車高齢者に対する運転行動:間隔 図 2-14.幼児連れの親子に対する運転行動:間隔 図2-15.シルバーカー高齢者に対する 図 2-16.車いす使用者に対する運転 運転行動:間隔 行動:間隔 36% 53% 61% 62% 63% 63% 63% 65% 33% 17% 4% 5% 8% 9% 10% 8% 30% 30% 35% 32% 29% 28% 27% 27% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 普通に歩いている人 歩きスマホ 一人歩きの幼児 白杖使用の視覚障害者 車いす使用者 シルバーカー使用の高齢者 幼児連れの親子 自転車乗車の高齢者 かなり空ける 少し空ける 空けない 63% 48% 10% 26% 27% 26% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 空けない 65% 60% 8% 16% 27% 24% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 空けない 63% 52% 9% 23% 28% 25% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 空けない 63% 55% 8% 18% 29% 27% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 空けない 17
図2-17.視覚障害者に対する運転行動 図 2-18.一人歩きの幼児に対する運転 :間隔 行動:間隔 図2-19.歩きスマホ者に対する運転行動 図 2-20.通常の歩行者に対する運転 :間隔 行動:間隔 ④速度と空ける間隔との関係 表 2-7 には,望ましい運転行動として,「速度」に関して配慮する行動(「停まる」「かな り落とす」)を選択したが,「間隔」に関しては配慮していない(「空けない」「少し空ける」 と答えた)者,「距離」に関しては配慮する行動(「かなり空ける」)を選択したが「速度」 に関しては配慮していない(「少し落とす」「何もしない」と答えた)者,「速度」も「間隔」 もどちらも特に配慮をしていない者の割合を示した. 表によると,「間隔に配慮するが速度に配慮しない」運転行動を望ましいと考えている者 がどの歩行者に対しても少ない一方で,幼児や障害者,高齢者に対して「速度に配慮する が間隔に配慮しない」者が 2 割以上であった.つまり,速度に関しては配慮することが望 ましいと考えるが,間隔においてはそれほど重視していないことがわかる.また,表 2-5 の実際の運転行動と比べても,この傾向は同様であった. このことから,歩行者との間隔をそれほど空けなくても,「停まる」あるいは速度を「か 62% 61% 5% 11% 32% 28% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 少し空ける 53% 33% 17% 35% 30% 32% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 空けない 63% 61% 10% 4% 27% 35% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 空けない 36% 19% 33% 44% 30% 37% 0% 100% 望ましい 実際 かなり空ける 少し空ける 空けない 18
なり落とす」行動をすれば,幼児や障害者,高齢者に対して配慮しているという認識を持 っている者が多いことが示唆された. 表2-7. 特徴のある歩行者のいる場合の望ましい運転行動:速度あるいは間隔の配慮を していない割合 速度に配慮するが 間隔に配慮しない 間隔に配慮するが 速度に配慮しない 速度も間隔も 配慮をしない 一人歩きの幼児 31% 4% 8% 白杖使用の視覚障害者 28% 6% 11% 車いす使用者 27% 7% 12% 自転車乗車の高齢者 25% 8% 12% シルバーカー使用の高齢者 25% 8% 12% 幼児連れの親子 24% 7% 14% 歩きスマホをしている人 19% 13% 29% 通常の歩行者 14% 12% 50% (N=933)
第
3 章 交通弱者に対するヒアリング調査
