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5.1 目的

歩行者を認知した自動車のドライバーは,すれ違いの際にどのような行動をとるのか,

歩行者が健常者である場合と交通弱者である場合で,ドライバーの回避行動は変化するか を明らかにする.

5.2 方法

①対象者

実験参加者は20~50歳代のドライバー13名(男性8名,女性5名)であった.実験の 目的は歩行者の特性ごとにドライバーの回避行動を明らかにすることであるので,参加者 には実験終了後に,道路脇を歩いていた歩行者とその特性に気づいたかどうかを確認し,

参加者が気づいていた場合のみを分析対象とした.その結果,健常者とのすれ違いについ ては 12名分(男性8名,女性4名),高齢者とのすれ違いについては 6名分(男性4名,

女性 2名),幼児と母親とのすれ違いについては5名分(男性4名,女性1名),車いす使 用者とのすれ違いについては 7 名分(男性 4 名,女性 3 名),視覚障害者とのすれ違いに ついては4名分(男性3名,女性1名)が分析対象となった.

②実験手続き

場所は T市内の道路(人および車の通行量が少なく,歩車道の区別がなく,車道に中央 線が引かれていない道:道幅6m)であり,2014 年6 月から 10月にかけて,雨の降って いない平日に実験を行った.

実験参加者は自分の所有する自動車に乗車し,「あなたの運転の癖を測定します.この道 をいつもの方法で運転してください.」という指示を与えられ,測定を行う道路を含むルー トを走行した.測定を行う道路には右側通行をする歩行者(写真5-1~5-4)がランダムに 現れた.実験参加者が運転中に遭遇する歩行者は,高齢者+健常者,幼児連れの母親+健 常者,車いす使用者+健常者,視覚障害者+健常者のいずれかであった.なお,測定場所 において他の通行者や通行車両があった場合にはその回の測定を無効とした.測定にあた っては,参加者の車両に小型ビデオカメラを設置し,速度の変化,進路変化,警笛の有無 等を記録した(写真5-5).なお,参加者や歩行者役の安全確保のため,スタッフが実験を 行う走行路の中間地点に立ち,ルート内に進入した通行者や通行車両の有無を確認した.

高齢者,車いす使用者,視覚障害者は研究スタッフが演じた.幼児と母親役は研究スタ ッフの知人の子ども(男児)3 歳と母親が担当した.高齢者役は,外から高齢者と見られ る地味な服装をしてシルバーカーを押した.車いす使用者役は,電動車いす(スクータ形)

に乗車した.視覚障害者役は黒いサングラスをかけ,白杖を持ち,開眼した状態で歩いた.

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写真5-1.高齢者 写真5-2.子ども連れ 写真5-3.車いす使用者役

写真5-4.視覚障害者役 写真5-5.実験を行っている様子

実験後には,歩行者の属性を正しく認知していたかどうかを確認するためのインタビュ ーを行った.

③倫理的配慮

参加者の個人名,性別,年齢等の属性はすべて数値化し,匿名性を確保した.参加者は,

日常的に自動車を運転し,日常の運転行動に特に不安を感じていない者に依頼したが,実 験中に体調を崩したり,不快な思いや拒否的な感情を抱いたりする場合には,随時協力を 撤回できることを十分に説明した.本実験は筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認を 得て実施された(承認番号844).

④データの分析方法

自動車の速度は3地点(図5-1の測定地点 1,2,3)において測定し,測定の起点で ある測定地点1の速度を100とした場合の 各地点の速度割合を算出した.また,自動 車が歩行者の横を通りすぎる際の軌跡を明 らかにするために,歩行者役の左肩(車道側)

を歩車道の分離地点ととらえ,その点の上 を通るように車道の端から平行に引いた直 線と自動車の左端との距離を,3地点(図 5-1の測定地点1,2,3)において測定した.

また,距離についても地点1の測定結果を 100とした場合の各地点の割合を算出した.

次に,歩行者の属性ごとに3地点における 参加者の速度割合,歩行者との距離の割合

図5-1.実験結果の図式化の方法

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の平均値をもとめた.この結果は,図5-1のように表すこととした.

5.3 結果

分析対象者のうち,1 名(女性 A)については健常者,視覚障害者のどちらの存在にも 気づいていたものの,すれ違う際に減速する,歩行者と距離をとるなどの回避行動が見ら れず,他の参加者の結果とは大きく異なっていた.そのため,女性Aのデータは平均値を 算出する際には除いた.実験の結果を図5-2~5-6に示した.どの属性の歩行者に対しても 警笛を鳴らした参加者はいなかった.また,女性Aを除き,どの参加者も健常者を含めて すれ違う際には回避行動をとっていた.

健常者とのすれ違い(測定地点2)においては,測定開始時(測定地点1)を100%とし て求めた速度割合の平均が78%,健常者との距離の平均が133%であった.実験地の道幅 は6m,車両幅は普通乗用車で200cmほどであるから,測定地点1における健常者との距 離は多くの場合,100cm 以内であった.つまり,測定地点 2 における健常者との距離は

130cm以内というケースが多かった.実験中の参加者の様子から,参加者の多くは健常な

歩行者をハザード(事故を引き起こす可能性のある対象)として認知していない様子であ った.

交通弱者(高齢者,幼児と母親,車いす使用者,視覚障害者)のうち,ドライバーがす れ違う際に最も大きく回避行動をとったのは視覚障害者であった.視覚障害者とすれ違う 際(測定地点2)の速度割合の平均は55%,視覚障害者との距離の平均は224%であった.

実験地の道路に中央線はなかったが,参加者の多くは車体のほとんどが対向車の走行ゾー ンに入るほど大回りをして,かつ速度を測定地点1 の半分ほどに落として視覚障害者を避 けていた.

視覚障害者に次いでドライバーの回避行動が大きかった歩行者は,幼児と母親であった.

すれ違い(測定地点 2)における速度割合の平均は 70%,幼児と母親との距離の平均は 180%であった.参加者の多くは,車体の半分ほどが対向車ゾーンにはみ出すほど大回り をして幼児と母親を避けた.

高齢者と車いす使用者については,測定地点 2 における速度割合の平均(高齢者 71%,

車いす使用者69%)や,それぞれの歩行者との距離の平均(高齢者153%,車いす使用者 158%)が近似していた.シルバーカーや車いすを使用している歩行者は,幼児などのよ うに突発的に行動が変化する可能性が低い.そのため,幼児とすれ違う時ほどには速度を 低めたり,距離をとったりすることはなかったものの,通常の歩行者よりは距離をとって すれ違ったのだと推察される.

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図5-2.歩行者が健常者である場合 図5-3.歩行者が高齢者である場合

図5-4.歩行者が幼児連れである場合 図5-5.歩行者が車いす使用者である場合

図5-6.歩行者が視覚障害者である場合

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