3.1 目的 交通弱者と言われる障害者,高齢者,幼児(本調査の場合にはADHD 衝動型傾向のある 幼児の保護者および担当保育者)が歩行に関してどのようなニーズを持ち,ドライバーに どんな運転行動をしてほしいと考えているのかを明らかにする. 3.2 方法 ①調査対象者 視覚障害者 10 名(全員が全盲で単独歩行による通勤をしている.白杖使用 9 名,盲導 犬使用 1 名),車いす使用者 10 名(全員が自走式の車いす使用),聴覚障害者 5 名(聴力 損失が70db 以上),高齢者 10 名(年齢は 80 歳代.シルバーカーや杖を使用しながら自力 歩行をしている),ADHD 衝動型傾向のある幼児の保護者 5 名と担当保育者 5 名 ②調査手続き 調査対象者に対して,個別に直接ヒアリングによる半構造化面接を行った.それぞれの 面接時間は,1 人につき約 30~60 分であった. ③調査内容 歩車道が分離されていない道を歩いている際に困ることは何か,ドライバーのどのよう な運転行動に危険を感じているか,事故に遭わないようにどんなことに気をつけているか, ドライバーにどう配慮して走行してほしいかなどについて尋ねた. 19④倫理的配慮 ヒアリング調査の際には,個人名,性別,年齢等の属性はすべて数値化し,匿名性を確 保した.回答の内容を記入した紙媒体の資料,これらを元にして作成した電子ファイルと 録音した音声ファイルを保存した記憶媒体は,実施責任者と実施分担者のみが施錠・解錠 可能な施錠できるファイルマスター内に厳重に保管した.この際に,電子データの記憶媒 体はパスワードを必要とするハードディスクまたはUSB メモリを用いた.研究データ処 理に使用するパソコンについては,最新のセキュリティプログラムをインストールしてあ り,ネットワークに接続してあるパソコンを用いた.全ての調査から得られた研究結果の 公表にあたっては匿名とし,特定個人が推定されないようにした.また,団体名も研究結 果の公表にあたっては匿名とした. 電子データは,研究終了後に専用ソフトを用いて消去する.回答後の記録用紙は研究終 了後シュレッダーにより粉砕破棄する.本調査は筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承 認を得て実施された(承認番号844). 3.3 結果と考察 ①視覚障害者 表 3-1 に,歩車道の分離がない道路を移動する際に困ることやドライバーのどのような 運転行為に危険を感じるのかを尋ねた結果(回答例)を示した.全員が回答例A のように, 背後から追い越す車が怖いと言っていた.その際に,回答例B,C にあるように,全員が 速度を落とさずに車に接近された経験や自分との間隔を空けずに車が走行する経験があり, 恐怖を感じていた.特に,回答例C にあるように,視覚障害者が間隔を空けてほしい理由 として,自分が車にぶつかることだけでなく,白杖が車に巻き込まれないようにしなくて はならないことがある.白杖歩行の視覚障害者が単独歩行をする際には,白杖の先端を視 覚障害者の足元の左右30 ㎝程度まで振りながら歩く.白杖によって足元の障害物を検知で きるのであり,白杖が車に巻き込まれて折れてしまうと,そこから視覚障害者は歩けなく なってしまうのである(徳田・新井・松村・長岡・望月,2000).そのため,ドライバー は視覚障害者の身体に車が接触しないように運転すればよいのではなく,視覚障害者の白 杖も車に接触しないように,視覚障害者との間隔を空ける必要がある. また,走行音が静かな車が多くなり,直近になるまで視覚障害者がその存在に気づけず, 驚くことを10 名中 8 名の視覚障害者が挙げていた(回答例 D).走行音の静かな車に視覚 障害者が気づくことができるように,最近,販売されている車には徐行の際にエンジン音 に替わる音が鳴るシステムを装備できるようになったが,必ずしもすべての車にそれが装 備されているわけではない.そのため,このようなシステムが装備されていない走行音の 静かな車が背後から接近し,回答例C のように間隔を空けずに走行すれば,視覚障害者は 非常に怖い思いをする. さらに,警笛についても,全員が基本的にはよほどの危険がない限りは,鳴らしてほし くないと答えていた.その理由としては,回答例E にあるように,警笛に驚き,身体の向 きが変わってしまい,それまでの歩行方向がずれてしまうことがあるためである.歩行方 20
向がずれ,車道側に飛び出してしまうと,その後に迷ったり事故にあったりする二次被害 が生じることになる. 表 3-2 に,歩車道が分離していない道路において,視覚障害者自身が事故に遭わないた めに行っている工夫として挙げられた回答例を示した.表に示したように,視覚障害者は 歩車道の区別のない道路で,車道側に飛び出さないように道の端(エッジ)を探しながら 歩く(回答例G),ゆっくり歩いたり,停まって車が過ぎるのを待つ(回答例 H)といった 工夫をしていた. また,前述のように白杖が車に巻き込まれることを避けるために,白杖の振り幅を小さ くする(回答例I),あえて白杖を目立たせてドライバーに視覚障害があることに気づいて もらう(回答例J)などをしている者もいた. 表 3-3 には,歩車道が分離していない道路においてドライバーに配慮してほしいことを 示した.回答例K,L にみられるように,一時停止をしてほしくないという意見が全員か ら挙げられた.その理由としては,回答例K に示したように,視覚障害者としては停止す る車がどうしたいのかがわからないため,とまどってしまうことを挙げていた. また,回答例P に示したように,屈曲している道の場合に視覚障害者が車道に出てしま う可能性がある(図3-1)ため,屈曲している箇所は特に視覚障害者と間隔を空けてほし いというニーズが3 名から挙げられた. 以上のことから,視覚障害者の歩行特性とニーズより,歩車道が分離されていない歩道 では,ドライバーは一時停止ではなく,視覚障害者から間隔を空け,徐行をして走行する ことが望ましいと言える.また,警笛はできる限り鳴らさず,屈曲した道路は特に徐行し, 視覚障害者との間隔を広く空けることが望ましいことがわかった.ただし,図3-2 のよう に,歩道部分に点字ブロックが設置されていれば,視覚障害者が車道に飛び出す可能性が 低くなるため,図3-1 の場合よりは間隔を空ける必要はない. 表3-1.歩車道の分離がない道路の移動の際に感じる危険として挙げられた回答例 :視覚障害者 A 前方から来る車より,背後から追い越される車の方が怖い B 速度を落とさずに接近する車に怖い思いをする. C 間隔を空けずにすぐ横を通る車がいると,自分が車に接触する恐怖と白杖が車に巻き 込まれる恐怖の二重の恐怖を感じる. D 走行音の静かな車(ハイブリッド車)の場合に,接近に気がつかなくて,怖い思いを する. E 警笛を鳴らされると身体がすくみ,身体の向きが変わってしまった.身体の向きが変 わってしまったまま歩き,車道に飛び出して迷い出たり,溝に落ちそうになったこ とがある. F トラックがバックをしていたようだが,合図音がなく,自分の近くまで車体が迫って きたために怖い思いをした. 21
表3-2.歩車道の分離がない道路で事故に遭わないために行っている自衛策の回答例 :視覚障害者 G 道路の端(エッジ)を白杖で探しながら歩き,車道に飛び出さないようにしている. ただし,端には植木鉢や自転車,電柱などの障害物があるため,必ずしも端に寄っ て歩けるわけではない. H 車が近づいてきたことがわかれば,ゆっくり歩いたり,立ち止まって車が通り過ぎる のを待ったりする. I 車が背後から追い越そうとすることがわかれば,白杖が車に巻き込まれないように, 白杖の振りを小さくする. J 道を歩くときには,できるだけ白杖を目立たせて,周りに配慮してもらえるようにし ている. 表3-3.歩車道の分離がない道路でドライバーに配慮してほしいことの回答例 :視覚障害者 K 視覚障害者の横を通る時に一時停止をしないでほしい.その車が右左折をしたいの か,バックしたいのか,視覚障害者に配慮して停まってくれているのかがわからな いため,困惑する. L 視覚障害者を見つけたら,自動車のドライバーは一旦停止をするのではなく,幅を空 けて徐行してほしい. M 警笛を鳴らされると,驚いてしまうし,その際に身体の向きが変わって,進行方向が 変わってしまうのでやめてほしい. N 警笛を鳴らすよりは,声をかけてほしい. O 基本的に警笛を鳴らされることは邪魔だと言われているようで,嫌な気持ちになる. しかし,非常に危険な場面だったり,走行音のあまりしない車の場合には,遠くか ら軽く鳴らしてくれるのであれば構わない. P 道が屈曲している場合に,気づかずに道路側に飛び出してしまうことがある.そのた め,このような道ではかなり速度を落としてほしい. 写真 3-1.盲導犬使用者へのヒアリング 写真 3-2.視覚障害者へのヒアリング 22
図3-1.屈曲した道を視覚障害者が歩いた場合の問題 図3-2.屈曲した道に点字ブロックが設置してある場合 ②車いす使用者 表 3-4 に,歩車道の分離がない道路を移動する際に困ることやドライバーのどのような 運転行為に危険を感じるのかを尋ねた結果(回答例)を示した.回答例Q に見られるよう に,車いすの存在をドライバーが発見できないことがしばしばあるという回答が10 名中 6 名からあった.ドライバーが全く気づいていない(ように見える)場合には,そのドライ バーが車いすの横を徐行したり,間隔を空けて走行することはなく,車いす使用者は非常 に怖い思いをしている.また,ドライバーが車いすのすぐ近くまで来た時にその存在に気 づき,急ブレーキをかけることもあるということであった.その場合にも,急ブレーキに 驚いてしまうと回答した.さらに,回答例T にあるように,走行音があまりしない車が背 後から来る場合に,昼間であると,車が近づいてきたことに気がつけず,車いす使用者が 怖い思いをすることがあると4 名が答えていた. 表 3-5 に,歩車道が分離していない道路において,車いす使用者自身が事故に遭わない ために行っている工夫として挙げられた回答例を示した.回答例U にあるように,車が近 づいてきたことがわかった場合に,道の端に寄るようにしていると答えた者が3 名いた. ただし,雨水などの排水のために道路の端に勾配がある場合には,車いす使用者にとって 23
は道の端に寄ることができない.そのため,必ずしも車いす使用者が道路の端に寄れるわ けではないことをドライバーは念頭におかなくてはならない. また,車いす使用者は夜間,特にドライバーに視認してもらいにくくなる.そのため, 回答例V のように,反射板を車いすに貼ったり,蛍光塗料のついたアクセサリーなどを身 につけて,自分の存在に気づいてもらえるように工夫をしていた. 表 3-6 に,歩車道が分離していない道路においてドライバーに配慮してほしいことを示 した.回答例W のように,車いす使用者は横方向の転倒の危険性がある(写真 1-1).転 倒した際に,車道側に倒れてしまう可能性がある(写真1-2).その際の大事故を防ぐため に,車いす使用者の横を通る際には,車いすが転倒しても車体と接触しなくてもすむだけ の間隔をドライバーに空けてほしいと7 名が答えていた. また,警笛を鳴らされることは,驚くとともに,不快に感じるため,できるだけやめて ほしいという意見が8 名から挙がった. 表3-4.歩車道の分離がない道路の移動の際に感じる危険として挙げられた回答例 :車いす使用者 Q 車いすを使用していると座高が低いために,ドライバーが車いすの存在に気づかない ことがある. R 横を通る車が徐行しない場合に恐怖を感じることが多い. S 間隔を空けずに走行されると怖い. T 走行音があまりしない静かな車が背後から来る時には,非常に怖い思いをする.夜間 であれば,ライトで照らされるため,車の気配を事前に察知することができるが, 昼間の場合には,直近になるまで車が近寄っていることに気づくことができない. 表3-5.歩車道の分離がない道路で事故に遭わないために行っている自衛策の回答例 :車いす使用者 U 自動車の音がすれば自分が端に寄るようにしている.ただし,走行音の静かな車の場 合に,対応ができない. V 夜間の移動の際に,車に自分の存在を発見して,配慮してもらうために,車いすの後 ろに傾向の反射板を貼り,自分の腕にも蛍光塗料のリングをはめて目立つようにし ている. 表3-6.歩車道の分離がない道路でドライバーに配慮してほしいことの回答例:車いす使用者 W 車いすは,横方向の転倒があるため,できるだけ車いすから間隔を空けて走行してほ しい. X 後ろから来る車に,警笛をならされると,通行の邪魔だと言われたような気分になり, 不快に感じる. Y 大幅な減速をしてくれるのはありがたいが,その際に車いすの方をジロジロ見ていく ドライバーがかなりいて,不快感を覚える. 24
③聴覚障害者 表 3-7 に歩車道の分離がない道路を移動する際に困ることやドライバーのどのような運 転行為に危険を感じるのかを尋ねた結果(回答例)を,表3-8 に事故に遭わないための自 衛策(回答例)を,表3-9 にドライバーに配慮してほしいこと(回答例)を示した.回答 例a のように,ドライバーが警笛を鳴らしても気がつかなかったという意見を 5 名中 2 名 が挙げていた.ドライバーが警笛で歩行者に危険を気がつかせようとしても,音が聞こえ ない人がいるということをドライバーは知っておくことが必要である.また,回答例b に 示したように,走行音は聴覚障害者には聞こえないため,背後から追い越す車に気をつけ て歩くということがむずかしい. 聴覚障害者の場合には,外見からは障害があることがわからない.ドライバーは,警笛 を鳴らせば,歩行者が止まるだろうと考えても,聴覚障害者にはそれができない.加えて, 背後から追い越す車が来ることを自分から察知して車が通り過ぎるのを待ったり,ゆっく り歩いたりすることができない.そのため,通常の歩行者がいる場合でも,ドライバーが 徐行をする,歩行者と間隔を空けるなどの配慮をする必要がある. 表3-7.歩車道の分離がない道路の移動の際に感じる危険として挙げられた回答例 :聴覚障害者 a ドライバーは警笛を鳴らしていたらしいが,自分には警笛の音が聞こえないため,車 に気づかず,車と接触してしまった. b 走行音が聞こえないため,背後から追い越す車が自分の横に来るまで気づかない. 表3-8.歩車道の分離がない道路で事故に遭わないために行っている自衛策の回答例 :聴覚障害者 c 夜間は蛍光テープなどを貼った衣類を着ている. d 前後をよく見て,車の往来を確認しながら歩いている. 写真3-3.車いす使用者に対する ヒアリング1 写真 3-4.車いす使用者に対する ヒアリング2 25
表3-9.歩車道の分離がない道路でドライバーに配慮してほしいことの回答例:聴覚障害者 e 警笛を鳴らしても聞こえない,外から見て障害があることに気がつかない人がいるこ とを知ってほしい. 写真 3-5.聴覚障害者に対するヒアリング ④高齢者 高齢者10 名に歩車道の分離がない道路の移動の際に危険に感じることを尋ねた結果,全 員が減速せずに通過する車を挙げていた.また,シルバーカーを使用している女性は,舗 装面の凸凹にシルバーカーの車輪が引っ掛かって,つまずきそうになった時に車が横を減 速せずに通過して,怖い思いをしたと述べていた. 高齢者からは,横を通る際に,ドライバーに減速してほしいとの要望が強くあった. 写真 3-6.高齢者に対するヒアリング ⑤幼児(ADHD 衝動型傾向のある幼児) 表 3-10 に,歩車道の分離がない道路を移動する際に困ることやドライバーの運転行為に 危険を感じるのかを尋ねた結果の回答例を示した.回答例f,g に書かれているように,保 護者や担当保育者の全員が,ADHD 衝動型傾向のある幼児に対して,大人の手を離しては いけないこと,車道に飛び出してはいけないことをいくら注意しても,子どもは大人の手 を振りほどいて走っていってしまい,車と接触しそうになることが頻繁にあると答えてい た. 26
事故に遭わないための対策として(表3-11),回答例 h,i のように,大人が二人がかり で手をつなぐ,子どもが痛がるほど手を握るなどの方法をとっているが,子どもの飛び出 しを防ぐことはできないと回答していた.また,回答例j のように,単に言い聞かせるだ けでは,ADHD 衝動型傾向のある子どもは,歩き始めたら,すぐに忘れてしまうため,意 味をなさなかった. 表 3-12 には,ドライバーに配慮してほしいことを尋ねた結果(回答例)を示した.表 3-12 の回答例 k に示したように,幼児の中には,大人と一緒にいても急に飛び出してしま う傾向のある子どもがいることをドライバーに知ってほしいことが挙げられた.このよう な傾向のある子どもを持つ保護者や担当の保育者は,子どもが飛び出してしまうことにつ いて,「なぜ大人が一緒にいながら,子どもをよく見ていないのか」「しつけが足りない」 などと注意され,批判的な目で見られてしまうことがよくある.しかし,前述のように, 保護者や保育者なりに工夫をしていても,なかなか効果があがらず,常にひやひやしなが ら道路を歩くことになる.そのため,回答例l のように,幼児が大人と一緒に歩いていて も,子どもの横を通る際には,いつでも停車できるぐらいの速度で走行しなくてはならな いと言える. 表3-10.歩車道の分離がない道路の移動の際に感じる危険として挙げられた回答例 :ADHD 衝動型の幼児を持つ保護者,担当保育者 f 何度注意しても車道に飛び出してしまう.そのため,しばしば交通事故に遭う.ヒヤ リハットも多い. g 手をつないで歩いていても,手を振りほどいて一人で走っていくことがあり,その時 に車道にはみ出して,車と接触しそうになった. 表3-11.歩車道の分離がない道路で事故に遭わないために行っている対策の回答例 :ADHD 衝動型の幼児を持つ保護者,担当保育者 h 子どもの両脇を大人が手をつないで歩き,子どもが走り出そうとしても,大人二人で 押さえる. i 子どもが痛がるほど手を握る(しかし,その手を振りほどいて道路の反対側に走って いくことがある). j 道路を歩く前に,車道に飛び出さないように言い聞かせる(しかし,ほとんど効果は ない). 表3-12.歩車道の分離がない道路でドライバーに配慮してほしいことの回答例 :ADHD 衝動型の幼児を持つ保護者,担当保育者 k 大人と手をつないで歩いていても,急に車道に走り出そうとしてしまう子どもがいる ことを知ってほしい. l いつでも停車できるぐらいの速度で子どもの脇を通過してほしい. 27
写真 3-7.ADHD 衝動型傾向のある幼児の担当保育者に対するヒアリング
第
4 章 プロドライバーに対するヒアリング調査
4.1 目的 タクシードライバー,宅配便ドライバーは,歩車道が分離していない狭い道路を走行す る際に,障害者や高齢者,子どもに対してどのような配慮をしながら運転をしているのか を明らかにする. 4.2 方法 ①調査対象者 タクシードライバー10 名,宅配便ドライバー10 名 ②調査手続き 調査対象者に対して,個別に直接ヒアリングによる半構造化面接を行った.それぞれの 面接時間は,1 人につき約 10 分であった. ③調査内容 歩車道が分離されていない道を走行する際にどのような点に気をつけて走行しているか を尋ねた. ④倫理的配慮 ヒアリング調査の際には,個人名,性別,年齢等の属性はすべて数値化し,匿名性を確 保した.回答の内容を記入した紙媒体の資料,これらを元にして作成した電子ファイルと 録音した音声ファイルを保存した記憶媒体は,筆者らのみが施錠・解錠可能な施錠できる ファイルマスター内に厳重に保管した.この際に,電子データの記憶媒体はパスワードを 必要とするハードディスクまたはUSB メモリを用いた.研究データ処理に使用するパソ コンについては,最新のセキュリティプログラムをインストールしてあり,ネットワーク に接続してあるパソコンを用いた.全ての調査から得られた研究結果の公表にあたっては 28匿名とし,特定個人が推定されないようにした.また,団体名も研究結果の公表にあたっ ては匿名とした. 電子データは,研究終了後に専用ソフトを用いて消去する.回答後の記録用紙は研究終 了後シュレッダーにより粉砕破棄する.本調査は筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承 認を得て実施された(承認番号844). 4.3 結果 ①幼児に対して 歩車道の分離されていない道路を走行中に,4 歳ぐらいの子どもが一人で歩いていた場 合にどのような運転行動をとるかを尋ねたところ,タクシードライバーも宅配便ドライバ ーも全員が時速30 キロ以下まで減速し,いつでも停まれるようにしていると答えていた. その理由としては,子どもがいつ飛び出すかがわからないため,急停止が可能な速度にす る必要があることを挙げていた.また,間隔を空けるかについて尋ねたところ,タクシー ドライバー10 名中 8 名と宅配便ドライバー10 名中 6 名はかなり空けると答え,残りの者 は普通に歩いている人と同程度に少し空けると答えていた. また,幼児が保護者と一緒に歩いていた場合について尋ねたところ,タクシードライバ ー6 名と宅配便ドライバー4 名は幼児が一人で歩いている時と同じぐらいに減速をすると 答えたが,残りの者は減速するが,幼児が一人で歩いている時ほどは速度を落とさないと 述べていた.間隔については,子ども一人の時と同程度に空けると答えた者はタクシード ライバー4 名と宅配便ドライバー2 名であった. ②障害者に対して 視覚障害者の横を通る際には,タクシードライバーも宅配便ドライバーも全員がいつで も停車できる程度まで減速すると答えた.なお,停止すると答えた者はいなかった.また, 間隔についても,全員が普通に歩いている人よりもかなり空けると答えた. 車いす使用者に対しても,全員がかなり減速すると答えた.また,間隔についても全員 がかなり空けると答えた. ③高齢者に対して 歩行者として,最も配慮の必要性があるのが,自転車乗車の高齢者であると答えたタク シードライバーが3 名,宅配便ドライバーが 2 名いた.このように答えたドライバーは, 「自転車乗車の高齢者は前後の確認がなく,急に車道に飛び出してくる可能性が高く,こ れまでに何度もヒヤリハットがあった」と答えていた.自転車乗車の高齢者に対しては, タクシードライバーも宅配便ドライバーも全員がかなり速度を落とすと答えた.なお,間 隔は多少空ける程度であると全員が答えていた. シルバーカーを使用している高齢者に対しても,全員が速度をかなり落とすと答えた. 間隔については,自転車乗車の高齢者と同様に,多少空ける程度であると全員が答えた. 29